試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【18禁版】 作:珍歩意地郎_四五四五
「なにしてんのよ!!」
スパァン!小気味良く張りハリセンが鳴った。
いつの間にか、ほそめに開いていた寝室のとびら。
そこから詩愛が竜巻のように躍り込んできたのだった。
「なんですかその格好は!痴女ですかアナタは!」
「
涙目で頭をさすりながら、美香子は闖入者をニラむ。
カツラをしていても、詩愛の一撃はコタえたようだ。
「ご主人サマとアタシの愛の巣なのにィ~」
「お・姉・ぇ・ちゃん、でしょ!それにココは、私とマイケルさんに与えられたマンションです!」
「このベッドはメス奴隷『美月』とご主人サマのベッドだモン!」
「……まったく。ヒトが具合悪くして、ちょっと目を離したスキに!」
「なんだ、詩愛くん具合わるいのか……大丈夫かね?」
オレは詩愛のどことなく色ツヤのさえない
えっ?えぇ……まぁ。と口ごもる彼女。
そこを美香子はツケツケと、
「生理がオモくて、
カァッ、と詩愛の顔が赤らむ。
ほおに手を当て、彼女も涙目。
「うっ……ま、まぁなンだ。病気かと思って心配したよ」
「まったく、生理どころか性格も重い女だわ」
「ナンですって……(ニッコリ」
「ヒィッ……そ、そうだ!お姉
「なによ、ソレ」
「シらないの?おっくれてルゥ~♪」
「だ・か・ら!なんですのソレ?」
「子宮にいれる避妊具だよぅ。経血も少なくなるし、生理もカルくなるんだって」
「アナタ……まさかそれ
うん!美香子はアッケラカンとして、
「お店の一般むけ施術室で、処置してもらった♪」
「なんじゃぃ、その“一般むけ”ッてぇのは?」
「“表”の手術室。“裏”の手術室は、なんかヤバいんだって」
「ヤバぃって……まさか」
「ダルマ?をつくったり、人間を“性処理用のお人形”にしちゃったりするらしいよ?」
オレは“女の人形”にされた
アイツは、まだガチムチの兄貴たちに可愛がられているんだろうか……。
「小男の……店長の目は届いているんだろうな?」
「“ちびピエロ”は最近また忙しいみたい。だから裏のヒトたちスキ勝手やってるの」
大丈夫だろうな、と美香子を預けている手前、心配になる。
またいつぞやの乗っ取り放火めいた
詩愛もサロメを連想したのか、艶やかなブラウスをまとう己の肩を抱いて、
「あんなとこで働いてないで!もっと高校生らしいアルバイトすればいいんです!」
「まったく同感だね。さ、美香子クンも着替えて」
とたんに“『美月』”は頬をふくらませて上目づかいに、
「え~~~これ、お気に召しませんか。一生けんめー準備したのに……グスン」
「ん。可愛い、可愛い。ただ、そんな格好で店に出るんじゃないぞ?」
「な~るほどねぇ。コノために、いろいろ画策してたわけねぇ」
オレが美香子のアタマをナデナデしていると、腕組みをした詩愛がリボンを体に巻く美香子をグルグルとまわり、
「コレが……マイケルさんのしゅみねぇ~」
「誤解だ誤解!トバッチリだ!」
「オマンコに避妊具入れてるから、いつでも中田氏OKですよ?白いモノいっぱい下さいね」
「……
またも部屋の温度が、数度さがるいきおい……。
引っ越しは、おそらく業者の“お任せプラン”にでも頼んだのだろう。それも一番グレードの
すでに梱包の段ボールはなく、スーツ類はウォークイン・クローゼットのハンガーにかかり、本は本棚に(しかも覚えているかぎり配列が完全に復元されて)。食器やその他備品は、あるべきところにキチンと整頓されていた。
──しかし……。
寮から持ってきたオレの家具や電化製品は、率直に言って新居にはあまりにみすぼらしいものだった。
紅いウサギの予備品倉庫から持ち出されたのか、天井にはシャンデリア。
イタリア・スタイルの古風なディスプレイ・ケース(酒瓶を並べるのに良さそうだ)。
くそデカな革張りの応接セットにおいては、オレが寮から持ってきたヤツが貧相に見えるほど。
食器洗い機が内臓されたアイランド型の広いキッチンを見れば、いままで使っていた200L冷蔵庫のとなりには、エンジ色をした700Lはあろうかというタンスのような
これは小さい方を「酒専用」にしなければ、収まりがつきそうにない。
