※この作品はR-18です。

試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【18禁版】   作:珍歩意地郎_四五四五

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すいません。
先週の月曜に投稿する予定でしたが、土台に矛盾を見つけたため、
1から書き直していました。話も長くなったので、半分に切断というていたらく。

(殺伐とした話がつづいたので、ココからしばらく“なごみ回”です)



第51話:間奏曲(1

「それで──どうだろうかねぇ?キミ」

 

 大窓のわきにしつらえた席。

 清潔なシミ一つない白いテーブルクロス。

 ずっしりと重厚なナイフやフォーク。スプーン。

 デザインも豪勢、かつ繊細なクリスタルのフルート・グラス。

 氷の入ったシャンパン・クーラに斜めで刺さるビンテージ年のボトル。

 テーブル周囲では、シルバーが食器に当たる音や密やかな囁(ささや)き。低く流れる室内楽曲。

 大窓のそとは、松を背景に錦ゴイがおよぐ池。石灯籠の傍らに鳴る鹿威(ししおど)し。つまりは贅を尽くした純日本風な庭園。

 

 前菜は、夏らしい品が並んだ。

 いずれもふだん、オレが口にしないようなものだ。

 料理長らしき人物が、わざわざ挨拶にきたところをみると、この医師が贔屓(ひいき)にしている店なんだろう。

 

 もう7月だった。

 

 空梅雨だったため路面の状態もよく、重量級のトラックを操るには都合が良かった。

 すっかり轢殺業になじんだ昨今。すこし前まで受注予算と見積書の数字を追うリーマンだったとは、自分自身もう信じられなくなっている。

 ひさびさに着たスーツは堅苦しく、そしてどこか息苦しかった。ひさびさに締めたネクタイもそうだが、なによりこの窓ぎわのテーブルで、慇懃(いんぎん)なウェイター諸兄によって運ばれてきた料理をはさみ、対面に座る鷺の内医師──詩愛のオヤジ──の峻厳な顔が、その息苦しさを倍加させている……。

 

「家内(ウチ)のヤツは、なんの異存もなくOKしてるんだよ。キミさえ良ければ──」

「そんな……」

 

 オレは極力“逃げ”の体勢をとる。

 女はこりごり。もう結婚はゴメンだ。

 朝ビールのない生活なんか、考えられない。

 いや。詩愛はひょっとして、許してくれるかな。

 やっぱりダメだ……美香子ぐらいなら別だろうが。

 なるべく角をたてぬようオレは、あくまでもさりげなく、

 

「コチラは中年……いや後期青年とはいえ、オレ──私も“男”ですよ?お嬢さんと一つ屋根の下、なにか間違いがあったら、どうするんです」

 

 鷺の内医師は“後期青年”という言葉にツボったのか、めずらしく微笑をうかべる。職業にしては頑丈そうな手でフルートグラスの華奢(きゃしゃ)なステムをつまむと、ツプツプ金色の泡が立ちのぼるグラスをかかげて、

 

「いまさら何を言っとるのかね。拙宅(ウチ)の娘“たち”が、すでにキミの部屋でさんざん“お世話”になってるそうぢゃないか、えぇ?」

「うっ……それは」

 

 口ごもるオレを前に、初老の医師はおもむろに一口飲んでから非難がましく先を継ぐ。

 

「……キワどい格好をするにもかかわらず“間違い”ひとつ起きてくれないと、美香子が家内にグチっていたと聞いとるぞ?」

 

 ──アイツめ……。

 

 まったく、あの小悪魔。

 ドコでナニを吹聴してるか、ワかったもんじゃない。

 ウッカリすると、口さがない世間に通報され『事案』でこっちが逮捕されそうだ。

 

「……まぁ失礼ながら、キミの“紳士”としての人格は、申し分ない。それは認める。だからこそ、こちらでマンションの一部屋を提供するから、詩愛(あのコ)と一緒に住んでみてはくれんかと、こう言っとるのだよ。それともナニかね?あの子は暴行され、キズものになったから、眼中にないとでも言いたいのかね」

「とんでもない!キズものだなんて……しかし私には仕事もありますし、なにより不規則な生活ですから……」

「だからこそ!」

 

 タン!と鷺の内医師はグラスを強めに置くや、

 

「あのコに健康管理をさせて、家のことは全て任せてみたらどうかと言っとるんだよ。前の結婚では“暖かい家庭の味”というやつを為しえなかったんぢゃろう?だがあの子なら!まちがいなくキミに与えられると思うが」

「しかし……ですねぇ」

 

 とうとうコチラの煮えきらなさが、カンにさわったのだろう。

 初老の医師はいくぶん声を高めて、

 

