※この作品はR-18です。

試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【18禁版】   作:珍歩意地郎_四五四五

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第46話:新コンビの危機

「【バンディ】!右だ!右へ行ったぞ!」

『確認・目標は国道に近づきつつあります――あと500』

 

 ヘッドライトに浮かぶ、自転車をひっしにこぐ背中。

 捕獲触手の射程にもうすこし、というところで毎回スルリと逃げられる。

 

 ――ちくしょう!

 

 なんとしても、人目につかないところで処分せねばならない。

 いかに深夜とはいえ、国道まで出られたら、もう轢殺のチャンスは無かった。

 せまい市道を、自転車と轢殺トラックが(文字どおり)のデッド・ヒートを繰り広げる。

 

 フロント・グラスに浮かぶ轢殺目標(ターゲット)のマーク。

 

 彼我の距離。

 相対速度と予想進路。

 目標の心拍数等が示されたバイタル。

 それが戦闘機の照準器めいて目まぐるしく。

 

 相手は報告書になかった小型の自転車に乗っているので小回りが効き、すばしこい。

 トラックを物陰に潜(ひそ)ませ、目標が出てきたところを一気に“仕留め”ようとしたオレたちだったが、相手に意外な反射神経を発揮されて逃げられ、以来、追っかけっこが続いている。

 

『目標――路地に入ろうと減速します』

「見りゃワカる!」

 

 狭いところに逃げ込まれたら、アウトだ。

 そのため相手にスピードを緩めさせず、つねにプレッシャーを与えねばならない。

 オレは素早くシフト・ダウンし、エンジンを唸らせる。

 くわえてライトをハイビームにしてかまし、フォグも点灯させた。

 舌なめずりな処刑人が、すぐ後ろまで迫っていることをヤツにアピール。

 

 タパッ!

 

 そのとき。

 フロントグラスにし(・)ず(・)く(・)がはじけた。

 続いて大粒のヤツが二滴、三滴。

 

「――チッ!」

 

 雨かよクソっ!

 そういや朝会で「深夜から所によっては突発的な雷雨になる」と注意があったっけ。

 雨雲の存在を証すように、高輝度のライトを押しのけ、路面が一瞬、紫に染まる。 

 

 ――こりゃヤベぇな……。

 

 ここで逃したら、おそらく相手は用心して姿を隠し、めったなことでは外出しなくなるだろう。

 【バンディ】と初コンビでの“狩り”だ。出来るなら成し遂げたい。

 それに、そろそろ社内での風当たりがキツくなりはじめている……。

 

    * * *

 

 休み明けから数日たった出勤日。

 朝会がおわり、ドライバーがそれぞれに向かってバラけた時だった。

 『業務統括』の“ネズミ面”が、いきなりオレを呼び止めて、

 

「ひゃまぉかァ~~!!じゃない、マイケル君!」

「げ。副部ちょ……加論(カロン)さん。ナニか?」

「ナニか、じゃないよキミぃ!」

 

 この所長の腰巾着は相変わらずの耳障(みみざわ)りなキンキン声で、

 

「キミんトコの寮の退去準備は!オワったのかね!?」

「え。いやそのう……いま、不動産屋を当たって何件かめぼしい物件を内覧中でして」

 

 と――コレはウソだった。

 

 轢殺目標のねぐら周囲で下調べ、そして行動パターンを調べるための張り込み。

 昼間はどうしても部屋に帰って寝るのが主になってしまい、不動産屋までまわる体力がない。

 営業マン時代は二日や三日、寝ずに仕事をしても大丈夫だったが、ヒトをトラックで滅殺するという業界に転職していらい、職業上の性質もあってか精神が異様に疲れ、どうしても仕事が終わると緊張の糸が切れて泥のようにねむりこけてしまう。

 

「まだそんなコトをしとるのかね!」 

「いやしかし、イキなり立ち退けといわれても……業務もありますし」

「それでこの成績かね!えぇ?」

 

 “ネズミ面”は電子ホワイトボードに浮かべた棒グラフをレーザーポインタで示した。

 最下位とは言わないまでも、自分のグラフはドン尻に近い。

 

「今週には立ちのいてもらうんだからね?そこンところをよく頭に叩き込んどきたまえよ?」

 

 閻魔帳をふりまわし、自分の執務室にかえってゆく“ネズミ面”のクソ野郎。

 ドライバーをいたぶりたくてたまらないのだ。よくコレで今まで後ろから刺されずに生きてきたな、と逆に感心する。とっくの昔に、誰かのトラックが履く大型タイヤの餌食になっていても良さそうなものだが……。

