※この作品はR-18です。

試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【18禁版】   作:珍歩意地郎_四五四五

102 / 220
     〃     (3ホンのすこしだけエロ中尉

 最初に見えたのは、豊かな金髪だった。

 次いでチャイナ・ドレスの裾(すそ)をマーメイド風に広げた優美なイヴニング・ドレス。

 象牙のように白い肌を二の腕までおおう、黒サテンの指なし長手袋(ロング・アーム)。

 そのヒジの部分に幾重にも巻き付く、咬尾蛇(ウロボロス)をかたどった黒地に映える白金(きん)の腕輪。

 いかにも上等と見える紅い服地には、派手にの(・)た(・)う(・)つ(・)刺繍の金龍。

 ラメが入った濃いめのアイシャドウ。

 毒々しい黒のリップ。

 

 複雑にセットされた髪をかき上げると、その奥から耳朶にダイヤモンドと見える大ぶりのイヤリングが煌(かがや)き、そして――見たコトのあるような面差し。

 

 ――あ……。

 

 この女。

 

 店(ウサギ)に来る途中の路上で、サッチーを思うざまに嬲(なぶ)っていた性悪(しょうわる)だ。

 都会的な、かたい美しさを含んだ面差し。冷たい瞳が発するキツい目つき。

 たしか――麗華とか言ったか。小枝子と対になる、フロアレディのトップだ。

 彼女とは違い、ハートとスペードのように、印象のまるでちがう一対の女たち。

 

「お待たせ致しまして、たいへん申しわけありません」

「さ、さ、お客人に準備なさい!」

 

 慌てたように女をせき立てる小男。

 

「タノんでいた酒は行きちがいですな?マァいい。とりあえずの場つなぎです」

 

 金髪の女は優雅に一礼すると、豊かな胸に挟んだ小さなリモコンで何やら操作する。

 すると、小さなモーター音とともに、自動搬送台車のような黒いものが近づいてきた。

 先ほどまでうっすらと感じていた女の“モノ”の気配。その臭いが、よりいっそう濃く漂う。

 

「正式なご挨拶は、たしかまだでしたな?――麗華」

 

 口調を冷たく変えた小男に、女の方も幾分居ずまいを正し、

 

「ご挨拶が遅れました。フロアレディーを束ねる『麗華』と申します。奥の院の『レイカ』様の“影武者”を努めております」

 

 小男が鋭い目配せをフロアレディに送る。

 

「奥の院?――れいかサマ……影武者?」

 

 首をかしげるオレに、小男が眉をしかめつつ渋々とした口ぶりで、

 

「カタカナで『レイカ』ですよ。まぁ、もう一人の当店の主と言ってもよろしいですな」

「そんなに……その方は、いったいどういう……」

「なんです?エルゴ・カートを使ったんですか!」

 

 いきなり小男は、かたわらの“麗華”に非難めいた言葉を投げた。

 それがあまりに唐突だったので、かえって相手が話題を変えたがっているのがバレバレだった。この狡猾な人物にしては、珍しいことだった。

 

 店主の、このワザとらしい非難めいた調子に「あら」とチーフ・レディは動じることなく悠然(ゆうぜん)、金髪を掻きあげる。

 愛液の気配に加え、あたらしく女の体薫(かおり)と香水の匂いが、広間に艶めかしさを載せて漂った。

 

「イケませんでしたコト?――ちょうど“馴致中”だったものですから」

「これはお客サマの趣味をえらぶと、アレほど言ったでしょう!」

 

 ――エルゴ・カート?

 

 なんだろ、とオレは大卓に寄ってくるキッチン・ワゴンをうかがう。

 一見して、奇妙な形をした、黒い二段天板の車輪付き台車。

 

 しかし近づいてきたモノをよく見れば――なんと。

 

 それは裸体(はだか)の女性を両手・両足、折り曲げ四つん這いにし、この姿勢のまま幾本もの緊縛ベルトがついた薄い黒革の全身レオタードでピッチリと包み込んで固定した挙げ句、さらに折り曲げたヒジとヒザの先に馬の脚を模した器具を取りつけて高さをカサ上げした、言ってみれば“人間家具”とも言える代物だった。

 

 むねの部分は乳枷(チチかせ)状にくりぬかれ、大きな乳房がくびりだされて重力に垂れている。

 両乳首の先にはコードのついた低周波治療器のようなモノが貼られ、いまこの瞬間にもピクピクと、ムチらしき赤い痕が幾筋か奔る白い乳房が規則的にふるえて。

 

