ぼくがビッチになったワケ 作:ピジョン@アスクラピアの子一巻発売中!
思い切り駄目だしされても、カオルは吹っ切れたように前を向いていて、何だか堂々としていた。
駅前のロータリーに、赤いトップスに水色のワイドパンツを履いたC作と、くわえ煙草のハギリが突っ立っている。ハギリは黒のダメージパンツに紫のオフショル。男の子みたいで、一瞬誰かと思った。
ハギリのセンスは独創的で似合ってるけど、男みたい。イマイチ。ちょっとヤンキー臭いけどC作はいい感じ。ちなみに、ぼくが女の子のファッションに詳しいのは、無駄にその手の雑誌を買い込んで見せびらかす深山の影響。
カオルがクラクションを鳴らし、ロータリー中央の縁石を回り込むようにハンドルを切る。ハンドサインでハギリたちを誘導して拾ったあと、短い距離を駐車場に向けて走った。
「御影くん、こんばんは」
深山は結構おしゃべり。
大人しい見た目に反して自己顕示欲が旺盛で、学校では下らないことをよく喋った。
「少し痩せました?」
後部座席に乗り込んだばかりのハギリが何か言ってる。
「それ、カオルさんのシャツですか? サイズ合ってない。部屋着みたいで変――」
「ハギリはうるさい」
カオルは口元に笑みを浮かべているだけで何も言わなかった。
ハギリは長い前髪で表情を隠すようにして俯き、空気の読めるC作は口を噤んでいる。
ぼくは通りを挟んで駅の向こうにある大きなビルに視線を向けた。
一階はゲームセンター。二階がボーリング場。三階ではカラオケ。四階はレストランや居酒屋なんかもある。地下にも何かの施設があるらしいけど、そこまでは知らない。
車から降りると、排気ガスに混じって、むんと夏の熱気がする。
昼とは違う。真夏の匂い。僅かに不快感が混じるそれに眉を寄せるぼくの肩をカオルが抱き寄せ、ビルを指した。
「中、涼しいから。何か食べる?」
ぼくは首を振る。
早くも滲み出した汗が頬を伝った。
C作が慌てて言う。
「三階に部屋取ってます。急ぎましょう」
心配そうなC作と目が合って、ぼくは小さく頷いて見せた。
◇◇
夏休み。時刻は午後9時を指したくらいで、一階のゲームセンターには人が沢山いた。屋内は空調が効きすぎていて、寒いくらい。
カオルは、ずっとぼくの肩を抱いたまま。後輩といるときはいつもそう。人だかりを躱してエレベーターで三階まで。
「ハギリ、双子はどうしたの?」
ハギリはいつも1年生の二人組を連れていて、面倒な雑用はその二人に押し付ける。C作は兎も角、この暑苦しい夜にハギリが自分でぼくを出迎えに来たのは意外。
ハギリはクスッと笑った。
「あの二人は双子じゃないよ」
「没個性で見分けがつかないだけだよ。それで分かるハギリも大概だね」
「御影くん、少し見ない間に悪くなりましたね……」
そんなことを言うハギリには、べっと舌を突き出しておいた。
ハギリが来たから、「迎えを出す」と言ったC作もここに来たんだと思う。
つまりC作はハギリを警戒していて。
「ああ……アイツらにはちょっとやることがあるだけだよ」
勿論、ぼくもハギリを警戒している。
「やること?」
口を挟んだのはカオルだ。
こっちはハギリに対して警戒が薄い。基本的に、カオルは年下には寛容。
「ええ、ちょっと」
ハギリが曖昧に応えて、カオルは興味無さそうに頷いた。
三階にあるカラオケ施設。その奥にある大部屋には、いつものカオルの取り巻き4人が待機していて、ぼくは何だか安心してしまった。
「みんな、久しぶりだね」
しょっちゅう『よいこ』を奢ってくれる赤瀬が、ほわっと笑って手を振った。
田舎でナマズを釣り上げた話が面白かった神木もいる。
他の子の名前は、ちょっと分からない。夏休み中でイメチェンしているのか、みんな大人っぽい格好。学校にいる時とは全然違う。
女の子たちは不思議。
ぼくなんかより、ずっと早熟で大人。本気になると変身して、ぼくを吃驚させる。
「……みんな、今日は綺麗だね……」
溜め息と共に思わず言葉を漏らすと、妙な沈黙があった。
「……」
ここにいる女の子たちは、全員少し怖い子なんだけど、この時は何故か、みんな優しい笑顔だった。
◇◇
◇◇
…………………………
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……
昨夜の状況を説明する。
カオルを快楽で痛めつけたことやシュウと寝たことは、大変なことになるような気がするので言わない。
話は優樹菜に助けを求められたことから始まって。
その後、国道近くのあのカラオケBOXに駆け付けた時、霧島は既に心肺停止の状態で死後硬直が始まっていたこと。
留まるのは不味い気がして、そこから立ち去ったこと。
優樹菜の説明から察するに、霧島の死因は薬物の過剰摂取――オーバードーズが原因と見られること。……無論、ぼくの推測でしかないのだけど。
「……皆さんにはご迷惑をおかけしました。本当にごめんなさい」
言って、ぼくは頭を下げた。
カオルもハギリも真剣に聞いていて、ひたすら考え込む様子だった。
ショートボブの赤瀬が、ぼくを睨むように見ながら言った。
「……御影さんと皆川さん、どんな関係?」
「それは……」
ぼくが言葉に詰まると、隣に座っているカオルもギロリと鋭い視線を向けて来る。
ここは、ちょっぴり怖い場所。
ここにいる子たちは、それぞれ癖があって問題のある子たち。気分次第で、ぼくのことを無茶苦茶にしたってなんの不思議もない。
ハギリも神木も、胡散臭いものを見るかのように、半目でぼくを見詰めている。
――狼の群に放り込まれた、ぼく。
すごく興味深い。
ぼくは、にっこり笑った。
◇◇
◇◇
笑って言った。
「ユキナ? ぼくの奴隷。可愛いよ」
時間が止まる。
「ど、れい……?」
誰かが呻くように言った。
斜め上の答えに、カオルもハギリも二の句を継げずにいる。
ここに至るまで色々あった。
ぼくに関わった娘は、全員一人残らず泣いている。途中で死人だって出た。
シュウもカオルも泣かしたぼくが、ここに至って怖いなんて、地球が爆発したって有り得ない。
昨夜の修羅場は、ちょっぴりぼくを強くして。
さて、狼の群に放り込まれたモノはなんだろう?
ぼくは唇を軽く舐め、とびきりいやらしい邪悪な笑みを浮かべておいた。