※この作品はR-18です。

試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【18禁版】   作:珍歩意地郎_四五四五

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第55話:最後のピース(伏線)

 車の外で誘導するようなホイッスルの音。

 巨大なフルサイズ・バンは段差プレートでも踏みこえたのか。

 アメ車特有のヤワいサスペンションのために車体を盛大にゆらして微速後進。

 やがてパワー・ユニットが切られ、静かになる。と後ろのドアに駆け寄る複数の足音。

 

 バン!

 

 両開きの後部ドアは盛大に開かれ、サーチライトのような光が差し込む。

 とたん、流れ込む夏の空気。ジィィィ……とケラの鳴き声。

 かなた、強力なライトの光源には蛾の乱舞を見る。

 どうやらココは店の裏にある駐車場らしい。

 ほかにも豪勢なバンやリモが数台。

 なんとストレッチ(車長延長)・タイプも。

 

「おまえタチ気をつけとくれ──『美月』だよ!?」

 

 下半身まるだしのまま、美香子は白衣を着た女性医療スタッフたちに車外へ導かれると、そこで婦人ヌード・デッサンのモデルが着るような黒マントで首から下をスッポリと包まれ、ノドもとを蝶むすびで留められる。

 ストレッチャー(車輪つき担架)がガラガラと寄せられ、彼女はゆっくりとそれに乗せられた。金属製の首輪がカチリとまかれ、付属のタグに女医が何かをかきこみ、同時に「拘束服6号」のはいった紙袋をスタッフの一人にわたす。

 

「ご主人サマ……」

 

 先ほどより少し正気にもどったらしい美香子が、ストレッチャーに手足、それに首をギュッ、ギュッと拘束されながら不安げにオレを見上げた。

 

「大丈夫だ──心配ない」

 

 脂汗がのこる彼女の額をゆっくりなで、そこに軽くキス。

 不安げな表情がややうすれ、代わって弱々しい笑みがうかぶ。

 

「さ、“ウラ”の施設に連れてくからね?“見ざる聞かざる言わざる”サ!」

 

 女医は、そういうや周りのスタッフに手をふって指示をした。

 たちまち彼女の耳にはカナル型のイヤホンがグリグリとさしこまれ、両目は全周をベルトが巡る頑丈そうな黒革製のアイマスクで覆われてしまう。

 

「イヤ!ご主人サマ──怖い!」

 

 だがその口にも、女医の手によってボールギャグが近づけられてゆく。

 口が咥(くわ)える赤い球のうしろには、シリコン製らしき長いチンポがついた、凶悪なシロモノ。

 それが美香子のノド奥までぬぬ・ぬぅ~っと差し込まれるや、細い黒革ベルトが首のうしろに回され尾錠でキツく留められる。

 

「おごぉ……」

 

 赤い球にガップリ犯される、彼女のムッチリした口唇。

 ボールギャグに開けられた穴から、ヒューヒューと。

 不安げに、そしてせつなげに切迫した呼吸音。

 

「やっぱりねェ。嘔吐(おうと)反応を抑制処置されてるワ。それ、ほかのメス奴隷と見分けがつかないように、と」

 

 両ほほのあたりに位置するリングからのびる、下向きの革ベルトがアゴの下に回され、ギュッと締められた。さらに同じリングから上向きに延び、眉のあたりで合わさるベルトも、ひたいを通り頭頂部をへて、うしろにグルッとまわるや、うなじの尾錠にカチリ、連結されて絞られる。

 

「ふンぐぅぅ……」

 

 眉のあたりで合わさったベルトからは、ちいさな二本のフックがさがり、美香子の鼻の穴をつり上げてゆがめ、彼女はブタのように哀(あわ)れな顔にされてしまった。

 

「さ、これでガッチリ固めた、っと……それじゃァ持ち主サン?“荷物”は預からせてもらうヨ!ドール(性人形)用・洗脳の有無も調べてみるから、ひょっとして数日もらうかもだねェ」

 

 女医の美香子に対する執拗(しつよう)な顔面拘束が、なにをイミするかは分からない。

 しかしコチラとしては『よろしくお願いします』と頭を下げるしか、すべは無かった。

 

 ガラガラと美香子の乗ったストレッチャーが、医療スタッフに囲まれて駐車場の通路を遠ざかってゆく。オレと『フクロウ』は無力感につつまれてそれを見まもった。ほんとうは、オレが監視カメラの記録データを調べている間、彼女が治療にかこつけてヘンなコトをされないよう、見張ってほしかったのだが“ウラ”に連れて行かれてはしかたない。

 偽装救急車めいた車も静かにどこかへと消え、あとには女ボディー・ガードだけが残される。

 