「──じっさいの話、どうなのだね!」

「どう……とは?」

「ウチの娘たちは、その……だな」

 

 またも相手は唇を少しばかり酒でしめして合いの手を入れてから、

 

「先にも言ったとおり。ハナシを聞けば、ハレンチな寝間着(ネグリジェ)姿や、下等な店でよく見るバニーガールとやらの格好をしても、キミは全く食指を動かさないどころか興味も示さないと言うぢゃないか。まさかキミ……“ソッチ系”というワケではあるまいね?」

 

 ソッチ系。

 つまり『男色家』と言ってるワケだ。

 いいえ、とオレは首をふって言下に否定すると、

 

「すくなくとも私は、自分に“そのケ”は無いと思っています」

「ならば──ウチの娘たちは、魅力がないのかナ?」

「そんな!むしろその正反対ですよ!」

 

 思わず強めに否定してしまう。

 すると。きわめて満足げな笑みが医師の面(おもて)にうかんだ。

 

 「ウムウム。そうぢゃろうて……」

 

 相手は人差し指をたて、まるで診断結果を患者に言って聞かせるようにして、

 

「親のひいき目をオミット(除去)しても、ウチの娘たちは!そんじょそこらの若い女とは“格“が違うと、こう思っとる……」

 

 オレのほうは、老医師が『美月』──美香子を自(・)分(・)の(・)娘(・)と言い切ったことに少なからずホッとしていた。だが目の前の相手は、そんなこちらに向け、まるで患者の心理を解剖するような冷徹きわまりない視線をグラス越しに投げてよこすと、

 

「たいへん不躾な言い方だが(日ごろクランケ(患者)に接すると単刀直入になってね?)そっちの興味が無いとなると、キミはずいぶんと女性に対してグルマン(美食家)の気があると看たよ。おそらく過去に、そうとう女を泣かせているんぢゃないのかね?」

「私が?まさか!女性に対しては慎重であるべきだと考えてるだけです」

 

 だが──何故だろう?

 

 ここでフイに自分の中で『シディ・ベル・アベス』の歓楽街や『レオポルドヴィル』で行きつけにしたキャバレーの光景が浮かんだ。

 

 ──また、あのアフリカの印象……。

 

 そんな地名や妖しげな酒場など知らないというのに。だがなぜか、今では前ほど違和感を持たなくなっている。それどころか、懐かしい旧友に出会うような……。

 

「──ほぅら。昔の女性のことを、思い出してるぢゃないか」

 

 こちらがウッカリぼんやりしたのを、初老の男は医師の目で素早く看てとったようだ。

 

「まさか。別れた家内のコトを考えてたんですよ……酷い女だったなぁ、って」

「だとしても。た(・)か(・)が(・)1度のネトラレで結婚をあきらめてしまうのは『日本男児』としてどうなのかね。少子高齢化が叫ばれる昨今、益荒男(ますらお)は、もっと積極的にならにゃ!うん?」

 

 ──うわぁ……。

 

 ゲンナリ。

 葬式後の直来(なおらい)で良く出会う、未婚者の親族に上から目線で説教する国粋(ウヨク)爺ぃキタコレ。

 

「そうは言われましても……」

「キミのコトは、キミが思っとる以上に儂(わし)は買っているのだ」

「それは過分なご評価というものです」 

「キミの感化をうけたのか、ポツポツ美香子のヤツも高校に行きだしたと聞いとる」

 

 これは初耳だった。アイツ、いつのまに。

 やはり少女がアヤしげな夜の店にハマりっぱなしというのも小説的にマズい構図だったので、オレはひそかに安心する。だが、そう思ったのもつかのま、

 

「なんでもアイツは、キミの嫁になるために高校ぐらい出ておくのだと、ウチの家内にリキんでたらしいが……キミはアレかね?少女(ロリータ)趣味なのかね?」

 

 さすがにイラッとする。

 このクソ爺ィ。言わせておけば、さっきから。

 今度ばかりは、我が方も一矢報いたいとオレはさりげなく、

 

「まさか。しかし鷺の内先生、さきほどウチの娘た(・)ち(・)と仰しゃるのを聞いて、私はホッとしましたよ」

「ほぅ?」

「先日、お宅にお邪魔したとき、美つk……美香子クンのことをずいぶんクソミソにけなしていましたからねぇ。まるで継子(ままこ)あつかいにして。タチの悪いTVドラマでも観るようでしたが」

「ふぅむ……そう見えたかね?」

 

 キラッ、と初老の瞳がひかる。

 

「お恥ずかしいところを、お見せしてしまいましたナ」

「てっきり血の繋がらない子だから、邪険に扱っているのだとばかり──」

 

