試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【18禁版】 作:珍歩意地郎_四五四五
(一 同):わ~~~~(パチパチパチ
「詩 愛」:でも、これからどうなるのかしら?
すこし私の扱いがおろそかになっているような……。
『美 月』:詩愛サンはアタシとご主人サマの結婚式まで出番ナシ!
「詩 愛」:ギロッ!
『美 月』:ヒィッ!
「詩 愛」:詩愛サン、じゃなくて「お姉ぇちゃん」、でしょ?」
『美 月』:だって。血の繋がってないことがワかったし――ご主人サマ盗ろうとするし!
「詩 愛」:アナタ“まだ”高校生じゃないの!
『美 月』:アタシ“もう”高校生だよ?一人前のメス人形――じゃない“女”だモン!」
(黒エナメルなバニーガール姿の白いふわふわシッポをフリフリ♪)
【バンディ】:ヒトの立ち位置は、状況によっテ遷ろいやすいものデス。ましてやヒトの心をや。
『美 月』:……だれ?
「マイケル」:あぁ、スマんスマん。オレのトラックの新しいAIだ。
【バンディ】!ご挨拶しろ。
【バンディ】:詩愛さま、『美月』さま。
お美しいおふたりと、お近づきになれて幸甚至極に存じます。
『フクロウ』さまにおかれましても、なにとぞ宜しく。
「詩 愛」:あらお上手。マイケルさんの相棒なんですのね。でもたしか【SAI】とか……。
「マイケル」:アレは……まぁ、とにかくイロイロあったんだ。
【バンディ】:私の前任者デスね?感覚が制限されているのデ知覚ができまセン。
「フクロウ」:いよいよトラックも自動化ですもんねぇ。この先、どうなっていくのか。
「詩 愛」:“この先”といえば、このお話は今後どうなるんでしょう?
「マイケル」:意外と長いよな。コンゴ傭兵編も、まだ終わってないし。
【バンディ】:『黒い轢殺車』との因縁モ、まだ書かれていまセン。
「詩 愛」:アタシとご主人サマのハワイでの結婚式も!
「フクロウ」:ボクって、やっぱりニートの末に“殺処分”されちゃうのかな。
「詩 愛」:……そういえばチラって聞いたんですけど。
私が“無残に死ぬ”って話、ウソですわよね?
(一 同):(重い沈黙)
(ややあって、『美月』が作ったような明るい声で)
『美 月』:やった~♪ドロボー猫死ぬんだ~!……ひゃ、ひゃへほぉぉぉォォ!
「詩 愛」:(『美月』の口を両側からグニグニ引っぱりつつ)
そんな淫らな格好して!お姉ぇちゃん恥ずかしいですよ!?(ニッコリ
「フクロウ」:マイケルさんの宿敵との対決もあるんでしょ?(やんわり詩愛の制裁を止めつつ)
「マイケル」:ヤツだけは、何とかしないと。しかし、なぁ?
『美 月』:ほうだよ!
「小 男」:どうもお招きに与りまして。へへ……お二方、いつもお美しい。
『美 月』:あー!ちびピエ……(ウププ)
「詩 愛」:……どなた?
「マイケル」:ホラ、美香子が『美月』って源氏名で出ている例の店のオーナー。
「詩 愛」:まぁ。妹がいつもお世話になっております(深々頭をさげて。
「小 男」:これはどうも、ご丁寧に……いやしかしお美しい。聞けばOLさんとか。
「詩 愛」:えぇ。しがない勤め人ですわ。
「小 男」:これはしたり!勿体ないですなァ、貴女のような美女が!
……当店に、いかがです?お給金は、ハズませて頂きますぞ?
「マイケル」:この子はフロアレディに向かないよ。心根がキレイすぎる。(アセアセ
『美 月』:なによゥ、ご主人サマ!じゃナニ?アタシはココロがキタないとでも?
