※この作品はR-18です。

ぼくがビッチになったワケ   作:ピジョン@アスクラピアの子一巻発売中!

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夜に、舞う
第41話


 深山楓に膝枕されている。

 胸の内は落ち着いたけど、身体は鉛のように重たかった。

 横になったまま、言った。

 

「深山、この事は秘密にして欲しいんだ……」

 

「……」

 

 深山は応えず、返事替わりに大粒の涙を流した。

 

「もう、病院には帰りたくない。あそこに行くと、暫く帰れなくなるから……」

 

 長い沈黙のあと、深山は小さく頷いた。

 

 ポケットの携帯がブルブルと震え、間の悪い着信を告げた。

 画面には――

 

 ――葛城 瞳子――

 

 ぼくは、溜め息を吐き出した。

 深山の膝の上だけど、構わず出る。

 

「……はい、御影です」

 

『……』

 

 不思議なことに、トウコは無言だった。

 

「トウコ……?」

 

 問い掛けるぼくの声は、疲れに掠れていて、酷く弱々しい。

 

『……悠希さん、大丈夫ですか?』

 

 そう言えば、今日はもう、皆川と深山に同じことを言われている。

 明らかな失調を意識して、ぼくはまた溜め息を吐き出した。

 

「トウコ……ぼく、ちょっとダメみたい。休ませて……」

『あっ、と……はい、それはいいですけど……』

「……ごめん、暫く休むかもしれない……いい……?」

『そんなに酷いんですか……?』

 

 ぼくはまた息を吐く。

 深山には既に二回も取り乱すところを見られている。

 なんでこうなるんだ?

 トウコにもある程度の過去のことは話してあるし、理解できるだろう。その思惑から、ぼくは口を開いた。

 

 最近、昔の夢をよく見てしまうこと。その後は調子を落としてしまうこと。今日、図書館で取り乱してしまったこと。理由がはっきりしないこと。

 酷く疲れてしまったこと。

 話は長かったけれど、トウコは黙って話を聞いていてくれた。

 

「ごめんね、弱いやつで……」

 

 ぼくが言うと、携帯の向こうでトウコは鼻を啜った。

 

『そんなことない! ないですから……!』

 

 深山も黙って話を聞きながら、指でぼくの髪をといている。

 

「優しいね……トウコは……」

 

『はい……はい……! 幾らでも、はい……!」

 

 トウコは何故か泣いているみたいで、途切れがちな声は震えていた。

 

『あの、新城センパイには……』

 

 トウコが遠慮がちに尋ねて来る。

 

「カオルには、まだ言ってないけど、説明しなきゃいけないね……」

 

『……』

 

 沈黙。

 

『……そっちも、休むつもりですか?』

「そうしようかと思ってる」

『……わかり、ました……』

 

 納得はしていないけど、しょうがない。

 トウコの声色には、そんな思惑が滲み出している。

 

「本当にごめんね、トウコ。治ったら、埋め合わせするからね……」

 

 ぼくは弱気だった。

 このままじゃビッチを続けて行くことは難しいかもしれない。

 通話を切った。

 

◇◇

 

 深山とは図書館で別れた。

 何か言いたそうにしていたけれど、結局、深山は何も言わなかった。

 着信拒否は解かない。

 もう、図書館にも来ないつもり。長い別れになる。

 そう思うと、何故か後ろ髪を引かれる思いがしたのが、ぼくは自分でも不思議だった。

 

 ぼくは真っ直ぐ家に帰ることはせず、ジャンクフードのお店で時間を潰した。

 皆川にも深山にも、そしてあのトウコにすら不調を見抜かれている。父さんが分からないはずがない。

 

 父さんにメールを送り、図書館での受験勉強を続行するので心配はいらない。ご飯は食べるので冷蔵庫に入れて置いて欲しい、と送信した。

 

 ――受験勉強、頑張れ!

 

 父さんから了解のメールを受け取り、ぼくはホッと胸を撫で下ろした。

 父さんは優しいけど、すぐ病院に連れて行こうとする。それだけは回避したかった。

 

 お昼ご飯はジャンクフードを食べた。

 食事中も参考書を開いて勉強する。

 カオルからは、いつものラブメール。

 

 ――愛してるよ!

 

 この時のぼくは、何も分かってなかったんだ。

 

 カオルからのメールに返信する。

 

 ――カオルへ。今日は、大事なお話があります。

 

 この不用意な内容のメールが、あまりにも長い夜の序曲だなんて、この時のぼくは何一つ分かってなかった。

 

 カオルから、即座に着信があった。

 それが戦闘開始のゴング。

 通話に出ると、開口一番、カオルが怒鳴った。

 

 

「……んだよ! なんなんだよ! アタシは何もやってない! ルールは一つも破ってない!! クソが! クソがぁ!! 秋月だな!? 今からソッコー行くから、逃げんなよテメー!!」

 

 

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