※この作品はR-18です。

試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【18禁版】   作:珍歩意地郎_四五四五

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   〃   (2

(前回までのマクラ)

 

 0800時。

 

 詩愛の父親との会食から4日目の朝。

 4件目の最終ターゲットは、意外に難物だった。

 今までの行動パターンを急に変え、みょうに動きが用心深くなりやがる。

 この朝なども、エレベーターのない古い団地から出勤するときは左右を見まわしてから、ヒビの入るコンクリート造りの昇降口を出るほどだった。

 それは、まるで自分が狙われているのを知ったようなしぐさかとも疑われる。

 

 ──ッち……。

 

 オレは口の端をゆがめ、くたびれたスーツの背中が晴れた朝の風景に溶け込んでゆくのを見送った。

 

 深夜にコンビニへ缶チューハイの500缶を買いに出かける習慣。

 そして明け方に突き出た腹をゆすってのウオーキング。

 目標は、これらが日課だったハズだが……。

 

 せっかく朝会でも、順調な轢殺(しごと)ぶりをほかのドライバーたちの前で所長から褒められたのに、ツイてない。それまではイタチ面のおもしろくなさそうな顔が、いかにも痛快(ザマミロ)だったモンだが。

 

『いかが致しまショウ、マスター』

 

 女っぷりが、さらに磨かれたような艶っぽい声がキャビンに響く。

 

『このまま、監視を継続いたしマスカ?』

「くそぅ。【ボニー】(おまえ)が監視ポッドを使えればなぁ……」

 

 

 そう。前回の転生業務の功績から、オレは【バンディ】に新しく女らしい名前を付けてやったのだ。日本名はイヤだというので、外人女性の名前から思いつくままに、

 

 【エリアーヌ】

 【ドミニク】

 【イザベル】

 【アンヌ】

 【マリー】

 【ガブリエラ】

 【ベアトリス】……。

 

 しかし、いずれも却下ときたモノだ。

 

(以上、前回まで)

 

 ──そうだ……。

 

 ふと思い立ち、いまは亡き【SAI】がこだわった【ボニー】という名前を提案したところ、『ボニー……ポニー。あら、イイかもしれませんわネ』と意外にスンナリ決まったのである。

 

 

『申しわけございまセン、マスター』

 

 その【バンディ】改め【ボニー】は、監視ポッドが使えないというオレの文句に、いかにも済まなそうな口ぶりで、

 

 

『新参のAIは規定の期日が経過するまで、アノ監視システムを使用できない社内規則でシテ……』

 

 それがための現地張りこみ。だが雨風虫寒暑に関係ないゴキゲンな待ち伏せだ。

 とはいえ、仮眠をいれても徹夜明けがそろそろキツい歳になってきた。

 これからノコノコ発車して、白昼堂々と撥ね殺すワケにもいくまい。

 部屋に帰れば『美月』が“あられもない”姿で寝てるだろう。

 オレがソファで横になれば、いつのまにか添い寝する彼女。

 そんな現場を、詩愛に見られるいつものお約束……。

 

 ──とりあえず寝不足の脂ぎった顔を、水道で洗いたいな……。

 

 ウェットティシューではものたりないのだ。かといって夜ならまだしも、昼間の駐車場に轢殺トラックを停めてスーパー銭湯というのも気がひける。

 

『ドウなさいますか──帰投いたしマス?すこしお休みになってハ』

 

 どこか、公園の水道で……と考えたとき、ふいに“天啓”のごとく良い場所が浮かぶ。

 

「【ボニー】、これから行く場所を、覚えておけ」

『Sawa(はい)。座標をドウゾ』

「いや──オレが運転する」

 

 なぜかAIまかせでなく自分で運転しなきゃダメな気がしたオレは、そのまま混みはじめた朝の道路を、あの“縁結び”神社へとむかった。

 駐車場にトラックを乗り付け、自販機のわきにあった水道で顔を洗い、ついでに頭にもぶっかけて張り込み明けの頭をスッキリさせる。

 