 女の臭いがするのも道理。

 

 折り曲げられ、ハの字にひらいて固縛された“おまた”の部分もトイレ用とみえるチャックが全開になっており、そこから脱毛処理された大陰唇が顔をのぞかせ、さらには奥なるピンク色の肉牡蠣が愛液をテラテラと滲(にじ)ませつつ、輝く粘液の糸を間断なく垂らしていた。

 

 顔は、頭部を全部おおうネコ耳付きの黒革全頭マスクでおおわれて分からない。

 しかしその口にあたる部分は、これまた口枷(くちかせ)で強制的に目いっぱい開かされ、スイッチのついた肌色の円筒が差し込まれている。

 

「コレは……」

「お気に召すか分かりませんが」

 

 小男はいくぶん、こちらの反応を気にするように、

 

「ご覧のとおり“ワケあり”の女をこの中に“綴じこめ”て、洗脳・調教をほどこす道具です。エルゴダイナミクス・カート(人間工学台車)と手前どもが無粋に呼んでいる店舗用の備品でして……」

「――視覚・聴覚は完全に封印」

 

 フロア・レディーの長である麗華が、あとを引き取った。

 

「耳には自分が“いかにイヤらしくて情けないマゾのセックス人形か”。これを脳に染みこませる洗脳音声を、いまこの瞬間にも流しておりますの……おなじく女の肢体(カラダ)の各所にある、淫欲を亢進(こうしん)させるツボにも、電気パルスをつかって刺激を続けていますわ……」

 

 なるほど。

 

 見れば、うすくしなやかな革の表面には、中の女を縛(いまし)める拘束ハーネスや電気パッドの文様がわずかに、そして淫猥に浮かび上がっている。

 

 背中には銀色の大きなトレイが赤いベルトで据えつけられ、上には琥珀色の液体を充たしたクリスタルのデキャンタと、同じカット・デザインのアイス・ペール。それに銀製のソーダ・サイフォン。さらには細々とした酒の肴のたぐい。

 四本脚の足首をつなぐ下段には、シャンパンがささるバカラのクリスタル・クーラーと、すでに汗を浮かべた何本かの“お代わり”が。さらには色々な太さ・形をした淫猥な“性具”が出番をいまかと待っていた。

 

 ときおり“イッて”いるのだろうか。

 

 肉牡蠣がドプッ、と白い“本気汁”を吐き、四つんばいの背中にのせられたデキャンターの金色な液面がフルフルと儚(はかな)く震えて。

 

 パァンッ!

 

 すかさず麗華の張り手が、うすい黒革にピッチリと包まれただけの巨尻(しり)に飛んだ。

 

「マヌケ!――ダレがア(・)ク(・)メ(・)しろといったのダレが!」

 

 んごぉぉぉ……と力のないくぐもった鼻声。

 ムリもない。あんな太いモノをしゃぶらされているのでは。

 

「麗華。あまり手荒なことはおやめなさい。こちらの方は上品な嗜みをしておいでだ」

 

 小男がオレの方を向いて気遣わしげに。

 対して麗華は相変わらずの冷淡な調子で、

 

「アラ店主(ジェンチュ)。この広間を使うから、てっきりコチラはソ(・)レ(・)系(・)のお客様だと……」

「もうよい。ささ、はやく“お支度”を差し上げるのです」

 

 麗華は“人間台車”の下段からシャンパンクーラーを大卓にのせ、ナプキンやシルバー(ナイフ・フォーク)などでテーブルをセットすると慣れた手つきで瓶の栓を抜いた。

 

 バカラの手吹きオールド・グラスに注がれる薄い黄金(きん)の泡。

 普段なら舌なめずりをする状況。

 

 だが、すぐそばで愛液を吐き出し続ける“エルゴ・カート”が気になって仕方ない。

 なにより女の臭気が、せっかくの美酒の香りを台なしにしてくれる。

 それを小男は珍しくも、証拠をにぎったあまりのうれしさでカン違いしたものか、台車に封じ込められた女をチラチラと気にするコチラのそぶりに、

 

「これはしたり!――マイケルさま、意外ですなァ……」

 

 ニヤニヤと、奇怪な顔に薄笑いと安心したような風情をうかべ、

 

「このような趣向に、ご興味がおありとは」

 

 まるで「山吹色の……菓子でございます」とでも言い出しそうな相手に思わず苦笑し、

 

「店主、いまの“そち”の顔。“越後屋”みたいにワルそうな顔になっておるぞ?」

 