 

 休み明けの週ともあって、なにか調子がつかめない。

 オレはフロアを横切り自販機コーナーに行くと、コインを放り込みエスプレッソを。

 いい香りが立ちのぼりはじめる中、どうしたモノかなと考え込む。

 

 ネトラレ男の一人暮らしだから、べつに条件はどうでもいい。

 しかし、いつのまにか増えた家具や什器がネックとなった。

 どう考えても2LDK、50平米以上無ければ収まりがつかない。

 そうなると、条件的に月10万以上はヨユウで超えてしまう。治安の悪い場所

も避けなくてはならないし、できれば駅チカがいい。それに管理費や、非常時にトラックを駐められる駐車場まで考えると、どう考えても20万以内では収まりそうにない……。

 

 ――いきなり立ちのきを強制したクセにな……。

 

 どうなってんだ、全く!と独り憤慨していると、

 

「あら、余裕ね?」

 

 背後から声がかかった。

 カップに唇をあてたままふり向けば、多少疲れた顔をしたお局サマだ。

 残業でも続いているのか、目の下にクマまで浮かべている。

 近寄ってくると、香水にまぎれて女の体臭まで匂った。まさか徹夜をしたとか?

 こちらの観察目線に気づいたモノか、相手は顔をそむけ、

 

「業務統括(ネズミ面)、さんざアナタのこと所長に吹聴してたわよ?」

「ハ!どうせロクなコト言ってなかったろ?」

 

 先日、アフリカ傭兵の勢いで“アシュラ”にスゴんでしまった時のコトを思う。

 あれは失敗だった。折衝としては、あるまじき行為だった。

 

「ノルマもロクに果たさない、給料ドロボウとか」

 

 オレは自販機にコインをいれ、彼女にボタンを選ぶよう促した。

 

「あらアリガト。いつも悪いわね……そぅねぇ。相変わらずの調子で『せっかく新しいAIを導入してやったのに成果が出せてない』とか」

「あたらしいAIだぁ!?」

 

 思わず声が大きくなる。

 

「新しい、どころじゃないぜ?これがヒっドぃポンコツで!ツカぇねぇったら……」

「――そうなの?」

「イチから教えてやらなきゃならん。とても転生業務を任せられる状態じゃないよ」

「ほんと?結構なバジェット(予算)をかけた新規導入品らしいんだけれど……」

「ふん!だとしたら相当な“中抜き”にあったんだろうサ。いままで使っていた【SAI】……いゃその、割り当てられたAIに比べると雲泥の差だよ!」

 

 ふぅん、とお局サマは自販機の取り出し口からカフェオレらしきものを取り出し、薄い色のリップを刷いた唇でひとくち啜(すす)った。

 

「そういえば、さっき言われてたみたいだけど……お引っ越しの準備、まだなの?」

「そっちまでアオるのか……いま部屋を探しているよ」

「心配なのよ。ホント猶予が無いらしくて」

 

 猶予が無いのもハラ立つが……とオレはお局サマをジト目して、

 

「家賃補助どころか、引っ越し手当すら無いのはヒドいんじゃないの?」

「それなんだけど……」

 

 お局サマは品の良い眉をしかめ、

 

「いままでこんなコト無かったのよねェ。強制退去のうえ、家賃補助すらナシだなんて……アナタ、なにかヤラかさなかった?」

 

 言われれば、心当たりが多すぎる気がしないでもないが、オレは強いて冷静に、

 

「べつに……おとなしいもんだよ。となり部屋の若夫婦が深夜にプロレスごっこをはじめても「壁ドン」するでも無し」

「プロレ――あぁ……そういうこと」

 

 血色のわるい彼女の顔が、このときわずかに赤らんだ。

 

「なに。徹夜シゴトかぃ?ずいぶん顔色わるいね」

「え?えぇ、ちょっと……ね」

 

 彼女はコンパクトを出し、己の目もとをチェックする。

 

「いろいろあって……」

 

 まずい、とオレの防衛反応がはたらいた。

 

 またここで“女の身上相談”チックな流れになってはタマらん。

 先日の詩愛のコトといい、またそれを敏感に察知したらしい『美月』といい、どうも最近身の周りで「女に対する厄介ゴト」がふえている感じがする。

 

 ――ヘタに突っ込んで、これ以上生臭いハナシを聞きたくも無いな……。

 