 バかな!と手をうち振り、医師はオレの反撃をさえぎった。

 

「あの娘(コ)は、ですぞ?せっかく儂が用立てた金のかかる私立の高校に行かせても、ロクに勉強もせず、まるで儂ら夫婦にあてつけるように派手な行動で遊びまわって!いい服も着せてやり、良い物を持たせ(小遣いだって!)何不自由ない生活をさせてやっているのに!」

「……はぁ」

「その行為を裏切るのだから、頭にくるのだて。あの娘(コ)がもっと自分の立場を自覚して、勉学に励み、教養も高めんとするならば!大学にも行かせよう。海外留学の資金も出そう。果ては儂のコネで、いい男も見繕ってやろうと、こう思っとるのに!」

 

 一気にまくし立てたあと、医師はドッと座り心地のいい椅子に背をあずけ、

 

「儂(ワシ)はナ。自分が“こう”と決めたコトは、力づくでも成し遂げる。どんな方法をもってしても、だ。あの娘のことも、幸せにしてやりたい──ただし!儂の言うことを聞けば、ぢゃ!“後見人”として、とうぜんでしょうが!違いますかな?キミ」

 

 なるほど、とオレは相手のいきおいに負け、一応うなずいてみせる。

 

 ──これは……。

 

 美香子のヤツが『美月』という源氏名で“いかがわしい”店に出ていることは、何としてもこのオヤジに知られてはならんなとオレは気を引き締める。

 

 こちらがうなずくのを見た初老の医師もようやく語勢をおとし、豊かなおのれの白髪をなでて決然と、

 

「儂は、自分の思ったことを貫いてきた!」

「……」

「世のため!お国のため──なにより正義のため!」

 

 医師会でも、そうとう強引な手法で権力を握ったとウワサされる目前の医師。

 この豪腕で、ムリを通してきたのだろう。奥さんはさぞ苦労しているだろうな。しッかし時代錯誤なジィさんだ。家長制度の遺物然として恥じる気配がまるでない。

 

 そして……このオヤジが吐いた次の言葉。

 

「キミを信じてここだけのハナシ……詩愛を襲った暴漢連中もすでに素性がワレとる。手はずを整えて“報い”を受けさせる段取りが出来ているのぢゃ──先にも言ったとおり、ワシは何より正義を重んじる。曲がったコトが大嫌いなのでな!」

 

 ──うっ……。

 

 ブホッとハンカチでおさえる口もと。

 オレはフルート・グラスをテーブルに置いた。

 ヤな予感がする。六道ビルジングで会った爺さんの言葉。

 詩愛を強姦したのは、ドレッドと“おサル”のジョージたちだ。

 すると、ヤツ等の轢殺依頼の出どころは……まさか目の前の医師?

 

「と、おっしゃいますと……」

 

 オレは声を低め、テーブルに身を乗りだしてカマをかけてみる。、

 

「荒ゴトの効く暴力団の連中でも雇ったんですか……?」

 

 するとオレの言葉に、こんどは老医師が呵々と大笑し、

 

「まさか!いくら儂でも、反社(あんな)連中を頼ったりはせんよ。むしろ、その逆だて」

「──!」

 

 ウッカリ目つきを鋭くしてしまう。

 

 ──その逆、ということは……。

 

 やはり『ニコニコ転生協会』は、ある程度“オフィシャルな組織”とのつながりもあるってコトか。意外なところで推論の裏付けが取れたことに驚きつつ、その反面(そりゃそうだろ……)とタネの分かった手品を今さら明らかにされたような気分にもなっている。さもなきゃ、あんな建築基準法に引っかかりそうな秘密基地まがいの社屋や、軍事技術めいた先端装備品など手に入るはずもない。

 

 オレは詩愛に懇願され、イヤイヤ出席することになった今夜の会合が、予想外の収穫をえたことに心中、深い満足を覚えながら、

 

「ふぅむ。天誅(てんちゅう)の段取りがあるなら、心強いですね。私は……彼女を乱暴した下手人が、いまだ大手をふって歩いていることを思うと、夜中にはらわたの煮えくり返るのを覚えます」

「むむ……」

 

 初老の医師も『我が意をえたり』といった具合に大きくうなずき、好ましげな目でコチラを見る。ヤバい──ウッカリまた相手の好感度を上げてしまったようだ。

 

「天誅!イイ言葉ぢゃ。まさにそれよ!かかる人非人(ひとでなし)は早急に殺処分して、こ(・)の(・)世(・)界(・)か(・)ら(・)放(・)逐(・)す(・)る(・)ほかはないのぢゃて!」

 

