試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【18禁版】 作:珍歩意地郎_四五四五
本来は通常通り月曜の早朝投稿だったんですが、仕事で疲れてどうにも……。
ともあれ、何とか週一の更新は守りたいと考えております。
何卒、よしなに。
* * *
べつに死ぬのはかまわない。
それは言ってみりゃ、生理反応だ。
メシを食ったり、クソをたれたりの延長線上と言っていい。
だが死んでから、また
――控えめに言ってゾッとする、ナ。
俺は
腕の時計を見れば、いつのまにか1600を回っていた。
日中の地獄のような炎熱もようやく
一羽のエジプトハゲワシが、するどい叫びを上げながら上空を滑ってゆく。
最近は人間の死体で肥えふとり、まるで土鳩のようにあちこちドコにでも見かけるようになった。
今回の騒動のすこしまえに発動された、
その日の午後、
行く手には、動きの絶えた様子をみせる小規模の村落……。
無線で近くにいた部隊に応援を要請。
到着した増援を降車・散開させ、路上斥候を前へ。
バックアップ用迫撃砲の座標を確認。班ごとに全方位警戒モード。
用心しながら兵士たちが気配のない村に入れば……すでに、宴は終わったあとだった。
慣れ親しんだいつもの胸苦しさ。
血と腐肉と、はた惨状と。
“未開民族”の行動様式が色濃くのこっているだけに、ゴヤのエッチングよりまだ酷い。
強姦され、殺されたのか。下半身を丸出しに、腹の胎児を引きずり出された妊婦。
乾いて黒ずんだ血だまりをシーツにして、ボロ雑巾のように横たわり、目玉を喰われ虚ろになった顔が炎熱の虚空に無念の凝視を向けている。
そのすぐ前では夫らしき男が、切れ味の鋭い刃物――たぶん
四肢をバラバラにされた老人。至近距離から自動小銃で乱射されたか、頭を爆散させた性別不明の肉塊。
子どもの姿は見えない――みんな少年兵にするべく拉致られたんだろう。
経験の浅い、若い黒人兵が嘔吐する気配を聞きながら、
――まるで王都をおそった“5月動乱”の光景みたいだな……。
そんな意味不明なことを、チラッと脳裏に浮かべたりしていたあのとき。
白昼の地獄絵図。
沈黙の阿鼻叫喚。
そこでは死体の多さから、ブチハイエナとハゲワシがケンカすることなく、互いにテリトリーをまもって獲物を貪っている。
そういやアジアの一部では、死体を鳥に食わせることで“死後の魂”を天の高みに運んでもらうという“鳥葬”なる代物があると聞くが……。
自分がくぐり抜けてきた死後の光景。
記憶に残る“ジンジャ・テンプル”の、闇に浮かんだ鮮烈な緋色。
手にしたワルサーPPのフレームに深く奔る引っかきキズを、指のはらでさする。
いまだ金属のささくれが目立つそれは、色男のラルゴ中尉が戦死した例の待ち伏せでついたキズだ……。
とりとめもなくバラバラに浮かびかかる様々な心象をいったんわきに片付け、背後に感じる部下の小隊長にむけ、
「なぁ、ジャン」
「あぁ?」
「オマエ――“来世”って信じてるか?」
ハァ!?と背中で素っ頓狂な声。
「来世ってアレか?死んだ後、どっかに生まれ変わるっていう、ラノベちっくな?」
「ラノベっておまえ……まぁ、そうだな」
「オィオィ、どうしちまったンだよ隊長」
カンベンしてくれという驚き半分、嘲り半分なジャンの声。
「んなモン、気にしちゃいねェやな」
「……だよなぁ」
「中世ヨーロッパ風の世界に転生とかいって、熱いシャワーもウィスキー・ソーダも、おまけにラジオすら無ェんだろ?機銃つきジープでカッ飛ぶことも、
「ドラゴンとかの背中に乗れるかもしれんぞ?」
「銃と酒と殺戮マシーンがなきゃ、ハナシになんねェよ!それにいくら“ハーレムでウハウハ”とか“超絶魔法”で勇者がどうのとか言ったって、オレぁゴメんだね」
「う……詳しいな」
小隊長が鼻で嗤う気配。
「ヤキがまわったかぁ?ナンだよいまさら」
べつに、と振り向いたところでオレは驚いた。
外人部隊用の
「ヨーク!なんだ居たのかよ?気配を消すなぃ、アブねぇな」
「オィオィ隊長。命の恩人に、そりゃネェんじゃないですかい?」
「う……そうだな。ありがとう、オーバン」
礼を言われた軍曹は、南フランスの農夫めく朴訥な顔を赤らめつつ、首から突撃銃を外すと射撃場の遠距離目標に狙いをさだめる。
一発――二発。
時間差をおいて、遠くのターゲットに金属音。
さすがはヨーク軍曹。射撃のウデは、故・ラルゴ中尉とタメを張る腕前だ。
「なんだ?珍しい
「ヘッ、
ジャンがヨークに変わり、突撃銃に向けアゴをしゃくった。
「
俺も濃密なジャングルと、骨までしみる霖雨の冷たさを想い出した。
葉先からしたたる滴。山地民のもの哀しい歌謡。濃い緑と、その奥に潜む
「そうだ……あの雨にゃ、マイったよな」
俺は軍曹に手をだすと、相手はホラ、とばかりに突撃銃を差しだす。
「持ちにくいから、気をつけてください中尉」
「たしかコレ、大戦中にナチが使っていた銃だろ?」
ウワサには聞いてたが、初めて手にする。
木製の
プレス加工の大量生産品らしく、造りが雑で
自分が使っているパラシュート隊員用・折りたたみ銃床型のFALと比べようとしたとき、
『……炎の鍵』
という若い女の声が、耳の奥で
――くそ……っ!