「──コチラヘ」

 

 愛想もなにもない、あらためて見れば意外に長身なこの女は、オレたちを非常階段にいざなう。鉄のタラップを数段のぼり、頑丈そうな金属ドアをあければ、もうそこはヒンヤリとした空気と物憂い気配。ひそやかな談笑と、グラスのふれあう音。つまりは客間の楽屋裏となっているのだった。

 

 オレは夏用スーツの襟をなおし、身を引き締める。

 またもや、トラの口の前に立っている印象。

 イヤな緊張が、全身をつつんだ。

 

 ──一歩間違えれば、オレだって“ご婦人用の肉棒(肉ディルド)”にされかねないんだ……。

 

 “馴致”といわれる調教用のスペースで仕上げられていた、美少年や美少女。それに美しい婦人たち。

 『小枝子』や、まだ見ぬ『麗華』の犠牲になった“素材”は、どれくらい居るのか。

 

 女ボディガードは『フクロウ』に何ごとかつぶやいた。

 そして軽くヤツの尻に横蹴りをいれると、フロアの方へと追いやってしまう。

 

「今晩、働ラク。小枝子サマ、ゴ命令──ペナルティ」

 

 そう言うと今度は、オレを見覚えのあるひとけのない廊下へと導いた。

 バネのありそうな、そのガッチリした背中に向かい、

 

「店長さん、明日は帰ってるのかな?」

「知ラサレナイ。知ッテモ、教エナイ……サアドウゾ」

 

 ひさしぶりに見る監視室は、以前と変わりばえしなかった。

 

 幾台もならぶモニター。

 ヘッド・セットを付け、サテン・ホワイトの光沢ブラウスを着た女性たち。

 インターバルでジャンプする各モニターの映像。ときおり、ラウンジにむけ指示を出す。

 

 女ボディ・ガードは、オレを30前後に見える、監視室長だという女に引き合わせると挨拶もせずに去って行った。

 なんでぇ、とそのうしろ姿を見送っていると背後から、

 

「店主(ヂェンチュ)から、お話はうかがっておりますわ?」

 

 やわらかい声に、オレはふり向いてみる。

 目の前には首からIDを下げたや(・)り(・)手(・)のOLめいた姿。

 紺地にピン・ストライプの入ったタイトスカートのビジネス・スーツ。

 栗色の髪に縦ロールを巻き、下に着る白サテンのブラウスはオペ子と同じ。

 ひかえめな化粧と洗練されたものごしが醸(かも)しだす、落ちついた雰囲気。

 ここにもあの“小男”の趣味が出るのか、きわめて美貌なスタッフだ。

 だが──その手に拳ダコがあるのを、オレは見逃さなかった。

 そして、この監視室長の女性はニコニコと、

 

「過去の監視データですね?なんなりとおたずね下さい」

 

 彼女は、オペレーターが受け持つモニター群とは別にある、一台の大型モニターデスクにオレを座らせると、卓上にあったコンソールを横あいから立ったまま叩く。

 モニターに電源が入り、初期画面が映し出された。

 

「日付を、どうぞ」

 

 『フクロウ』から教えられた日付を伝えると、さらに大画面は18分割され、それぞれにスキップ映像を流しはじめる。

 

「いかがでしょう──おわかりになりますか?」

「えぇと、VIP席ってのは、どれかな」

「ぜんぶで6つございます」

 

 18分割画面は6分割となり、それぞれ画面がデカくなる。

 

「何時ごろの映像でしょう?」

 

 しまった。それを聞いていなかった。

 

「あー、二人組だ。年寄りと、若いヤツ」

「ほかに特徴は?」

「そうだ、『リシャール』をオーダーしたらしい」

 

 オーダー・ログ(注文記録)を呼び出して確認。

 だが、この日は『リシャール』がよく出たらしい。

 しかたなく二人で3画面ずつ分担し、早送りに画像を見分する。

 ややあって、アタリを引き当てたのは、監視室長である彼女の方だった。 

 上着を脱ぎ、ブラウスの袖をまくった意外に筋肉質な腕が、画面の左上をしめす。

 

「こちらのお客さま……では、ないでしょうか」

 

 ──ナルホド……。

 

 そこには大テーブルを前に、フロアレディを3人ほどはべらせた老若二人の姿。

 室長がコンソールをたたき、画面を一つにするとさらに状況はよく分かる。

 カラーの暗視カメラ映像だ。明るい中で撮られた画像と遜色ない。

 

 テーブルの上に並べられた料理。

 ルイ・ロデレールの刺さるシャンパンクーラー。

 そしてクリスタル製のブランデー・ボトルを手にするフロアレディ。

 

 結城のクソ爺ィは、あのときからずいぶんと老けたように思えた。

 気のない手つきでブランデーの風船玉グラスをまわし、テーブルについたキワどいドレスをまとうフロアレディたちの胸もとにちょっかいを出す様子。

 

 と──。

 

 その横にすわり、むっつりと酒を飲んでいた男の顔が、画面をむいた。

 とたん。

 オレの視界は暗くなり、モニター画面ごしにコイツの視線と切り結ぶ。

 

 ──こいつ!

