※この作品はR-18です。

試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【18禁版】   作:珍歩意地郎_四五四五

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サボっていたワケじゃないんですよ?
単に難しかっただけなんです(力説)。


     〃    (5:微エロ中尉

 ――おちつけ……おちつけ私……。

 

 槍を突きつけられ、水を止めた大噴水の水盤に横付けになった山車から“わたり板”をつかって移乗しつつ自分は考える。

 

 ――かつては、もっと絶体絶命な状況(とき)を切り抜けたことだってあったはずだ……。

 

 ボケ老人の物乞いなフリをしてヨダレをたらしつつ。

 あるいは狼狂(ものぐるい)のマネをして、周囲の哀れみを買って。

 プライドという下らぬモノを捨て去り、見切ったわずかなスキを。

 そこに活路を見出し、文字通り何度も“危ない橋”を渡ってきた。

 

 足もとに蝟集する幾千、幾万もの見上げる視線を浴びつつ、プワンプワンたわむ木製の板をどうにか渡り終え、水盤の最上段に降り立ったとき。

 

 すでに異変は、はじまっていた。

 

 先をゆく台車で見かけた囚われの者たちが、水盤のへりにならぶ銅像たちのあいだに等間隔で割り込むような位置に拘束されて、あるものはうなだれ、あるものは泣き叫んでいる。あの気丈だった女騎士官も間歇的な規則ただしさでビクビクと身体をふるわせて。

 

 やがて――。

 

 気を失ったままのフィオーナが渡り板を運ばれ、私の目の前で水盤の床に横たえられた。

 わたしはできるだけオロオロと力なく、

 

「……いったいナニをする気ですかのぅ」

「かってに口をきくな!下郎が!!」

 

 すぐさま、槍を構えるおおがらな第二憲兵隊のひとりにわき腹の辺りを軽く刺された。

 “おさる”のジョージに、そして酒場の女にやられたのとおなじ場所。

 

 ――いってェェ……てめェ、明日の新聞のったぞコノ野郎。

 

 私の中の意味不明な情動。

 オ(・)レ(・)は殺意を気取られぬよう、うつむいたまま憎悪を煮やす。

 おちつけ。ここで怒りを煮やしたら、敏感な者に気取られる……。

 

 

「王女を、醒(さ)ませ!」

 

 ドレッドが腕を一旋、道化服のジョージに命令した。

 ハイハイ、とヤツは白手袋をはめた手でドサクサにまぎれ、無残に施術された少女の肢体(からだ)を撫で回しつつ、鼻の下に香水瓶のようなものをあてがった。

 

「う……う……」

 

 王女は横たわったまま、苦しそうにゆっくりと首をふり、やがて目を開けた。

 

「あ……あぁ、お客さま……メスどれいフィオーナは、じょうずにイケましたか……?」

 

 そう言いつつ、またもや六本の腕で、ピアス・チェーンが穿たれた乳首を、そしてディルドーが刺さる肛門(アヌス)を、秘所(ヴァギナ)を、慰めようとする。

 たちまちだらしなく舌をたらし、呆け貌をする異形の美貌少女。

 山車のステージ上、濃厚に漂っていた牝の“モノ”の匂いが、ふたたびたちこめはじめた。

 

 と――。

 

 施術者たちが、王女の淫體(からだ)に挿入(いれ)られているディルドー尾部の鈴わきに、色のちがう2本のケ-ブルを連結した。

 

 女陰に挿入された性具には「赤」

 肛門に挿入された性具には「青」

 

 それぞれ長く伸び、分配器をつうじて枝分かれして、そこから何人もの術士たちがドラム・リールをのばしてゆく。

 やがてケ-ブルの末端は、先の台車に乗っていて、いまは水盤各段の円周で拘束される幾人もの犠牲者たち。その彼ら彼女らに等しく挿入される性具の末端に、同様の具合で連結されるのだった。

 

 群集がとりまく大噴水各所を、いそがしく動き回る術士たちをよそに、もと王女は、

 

『はうぅ……メスどれいフィオーナは、オマンコがモノ足りませんの……』

 