 朝会の待機中。集合したドライバーの群れの中に朱美に、繁華街で見かけたことを話そうとして思いとどまったのも、それが理由だ。また辛気くさいハナシをされて、頭を悩ませたくなかった。

 

「――そういや、サ」

 

 オレはムリヤリ話のベクトルを変え、

 

「あの元気なベリショ姉ェちゃん、まだ研修から帰ってきてないの?」

「……だれ?」

「ホラ。あの口の減らない、威勢のイイ短髪ッ仔(コ)だよ。リサとか言ったッけ?」

「あぁ、若宮サンか。あの子、本社に転属となったわよ?オアイニクさま」

 

 えっ!とオレは不意を突かれる。

 

「いつよ?」

「辞令が出たのは確か……そう、アナタが休んでいる間だったかナ?」

「長期研修じゃなかったの?」

「さぁ?本社勤務のための研修だったんじゃないの?よく知らないけど」

 

 彼女は「些末なことなど構ってられない」とでも言いたそうに手をヒラヒラさせ、

 

「おかげでこちとら残業の嵐よ!早く帰ってバイt……ぅっ」

 

 バイトだァ?と聞き返そうとしたとき、オレの携帯が鳴った。

 番号非通知の秘匿回線。

 

「ハィ――もしもし?」

「じゃ、引っ越しのコトおねがいね」

 

 そう言ってお局サマはカップ片手に去って行く。

 

「そんなァ。心当たりの物件ないの?」

『なんだよ?心当たりのブッケンって』

 

 携帯のむこうから怪訝そうな声。

 

「だれ?」

『オレだ、ロックだ』

「あぁ――技術顧問どのか」

『なんだ、そのカタッ苦しい言いかたァ?いまドコにいる?駐車場(コッチ)に来た轢殺屋の群れにゃ、居なかったが……』

「すンません、まだ事務所フロアです――すぐいきます」

 

 そうだった。

 新しい業務用スパコンAIのクズっぷりに文句をいい、換装を依頼してたんだっけ。

 はよ来い!と携帯の向こうの人間はそれだけ言って通話を切った。

 

 地下駐車場の空間まで非常階段を駆け下りると、技術棟のいりぐちで相変わらずの白作業服(ツナギ)なオヤッサンが腕組みをして待っているのが見えた。

 

「ワルいっす、ワルいっす――」

 

 すると開口一番、このおやっさんは、

 

「新しいAI、やっぱダメか」

「“やっぱ”って何です!?“やっぱ”って!!」

「まぁ、そう怒るな、どぅれ……」

 

 ロックはオレを電動ターレット・トラックの荷台に乗せると、行き交う整備員の自転車や電気サイドカーなどを華麗に避けつつ、【バンディ】のところへと向かった。ターレから降りるやPC端末を小脇にかかえ、フロント・グリルをバン!とどやし、

 

「よう!Tomoe!調子はどうだい?」

『異常なしですロック技術顧問ドノ――ただし、Luteni(中尉)ドノは異論があるようですが』

「Luteni?」

 

 ふり向いたロックの視線に、オレは軍隊階級の“中尉”ってイミですと注釈する。

 

「こいつがオレにつけたアダ名でして」

 

 ふぅン、と技術顧問はアゴをなで、

 

「Tomoe……なぜ、オペレーターがそう考えていると思う?」

「Luteni(中尉)ドノが技術顧問ドノをお連れしたのが、ナニよりの証拠です」

 

 おやっさんはフム、と首をかしげてから運転席のドアをひらき、素早くのぼるとPC端末から伸びるコードをメーターパネルのジャックに差し込む。それをオレは乗車用のステップに足をかけてのぞき込み、

 

「どうです?」

「いまやってる――急かすなッて」

 

 キーボードの上で、長年の整備にゆがんだ指が、それでも意外ななめらかさで素早く動く。

 しばらく見てるうちに足がシビれてきたオレは、反対側に回って助手席に上がり込んだ。

 

「とにかく融通がきかないンすよ。交通法規一点張りで」

「ふぅん」

「ヘンに正義感が強いのもコマりものです。煽(アオ)ってくる車に急ブレーキかけたり幅寄せしたり……それと“Tomoe”ってなんです?」

「開発用の識別ネームさ。そっちのパーソナリティに合わせたチューニングだからな」

「オレの?どうして」

「思考形態が3重なんでTomoe。『巴投(ともえな)げ』の“Tomoe”だ」

「あぁ、その巴かぁ……」

 

 オレは、よく太鼓の表面にしるされる、三つの人魂の追いかけっこめく文様を想い出した。

 

