【完結】最愛の真面目な政務官が山賊のお頭と幸せになる話 作:のぶた
※後日談的な
──アレから……モーティマさんと共に行く決意をした日から、三日がたった。
私は今、政務官という仕事を離れるにあたり、ケイティさんに今後の事を相談している。モーティマさんと懇意の関係になっているということも踏まえて。
「……なるほど。事情は分かりました……それで、王子には既にお伝えしたのですか?」
「えぇっと、お伝えはしたのですが……」
一昨日、つまる所モーティマさんとそういう事をした翌日。王子には全てを話した。
私がモーティマさんと、少し前からそういう関係にあったことを。今後は政務を離れ、彼と一緒に生きて行きたいということを。
「お伝えした所『自分はトランプタワーの下の段になる。安心しろ』と……」
「はぁ……トランプタワー、ですか?」
「はい、トランプタワーです……」
「えぇっと……何かの比喩でしょうか? それともあの、トランプをこう、重ねていく……あの?」
そういって身振り手振りでケイティさんはトランプタワーを作ろうとする。
「私がお邪魔したとき、まさにトランプタワーを作ってましたので、多分それかと……」
私がお邪魔してしまったことで、七段目くらいで崩れてしまったけども。王子には申し訳ない事をしてしまいました。
「……遠い目をしてましたので、それ以上深くは聞かなかったのですが。ひとまずモーティマさんとそういった関係にあるということや、政務を離れることについて、ご理解いただけたのだとは思います」
「……それならばよかったのですが」
ケイティさんが何だかよく判らないと言った顔をする。私だって、よく判らないのだから当然だろう。王子の考えは本当によくわからない。
「下手をすれば打ち首獄門という事も、考えられましたからね」
……確かに、その可能性だってあったのかもしれない。
「王子がご納得いただけたのであれば、何より。けれど、お相手がモーティマさんというのは意外というか……もしや弱みを握られてるのでは?」
ケイティさんのメガネの奥にある瞳が、キリっと洞察するような目つきに切り替わる。
「ち、違います、そういった事はありません!」
このままではあらぬ誤解をかけられそうなので、弁解をしておく。
「その……自分でも意外だとは思いますが。あの人といると素直でいられたと言いますか、安心できたと言いますか……本当に不思議ですね。自分でもどうしてこうなったのかかよく分りませんが、それでも……えぇっと……」
言葉に詰まる。どう伝えれば良いのかが判らない。自由な所に惹かれた? とか……そこに憧れたのはあるが、決定的とは言えないかもしれない。
王国を魔物に支配され王子達と共に旅に出て、最初に仲間として出会ってもう数年。共に沢山の窮地を乗り越え、色々な経験をし、気付けばいて当たり前だと思ってしまっていたから。何だか自然と、心を許してしまえる存在になってしまっていた。
「……なるほどよくわかりました。失礼な事を言ってしまい、すみません」
「い、いえ、頭を下げないでください。確かに、普通考えられませんよね……」
そういって頭を下げようとするケイティさんを静止する。
「いえ……アンナさんは王子相手であれ些か気を遣い過ぎてると思うこともありましたが、モーティマさん相手にはそういった気後れをしてませんでしたしね。意外というほどでもなかったかもしれません……それに……」
「…………」
意外ではないと言われた事が、意外だった。
関係を否定されるばかりだろうと思っていたため、肯定してもらえた事に少し嬉しさを感じる。なんだか恥ずかしさを感じ、用意していた紅茶に手を伸ばし口につけ、何かを言いづらそうにしているケイティさんの言葉を待つ。
「……それに兵舎を見張っている忍びの者から、夜や朝方にモーティマさんの部屋から出入りするアンナさんの報告は度々上がっておりましたので……あぁ、流石に部屋の中までは覗かぬように徹底してますし、この事が王子に知られては宜しくないと、私までで留め決して他言無用だとしていますので、ご安心ください」
「ぶッ!」
盛大に紅茶を吹いてしまった。この国のプライバシーは大丈夫でしょうか……。
「しかしそうなりますと、急いで準備しないといけませんね」
「そ、そそそうですね……政務の仕事につ、ついてなのですが……」
