※この作品はR-18です。

【完結】最愛の真面目な政務官が山賊のお頭と幸せになる話   作:のぶた

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※エロ無し


第2話 アンナさん視点

──考え始めてから、気付けばだいぶ時間がたってしまっていたようだ。椅子の背もたれに長く背中を預けていたせいで、少し背中が痛い。

 

窓から見える空は既に完全に日は落ち、代わりに月や星々が淡い光で窓から見える景色を照らしている。

 

「…………はぁ」

 

肺の奥底にため込んだ空気が、自然と溢れてくる。

 

「…………私は何を悩んでいるのでしょう」

 

悩む事など少しもない筈なのに。それでも、モーティマさんに一緒に来ないかと言われたその意味を、考えてしまう。

 

幼い頃から政務官になるべく教育を受け育ってきた自分に、それ以外の選択肢などある筈もない。自分は国に、王子に尽くすためにずっと生きてきたのだから、他の道など……考えれば考える程、何を悩んでいるのかが判らなくなってきてしまう。悩む事などはない、既に自分の人生はずっと昔から決まっている。

 

それでも、考えてしまう。

 

「私に山賊なんて似合いませんよね」

 

モーティマさんと共に行き、山賊となった自分を想像してみる。今のようなフォーマルな服ではなく、動きやいよう簡単な布を纏った程度な身軽な恰好をするのだろうか。ラフな格好で斧を持ち、山を走り回る自分の姿は……。

 

「ふふ、絶対にありえませんね」

 

そんな今まで考えもしなかった自分の姿が面白く、笑ってしまう。やはり自分に山賊など似合うはずもないし、まぁモーティマさんも山賊稼業を手伝わせるつもりで自分を誘ったつもりもないだろう。

 

「となれば、ただの身体目当てですよね」

 

結局の所、そういう事に違いない。軍を抜け山賊に戻った後も、情欲を解消するために都合良く女を抱きたいという欲望から出た言葉に違いない。

 

「失礼な話ですね……私はそんなに軽い女に見えるのでしょうか」

 

頭の中だけで考えていると思考が纏まらないため、独り言がつい増えてしまう。

 

たまたまそういう関係にあった私を誘っただけで、きっと女性なら誰でも良いに違いない。

……けれど、もしそうでなく。誰でも良いのではなく、私を求めているのだとしたら?

 

(一緒に来ないかとは……プロ……そういう事なのでしょうか……)

 

その言葉を口にしてしまうのは恥ずかしく、頭の中だけに留める。彼と一緒に生きていく事など出来るのだろうか。

 

モーティマさんの行動に、一体何度苦言を呈したか覚えていない。物心つき政務官としての道を目指した私は、自分の意志は潜めて人々の為となる判断を下し、立ち居振る舞いも礼節を忘れる事のないようにと教わり生きてきた。あまり自由はなかったのかもしれないが、自分の選んだ生き方に誇りを持っている。後悔などは決してない。

そんな私とは対照的に、彼は自分の意志を隠すようなことはせず、やりたいことをやり、言いたい事を言う。大口を開けて笑い、大声で酒を飲み、礼節とは無縁のような振る舞いばかりをする。彼の自由な生き方は、私とは無縁のものだ。馬が合うはず等ない。

 

……けれども、立場上普段は気を張ってばかりいる自分が、気を遣う事なく話せる数少ない相手なのは間違いない。彼の無茶につい小言を言ってしまうし、私の心配を他所に言い返す彼にムっとして、更に言葉を重ねてよく喧嘩になってしまう。些細な意地悪を返してしまう。そんな自分を取り繕う必要のない相手との関係に、どこか心地よさを、安心感を感じていた。

 

(まぁ……嫌いな訳はないですね……)

 

そもそも嫌いな相手であれば、今のような関係になっているわけもないし、悩む事だってなかった。

 

もし……もしもだが、私が彼の伴侶になったとしたら。彼の子を産み育てる日も来るのだろうか。アレで本人の性格の子供っぽさもあり子供に受けが良いようですし、料理も上手なので、案外良い父親になるのかもしれない。