 真紅のマニキュアが飾る6本の手をやすめることなく、ネットリ、微細にうごめかせ、焦点をむすばぬトロンとした眼で、

 

『もっと……もっと非道ぃコトしてぇ……もっといぢめてへぇぇ……』

 

 王女のひとこと、ひとことが魔術によって拡散され、それが群集のどよめきをよぶ。

 

「なんだ、あのザマは」

「見苦しいわねぇ。あの女」

「王女でゴザイといっても、アレじゃね」

「しょせん色キチガイの小娘よ。ただのア-パ-」

「あんなのに媚びへつらってたんだぜ?旧政権は。アホらし」

 

(どうだキサマ。んぅ?元・王女の、このザマは……)

 

 “ドレイド卿”は、またも声をひそめてにじり寄るや、上背のある頑丈そうな体をかがめ、腰を曲げて杖にすがる私にかがみこんだ。

 そして、いままでの威厳と品格、そして言葉づかいをかなぐりすてるや、

 

『手前ェらがチヤホヤした“皇宮の花”とやらが!』

『……』

『それが!こんな、クソみたいなメス豚になりさがった感想は!』

 

 私は、おおげさに杖を叩き、天をあおいで落涙(なみだ)してみせた。

  

『そんな……あまりにヒドい……酷(ムゴ)い』

『手前ェの老眼に、よく刻んでおくんだなァ?可愛がっていた王女サマの、淫乱(みだれ)っぷりを!』

『あんまりだ……これは「あんまり」ですじゃ……ッ!!』

 

 肩をおおげさにふるわせ、うつむいて。

 すると、このやりとりまで拡声魔法で群集に伝わったものか。

 移り気な大衆が、今度はドレイド卿を攻撃しはじめた。

 

(ドレイド卿、ナニやってんだ?)

(あんな爺さんイジめて、どうしたんだべ)

(チョー感じ悪。なんか最近イケてなくない?あのオッサン)

(最近どころか!ズイブンと前からヤリたい放題だぜ、あのメシマズ老害)

 

 群集の、そんな囁(ささや)きまで集音魔法がひろう。

 

 (――チッ!)

 

 黒づくめの大男は頬を引きつらせ、なにごとか巫術師に合図。

 声を平常にもどし、かがんでいた背筋をのばす。すると、大きな影が私をおおった。

 

「キサマがヒソヒソとネズミのように隠れている間、我々は王女の施術と洗脳を行っていたのだ。ついでに――」

 

 ドレイド卿は、同じ最上段の水盤ふちに拘束されている女騎士官をアゴで示し、

 

「あのハネっかえりの女も!どうやら顔見知りのようだな――んぅ?」

 

 自分のことが話題になったのが分かったのか、女騎士は弱々しくこちらに頭をもたげた。

 

「どうぢゃ?この老いぼれジジィが、あの勇名をはせた第三特殊騎士団『龍騎隊』団長であるぞ?ホレ――なんとか言うてみぃ」

 

 女騎士の表情(かお)が愕然としたものになる。

 ややあって、信じられないというような顔で、

 

「そんな……そんなまさか。マイケル閣下……?」

 

 私は、おもわずうつむいた。

 老いた自分を恥じたのがひとつ。

 無力な、何もできない現在を恥じたのがひとつ。

 

 警備の役目をしている第二憲兵隊のひとりが卿の意を汲んだものか、丸めたムチの先端を私のアゴ下にさしいれ、グイと持ち上げた。

 ドレイド卿はザマを見よと言わんばかりに、

 

「その『まさか』よ。一世を風靡し“ブイブイ“いわせていた特殊騎士団長も、老いては「駑龍(どりゅう)」に如かず。この老いぼれた風体を、よく看るがいい!」

 

 術師によって、半裸の体にクサリ状をした宝飾のつらなりをまとわされながら、この女騎士は私に向け必死に言いつのる。

 

「閣下――マイケル閣下、お忘れですか?皇宮近衛・第壱連隊『山百合』隊の副長、ホナミです」

「……」

「閣下、閣下。本当なのですか?あの動乱から……もう何十年もたっているというのは」

「……」

「魔法で……そのような仮のお姿にされただけなのでは?」

「ザンネンであったな?現実は逆よ。この耄碌した容姿を――とくと拝むがいいわ!」

 