知られていたという現実から目をそらし、なんとか平静を装い応える。
「いえ、それもありますが…………」
「…………?」
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──三週間後。
「ま、待ってください!」
前を行く、恰幅の良い男性の背中に呼びかける。
王国の復興は随分と進んでおり、人の集まる市街地に至っては、王国が魔物に支配される以前よりも賑わいを感じさせるほどだ。
そんな人の賑わう市街地を歩く私と、先を行くモーティマさん。
モーティマさんは普段のように山賊らしいラフな半裸な恰好……ではなく、似合わない白い礼服、タキシードを纏った姿で、ズンズンと先を進んで行ってしまう。
(待ってください、このようなドレスで歩くのは……それに、先ほどから人の視線が……)
純白を貴重とした、花をあしらった豪奢なドレス。丈が長く地面に引きずってしまいそうになるので持ち上げながら歩こうとするが、慣れない高い靴では上手く歩く事さえ難しい。
ウェディングドレスを着ていては、前を行く彼に追いつく事が出来ない。そもそもどうしてこういう状況かと言えば。
──三週間前、ケイティさんに相談した日。
『しかしそうなりますと、急いで準備しないといけませんね』
『そ、そそそうですね……政務の仕事につ、ついてなのですが……』
『いえ、それもありますが……挙式はいつなさいますか?』
『…………はい? ……ちょ、ちょっと待ってください。どうしてそういった話に……!』
『共に世界を救った仲間の門出です、盛大に祝福するのは当然の事ですよ。……それに、どうにも我が国の政治、軍の関係者からは全くと言っていいほどそういう喜ばしい話が上がらないもので……調査した所、何やら異性と接してはならないという空気が蔓延っているようでしてね……』
『それは確かに、そうですね……』
『……まぁ、理由についてはさておきますが、節度さえ守っていただければ、自粛する必要などはない事だと思います。むしろ、そのような空気が蔓延ってしまうことは好ましくありません。そのような意識が民にまで広がってしまえば、圧政へと繋がり、国が衰退します』
『えっと…………』
『王子にもいつまでも独り身では国を治めるものととして恰好がつきませんし、伴侶を見つけるよう度々お伝えしているのですが、一向に動く気配も見られません……はぁ……なので、お二人が諸々よいきっかけになればとも思いまして』
『そういう事ですか……』
『……打算的ですみません。勿論お二人を祝福したいのは本当です、費用や準備はこちらで負担いたしますので、お気になさらないでください。あとはお二人のお気持ち次第ですが……』
『あ、ありがとうございます。えっと……私は──』
──そこからはとんとん拍子に話が進んで。つい先ほど、大きな鐘の音が鳴り響く白い教会の下で。
『お姉ちゃん、綺麗……』
(コクリ……)
『此もまた必定……。其の道の先は……。ふふ、安心せい……心配などいらぬ。六……七人かの。皆笑っておる』
(コクリ……)
『アンナさん、本当にお美しい。人の一生は短い……だからこそ、永遠の愛を誓うのですね。私もいつかはエルフの女王としてではなく、一人の女として……』
(コクリ……)
『お頭ぁー! 決まってまっすぁー!』
『キースッ! キースッ!』
『ヒューッ! そこに痺れる、憧れますぜぇー!』
まだ私も彼も軍や政務に従事する身でありますが、彼との挙式を少し前に行い私達は晴れてその……夫婦の契りを交わしたばかり。
国の為になるのであれば、断る理由は一切なく、それに、そういう事への憧れも当然ありましたし……ただモーティマさんは面倒くさがるかなとも思っていたものの、すんなりと承諾してくれたのは意外でしたが。
式の肝心の所では、モーティマさんの手下の皆さんが騒々しく、ムードも何もありませんでしたが。
(恥ずかしかったですが……けれど…………んっ♪)
唇に残った先ほどの感触を確かめると、胸の奥にポカポカとした熱が灯る。触れ合っていた時間は長かったのか、一瞬だったのか、心臓がドキドキとよく判らなかったが。あの瞬間の事は、きっとずっと忘れないだろう。
沢山の人に見守られながら、愛を誓って、幸せなキスをして……そこで話は終わりという事はなく。
(……だから置いていかないでください。私は場所を知らないんですから!)