──まっ……たく。
これは備品を貸し出してくれた小男に、もう一度挨拶しに行かなくてはなるまい。
なにより、こんなマンションを手配してくれた鷺の内医師にも、おなじく。
「スゴいですわよねぇ……」
まるでショールームのような広いリビングとキッチンを、オレがぼうぜんと眺めていると、後ろから詩愛の声がかかった。そしてなにかリモコンのようなものを操作したのか、ピッ、という音とともにリビングに引かれていた重そうな遮光カーテンがスルスルと静かに開いてゆき、広いルーフ・バルコニーの向こうに、いまやすっかり晴れ渡った空を一望させる。
「……でも。ここで貴方と暮らせるなら……わたしは嬉しいです」
「だが、これだけのモノ──マンション含めて──タダでお借りするワケには」
オレは腕組みをしたまま、ふり向かずにつぶやいた。
すると詩愛は、背後で口をとがらすような不服めいた調子で、
「いつも父のやるコトですもの。好きに受け取っておけば良いのですわ?」
ほんと強引なんだから!と憤慨する気配が、それにつづく。
「着替えてきたYo~~」
美香子が寝室から出てきた。
「おやおや──おやおやおや」
聞いたようなセリフがオレの口から出たのも無理はない。
やってきた美香子の姿
ウィッグは替わり、黒髪のショートボブ。
肩口がふくらみ袖となった白ブラウスに紺のネクタイ。
同じくスカートはパニエが入っているような、紺のロング・スカート。
先ほどの淫乱ビッチな印象とは一転、総じてフォーマルな装いのお嬢さまがご登場だ。
「美香子はカワイイですねぇ……いつも、こうしてもらいたいもンだ」
「お店のお姉ぇサマたちに、教えてもらったんだ──ひひジジィ殺しのカッコって♪」
──ぐっ……!
胸に.308NATO弾を食らったような衝撃。
アッケラカンとした美香子の笑みが、さらにそれを倍加させる。
さすがに姉の方は気づいたのだろう。眉をひそめ、すこし気色ばんで、
「美ィちゃん?なんてコト言うの!まるでマイケルさんがひひj……お爺さんみたいじゃない!」
へ?と屈託のない怪訝さが彼女の顔に浮かんだが、やがて合点がいったか(えへっ♪)と、
「いっけなぁい。別にご主人サマは、おぢ~チャンてワケじゃないのよ?ただ、この手の格好をヨがるのは『女に清純な幻想を持ってる哀れな好きモノの年寄りだけ』って──」
オレの胸に、さらにグサグサと
「美ィちゃん!!!111」
「だって!チーフ・レディの小枝子お姉ぇサマが、そういってたモン!」
──小枝子……。
フロアで魅せた、知的な大人の風情。
どこか物憂げな、都会の冷たさをもつ女。
女をメスに変える馴致部屋で見せた、嗜虐的な笑み。
ムチを手に、性処理人形の鋳型へとシロウトをハメ込んでゆく……。
「やっぱり小男にクギを刺しに行くか……」
「へ?ちびピエロに?」
「オマエのことを、もう一度よく頼んでおかなくちゃ」
「おいでよ!来週は、あたらしいコックさんが入るんだよ?フレンチだって!」
「たしか日替わりなんだよな、あの店。すげぇなぁ……」
「ウン!まかないのゴハンが楽しみ!」
そう言ったとたん、美香子の腹が盛大に鳴った。
彼女は、べつだん恥らう風もなくテヘッとかわいく笑い、
「ご主人サマぁ……お腹すいちゃった」
「そうねぇ。何か、作りましょうか」
詩愛はキッチンにむかい、件の巨大な冷蔵庫をあける。
「そのデカい冷蔵庫は?ダレがもってきたんです?」
冷蔵庫をのぞき込んだ後ろ向きのまま、詩愛がちいさく手をあげた。
「父から……」
「やれやれ」
「でもダメですね。人数分の材料がありません。やはりお買い物、してこないと」
オレは、となりにある自分の冷蔵庫の冷凍部分をあけた。
たしか半額シールの時に買った味付け肉が大量に入っていたはずだ。
しかし──ない。冷凍庫に入っていたのは備品である未開封のウォッカ数本だけ。
「ここにあった冷凍肉は……どうしたんだろ?」
「業者サンが処分してたよ?ぜんぶ消費期限ギレだってサ」
「バカな!冷凍しておけば、半年ぐらい余裕なんだぞ?もったいない」
「ちょっとヤダ、やめてくださいよ!そんな食生活なさってたんですか?よくご無事で……」
そこでハッと気づいた。
──もしや!