 ドレイド卿が横から口をはさんで、私を示した。

 杖にすがった私は、脚をガクガクとふるわせる。

 

「どうぢゃ、まごうことなき年月の鑢(ヤスリ)が、この団長ドノを変貌(かえ)たのが理解(ワカ)らぬか、んぅ?」

「ウソだ!だまされんぞ!」

「おのれ等(ら)は、長い年月をかけ一流の“芸術品”に仕立て上げられたのよ」

「芸術品……だと?」

「ほぅ、そう言えば、そうであったか」

 

 ドレイド卿は素でキョトンとした顔をうかべ、

 

「まだおのれには、ハッキリと見せてなかったなぅ」

 

 そういうや、一段下の水盤で作業していた術師に、なにごとか指示をする。

 やがて“あの人魚”が、10人がかりで小型の水槽ごと運ばれてきた。

 ゆらゆらと小さな水槽はゆれ、びちゃびちゃと水盤に水を撒き散らす。

 少女人魚も波立つ水面をうけ、不安そうに尾びれを水面にはねあげて。

 

「それ、この“芸術品”を――とくと観よ」

 

 ドレイド卿は手袋を脱ぐと、いとおしげに水槽の中の人魚をなでた。

 人魚のほうは、まるで愛撫されるのがうれしいように、ウットリと膜のある眼をとじて。 

 

「たしか騎士団長どのは、この人魚と顔見知りなのであったな?」

「アルテラ?――アルテラ係官ではないか!」

 

 拘束されている女騎士のほうが先に反応した。

 そして半魚半人に施術された“顔見知り”の少女を凝視してから、

 

「バカな――信じられない!貴様ァ!その娘に何をしたッ!」

「識(し)れたこと。見てのとおり、最高の美術品に仕立て上げたのぢゃ」

 

 下の水盤から人魚と共に上がってきた“おさる”のジョージ。

 ヒョコヒョコと馬鹿にしたような踊りでオドけた口ぶりのまま、

 

「白銀(ぎん)のうろこに黄金(きん)の瞳。やがて柔肌(はだ)は青銅(あおがね)に」

「アルテラ係官!――アルテラどの!」

「ムリムリむ~りのムリーリョさ♪」

 

 ヘロヘロと軽薄な身ぶりで、道化服すがたのジョ-ジは、

 

「身体を・いぢられ、記憶を・いぢられ、快楽・いぢられ、お人形♪こォこで正気にもどしたら?アッというまにお廃人(バカさん)~♪」

「なっ!……どういうコトだ!」

 

 さらに何か言い加えようとする道化をおしとどめ、卿は、

 

「この者の言うとおりぢゃ……いま此処(ここ)で、この哀れな人形(デク)を正気に戻してみぃ。おのれの姿軆(すがた)に衝撃し、慙慨するか慟哭するか」

 

 ついで「最悪は絶望のあまり自裁するかぢゃ」と呟いたあと、

 

「そうか――それも一興ぢゃなう?」

 

 黒ずくめのドレイドは、マントをはねあげ、大噴水の周りに蝟集して好奇の視線をそそぐ群衆を、さもバカにしたように指し示して、

 

「この白痴(たはけ)どもには、絶好の見せ物になるであろうて」

「……くッ!」

「せっかく手間ヒマかけて練りあげ、創りあげた小品よ。あたら毀(こぼ)つのも惜しいが……それ、おぬしたちのフィオーナ王女のように」

 

 殿下?――と、ホナミ副長はギョッとして、ドレイド卿の黒い手袋が指し示す方を向く。

 そこではじめて彼女は、6本腕の異形なオナニ-人形に気付いたようだった。

 

 はじめは怪訝な面持ち。

 だが、やがて顔面を蒼白と変え、拘束され、宝飾によって全身を飾られる半裸の軆(からだ)をガクガクと震わせる。

 