披露宴は後日行う事となり、式が終わり私達は帰路の途中。目的地は式を挙げた教会からそう遠くないらしく、街並みを知るためにも徒歩で帰る事にした。けれども彼は、私を置いてズンズンと先に進んでいってしまう。さっきまでは隣を歩いていたというのに。
(はぁ……もう少しくらい、気を遣ってくれても、良いのではないでしょうか……せめて着替えさせてくれれば……あぁ、人に見られてます……)
ケイティさんから「ウェディングドレスは差し上げます」との事で、着替える事なく教会を出てきてしまった……というか、モーティマさんに手を握られそのまま連れてこられてしまった。だというのに先ほどまで握ってくれいてた手が気付けばスルリと離れてしまい、彼の背中は遠くなっていってしまう。
(はぁ……まぁ、場所は近いと聞いてますし、最悪どなたかに聞けば判るでしょうが……)
これ以上大きな声で呼び止めると、更に周囲の注目を浴びてしまう。彼の背中を追う事を諦めた私は足を止め、俯き少し休む。王国御用達の職人さんが仕立てた特注のドレスは、金や花を豪華にあしらってくれている分、歩きにくく、重たく、太陽の光はジリジリと熱い。慣れない靴のせいで足だって痛い。まだ少しの距離しか歩いてはいなかったが、それでも一苦労だ。
この格好で迷子のような事をするのは少し……凄く恥ずかしいが。後で彼に散々に言って困らせてやろう……と、思っていると、不意に太陽の光を遮るように影が落ちてくる。
「ったく、何やってんだよ」
「モーティマさんが、先に行っちゃうからじゃありませんか。ドレスって、凄く歩きにくいんですよ……少しは気を遣ってください」
戻ってきた彼が、悪びれもなくそんな事を言うので、思わずムっとして言い返す。
「あぁん? ったく、しゃーねーな」
そういうとボリボリと頭の裏をかいたかと思えば、私の前に少ししゃがむ様にかがみ込み……。
「……よっと!」
「きゃっ! ぁ……も、モーティマさん!?」
私の背中と脚に彼の手が回ったかと思えば、一瞬の浮遊感。そのすぐ後に、私の身体が彼の身体に包まれる。
「……お、下ろしてください! 自分で歩けますから!」
「うるせぇ、待ってたら日が暮れちまうだろうがよ。さっさと行くぞ!」
モーティマさんにお姫様だっこをされてしまい、先ほどよりも更に注目を集めてしまう。確かにこれなら私を待つよりも早いだろうけども……周りからは「あらあら」「まぁまぁ」等と言った声が聞こえる。恥ずかしさで顔が熱くなるが、彼は私のことなど気にせず歩き出してしまい、どうやらやめる意志はなさそうだ。
……けれども、彼の顔も赤く染まっており、少し照れているのが判った。
「……全く、しょうがありませんね」
恥ずかしいし、ゴツゴツとしているけども……それでも乗り心地は悪くはない。彼の首の後ろに両手をギュっと回して落ちないように身体を支える。太陽の日差しの中密着して歩くのは流石に熱いが、今は気にならない。
(落とさないでくださいね……♪)
普段大斧を振り回している彼にとって私の重さなどあってないようなもので、心配もいらないと思いますが。
「何か、思ったより重いな」
「ドレスの重さですよ?」
本当にこの人はデリカシーを学んでください。
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「ついだぞ、ここだ」
そういって下ろされたのは、二階建ての家屋の前。
一階は周囲がガラス貼りになっており、内観が伺える。木製の丸テーブルが幾つか並んでおり、そのテーブルの上に、同じ質感で揃えられた木製の椅子が並べられている。
「思ったよりも、既にしっかりとしたお店みたいですね」
看板こそないが、その内観から飲食を行う類のお店なのだというのは一目で判る。
軍を抜けると言った彼は、山賊に戻る……事はなく、王国内で小さな食堂を開くとの事だった。そういえば山賊に戻ると言っていた覚えもないので、山賊になるというのは完全に私の思い込みでしかなかった。
既に店の場所も決まっていたらしく、今日初めて案内してもらったが……よくみると、あのテーブルやに椅子はどこか見覚えがある。