ガバと冷蔵エリアをあけるが、ありがたいことに缶ビールやウイスキー類は無事だった。
「なぁに?お昼から、お酒ですの?」
「う……そう言われるから、オレは結婚しないんだゼ」
「ご主人サマぁ!メス奴隷『美月』はナニも言いませんよぉ?」
「うんうん。さすが分かってる。美香子はカワイイですねぇ(ナデナデ」
「なっ!わ、わたしだって節度を保っていただければ、別段とやかく言うつもりは……」
けっきょく。
昼は美香子の提案で、ユーバー・ミーツに出前を頼んでワクドナルドになってしまった。まぁ、タマには気分を変えて、ファースト・フードもいいか。
配達が来るまでに、オレはこのマンションの間取りをザッと見聞した。
4SLDK、とでも言うのだろうか。
いちいち造りが大げさだ。
デカいサービス・ルーム。
洗面所とパウダールームが独立したつくり。
広いルーフ・バルコニーのからは、街が一望できる。
各部屋には、すでにベッドが備え付けられ、それぞれ新品の布団が用意されていた。
3人で住むには、少しばかり広すぎる間取りだ。
Yシャツやパンツなどの着替えを手に、オレは風呂場──いや、この場合“バスルーム”と言った方がいいだろう。脱衣所には室内乾燥システム。大型の洗濯機ときたもんだ──の扉をあけて中をのぞき込んでみれば。
ゼイタクにも張り出しつきの大きな窓。
打たせ湯や、ジャグジーらしき様々なデバイス。
壁面にはモニターが埋めこまれ、まさに至れり尽くせり。
──ふぇぇぇ……。
刻一刻と、あの白髪の医師のワナにハマってゆく予感。
まったく権力者のチカラわざの前に、オレのような平民は手も足もでない。
──ま、考えたってしかたない、か。
なるようになれだ、と半ばヤケクソにシャワーを浴び、ようやくサッパリして体を拭きながら外に出れば、脱衣所に脱ぎすてた服は早くも消え、わきの大型洗濯機がうなっている……。
数多くのセキュリティ・ゲートとインターホンをくぐり抜け、ようやくやってきたウンザリ顔の配達員に札のチップをやってねぎらい、さて、と美味そうなにおいのする重いビニール袋を、全長が必要に応じて横にのびる19世紀のドローリーフ・テーブルにのせる。ダイニング・チェアも革張りのアンティーク品だ。これも“紅いウサギ”の備品だろうか。
「それじゃ──いただこうかねェ」
「わぁい♪あ!そのシェイクはアタシの!」
「はいはい……すみませんマイケルさん、お金出していただいて」
そのときのテーブルで交わされた、他愛もない会話。
離婚していらい、ひさしく“家族の団らん”など忘れていたオレだった。
胸に来るモノをビールで押しもどし、あくまで年上の余裕と微笑を絶やさずに。
「そうだ!おまえ~。置き手紙の文鎮がわりに私のシャンパングラス使ったろ!
「イイじゃん。どうせバカラの安いグラスでしょ?」
ヌケヌケとコイツはいっぱしの口をきいて、
「こんどお店からご主人サマ用に、もっとイイの持ってきてアゲル」
「美ィちゃん……その言いかた。すみませんマイケルさん」
「ふん。なによ……そうだ!見てみてェ~♪」
美香子は広いリビングを出ると、すぐにファッション雑誌を2冊手にもどってきた。
コレ!と突きだされた表紙をみれば、いつもの『ギシギシ』と『アンアン』だ。
ページの上から付箋がとび出ている。『ギシギシ』を開いてみると、いきなり“見開き”になった美香子のバスト・ショットと鉢合わせになった。
ウィッグは無難な栗毛のポニーテール。
浴衣は水色の涼しげな
帯はエンジ色の、渋いデザイン。
【夏本番!