「そんな……ウソだ、あ(・)れ(・)が、殿下!?」

「“あれ”とはそ(・)ち(・)も礼を欠く奴よの。前の政権なら『不敬罪』とやらで捕縛モノであるぞ」

 

 面白そうにドレイド卿はニヤニヤ茶々を入れる。

 それに対し、ウソだ!とホナミ副長はふたたび毅然と叫ぶや、

 

「第一、御髪(おぐし)の色がちがう!殿下はブロンドのはず!」

「施術と調教による疲労……洗脳による精神負荷は髪の色を容易に変じさせてのぅ……」

「そんな!貴様、いったい殿下に何を――」

 

 言い争うふたりをよそに王女はシマリのないアヘ顔のまま、6本腕のオナニ-に余念がない。

 痴呆のような上目づかい。

 大きくあけた口からのばした長い紅舌(した)。

 糸をひき、豊胸された胸のピアスされた頂に垂れるヨダレ。

 

 大コウモリに投げつける言葉も尽き、女騎士官ホナミはそんな哀れな様をしばらく呆然と眺めていたが、やがて相手の面差しと自分の記憶とが、二重合焦式測距器(レンジ・ファインダー)のように一致したらしい。

 

 ハッ、と息をのむ気配。

 

「殿下!――まさか……そんな」

「ようやく腑に落ちたやうぢゃの」

 

 おのれのアゴをゆっくりと撫でながら卿は、

 

「いまやこのメスも、我らが手駒(こま)に過ぎぬ……」

 

 ガックリとうなだれるホナミ副長だった。

 ややあって、自分の股間に挿入された前後2本のディルド-から青と赤のケ-ブルが伸び、かつて仕えた主人の股間へと繋がっていることに気付いたらしい。いくぶん薄気味わるげに、

 

「この、殿下とわたしとをつなぐ青と赤のラインは――なんだ!」

 

 すると、彼女に睨まれた卿は、さも当然のように、

 

「ぬ(・)し(・)だけではないぞ?――見よ、哀れな“工藝品”どもが皆、王女と繋がっておるわ」

「……えっ」

 

 ホナミ副長は、盤上に拘束されるほかの虜囚たちをながめ渡した。

 

 なるほど。

 

 王女から伸びる青と赤のケ-ブルは、分配器によって幾重にも枝分かれし、丸く大きな水盤の床を錯綜して、果ては各段の円盤ふちに均等に並べられ、拘束される美少年や美少女。美貌の婦人や麗人、あるいは遊人(ヘタイラ)たちの女陰(マンコ)や肛門(アヌス)。陰茎(チンポ)などにきびしく挿入された淫具の尾部へとつながっている。巫術師たちは、その間を忙しく動き回り、いまやその準備はほぼ調ったように思われた。

 

 薄気味わるげな面持ちでひととおり見まわした彼女は、最後に水槽のアルテア係官を見た。

 銀色なウロコが美しい腹にそなわる、魚の性器にしては生々しい女陰と肛門。

 当然そこにも、ほかの虜囚と等しくキッチリとケーブル付きの性具が挿入されていた。

 

 いつの間に水盤を降りたものか。

 大噴水の基部では、道化姿の“おサル”が大仰な身ぶり手ぶりで群衆に向け何やら説明していた。

 一つの説明が終わるごとに、

 

 わぁっ!

 

 おそろしい勢いで湧きおこる喝采。どよめき。口笛。

 それをニラみすえた卿は苦々しげに、 

 

「サルめ!出すぎたマネをしをって……まぁ良いか……咒詛(じゅそ)長!」

 

 大コウモリめく姿が一喝し、魔法陣の面紗(ヴェ-ル)をまとう初老の男を呼びよせた。

 この男は卿の足もとに平伏すると、

 

「お喚びで……」

「今から一体のみ、禁咒を解放する――“拵(こしら)え”は、彼(あ)の人魚ぢゃ」

 

 げぇっ!と咒詛長は片膝立ちに平伏したままおどろき、

 

「それでは、咒法(じゅほう)の均等(バランス)が!術式の整合性も欠き、呪いの効果も不安定に……」

「佳(よ)い!この者らに――」

 

