※この作品はR-18です。

ぼくがビッチになったワケ   作:ピジョン@アスクラピアの子一巻発売中!

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葛城 瞳子1

 仕事中毒(ワーカーホリック)の父が体裁だけの結婚をして、家柄以外になんの取り柄もない女の腹から生まれ落ち、葛城 瞳子(とうこ)は家族愛を知らずに育った。

 

 瞳子が気付いたとき、母は既に若い男との関係に溺れていた。仕事漬けの父は、これをいいことに家に寄り付こうとはしない。

 

 瞳子に家庭の味を尋ねれば、ハウスキーパーのヨシコさんのレパートリーを答えたろう。

 ちなみに、ヨシコさんはヨシコさん。それ以外の何者でもない。

 

 中学生の時分、なんとなく憧れた先輩と、なんとなく関係を持ち、ろくに清掃もされてないトイレの中で処女を捨てた。

 

 地元の高校に入学し、中学のときと同じようにバスケ部に入部した。

 新城 馨(かおる)と出会ったのはこの頃。無愛想で柄が悪く、すぐ唾を吐く。膝にガチガチのテーピングを施し、厚いサポーターを着けている。

 この時はまだ、バレーボール部に所属していた。

 

 高校に上がり、明らかに上がった練習量に音を上げて瞳子が退部を決意した時と同じくして、馨もバレーボール部を去った。

 バレーボール部とバスケ部は、体育館を二分して活動している。既に顔見知りであったし、校舎の中で何度か顔を合わせるうち、口を利くようになった。

 極めつけは、運動部のドロップアウト組が溜まり場にしている陸上部部室で顔を合わせたことだ。

 そこでは傷を持つ者同士、時折、しんみりすることがあり、馨はクラスでハブられていると告白した。

 

 憔悴して、弱った瞳だった。

 

 これはもう、保たない。瞳子は、そう確信していた。

 一度だけ、馨が一人の少年のことを取り沙汰した。

 

「小さいけど、ガッツがあるんだ」

 

 馨はスマホ片手にボンヤリとすることが多くなった。

 ちらりと待ち受けを覗き込むと、酷く儚げな少年が、柔らかい笑みを浮かべていた。

 

「弟さんですか?」

 

 その問いに、馨は仏頂面で首を振るだけだった。

 退学も時間の問題と思われた馨だったが、なんとか持ちこたえ、最終学年に上がった。

 馨は何時も苛ついていて、少し焦っていた。部室で煙草をくわえたまま、考え込む時間が増えた。

 

 夏本番を控えた、梅雨時のある日のこと。

 馨が『奥の部屋』を利用したと聞いて吃驚した。

 

 馨といえば、何時も所在なく陸上部部室に留まり、煙草を吸って唾を吐く。詰まらない理由から運動部と揉め事を起こし、その時はもちろん力で解決する。そんな問題児。

 身長185cmの体躯から繰り出されるアタックは、男女の別に関わらず恐怖の対象だった。当然、男っ気などまるでなく、ヤったのは何処のゴリラだと思った。

 

 その翌日、瞳子は御影 悠希に会った。

 身長150cm程の小柄な体つき。肌は雪のように白く、睫毛は女より長かった。透明感があり、幸薄い印象。

 馨のスマホの待ち受けで見たあの少年だった。

 

 瞳子は、はっと息を飲む。

 

 ストライクゾーンど真ん中。

 

 馨は少年に夢中だった。

 すげなく扱われても気にもせず、ところ構わず少年を抱き締め、頬ずりし、歯の浮くような台詞でかき口説く。

 少年の目はいつも斜め向き。馨以外の何かを見つめていた。

 

「新城センパイ、男出来たんですね」

 

 その問いに、馨は何時も目を泳がせる。

 半月も経った頃。

 奥の部屋から、馨の悩ましすぎる嬌声が聞こえるようになった。

 瞳子には悪い癖がある。

 一度興味を覚えると、どうしてもそれを確認しなければ気がすまない。この性分が悲惨な初体験に繋がっているのだが、本人はまるで理解していない。

 梅雨の雨のある日、瞳子は『奥の部屋』の裏手に回り込んだ。

 ルール破りだが、こっそり裏の窓を開いた。

 馨がまだ来ていないことに、瞳子は小さく舌打ちした。

 

 瞳子にとって、セックスは一種の拷問だ。馨がどのような拷問を受けているのかどうしても知りたかった。

 

 部屋の中、少年は雨に濡れた衣服が気になるようで、頻りに身じろぎしている。時計を何度か確認して、それから――衣服を脱ぎ捨てた。

 

 それを見て、瞳子は思わず口元を押さえた。

 

 少年の背中には、数え切れないほどの傷痕が刻まれている。主に火傷だ。アイロン、煙草、恐らく火箸。よく分からないものもあるが、その数は軽く100を超えている。いずれも治癒した形跡がある。つまり古い傷痕ということになる。もちろん、馨の仕業ではない。すると……

 

「……誰かに喋ったら、ぶっ殺すぞ」

 

 瞳子の背後に、茶色の髪から雨を滴らせた馨が立っていた。

 

「御影を傷付けたヤツは殺す。他のヤツ等にも徹底させとけ」

 

 瞳子はひたすら頷いた。

 

「あいつは他の誰でもないアタシが幸せにするんだ」

 

 馨が呟く。

 

「……キスすると、すっげぇ甘いんだ。ちっさい舌で必死に応えて来るよ。そんだけで、頭おかしくなる」

 

 降り頻る雨の中、銀の刃が閃いて、瞳子の首筋にぴたりと当たる。

 

「抱き締めると、肌が吸い付くんだ」

 

 馨の声には何の抑揚もなかった。そこには動かし難い決意がある。

 

「挿れられると狂うよ。馬鹿みたいに腰振っちまう」

 

 瞳子の首筋から、一筋の鮮血が溢れ出てブラウスを染める。

 

「御影に手を出したら殺す」

 

 瞳子は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――まだ、誰のものでもないよね。

 

 

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