 まただ。

 この初老の男の言葉。

 『異世界転生』処分を知っているような口ぶり。

 ニコニコ転生協会の内幕。上級国民の一部には、ワリと知れわたっているのだろうか。

 だが鷺の内医師は、ここで大きくため息をつくと、

 

「しかし……」

「しかし?」

「依頼はしてみたものの、どうも『業務完遂』の連絡が来ないのがもどかしくてナ」

 

 スイマセン、とオレは心の中で医師にあやまる。

 ドレッド野郎や“おサル”のジョージを目当てとした『BAR1918』の見張りは、ときおりやっていた。しかし、新しいAIが監視ポッドを使えないので、不便なことこのうえない。最近は、窓辺にあの“酒場の女”の姿も絶えている。

 

 ──だが……“高飛び”はしていない。

 

 そうオレは踏んでいた。

 ここはじっくりと待つに如かず。そう、狙撃兵(ティラユール)のように。

 ヤツらも、所属する半グレ組織から縁を切るのはツラいはずだ。

 『コネ』と『縄張り』と『資金源』からはなれては、この手の連中は生活できない。

 

 オレは、できるだけ何気ない風をよそおって、

 

「仕事の依頼料は──高額(たか)いんですか?」

「そう。廉(やす)くはないねぇ」

「まるで仕事人ですな」

「いや、アレぐらい腰が軽ければイイが、やはりお役所仕事。万事トロいとみえる……おっと」

 

 『お役所仕事』!

 

 オレが体を硬くするのを見た老医師は、ヒョイと白い眉毛を悪戯ッぽく上げる。

 

「ココでのハナシはないしょだよ……きみ」

「もちろん。言わずもがなです」

 

 メインの料理が運ばれてきた。

 サーヴされる間の沈黙。

 湯気の立つ皿の表面が天井の灯りを陽気に反射し、暗鬱な転生業務のことを忘れさせる。

 

「さぁさぁ、料理をたのしもうじゃないかねキミ」

 

 鷺ノ内医師は、シャンパン・クーラーからボトルを抜きだすと、オレに差し出した。

 こちらはグラスにそれを受けつつ、まるで義父を相手にするように、

 

「は……頂きます」

 

 そんなにかしこまらんでもいいのぢゃ、と初老の医師は苦笑するが、

 

「──その前に、一つだけ念をおしておこうか」

「はい。何でしょう?」

 

 と、ここでこの医師は、微妙な含み笑い。

 

「さっきも言った通り、儂はこうと決めたことは──必ず!やり遂げるタイプなのぢゃ!」

「……はぁ」

 

 たぶんドレッドたちの転生処分を言っているんだろう。

 まさか。もしかしてこの初老の人物は、オレがその転生処分の担当者であることまで知ってるのだろうか。

 

 ──さすがに……それはナイ、か。

 

 不思議と波立つ胸を強いておさめつつ、たぶん美味いのだろうがテーブル向こうの人物を意識するためにあまり味のしない料理を、なによりもマナーに気をつけながら、オレは機械的に口に運んだ……。

     *  *  *

 

 0800時。

 

 詩愛の父親との会食から4日目の朝。

 4件目の最終ターゲットは、意外に難物だった。

 今までの行動パターンを急に変え、みょうに動きが用心深くなる。

 それは、まるで自分が狙われているのを知ったようなしぐさで、この朝などもエレベーターのない古い団地から出てくるとき、左右を見まわしてから棟の古びた昇降口を出るほどだった。

 

 ──ッち……。

 

 オレは唇をゆがめ、くたびれたスーツの背中が晴れた朝の風景に去ってゆくのを見送った。

 深夜にコンビニへ缶チューハイの500缶を買いに出かける習慣。

 そして明け方に突き出た腹をゆすってのウオーキング。

 目標は、これらが日課だったハズだが……。

 

 せっかく朝会でも、順調な轢殺(しごと)ぶりをほかのドライバーたちの前で所長から褒められたのに、ツイてない。それまではイタチ面の面白くなさそうな顔が、いかにも痛快だったモンだが。

 

『いかが致しまショウ、マスター』

 

 女っぷりが、さらに磨かれたような艶っぽい声がキャビンに響く。

 

『このまま、監視を継続いたしマスカ?』

「くそぅ。【ボニー】(おまえ)が監視ポッドを使えればなぁ……」

 

 そう。前回の轢殺転生の功績から、オレは【バンディ】に新しく女らしい名前を付けてやったのだ。日本名はイヤだというので、外人女性の名前から思いつくままに、

 

 【エリアーヌ】

 【ドミニク】

 【イザベル】

 【アンヌ】

 【マリー】

 【ガブリエラ】

 【ベアトリス】……。

 

 しかし、いずれも却下ときたモノだ。

 

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