 卿は、黝(かぐろ)い妖しげな笑みを私とホナミ副長にむけて等分に投げかけ、

 

「これからはじまる余興がどのようなものか、それを存分に知らしめた上で本番に臨ませてやるのぢゃ。そのほうが――」

「いやしかし!」

 

 咒詛長と呼ばれた初老の男はあくまで食い下がり、

 

「術式が破れたら、いかがなさいます。危険です!おやめ下さい!」

「どうせ処刑代わりの法術ぢゃ。“本当に”死んだとて、困りはせんよ」

「しかし……いったん術が暴走したら……」

「儂(ワシ)のたのみぢゃ。聞いては、くれんかなぅ?」

「……」

 

 術師たちの動きがあわただしくなった。

 

 哀れな人魚は惚(ほお)けた表情(かお)で、水槽から水の滴(したた)るままに引き出された。

 そして水盤に横たえられるや、尾ひれ根もとのくびれを法具の銀輪でつながれる。

 大噴水をとりまく群衆のザワめきが、心なしか大きくなってゆくような気配。

 水盤を警備する第二憲兵隊(セカンド)の動きも、いっそう厳しくなる。

 

「アルテラ係官!……アルテラ!」

「黙りゃれ。いま――脳髄(アタマ)にかけた術式を解き“自我”をもどしてしんぜる」

 

 人魚の周囲に魔法陣をえがき、巫術師を円形に配した咒詛長は、古いパ-チメント(獣皮紙)らしき黄ばんだ巻子本を手に複雑な呼吸法をつかい、いままで聞いたこともない古そうな文言をとなえはじめた。

 

 聞きながら私はゾッとする。

 

 何故かと言うに、その気息、その韻。その唸り。

 どこか穢(けが)らわしくゴテゴテと、神経に障(さわ)り不愉快なのであった。

 

 つめたく乾いた木乃伊(ミイラ)の手が首筋を這うような。

 耳孔に病死人の火葬煙を吹きかけられるような。

 あるいは毒蛇が、全身をまとわりつくような。

 

 やがて。

 

 惚けたような笑みを浮かべる人魚の貌(かお)に、知性の影がもどってきた。

 眼をすこししばたき、激しい頭痛をこらえるようなしかめつら。

 考えが明瞭(ハッキリ)しないのか、二度、三度首をふって。

 

「アルテラ係官!分かるか?私だ、皇宮近衛・『山百合(やまゆり)』のホナミだ!」

「ホナミ副ちょほぉぉ……」

 

 回らない舌で、人魚はそう呟いたようにきこえた。

 おやおや――よせばいいのに……と咒詛長のニヤニヤ声。

 女官はチカラの無い手つきで自分の身体をなで、すぐにハッとする。

 どうやら自分がハダカであることが分かったらしい。エッ!という顔をして。

 

「そんな!わたし……どうしたのかしら。たしか、注射を打たれて……」

 

 片腕をたてて上半身を起こし、もう片腕でおのれの胸をかくす。

 次に立ち上がろうとしたのか、2本のディルドーが挿入される下半身の魚体をおりまげた。

 とたん、バランスをくずして胸から水盤にたおれこむ彼女。あいたたた、とオデコをさすって。

 そこでようやく、改変された自分の肢体に気付いたらしい。

 ビクッ、といちど身をふるわせ、

 

「えっ……なにコレ……えっ……えっ!?」

 

 彼女はヘソのあたりから鱗(うろこ)におおわれ、一本にまとめられた自分の下腹部をペタペタと触った。

 可哀想なくらいの顔面蒼白。そして狼狽(うろたえ)。

 鱗をかきむしり、その痛覚に自分の現実を識(し)る。

 

「いやっ!ウソ……うそよねコレ……なんで……いやっ……いやぁッ……」

「アルテラ係官!おちつけ、アルテ――」

 

 いゃぁぁあああああああアアアアッ!!

