【完結】最愛の真面目な政務官が山賊のお頭と幸せになる話 作:のぶた
※まだエロ無し
──ぱたんっ
──……ギシリ
木製の廊下の軋む音と人が離れていく気配で、意識がハッと現実へと呼び戻される。
その瞬間、目の前で互いに倒れ込むように支え合い、慎重に重ねあわせた筈の二枚のトランプの片側が崩れ、その衝撃は下段へと伝播していき
──パタパタパタパタパタッ……パタリ
目の前で音を立てて崩れ去っていく、トランプの山。
四段目までが完成し、最後の五段目で二枚のカードを立てれば完成……という所で、制作中のトランプタワーはあえなく崩れ去ってしまった。
椅子の背もたれに背中を大きく預け「ふぅ」と息をつく。
思いの他集中しすぎてしまっていたようで、
執務室の窓から見える家屋の光がポツポツと少ない所から、
タワーを作り始めた頃に比べると随分と時間がたっている事を察する。
長く集中していた為無性に喉が渇いた。何か飲むかと部屋を出る。
執務室の中は温度が籠りやや熱気を感じていたが、
風が通り抜ける廊下に出ると、ヒヤリとした風が全身を撫でた。
昼はあんなに暑かったというのに、夜の風は少し冷たい。
水を飲むべく食堂にでも向かおうと足を向けたところで、先ほどの気配を思い出す。廊下を軋ませて歩く人の気配……その前には部屋の扉が静かに閉まる音がしたような気もするが、あまりにトランプに集中しすぎていたので定かではない。その気配も自分と同じ方向へと向かっていたはず。
廊下の先には食堂や浴場、書庫などが集まる軍関係者用の兵舎がある。もしかしたら誰かに合うかもしれないなと思いつつ、食堂へと向かった。
──
────。
食堂に辿り着いてすぐに、水道から流れ出る水をコップ一杯に入れ、一気に飲み干した。
ゴクリゴクリと、喉を通る水の感覚が心地いい。結局、ここに来るまでの間誰にも合わなかったな……と思っていると。食堂から出た廊下を歩く、女性の姿が目に入った……歩く動きにあわせて腰まである銀髪がたなびいている。
──……アンナ?
暗がりではあったが、綺麗な色をした銀髪が、廊下のランプに灯されたほのかな明りを反射し、幻想的な光を放っているように見える。見間違えるわけもない、アンナだ。
ワンピースの寝巻を纏っており、首元や足元のフチに、フリルがあしられている。ピンク色と少しだけ子供っぽい色ではあるが、上品さを兼ね備えた可愛らしい寝巻だ。風呂上りなのだろうか、ワンピースの開いた胸元から覗く肌が、ほんのりピンクがかっているようにも見えた。
そのまま王子に気付く事なく、廊下を進んでいくアンナ。廊下の先にあるものはなんだったかと思い出す。確か……男子兵舎? ……こんな時間に一体何の用だろうか。アンナの行き先が気になり、王子は静かに気付かれないようにと、彼女の後を追った。
……しばらくすると、アンナはある部屋の前で立ち止まった。そしてドアに近づき、ゆっくりと、大きな音を立てないよう、コンコンと二回ノックをする。少しして扉が開くと、部屋主がのそっと顔を出す。髭を生やした熊のような風貌の男。防具であった肩パッドを外し(そもそもアレは防具なのだろうか)上半身は何も来ていない状態、下は普段通りのだいぶ年期が入った赤いズボンでラフな格好をしている。
──アレは……モーティマか?
そしてアンナを招き入れる仕草をすると、部屋の中へとアンナは消えていき、扉が閉まる。こんな時間に一体二人は何を……ゆっくりと扉に近づき、その横の壁にそっと耳を当て中の様子を探る。耳をじっとすませると、奥ではかすかに楽しそうな笑い声。個性豊かな面々のいる王子軍は荒くれ者も多いため、薄い壁などでは度々破壊されてしまう事もあった。そのため兵舎の壁は分厚く頑丈に作られ、防音も完璧だ……だがこのままでは中の様子がうかがえぬと、王子は自身の人差し指に力を込め、壁へと向けると
──シュッ!
