試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【18禁版】 作:珍歩意地郎_四五四五
まるで休日の貧乏騎士が台所を
鍛錬と
おそらく、コイツも周囲に見栄を張るために、こんな体格に合わない剣を佩くのだろう。それが証拠に上死点で腕が大剣を支えきれずプルプルしてるではないか。
――まったく……「型」もナニも、あったもんじゃァないな……。
私は土下座の姿勢からコッソリおきあがった。
ついで忍び足をつかい気配を消して小柄な騎士に近づく。
そして、その背後ギリギリをとり――“ヒザかっくん”を。
「のわァ!……っっ!」
みょうな悲鳴を上げて腰からくずれ、小柄な騎士は無様にひっくり返った。
仰向けのまま、外れなかった甲冑の重さにバタバタともがき、
「貴ッッ様ァァァ!ナニを!?」
「サーセン!サーセン!」
部下に助けおこされる騎士に向かい、私は卑屈に平身低頭してみせる。
「イケませんナァ……歳ィとると、足腰ヨワくなって」
「はぁ!?だからといって!」
小柄な男はようやく起きあがると、甲冑の具合をなおしながら、
「――儂にすがるはコトないだろうが!えぇ?」
「いやぁ、騎士サマは頼りがいありそうでしたから」
「キサマのスカスカな腰骨などしるか!このボケ老人が!」
「そんな殺生なぁぁ……騎士サマったら、ツンデレいけずぅぅ……」
「誰もデレとりゃせんわィ!離れろキモチ悪い!まったく、これではカッコがつかんではないか!」
そこで私は確信する。
このトガーシとかいう三流騎士。
この男もまた“落としどころ”を探っていたのだ。
それはそうだろう。下層区とはいえ人ひとりを斬殺したとあれば、事務手続もメンドウにちがいない。
「あぁ?貴様ぁ、コロされたいのか!んぅぅぅ?」
大剣をどうにか鞘に納めた小柄な騎士は、持っていた指揮棒で私の頭をピシャピシャ。
「あいたたたぁ……カンベンしてぇな……オカ~ちゃぁぁぁん……」
私はできるだけ“お笑いのボケ役”で、それに応えてみせた。
まわりを取り囲む槍兵からも、おさえきれぬクスクス笑いがもれる。
正直、こんな道化のふるまい、べつにドウということはなかった。
過去にはもっと屈辱的な扱いをうけ、キレそうになった経験を幾度もくぐりぬけてきた。
そう、昔の自分なら激高して仕込み杖を使った“状況”だが、下野生活が
――いつでも殺せる相手に、本気で怒るコトもない……。
まさに、コレだ。
ヒザに故障を抱えてるとはいえ、その気になればこんな憲兵隊の一群。
この仕込み杖で全員の頸動脈をハネ斬って瞬殺だろう。
しかしその後の始末を考えれば、どうなる?
物見高い下々の口に、戸は立てられない。
ここは私がバカになって丸く収めたほうが、世を忍ぶ身にとって何倍も価値がある。
ナンならこのアホ憲兵隊長ドノと顔を繋いでおくのも
それにどうもこの男。卿を名乗るにしては、すこしばかりチョロくないか……?
「隊長サン、隊長サン」
またもや私は、なるたけ下卑た笑みをうかべ、相変わらず口をへの字にムリな威厳を出す男に脇差しの間合いまで近づくと、
「ナニトゾ……ご無礼の段は、コレにて……」
コッソリ懐から出した金貨を2、3枚。
「む……む……」
小柄な騎士の渋面が、シマリなくほころびかける。
顔をあさっての方にそむけ、抜け目なく金貨をポケットにいれた相手は、部下たちに再び装備を調えられながら、
「そのほう、なかなかモノが分かっているな……名は何と言う?」
「へェ。マイコー、と」
「マンコーか。なかなか洒落た名前じゃの。覚えておくぞ?」
「いぇ、そのマイ――」
「全隊、整列!表通りの警護にもどるぞ!」
憲兵隊の一団は来たときとは裏腹に、ガチャガチャとものものしい音を立て、まるで周囲を威圧するかのように歩調をそろえて去ってゆく。
貧しい路地ウラの湿った広場に、ホッとするような気配がただよった。
ただし件のロリ婆ァは険しい顔をして、去ってゆく憲兵隊をニラみつけたまま。
やがてその視線が(しようもないね!)とばかり八つ当たりに私の方へ向けられるや、
「なんだいチクショウ!――余計なコトぉ、しやがって!!」
「そりゃねェぜ、シャーリー……」
すかさず客の一人が、
「このダンナが居なかったら……お
「ンだンだ、やべぇトコだったぞォ?」
トゲ尻尾のある竜人がウンウンとうなづいて、
「このサギs……じゃねぇ、拝み屋サンたちに感謝しなきゃなんねェど?」