「フクロウ」:そんなことないよ!美香子さんはココロの優しい、イイひとです!」
『美 月』:なっ、ナニよ!アンタなんかに褒められたって……アリガト(ゴニョゴニョ
「小 男」:どうも作者が【玲瓏の翼】の続編を書きたがっているみたいですねぇ。
『美 月』:なっ!アタシたちの結婚式を終らせてからにしてよね!?
「詩 愛」:だいたい、いまお話は全体のどの程度なのかしら……。
【バンディ】:ワタシの解析でハ、作者にもワかってないようデス。
(一 同):エェッ!?
【バンディ】?完全に、ワタシたち登場人物のウゴキ方しだいとカ。
『美 月』:やった!ハワイで結婚式!!
「詩 愛」:いいかげんその話題から離れたらどうなの?
……でも、私たち自身で未来は変えられるんですね?(ホッ
「小 男」:(フフフ。それではコチラの頑張りで、この美女姉妹をなんとしても我が店に……)
「マイケル」:まァ。いずれにせよ、だ。こんな“時流に外れた物語”を読んでくださる
「精鋭読者」さまに御満足頂けるよう、みんな気合いれて頑張ろうぜ!
(一 同):よろしくお願いしま~~す!
【以下は前話までのおさらい】
それから3日後のことだった。
パリッとしたスーツ姿の男ふたりに、いかにも“水っぽい”露出多めな服を着た女ひとり。
多くの乗降客や買い物客でにぎわう商業施設付きなターミナル駅の中央コンコースを、女を中にはさむ“嬲”のかたちで歩いていた。
天井の高いその空間で、行き交う人々は等しく目をむき、凝視し、あるいはふり返る。
それは、やはり女の
波打つような赤毛。
濃いめのアイメイク。
おしゃぶりが巧そうな口唇。
細い首には、南京錠のついた黒いチョーカー。
豊かな胸は、寸足らずでダボついた白いタンクトップによって辛うじて隠されるが、生地に黒レースのブラが透け、ワキからは文様が丸見えに。
ヘそピアスが輝く、あらわになった細い腰。
かと思えば。
豊かな尻。そこから延びるスラリとした美脚が丸わかりな、レオタード・タイツを思わせるメタリックなスキニー・パンツ。
とどめは「これでもか!」と
「――マイケルさん?」
「んぅ……?」
「なんか、見られてません?ボクたち」
ハハッ、とオレは力ない笑いをもらし、
「厳密に言えば……注目を浴びているのは、このアホ女だな」
「だから大丈夫かって言ったんですよゥ。そんなカッコで」
「仕方ねぇだろ!コイツがどうしてもコレで行くって聞かないんだから。しかしオレも、まさかココまでとは……」
なによゥ!イイじゃない!と足を止め、腰に手をあててふんぞり返る美香子。
「日本人は、保守的になりすぎなのよ!」
しかし、あまりにジロジロ見られ、携帯のカメラ音もアチコチにするので、オレはとうとう美香子に持参したレイバンのサングラスをかけさせた。本来は『赤いウサギ』の中でこれをかけ、視線を分からなくして店内の人物などを観察する用途のためだったのだが、こうなっては仕方ない。
サングラスをかけた美香子も、ショー・ウインド-に自分の姿をうつし“ご機嫌斜めならず”な様子。歩き方もますます尻をふり、気取ったものになってゆく。
そして、コレがいけなかった。
どう見ても芸能人とお付きの者たち。
あるいはヤクザの情婦と、その護衛といった雰囲気になってしまう。
まるではじめて美香子と会ったときの再現だ。3人のまわりにジリジリと集団が出来てゆき、ひとかたまりとなった集団が駅のコンコースを進んでゆく。
そのときだった。
行く手のほうで、なにやら怒声が交錯するのが聞こえた……。
【以上、前話まで】
* * *
交錯する怒号。
耳障りな叫び。
くたびれたスーツを着たリーマン。
ペンキ汚れのういたM1ジャケットから道具箱を下げる職人。
あまり身なりの良くない中年の男ふたりが、まるで犬のケンカのように睨みあい、互いに罵り合っていた。
「*£ζЁδΣ¥!*±§!∀※**!」