 いえいえ、と相手はさらに相好をくずし、上目づかいな目つきで、

 

「お代官サマほどでは――ゴザいませんて……」

 

 ふふふ……と大のオトナが二人して妙なふくみ笑い。

 麗華も、そんな空気にノッたものだろうか。

 口のはしに、なんとも微妙な冷ややかとも言える嗤いを浮かべる。

 その嗤いをひもといてみれば(……男どもが)と幾分こちらに向けられている気がしないでもない。

 

 彼女は、台車の下段からイボのついた黒く禍々(まがまが)しいディルドーを取り出すと、自らのおどろくほど長い口舌(した)でベロぉリ、これみよがしに入念なひとなめ。

 

 ――まるでヘビ女だな……。

 

 オレの方は、正体不明のかすかな嫌悪とともに舌を巻く。

 なるほどこの女、完全なレスボスだ。

 女に対する苛烈さと支配欲。そして男に対する侮蔑しかないと診た。

 小男は、そんなこちらのネガティヴかつ微妙な表情にも気づかぬ浮かれっぷりで、

 

「ささ、乾杯とイキましょうか――今度の大問題の、見事なる解決を祝して!」

「……そんなにテンパってたんですか?あなたほどのお方が」

「そりゃァもう!まったくアタマが狂いそうになるくらいでしたよ!」

「ついでに。この子のアタマも……イキ狂いさせちゃいましょうかしら」

 

 ウフフ、と麗華はディルドーの尾部にあるスイッチをいれ、手にした淫具をブブブブ……。

 そしてすでに濡れそぼったオマムコのまわりに、振動する先端をあて“の”の字にネットリと嬲るかたちで撫で回しはじめる。

 

 またもや“人間キッチン・ワゴン”から声にならない声。

 だが、幾重ものハーネスと枷で頑丈に固められている哀しさ。

 いくらもがいても縛めは解けず、せいぜい背中のクリスタル・デキャンター金色な波立ちを増やす程度。

 

 サテサテそれでは……と小男が繊細なシャンパン用のフルート・グラスを差し上げる。

 オレもそれに準じて、プツプツと幾重にも細かく泡を立ち昇らせるバカラを掲げた。

 

「「乾杯!」」

 

(ズブぅぅぅッ!!!)

 

 わずかに 人間台車の“中のひと”が震える。

 オレたちの方は、よく冷えたシャンパンを口にふくむ。

 しかし美味いはずの酒も――思った通り。

 やはりメス臭と台車の切なげな身じろぎが気になって味が半減。

 さらには、この中に「美香子」が入れられる可能性を思うと、かるく鬱になる。

 

 そのときだった。

 オレの中で、まったく別の人物が封入されているイメージ湧きおこった。

 それは自分でも驚くほど強烈なもので、あたかも実際に眼にしているかのように。

 

 ――“お局サマ”が強制的に、この中に……。

 

 ムクク……。

 

 さりげなくチンポジを直したつもりが、小男のヤツめ、今回は目ざとく見つけたらしい。

 奇怪な貌(かお)が、またもほころぶと、この異形の店を構える小男は得たりとばかり妙に気安い調子で、

 

「よほどお気に召したようですな?マイケルさま。弊店の趣向をお楽しみ頂き重畳至極」

「いや、なに。そのぅ――」

「あらぁ♪」

 

 ジュポジュポ――ヌメヌメ――クチュクチュ。

 麗華はイボ付きのディルドーを淫らな音をたてて上下、左右に。

 女の急所(泣きどころ)とみられる場所を精妙、かつ執拗な手つきで突きながら、

 

「殿方なら皆さま、この手のコトは好色(すき)ですわよねぇ?」

「いや、べつに。そんなコトは……」

 

 だが、そう思うハシから自分の中の奇妙なイメージは止まらない。

 

 化粧の香りをわずかに漂わせる、品のいいブラウスを着たあの高飛車な“婚(い)きおくれ”が、マイクロ・ミニを無理やりまとわされた姿で、半ば露出する尻まわりの前後にディルドーを突き立てられ、サテン・ブラウスの上から乳房を縊らせるかたちの卑猥な緊縛をされた挙げ句、よだれを垂らしたアクメ顔をキメる情景……。

 

 ――バカな。なにミョーな妄想してるんだオレは。

 

 しかし、だ。

 ひごろコチラにツンケンとカラんでくる“お堅い”OL親分の、そんなレアな光景を見られたら、給与1ヶ月分(――いや、さすがに言い過ぎか?)半月分ぐらい差し出してもイイ……かもしれない。