「ヘッ!頼まれたって、感謝なんかするもんかィ!」
「そりゃァお前ェ、恩知らずって――」
「あンだってェ!?」
遠くから、こもったような鈍い鐘の音が響き始めた。
宮殿ちかくに半壊のままそびえる、中央大聖堂の鐘楼だ。
聖別された本来の大銀鐘は鋳つぶされてしまったために急造の鐘が撞かれているが、相変わらず酷い音色だ。以前の音色は、胸のなかをすすぐような響きだったが、いまは邪淫の気を
次いで、それに呼応するかのように、あちこちの鐘楼が鳴りはじめた。
澄んだ、清々しい音色もつ鐘たち。
こちらの梵鐘は
「あの鐘は?」
私は近くにいた獣人にたずねた。
「あぁ……“お行列”が、はじまるんでサァ」
「アンタ、知らないのかね?先週から触れが回ってたろ?」
「みたトコ、アンタら北のほうから来たようだな……ちがうかい?」
「着てるモンもリッパなモンだぁ。ほんとに御利益ある拝み屋さんなんだナァ」
私は詮索好きな獣人たちにあいまいにうなずいてみせて、
「じつは……先日、久しぶりにココへ戻ってきたばかりでして」
「なら知ンねぇか。なァに、
「禁呪施術とな……?」
「歳ィとらず、永久に若いまま慰み者にされてるらしいズラ。表に出すのは初めてなんで、みんな物珍しがって見物にでかけてるト」
「よく分からないが……あんたたちは、見物に行かないのかね?」
私の問いに獣人たちはチョッと顔を見合わせてから、そのなかの一人が声をひそめ、
「トンねもねぇ、はぁ――
「ナンでもね?旧王政に使えていたスゴ腕たちが、また戻ってきてるってハナシなんだ」
えっ、と私は思わず眉をひそめた。
我々レジスタンスも知らない独立した戦闘ユニットが、まだ残存しているのだろうか。
「へ、へぇ?旧王政のエリート部隊……でもそんな連中、もう歳だろうに」
それがサ?ともうひとりが額にある第三の目を輝かせ、
「なんでもソイツらも正真正銘“本家の”禁呪をされたんだと。若いままで、しかも“不死身”だってハナシさ。それでお役人ども、ブルっちまってる」
「へへ。ふだんオレたちにエバり腐ってやがるくせに、ザマぁねぇや」
そうだそうだ、と異形な客たちの同意。
「しかし……それと、アンタらが見物に行かないワケとが結びつかないな」
「だからサ――」
さらに別のひとりがジレったそうに、
「今回の“お行列”は、ソイツらに対するエサなんだって」
「なるべく惨めなザマを見せて、おびき寄せるのがヤツらのネラいだァね」
「だもんで、秘密衛視や法律の通じねぇ“
「ただでさえ、
「不審尋問にかこつけて、国外に売りトバされたんじゃ間尺にあわねェってモンよ!」
熱っぽい口調で、くちぐちに恨み節はんぶんな説明をする下層区の人びと。
「アンタらも気をつけなよ?」
「ありがとう、諸くn……みなサン」
は!とココで先の
「その人ら、そんなコトでビビるようなタマじゃぁないよ――そうだろ?」
青年のほおに、ふさのついた尻尾をそよそよと這わせて、
「まぁ、後学のために、見に行って御覧な。人も集まってるし、商売になるかもしれないよ?」
「フェリス!手前ェ、いい加減なコトを!」
「ヤめときなアンタ、この
「おや、ご挨拶だネェ!」
そのものズバリ言われた女は、ピンとのばした尻尾の毛を逆立てて、
「アタシゃあんたらのタマ無しぶりを正直に言ったダケじゃないのサ!」
またモメはじめる路地裏の広場。
いいかげん愛想が尽きた私は護衛役の青年をうながし、コソコソとその場から転進。
背中に言い争うこえを聞きながら、足早にその場所を去った。
カビくさく冷え冷えとしたトンネル状のアーケードをくぐり、
頭上に洗濯モノの万国旗がならぶ立体迷宮のようなつづら階段を下り、
上へ上へと建て増しされた結果、一年中陽の当たらない区画を、トボトボと。
「なぁ……」
「はい、御前」
「このエリアって、こんなだったか?前から……」
さて、と護衛役の青年は森閑とした回りの建物をながめわたし、
「自分は、もとからこの区画には縁がありませんから」
「あぁ……そうか。おまえは法学院に籠もりっきりだもんな。スマんな、引っ張り出して」
「いえ。御前と一緒だと、いろいろ面白い体験ができて勉強になります」
こいつめ――言いやがるぜ、と伝法口調でとなりに歩く背の高い若者を見れば、スマし顔でソッポを向いて。
もともと、この青年は旧王政の法学院を系譜にもつレジスタンスの若手で、表向きは現王政の下っ端役人をしている。
まったく何と言うことか。
回復術がつかえる法士が――たんなる役所の事務員に!