手近な「ターゲット」にむけ、狙いを定める。
しかし、その“
軽いイラつきを感じた俺は、憑きモノめく強迫観念を追いだすため、単発モードで数回射撃。
FALに比べてカン高い射撃音が、自分のうちに籠もる雑多な物の怪を討ち
――ふぅ……ん。
FALにくらべ反動は少なくて良いものの、
さらに二発――三発。
ようやく彼方の金属板を鳴らし、どうにか上官としてのメンツを保った。
やはりコイツは接近戦用の銃だ。サバンナのように開けた戦場を想定してはいないんだろう。
ナチの突撃銃を軍曹に返しつつ、
「ホラよ……俺には合わんな。んで?その村は、どうした」
ウチらで全部焼き払った、とジャンが応えた。
「ハデに燃え上がったぜぇ……」
「燃え上がった?」
「
陽に焼けた無精ヒゲに浮かぶ満足げな笑み。
この男にしては見慣れない酷薄さと残虐さが、そこにチラチラとほの見える。
前回の待ち伏せで、かなりの損害を部隊がこうむって以来、傭兵たちは殺気立っていた。
「どッから流入したんだろうな?この銃」
「どこだっけ、ヨーク?モラビアだかベッサラビア?」
「ユーゴスラビア、な」
「あぁ、それそれ」
「それに東ドイツ。そのほか東欧の共産圏が主に使ってますね……」
ジャンに比べて口の重いヨークがひくい声で解説する。
「倉庫には
それを受けて、ジャンが「な?」と言わんばかりにニタニタと、
「とりあえず
「ヤンキー?」
「ほら。隊長が前に言ってたアメ公の情報屋。いま基地本部にいる」
「あぁ、
――あのスーツ野郎……。
また来やがったかと思うと同時に、待ち伏せにあって部隊が損害を受けたため、延び延びになっているドレッド野郎の暗殺計画を考えた。
CIAは執念ぶかいことで有名だ――とくに共産主義がらみでは……。
「あのアメ公が隊長に会いたいとかで、作戦部・副長のケレル少佐が事務屋のヤンにアンタを探すよう命令してるのを聞いたんでさァ。それで先手をうって、御注進ってワケ」
――やっぱり。
どうあってもあのコカイン・モンキーを消したいらしい。
ヤツの女を消したことで、今後あのドレッド野郎がどう出てくるか見ものだった。
「隊長。あのアメ公ァ、なんなの?アンタにしつこくカラんでるみたいだけど」
ジャンの胡散臭げな口ぶりに、ヨークもこちらの顔をジッと覗う風。
『ブラックジャック』の手の内を見透かすような、半眼の冷徹な眼ざしで。
しかし、まだドレッドの暗殺計画をコイツらに明かすワケにはいかなかった。
ヘンに気を回して勝手な動きをされてもコマる。とくに相手は名だたる米国中央情報局だ。
下手に動かれて面倒なことにしたくない。ここはとにかく、慎重にいかないと……。
「あの男は、隊長に良くないです」
ヨークが、そんなこちらの顔色を読んだように、ボソリ。
「信用のおけないヤツです。味方を平気でうしろから撃つヤツです」
「それもオマエの“戦場の勘”か?オーバン」
おどけたような俺の口調に、この男は頑丈そうなあごを噛みしめ、
「ヤツは信用のおけない人間です中尉殿……お気をつけなさい」
そのとき、遠くから基地内連絡用のボロジープが、トロくさいスピードに似合わぬ盛大なエンジン音を響かせてノロノロやってくる。
「おやおや。ウワサをすれば影、だぜ隊長……」
やがて弾痕だらけのジープは「ボスン」と俺たちのわきでエンジンをいきなり絶息させ停止した。
「やぁ、マイケル中尉。やっと見つけましたよ!」
黒人の上等兵が運転するとなりで、たったいま、事務屋とウワサされたヤン中尉がジープの座席から立ち上がり、
「まさかこんなところとは――熱心ですね」
「拳銃ってのはな、ヤン。ボクサーの縄跳びと同じさ。練習を怠ると、すぐダメになる」
「そうですね。ところで――ケレル少佐がお呼びです」
「ケッ!あのボンクラが何の用だってェ?」
部下の報告で知ってはいたが。それとなくカマをかけてみた。