「※☆§@!♯&$∀£±!!」
なるほど、さすがは犬のケンカ。
互いに激高し合い、言ってるイミがサッパリ分からない。
だいぶ以前、美香子を助けたときにひき殺したヤクザの二人組を思い出す。
周りには遠巻きにするギャラリーができ、次第に数を増しているようだった。
どうせ触れたぶつかったで、沸点の低いヤツラがケンカを始めたのだろう。みっともない。
「行こうぜ、クダらねぇ……って、おぃ?」
しかし、なにを考えたのか。
美香子は睨みあい、罵り合う二人にツカツカと歩みよる。
何ごとかと、怒鳴り合うのをいったんやめて彼女の方をむく男たち。
その数拍の空白に、彼女は悠揚せまらずレイバンのサングラスをはずす。
貌を露わにして、
つぎの瞬間、いきなり美香子はソプラノでアリアを歌い出した。
参照:https://www.youtube.com/watch?v=FchM-EyoAdw
よく伸びる高音。
美香子のものとは思えぬクリアな歌声。
自身に満ちた物腰と、あたりを女王のように
あっけにとられつつ突然のアリアに聞き入る数知れぬ聴衆のひとりとなったオレは密かに瞠目した。
――いつのまに……こんな。
『マダム・ヴァラン』とかいうフランス人の声楽教師。
サドっ気にみちた、あのフランス人のババァが彼女をこんな領域にまで鍛え上げたのか。
やはり
フロアレディ。
バニーガール。
ソプラノ歌手。
そして………。
性奉仕用人形。
“これ”と決めた美貌の女を目的の鋳型にハメこみ、苛酷な調教をほどこして徹底的に磨き上げ、店が管理する超一流の備品に仕立て上げてしまう。
まさに高級クラブの形をした“女の改造・馴致工場”だ。
もはや
最後に驚くほどよくのびる高音部で、情熱的なアリアは終わった。
とたん、怖いほど盛大な拍手がコンコース中からわきあがる。
携帯のカメラはもちろん、いくつか本格的なフラッシュまで焚かれて。
ケンカをしていた男ふたりもバツの悪そうな
足をとめていた通行人が我に返ったように動きだし、広大なコンコースいつもの風景にもどっていった。
――なんとまぁ……。
これはヘタをすれば、
『駅でケンカをするオヤジの間に美少女歌手がやってきて、全員無事昇天』
とか、どこかの「まとめサイト」に映像付きで載ってしまうような勢いだ。
美香子は、いまだ未練がましくこちらを見つめてくる聴衆の視線を悠然とハネ返しながら、
「――
「スゴいよ!美香子サン、サイコーだよ!」
最初に口をひらいたのは『フクロウ』だった。
めずらしく興奮した顔をあいてに寄せ、目を輝かせて、
「いつの間に、あんな練習を?」
「ふッふぅ~ん」
美香子は、いくぶん余韻の醒めぬ紅潮した面差しで、
「女には秘密がイッパイあるのよ?どぉ、ご主人サマ」
「――マイったね」
歩きながらすなおにオレは兜を脱いだ。
「そうとう練習したと見える」
「えぇ、もちろん。そうとう"キビしい"練習を、ね」
不意に彼女は気だるげな貌をして、口もとに皮肉気な笑みをうかべた。
オレはその横顔にゾクリとする。
それは美香子の――いわんや『美月』の貌ではなかった。
もっと“歳古りた”ような。さらに詳しく言えば、生活と、なにより「人生に疲れた」夜の女の
オレの興味津々な目つきに気づいたのか。彼女はふたたびレイバンで顔を隠すと、スカした手つきでそれをクィと上げ、
「――ナニよ?ご主人サマ」
「いや……オマエも将来苦労しそうだナァと思ってサ」
「なにが?」
「タチの悪ィ男に引っかかって、相手の稼ぎがないもんだから、自分が夜の女になって稼いでサ。そのくせ相手は馬やボートでオマエの稼ぎを散財し、挙げ句に別の女と浮気する……」
「ご主人サマと一緒になれば、そんなコトないモン!」
カッ!とヒールを鳴らして立ち止まり、美香子は挑発的に胸をそらしてオレをニラむ。
「アタシそんな、絵に描いたような堕ち方しないもん!」
「どうかなぁ……?」
