ぼくがビッチになったワケ 作:ピジョン@アスクラピアの子一巻発売中!
――人の考えていることが、なんとなく分かった。
ユキナのそれは、超能力みたいに大したものではなく。
――あたしって嫌われてる。
とか、
――この人、今、悲しいんだ。
とか、そういう顔色を伺う能力みたいなものを、ちょっとだけ強くしたような、そんな程度のもの。超能力と呼んでしまうには余りにもお粗末な代物。
良く言えば、思いやり。
悪く言えば、勘違い。
そんなあやふやな感性のようなものに従って生きる内に――
人の群れから、はぐれてしまった。
◇◇
ユキナは、ほんのちょっとだけ危険を察知する能力が劣っている。
初対面のナンパ男に電話番号を教えてしまったり、宗教の勧誘やセールスマンを自宅に簡単に上げてしまったりは序の口。
厳しくて、ちょっと頭に血が昇りやすい父が、なんとか守って来たけれど――
高校に入って間もなくの頃、幼馴染みに頼まれてやらかした万引きで、呆気なく警察に捕まった。
霧島 沙織。
ユキナの幼馴染み。たった一人のお友達。ちょっと怒りやすい父親辺りに言わせれば、居ない方がいい、お友達。
「大丈夫だって。ユキナ、頭悪いから、頼んだら、何でもやってくれるって……」
沙織が笑いながら他の友人と話し合っているのが聞こえたけれど、ユキナは聞かなかったことにした。
たった一人のお友達。
同じ中学校出身の新城馨辺りに言わせれば、死んだ方がいいロクデナシ。
新城馨は大嫌い。
いつも沙織をボロクソに貶したし、何かと構って来て鬱陶しい。
「オメーは頭悪いんだから、アタシの側に居ろっての」
バレーボールをやっている頃の馨は、ちょっとヤンチャで口が悪いけれど、姉御肌で面倒見が良く、年下の後輩たちには慕われている。
学校の勉強だけは、ユキナの方が出来たから。
付き合う相手を間違えた。
12万円。
皆川優樹菜の最初の値段。
沙織によって、ユキナの処女は出会い系サイトで知り合ったサラリーマンに売り飛ばされることになった。
中年男の舌が無遠慮に身体を舐め回し、這いずるおぞましい感触を、ユキナが生涯忘れることはないだろう。
俗に言う援助交際。
沙織はとっくの昔に手を着けていたから、仲間外れじゃない。行動を共にするのは、友達なら当然のこと。
以降、懐が寒くなると、沙織と組んで援交した。
始めのうちはショックで泣いたり、吐いたりしていたけれど、そのうち何も感じなくなった。ユキナの人間性は消しゴムみたいに摩耗して無くなって行った。
そういった荒れた日常を送っていたある日のこと。
ユキナは、鏡に映る自分の変化に気付いた。
肌は荒れ、脱色と染色を繰り返した髪は傷んでパサパサ、目付きは何処か虚ろで、濁って見える。何だか、ユキナは悲しくなって泣いた。
幾ら泣いても涙は止まらず、その日、ユキナは自分が大切な何かを喪ったことに気付き、途方に暮れた。
同じ頃、バレーボールを辞めた馨の様相も変化した。
ヤンチャな性格は暴力性に取って替わり、快活な一面は、がさつなだけに見えるようになった。何時も苛ついていて、男女の別なく突っ掛かる。年下の後輩に慕われていて、悩み相談なんかやっていた姉御肌の新城馨は、何処にも居なくなっていた。
人は変わる。
良くも悪くも、変わらずに居られない。ユキナはそう思うようになった。
◇◇
御影悠希が現れた。
ユキナにとって、別の世界の生き物。
小さく可愛らしい見てくれ。女の子みたいな長い睫毛。未成熟なソプラノボイス。透明感があって、何処か儚い印象。女子剣道部の主将、秋月蛍が猫っ可愛がりしていた深窓のお姫さま。
それが、どヤンキーの馨に付きまとわれている。
沙織が言った。
「うおお、NTR ……!」
それから――
馨はものすごい勢いで変わって行った。
まず第一に険が取れ、よく笑うようになった。がさつでサボりがちだった眉や肌の手入れなんかもキチンとやっている。荒っぽい言動も控えるようになり、誰彼構わず喧嘩を売って回るようなことはなくなった。
――再生。
以前の馨を知っているユキナには、そう見えた。
「2000円……? はぁ!? マジで!?」
元陸上部の部室に溜まるDQNなら誰でも知っていること。
「あれが……あれを……」
ユキナは驚きで言葉もなかった。
ただ、漠然とこう思う。
悠希に馨は似合わない。悠希には……そう、ユキナのクラスの副委員長をやっている深山楓あたりがよく似合う。二人なら図書館で並んで勉強したり、陽当たりのよいカフェなんかでまったりお茶を飲んだりしていそうだ。
擦れっ枯らしのユキナは笑ってしまうけれど。
でも、興味はあった。
悠希には不思議な力があって、それが馨を再生させているのだとしたら、ユキナもそれにあやかりたい。
たったの2000円で無くしたものを買い戻せるのなら、ユキナは今すぐそうしたい。
だから夏休みに入ってすぐ。商店街の出入り口近くで悠希に会ったとき。
「あ、少年ビッチじゃん」
ユキナは迷わず、呼び止めた。
ファーストコンタクトは上々。
悠希の指遣いは巧みで、ユキナは触られただけで呆気なく終わってしまった。最後までヤっても問題はなかったけれど、お試しの後、それでよければとワンクッション置かれた。
何故か、ユキナは安心出来た。これなら酷いことにはならないと確信を持って言えた。
実際、顔に精液をぶっかけられ、「良かったろ?」とドヤ顔で言われることはなかったし、膣に異物を挿れられることもなかった。
後始末をして貰ったのも、特定の相手を持たないユキナには新鮮だった。その後は優しく胸を揉まれ、お腹をさすられる内に、ユキナの意識は、ゆっくり微睡んで行く。
おそらく、それは深山楓みたいな清潔感のある女の子のために用意されたもの。擦れっ枯らしのユキナには勿体ない、行き過ぎた代物。本当の男女の交わり。
新城馨が戻らざるを得ないわけだ。こんな優しさの内に、棘が抜けない訳がなかった。