 

 またもチンポジをなおすコチラを満足そうに横目で眺めつつ、麗華はエルゴ・カートの口が咥えている円筒形の尾部をつかんだ。そして、そのままそれを、ゆっくりと引っぱる。

 

 ヌろろろろォォォォォォォォォォ……ぉッッ……。

 

 おどろくほど長いディルドーが、ぬらぬらと出てきた。

 “中の人”がこんなものを飲み込まされていたことに驚く。

 食道の奥にある幽門をすぎて、胃袋まで達していたのではないか。

 

 ノド奥の奥まで犯されていた人間カートは、ようやく出てきたカリ高の亀頭を唇から出すと、相変わらず開口具で口まわりをポッカリOの字に拘束されたままハァハァと苦しそうに息をはき、二、三度かるくエズいて吐きそうになる。そのクセ紅い口舌(した)をチロチロと、どこか物欲しそう蠢(うごめ)かせて。

 

「……すごいですね」

 

 まさに、人体の神秘。

 お局サマのイメージ・コラが強まり、海綿体を忙しくさせつつオレは嘆息した。

 

「こんなことまで楽々と出来るようになるとは……」

「あらァ、タイヘンでしたのよ?」

 

 こちらの言葉に『チーフ・レディ』は、いくぶん不満気な声で、

 

「お高く止まったエリートの“カン違い女”を、ここまで“堕とす”のは」

 

 そう言って麗華は人間カートの後頭部に手をやり、無慈悲なほどにキツく編み上げられていると見える革製全頭マスクの紐を苦労してほどき始める。

 

 ギュッ、ギュッ!

 革が軋み鳴り、やっとのことで広げられたとき。

 中から現れたのは黒い内張りをしたステンレスの首輪。

 そしてチラッと漏れこぼれる、汗に貼りついた薄青い銀髪……。

 

 ――!まさか……。

 

 ズボォ……っ。

 

 アッ!と思う間もなく。

 開口具といっしょに全頭マスクが取り外されると、蒸されたシャンプーの香りが、ほのかに。

 そこには拘束ベルト付きのアイパッチで、キツく目隠しをされたサッチーの貌があった。

 耳の穴にはカナル型イヤホンが、黄色い接着剤らしきもので固着されている。

 おそらく今このときも、洗脳用の強制催眠音声が流れているのだろう。

 

 ――サッチー……!

 

 トレンチ・コートとハット。それにゴロワーズがトレード・マークな銭型警部補のバディ(相棒)。

 たぶん奴の命令で“紅いウサギ”を内偵し、どういうワケか素性がバレた結果、おそらくは調教と洗脳によって二重スパイに仕立て上げられた悲運の女刑事……。

 

 シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥん……ん。

 

 チンポが急速にちぢんでゆく気配。

 それをよそに、麗華はさらに彼女の視覚をさえぎる目かくしを取ろうとする。

 

 ヤベっ、とオレはそれをおしとどめ、

 

「目かくしを取るのは……ちょっと」

 

 さすがに今後のことがあるので、こちらの顔をサッチーに見られたくはない。

 もしも彼女が銭高とのペアを復活させた場合、なにかとメンドウになる事が考えられる。

 だが、フロアレディのチーフは一瞬、動きをとめるものの、フフンと鼻でわらい、

 

「アラ。ご心配には及びませんことよ?」

 

 そういうと彼女はサッチーの目かくしを一気に剥ぎ取った。

 

「ホラ!目を開けてご覧!」

 

 手元のリモコンに向かってそういうと、目の周りにアイパッチの拘束跡をつけたサッチーのまぶたがオズオズと開かれる。

 すると――どういうカラクリか。

 彼女の瞳は、まるでネコの眼球のように、タテに細長く切れているじゃないか。

 ごていねいにも色ちがいとなっており、左が金。右が青だ。まさか眼球まで手術されたのか。

 

「あはぁッ(ヤぁっ)!え(目)が――え(目)が――!」

 

 口いっぱいのディルドーを咥えつづけていた所為で、まだ舌が痺れているらしいサッチーが半ばパニックに。

 

「ウフフ……あわてないの♪」

 

 きびしい拘束が許す範囲でわずかに身じろぎをするサッチー。

 それを麗華は冷酷に見おろしつつ、彼女のアゴからほおをパール色に輝く爪が印象的な、手入れの行きどどいた指さきでツゥッ、となでて、

 

「一体ソレは……」

 

 あぁ、これ?と麗華はコトもなげに、

 