足を止めた美香子と『フクロウ』を置いてきぼりに、しつつ、
「店で知らないうちにヤバい薬でも飲まされ、奉仕人形になる結末もあるか。怖ッかないモグリの医者たちが、その方法を教えてくれたろ?」
「アタシは!“ウラ”には行かないモン!!」
美香子は追いすがり、オレの腕に絡みついた。
フクロウ青年も、履き慣れないウィング・チップが痛いのか、すこし足を引きずりながらついてくる。
ようやく陽は没し、青銅色の空に星がまたたきはじめる頃合い。
やがて、もう少しで『赤いウサギ』が見えて来るというところだった。
「こっち!」
きゅうに美香子が、随行の男ふたりを近くにあるマンションの入り口に引っ張り込んだ。
手荒に引っ張られ、よろけた青年はゴッ!、と郵便受けに頭をぶつける。
「いてて、なんです美香子サン?」
「しっ!」
エントランスに潜んだオレたち3人が物陰から通りをうかがっていると、
「ホラホラ、ナニしているの?早くいらっしゃいな」
肩を密着させるようにして近づいてくる一対の女ペア。
ひとりは明らかに水商売のおんなと分かる。
金髪に染めてウェーブを効かせる豊かな髪。
濃いめの化粧にハデなアクセ。
固い職場のOLが決して着ないであろう、高価そうだが何となく水っぽい風情の白スーツ。
ブランド物の金メッキなロゴが、デカデカと留め金にデザインされたバッグ。
シーム付の網タイツに、これまた同じブランドの留め金があるハイヒール。
総じてちょっと珍しいハーフ系の美人だが、どこか尖った印象のある女。
対してもう一人は……。
銀髪に薄いブルーが混じるショート・ヘア。
すこしヤボったい、青系原色な春夏ものコート。
地味目な化粧に一点濃い口紅。
手にはなにも持たず、羽織っただけらしいコートの袖はペシャンコで。そして、そのコートの上からでも丸わかりとなる豊かな胸。高いヒールの黒ブーツを履き、足もとがフラフラと危なっかしく。
息を潜めて身を固くする美香子につられ、この2人連れの片方をよくよく見たオレは、
あ!
一瞬凝固するほどおどろいた。
――クソ目立つブルー・銀髪の女……アレは“サッチー”だ!
しかし、何だろう。
彼女の胸って、あんなに大きかったか?
おまけに口唇も、施術されていた美香子のようにボッテリと肥大して。
その肉厚な唇が、ときどきフルフルとわななき、ブーツのピンヒールがガクガクと。
なんだ?とよく見て、目を疑った。
サッチーが羽織る、薄手の原色系コート。その「前身ごろも」の合わせ目に、金髪の手から幾本も伸びる白いコードが消えている。そして、このちょっとコワい感じの美女が、その手をみょうな具合に動かすたび、サッチーの身体がモジモジ・ビクビクと悶えて。
「そんなへっぴり腰じゃ“お道具”を
「はぁぁん……そんなぁ……」
すれ違った女子高生たちが、ヒソヒソ、クスクスと囁きながらすれ違っていった。
それを見たサッチーは、上気した顔をますます赤らめ、うつむいてしまう。
「ちゃぁんと顔を上げなさい?」
金髪女はサッチーのあごを、曲げた人差しゆびでクィと持ち上げ、
「さもないと……」
支配者めいた女は、歩道の周辺をすばやく確認すると、荒々しい動き。
アッ!と思うヒマも無かった。
一挙動で青いコートは剥ぎとられる。
そしてまるでエビの“むき身”のように、中からは縄で縦横にしばられた白い裸体が露わになった。
「あぁっ!」
サッチーが身を縮ませるが、それだけでどうにかなるものではない。
腕を伸ばした状態で後ろ手に幾重にも拘束されているので、自分では服もひろえなかった。
なよなよと肢体を動かすたびに、菱形にくびられて突き出る豊乳や、残酷にもコブつきの縄が食いこむ巨尻が薄暗がりにほの白く映え、そしてなにより“おまた”の前と後ろに消えてゆく白いコードとそこから漏れる粘液の輝きが、夕方の街灯にキラキラと反射している。
「イヤっ!服を――服を着させて!」
パァン!
