「ん゛ー! んん゛ーっ! ――っっ゛!」
その屋敷の一角に響くのは、ベッドが揺れる音であった。それに混じるのはくぐもった声と粘膜が擦れる卑猥な水音。そして、震える肩口に唇を寄せる男の声である。
「またイッたか。これで何度目だ?」
「っふ……! ぅう゛っ!」
肩越しに振り返る女は、きつく男を睨みつけた。口を塞がれ、涙に濡れる瞳でも、諦めを宿していない。強い眼光に男は目を細め、女の目尻を舐めた。
「――リリア」
「っ! ん……ん゛っ!」
男は女――リリアに覆い被さりながら、後ろから攻めている。何度も何度も熱を穿ち、何度もリリアの果てるその姿を目に焼きつけていた。そしてまた緩く穿てば、リリアの躯が跳ねる。
いくら嫌で嫌で眉を寄せながらでも、リリアはそれを受け入れるしかなかった。抵抗などできないように後ろ手に縛られているのだから。しかもタオルで口も縛られてしまえば、拒絶の言葉も言えやしない。
「ふ……、ぅう……っ」
「さっきから締めつけがすごいな……。そんなに離したくないのか?」
そんなわけあるかと睨めば、男はまた涙を舐め取っていく。まるで味わうかのように。
「リリア」と耳元で囁かれる声に、芽生えた復讐心が煽られる。殺し損ねたコイツを、いつか殺してやると。組み敷かれて諦めてしまったリリアだが、蘇る黒い感情が諦めを吹っ飛ばしていた。
殺してやらなければ気がすまない。殺したあとは自分も死ぬ。それがリリア・エアリーが思い描く未来だ。
奥歯を噛みしめながら快楽に飲まれまいと堪えるのも、未来を信じているから。しかしそれでも、ぐっと腰を引かれながら奥を突かれれば、リリアはくぐもった声を上げていた。
「――ふ、ぐうぅう゛ぅ……!」
「リリア、お前は――」
果てるリリアに男は何事かを囁く。最後まで聞き取れないのは、リリアの気が失われたから。限界を越えた陵辱には堪えられなかったのだ。
□
リリアはリリアとして――女として生まれたわけではない。元は男であり、立派とは言いがたいがついているものもついていた。リリアは
なぜ自分なのか。もっといい人がいるではないか。
リリアは長い間悩み、苦しみ、憎み、次に会ったら殺そうと決めていた。――この王都『第八区』で。ここに生きる者はみな、王族の戯れのために生かされている。男も女も子供も差はない。嬲られるか殺されるかのどちらかだ。恐怖政治の延長と言えばいいのだろうか、第八区は見せしめのためだけにある。
学園に通っていた時でさえ、理不尽だと感じていたのだ。王族といえど、やり過ぎではないのかと。だが、平民でしかないリリアでは、なにも言えやしなかった。
リリアが学園に通えていたのには理由がある。この大国『リゼバウロ』の西方に位置した隣国、平和主義を謳う中立国家『マゼーリア』にある『マゼーリア学園』は、あらゆる学問を学べ、才があれば王族や貴族や平民――爵位や階級に縛られることなく入学できる学園であったからだ。しかしそれでも、やはり上の者はそれなりに優遇されていたのだが。特に王族ともなれば、優遇処置は大きい。
リリア自身は人並みであり、大それた才は持ち合わせていなかったのだが、なぜか入学案内が届いたのだ。試験など受けたことがないというのに。疑問はあったが、それでもせっかくなのだからと、家族は温かく送り出してくれたのだ。
入学式に爆睡してしまったのは緊張で眠れなかったリリア――このときは男であったリクア・エアリーの不徳の致すところであるが、隣に座り肩を借りていた男が遊学に来ていた第四王子であるエンディス・クロージスだとは思わなかった。
入学式が終わったそのときに目が覚め、周りも教師も真っ青であったことが懐かしい。肩口に涎の痕を見つけてしまい、必死に謝り倒したが、エンディスからの言葉はなかった。ただ、じっと目を閉じていたのだ。