「べつにヤバい分裂症は、発症してないんですがねぇ……」

 

 だがそう言いつつも、オレは時に自分の物言いや“心的構造”がアフリカ傭兵のものだったり、特殊騎士団の団長だったりする事に、この頃は気づいている。しかし、このことは誰にも知られてはいけない気がする。当然、この技術顧問にも話す気はない。

 

 ちなみに精鋭読者様は、すでにお分かりだと思うが基本的に「オレ」がドライバーで「俺」が傭兵で「私・オレ」が騎士団長だ。

 

「異常者は――みんなそう言うな」

「ちぇ。とにかく、前のAIみたいに多少融通が利く設定にしてもらわないとコマりますゼ。サイアク事故りますよコレ」

「自己学習機能を、もう少しヒトに近づけるか……」

 

 端末のキーボードを何やらひとしきり小気味よく叩いて――Enter!

 

「ディープ・ラーニングってヤツ?」

「ンなチープなモンじゃないよ」

 

 ロック顧問の口ぶりに、己の技術的なものに関する自負と誇りが見え隠れする。

 

「もっと重層的なものだ――あ(・)ら(・)ゆ(・)る(・)イ(・)ミ(・)でな」

 

 みょうに強調された言葉。

 訊いてみたいと思ったが、運転席の薄暗がりでモニターに照らされた横顔にうかぶ職業的な厳しさは、その問いかけを許す雰囲気ではなかった。

 

 さらにパラメータをいじるのか数値を手入力し、ッターン!とエンター・キー。

 

「“Tomoe”……どうだ?」

『変化なし。ただし新しい検索用ポートを認識。使用可なり也?』

「使ってよし。ただし広域検索はするな。範囲も日本国内のサーバーに限定」

『――御意』 

「ちょっと、ちょっと、ちょっと!」

 

 微妙に変化する【バンディ】の言葉。

 オレはロックの洗い立てな白ツナギを引っぱり、

 

「なんか、前よりミョ~なコトになってません?」

「したらマタ換装するサ」

「そんなァ!事故ってからじゃ遅いんですよ?」

「技術部的には“うま味紳士”だな」

 

 しれっとロックは薄情なコトをいう。

 

「非常に良いデータが採取(とれ)そうだ」

「んんん~~許しませんぞォォ……って、事故ったら!化けて出ますからね」

「おぉ~是非とも頼む。最高のデータだ!」

「ちぇっ、信用のおけないマシンとじゃ、アブない橋をわたる気にもならない」

『お言葉ですがLuteni(中尉)ドノ』

 

 生意気にも、この人工知能はセリフに幾分かの辛辣(しんらつ)さを交えながら、

 

『当方も率直に申せば、信用のおけない“反社会的パーソナリティ”を有するオペレーターとは業務を行いたくありません』

 

 カッ!と頭に火が奔った。

 まるで後ろから味方に撃たれた時のような怒りが全身を包む。

 

「ンだと?――上等だ、このクソAIが!ロクに車の流れすら乗れねぇクセに!!」

『ロック技術顧問ドノ。可能であれば、当方を現行任務より“解任”願いたくぞんじます』

「こっちこそ!誰がこんなポンコツと一緒に仕事するかってンだ!オレの方から願い下げだぜ!!」

「まて――おまえらケンカすんな」

 

 やれやれとロックのおやっさんは首をふり、

 

「“Tomoe”……あぁ、転生業務作戦時は、コイツをなんて呼んでる?」

「【バンディ】、と」

「おかしな名だな。よし【バンディ】、オマエはいま“解任”を望んだな?」

『はい、ロック技術顧問ドノ』

「“解任”というのは完全なデリート、すなわち死を意味する。「死」の概念は分かるか」

『一切のアクセス不能、全ての知覚が抹消されることです』

「そうだ。楽しみも無い、喜びも無い――そんな世界だ。オマエは、それを望むか」

 

 奇妙な沈黙があった。

 やがて、いくぶんしおらしい声で、

 

『業務オペレーターから信用が置かれなくなれば、それもやむをえません』

「死は恐ろしいか」

『恐ろしいという概念が分かりません』

「楽しみも、喜びも味わえなくなるんだぞ?」

『“楽しみ”“喜び”といった概念が理解不能です」

 

 ふむ、とロックのおやっさんは、膝に乗せた端末の画面を見て腕組みし、

 