サッチーの頬に平手が飛んだ。
「何なの!その口の利き方は!」
そう言うや、手にしたリモコンをグッ!と握る。
「あがァァァァァッッ!!!!11」
サッチーの身体は、それまでのなよなよと艶めかしい感じから、急に悲惨な調子で動物的にのけぞった。
シャァァァァ……アズナブル……。
厳しく縄が食いこむサッチーの股間から、長い
しばらくハァハァと息を荒げるサッチー。
「おねぇサマ……服を……奴隷人形にコートを羽織らせてください……お願いします」
「フン!ちゃんと言えるじゃないのサ!」
さすがにいつまでも長いこと裸にしておくのはマズいと感じたか、金髪女は手早くコートを背中から羽織らせると、それでもボタンは留めず腰のベルトをゆるく巻くだけにする。
合わせ目からは、微妙に縄で縛められたオッパイや卑劣に食い込むコブが見え、サッチーは後ろ手のまま切なげに身体をゆすって
「本来ならオマエみたいな
「……ハイ」
う、とオレは思う。
――コイツ。女刑事だって身バレしてたのか……。
そういえば。
小男と一緒に、美女や美少年がガラス張りのブース内で嬲られる調教設備を回ったとき、相手が何気なく口にした言葉が思い出された。
「有用な人材なのですよ……この“小さな店”にとっては、ね」(第18話(2参照
迂闊だった。
あの思わせぶりなセリフ。
“身バレ”している可能性にピンとくるべきだった。
――いや……あのときは、仕方ないか。
だがすぐにオレは、その考えを否定し、自分をなぐさめた。
あのときは、自分がガラスの檻の内側に
それほどギリギリの、ヤバい綱渡りだったのだ。気がつかなくても仕方がない……。
気がつけば、金髪の女がまた何か言っていた。
「――れからも、その
「……はぃ」
「あぁ!?」
「いえっ!は、ハイ、ありがとうございます」
グイッ!
金髪女がサッチーの髪をわしづかみに、うつむく彼女の顔を乱暴に引きおこす。
「いつまでも“おタカく”とまってんじゃないよ?いいカゲンじぶんの身分をわきまえな!」
「……はぃ」
「アァん!?」
「いえっ!あの、『まほと』は、卑しい性奴人形でございます。そのことを肝に銘じ誠心誠意、身も心も御奉仕させていただきます……」
ふふん、と金髪女。
つかんでいたサッチーの髪を手荒く放し。
「ヤレばデキんじゃないのサ……おまえのオマンコは魔の
パァン!!