「コラッ!ソコで何してる」
いきなり背後から声がかかった。
ギクリとふり向けば、衛視の格好をしたふたり組が槍を構えてこちらに向かってくるところだった。
「ココは立ち入り禁止だぞ!許可証は!?」
「立ち入り禁止……どうしてです?」
「はぁ?“お行列”の警備のためだ。住人もふくめ、今日は全員立ち退きとなっている。知らんのか」
あぁ、と私はようやく納得がいった。
どうりで。下層区にしても、人が少なすぎると思った。
私はさきほどトガーシ卿をやりこめた時のノリをつかって、いかにも下手に、
「すいやせんネェ。表通りに出たくて近道をしたかったもんですから……ナニね?きのう、この地に着いたばかりでして……」
「身分証!」
衛視たちはとりつくしまもない。
私と青年は書き付けを差し出した。もちろん、これは偽造されたものだ。とはいえ、レジスタンスのコネから正規の書式を入手し、印鑑は精巧に偽造したものを使ったのだが。
「怪しいな……詰め所までちょっと来い!」
ふたり組の一方が槍を突きつけた。
「そんなァ。そうだ!トガーシ卿の許可も、もらっていますよ」
「あんな憲兵隊のワイロ取りと!われわれ衛視隊は関係ない――ついてこい!」
ものものしく武装したふたり連れの手で、急造の地区・警備本部らしきところまで連れて行かれる。徴集されたらしい市民が守るいくつもの臨時警戒線をかたちづくった柵をぬけ、進むにつれ人の気配は増し、バリケードごしに群衆がチラホラ見えるようになった。
さいわい、衛視の地区統括者はものの分かった獣人で、地区通行証を発行しながら
「ウチの隊員はどうでした?まさか……ワイロなど要求しなかったでしょうな?」
ダン!とスタンプを押してふたり分の通行証を差し出す。
「いえ――見事なものでした。若いのにしっかりして」
わきで控えていたふたり組は、私の言葉を聞くと浮かびかかる微笑を必死に噛み殺すのが分かった。
獣人の上役は、黄色い牙がのぞく唇からため息をつきながら
「最近は衛視も、憲兵隊も、腐ってるんですよ。とくに
「セカンド、ですか……見たことありませんね」
「もうじき現れる“お行列”の山車に乗ってますよ。ドレイド卿と一緒にね」
「ドレイド卿……」
「枢機院をカゲで牛耳っているキレものです。若い王子に何かと良からぬコトを吹き込んで骨抜きにしている――おっと、私がこんなコトを言ったなんて、言わないで下さいよ?」
私と青年は礼を言って衛視の詰め所を出た。
ふたり連れに連行された側と反対側の出口から出ると、打ってかわって街は雑踏に湧きかえり、まるで祭りの日の往来もかくやと思われる賑わい。陽はすでにだいぶ西の方にうつり、高い建物から伸びる午後の長い影が群衆の上に落ちている。
しかし、その群衆といえば……。
これから旧王政の王女たちが慰みもの、見せ物になるというのに悲壮な感じはみじんもなく、かえって浮かれ騒ぐ理由ができ、喜んでいそうな気味すらある。
以前のわたしなら、憤懣やるかたなくひと暴れしそうなものだったが、
『おせんにィィ~~~キャラメールぅぅ~~』
『つめたぁぁぃ、アイス・ここぁァァァ!~~いらんかぇぇぇ~』
『王都名物ぅぅ~~めいぶつはぁぁぁ!~~本家のイカ焼きぃぃぃ~~どうだ!~』
『ガラスのめだまァァ~~あぁぁぁ~~~あっ!よぉぉぉ~~く見えるぅぅぅ~~よほォぉぉ』
売り物によって決められた節まわしで、人混みをゆきかう行商や移動屋台。