「眼球をおおうようにデコレーション・コンタクトをつけたのよ。まぁ品のいい目かくし、というところかしら」

 

 えかふひ(目かくし)……?とようやくサッチーは安心したようにつぶやく。

 どうやら今は洗脳音声が切れ、こちらの言葉が伝わっているらしい。

 

「よくって?べつにメクラにしたわけじゃないの。でも今の貴女……本当にキュートよ?」

 

 そう言うや彼女は青銀髪なサッチーの髪をやさしくなで、ほおに軽くキスをした。

 

「おへぇははぁ(お姉サマ)ぁぁぁぁ……」

 

 甘えるようなサッチーの声。

 年齢的に言えば、彼女の方が麗華より年上なのだろう。しかし麗華が持つ女王役としての美貌と威厳。なにより峻烈なオーラが、一介のメス人形に堕とされた彼女を上回って余りあった。

 

 麗華は、おしぼりを使い、手にまみれたサッチーの愛液をぬぐう。

 中指だけをひっかけ手の平を露出するブライダル・クローブのような黒い長手袋は、こんな行為を見越して装着したものだろう。

 清め終わったあとは、優美な手つきでシャンパン・クーラーからボトルを抜き出すと、オレに向かい、さ、おひとつ……。

 

「しかし、意外でしたなぁ……まさか都銀の役員が……」

 

 オレに続いて小男がいかにも機嫌よく麗華の酌を受けながら、

 

「まさか、あの“おしゃぶり人形”にカラんでいたとは……」

「あのとき素直にコチラへ渡しておけば、こんな面倒なことにならなかったんですよ?」

「いや、これはどうも」

 

 小男は、いまや憂いをすっかり払いのけた表情で頭をかいた。

 

「どうしても“あの者たち”が欲しいと言うものでして……」

 

 『あの者たち』とは、おそらく小男をガードするガチムチな兄キたちのことだろう。

 

「なぁに?なんのおはなし?」

 

 オレのとなりに抜け目なく優美に座りながら、麗華はこちらをのぞき込む。

 小男がそれに応(こた)え、

 

「ほら。女体化してフェラチオ人形にしてやった少年がいたでしょう?あの関係者が、遺恨を含んでこちらの業務を妨害していたんですよ……」

「あぁ。あの……」

 

 麗華が大卓に身を乗りだし、銀製の裸婦像を操作した。

 

「コントロール。『サムソンの間・3』の監視画像を」

『了解しました』

 

 さらに彼女が裸婦像をいじると、壁に掛かっていた3m四方程度の油絵を飾る額縁がゆっくりと横にスライドされてゆき、大きなモニターがあらわれる。すぐに画面は点灯し、幾分せまいロココ風の室内をうつしだした。

 

 グリーンの大きな寝椅子に赤い首輪でつながれた、ルイ王朝風な宮廷パニエ・ドレスをまとう小柄な人物の姿が、画面の中央に。

 イスラムのように頭部をシルクのスカーフでキッチリと包むが、奇妙なことに、そこから二つの半円状をした輪っかが、まるでクマの耳のように突き出ている。

 

 ドレスに包まれた肢体をナヨナヨと悩ましげに悶えさせる姿勢。

 片方の手は、驚くほど肥大化したビーチボールめく乳房をはいまわっている。

 もう片方は、パニエで広げられているスカートの股間部位をもどかしそうにまさぐって。

 

 ときおり、光沢のあるドーナツ状に仕上げられた真っ赤な口唇(くちびる)から、切なげな悶えと吐息が漏れ、もはや落とすことも永久に適わない、入れ墨の手法で彩られたケバい化粧が飾る面差しを恍惚(ウットリ)と。そして涙が添えられる長いまつげを、フルフルとわななかせて……。

 首もとには、おそらくヨダレかけの代わりだろう、胸飾りのスカーフを模したモノが巻かれている。

 

「アラアラ……イケない仔ねェ」

 

 オレは画面の中の人物と、記憶の中にある姿をどうにか合焦(フォーカス)させようと苦労しつつ、

 

「何というか、だいぶ……その。イメージが変わりましたね」

 

 いやはやとオレは頭を振りながら、

 

「以前は、たしか――好色なメイド風に仕立て上げられてましたが」

 (第22話:肛門と拷問(B面)参照)

 

 あぁ、とオレの言葉を受け麗華がコトもなげに、

 

「いまはあの“お人形”にも、お客を取らせておりますのよ?脳をいじって性欲を倍加させてますので、あさましくもご覧の通り。いっしょうけんめい自慰をしているようですけど――でも、残念」

