試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【18禁版】 作:珍歩意地郎_四五四五
いよいよバラバラだった
「よぉ、遅かったな――いままでなにィしてやがッた?」
「どうせ本部のクソ共かナンかに捕まってたんだろ」
「アンタんトコの隊長が持ってきたモエ(シャンパンの銘柄)があったのに。モエ
「まだ氷室にビールが突っ込んであるハズだから、
「ンクンダ!こいつらにビールだ!」
口々に古ギツネたちは、入ってきた二人に言葉をかける。
婆さんが片手でDuvelの瓶ビールを4本、ネックを指にはさんで持ってきた。
ステンレスの氷室で冷やされたやつだ。
なんのための保冷設備かは――言わぬが花だろう。
こうした兵隊たちが大量に出す空きビンや生ゴミ。
あるいはすさまじい勢いで噴出するビールにつきものの
こうしたモノも、遺棄された処置施設のおかげで、人目に付かず処理することができる。
電気。水道。おまけに地下の運搬路……。
まったくアルファ部隊の連中は、いい場所に目をつけたもんだ。やはり良からぬウワサを流したのは、この設備を乗っ取るためじゃないかと、勘ぐってしまう――いや実際9割がた、そうに違いない。
ほかの戦場ギツネたちが、めいめい勝手にダベりだしたのを機に、俺は部下ふたりを広間のかたすみに引き寄せ、ポケットに入れておいた上物のコニャックを差し出した。
さっそくジャンがコップの中のビールを飲み干すと、軍用ナイフでブランデーの封を切る。
「――んで?ナニがあった」
オレも新しいDuvelを一本確保しながら、
「ヨークのヤツは?どうした。誘わなかったのか」
「アイツ、なんか夕方の便で手紙キテ、ふさぎ込んでル」
エグモンが、かたわらにやって来たンクンダ婆さんからつまみの入った鉢を受け取りつつ、
「それで、ソッとしておいタ」
「ふぅぬ。お前たちが浮かない顔してるのは、それか?」
俺の問いに、ふたりは顔を見合わせる。
やがてジャンが肩をすくめて口をへの字に、
「ナニ、ツマらんこってサ」
「おまえのそのザマで“つまらん”と言うことはねェだろう。なんだ?言うてみぃ」
ジャンはブランデーをすすって、かたくなに喋らない。
とうとうエグモンが略帽を脱いで薄くなりかけた前頭をひとなでしてから、
「オレたち――尾行にシッパイした」
「尾行だ?誰の?」
「教練でネを上げていた、あの若いヤツ」
「は?」
「ホラ……あいつでサァ」
とうとうジャンが口をひらいて、さも忌々しそうに、
「教練でノビていて、ジープの荷台にひっくり返っていた黒ん――現地兵のノッポ」
「あぁ……なんだ、アイツか」
俺は過酷な教練からヤンに助け出されていた若い黒人を思い出した。
育ちのよさそうな、線のほそいヤツだった記憶がある。
おそらく農村出身ではあるまい。ちゃんとした“学”がありそうな顔立ちだった。
「アイツが、どうしたって?」
「オレたち、ココに来る途中、見つけた、ヤツを」
「ほぅ?