 

(もしこの後、モーティマさんの部屋に行ってしまったなら……)

 

身体が……特に下腹部の当りが少し熱を持ったように熱い……って。

 

「わ、私は何て事を考えて……そんなことありえません!」

 

変な事を考えていた思考を、頭をぶんぶんと振って振り払う。

 

「はぁー…………」

 

また深いため息が勝手に出てくる。どうしてこんなにも悩んでしまっているのか、自分でも本当に判らない。もういっそ、誰かに決めて貰えれば……ふと、一人の顔が浮かんでしまう。

 

(もし私が王子の元を離れると言ったら……王子は、何と言うのでしょうか)

 

ずるい考えが浮かんでしまう。こんな時でさえ私は自分の意志を隠し、その決定を他者の意見に委ねようとしている。

 

(引き留めて……私を必要としてくれるのでしょうか)

 

そうであれば、話は早い。望まれるままに国の為、王子の為、政務官を続けていけば良い。それが私の今までの生き方なのだから。ずっと昔から決めていたことなのだから。

 

(けれど……)

 

……王子が私を必要としていないのであれば、私は違う生き方を選んでも良いのかもしれない。このまま王子への想いを抱えたまま王子の傍に居続けるのは、きっと辛い。私を必要としてくれる人の傍にいてあげたいと思えてしまう。

 

(我ながら卑怯な考えですね……けれど)

 

このままここで椅子に座りつけていても、時間が過ぎて行くだけで良い答えは出せそうにもない。私は王子に会おうと決めて、部屋を出た。

 

======================

 

(執務室で一体何をしているのでしょう)

 

今の時間なら王子は私室にいるかと思ったが、向かう途中に執務室の明りがついている事に気付き、私は執務室へと足を向けた。

 

(もしかして、まだお仕事が残っていたのでしょうか……)

 

そうだとしたら、王子の仕事を放って一人悩み惚けているなど、私は政務官失格だ。けれども、もしかしたら……。

 

(……私を待ってくれているのでしょうか)

 

思えば王子の寝室への誘いを断り、執務室から逃げ出すように出てきてしまったんだっけ。もしかしたら、私が戻ってくるかもしれないと、未だに執務室に残っているのかもしれない。

 

(もしも、もう一度求められたなら……)

 

先ほどは、モーティマさんとあのような事をしたあとで、王子がアレを指先でクリクリしていたから動揺してしまって、だから……あの手を握り返せる程に、胸がドキドキと高鳴ってはくれず、断ってしまったけれど。

 

思えばソレは、私がずっと望んでいた事ではないか。王子にもう一度求められる事があれば、モーティマさんとの関係はやめると決めていたことではないか。

 

(もう一度求めてもらえるのなら、私は……)

 

一歩一歩執務室へと近づくにつれ、いつかのように、胸がトクトクと鼓動を打ち始める。執務室までは、もうあと1メートル程という所──

 

──キィッ……

──……パタッ……

 

不意に、部屋の扉が物音を立てないようにそっと静かに開き、部屋の中から女性の姿が現れ、また音をたてないようゆっくりと扉を閉めた。

 

(あ…………っ)

 

彼女を見ると同時に、脈打ち始めた胸の鼓動は嘘みたいに落ち着きを取り戻し始めてしまう。まだ、そうと決まったわけではないのに。

 

部屋から出てきたのは、綺麗な金色の髪を頭の左右でツインテールに束ねた少女。癒し手のイーリスさんだった。部屋から出てきた彼女もこちらに気付いたようで、ペコリと可愛いお辞儀をした後、小声で私に話かけてくる。

 

「あ……こんばんは、アンナさん」

「こんばんはイーリスさん……こんな時間に何を?」

 

幾ら王子であっても、私がダメだったから次の女性等というほど、節操がない事はないだろう……と思いたかった。もしかしたら、何か他の用事があったのかもしれません。

 