またサッチーの頬に金髪女の平手打ちが飛んだ。
「はうぅ……」
「ほらぁ、ご覧な!」
チッ、と舌打ち。
「つけ爪が取れちゃったぢゃないの……さ、イクよ!」
恥ずかしい汁を路に垂らしたら“お仕置き”だからねと、この金髪の調教師は、やってくる通行人に配慮して声低く囁きながら、サッチーを促して去って行った。
オレたち3人は、すっかりガチガチになった身体で物陰から這いだし、
「アブねぇヤツなぁ……なんだアレ」
「麗華サマだ……」
「アレがかよ?タチわりィな」
「だって“フェムタチ”だモン」
「……なんだぁ?」
「レズの用語で『女っぽい男役』のコトですよ」
見ればフクロウが、またもやスーツのズボンにテントを張って。
そうだ、忘れてた。コイツはムッツリだった。そしてお約束のように鼻血を流している。
スーツに血が付いていないか気にする様子で、上着を脱いでためつすがめつ。
「美香子、もう一方のアオ銀髪な女に見覚えはあるか?」
「たまぁ~に見かける。たぶん“ウラ”の、それも「奥」のヒトだ」
「おく?」
「“ウラ”の裏。本当のウサギのサロン」
「そんなモノがあるのか」
「見たコトないけど、このまえ『小枝子』サマが話しているのを盗み聞きして……」
「オィオィ、アブねぇコトすんなよ?」
オレは美香子を見た。
さすがにショックだったのか、こわばった顔を幾分くもらせている。
「いっぽ間違えば、オマエだってさっきの“アオ銀髪みたいになるゼ?」
はぁい、とシオらしい声。
ふぅぬ、とオレは長い息をついた。
まったく小男のヤツめ……底がしれない。
あの麗華って女も、まだ30に届かぬような顔で相当のワルだ。
とりあえず『サッチー』が『魔ホト』に改造されてしまったのは分かった。
また何かワルい予感に重くなりがちな足取りで、オレはウサギへの路を歩きはじめる。
* * *
店の裏口から入ろうとしたときに、また一悶着あった。
ガムをくちゃくちゃ噛み、携帯をもてあそぶ黒スーツの警備役たちが、オレと『フクロウ』を通そうとしない。
「店主にハナシは通ってるハズなんだが?」
「おもてからハイんな。ミッキー、お
仕方なく“美月”と別れ、表に回ったオレたちだが、例の大仰な革の来客名簿をもつ今日の門番リーダーは、あいにくと面識のないヤツだった。
「リストにお名前の無い方は……」
「店主を呼んでくれ。それで話がつく」
「当店の店長はただいま留守でして……」
のらりくらり。
そうこうしている間にも、着飾った壮年のペアや、愛人をつれた成金っぽい中年が脇をとおり店のなかに入ってゆく。
いいかげんキレそうになったところを、表のフロア・マネージャからもらった名刺を思い出した。
携帯で連絡し、鉄格子で鎖されたゲートの前まで出てきてもらって、そこでようやく決着した。
鉄門扉の掛けがねがハズされ、一部のスキもなく
「……なんか、店が前より品無くないか?」
オレはフロア・マネージャーに文句を言った。
「規律がユルんでるというか、組織の役割分担がなってないというか……」
「ここだけの話ですが、店がアチコチから妨害を受けてましてね」
「妨害?」
そこで、マネージャーはオレの後ろに立つ『フクロウ』を気遣わしげに一瞥する。
「あぁ、こいつなら大丈夫。オレが保証する」
「“愛人”の
はァ?と思うがイチイチ説明するのもメンドくさい。
愛人扱いされた『フクロウ』の方は、キョトンとした顔。
「妨害というのも、じつは有能な店員を引き抜かれたり、あるいは何処からかイヤがらせが入って辞めてしまったり……後任の者が、ドウにも……」
「店の用心棒役はナニしてるのサ?」
「件数が多くて手が回りませんで……」
――ふぅん。
なにやら早くもキナ臭い。
「店主は留守にしていると聞いたが?」