親に買ってもらった笛や太鼓をうちならしつつ、雑踏のあしもとを走り抜ける子供たち。
ふと、わたしはコンゴで見た聖人の祭りを思い出した。微妙だったカクテルの味もいっしょに。
――まてよ……コンゴ?……どこだったか。
首をひねる間もなく、やがて彼方で(ワァッ!)というひときわ大きな歓声。
人々の、獣人の目が、いっせいに大通りの彼方に向いた。
「――来たぞォ!」
そう叫んだ竜族の獣人。
得意の首長な背丈を利して、群衆の頭の海から顔を突き出し、彼方を見つめている。
「よぉよぉ!どんな具合なんだィ――教えてくれよ兄ちゃん!」
「
「よしな。サマなんてつけるとセカンドがうるさい。
「やっぱクサリに繋がれているのかい?」
「くわしく教えてちょうだい!」
まわりから口々にせがまれ、この青年は両の角のあいだにある青い前髪をちょっと揺らしていくぶん得意げに、
「
「王女サマ……王女はどうだい?」
「旧皇家のヒトかどうか分かりませんが、いずれもハダカの女たちが一つの山車に2~3人、頭の上で手首を繋がれ、脚を大きく開いてちょうど“人”型にぶら下げられています」
そこで急に、この竜族の青年は額にあるルビー色の感覚器を陽光に光らせて、
「アッ――居ます居ます!規模のおおきな一番奥の車です。コウモリみたいな大男が、女性の首輪からのびるクサリを握っています……ッ!」
もう少し前へ行こう、と私は護衛役の青年をうながし、身をよじり、すきまをかき分け、舌打ちや罵声をあびつつ、私は駅伝レースで仕切られる時のような警戒線の最前列へ出た。
物見だかい群衆、群衆、群衆。
ヒト族も獣人も、いずれもどこか好色な笑みをうかべて。
やがて来るであろう山車が見えるのを、いまや遅しと待ちかねている。
プシャァァァァッ!
水の勢いよく
見れば、その場所からは大通りをはさんで中央広場の大噴水が間近となるのだった。
陽光にきらめく水が
――まて、なんだアレは……。
ふと、眉をひそめた。
大噴水は、私が最後に見た時と、すこし様子が違っていた。
華奢なケーキ・スタンドのように、中央の細い柱で水盤をたてにいくつも繋ぐスタイル。
その各層の水盤のフチに、見慣れないモノがいくつも等間隔にならび、まるで聖堂の吐水像めいて。
青銅づくりと見える像は、いずれも女性だった。
各人各様、
両腕を頭のうしろにおき、よがり声を出すような、その口から。
あるいは巨大に肥大化され、ウットリとした表情で揉みしだくその
はたまた四つん這いになってうしろを向き、片手で尻をひろげて見せつける、その
はたまた、しゃがんだ脚を広げ、尻孔に棒を深々と差しこむ姿でうしろに反り返り、二本の指で拡げる女の秘部から。
太さも勢いも色々に、一すじ、ふたすじ三すじと水を吹き出して。
そのとき、ハッと思い当たった。
「アタィの母親も、あんなみっともないカッコで……」
「中央公園の噴水に行ってみな!そこでM字開脚の――」
もしや、と私はイヤな汗をかいた。
あれは……人間を殺して鋳型にした銅像ではないのか。
そこに水のパイプを通し、カランがわりにするという悪趣味な
彼方から、ホイッスルや景気づけのラッパと共に歓声が近づいてきた。
力の強い山牛に牽かれ、巨大な4つの車輪を持つ山車がゴロゴロと、地響きをたててやってくる。
時折鳴るムチの音。
それにつづく女の悲鳴。
ワッ!