「店自体は元からあったボロボロの奴を格安で貰って手下どもに色々直させて、ついでに二階も作らせた。テーブルやら椅子やら家具やらは、兵舎から手下どもに持ってこさせた、新品のもんだぜ」
自慢げに言ってますが、それは盗品では……後でケイティさんに謝っておかないと。
更に案内するという彼についていき家の裏手に回ると、二階への階段があった。先導する彼についていき、階段を上り家の中へと入る。扉を開けると新品の木の香りに、鼻先をくすぐられる。
家の中に入ると二階は居住用のスペースになっているようだった。サラっと「二階はついでに作らせた」とか言っていたので不安でしたが、特に作りに問題はなさそうで、元から二階建てだったと言われても信じてしまう。そのまま案内を続けて貰い、
──キッチン。
一通りの器具は揃っているようです。少しは私も料理を覚えないと。
──お手洗い。
浴室は別になっているようで一安心。鍵もちゃんとかけられるようで、急に入ってこられる心配もないでしょう。
──浴室。
一人で入る分には問題なさそうですが、二人で入るには浴槽は少し狭いかもしれません……詰めれば大丈夫そうですかね。
一通り見て回るが。どこもシンプルで丁寧な作りであり、生活する上での不便さなどはなさそうだ。モーティマさんが実は料理ができたり、山賊の方って、案外器用なんですね……。
「んで、ここが寝室……お?」
寝室の手前まで来たところで扉が勝手に開くと、奥から銀髪の、背の低い小柄な少女が現れる。北の大国のプリンセスであるシビラさんだ。
「…………モーティマさん?」
「あ、あぁん? なんだよその目は」
思わず彼をジっと睨みつける。まさか初日から他の女性を寝室に連れ込むなんて……まぁ、流石にそれはないだろうけども、此方はこのような事態には色々ナイーブなので少し怒らせてください。
「良い所に来たわね、ちょうど終わったわよ」
そういって、シビラさんは寝室の扉を見やる。
「結界の魔力は一日しか持たないと思うから、まぁ使うなら早めにね。あとは結界の中で起こった事は外に出るとなかった事になるから、少しの無理は大丈夫……それと、特別オプションもつけておいた」
「特別オプション? なんだそりゃ?」
どんどん二人で話を進めていく。
「時空魔術師から学んだ時空魔術と結界の応用……まぁ部分的に時間を早めるのも、戻すのとあまり変わらなかったから。あとは、実際に使ってみてのお楽しみ」
「おう……まぁよくわかんねーけど、あんがとよ」
「御礼は良いわ……でも食堂のスイーツ一か月食べ放題、忘れないでね。……それじゃ」
そういうとシビラさんは出口の方へと去っていった。結局話の内容は私には理解できなかったけれとも。
「今のお話は……?」
「おう、気にすんな。んでここが寝室だけどよお……」
そういって私の手をグっと掴み寝室の中へ連れ込もうとする。力は強く、逃がさないと言った感じだ。嫌な予感がするものの、断る事も難しそうなのでしぶしぶ中へと入る。
中は普通の寝室で、大きめの二人で並んで眠っても問題なさそうなサイズのベッド。更に見渡すと、王城の自室に置いてあった私の着替えの入った箪笥やら、私の私物がいつの間にか置かれている。
「……せめて、一言くらい断って持ってきて頂けませんか?」
「あ? 言ってなかったか。すまん」
もし王城の自室に戻っていたら、危うく着替えがない所でした。
……この自分勝手さ、自由さにいつも振り回される身にもなってほしい。
「まぁ、今回は良いですけども……おかげで、着替えを取りに行く手間は省けましたし」
そう言った所で──
──ズクン
(……え?)
胸が……というより胸の先の敏感な当りにジリジリとした熱さが広がる。更に──
──ズクン
(っ……あ、アソコが……んぅっ♪)
胸先だけではなく、ふとももの付け根あたりが熱を持ったように疼き始め、なんだかモゾモゾとこそばゆい感覚がする。私の変化に気付いたのか、モーティマさんがニタリといやらしい目をしているような気がする。
(先ほどの話は、そういう事ですか……ぁっ♪)
結界がどうという言葉に加え、私の身体の……敏感な部分の変化に、大体の事情は察する。
来て早々というのは少し考えものではありますが……まぁ、決して嫌という事もないので。
(本当にしょうがない人ですね……♡)