 

 マグロの一本釣りで“ごぼう抜き”に甲板へ投げ上げられた魚のように、少女は水盤の上を人ならぬちからでビタンビタン跳ね回った。それを尾部に巻かれた鎖付きの輪っかがかろうじておさえ、下段にある水盤への落下を防いでいる。

 

「なんでぇ……なんでなのほぉぉぉ~~」

 

 なみだで顔をグシャグシャにしながら彼女は女騎士のほうを向いた。

 ホナミ副長は気丈にも恥ずかしい格好で拘束されたまま、 

 

「アルテラ係官!どうやら我々は反逆者に囚われ、卑劣にも身体に手を加えられたらしい」

「そんなァァァ……なんでわたしがぁぁ、こんな姿に……」

「だが安心しろ!第三特殊騎士団の『龍騎隊』団長、マイケル殿が来て下さった!」

 

 えっ、と人魚の顔にわずかながら喜色が動いた。

 

「――マイケル様が?」

「そうだ!これを見よ!」

 

 ズイ、と大コウモリのようなドレイド卿が横から進み出て、人魚に私をさししめす。

 

「この老いぼれが!かつて剣技を謳われた騎士団長の“なれの果て”よ!」

「うそ……マイケル様は、そんなお爺さんじゃない」

 

 かつて懇意だった女官の視線をはじ“お爺さん”呼ばわりされた私は横を向く。

 ドレイド卿は、そんな私をみてふたたび冥(くら)いうす嗤(ワラ)いをうかべ、

 

「つまり――それだけの刻(とき)が経ったのだ!そのあいだ、ぬ(・)し(・)の肢体(カラダ)は法術師たちによって昼夜を問わずネリに練り上げられ、見事な“工藝品”として生まれ変わったのよ……彼(あ)れなる王女を、見てみぃ!」

 

 こんどこそ女官は愕然とする。

 示された先でオナニーにふける、6本腕の異様な人体。

 否定しようにも、そのヨガリ声が自分の主であることを悟らせたのか。

 上半身を支える彼女の腕がちからを失い、水盤にたおれた。すかさず術師が薬剤で覚醒させる。

 

「殿下……あの人が……殿下なの?」

 

 王女の周りで術師たちが円座をくみ、咒詛長がドレイド卿にうなずいてみせた。

 人魚の両手首が水盤上に拘束され、もはや彼女はみじめに歪められた己の身体を触ることができない。

  

 王女を丸く囲んだ巫術師たちが、またもや詠唱をはじめた。

 こんどの文言は、まえにも増して穢れに満ちている様におもわれる。

 六本腕の自慰が激しくなり、王女は快楽にヨダレをたらし、白目をむいて。

 

「アッ!――いやッ!」

 

 こんどは女官が身体をビクンビクンと震わせた。

 そしてこんどは悲壮な叫び声をあげ、

 

「なにか……何かが、挿入(はい)ってくるぅっ!」

 

 そういうや、王女と赤青のケーブルで繋がれた自分の下半身を波打たせる。

 顔を紅潮らめ、切なげに、まるで直接自分の奇体を触れないことがもどかしいように。

 

「いやっ!お乳が揉まれる!お尻のアナに、ヴァギナに!なにかが流し込まれて!」

「フフフ……はじまったようぢゃの」

 

 ドレイド卿は、またもや満足げにアゴを撫でた。

 ホナミ副長は拘束された身体をゆらし、

 

「貴様ァっ!アルテラに、その娘(こ)に――なにをしている!」

「変換術の転移よ」

「じゅっ、術の転移だと……」

「王女の快楽と、それによる術式をまるごとあの小娘に移植しておるのだ。もっとも――」

「もっとも?もっとも何だ!」

「うまくいくかは、お慰みだがなぅ……」

 

 そういうとドレイド卿は腕組みをして、今度は真剣な面持ちで人魚を凝(ジ)っと見つめた。

 

「いやっ!アタマが……お乳(チチ)が!お尻がぁぁぁぁアアアアアアアあ!」

「アルテラ係官!しっかりいたせ!」

 

 なんということだろうか。

 彼女に挿入されたケーブル付きの性具。

 それが体内で伸びて暴れるのか、腹の薄い皮膚をとおして激しくうねるのが見えた。

 がはぁッ!と人間ばなれした声で叫ぶ、かつて女官であった人魚。

 改変され、拘束された肢体(カラダ)を、通電されたような勢いで必死によじって。

 