すると。この事務方の中尉は、
「さぁ?――わたしは“本部に連れてきてくれ”と命令されただけでして……」
「ほかには。なにか言ってなかったか?」
「とくには……なにも」
俺たち三人は、ひそかに顔を見合わせた。
また上空をハゲワシが2羽。
陽の傾いた西の空にむけ、啼き交わしながら滑ってゆく。
上昇気流もおとろえ、人間の腐肉もたっぷりと堪能したいまは、どこぞのバオバブの梢にでも架けた塒《ねぐら》に帰って行くのだろう。
ジャンがそれを目で追いつつ、
「
「……
中尉としての
「どうせまたロクでもない出撃命令を受け取ってくンじゃねェのか?オレ等はゴミ拾いじゃねぇっての。こないだみてェに情報不足のまま敵前に突っ込まされるのはゴメンだぜ」
「じゃぁ、部隊を辞めたらどうだね――
事務屋の冷然さでヤン中尉は言い放った。
「いちいち作戦行動にケチをつけるなら、安全な
一団の間に、ちょっとした緊張感のある沈黙。
ヘビのような目つきで、ジャンが事務方の中尉をにらみ据えた。
しかしヤン中尉のほうはヘラヘラと、自分の言葉がこの物騒な男に与えた効果をまるで気にする様子もなく、
「それとも無抵抗の原住民をイタぶるほうが、お好みかな?」
――マズい。
ここでジャンがキレて暴れでもしたら、目も当てられない。
上官不敬罪は傭兵部隊でも重罪にあたる。
ただでさえ“ツカえる”人員は不足しているのだ。
こいつが不潔な独房にブチこまれ、マラリアか
俺は、ことさら大きな声で、
「ようし、オマエ等!――ちょいと行ってくるからな?あとァ頼んだぞ」
なにを頼むのかは自身も分からなかったが、気詰まりな空気を破るように、とりあえず宙空に浮かんだ言葉をヤン中尉に投げつけると、自分の部下たちを振りかえった。
「2000時・ポイント
そう言いつつ、ジープに近づいた時だ。
俺は後部の荷台にあるモノをみてギョッとする。
「ヤン――なんだコイツは」
そこには、若い黒人兵が武装を解かれた格好のまま、汗まみれでひっくり返っていた。
額には水で濡らされたタオルがのせられ、ジープのせまい荷台に長い身体を縮めている。
ナンダナンダ?とやってきてのぞき込むジャンたちに、この若い黒人兵は真っ白な歯をチラリと見せ、チカラのない気弱そうな笑みをうかべた。軽い脱水症状も起こしているのか、折りたたんだヒザがすこしばかり痙攣して。
「なにね、
ヤンは、相変わらず時おり怒鳴り声が聞こえる彼方を見て、さも忌々しそうに口の端をゆがめ、
「放置していたら、
その語勢は、本気でこの若者が教練担当を憎んでいることが分かった。
俺は、ヤンにサド呼ばわりされた教練担当の小柄な軍曹を思い浮かべ、フッと短くわらう。たしか英国の『ロイアル・アルスター・ライフル連隊』
――小男……。
ふと――またもや何かの
しつこく……力強く……強烈な感覚。
それは陽に灼けた、戦闘服すがたの頑丈作りな軍曹ではない。
もっと醜い……そのクセ上品な……目玉の飛び出るような高価いスーツを着た……。
そう。対応次第ではコチラに火の粉がふる、用心しないと大事な
「中尉――マイケル中尉……どうしました?」
ヤンに肩をたたかれ、幻影はやぶれた。
「なんかコワい顔してましたけど……刺されたキズが、まだ痛みます?」
「オレが?いや……なんでもない。大丈夫だ」
「さ、助手席にどうぞ。わたしは荷台に移りますから」
助手席にやっつけで溶接された金属製のイスに、俺は腰をおちつけた。
こいつは確か、着陸に失敗して大破した武装ヘリコプターの座席を流用したものだ。
ヤンは荷台のへりに尻をのせると、機銃のない、カラの支持架につかまり運転手に「行け」の合図。
「じゃ、キサマら――2000に」
スターターの
排ガス臭い煙をもうもうと吐いて、運転手は回転数をあげエンストしないよう落ち着かせる。
とうに廃車になっていておかしくない基地内専用ジープは、サスペンションを