群衆の中から起こる、下卑た哄笑。
なにやら叫ぶ声。それにつられてまた哄笑。
やがて、巨大な山車のコンボイは、ゆるゆると近づいてきた。
それは、一種の移動式ステージだった。
下層では場を盛り上げるためか、淫らな衣装をまとった半裸の踊り子たち。
山車の楽団に合わせて、きわどい振りつけの扇情的なポール・ダンスを披露している。
それら幾つもの層をへて最上段では、竜族の青年が言ったとおり、おおまた開きに拘束された女性たちが
だがどうしたことか。
打たれる女たちの方は、苦痛の悲鳴というよりは、抑えきれない“よがり声”とでもいう風に、艶めかしい吐息混じりの悲鳴を上げるのだった。
おそらく山車そのものにも術式がかかっているのだろう。
周囲の騒音にもかかわらず、最上段の会話がよく聞こえた。
「ダンナぁ、地方のひと?」
となりに居た赤ら顔の中年男がでっぷりした腹をゆすって、
「当ててみやしょうか……単なる“お上りさん”じゃねェな?いままでこんなコトに縁の無かった、地方大学の博士教授かナニかダべ?」
ここは相手のカンちがいに乗ってみるに如かず。
なにか有用な情報が聞けるかもしれない。
この手の町人は、耳がはやいモノだ。
「なぜ……お分かりになりました?」
「言わなくても分かりまサァ!」
赤ら顔の男はイチゴの様な鼻を自慢げにすすって、
「まず着てるモノが型おくれ――ただし貧乏人って風でも、ナイ」
「……ほぅ?」
「物腰は下町の野郎とはホド遠い。もっている杖やポケット・チーフも品がいい」
「……ふぅむ」
「没落した貴族みたく尾羽打ち枯らした感も、ましてや投棄に失敗した商人って風でもナイ」
「……うぬぬ」
「するってぇと、世俗にあまり興味のねぇ研究者だ。着るモノや評判にとんちゃくしねェ。小金を貯め込み退職した教授かと思ったが、目の光りが!そこまで老いぼれちゃ居ねぇ事をバラしてまサァ」
私はこの町人の眼力に脱帽する。
てっきり酒焼けをした商店街のオヤジかと思ったが、どうしてどうして。
「あっしァね?商店街でケチな乾物屋を
「魚や肉の干もの、とか?」
「そンなツマらんモノじゃァありません!」
中年男はデップリと太った腹をさらにふくらませ、
「辺境のさまざまな香辛料!
「なるほど、だいぶ手広く商ってらっしゃるのですな?」
私は、いかにも感じ入ったという素振りをみせながら、
「いろいろな人物を見て目を肥やすワケですなぁ……」
そりゃァ、もう!と赤ら顔の男は手を打ち鳴らし、
「公金を着服した王宮の側用人……相場に失敗した令夫人……旧政で名を轟かせた元騎士……」
最後の言葉を、私は聞こえなかったフリをした。
赤ら顔の中年男も、素知らぬ風で近づく台車を眺めている。
「来ましたゼ……観てごらんなせぇ」
1台目の山車が目前に近づいた。
大きさの違う四本脚テーブルを、何段もタテに積み上げたような形。
その各段にあたるステージには、ヴェール状の様々な薄モノを纏った踊り子。
優美にヒダをゆらし、宝飾品に飾られるおのれの裸体を、自慢げにひけらかして。
その最上段の台座では、全身緑色をした半裸の美女が「ロ」の字型な金属製のワク中で「人」の字型に拘束され、まさに囚われの姿で
美女が暴れるたび、ロの字ワクと身体を繋ぐ革の装具がミリミリとなり、同時に牧場の牛を思わせるカラカラとした音域のちがうベルの音が鳴りひびいていた。
周りの観客たちの興奮と歓声のボルテージが、いやがうえにもあがってゆく。群衆の中には人目も気にせず露骨な前後運動をする者も。
「ほゥら――よくごらんなせぇ、女のオマンコと
赤ら顔の中年男が、声にいくぶん好色の気配をのせ、
「ぶっとい
なるほど。
よく見ると、西の陽光を受けてキラキラと愛液に輝く股間には、子供の腕ほどもありそうな性具が深々とハメ込まれ、女がもがくたびに、その尾部に付けられたベルの音が、カラカラと群衆の上に降り注いでいる。
「あれは聖堂の銀鐘に“魔導邪術”をかけて淫具に仕立てたものでしてね」
中年男は、いかにも恩着せがましい事情通な顔をして、
「あの道具を突き刺されたまま、
ずいぶんお詳しいようですな、と私はそれだけ返すのが精一杯だった。
壇上の女性、どうもどこかで見たような……知り合いの娘だろうか。
中年男は、女性の咥える性具に私が興味を持つと思ったらしい。
「ナァに、古道具でも、ごくたまァに持ち込まれる品ですから……ただ、アレだけのシロモノになると、ずいぶん高価《たか》くつきますぜェ?」
『無礼者!その手を……はなせ!』
ステージの上で、女性が叫んでいた。
美女とはいっても、いい筋肉の付き方をしている。
もとはといえば、王女直属の近習騎士だったのだろうか。
『おやおやァ……そうはいっても秘書官どののオマンコは……」
そばに立つ責め役とみえる男が女性の股間をワザとらしく凝視しつつ、
『ディルドーを美味しそうに頬張り、はしたなくヨダレを垂らしておりますが……』
『ぶっ、無礼な!王女近習騎士・親衛秘書官であるワタシを……クッ……いっそ殺せ!』
『はぁ~い“クッころ”入りましたぁぁぁ!!』
男のパフォーマンスに「ドッ!」と観客が沸いた。