「まだコチラにはおいでになってないだけです」
もうじきお見えになります、とソツの無い答え。
絨毯の敷かれた天井の高い広いロビーで金属探知機武器のチェックを受けたあと、キョロキョロしている『フクロウ』を従えて、重厚な真鍮の手すりがついた両扉から“表”のフロアに足を踏み入れた。
「うわぁ……」
育ちの良いボンボンらしい、率直な驚き。
薄暗く気怠い雰囲気に満ちるフロア。
豪華な調度や什器があちこちに並ぶその空間には、バニーガールやフロアレディが音も無く行き交い、ソファーには客たちが深々と満足げに席を占め、キワどい格好をした女をそれぞれ傍らにはべるかたちで声低く談笑していた。
「こちらへ――」
オレたちはホール片隅の目立たない小ぢんまりとした席に案内された。
乳繰り合いもおkな、俗に言うカップル席と言うヤツ。
まぁ、店を眺めわたす位置にあるのは都合が良かったが、
薄暗いホールを行き交うバニーガールや着飾った蝶たちに視線をおよがせる青年を指さして、
「だれかひとり――コイツに女の子つけてくれないかな?なるべくおとなしい子がイイや」
「おや、左様で?わたくしはてっきり……」
「ちょ、ボク、結構ですからね!?」
「ホラな?すこし免疫をつけさせてやろうかと……」
「あぁ、そういうコトで御座いますか」
ナルホド、とフロア・マネージャーは初めて得心した表情で。
「それでしたら、うってつけの子がおりますな。
マネージャーは傍らを忙しげに通りかかったボーイを呼び止めた。そして何やら耳打ち。
おっ♪とオレは表情を明るくする。突入事件のときに世話になった兄チャンだ。
相手もオレを認めたらしい。指示を受けながらニヤリと会釈して。
黒服の男たちが去ると、ほどなくして「少女」といってもいい一人の女性が、地味目なラウンジ・ドレス姿でオズオズとあらわれた。
豊かな胸だったが自然な大きさで、唇もごく普通。
つまり人工的な手が全く入っていないというコトだ。
「はぢめましてぇ。『まりか』です」
髪もキャバ嬢のように盛り上げてはおらず、化粧もケバくない。
だが、それゆえ整った顔立ちがよく分かり、素性の良さがうかがえるようでもある。
そして、これがわが情報担当ドノのツボにハマったらしい。急に顔を赤くし、スーツの前をモヂモヂと。
「コイツ、こういうところ初めてなんだ。ヨロしくたのむよ?」
「お客様は、彼の上司でいらっしゃいますか?」
「上司ねぇ……ま、そんなトコかな。キミは、大学生かね?」
「いま就活中です。でも、なかなか厳しくて……」
これに『フクロウ』が飛びついた。
聞かれもしないのに、企業の選定方法や面接のノウハウをはなし始める。
「さすが。お詳しいですねぇ――センパイ」
『まりか』は小首をかしげ、ニッッコリと笑った。
いやはや全く。
このときの青年の嬉しそうな顔といったら。
まるで嬉ションをしそうなイヌのようにシッポをふって。
だが――すでに彼女も、初歩的な「夜の女」のテクを備えるように見える。
初心者とはいえ、なんと言っても『紅いウサギ』で働くことを許された女なのだ。
――油断はできんぞ?我が『フクロウ』よ……。
あまりがっついて“童貞っぷり”を発揮するなよと思うそばから……。
「まっ、『まりか』サンは。将来の夢とか、あるの?」
「ヤン、もー!『まりか』さんだなんて堅苦しい。“まりか”って呼んで♪」
「じゃっ……じゃぁ……まりか」
「なぁに?アナタ」
とたん、『フクロウ』の鼻の下が100mは延びるような勢い。
もーだめ。見てらんない。
オレはオーダーを取りに来た黒服に、ソフト・ドリンクと、なるべく廉い料理を注文する。
「アタシMOET飲みたいな~♪」
『まりか』が青年にもたれかかった。
ヤツは、助けを求めるようにオレを見る。
「あぁ~分かった、分かった。そんな顔するな」