 

 フフッ。

 またもや麗華の冷たい微笑。

 

「膨らませたお乳(ちち)は勝手に弄(いぢ)れぬよう、ステンレスのブラをさせておりますの。フリルのいっぱいついたオマンコにも、おなじく金属の貞操帯とドレスのパニエで悪戯(イタズラ)できぬようにしてありますわ……いずれにせよ、大変お見苦しいところをご覧に入れまして……」

「つまり生殺し、というワケですなァ」

 

 後を引き取った小男がシャンパンを手酌で、

 

「ひと思いに殺すより、ジワジワと思い知らせたほうがいい。身体を再利用すれば、店の利益にもなる。リ(・)サ(・)イ(・)ク(・)ル(・)ですよ、貴殿(アナタ)。

 

 ちなみに――と麗華はまたも小男から説明を横取りし、

 

「あの頭から出ているものは、頭蓋骨(とうがいこつ)にボルト止めしたセラミック製の手すりです」

「……手すり、だと?」

「お客サマが自分の陰茎を“おしゃぶり人形”に咥えさせた時、人形の頭を前後させるのに便利なよう、取り付けたモノですわ」

「いかがですかな?」

 

 小男が、配下の女から、またもイニシアチブをとるべく立ち上がり、

 

「ことほど左様に、貴殿のいう……なんでしたかな?目標(ターゲット)?は、日夜責めさいなまれているのです。ここのところを、この男にも分かってもらえたら……おそらくは」

 

 そう言って、手にした『フクロウ』の資料を、またも広げる。

 

 相手の楽観的な暢気さに一抹の不安を覚えつつ、オレは重々しい口調で、

 

「依頼人は――ふたりいました」

「殺しの、ですな?」

「ともに一人娘を強姦された親たちです……」

 

 麗華と小男が顔を見合わせる気配。

 

「強姦されたひとりは、身を穢(けが)されたコトに耐えられず――自殺」

「……」

「もうひとりは精神を病み、いまも引きこもっているのか、措置入院か」

「……この親御さんは、どちらの方です?」

 

 小男が、再度『フクロウ』の資料に目をおとした。

 醜怪な貌に、この男本来の警戒する色がよみがえっている。

 

「生存している方です」

 

 相手の喉から、苦悶めいた唸りが漏れた。

 

「やっかいですな……」

「えぇ。極めて」

 

 オレは心ならずも食らった相手のパンチを思い出しながら、

 

「その男。おそらく執念深いですよ?それに、なかなかの武闘派だ」

「納得してもらうワケには――いかぬのでしょうな?」

「おそらくは」

 

 オレはひとつうなずき、

 

「当人の立場だったら、私だって拒否するでしょうね」

「本当に?生かしてジワジワ嬲った方が、よかないですか?」

 

「毎日フッ酸の風呂に漬け込むとか、一センチずつ皮膚を切り刻むとか。苦悶を与えるならいざしらず、ただの快楽付けですからねぇ。もはや強姦できぬ身体に施術されたとはいえ、愛娘を冗談半分に手篭めにされた親としては、とても納得できないでしょう。それに――」

「……それに?」

 

 私はね、とオレは思わず相手のほうに身を乗りだし、

 

「強姦なんてする野郎が――大嫌いなんですよ!」

 

 と、このときどうしたものか。

 麗華がソッとおれの太ももに手をやり、儚げな笑みをみせる……。

 

 一本目のシャンパンが空になった。

 麗華が下段からさらにもう一本をだそうとするのを小男がおしとどめ、

 

「ブランデーにしましょうか――いかが?」

「けっこうですな」

 

 男たちの雰囲気を察し、麗華はコニャック・ソーダではなく生のままを、それぞれの前に差し出した。

 沈黙しがちな空気の中、手持ちぶさたになった彼女がサッチーを弄ぶ。

 そのよがり声が、とうとう小男のカンに触ったらしい。ついに、

 

「ココはもう良いから。カートを撤収させ、フロアの方を診てきておくれ」

 

 店主の命令に、麗華はワゴンに残った酒肴を大卓の上に移し替え、優雅に一揖(いちゆう)して“人間台車”を伴い退出しようとする。

 

「あぁ――ちょっと」

 

 オレは、背後を大胆にOバック・カットしたドレスから露出する白磁めく肩甲骨が印象的な、その美しい背中を呼び止めた。

 

「きみは――『美月』を知ってるだろ?」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。