瞬間、壁へと向いていた王子の指が手品のように消失し、風を切るような音。少し遅れて、ジッと何かが焼け切れるような音。よくみると壁に指一本分の穴が開き、その穴から僅かにシューと小さな煙がたっている。王子は壁に勢いよく指をつきたて、指が壁に触れた瞬間高速で左右に回転させる事で摩擦を作り、その摩擦の熱と指の圧力で分厚い壁へと穴をあけたのである。それはコンマ数秒にも満たない一瞬の出来事、穴をあけられた壁にもし意志があったとしても、自身に開いた風穴には気付かないだろう、それほどまでにさりげない、刹那の神技。戦いにおいて鍛え抜かれた王子にはこの程度、造作もないこと。恐ろしく早い刺突、目で追えるものなどいようものか。
開いた穴から中の様子を伺う。部屋の内装は特に弄らず備え付けの家屋などはそのままに、モーティマの私物である斧や身にまとう鎧(肩パッド)などが当りに散らばっている程度。内装に興味はないのだろう、私物が何点か置いてあるのみで、貸し与えられたままの状態といった感じだ。
そんな部屋の隅、机とともに備え付けられた椅子にアンナは腰かけ、白い湯気の立ちあがるカップをモーティマから受け取っている所だった。モーティマは片手に保温効果のある容器を持ち、どうやら何かをふるまっているようだった。
「おう、冷めないうちにさっさと飲めよ」
「ありがとうございます、いただきますね」
アンナが、湯気をたてるカップを口につける。中にあったポカポカの液体が、アンナの喉を通り、コクリと喉を鳴らす。その身体の中に広がる暖かさから、アンナがふぅと静かに息をついた。
「……で、どうよ。お味の感想は」
そういってモーティマは、アンナとは対面にある白いベッドにドスンと腰掛けた。モーティマの重みで、ベッドが沈み込む。
「そうですね……ほんのりと甘くて口当たりも良いですし、凄く飲みやすいです……この香りは何かの香草でしょうか」
「おぉ、よく気付いたな。実は最近、何かに使えるんじゃねーかって、ハーブを育ててみててよ」
「モーティマさんがハーブをですか?」
「あ、あぁん? わりぃかよ」
「いえ、そんな事はありませんが……ふふ、少し意外だなと思いまして」
「……けっ」
そう言ってやんわりと笑うアンナと、拗ねた素振りを見せるモーティマ。モーティマはあんなナリだが料理の腕に確かなものを持っており、最近は食堂でコックに混じり調理する光景を度々見かけることもある。
「あ、気を悪くしてしまったならすみません……ですが、このスープでしたら問題ないと思いますよ。きっと女性にも人気が出るかと思います。近々、食堂にメニュー追加の打診をしておきますね」
「おぉ、助かるぜ」
……なるほど、どうやらアンナはモーティマの新作スープの試飲にお呼ばれしたようだった。そんなに美味しいのであれば、ぜひとも飲んでみたい。食堂の新たなメニューが楽しみだ。
「でよ、実はこんなメニューも……」
「流石にソレは、素材にかかるコストが……」
「あぁん、だったらよ……」
「いいえ、絶対にこっちの方が良いですっ! ……」
「それじゃ味が落ちるんだよ! なら……」
「なるほど……ふふ、それは面白いかもしれませんね……」
その後もメニューの事で話し合う二人。兵士達の日々の囁かな幸せを支える、食という娯楽のため。真剣な表情で、時に笑い合いながら議論しあっていた。
「……それでは、コックの者に伝えておきますね」
「おぅ、悪いけど頼むわ」
……どうやら話はまとまったようだ。ぼちぼちアンナも出てくる事になるだろう。このような盗み見るような様を見られてはなるまいと、その場を後にしようかと考えたが。
「…………」
「…………」
アンナが椅子から立ち上がる気配はまだない。
「…………」
「…………」
沈黙が二人の間に流れる。覗き穴越しのため実際の所は判らないが、部屋の温度が幾らか上昇しているように感じた。暖かいスープと熱い議論の影響だろうか。……そんな沈黙を破ったのは、アンナの方だった。
──ギッ
圧力から解放された木造の椅子が軋む僅かな音を立て、アンナは椅子から立ち上がる。立ち上がったその足は出口へ向かう……ことはなく、対面のベッドに腰かけた、モーティマの左隣に立ち。
──ギギッ
ストンとアンナがベッドに腰掛けた事で、ベッドがより沈み、軋む音。モーティマの隣へと並ぶように、アンナも腰掛ける。そんなアンナを見てモーティマが口を開く。
「……本当に良いのか?」
王子に言葉の意味は判らないが、その言葉は凄く重みを持って聞こえる。そんなモーティマの問いかけに対して、揃えた両脚の上で交差させていた手の平を、アンナはキュっと握り締める。強い決意を秘めたような表情と、その仕草。
「覚悟は……してきましたので……」
アンナはそう告げると、熱っぽく上気した頬と潤んだ瞳でモーティマを見上げた。
次回は本番で最後まで。前振りが長すぎてごめんなさい……。
当人の知らない所で、いつの間にかNTRれていた展開が好き。
でもこれだけだと展開ようわからんので、何があってこーなってるのか。
アンナの視点でも何話か書く予定。