 太鼓の重い響き。

 本坪鈴が振られるの音。

 祝詞を朗々と唱える神主の声。

 枝を広げて生い茂る御神木の気配。

 杖をついた老夫婦が、拝殿の方に向かってゆく。

 

 相変わらずこの神社は、まるで結界の中のように清々しい。

 朝の新鮮な空気とも相まって、その印象は倍加されるようだった。

 

「あぁ~っ、美香子のオジさま!」

 

 とつぜん、場ちがいな上っ調子の声。

 ふり向けば、例の現代風な巫女が両手に重そうな紙袋を下げ、社殿と母屋をつなぐわたり廊下に立っていた。

 

「おぉ~……(えぇと……)マコっちゃん!」

「やだ!一瞬アタシの名前忘れてたでしょ!」

 

 そういうや、後頭部に貼ったガーゼが目立つ頭をゆすって笑った。

 

「ケガのほうは、もういいのか?」

「……えぇ。おかげさまで」

 

 そう言うと、この現代風な巫女はオレをジッと見つめた。

 

「どうした?」

「オジさま……マイケルさんは……」

 

 そこまで何やら言いかけるが、ジッ、と長いまつげの上目遣いでこちらの顔つきを窺うと、

 

「うぅん、やっぱナンでもない……」

「なんだ?ヘンなヤツだな。それに今日は金曜だろ?学校は」

「それがサァ、聞いて下さいよ!」

 

 紙袋を邪険に足もとに落とすや、ダン!と足袋をはいた足で、わたり廊下の簀の子を踏みならす彼女。歩み寄るオレが近づくのをまたずに憤懣(ふんまん)やるかたない表情(かお)で、

 

「神社(ウチ)の用事で、きょう学校休まされてるの……信じらンないでしょ!?」

 

 そういって、白衣(びゃくえ)をまとう薄い胸を反らし、

 

「花のJKとっツカまえて、祭りの準備を手伝わせるなんて!」

 

 まつり?と近くにあった掲示板をみれば──なるほど。

 

 《例大祭》とあるポスター。

 太鼓や神輿のイラストが添えられている。

 味気ないことに絵柄は、どこでもよく見る汎用イラストだ。 

 

「でも、授業に出られなくても放課後の部活には出ますからね!」

 

 フンス!とガッツ・ポーズで息巻く巫女に笑いつつ、そう言えばとオレはさりげなく、

 

「美月』……美香子のヤツも、最近は学校に来てるんだろ?」

「あぁ……まぁ。ときたま、ですけどね?」

「ときたまだァ?」

「好きな教科とか……部活とか」

「好きな教科だと?アイツにそんなものあるのか──それに部活?」

「音楽の時間は、けっこう来るようになって。合唱の時、あのコ張り切って独唱したらセンセーが大興奮……」

 

 ──だろうな……。

 

 いつぞやの駅コンコースでの騒ぎ。

 あのアリア。あの強烈な高音の伸び。

 大勢の通行人たちの瞠目と賛嘆、歓声。

 

 パリはオペラ座出身の、ビアンな女教師にマンツーマン仕込みでおそわってるのだ。そりゃ上手くならんほうがオカしいってモンだ。

 

「もともと音大卒のセンセーでしょ?推薦がどうとか言いだして」

 

 ──お♪コレは……もしかしてワンチャンあるかも。

 

 あの娘には、ぜひとも大学に行って欲しかった。

 もっともっと、いろんな人間と関わって、いろんなコトを知って、視野を広げて欲しい。

 あの国粋オヤジが留学費用まで出すと言うのだ。妖しげな夜の店などに関わらず、フツーに高校生活を送ればイイのに。

 

「あとは部活なんだけど……」

「なんだ?合唱部とか、ナニかに入部(はい)ったとか?」

「それが茶道部と──」

「ッは!?」

 

 オレは絶句する。

 よりにもよって、茶道部!

