左目は見えるのか、その言葉に獣人はかぶりついていた肉を口から落としそうになった、目の前の食べ物に気を取られて自分の体が動くことに違和感を感じなかったのだ。
目の前に相手に何か尋ねようとしたが自分は声帯を切られ、いや、潰されているので声が出せない、伝える事ができないと思ったが。
(補助機能、オペレターとの接続、異常なナシ、エネルギーの循環経路を補強する必要アリ、今の状態では)
突然、頭の中に響いてくる声に獣人は驚いた。
「あなたは、一体、誰、あっっ」
疑問が口から出てきた、いや、驚きもだ、声が出た、すると目の前の相手はにっこりと笑った。
「体が動くみたいだな、無理な部分はジェニファー」
「主様、私が」
「繋がる事は」
「可能です、ですが」
「彼の意識をダンジョンと直結させる補助もだ、情報の共有路パイプを大きくする必要があるからな」
「信用できますか」
「おまえには私の護衛に徹してもらいたい、向こうから来るぞ」
楽しそうな声にジェニーナは視線を向けた、馬に乗った二人の男が近づいてくる、甲冑を身につけているので兵士だろうと思える、体格もいい。
「廃棄奴隷の獣人を持ち帰ったのは、おまえ達か」
馬の背から降りた騎士が声をかけるが返事はなかった、ただ、獣人は騎士の方を見ただけだ。
話しかけるが返事がない事に騎士はいぶかしげな表情を浮かべた、無視されたのかと思ったようだ。
「なんのことでしょう」
言葉を発したのはジェニーナだ、この時、騎士は自分たちに視線を向けている獣人を見た、毛並みは艶やかな黒だ、しかも左目は義眼のようで廃棄されていた奴隷とは見えない。
「おまえ達は、この国の者ではないな」
通行、旅券が必要なのか、いや、違うと即座に判断したの瞬時にダンジョンからの呼びかけを受け取ったからだ。
用があるなら受けたまりましょうというジェニーナに騎士は怒った表情で答えた。
「おまえにではない」
視線は獣人へ、そして向かいに座っている相手へと向けられた、だが、それを遮る様にジェニーナが答えた。
「我がマスターは無粋な輩と話されるのは好ましく思ってありません、不快です」
そのとき、獣人が立ち上がると騎士の前に立った、視界を遮る形でだ、どけと騎士は獣人の体を押しのけようとしたが、その体は動かない、いや、微動だにしないのだ。
動くナ、そのまま、ただ、立っているダケでいい。
獣人の頭の中に声が響いた、どちらにしても自分の運命は、この場にいる二人と頭の中に響いてくる声に委ねるしかないのだと
報告を受けた白の魔法使い、術士達は騎士達の報告に困惑した、数日前に感じた異変を
確かめるために騎士を街へ送り出したのだが、結果は、これだ。
騎士達は無傷、だが、その表情を見れば分かる、負けたのだ、それも一人の獣人に。
「まあ、よろしいではないですか」
一人の魔術使いが怒る男に落ち着かれてはと声をかけた。
「これは兆し、前兆かもしれません」
「まさか、この国がどうにかなると、奴隷達が」
「崩壊は突然、起こっても不思議はありませんからね」
男は、にっこりと笑った。
「奴隷が悪いというわけではない、扱いの問題だ、それにしても獣人を人が隷属するとは」
獣人は目の前で機械人形の入れた茶を飲む相手をじっと見つめた。
どうしたいと言われて、すぐには言葉が出てこなかった、自分は奴隷を辞めたいと思っていた、自分より小さな子供達の隷属している姿を見るのも嫌だった。
「人間は、いや、この国、危ういかもしれんな」
「亜種が出ても不思議はありません」
「時期を待っているのかもしれん、突然の出現は震撼させるという」
「人をですか、それとも世界を」
「忙しくなるかもしれない、ジェニーナ」
にっこりと笑居ながら機械人形は視線を獣人へと向けた。
「貴方にも手伝ってもらいます、あっ、ところで貴方の名前は」
このとき獣人は自分が番号で呼ばれていたことに、名前を知らないことに気づいた。
「では、クラウというのはどうだ」
「マスター、まずくないですか、死んだとはいえ」
ジェニーナの言葉にくつくつと笑いながら案外生きているかもしれないと低い呟きを漏らした相手は帰ろうかと席を立った。
そして、この夜、異変は起きた、奴隷商人の館で。
数人の獣人が閉じ込められていた檻から逃げ出したのだ、それだけではない。商人達を。
そうして、この国の変革が始まった。