「ヒトリ。だった」
「わざわざ
「歩き方ヘンだった。兵隊のあるきかたナイ。農民のあるきかたナイ。街中あるくスタイル」
思った通り。
自分の推察が当たったことに密かな満足を覚えつつ、
「んで?理由はそれだけか。だとしたら、スイブン物好きなこッて」
「手にファイルなんざ持ってやがったんでサァ」
ジャンがコニャックを啜り、応えた。
早くも一杯目をカラにしたらしい。
「……ファイルだ?」
「そ。司令部にあるのと同じタイプのプラスチック・ファイル。色がピンクだから、よく目立ちやしたゼ?」
「やたらアタリ気にしてた。こう、ファイル脇のシタ、おしこんデ」
「身ぶりがヘンだったから、あとォつけたんスよぉ」
「それで見失ったってのか。しかし、たまたまだろ?」
はばかりながら!とジャンは声を高め、
「こちとら偵察でおまんま食ってる身分でさァ。バレないように相当のテク、使ったんですぜ。先回りしたり、バラックの影にかくれたり」
「オレたちが失尾シタというより……マカれた」
へぇ、と素直に感心する。しかし――ありえない。
「あのボウズが偵察屋を捲くほどのテクを持っていたとも思えんな。ケッ、考えすぎだぜ……見失った場所は?」
「第三哨戒地点からすこし第二側に行ったところのバラックのハズれさ。遮蔽物もたくさんあって、気付かれァしねぇと思ったンだが……」
「偶然だろ。ま、ヨークが居りゃ別だったかもな」
「そんなァ、隊長」
「まぁ、飲め飲め……ほら」
秘密の酒場に……独特の臭いが、ただよいはじめた。
今夜、ふたりがヨークを強いて誘わなかったのも、これが原因だった。
あのレーダーでも持ってそうな戦鬼いわくヤクを
狙撃屋のラルゴも(ヤツは酒すらあまり飲まなかった)同じようなことを言っておりコフィン准尉とはよくケンカになっていたっけ。その歯止めが無くなったので“牢名主”のハリーまで吸い始めた。驚いたことに、続いてサモスまで。
「……こいつぁいいコニャックですねぇ、隊長」
暗がりで、ジャンが幾分ウットリしながらグラスの中の琥珀色をロウソクの揺らめきに透かした。
気が付けば、ボトルの中身が早くも1/3ほどになっている。
「ムカシの
「なんだぃジャン、めずらしい。里心でもついたか」
「べぇつにィ?街並みは残っているけど、顔見知りや親しい人間は、みんな戦争でばらばらに散らばって居なくなっちまった。旧友や、幼なじみ――親しい人間がいなきゃ、そこはもう他人の街さ」
「デモ、街並みは、あー残・存?してるだろ、えぇ?」
エグモントが4本目のベルギー・ビールに手をつけた。
「ムカシ遊んだ場所……友人と飲み歩いた学生街……女と待ち合わせシタ
そういえばエグモントが住んでた街は、先の大戦史上有名な空襲によって
――降下猟兵として戦い、部隊の全滅を幾度もくぐり抜けた男が……。
ムッツリとビールを飲む男の横顔をグラスの影から見ながら、
――いまじゃ報われることなく、一介の根無し草……いや、それはみんな同じか。
いくつもの燭台ゆらめく炎に照らされる、秘密のBarに集った戦場ギツネを眺めわたす。
みんなバラバラな銘柄の酒を手にし、思い思いに気勢をあげているように見える。
哄笑。
怪気炎。
嘲罵。
諦観。
皮肉。
だが。
戦闘服を着たどの背中からも、
亡魂のような……鬼火のような……。
エタノールの蒼白さを想わせる陰火が體のあちこちから。
それを陽気なフリで糊塗しているため余計に彼等は悽愴であり、無惨だった。
過去の
荒涼・悽愴たる記憶が。
あるいは自分の
それにたいする自己懲罰的な業焔に炙られておらぬ者など一人もいない。
しかし、みな身体の内側を灼かれながらも眉根をしかめ平静を取りつくろう。
その苦行を、本人たち自身もしらぬ間に行っているのが、今夜の俺にはよく分かった。
ジャンとエグモントはムッツリと手もとのグラスに目をおとしている。
幸せだった自分の若いころを、立ちこめはじめたタバコのモヤに透かし見るように。
橋のたもとで待ち合わせをしている若いエグモントが見えた。
そこに春物のコートをはためかせ、初々しく駆け寄る金髪のお下げ髪な少女。
農園で老人の手伝いをする子供のジャン。
胸の大きな年上の姉さんが、ふたりに休憩のおやつをのせたお盆を運ぶ。
――ヘンだな……?
そこで初めて気が付いた。
――なんで俺は……こんなに連中の考えていることが分かるんだ?
ハリーの苦悩も。
片目のコフィン准尉の捨て鉢も。
なんとか母国の原隊に戻りたいと身をよじる中佐の
いや、見えるというのも違う。
皮膚感覚で知覚できる――とでも言うのか。
――そうか……ヤツらが喫っている“グラス”のせいか。
その副流煙じみた効果が、まるでアヘンによって神経が研ぎ澄まされるように、知覚が
ふと。
今度は、どうして
まるで“傭兵稼業”なんてものが、自分の職業ではない気分。
そう、もっと平和な世界で、別の仕事をしてたような気がする。
さらには酒場女など縁のナイ俺が、女に苦労させられていたような……。
“
ジャンやエグモントが、まるで陰気な3D画像のように生気がなかった。
傭兵どもの哄笑が、耳にワァンと響く。
目の前がクラクラとゆれ、星がチラチラと舞って。
――やぁ……やっぱりボクはツィてるねぇ。
秘密の酒場。
その薄暗い空間のかたすみから声がした。
みょうに幼い声。シャバっ気のある、無垢な調子。
だれだ――また新しいヤツが、会員にでもなったのか?