 あのアーパー娘が「1楽、2萩、3唐津」とか「この瀬戸黒の高台(こうだい)が……」などと言っている情景がまるで浮かばない。なにをトチくるって茶道など……。

 

「それと新体操部ね」

「ハァ?──新体操だァ!?」

「あのコがレオタード着て床運動したときの、提携校男子どもの目つきときたら!」

「ふぅぬ……新体操……ねぇ……」

「写真部の連中なんか、望遠レンズと三脚かかえて、場所取りにケンカするくらいなの!イヤらしい!!」

 

 オレは鼻血を出す『フクロウ』を連想する。

 まぁ、性欲が制服を着てるような男子高校生の諸君にはムリもないか。

 なんと言ってもあ(・)の(・)『紅いウサギ』仕込みだ、男好きのするよう性的な施術を受けた肢体(からだ)に艶っぽい微笑。蠱惑的なしぐさ。もともと素材がイイうえに本場仕込みの手練手管をモノにしたとあっては、免疫のない童貞はイチコロだろう。

 

 そこで気付いた。

 

 ──ヤツめ。店の仕事に役立つような科目を選んでいるな……。

 

 音楽。

 茶道。

 演舞。

 

 みんなあの店でのプログラムに関係のあるモノだ。

 茶道は……おそらく客のテーブルについたとき“嗜(たしな)みのあるフロアレディ”の仮面をかぶるためだろう。新体操はステージでの身ぶりを意識してるんじゃなかろうか。

 

 巫女はさらに言いつのり、

 

「それに演技の動画が、また高値で売り買いされてるんですよ?おまけにあのコったら……そうだ、オジさまからも、言ってやって下さいよ!」

「なんだ、アイツまた何かしたのか」

 

 “マコっちゃん”は面(おもて)を、やや赤らめる。

 

「お嬢サマぁ!」

 

 遠くから、巫女の服をきた中年女性から声をあげた。

 

「チラシと、それにポスターをぉ、お早く……!」

 

 そしてオレの姿をみとめたのであろう、深々と最敬礼をする。

 してみると彼女は、あの得体の知れない祈祷に加わっていた婦人かも。

 彼女は先に立って廊下を歩きはじめた。後頭部の白いガーゼが痛々しく目立つ。

 

「アタマの傷は、結局どうだったのさ?」

 

 オレは靴を脱いで紙袋を二つながら片手に提げると、

 

「アタマに衝撃を……重(お)っも。これ全部チラシとポスターか」

「そう。例大祭を知らせるためのフライヤー(チラシ)よ。ありがと……キズは、たんに“ノーシントー”おこしたダケだから。でも血管切ってそれを縫ったんで髪の毛チョッと剃られてサイアク!」

「きをつけろよ?脳震盪ッつたってコワいんだからな?年とってから、ボケの原因になるかもだぞ?」

「いやぁん……で、ナンの話だったっけ?」

「ホラwwwwもう呆(ぼ)けた」

「ちがぁう、ボケてなぁい!あ、そうそう……」

 

 そう言うや、彼女はまた顔を赤くした。ナンなのだ一体。

 

「コッチ来て」

「そうだ、忘れないうちに。お守りを新しくしたいんだけど。また焦げちまってサ」

「またァ?オジさま障(さわ)りが有り杉ナンですけど……」

 

 そういうや彼女はため息をついて肩をおとした。

 いらっしゃいませ、と待っていた恰幅のいい中年巫女に紙袋を渡し、彼女はトタトタと板張りの社殿をすすみ、どうやら自分専用とみえる小部屋にオレをまねく。

 弓の入った緑の袋が矢の入るエビラといっしょに白壁にたてかけられ、小机にはノートPCと、封の開けられたキャンディーの大袋。

 

「ホラ……コレ見て」

 

 彼女は流れるような手つきでノートPCのパスワードを解き、デスクトップにあったフォルダーを開くと幾つもある動画ファイルのうちの一つを立ち上げた。

 