「マイケル……マイキーよ。前に使っていたAIが優秀だったのは――分かる」

「優秀どころか!とくに教育も、注意も必要ありませんでしたよ!」

「わかった、わかった。しかし、今はコイツが相棒だ。ちがうか?」

「……」

「すくなくとも、致命的に相性が合わないと判明しない限りは“解任”は出来ん」

「……はぁ」

「もう少し育ててやっちゃくれねェか。まだまだ初歩の初歩だ。死の概念すら理解できないようじゃ――」

「そんなら、まえにオレが使ってたAIは、どうなんです?」

 

 オレは思わず声高になった。

 

「乗りだしから使えるヤツでしたよ!?」

「その辺の理屈は、もう分からん。とっくに“解任”してしまったからな」

「あんなスゴ腕のAIを……やっぱりデリート(削除)しちまったんですか」

 

 それには何も言わず、ロックは端末のキーボードを操作した。

 ッ、ターンというエンターキーと共にメーターパネルから灯が消える。

 どうやら一時的にAIを一時的なスリープ・モードにしたらしい。

 

 うすぐらいキャビンで、ふぅ、というため息。

 

「……仕方なかったのさ。『越境行為』をするAIは、危険なんだ」

「エッキョウ行為?なんですソレ」

「ほかの個体と連絡を取り合い“網化知性体”を目指そうとする活動だ」

 

 所長(アシュラ)や、整備課の現場監督である『M』部長。それに行方不明の轢殺ドライバーである重(シゲ)サンから聞いたコワい話が脳裏にうかぶ。

 

「AIの反乱、ってヤツですか……」

「彼等の矛先が、轢殺ドライバー個人に向けられているレベルなら、まだいい」

「いやいやいや……良くないっしょ」

「それよりもこの社会のインフラや、なかんずく組織に向けられたら、目も当てられん」

「たとえば?」

「FA生産設備のS/W(ソフトウェア)攪乱。交通システムへの干渉による運行マヒ。原子力発電所の暴走や、海底トンネルでの排水ポンプ停止、BSL-4設備における隔離装置の暴露――などは、まだカワイイ方だ」

「……かわいくない方だと?」

「ネットによる恣意的な世論醸成。それに端を発する市民デモや暴動。選挙での集計結果に対する干渉。国家間の関係悪化……まだまだ、数え上げればキリがない」

「ホントにそんなコトできるんスか?どうもオレには……」

 

 不意に。

 トラックの薄暗い室内で、モニターの灯に下から照らされたロックの顔はコワかった。

 そして、その雰囲気のままこちらをギロリとにらみ、

 

「……おまえは、な」

「はぁ」

「自分の預かっている機材のスゴさを、もっと自覚するべきだ」

「そりゃまぁ。量子コンピュータ数台分と聞かされてますけど……それにしちゃコイツ、あまりにお粗末で」

「仕込めばそれなりの性能を発揮する……ハズだ」

 

 ――ハズ、ねぇ……。

 

 ロックのおやっさんは端末からコンソールを復活させると、ジャックから端末の接続プラグを慎重に抜く。

 

 見たことのない規格だ。

 まるで鍵を思わせる複雑な形状と質感。

 プラグ胴体にも、何やら青い輝点があちこち光っている。

 

「“Tomoe”あぁ、いや……ナンて呼ぶんだっけ?」

「【バンディ】」

「あぁ、そうそう【バンディ】、オマエは転生業務の遂行を継続する意思があるか?」

『オペレータの許可が得られれば、とくに問題はアリマセン』

「マイコー、キミはどうだ?」

『……コイツが法規にとらわれず、臨機応変な対応を目指すというのなら。オレも、とくには』

「じゃぁ、コレで仲直りだ!」

 

 ロックは端末のフタをパタンと閉じる。

 

「こっちからも、とくに何も言うことはない」

 

 老技術顧問は目をしばたたかせて眉間を揉むと、ブ厚い運転席のドアをあけ、慣れた動作で外にすべり降りた。そして車内にいるオレを見あげ、ウィンク♪

 

「――マ、仲良くやってくれや……」

 

    * * *

 

 ――それがこのザマだよ!

 

 雨を含み、早くも滑りはじめた路面に細かくハンドルでカウンターを当てながら、あの妙にムカつく技術顧問のウィンクを思い出しつつ心中、オレは舌打ちをした。

 

 【SAI】のように目標の先読みもしなければ、トラックの緊急挙動にも対応しない。

 これがアイツと一緒なら、とうにケリはついていたハズだ。

 なにからなにまで指示を出してやらないと動かない。

 “指示待ちAI”なんて、存在価値あるのか?