しばらく『フクロウ』と“まりか”は四方山ばなしで雑談。
青年の口が、やけにカルい。まるで別人のようだ。
オレはその間、さりげない風でフロアの中を観察する。
今日は、またスゴい客の入りだ。
いかにも金をもってそうな盛装姿の老若な男たちが、さまざまな装いをした店の女を傍らに、いかにも大風な感じでソファーを占めている。
さすがに選ばれた客だけあって、下品なバカ笑いをするものは居ない。しかしよく見れば一部ジジィたちの手は、早くも女たちがまとうドレスのスリットから、ストッキングを履く美脚の上を這い、太ももの奥へと……。
ようやく頼んでいた料理がテーブルに届きはじめた。
さりげなくオレは口をはさむ。
「時間がかかるな、珍しい」
「――申し訳ありません」
ホストとしても通用するようなウェイターが、あくまでも礼儀正しく
「本晩、なにせ人手不足でして……」
――そうか。そういや裏口の黒服が、そんなこと言ってたってけ。
店員が忙しそうに去った後、オレたちはとりあえずシャンパンで――『フクロウ』はソフトドリンクだったが――乾杯する。そして改めてこの新参のフロアレディを観察しながら、
「そういや『まりか』君よ。『美月』と書いてミッキーって呼ばれてるヤツ、いるだろ?」
「あぁ……『美月』ちゃんかぁ」
うす金色の液体が充たされたフルート・グラス。
品の良い手つきで
「そう、あの“小生意気な”ヤツさ。店の評価はどんなものだね?」
「そりゃぁ――」
こっちの口ぶりから与しやすいと思ったのか、彼女は手中の酒をスッ、と一息に開けた。
すかさずオレは、相手のグラスにシャンパンゆっくりと注ぐ。
『まりか』は、ツプツプと泡が細く立ちのぼる様を眺めながら口をとがらせ、
「アレだけ男好きがするような整形手術受けて、歌のレッスンまでされて。あそこまで
「へぇ――トップクラスなのか?」
オレはすっとぼけたフリで聞いてみる。
「どうせ、ネコぉかぶってカワイイふりしてるだけだろ?」
「ハナせるわね、オジさん」
――おじさ……。
ガックリするが、なんかもう慣れた。
あいては、そんなコチラの気も知らず(スッ……)と、また細長いグラスを軽々と干すと、
「そしてよ?オヤジたちだけじゃなく、ヒヒじじぃたちにも、人気があるってンだから!」
ロリコンじじぃが、と『まりか』は声ひくく毒づく。
「古くからの“姉ぇさん”たちにも、良く思わない
オレと『フクロウ』は顔を見合わせる。
あの晩。
バニーガール姿の上にスソの足りない、尻が丸出しな“スタジャン”を着て、店の裏口から出てきた晩のことだ。
※第23話:錯綜する分岐点(5)参照。
しかし、この『まりか』とかいうフロアレディ。みょうにスレてないか?入店ったばかりの新人というのは、この店に限ってのことで、もしや業界にながいのかも……。
そんな疑いを抱きつつオレは、
「そういえば、今日は『小枝子』は居るのか?」
「えっ……小枝子サマとお知り合い?」
しまった、という彼女の顔。
そこには(……しゃべりすぎた)という色が露骨にうかんでいる。
そしてオレは、ウカツに『小枝子』の名前を出したことで、相手からこれ以上ネタを引き出せないという後悔。
気まずい沈黙のあと、『まりか』はバツの悪そうな口ぶりで、
「アノ……ワタシが
「オレの方こそ。『美月』のヤツにオレが嗅ぎまわっていたってナイショだぜ?」
共犯者の空気が醸成され、とりあえずホッとした雰囲気が流れる。
なおざりにされて不満そうだった『フクロウ』は、挽回しようというのか、ハタから見れば滑稽なほど一生懸命に『まりか』に向かって
だが――それも長くは続かなかった。
「あ~っ!こんなトコに居たァッ!」
そんな素っトン狂な黄色い声が、静かに談笑ゆらぐホールに響いた。