――本来ならキミのところの
もったいぶったようなセリフ。
事情を知っている上から目線な口調。
「――おい、ジャン」
俺はかたわらの小隊長に声をかけた。
「なんか、新人でも
だが、問いかけた相手は返答はおろか、まばたきひとつしない。
「――エグモント?」
もと降下猟兵あがりの岩屋のような男も、同じように凝固している。
俺はひそかにアセった。
これが――もしや
俺は秘密の酒場にたむろする戦場ギツネたちに向かって、
「オイおまえら、しっかりしろ……なんかヘンな声がするぞ!」
――あいかわらず、ご挨拶だねェ……。
まてよ?と俺はしばし考え込む。
この声……どこかで聞いたことがあるような。
――ほんとうなら、ココにボクは来れないんだ。
酒場の片隅。
そこにふたつの金色な輝きが灯った。やがてそれがキュゥゥッ、と細まって。
こいつ!
オレはハッと思い当たった。
こんなトコロまで!という衝撃。
――そうさ?この
「ケガれた場所だって?」
――今のキミなら見えるハズだよ?……ホラ。
促され、あいかわらず傭兵たちが凝固する秘密の酒場をみわたした。すると……。
いる。いる。
影とも、黒煙とも分からぬモノが、もうもうとあたりに立ちこめて。
目の場所もわからない黒いアタマから、ハッキリとした視線を放射して傭兵たちをニラみ据えている。そしてその足もとは定かではなく、うっすらと消えている。
――この場所で死んだ現地民の怨念さ……そうとう恨みを買ってるねェ。
「そんな……まさか。ここの傭兵たちが殺したのか!?」
――いいや?それよりズッと前のことさ。でも、彼等の
のろい。
信じられん。
まさかこの世にそんなものが、本当にあるとは。
「コイツら、ずっとこのままなのか?」
――さてねェ?自分たちを惨殺した暴虐な“白いダンナ”たちが悲惨な死をとげて、地獄の業火に墜ちれば、あるいは。
「そんな……」
――べつに珍しいことじゃないさ……そら。
目の前が数瞬、暗幕をおろしたようになにも見えない。
肩のあたりが寒く、全身から力がヌケて。
と……。
耳もとで小鳥の声がした。
湿った草をふくんだ風の気配。
土の、木々の香り。心地よい葉擦れの音。
おそるおそる目を開けてみると……何のことはない。
私の身体は今だ墓園にあり、先祖代々の墓のまえでうずくまっているのだった。
「隊長……隊長、もういいですか?」
背中から声がした。
「あまりココにいると街への戻りが遅くなって、また征服民にカラまれますぜ」
ふり向くと、陽をさえぎる位置で、護衛役であるレジスタンスの若者が春服の胸に『恭順市民』の大きなワッペンをつけた
征服者に対して強力する立場をあかす
無害な奴隷を自称する代わりに、安全と幾ばくかの収入を保証される、下から二つめの身分階級。人間の形をした“便利な荷役獣”あつかいな存在。
「さ――
私は目前の、占領暴徒によって半ば
死んだ妻や子の歳を数えまいとはしたものの、人間として、これは仕方ないコトじゃないか。
星霜うつり――世は流れ。
人は去りてまた還らず、
「そうだな……それじゃシーア、サフィ。またな」
ヨロヨロと私は立ち上がる。
若いときのムリが祟って、足腰はボロボロだった。
立ち上がるとき、ヒザに痛みが
うしろから素早く支えられるが、逆にジジイ扱いされたようでイラッとし、
「触るな!私は――そんな
「……ヨロけたクセに(ボソッ」
「タマタマだ!たまたま!!」
直刀を隠した仕込み杖を握り直すと、私は護衛役の若者をしたがえて墓園の外にむかった。
征服勢力によって無惨にたたき壊された、もとは壮麗だった石門のちかくには、送迎用の古い巡回馬車が停車しており、年老いたラバが3頭、つまらなそうに繋がれている。
御者台のうえでボロをまとった老人が居眠りをするこの馬車は、なだらかな丘の下にある鉄道馬車駅と1時間に1本の割合で連絡しているのだ。
私と護衛役の若者は、片目に眼帯をした御者に運賃をわたし、貸し切り状態で8人乗りの箱におさまった。