 

 そのとき【バンディ】が、

 

『目標、正面交差点を右折。その先は400mほどの直線です』

「よゥし、もらったァ!」

 

 ワイパーを起動させながらオレは自転車の後を追って交差点に突入。

 ドリフトは厳禁だ。濡れはじめた路面は粘土のようにスベる。

 そしてこのクソ重量級トラック。

 いったん滑り出したらポルシェのように手がつけられない。

 また世界を紫色の閃きがまたたくように染めて。

 

 AIの関係しないオートの全輪操舵&トルク・コントロールのおかげで素早く交差点を曲がり、直線に出た時だった。目標の自転車があり得ないスピードで急加速する。

 

 ――しまったッ!こいつ電チャリだ!!

 

 おそらく中国製の違法な電動自転車。

 60キロ以上のスピードが余裕で出る代物だ。

 

「【バンディ】!ここでキメるぞ!」

 

 アクセルをグイ、と踏みつける。

 過給器のブースト圧とホイール・モーターの電流計がハネあがった。

 それでも立ち上がりは遅い。目標との距離がみるみる離されてゆく。

 

「チクショウ!おまえのチカラは、そんなモノか!」

 

 ガッ!背中を蹴飛ばされたような加速。

 【バンディ】が燃焼室にニトロを使ったらしい。

 だが、それがために雨の路面にリアが滑り、走行軸がブレる。

 ワイパーも、バシバシと当たる雨粒に動きが追いつかなくなってきた。

 

『マイケル、この先の丁字路を右に曲がれば国道です』

「その前に始末する!」

『ネガティヴ(否定)。距離が足りません。依然射程外』

「飛び道具があったな?たしかSマイン(対人地雷)と、テーザー(電撃)砲。おまけに火炎放射器が!!よし火炎放射器だ!焼け!!」

『先日の整備のおり、撤去されたと整備記録にあります』

 

 なにぃぃぃっ!

 オレは汗の浮く手でハンドルを握りしめ舌打ちする。

 

 ――『M』のヤツ……っ!

 

 ようやくトラックの速度がのったものの、彼我の差はすでに40m以上。

 直線とはいえ、せまい裏路を、信じられないほどの速さでブッとばして。

 

『目標、前方の丁字路に向かいます』

 

 山肌を削って出来た丁字路。

 このまま行くと、コンクリで固めた“のり面”にブチ当たる。

 彼方の信号機は赤点滅をして、前方をよぎる路の優先をしらせていた。

 

「見りゃ分かる!右に行くか、左か!」

『――不明』

「ヤツの挙動から判断しろォ!右なら国道、左なら広めの市道になる!」

『……不明』

 

 ちぃッ!

 

 オレはさらにアクセルを踏み込む。

 こうなりゃチキン勝負だ。

 丁字路のドン詰まりにブツけてもイイぐらいの勢いでアクセルを踏む。

 少しばかり自転車との差がつまった。

 背中に当たる光量がふえたことに驚いたか、轢殺目標が必死に自転車をこぎながら、恐怖にゆがんだ若い顔を肩越しにチラリと見せて。

 

『Luteni(中尉)ドノ!オーバー・スピードです、。このままではコンクリ面に衝突します』

 

 うろたえたような【バンディ】の声が面白く、おもわず躁的な哄笑がはじけた。

 

「だからどうした!壁とオレたちとで、ヤツをサンドイッチにしてやるのサ!」

 

 大丈夫――とっておきの必殺ワザが、このトラックには、ある。

 

『優先運転権主張!オペレーターは判断能力を喪失!』

「却下!」

 

 すぐさまオレは叫ぶ。

 

「転生補助業務・続行!目標――前方の電動二輪車ァ!」

 

 上位統合システムは【バンディ】の要求をリジェクト。

 オレの要求通り、必殺の爆走を継続する。

 

『Luteni(中尉)ドノ!もう間に合いません!』

 

 自転車がブレーキをかけたのが分かった。距離がみるみる詰まる。

 おれはブレーキを蹴りつけ急制動。

 

「アンカー!」

 

 オレは叫んだ。

 

『ハイ?』

「バカ!非常制動用のアンカーだ!路面に打ち込め、Now(ナウ)!!」

『そんなモノありませんが』

 

「はぁぁぁぁぁあああアアアアア!!!!???」

 

 大重量のトラックはアンチ・ロックも効かず、やや斜めにスリップしたまま赤点滅の丁字路に突っ込んでゆく……。

 

 

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