※この作品はR-18です。

ぼくがビッチになったワケ   作:ピジョン@アスクラピアの子一巻発売中!

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第50話

 頭の芯が、ずきずきと痛んだ。

 

「皆川と霧島は、いつも一緒に行動していたよね。仲が良かったんじゃなかったの?」

 

「……」

 

 皆川は唇を尖らせ、そっぽを向いた。

 その表情には、あからさまな不満の色が浮かんでいる。

 そっぽに視線を向けたまま、呟いた。

 

「……沙織は、あれでよかったんだよ」

 

「なんだって?」

 

 ぼくは霧島のことはよく知らないし、大して仲が良かった訳でもない。

 でも、人が一人死んだ。死んでしまった。その事に関しては強い衝撃を受けた。

 父さんは言っていた。

 命は、誰のものも尊い。蔑ろにしてはならないものだと。人として生きる以上、それが普遍的な価値観の一つだとも。

 ぼくは、本格的にムカついた。

 

「よかっただって? 皆川、もう一遍、言ってみな!!」

 

 命に最低限度の敬意を払えない者を、ぼくは認めない。

 

「あっ……」

 

 ぼくの剣幕に、皆川は一瞬驚き、少し怯えたように一歩引き下がった。でも、過ちを認め、謝る言葉もなければ、霧島の死を悼む様子もない。

 

 ぼくは思い切り鼻を鳴らした。

 

 皆川は泣き出しそうな顔で俯き、ぽつぽつと前後の事情を話し出した。

 

◇◇

◇◇

 

 ……

 …………

 ………………

 ……………………

 …………………………

 

 その後の皆川の話で、詳しい前後の状況が見えてきた。

 

「……あの金髪の娘か」

「うん……」

 

 ドラッグ、キメセク、乱交……。皆川の口を衝くのは、ぼくにとって聞き慣れない単語ばかり。

 

「あたしが行ったとき……沙織は、何て言うか……もう、終わっちゃってた……」

 

「……」

 

「おまんこ、おまんこ叫んで……マイク、あそこに突っ込んで、気持ちいいって……」

 

 聞いているだけで、耳が腐りそうな話だった。

 居たたまれなくなって、ぼくは首を振った。

 

「あの娘に関わるなって言ったよね……」

 

 皆川は俯いたまま、小さく頷いた。

 

「……関わらなかったから、今こうしていられるんだ……」

 

「……?」

 

 それは、ちょっと分からない。皆川の内面的な部分での述懐だろうか。

 

「あたし、馬鹿じゃん? 御影の言ったこと無視してたら、きっとアソコでマイク突っ込んで死んでたの、あたしだったと思うんだよね……」

 

 皆川が顔を上げた。

 

「ここに沙織がいても、おかしくなかったんだ」

 

「……」

 

「沙織は終わっちゃってて、もうどうしようもなかった。立場が逆だったら、あたしはアソコでの死を受け入れる」

 

 ハッキリとした口調。

 霧島の死に対する責任や、後悔なんかは感じていないようだった。

 

「……」

 

 沈黙。

 ぼくと皆川は、暫し見つめ合う。

 

「沙織は、あたしのこと売ったり、盗みやらせたり、とんでもないヤツだった。清々すると迄は言わないけど、あたしはやれることをやったし、悪いことをしたとは思わない」

 

 つまり……皆川は、霧島に色々と貸していた。そういうことが言いたいみたい。

 

 ぶっちゃけ、皆川の苦労話には興味ない。

 

 バスローブ一枚の皆川は、その場に正座して、ぼくを見上げた。

 言った。

 

「あたし、すごく馬鹿で、引っ張ってくれるちゃんとした人が必要なんだ」

 

「……」

 

 皆川は手を着き、頭を床に押し付けた。

 

「あたしからもお願いします。奴隷にして下さい」

 

 これは、好都合なんだろうか……。

 自分で奴隷になれって言っておいて何だけど、ちょっぴり、というか、かなりどん引いている。

 皆川は、ぼくに期待しているみたいだけど、なんでそうなのか分からない。

 ちゃんとしているから?

 売りをやってるぼくが?

 少し考えてみるけど駄目だ、やっぱり分からない。

 女の子たちは、いつもぼくの想像の斜め上に行っている。

 皆川は言った。

 

「あたし、これまでは流されて生きて来て、納得できないことばっかりで……」

 

 それは、独白の響きを帯びていて――

 

「でも、これは納得できる。沙織のヤツが居なくなって、御影があたしを助けに来たのは、きっと運命みたいなものなんだと思った」

 

「そう……」

 

 皆川優樹菜は歪んでいる。

 

 行動の指針がない。意思が弱く、考えも足らない。一人じゃ何もできない。毒にも薬にもならないタイプ。

 だから先導する誰かの存在を必要としている。その役割を、これまでは霧島がやっていて、これからはぼくになるというお話。

 

 この娘と秘密を共有することはリスキーだ。大きな弱みを抱えることになる。

 ぼくの中の何かが強い危険警報を打ち鳴らすけど――

 

 ――ぼくに選択の余地なんてない。

 

 今は、このおかしな流れに乗って、皆川を掌握する他に道はない。この娘を『ぼく』で塗り潰し、『ぼく』という絶対の価値観を植え付ける。

 

 ――支配して、利用する。

 

 ダブルサイズの大きなベッドに腰掛けたぼくの目の前で、バスローブ一枚の皆川がひれ伏して、ぼくの返事を待っているという狂った状況。

 霧島を失った皆川は、新しい指針を必要としている。

 ぼくは、ひれ伏した皆川の後頭部を踏む形で、軽く足を置いた。

 

「……ユキナ、ぼくがご主人さまになってあげる」

 

「……!」

 

 不意に――

 城下の盟(めい)という言葉が頭に浮かんだ。

 相手に屈辱的な内容の降伏条件を受け入れさせるという意味。

 でも皆川は、皆川優樹菜は――

 ユキナは少し震え、顔を上げた。

 その表情は嬉しそうに口元が緩んでいて――

 

 ぼくは軽い吐き気を催した。

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