ぼくがビッチになったワケ 作:ピジョン@アスクラピアの子一巻発売中!
頭の芯が、ずきずきと痛んだ。
「皆川と霧島は、いつも一緒に行動していたよね。仲が良かったんじゃなかったの?」
「……」
皆川は唇を尖らせ、そっぽを向いた。
その表情には、あからさまな不満の色が浮かんでいる。
そっぽに視線を向けたまま、呟いた。
「……沙織は、あれでよかったんだよ」
「なんだって?」
ぼくは霧島のことはよく知らないし、大して仲が良かった訳でもない。
でも、人が一人死んだ。死んでしまった。その事に関しては強い衝撃を受けた。
父さんは言っていた。
命は、誰のものも尊い。蔑ろにしてはならないものだと。人として生きる以上、それが普遍的な価値観の一つだとも。
ぼくは、本格的にムカついた。
「よかっただって? 皆川、もう一遍、言ってみな!!」
命に最低限度の敬意を払えない者を、ぼくは認めない。
「あっ……」
ぼくの剣幕に、皆川は一瞬驚き、少し怯えたように一歩引き下がった。でも、過ちを認め、謝る言葉もなければ、霧島の死を悼む様子もない。
ぼくは思い切り鼻を鳴らした。
皆川は泣き出しそうな顔で俯き、ぽつぽつと前後の事情を話し出した。
◇◇
◇◇
……
…………
………………
……………………
…………………………
その後の皆川の話で、詳しい前後の状況が見えてきた。
「……あの金髪の娘か」
「うん……」
ドラッグ、キメセク、乱交……。皆川の口を衝くのは、ぼくにとって聞き慣れない単語ばかり。
「あたしが行ったとき……沙織は、何て言うか……もう、終わっちゃってた……」
「……」
「おまんこ、おまんこ叫んで……マイク、あそこに突っ込んで、気持ちいいって……」
聞いているだけで、耳が腐りそうな話だった。
居たたまれなくなって、ぼくは首を振った。
「あの娘に関わるなって言ったよね……」
皆川は俯いたまま、小さく頷いた。
「……関わらなかったから、今こうしていられるんだ……」
「……?」
それは、ちょっと分からない。皆川の内面的な部分での述懐だろうか。
「あたし、馬鹿じゃん? 御影の言ったこと無視してたら、きっとアソコでマイク突っ込んで死んでたの、あたしだったと思うんだよね……」
皆川が顔を上げた。
「ここに沙織がいても、おかしくなかったんだ」
「……」
「沙織は終わっちゃってて、もうどうしようもなかった。立場が逆だったら、あたしはアソコでの死を受け入れる」
ハッキリとした口調。
霧島の死に対する責任や、後悔なんかは感じていないようだった。
「……」
沈黙。
ぼくと皆川は、暫し見つめ合う。
「沙織は、あたしのこと売ったり、盗みやらせたり、とんでもないヤツだった。清々すると迄は言わないけど、あたしはやれることをやったし、悪いことをしたとは思わない」
つまり……皆川は、霧島に色々と貸していた。そういうことが言いたいみたい。
ぶっちゃけ、皆川の苦労話には興味ない。
バスローブ一枚の皆川は、その場に正座して、ぼくを見上げた。
言った。
「あたし、すごく馬鹿で、引っ張ってくれるちゃんとした人が必要なんだ」
「……」
皆川は手を着き、頭を床に押し付けた。
「あたしからもお願いします。奴隷にして下さい」
これは、好都合なんだろうか……。
自分で奴隷になれって言っておいて何だけど、ちょっぴり、というか、かなりどん引いている。
皆川は、ぼくに期待しているみたいだけど、なんでそうなのか分からない。
ちゃんとしているから?
売りをやってるぼくが?
少し考えてみるけど駄目だ、やっぱり分からない。
女の子たちは、いつもぼくの想像の斜め上に行っている。
皆川は言った。
「あたし、これまでは流されて生きて来て、納得できないことばっかりで……」
それは、独白の響きを帯びていて――
「でも、これは納得できる。沙織のヤツが居なくなって、御影があたしを助けに来たのは、きっと運命みたいなものなんだと思った」
「そう……」
皆川優樹菜は歪んでいる。
行動の指針がない。意思が弱く、考えも足らない。一人じゃ何もできない。毒にも薬にもならないタイプ。
だから先導する誰かの存在を必要としている。その役割を、これまでは霧島がやっていて、これからはぼくになるというお話。
この娘と秘密を共有することはリスキーだ。大きな弱みを抱えることになる。
ぼくの中の何かが強い危険警報を打ち鳴らすけど――
――ぼくに選択の余地なんてない。
今は、このおかしな流れに乗って、皆川を掌握する他に道はない。この娘を『ぼく』で塗り潰し、『ぼく』という絶対の価値観を植え付ける。
――支配して、利用する。
ダブルサイズの大きなベッドに腰掛けたぼくの目の前で、バスローブ一枚の皆川がひれ伏して、ぼくの返事を待っているという狂った状況。
霧島を失った皆川は、新しい指針を必要としている。
ぼくは、ひれ伏した皆川の後頭部を踏む形で、軽く足を置いた。
「……ユキナ、ぼくがご主人さまになってあげる」
「……!」
不意に――
城下の盟(めい)という言葉が頭に浮かんだ。
相手に屈辱的な内容の降伏条件を受け入れさせるという意味。
でも皆川は、皆川優樹菜は――
ユキナは少し震え、顔を上げた。
その表情は嬉しそうに口元が緩んでいて――
ぼくは軽い吐き気を催した。