「えっと、私は借りていた本を返しに来ただけなのですが……あ、そうだ……今はお部屋に入らない方が良いかもしれません。王子、私が部屋に入ったのにも気づかないくらい、凄く集中して作業されているようでしたので」

 

作業……何かお仕事が残っていたのでしょうか。

 

「まだお仕事が残っていたのですか……そういうことでしたら手伝わないわけには……」

 

ドアの取っ手に手をかけようとすると

 

「あ、ま、まってください。その、お仕事中ではなかったのですが。なんといいますか……」

「…………?」

 

イーリスさんが慌てた様子で静止する。そんな彼女を見ていると、何となくの察しもついてきた。

 

「えっと……私の気にしすぎかもしれませんが、その……執務室で遊んでいた事などを、王子はあまり知られたくないのではと思いまして……」

「…………なるほど、そういう事ですか」

 

つまるところ、王子はおそらく私と別れた後、訪れたイーリスさんを誘って夜遊び……つまりそういう事をしていたのだと。だから部屋には入らないほうがよいと……。

 

「あ……ぁ……っ! あ、あの、遊びと言っても、誤解しないでくださいね。その、トランプで遊んでいただけですので。あ、あぁ、言ってしまいました……あの……やっぱり怒りますよね。執務室でトランプ遊びだなんて……」

 

考えていた事が顔に出てしまったのだろうか。そんな風に慌てながら言い繕う姿がとても可愛らしい。まったく、女性にこのような気を遣わせるなんて……今度やんわりと、もっと場所等は気を付けていただくよう注意しないと。

 

とりあえず今は、口を滑らせてしまったというように申し訳なさそうにしている彼女を、これ以上困らせる訳にもいかない。ここは彼女の話に合わせた方が良いでしょう。

 

「いえ、怒ってなどいませんよ。息抜きも大切な事ですからね……そういう事でしたら、今はそっとしておきましょうか。私の用事は、もう済みましたので」

「よ、よかったぁ。アンナさん、真面目だから怒るんじゃないかって、心配しちゃって」

 

私、そんなに真面目に堅苦しく見えているのでしょうか……。

 

「それでは、私はこれで失礼しますね。おやすみなさい、アンナさん♪」

「はい。イーリスさんも、おやすみなさい。良い夢を見られてください」

 

ペコリとお辞儀をし、可愛らしいツインテールを揺らしながら去っていく彼女の背中を、手を振って見送る。彼女の姿が見えなくなった所で……

 

「ふぅ…………」

 

ため込んでいた息を吐く。

 

(やはり私は、王子にとって、必ずしも必要という事はないのですね)

 

それに気付いてしまったなら、もっと傷つくものかと思ったが。動揺するものかと思っていたのに。けれど、意外な事に心は随分と穏やかなままだった。それに、ここに来る前よりも随分と心が軽くなった気がする。

 

(王子に尽くすのは、私である必要はないのですよね)

 

自分がいなくなった所で代わりはすぐに見つかる。私は結局その程度でしかない。だったら……

 

(私は私を必要としてくれる人と共にいたい)

 

そう思った。最後にもう一度だけ、胸に手を当ててみる。

トクトクと鼓動が動いているのを感じる。もう間違いなかった。

 

(……挨拶はしておいたほうが良いですよね)

 

そう思って扉の取ってに手をかけて少しだけ開いてみたが、

 

(いえ、今はやめておきましょう)

 

バタンと音を立てて扉を閉める。中からバサバサと何かが崩れるような音がする。本でも崩してしまったのだろうか。驚かしてしまったのなら……少しだけ良い気味かもしれない。

 

(ありがとうございました……王子)

 

心の中でお礼を言いながら、扉に向かって深くお辞儀をする。しばらくして頭を上げ、私を待ってくれているだろう人の元へと向かう事にする。本当はじっくりとお風呂に入ってから向かいたいけども……あまり遅くなると、眠ってしまうかもしれない。急いでシャワーを浴びて向かわないと。

 

 




またエッチがないのに無駄に長いものに……。
ようやくあとはエッチだけでオチまでいけそうなので
あと少しだけお付き合いいただけますと幸いでし。
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