「この前、ウチの提携男子校と交流会した動画なんだけど……」

 

 ボリユームをあげると、歓声、それに口笛がきこえてくる。

 体育館にひびきわたるノリのいいBGM。男子生徒の歓声。

 その中で、汗の浮き出るピンクの光沢レオタードが踊って。

 扇情的な笑み。挑発的な眼差し。フェロモン全開な身ぶり。

 上唇を舐めて、まるで(……姦(や)って♪)と言わんばかりに。

 

 ──美香子……いや、コイツはもう紅いウサギの『美月』だ。

 

 なんの目的に使うのか知らないが、体育館の床から突き立つクロームのポール。

 それを背景にして、あちこち媚びた流し目で彼女が淫(みだ)らに腰をくねらせる情景。

 

(……ナニwwあれwww。ちょっとエッチっぽ~い♪)

(……チョットどころじゃないわよ!美香子ったらナニやってるの!)

 

 オォッ!という体育館を揺らすどよめき。

 バシャバシャと激しいシャッター音がするのは、モードラ付きのの銀塩カメラか。

 フラッシュの閃光が嵐となって、レオタードにピッチリと包まれた『美月』の汗ばむ肢体(カラダ)を輝かせる。

 

 それも道理。

 

 豊胸された乳をレオタードからこぼれんばかりに。

 ブルン!と揺らし飛び上がるや、高い位置でポールにカラみつく。

 そのまま身体を横に伸ばし、ハイレグ気味に誇張される美脚を目いっぱい伸ばして。

 次いで、しなだれるごとく逆さになると、クルクルとゆるやかに。

 指先まで細やかに神経をくばった優美な動きがニクい。

 

(──やっべ。チンポがフル勃起した)

(──いいなぁ。あのコって、彼氏いンのかなァ)

(──いるにキまってンだろ!あんなエロいボディして)

(──だな。もう処女ですらねえぞ多分。シャブセックスも経験してたり)

 

 訪れた男子高校生のアタマ悪そうなヒソヒソ声が、ところどころに挟まれる。

 提携する男子校は進学校だと聞いていたが、いまはどこもこんなモノなのだろうか。

 

 巫女がスライドを動かして画像をトバすと、演技を終え白タオルて汗を拭きながら美香子が画面に近づいてくるシーンとなった。

 

『あら──マコっち来てたの』

 

 あっけらかんとした美香子の声。

 しかし、その上気した顔つきからのぞく淫猥な印象は、やはりまぎれもなく“夜の舞姫”のものだった。とても一介の女子高生のモノとは思えない。

 

『来てたの、じゃないわよ!』

 

 “マコっち”こと現代的な巫女の声。

 

『また勝手なことして。顧問のセンセーに怒られるよ?』

『え?センセーにならオッケーもらったよぉ?』

『……ウソ!あの“クマひげ”が?』

 

 もちろん、と彼女は自慢気に、

 

『“クマひげ”からもらったこのレオタード着て、体育準備室で何枚か写真撮らせたら「自由に使ってイイ」……だってサ?』

『あンのヘンタイ教師ィィィイ!』

『それに──ふふッ』

 

 美香子は、なにか秘密めいた含み笑いをみせて現代巫女に近づくと、

 

『──ホラホラぁん♪』

 

 淫らに腰をクネらせてみせる美香子。

 そのたびに、彼女のレオタードに包まれた腹の方からコロコロ♪……コロコロコロ♪

 まるで鈴を鳴らすような、心地よく澄んだ音がする。

 

『なに……ソレ』

 

 えへへとそれには答えず、彼女は汗ばんだレオタードの尻の食い込みをなおすと、取り巻きに囲まれて行ってしまう。

 年のワリには豊かに張り詰めたハイレグの豊尻を振りたて、親善訪問した男子生徒たちの熱い視線を一身に浴びながら、彼女はピロティーをぬけ校舎へと消えていった。

 

「……ね?」

「ね、って」

 

 わッかんないかなぁ、と“マコっち”は焦れったそうに、

 