気になるカレシを射止めるなら──大胆に!】
もう一方の『アンアン』をひらけば……。
高原を背景に日傘を差した、白いお嬢さまドレスの美香子。
だがなぜか首には、クロームの輪が下がるSM風味な黒いチョーカー。
ウィッグは、肩甲骨まで伸びる黒髪のワンレンをつかい、メイクは強めに。
そしてなんと。白いブラウスを透かし、したに装着させられた黒い
【いつまでも
お嬢さまでは
居られない……】
なにをトチ狂って五・七・五なのか分からんが、二つの写真は衣装とメイク、それに特殊効果となによりウィッグのおかげでまったくの別人に見えた。かろうじて、オレの目前の少女が元ネタと分かるほど。しかし、紙面には生年月日と本名、それにスリーサイズが出ているので、あまりイミがない(B89?ホントかぁ?)。
これでまた余計な
「まぁ、美ィ~ちゃん。なによこれ。**高原なんて、いつ行ったのよ」
「お店の方から契約したからハナシがあってサ?お店明けに、ちょっと」
「あんまりヘンなのに乗っかるなよ?」
おれはフライドポテトを肴に、缶ビールの3本目を開けながら、
「ヤツらにとっちゃ、どうせ女の子なんて使い捨ての
「いちおー“エージェント”通してるから、大丈夫だと思うんだケド……」
やれやれ。
コイツの口から“エージェント”なる単語が出るとは。
なにかどんどん少女から女に
オレだけが、空しくどんどん老いぼれて、置き去りされる──そんな予感。
「ホント、いいかげんにしないと。そのうち大
そういった詩愛は、そのとき何を思ったのか。
艶やかなブラウスに包まれる自分の胸を、さりげなくモミしだいていた。
あるいは。サロメから受けた恥辱的な
「それに──それにね、アタシ」
姉の仕草には気づかず、美香子はさらに言いつのり、
「ヒョッとしたら本格的なモデルとして、芸能人デビューするかも!」
「ナニいってんだ。毛もまともに生えてないヒヨっ子が。芸能人じゃなくて軽脳人だろうが」
「そうよ?たいがいにしておきなさい」
「あ~お姉ぇちゃん、自分がグラビアアイドルにもなれないからって、ヒガんでる」
「なっ、なによバカ!アイドルなんて、おさない男の子の“ズリネタ”じゃないの!」
オレは自分の耳をうたがった。
詩愛も言ってしまってから気づいたのか、ウッと口をつぐむ。
美香子ですら目をシロクロさせ、食べかけのチーズバーガーにかぶりついたまま。
「ま、まぁ。ホラ、芸能界の
「……」
「……」
ちからワザで詩愛は強引にクロージングへと持ってゆくが、オレと美香子は沈黙するしかない。
彼女はそっぽを向いて知らぬげに、
「さ、さぁ~てと。今晩は、ごちそうにしましょうか!夕方はお買いもの、っと♪」
「そういえば、サ?」
「こんどは何じゃい」
「あの“童貞クン”も、アタシのこと“ズリネタ”にしてるんだろうなぁ。このまえ店でアタシのバニー姿、ケータイで撮ってたし……」
──そうだ、忘れてたな……。
情報屋の『フクロウ』から着信履歴があったことを思いした。
「なぁ?どうせなら、ヤツも晩メシに呼ぶかァ?引っ越し祝いに」
「え”ぇ~~童貞クサくなるぅ~~」
「……どなたのことかしら?」
「ほらぁ。このまえ会った、三兄弟のいちばん下の……」
「あぁ、信三さんね?イイんじゃない。あの子も、お呼びしましょう」
「うげー……」
美香子は心底イヤそうな声を上げるが、何を思いついたのか。ふふっと、その顔を『美月』特有の小悪魔めいたモノにかえ、ほの暗い笑みを浮かべる。
「じゃ、アタシがアイツを呼ぶね?」
「アイツ、だなんて年上に失礼ねぇ。信三さん、でしょ?」
「イイのよ、あんなの。童貞フクロウ、って呼ぶんですよねぇご主人サマぁ?」