「一つ――聞いていいですかァ?」
トーチカをもうけた外縁部の曲がり角をゆっくりと基地中心にむけてターンているとき、ヤン中尉の声が降ってきた。
こんなところにも、補給不足の一端が見えている。
――そういや、
このうえメインの
「――あんだァ!?」
オレも負けじと荷台の方を向くことなく怒鳴り返した。
じっさい、身体をねじると、まだすこぅし、うずくのだ。
ドレッドの情婦である酒場女の銃剣は、幸いにも腸をキズつけなかったので回復が早かったが、それでもブッ刺されたものは痛い。必死になった女の馬鹿力をナメていた罰だ……。
「GTAってのは、ナンです!?」
「部隊の隠語だよォ!たいしたモンじゃない」
「夜の8時にィ、どこへ集まろうってンです!――Barですか?」
「マ、そんなトコだァ」
「……理髪店のとなりにある一般兵隊のォ?」
オレはあいまいに頷いた。
ヨークが口にした注意のためだろうか。
なんとなく、この軟弱な坊ちゃんに対して警戒する気分に。
「あそこの酒はァ、マゼものがヒドいってウワサじゃないですか!おまけにイスラム兵が嫌がらせしてェ!ナニか変なもの入れてるってハナシも聞きますよ?」
「それでもまぁ飲むフリして!ヤツらのハナシを聞いてやるのサ!なにせオゴるのにも
とサスペンションが半分イカれた連絡用ジープは、それからしばらく走って前進基地の本部にたどりつく。
本部と言ってもたいしたことはない。
バラックの兵舎に毛の生えたようなレベルで、サーチライトの監視塔と機銃座が周りに配備されているのが目立った違いだ。そしてなによりほかの建物と異なっているのは、この建屋がエアコン付きと言うことだろう。
併設されている駐車場はすでに満杯で、しかたなくおんぼろジープは
「なんだァ?――見慣れない車両がいっぱいだな」
整備の行き届いたジープやハーフ・トラック。ランドローバー。
それにこの辺では珍しいフォードのMkⅥ。
ともに見かけない部隊章が、ボディに描かれている。
それに何をトチくるったか、なんと黒塗りの「オースチンA40」や「シトロエンID19」まで。
泥のハネあげもなく、わりと見栄えのする状態で駐車スペースに鎮座している。
「こっちです、マイケル」
ヤンは俺を本部わきの通用口に案内すると、暑さを防ぐため白ペンキ塗りとなった建屋の木製扉をひきあけた。
薄暗い廊下が、目の前に続いていた。
前進基地の本部は、日ごろ事あるごとに来ているが、建屋のコチラ側には足を踏み入れたことがない。
廊下の床は、妙に
ヤンの案内でしばらく廊下をすすみ、やがてニス塗りの大きな両扉のまえで、
「――こちらです……」
この若い中尉はみょうに声をひそめ、扉を開ける。
――なんだ……?
俺は促されるまま、室内に足を踏み入れた。
とたん。
急な暗がりに目が慣れない。
どうやらかなりの広さを持つ部屋のようだ。
中央に小さな映写機があり、立ちこめるタバコのけむりに軌跡を描いて。
スクリーンには何も映されてはおらず白いまま、上映のおわった映画館のような印象。
大勢の人の気配と、黒人の体臭。
生ぬるいエアコンの風が気だるげにながれ、それに様々なオード・トワレがタバコやパイプの臭いとまじり、ひどい空気となっている。
一点、気がかりなのは、映写機の軌跡がはなつほの明るさが、中に詰める人々の軍服を――なかんずく、その肩にとまる階級章をボンヤリ浮かび上がらせていることだ。
メッシュや星。金線。つまりは佐官クラス以上のおエラいさんたち……。
そのとき、スピーカーがいきなりよみがえり、アフリカの戦闘地域にはいかにも場ちがいな、まるで朝のバラエティTVに出てくる脳天気じみたナレーションの声で、
「では――当該作戦において敵のワナを咬みやぶり、部隊の脱出を成功させた“独立系・治安維持集団”所属の『サムライ』マイケル中尉をご紹介します……」