「あのコ、膣(おなか)にナニか容(い)れてたンだよ!きっと」

「──えぇ?」

「それもエッチくさいアブないやつ!“大人のお店”で売ってるような……」

 

 彼女はアダルトショップのことを、恥ずかしそうに口にした。

 オレはモノの本で読んだ“りんの玉”を思い出す。

 なかに鈴が入った小さな玉。それを昔の芸者たちは膣道に入れて“しまり”を鍛錬したとか。いまの映像では、周囲の騒音に負けずかなりの音がしたので、おそらく「鈴」ではなく電子的なデバイスだろう。出どころは……もちろん『紅いウサギ』だ。

 

 ──マズいなぁ……。

 

 しばらくスレ違いの生活をしている間に、ますます“夜の女”らしくなってきやがる。このままでは、金遣いは荒くなるし、学校からも浮いてクラスから阻害されるしでイイことは無い。何とかしなければ、とオレは何度目かの決意をあらたにする。

 

「どうだい?マコトくん。美月──美香子のヤツ、クラスから浮いてないかィ?」

「そりゃぁ……」

 

 おそらく保護者のオレの前で、正直に言おうか言うまいか。一瞬悩んだのだろう。

 損得感覚のスレた現代っ子とはいえ、こういうとこは、やはりイイ子だ。

 彼女はしばらくオレの前でモジモジしていたが、

 

「一部をのぞいて、そのぅ、女子には……正直ヒかれてるというか」

「一部の女子とは?」

「ほら。読モとか、アイドルの追っかけとか営ってるチャラ系の女子。その子たちには、チヤホヤされてるわ」

「あぁ、やっぱり。まともなクラスメイトには、相手にされてないワケか」

「でもでも、提携校の男子生徒には相当に好かれてるわよ?下級生の女子生徒には、彼女のファンクラブや“親衛隊”だっているくらい。でも──」

「でも?……でも何だ」

「彼女ったら、男子や女の子たちには目もくれないの。『アタシには“ご主人サマ”が居る』とか言って」

 

 ──うげェ……。

 

 アイツ。外でも吹聴してやがるのか。

 これは今度、めったなコトを言わないように釘をさしておかないと。

 

「今日は、美香子のヤツ登校してるのかな?」

「シらないわよ、そんなの」

「できるだけ、アイツと仲良くしてくれないかなぁ……」

「さぁね。むかしは仲良かったけど、いまはあのコ、変わっちゃったから」

 

 そのとき、オレの携帯が鳴った。

 

 画面をみると、なんとその美香子からだ。

 やはりこの神社、縁結びの神というカンバンは伊達ではない。

 画面をスワイプさせて、オレは携帯を耳に当てた。

 

「もしも──」

『ご主人サマぁ!』

 

 携帯から洩れるいきなりの大音量。

 巫女姿のマコトが、正座のままギョッと身をのけぞらせるのが分かった。

 

「バッ──デカいよ声!」

『ねぇねぇ~?今日はお帰りが遅いけどォ……もうじきなのぉ?』

 

 出た。舌っ足らずの甘えたような、この口ぶり。

 

 どうせまたイヤらしいヘンタイ的なコスチュームをまとってのお出迎えなんだろう。

 透けスケのネグリジェに寝化粧。“りんの玉”を己の下腹部に仕込んで、腰をくねらせドヤ顔で出迎える姿が今から目に浮かぶ……。

 

 一気に部屋へもどる気を削がれたオレは、

 

「いや──今朝はもどらない。会社で仮眠して夕方に着替えをとりにだけ帰るよ」

『なんだぁ……そっかぁ』

「おぃ」

『なぁに?』

「今ドコだ?」

『……ご主人サマのお家』

「学校は?」

『……お店が遅番だった』

 

 オレは聞こえよがしにため息をついた。

 あのな?と前置きしたあと、

 