「コロしてへぇぇぇぇええ!!いっそ殺し……あぎゃぁぁぁッあああああ!」

「しっかりいたせ!しっかりいたせアルテ……」

 

 女騎士官の声が、呆然してとだえた。

 

 ムリもない。

 

 大群衆が見守るなか、体を反らせる人魚の乳房がミリミリと次第にふくらみをます。

 さらには興奮のためピンクに紅潮した肌が、次第に青みを帯びてゆくのだ。

 一方、それに対し王女の手淫(オナニ-)は、ますます激しさの度合いを加えて。

 大噴水の足もとで、道化がなにやら口上をのべる気配。

 王女と女官の蠢動(うご)きが次第にシンクロする。

 おぉぉ、と群衆のどよめき。

 

《b》『『いぐっ!いぐっ!……イッ!!ぐぅぅぅ……ぅぅうううううう!111』』

 

 カッ!

 

 すっかり青銅色に変じた彼女の全身に、閃光が奔(はし)った。

 

 ――ウッ……!

 

 一瞬、眼がくらんだ私は思わずうつむく。

 やがて……視力がもどり、オズオズ顔を上げてみると。

 そこには豊かな胸をさらし、身体をUの字にそらせた人魚像が。

 光沢をもつ青銅色なる肌の要所には、美麗な黄金の文様をはしらせる。

 驚いたような口をポッカリと開け、のけぞらせた美しい顔を天にむけたまま。

 

 巫術長がヨタヨタと人魚像にちかづき、下腹部の魚体に挿入されていた性具を抜いた。

 そしてかわりにコックのついたジョイント・ホースを引っぱってきて、ガチンと冷たい金属音をたて人魚に接続すると、ホースのコックをキュッ・キュッと開く。

 

 チョロロロ……。

 

 乳房の先から、ジョウロのように幾筋もの水がながれた。

 すこし間をおき、ゴロゴロとノドを鳴らすような音がしたかと思うと、

 

 ブシャァァァァァァァァ!!!!

 

 のけぞった彼女の口もとから、天にむけて盛大に水が吹き上がる。

 西陽を受け、飛沫(しぶき)が華やかなア-チと虹彩(にじ)を描いた。

 

 わぁっ――!わぁっ――!

 

 大衆の騒擾(どよめき)。

 ブラァァーバアァァゥの叫び。

 次第に大きくなる喝采、歓声。そして幾分かのヤジ。

 

 水盤上のドレイド卿は、そんな足もとの群衆にむけて、悠揚(ゆうよう)迫らず一揖(いちゆう)する。

 そして、水盤の円周上で今の光景に呆然と見上げる拘束されたものたちに。あるいは女騎士官に――そして私にむけて、ニチャァッとした笑みをなげかけた。

 

「これで分かったであろう。この青赤ケーブルのイミが」

「そんな。こんなコトって……よくもあの娘を殺したな!」

 

 ホナミ副長の叫びにドレイド卿は、こんどは芝居がかった仕草で大げさに驚いてみせ、

 

「殺す?――とんでもないコトぢゃて」

「……なに?」

「あの小娘は、生きておる。カラダは呪術により銅像に変じられたが、意識は永続の快楽に漬けられたまま。むろん周囲を認知することも、自分が噴水の銅像になり、強制的な淫楽に弄ばれながら水を吐き続けるしかないことを識る知覚もある」

「……まさか、そんな」

「いってみればあの銅像は――本人にとっては快楽の檻(オリ)ぢゃて」

 

 居ならぶ拘束者たちは、声もなかった。

 森閑として恐怖の面持ちのまま、この大コウモリのような姿を凝(じ)ッとみつめる。

 ややあって、この男はまたも例の笑みをうかべ、

 

「そしてこんどは……そち共(ども)の番ぢゃ」

 

 そういうや、拡声器法術付きのセリフを使って、

 

『王女の“自我”を――もどせ!』

 

 わぁっ!と大噴水の足もとで、またもや群衆が騒ぎののしる気配。

 

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