【完結】最愛の真面目な政務官が山賊のお頭と幸せになる話 作:のぶた
※事のあらましをアンナの視点でもう一度
※冒頭モノローグは本編の1話終わりから繋がってると思っていただければ
※エロはもうちょい先で
(……私はどうすればよいのでしょう……)
少し前……自分を寝室へ誘おうと、手を握ってくれた王子の手を、握り返すことが出来ずに別れてから。私は自室に逃げ帰るように戻り、椅子に腰掛け、今日あった事をグルグルと考えていた。
(どうして……私は王子の手を握り返せなかったのでしょう……)
アレは王子からの寝室へのお誘いであったのは間違いない。ずっと、心待ちにしていた筈なのに。
……触れられた手を、私は握り返す事ができなかった。
(……いえ、あれはあの人が悪いんです!)
あの人……頭に浮かぶ、巨漢の、顔をヒゲでもじゃもじゃにした、熊のような大男。
(モーティマさんが、あのような事をさせるから…………ッ!?)
……思い返すと顔から火が出そうな程に熱くなる。王子が私の口元からとってくれたグネグネとカーブした、糸状のアレ……アレは間違いなくモーティマさんの……口元にそっと指をあてる。変な匂いなどはしていなかっただろうか……。
(…………ッ!!)
深く思い出す程に顔が真っ赤になっていくのを感じる。
あのようなものをつけた状態で、王子と向かい合っていたなんて。
(…………はぁ)
椅子の背もたれに肩を預け、再び大きく息をつき、考える。
ひとまず先ほどの糸状のものについては王子は犬の毛だと信じてくれたようですし、王子以外には他の誰とも会っていないはずなので特に問題はないはず。考えないといけない事は、他にある。
(私は一体どうすれば……)
天井を見上げ問いかける。誰かにではなく……自分の心に。
(…………)
視界は思考の邪魔になると思い、ゆっくりと瞼を閉じて思い返す。今日あった出来事の事を。
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──晴れ晴れとした太陽の光がジリジリと地面を焼き、熱された地面から湧き上がる熱気が陽炎を作り、より一層の暑さを感じさせる。そんな日差しの熱い日の昼下がり。
皆さんの力で魔王を討伐して数カ月。かつて魔界に侵食されかけたこの世界も、魔王の消滅と同時に魔界化も治まり元通り……とは言えず、破壊された家屋の修繕や、人の住めなくなった土地に代わって新たな土地の開拓など、やらねばならない事はまだまだ山積みな状態。しかし、ひとまず世界は穏やかさを取り戻しつつありよかったと思います。
よかった……のですが。
「モーティマさん。勝手に飛び出さないで下さいと、何度言ったら分るんですか」
私の心中はあまり穏やかではない。
「あぁん? あんな雑魚大したことねーだろ。討伐できたんだから、それでいいじゃねぇか」
そう言い返す目の前の男、モーティマさんをジッと睨み返す。
「それで何かあったらどうするつもりなんですか! モーティマさんだけなら構いませんが、仲間の皆さんの事も少しは考えてください。大体あなたはいつも」
「ったくよぉ。結局何もなかったんだから、それでいいじゃねぇか」
私の言葉を最後まで聞かずに途中で遮る。どうしてこの人はいつもこう、いつまでたっても変わらず野蛮なのでしょうか。
(はぁ…………)
ふと見ると、右腕に少しの傷があるのが判る。うっすら血が滲む程度の浅い傷で、大した事はなさそうだが。
(全く、そんな恰好だからすぐ怪我をするんです……)
彼は肩に丸い肩当てをつけている以外には、上半身には何も身に纏っていない、ほとんど半裸のような出で立ちだ。そんな事だから些細な事ですぐ怪我をしてしまうし、いつか大きな怪我をするのではないかと心配するこちらの身にもなってほしい。マジマジと彼の半裸を見ると、その胸板は固く厚く、腕などは私の腕の四倍五倍はあろうかと言うほどに逞しい。この丸太程もある太腕に、普段私は……。
(…………ッ!)
変な事を考えている自分に気付きハっとする。
……実を言えば、些細な事で言い合いばかりしてしまう目の前の男と自分は……その……肉体関係を持ってしまったことが……ある。魔王の住まう城への突入を、翌日へと控えた決戦前夜の日。お酒の勢いというか、雰囲気に呑まれてというか、兎に角そんな感じで一夜限りで身体を許した筈……だったのだが。
(もうあれからどれだけ経ったのでしょうね……)
その関係はあの日だけで終わる事はなく、ふと、そういう空気になってしまった際のモーティマさんからの誘いを断り切れずに……彼の自室で……人のこない兵舎裏で……二人きりの医務室で……度々、身体を重ねあってきた。互いに好意の言葉などは口にした事はないし、快楽を享受しあうだけの関係でしかないが。隠れてそのような事を行っているという背徳感が、誰かにバレてしまうかもしれないというドキドキが、それでも見つからない安心感のようなものが。そんなものが私をこの関係の虜にしてしまった。
(いつまで続くのでしょうね……)
だがいつまでもこのままではいられない。元々は王子に求められない寂しさから始まってしまった関係。再び王子に求められたその時、キッパリとこの関係は終わりにしよう……そう思ってはいたが、ついぞ王子に求められることはなく、ズルズルと今まで続いてしまっている。今日もこのあと、もしかしたら……そんな事を考えていると。
「おい、どうした?」
目の前の男からの心配そうな声。
(あっ……!)
ボーっとしていた自分を心配したのだろう。仕事中になんという事を自分は考えていてしまったのか。(えっと、何を言えば……)目の前にいる男への言葉が浮かばずに、逃げるように自分の背面の方にいた筈の王子に思わず振り返る。
「……だから……もう、王子からも何か言ってください!」
ひとまずはモーティマさんを見ない事で時間を稼ごう。後は、適当な事を言ってごまかそう。
話を振った王子の反応を待つ。
「……(こくり)」
首を縦に振り、返事をくれる。戦場においては寡黙(すぎる)王子は、あまり口を開かずに、こうして首の動きだけで意思疎通を行う事が多い。
「はい、そうですか……わかりました」
王子の本当の意図はよくわからないが、首を縦に振ってくれたということは、きっと私の思うように伝えて良いという事だろう。王子へと頷き返し、モーティマさんへと振り返り
「王子も決して危険な独断行動はしないようにと言っています。くれぐれも今後は気を付けてください。王子命令です。絶対ですからね」
そう伝える。モーティマさんからは「えぇ?」「本当に言ってんのか?」などの疑問の声が上がるが気にしない。……あぁそうだ、それと
「……それと、少し怪我をされているようですので治療します。あとで医務室にきてください」
腕の傷の事を思い出す。浅い傷とは言え、化膿などしてしまえば大変だ。念のために治療はしておかないと……。
「あん、こんなもん治癒魔法で一発だろうがよ」
「……モーティマさんが勝手に飛び出して出来た傷に、治癒師の皆さんの力を使わせるつもりですか?」
モーティマさんの勝手で出来た傷に、治癒士の皆さんの力を使わせるなんて無駄なことをさせる訳にはいかない。治療の為に、この後医務室で会う約束を取り付ける。あくまでも治療の為……だってもしも今日、そういう事をしてしまって、もしもの事があったら困るから。
続けたい。