恐る恐る「あの……」と声をかければ、灰色の瞳が現れる。目を擦る仕草から察するに、どうやらエンディスの方も寝ていたらしい。しかし、周りの青さは変わらないままのようで、エンディスが「おはよう」と言うまでは生きた心地がしなかった。思わず「おはようございます」と返したリリアに微笑みが返されたのだが、極度の緊張から解放されたお蔭でリリアは特に気にも止めていない。
寮ではなぜかエンディスと同室になるように言われ、決まっていた部屋から移動させられしまったが、優遇の
平民と王族が同じ部屋で過ごすこととなり、幾度となくあらぬ噂が立てられたが、それも一緒にいるうちに消えていった。エンディスは傍若無人であったが、朝は起こしてくれたり、昼は「買いすぎた」などと言って昼食を奢ってくれたり、夜は鍛練につき合ってくれたりと、リリアにだけは優しさを見せていた。
固い友情を育み、卒業式を終えたその日――リリアは残酷な方法で裏切られてしまう。エンディスに呼び出された王城の一室で、嬲られて首をはねられたのだ。
そのときの言葉をいまも覚えている。
『お前が誰かのものになるのは辛い』
そこにあったのは確かに苦しそうな顔だった。だが、その誰かとともにする未来を祝福することはできなかったのだろうか。誰かとともにする幸せを、願えなかったのだろうか。
首に添えられた剣の冷たさも、忘れてはいない。
エンディスが贔屓にする魔術士――共通の友人――の手により、すぐに王都第八区の南方にある家――つまりは自分の家である――の長女として転成させられてしまったリリアは、ずっと待っていたのだ。エンディスを殺す機会を。
リリアは転成や転生魔法には詳しくないが、教科書に書いてあったことをまとめると、転成魔法の場合は魔力の消費量に応じて好きな年代になれるらしい。転生魔法も転成魔法と同じではあるが、だいたいは魔力消費の少ない赤子からとなる。転成や転生をするときには活動に支障が起きないようにと記憶も消される手はずだが、リリアは記憶を受け継いだ。なにをされたのか事細かに。
教科書に載っているといっても、ふたつの魔法は誰もが使えるというわけではない。秘術の紹介という形で文章のみで載っていただけであり、魔法陣は魔力が多い者――王族か国家資格たる魔術士にしか伝わっていないのだ。もちろん、悪用した者にはそれ相応の処罰があるのだが、秘密裡にしたことで処罰から逃れることができたのだろうと容易に想像がつく。まさか友人同士が結託しているとは思わなかった。
なぜもう一度同じ家に生まれ変わるようにしたのか。温情だろうか。それとも、意地の悪さからだろうか。どちらにしても、リリアには憎しみの感情しか湧かなかった。いくら周りの認識が女の子であり、なんら苦労がなかろうとも。察するに、リリアが男だと知っているのは友人ふたりとリリア自身だけであろう。
王族たちが第八区に来るときには、花火が上がる。それは逃げ惑えとの合図であり、住人たちは震え上がるしかない。しかし、リリアがエンディスに捕まったのは、その前だ。夜のうちに家に来た近衛兵たちに連行されていった。家を出るときには、戸惑う家族に向けて安心させるように『大丈夫だから』と笑みを浮かべたのは当然のことだろう。この愛しい人たちにはもう会えなくなるのだから。最期は笑顔で。そうすれば、表面上は悲しくない別れになる。
リリアが連れてこられたのは、第八区の中枢にある屋敷であった。ここは王族が来るときにのみ解放されており、ほかのものより作りからして違っている。二階建てのなかに建てられた三階建てという大きさで、外観からして豪華そのものだ。
二階の一番奥の部屋に通されれば兵が引き、ふたりきりにされてしまった。――これは絶好の機会だと、リリアは息を飲む。