穴あきのギシつく床。
座席の革張りはキズだらけ。
ひじ掛けの一部は無くなっている。
以前は王都の予算から巡回車も立派なものだったのだが、いまは霊園の募金活動でほそぼそと年寄りのボランティアたちが運営しているだけだ。そのボランティアも、オークら征服民のイヤがらせで途絶えがちと聞く。
御者が、発車5分前のラッパを吹いた。
荒れ果てた霊園は、ほかに人影もない。
夏も間近な、午後のひととき。
以前は門のまわりに花屋や線香・蝋燭屋の屋台がところせましと並びたち、あるいは喪服をまとった遺族たちやピクニックの家族連れでにぎわったものだが、侵略され、没落した国の墓所となった今では見るかげもない。
遠くで鐘がなり出した。
鐘楼に吊られた鐘の音ではない。
そんなものはとっくに鋳つぶされ、性具にされてしまった。
いまは塔の高みから廃兵の
「――ハィ、発車ァ」
ピシリ、と手綱がラバの
老いぼれラバとめっかちな御者があやつるガタ馬車にゆられ、ポコポコとならだかな丘を下ると、しだいに人の流れが多くなってゆく。
もとはといえば、霊園に付属する神殿の門前町だった。
かつてバザールの立つ日には、参詣者はもちろん、さまざまな商人や買い物客でにぎわったものである。皇国が征服された今では国教の神殿は破壊され、一部が売春宿や奴隷市場として機能し、好色な金持ちやヒマ人が集うエリアとなっていた。
巡回馬車が通りをゆくと、車窓からこの地区特有のさまざまな光景が飛び込んでくる。
淫らな衣装をまとった女が頭に荷物をのせ、これ見よがしに尻をふりたてて歩く姿。
もとは貴族の屋敷だった壮麗な建物が、アヤしげな商品を軒先にならべて。
飾り立てた見事な二頭立てを自慢げに手綱さばきする着飾ったオーク。
陽だまりに身を寄せあい、虚ろな目をしてジッと動かない乞食たち。
「売約済」の札を下げ、数珠つなぎにされた女たちの群れ。
「――さぁさぁ、幼女のマンコが
「見てって見てってお客サン!ついてるお値段から4割引き――4割引きだよ!」
全身に毛を生やし、長い耳をもった幼生が二匹。
鎖つきの首輪でつながれたまま身を寄せ合い、オドオドとした目つきで道行く人々を見ていた。
たぶん、西の方にある砂漠地帯から狩られてきたにちがいない。
かつて旧友が指揮をする“虎”部隊が駐屯していたエリアだ。
そうかとおもえば数十mはなれた簡易な競り台の並びでは、売り手たちが競い合うように、
「熟女だよゥ!正真正銘!貴族の奥方だよゥうう!――メイドにヨシ!乳母にヨシ!オナホールにサラによし!」
「えぇ、妊婦は如何かね?妊婦は!……黒んぼの
デップリと肥えた中年男が。
あるいは甲羅をへた遣り手ババァが。
果ては商社の番頭とも思える痩せた
いならぶ群衆を前に身振り手振り、声をカラして“商品”をアピールしている。
女ばかりではなかった。
すこし離れた場所。
そこでは明らかに別種な客引きが、奇妙な節まわしで声高にさけんでいる。
「――ショタはどうだい!美麗なショタはぁぁ!上品な紳士・淑女の
屋台と言うよりは簡易な出店といった装い。
往来に出すには豪華なシルク製の天蓋ベッドが設置され、午後の日射しを受けて真珠色に
「童貞・純潔は“おりがみ付き”ダァ!この
そうかと思えばあちこちにある別の出店では、執事然とした若い男女が声を競い、
「このフェミ・ショタを見てださいまし!タップリとお薬に漬けましたワよぉォォ!」
「甘ァァァァァァい、男の
全裸にブルマだけを穿かされた美少年。
はたまたガーターつきの黒ストッキングのみをまとう姿。
あるいは薬剤処理をしてメス体型に身体を改変させられた“美女”たち。
踊り子の衣装を纏うものの、股割れとなったハーレム・パンツからは小さなシンボルが。
ならびあう競り台の上で
その周囲では獣人たちのご婦人が、目に文字通り獣欲をたぎらせギラギラと光らせて……。
しかし、この人出はどうだろう!