「高校生活を楽しめるのは、今しかないんだぞ」

『……ウン』

「あまり私に心配をかけさせないでおくれ?」

『……ウン』

「高校や大学で出来る友人は、一生の宝物だぞ」

『アタシ大学なんて行かないモン』

「じゃぁ、高校生活だけでもキッチリしておいたほうがイイだろうが」

『……だって』

「マコトくんや、先生だって心配しているぞ?」

『……わかったわよゥ』

「よぉし、イイ子だ……それじゃな?」

『ウン♪』 

 

 嬉しそうに通話は切れた。

 小部屋の中の──重い沈黙。

 近くの樹から、セミが鳴きだした。

 そのいたたまれない、針のむしろな空間で。

 『この変態オヤジ!』と言わんばかりな巫女のジト目。

 

「……そんな目をするんじゃない」

「ご主人サマ、ねぇ……そうなんだ……オジさまが」

「アイツが!勝手にそう言ってるだけだ」

「ハイ、説得力ゼロ~~~」

「そんなァ。こっちは被害者なのに」

「被害者があのコの乳首にピアスしたり、あそこにヤバいもの挿入(いれ)たりするんだ、ふぅ~ん」

「え!なんで乳首ピアスのことを!?」

 

 巫女のジト目が、さらに軽蔑レベルまで進む。

 まるで深夜の六本木にタイトスカートをおっぴろげ、根ゲロをかたわらにして、ショーツ丸出しで前後不覚に爆睡するOLを見るような目つきで。

 

「……あの子が見せてくれたのよ。これは自分とご主人サマの絆(きずな)だ!って」

「濡れギヌだって!あれはアイツのバイト先でムリヤリ穿孔(あけ)られたんだよ!」

「ま、そういうコトにしておきましょうか」

「ホントだって」

「ワかってるわよ。マイケルさんは、そんなコトするひとじゃないもの……」

「え……」

「助けてくれたでしょ?あの世で。テッポー使って、女神サマの憂(うれ)いも祓って」

「あの世だと?」

「お母さんにも会えたし──嬉しかった」

 

 この娘が何を言っているのか、わからない。

 だが、大きな石橋と、川底に骨が透ける小川のイメージは、残る。

 

 ──闇の中に浮かぶ朱色の鳥居。ゆらめく篝火(かがりび)……。

 

 そういえば、何かクソ長く、重いライフルを持っていたような。

 夢から覚めたとき、異様に上腕二頭筋のダルさを感じたときがあったっけ。

 

「あぁ……やっぱり記憶を封じられてるのね」

 

 ハッ、とマコっちは息をはいた。

 

「まぁイイわ。そうだ、お札の交換だったわね」

 

 現代風な巫女は立ち上がり、ほのかにコロンの匂いを漂わせて小部屋を出ると、社殿の奥へオレをいざなう。

 

     *  *  *

 

 車内に置いてある大きな御札と携帯用のお守り。

 それを、宮司のオヤジさんからお祓いを受けて新しいモノに変える。

 エンギをかつぎ、財布の中にあった札を全部寄進すると、オヤジさんは恐縮しながら受け取った。

 

「屋根を修理するご寄進も受け付けてまァ~す!」

「コレっ、真琴!」

「……あとオジさま、なんか脂っぽい。おフロはいってます?」

「いや──その」

「これ、いい加減に失礼ではないか……すみません。男手ひとつで育てていると、どうにもガサツに育ちまして」

「だって。なんか男クサいんだもん」

「うっ……」

 

 まさかトラックの中で徹夜の張り込みをしたためともいえない。

 

「そのぅ……給湯器のぐあいが、イマイチで」

「なぁんだ、そうでしたか。それならご遠慮なさらず……」

 

 シャワーを借りてようやくサッパリしたオレは、勇躍神社を出発。

 街道ぞいの牛丼屋で、サラダ付きの焼肉定食(ライス大盛り)を腹におさめてから【ボニー】まかせで会社の地下駐車場にもどり、所長やイタチ面、あるいはメンド臭そうなスタッフと顔を合わせないよう、後ろめたい足取りで素早く社内をあるくと、コソコソ地下の仮眠室にすべりこむ。