『お前が来ないから、俺から来てやったぞ』
目の前、黒い革のソファーにふんぞり返るエンディスは、口端を歪めながらそう放つ。自分には出せない重低音の美声で。後ろで結わえている長い灰色の髪が肩から垂れ、同じく灰色の瞳が細められたのを確かに見た。
怒りに躯が震えたが、足に仕込んだ隠しナイフをどうにか取り出す。刺し殺そうと突進したが、床へと簡単にねじ伏せられてしまった。
『ぐっ……!』
『残念だったな、リリア。お前の考えなら解っている』
馬乗りになるエンディスを睨みつけるが、難なく傍に落ちたナイフを拾い上げる。『返せ!』と叫ぶが、ふんと鼻で笑われてしまった。
『少し錆びついているな。これでは殺せないぞ。殺すのなら――これくらいは研がないとな』
一瞥してそれを投げ捨て、腰に提げた短剣が鞘から抜かれる。光輝くそれに、リリアの顔が映し出された。唇を噛みしめた悔しそうな顔が。
『オレをどうする気だ……っ』
『どうもこうもない。身体検査だ、リリア』
『――っ! や、めろ……! ふざけるなっ』
切っ先が服の端にかかる。嫌だと暴れても叫んでも、無情にもそれは引き裂かれていった。露になる白い肌にエンディスは生唾を飲む。しかしすぐに口端を上げ直し、今度は肌着へと剣先を添えていく。
『お前が他の男と繋がっていないか、俺が確認をしてやろう』
ぐっと力を込めればブラジャーの中央部が裂け、胸を支えていたものがはらりと脇に落ちる。締めつけられていた双丘が揺れるのを眺めながら、エンディスは短剣をそこに宛がった。切りつけるためではなく、剣身の腹を添えたのだ。
『冷たっ』
『表面上はなにもされていないようだな。キスマークが消えたあとの可能性もあるが』
『きっ、キスマークなんてつけられるわけないだろっ……。っ……、嫌だ、やだっ』
剣身の冷たさか、恐怖からか、震えだしたリリアを意に介さず、エンディスは片手で胸を揉みしだく。残る片手では剣身を動かし、先端を転がしていた。
『ずいぶんと大きいな。誰に開発されたんだ? 何度揉まれた?』
『ふざけんなっ……、いますぐにやめろよっ』
『やめるわけがないだろう。早く答えろ。少し弄っただけだが、固くなってきたな。この状況で感じているのなら大したものだ』
『そんなわけないだろ!』
つんと立ち上がったピンク色の先端を強く摘ままれ、『ひっ』と小さな悲鳴が漏れる。
『いっ、痛いんだよっ! 触るならもっと優しくしろ』
『その軽口がいつまで持つか
『か、いはつなんてされてないしっ! 誰かに、揉まれてもない……! そんなのっ、されるわけがないだろっ! オレはっ、お前を殺すために生きているんだからなっ』
『リリアには俺を殺せない』
『は、あ……?』
『お前は殺せない』
大きく口を開けながら茫然とするリリアの頬をエンディスは撫でる。
『信頼する奴でも、牙を向いたら殺せと俺は教わってきた。だが、お前はそういう家庭に産まれたわけではない』
『殺せる、殺してやる……!』
『そうか。なら、いますぐに殺れ』
憎しみの目を向けた先、先端に当たる短剣が外され、手に握らされる。そうして軽々と躯を起こされたあと、脇腹にそれを宛がわれた。エンディスの手のなかにリリアの両手が隠れ、見下ろす灰色の瞳が細められる。
『リリア』
『っ……』
この男は、殺されてもいいと思っているのか。殺したいとは思っても、殺しかけたとしても、実際に刃先が肉に触れるのを見ると怖くなる。
『手が、動かない……』と絞り出した声とともに否定するように頭を振るリリアに対し、エンディスはため息を吐いた。震えだした手に気づいて、握っていた手を離してやれば、短剣がするりと落ちていく。高い音を立てて床に落ちたそれを気にも止めず、青くなるリリアを抱き寄せて囁いた。