しばらくぶりの墓参だったが、いつもこのいかがわしい街は、こんな下衆野郎で賑わっていたろうか。
心なしか普通の女将さんや、いかがわしい場所にあるまじき自由身分な種族の子供たちまでチラホラと。
「えぇ、奴隷まんじゅう、奴隷まんじゅうはいかが?ホンモノの臓物入りだよぉ?」
「美少年の精につけこんだ“童子タマゴ”!いまなら3個セットがお得――」
そのとき、連絡馬車は息も絶え絶えといった具合で奴隷市場のかたすみにある噴水広場に停車した。
御者台からヨロヨロと声が降ってきて、
「ダンナがたぁ、今日はここで終点でサァ!」
バカな。
まだ駅までは、相当に歩かなくてはならない。
さすがに私は不満な調子で抗議して、
「おいおい、どうしたことだ?鉄道馬車の駅までは、行ってくれぬのか?」
「きょうはおエラ方たちの“ご行幸”があるんでサァ」
あきらめたような声が続き、
「こっから先は人出が多くて、とてもとても……カンベンして下され」
馬車をおろされた我々は、勝手しったる旧市街を近道して駅へと向かう。
ここらへんは最近治安が悪くなり、夜間では殺しも普通におきているエリアだ。
薄暗い横道。あちこちに立ちこめるアンモニアの臭い。見捨てられた“行き倒れ”の姿。
通り過ぎる我々に、鋭く抜け目ない視線をおくる、ヒマをもてあましてそうな若者たちの一群。
歩いてゆくうちふと、行く手にある小さな三叉路で、美味そうな匂いがあたりに漂いだした。
なにかと見れば、大繁盛のモツ鍋屋が店先に大鍋を出し、首輪を巻いた少女のかけ声で客をさばいているのだった。
客寄せのためだろう。
黒ずんだイボ乳首をもつ少女の“ちっパイ”は半見せ。
それが周りで腕をすする獣人たちの好色な視線を思うさま吸いよせて。
「はいよォ!
威勢のいい、よく通る声。
溌剌といった感じでつぎつぎに注文をさばいてゆく。
かとおもうと一転、声カン高い声の調子は
「おぃコジキどもォォォ!匂いだけ嗅いでンじゃねぇよ――盗っ人がァ!」
屋台を遠巻きにうかがうボロをまとった群れ。
ほおは落ち、目だけひからせる痩せ衰えた男たちが思うさま
少女はすばやく身をかがめて腕を一閃。
歩道に敷かれたレンガのかけらを一群のひとりに手ひどくぶつけた。
「カネが無ェならサッサと失せやがれ!クズどもが……あ、はァい!ミノお代わり?まいどォ!」
大のおとながふたりでようやく持てるような大鍋が、煮汁でグラグラとたぎる。
まっかに焼けた炭火。ツプツプと次々に浮かぶ泡。そのたびに弾ける美味そうな香り。湯気。
まわりには様々な人種や職業の人間や獣人が、立ちテーブルに身を寄せ、または粗末な椅子に腰かけ、目の前のひと腕に余念がない。
額にツノを生やした有角人の兵士。
筋肉隆々な、武装したオークの一団。
全身をヘビ状の装甲でおおわれた奇妙な種族。
あるいは「使用人」のお仕着せを着た人間の従者。
銅貨や銀貨が吊り下げた洗面器を拠点にいそがしく行き交い、みるまにそれが重くなると最小限の釣り銭をのこし、背後のタライに汚水のようにブチまけられる。
タライの前では、これも首輪をつけた少女たちが、こちらは等しく壁からのびるクサリに繋がれ“
その傍らではドッカリと、店の主らしいオークがテーブルに置いた巨大なビールジョッキを横に店のようすを抜け目なく監視していた。
「オィ!――そこのジジィ!」
苛烈な美少女のヒリヒリとした視線。
それが敷石のはげた路地にたたずんでいた俺をとらえた。