 ガランとした部屋に、鉄パイプ製にの2段ベッドがいくつも並ぶ灰色の部屋。

 空調の音だけが、低く響いている。

 

 ──ほかに仮眠室を使っている者は……居ないな?よしよし……。

 

 ここで時間をツブし、夕方に美香子のヤツがバイトへ出かけたあとで着替えを取りに行く作戦だった。なんで部屋のヌシであるオレがこんな事を……と思うが、まぁいい。今は何としてもあとひとり、あのスーツのオヤジを異世界にぶっ飛ばさねば……。

 

 夢見は──またしても妙なものだった。ひおうぎ

 

 朱色の欄干(らんかん)を引き回した、闇の中に浮かぶ舞殿。

 そこで顔を面紗にかくす巫女が、冠(かんむり)ではなく烏帽子(えぼし)を頂き、ながい房のついた桧扇(ひおうぎ)を手に舞っているのだ。

 ゆるゆるとした動き。雅楽(ががく)の音色。

 なぜかオレは、重い自動小銃を下げて、それを眺めている。

 かたわらで控える下僕らしき婦人が、ふとこちらを向いて、ニッコリと。

 

 ──そうだ、思い出した。オレは……。

 

 …………。

 ………。

 ……。

 …。

 

 

 まるで湯からあがりたてのような、体温が心地よく上がった状態でオレは目覚めた。

 心臓はドキドキと脈うって。そのくせ、おそろしいほど熟睡した気分。

 ベッドから起きてみると、全身が若い頃のように異常にカルい。

 まるで身体の中を、大掃除されたような心地の良さ。

 

 ──やっぱ車中泊は疲れるんだな……。

 

 壁の時計をみれば、すでに18時を回っている。

 そうとうな爆睡だった。このところの転生業務で、かなり疲弊していたようだ。

 ソッと仮眠室を抜けだし地下の駐車場に行こうとすると、廊下でお局さまに見つかった。

 

「あぁ、マイケルさん。ちょうど良かった。寮のカギのことなんだけど……」

「ワリぃ!スケジュール立てこんでて急ぎなんだ。また今度!!」

「あぁ、ちょっと?マイケルさん!」

 

 お局さまの言葉を背中ではじき返し、オレは階段をダッシュで駆けおりた。

 

 そういえば寮の問題もあったっけ。

 なんで急に出て行けとなったんだろうか。

 この中途半端な時期。いい物件が空いてるとも思えない。

 引っ越しの労力を考えると、せっかくカルくなった体も重くなる。

 

 ──寮を追い出しておいて、自分で探せはナイよなぁ……。

 

 【ボニー】のパワー・ユニットを起動。

 電装が生き返り、メーターパネルにインジケータが灯る。

 いったん寮に戻って着替えを取りにもどる旨を“彼女”に伝えた。

 

『ワタシが人間でしたら──お洗濯もできましたのにネェ』

 

 その声は妙にシメっぽく、情(じょう)の恨みを含んでいた。

 

 まったく量子コンピュータを束ねた“スーパーAI”ってのは、どうも扱いづらい。

 ほかのトラッカー連中にあてがわれたモノは単に轢殺アシスト代わりのレベルらしいのに、なんでオレのところには厄介な代物しか来ないのか……。

 まだ十分に明るい夕暮れの国道を運転を、ボンヤリと【ボニー】の運転に揺られつつ、オレは黙然と思う。

 

 と──その【ボニー】がいきなり、

 

『マスター。質問を宜しいでしょうカ?』

「なんだ、やぶから棒に」

『マスターは、あの美香子という少女を、どう思ってらっしゃるのデス?』

 

 予想外の問いに、オレはすこし面食らう。

 