『お前は殺せない。誰も殺めたことがないからな。だが、それでいい。リリアは血に染まる必要はない』
荒い息を吐き出すリリアの唇を撫でたエンディスは、そのままゆっくりと唇を塞ぐ。目を丸めたのは一瞬で、『ふざけっ、なっ』と引き剥がそうと懸命なリリアの手首を掴み、その場に押し倒した。『――くっ』と背中から走る小さな痛みに顔を歪ませるリリアとは違い、エンディスの方は口元を緩めている。
脇腹を撫でるその手は少しばかり冷たかったが、瞳には色濃く情欲が滲み、リリアのなかでふたたび恐怖が走った。いまから身体検査と称して犯されるのだ。恐怖以外の何物でもない。だが、この男に、二度目を許してなるものか。
首筋にかかる吐息に肌が粟立ち始めるが、それでもリリアは手に力を込め、腕から逃れようと必死だった。床に縫いつけられようとも。
『っ……、くそっ! エンディスっ』
『殺しておいた方がよかったと、後悔しても知らんぞ』
『もう後悔した』
押さえつけられた腕さえも上がらない非力さに、リリアは打ちひしがれる。エンディスがリリアをリリアとしたのには、こういう意味も含んでいるはずだ。力では敵わないと思い知らせるために。
『そうか。それは可哀想にな』
悔しそうに唇を噛むリリアの涙を舐め取れば、『嫌だ!』と紡いで顔を背ける。暴れ始めたリリアを押さえ込みながら着ているものを剥ぎ取ってうつ伏せにさせ、取り外した自身のベルトでがちりと腕を固定した。
ベッドへと運ばれる間もリリアは負けじとエンディスを睨んでいるが、本人はどこ吹く風だ。足をばたつかせても眉を寄せるどころか、キスをしてくる始末である。
『ふざけるなっ! こんなことしてなんになるんだよ!』
『俺が満たされる』
『はぁ!?』
『どういうことだ』と声を荒らげるリリアをベッドに放り、エンディスはその背後から覆い被さった。『これではなにもできないな』とリリアの腰を持ち上げ、突き出すような格好にさせる。『やめろ!』と叫ぶ声を無視して足を開いてやれば、自らねだるようにも見えてしまい、下半身に熱を帯びた。そんなうつ伏せ状態のリリアのうなじへと手を伸ばして柔らかな髪を払う。
『リリア』
『触るなっ……!』
鼻を啜る音が聞こえるが、エンディスは聞こえないふりをしてうなじに唇を落とし、舌を這わせた。ともすれば躯がぴくりと跳ね、リリアが振り返る。
睨んでいるようだが、涙に濡れた瞳でそんなことをされても、それはもう誘っているようにしか見えない。いくらリリアが『触るな!』と叫ぼうが、堪えることは厳しいであろう。だから――噛みつくように口づけるのも道理である。
『っ、ぅ! んっ!』
震える白い肌に細い四肢。膨らむ胸の大きさは片手に余るほどであり、艶かしいほどに『女』だった。醸し出される色気が凄まじい。
これが第八区に留まったままでは、ほかの者になにをされるのか解ったものではない。早急に自分の傍に置かなければ、いつか好意を寄せる者が現れるかもしれない。そしてリリアは、自分以外に惹かれてしまうかもしれない。そんなことになれば、リリアしか求めない自分は確実に精神をやられてしまうだろう。
身体検査に
『や……、め、りょっ!』
叫べば、口元を繋ぐ糸がぷつりと切れていく。誘われるように唇を舐めれば、リリアの吐息が舌を濡らしていった。涙に濡れた瞳はなんと美しいことか。
『なんで、こんなっ……』
『身体検査だ』
『ひゃ、らっ!?』
口づけながらシーツと押し潰された胸元の間へと手を差し込んだエンディスは、ふたつの双丘をすぐに揉みしだいた。形を変えながらも、指が吸いつくようなその感触に歓喜する。
『ん、んっ』と耐えるリリアの声で下半身は熱くたぎっていく。押しつけてやれば嫌々と頭を振り、『ふ、ざけんな……っ』との言葉を紡ぐ。リリアがそういう態度ならばと、胸の先は優しく撫でてやることにした。