「カワイイ子が口ぎたないのは感心せんな。見た目が良ければ、なおさら裏切られた気分だ」
午後は詩愛に連れられ、フロア近所の挨拶まわりだった。
なぜか美香子も、いっしょに行くといって聞かないので同伴させて。
たまたま一室ではファミリーパーティのお茶会をしていたのですこし手間がはぶける。
見覚えのある集団。
そうだ。
「あぁ──さきほどロビーにいらした方ね?」
詩愛に言われたとおり、できる限りの盛装をしたオレは、ブルジョワの“ご家族さま”たちに対して
そして落ち着いた
「あのときは雨に降られまして……お見苦しいところをお見せ致しました」
一団のなかに生まれかけた緊張が、サッと氷解する気配。
ハイソ集団の中から、頭のユルそうな印象がある、しかし
「鷺の内さん。そのかたぁ、アナタのお知り合いでしたのォ?」
次いでオットリとした口調で、
「イヤだわァ。わたしてっきり──」
オイ!とその先を言わせず、婦人の夫らしい白スーツの洒落者がさえぎった。
微妙な雰囲気になりかかる中、オレは機先を制して美香子を紹介する。
彼女も心得たもので、チャンと訪問用のスーツに黒髪ウィッグだ。
これも店の備品なのだろう。惜しむらくは少し水っぽかい。
コイツは営業用とも思える、
「美香子と申します。ご主j──」
ドン!と一発。
背後から詩愛のレバーパンチ。
「ひぎぃッ!」
準備もなくムリヤリ
「あぁ~っ!ミッキーじゃない!!?」
そしてこの娘は、どこからか『ギシギシ』を持ってきて、ページを広げてみせた。
とりあえず『アンアン』のほうでなくて良かったとオレはひそかに胸をなでおろす。
こうなれば一団が打ち解けるのは早かった。
一団の中に居たほかの少女たちからも矢継ぎ早にサインをせがまれ、アイドル気取りでそれに応じる美香子。そしてなぜかこわばった笑みになる詩愛の横顔……。
適当な折をみてオレたちは切り上げ、さらに数件まわり、最後は例のコンシェルジュから幾分つめたい扱いで、この億ションの説明を受けた。
まったく設備の豪華さとセキュリティのすごさは特筆に値する。
各種の専用ゲートや、死角のない監視カメラなどの防犯設備。
荷物用の大型エレベーターまであるというのだからおそれいる。
「……ここはプライバシーを重んじるマンションです」
最後に婦人コンシェルジュは、オレの方をワケ知り顔でジッと見つめ、
「くれぐれも、外部から
もろもろの挨拶回りもおわり、すっかりヘトヘトになってしまったオレはシャンパンを食らって夕方まで昼寝してしまう。
ここ数日の疲れが一気に出て、詩愛が買い物に出かけたのも美香子が添い寝していたのにも気づかなかったぐらい。
久しぶりに殺伐とした轢殺屋ではなく、平和な一般人らしい午後をすごしたような、そんな満足感があった。
その晩のことた。
例によって、巨大なバックパックを背負い、トレードマークの折りたたみ自転車をもって新居に現れた『フクロウ』は、美香子にアゴで使われながら、バックパックの中から取りだした雑多なゲーム用の機材をリビングに設置する。ようやくプロジェクターとスピーカの配置がキまり、一段落ついたころ。美香子はシャワーへ、詩愛はIHのキッチンで鍋をコトつかせているとき。気になっていた着信の件を、オレは『フクロウ』に聞くことができた。
「あぁ……そうだ忘れてました」
「なんだ、じゃぁ大したことじゃないのか」
「とーんでもない!現れたんですよ、あの人物が」
「だれだ?小男か、それとも前に写真をみせた銭高って警部補か?」
そのとき。
この小僧は生意気にも“ため”を作ってニヤリとわらう。
以前には無かった、自信ありげな
「なんだィ、もったいぶるなよ」
「……例の、老人ですよ。
──なにぃっ!