「どうって……べつに」

『あの少女は、マスターに少なからずの好意を抱いておりマス。それに応えないのは、男性として少々いかがなモノかト』

「オマエなぁ……考えても見ろ。歳の差というモノがあるだろうが」

『そんナ!愛にトシの差なんて関係ありませんワ』

 

 いきなり【ボニー】は非難がましい口調で、

 

『愛をないがしろにするものハ、愛によって滅ぼされるのですノヨ?』

 

 ──あきれた……。

 

 コイツもまた、どうせ【SAI】のように、どこかのメロドラマでも見つけてきたんだろう。“新人”AIに対して高速回線は厳重に遮断されているハズだが、考えてみればコイツは、音響警戒装置や無線探知機など、物理の警戒・探査システムをいくらでも装備している。駐車場わきの民家が昼ドラでも見ていたら、その音をひろってしまうのだ。この辺の仕様が、やはり“お役所しごと”というか、詰めが足らないというか……。

 

 思えば、美香子を助けたこと。これが一連の変化の転換点だったように思われる。

 線路のポイント。分水嶺。ジャンクション。

 なんでもいい、とにかく分かれ目だったッてコトだ。

 ソレまでは、親権をとられた子供の養育費を稼ぐため、しゃにむに轢殺業務に邁進し、ほかのコトを考える余裕などなかった。

 

 ──それがどうだ。

 

 美香子を助けたことで、そのオヤジとのコネができ養育費からも解放され、まるでドミノ倒しのように人生が進みはじめている。 

 最近はサイフにも“よゆう”があり、心にも“ゆとり”が生じたのか、いろいろ余計なことを考えるようになった。“ストーリーは忘れてしまうが激しい印象が残る”ヘンな夢ばかり見る(らしい)。おそらくこれは、業務とはいえ人を殺す仕事がみせる心理的負担からくるものだろう……。

 

 【ボニー】が車の列を巧みにぬって車線をかえ、ウィンカーを灯し左折する。

 パトカーが、そんなトラックのすぐ横を回転灯とサイレンを回しながら追い抜いていった。

 

『マスター。彼女のコトは……すこし真剣に考えたほうガ、宜しいのではなくテ?』

 

 アホか、とオレは一刀両断に否定する。

 

「だからオマエは考えが足りないっつーんだ。そんなことしてみろ──事案になッちまう」

『捧げた愛を否定された女の末路は、哀れでスヨ?』

 

 なぜだろう。

 しみじみと言われたその言葉は、みょうにオレの心に引っかかる……。

 

 寮に到着すると、外からは目立たない仮停めの駐車スペースにトラックを入れ、オレは階段を昇った。このごろジムにもごぶさたなせいか、自分の階にあがることは息切れがする。この次はエレベータ付きの物件にしようと、もう何度繰りかえしたか知れない決意をかさねた。

 

(あぁン!──ソコ……其処(そこ)ぉぉぉぉ!)

 

 廊下に面した台所の窓が全開なので、となりのカップルのギシアンが今晩は丸聞こえだ。

 寮を移るとしたら隣人ガチャも、この次は当てたい。

 

 ──さ、ハヤいトコ着替えて、業務にもどらないと……。

 

 オレは気を取りなおし、ポケットの鍵をさぐり出すと、部屋の扉をあけた。

 美香子はすでに出かけた後なのか、遮光カーテンが引かれ、なかは暗い。

 オレは玄関のスイッチを入れる。だが──電気は点かなかった。

 もしや!と見上げれば、やはりブレーカーが落ちている。

 アイツ。同時に電気食うヤツ(機械)使ったな?

 オレは背伸びでブレーカーをあげる。

 とたん、パッ!と明るさが。

 

 

「……はぁっ??!!!」

 

 

 思わずデカい声が出た。

 扉の外に出て部屋の番号を確認する──間違いない。

 考えてみれば鍵が合致したのだ。自室であることは確定ずみだ。

 美香子の残り香やウィスキーの匂い。壁のシミや傷も、いつもと変わらない。

 

 だが部屋の中は──空っぽだった。 

 

 

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