『ん……や、エンディス、い、やだってっ』
『本当に開発されてないか? お前は、誰にも抱かれていないんだな?』
『ほ、とにされてな……い。抱かれても、いない。し、んじて、くれ……、信じて』
そう紡ぐ唇をまたもや舐めながら、同時に先端を軽く引っ掻いた。指の腹で撫でていたそれは固くなっていき、リリアの顔も赤みを増している。
『……や、ぁ、信じてっ、お願い、信じて』
二つの指が先端を摘まみ、ぎゅっと潰す。そうされれば痛みと痺れが走り、『きゃうっ!』と女のような声が出てしまった。信じられないと言うようにリリアはその目を見張り、『嘘だぁ……、なんでだよぉ』とさらに涙を浮かべ始める。
エンディスは自身の言葉を信じてはいないようだ。その証拠に、指が増えているように思える。二本であったものが三本に、そして執拗に愛撫されているようだ。しかしリリアには男性経験はない。ただの一度も。そうすることは、エンディスに陵辱されたことを嫌でも思い出してしまうから。だから色恋などにはなるべく関わらないようにしていたし、男とは友人として接する以外の選択肢はなかった。
『ひぅ……っ、エンディス、も、やめろってばぁ!』
指先から逃れるように躯を捩ろうにも、この状況で巧くいくはずもない。硬度を増していく熱を感じるだけだ。
『信じて……』
唇を塞がれたリリアは胸部から広がる熱に浮かされつつ、信じてもらえない自分にまた涙する。ポロポロこぼれる涙を舐め取るエンディスは『少しは疑ったが』と艶っぽい声で前置きをしてきた。
『リリアが言うのなら、本当のことなんだろうな』
『あ、ふ……っ、じゃ、なんれぇ……?』
口づけられて触れ合う舌先が離れていくと、口端からあふれる唾液がぽたりとシーツに伝い落ちた。だらしなく開いた口から伝う唾液を躊躇うことなく舐め取るのは、リリアの体液だからだ。頬に流れる涙もまた舐めてやる。
『俺が触れたいからだ。それが全てで、それ以外の理由はない。だからリリア、もう一度俺に抱かれろ』
まただ。エンディスはふたたび自分勝手に抱く気だ。――あのときのように。
『リクア、俺に抱かれろ』
『――は?』と目を丸くさせるその一瞬に押し倒された。意味が解らないままに。暴れても叫んでも、敵わなかった。拘束されてしまったのだから。
――もしやふたたび殺されるのだろうか。その考えに、リリアの顔は赤から青へと変わっていく。
『殺す……? オレ、を犯して、またっ、殺すのか……?』
『あるわけないだろう。俺はもう二度と、お前を失うつもりはないからな』
吐き出される言葉とともに何度も先端を潰され、『っ~~!?』と声にならない声を上げる。エンディスは乱れた吐息を漏らすリリアに囁いた。
『逃げられると面倒だからな。足腰を立たなくしてやろう』
――そこから始まった陵辱は、リリアの体力も精神も奪っていった。憎いという黒い感情が蘇るくらいには。
予め用意したタオルで口を塞いだのは、声を聞かれたくなかったからだ。この部屋の防音は緩い。だからリリアの嬌声が外に漏れることは、簡単に想像がつく。そしてそれに悶えるであろう近衛兵の姿も。
リリアの声は自分だけが聞く。ほかの者に聞かせるくらいなら、いっそ塞いだ方がまだいい。嫌われようとも。
拘束を解いた四肢を投げ出して横になるリリアは眉間に皺を刻んでいた。頬に垂れる横髪を指で梳いたエンディスは、その顔に柔らかな笑みを浮かべている。
「リリア」
こめかみに唇を落とし、瞼や頬、そして柔らかな唇へと辿り着く。
色白な細い指に自身の
けれど、どうしようもできないのだ。この思いだけは――。
「お前は誰にも渡さない。一生を俺の傍で過ごすんだ」
「リリア」ともう一度紡ぐ優しい声は、口づけとともに消えていった。