オレはダイニングキッチンに身を乗り出す。
はずみであぶなくビールグラスを倒すところだった。
なにごとかとキッチンにいた詩愛が一瞬、顔をのぞかせて。
「どこで!」
「紅いウサギの、特設ラウンジ」
「特設ラウンジ……知らんな。そんなとこ」
「あぁ、マイケル先生が来ない間に店が小改装されたんですよ。
「なんでオマエが、そのことを知ってるんだ。美香子に聞いたのか?」
「いえ?ボク、アソコでウェイターしてますから」
なんともあきれた。
美香子に次いで、コイツまで。
なるほど、さっきの自信ありげな態度といい、警察を“イヌ”呼ばわりしたことといい、すべては店の影響か。まったくあそこは恐ろしい場所だ。人間を物理はもちろん精神的にも
「ンで──ナニやってた!ヤツは?」
オレはヤツから食らったパンチを忌々しく思い出しながら聞いた。
クソが。まずあのときのお返しに一発見舞いたい。
すると『フクロウ』は間抜けにも、
「ナニって……酒を飲んでました」
「アホっ!それ以外の情報だよ。どんな感じだった?」
「
「ひとりだったか?」
「いえ、若い
──若いヤツ……。
オレは携帯の画面にドレッドと“おサル”のジョージを浮かべた。
「コイツらか?」
「いいぇ……歳はボクと同じくらい」
「格好は?」
「着慣れないスーツが見え見え。でも“細マッチョ”というか、なにかスポーツやってる体ですね」
「そいつも飲んでたか?」
「そこまでは見ませんでした……なにせ
イヤな予感がする。
これはどうしても小男に会って、いちど店の監視カメラの記録を見なければ。
時間がたてば、映像は上書き消去されてしまうだろう。来週の早いうちに見に行かねば。
──いや。先手をうって、記録の保全を美香子経由で小男にたのむか……。
「……先生?」
「あぁ、スマン。しかしこれは電話じゃなくてメールでも知らせてほしかったな」
「言ったでしょ?忙しくてトテモとても。のんびりメールなんかしてたらドヤされますって!」
以前よりハキのある口調で青年は口をとがらせた。
良かった。やはり部屋から出したのが、プラスに効いているようだ。
「ようし、こんど店に行くぞ。そのまえに美香子のヤツに頼んでおかないと」
「──アタシがどうしたってぇ!?」
じゃぁん!と口で言って美香子がリビングに入ってきた。
その表面に浮かべる光沢とシワが、
しばらく見ないうちに美脚の度合いを増した、メリハリのある足。
ラメの入ったストッキングと網タイツの二重履きは、ふくらはぎと太もものバランスを強調してやまない。
おまけにフローリングにかかとの高いピン・ヒールを履いて……これ
「へっへェ──どうをン♪童貞クン」
『美月』と化した美香子は後頭部と
キツすぎるエナメル衣装がキチキチと鳴り、表面に鮮やかな光沢をはしらせて。
と──またもや彼女の腹部からコロコロ……♪
澄んだ音が、キッチンの炒め物を圧して響いた。
しかし、さすがに『フクロウ』は
「それ……“上級メス人形育成用”の強制バニー・
動じる風もなく、醒めた目で余裕しゃくしゃくと、
「勝手に持ち出したりして。怒られても知りませんよ?」
「ア・タ・シ・は!許可されてるの。それに、こういう仕組み。知らないでしょう?童貞のクセに──んッ!」
……と。
バニーコートのクロッチから、
『ヅィヅィィィィ……ィ”ッ……
ヅィッ!……ヅゥィィィィィィ……』
ケラがなくような、ひくい音がランダムな調子で美香子の
よく見れば“クロッチ”の前とうしろに丸い尾部が浮かび、それが円形にくねり動いてる。
グラビア・ポーズをとったまま、
「ん”ッ……アッ!
『美月』は悩ましく身
刺激に耐えかね、ピンク色めく吐息を漏らす。
よがり声と
「ん”ッ……う”んッ……チョッと、ヤダこれ……刺激つよォい」
青年の鼻から赤いモノがポタポタと口もとを伝い、フローリングの床に垂れた。
「……キャハハハハッ!」
手を打ちたたいてバカ笑いした『美月』の
バニー・コートのクロッチについていたファスナーをフルえる手で解き、己の
ゴトゴトッ!!
床に落ちたディルドーとアナルプラグは、まだ女を犯し足りないようにジリジリとクネりながら、イボ付きの胴体を無念そうに執念深くよじらせていた。
そして──その先端より時おりピュッ、ピュッと噴き出す緑色の液が、フローリングを穢して。
かろうじて一息ついた彼女は熱に浮かされたような
「ハァハァハァ………大~ぃ成~ぇ功~ぅ♪……ヒィッ!」
一瞬でもとの美香子にもどり、オレの背後を見て固まった。
なんだ?とオレたちがふりかえれば。出刃包丁を持ってニッコリする詩愛……。