 

 ギクリ、オレは身をこわばらせる。

 アフリカ傭兵の感覚が戻ってきたような。

 年齢はオレと同じくらいか。だが、研ぎ澄まされた気配。

 そう。まるで宿敵、ドレッド野郎のように内に爆弾を秘めた雰囲気。

 

 ──そう、注意しろォ?この野郎、カタギじゃねェぞ……。

 ──どう見ても俺とおなじ、戦争の犬だぜ。しかも現役の……。

 ──将官クラスじゃねぇ。じっさいに兵を運用する下士官クラスだ……。

 

 頭の中で、傭兵のオレが切れ切れにささやきかける。

 

  (コイツも傭兵なんだろうか……自衛隊じゃなく?)

 ──間違いねぇ。血の臭いがプンプンしやがる。

  (じゃぁ、この爺ィの護衛か……)

 ──あるいはヨゴレ仕事の実行役だな。気ィつけろォ?

  (なにがサ)

 ──この野郎は、まちがいなく素早い。そして戦術の“カン”もある。

  (ブッソウだな。ますます“小男”にオーダーした拳銃が欲しくなってきた)

 ──ワルサーか。あれば有り難ぇし、それに超したコタぁねぇが……。   

 

「マイケル様──もし、マイケル様」

 

 爆発的に視野が明るくなった。

 その勢いに一瞬、貧血めいたフラつきを感じる。

 

「どうなさいました?お顔の色が……それに汗が」

「いや、なんでもない。それよりこの連中だ。間違いない。入店時の名前は?」

「フルネーム、および詳細は、お客様のプライバシーのためお知らせできませんが……」

 

 またも女は、小気味良くコンソールを叩いた。

 

「貿易会社の社外役員、門真(カドマ)さまと予約が入っております」

「──連れの男は?」

「同社・海外開発担当、磯賀(イソカ)さまと記帳されております」

「“カドマ”に……“イソカ”だぁ?」

 

 口が勝手にうごいた。

 また、自分の中に感じる傭兵隊長の気配。フフンと嘲(あざけ)るように、

 

「フざけンな。どっちもローデシアの地名じゃねぇか、クソが」

 

 オレの口調が変わって驚いたか、監視室長の微笑がゆらぐ。

 しかしすぐに常(つね)の営業スマイルをとりもどし、

 

「左様でございますか──偽名はエチケット違反。店主にも、その旨申しつたえます」

「音声は、収録していないだろうねぇ?」

「申し訳ありません、お客様のプライバシーのため録音までは……」

「そうか。なに、いいんだ。どうせ連中、なにかの下見だろう」

「……また襲撃があると、おっしゃいますの?」

「わからん。ただこの爺ィは、強制性転換されてメス人形にされたガキに執着があるんだ」

 

 まぁ、と室長は品の良いリップを刷いた口に手をあてて、

 

「まさか──愛人だったとか?」

 

 いや、とオレは鼻で嗤う。

 

「娘を犯されたんで、自分の手で殺したがってるのサ」

 

 室長の微笑。びみょうに曇り、モニターの二人連れを見る。

 画面に黒服のウェイターがフレーム・インした。

 あれは『フクロウ』じゃないか……。

 

 ──あのバカ……。

 

 なんと『フクロウ』のやつ、結城の爺ィをアホのようにシゲシゲと見つめてやがる。

 そこをどうやら茶化されたらしい。爺ィの脇にすわるフロアレディが彼をゆびさし、ケラケラと笑う。ぎこちない愛想笑いでそれを受けながし、オーダーされた料理を、パレットからおぼつかない手つきで大理石のテーブルにならべてゆく、オレの情報係。

 

 と──いきなり磯賀と記名したこの男。

 

 なみなみと注がせたブランデー・グラスの中身を、『フクロウ』を馬鹿にしたフロアレディの顔面めがけて思い切りブッかけたものである。

 

 一瞬凍りかかるテーブル。

 

 しかし──そこは名にし負う“紅いウサギ”の女たちだ。

 たちまち冗談に紛らわし、テーブルは何事もなかったかのように。

 ブランデーまみれにされた女は、代りの者と打と入れ替わりにテーブルを去り、新しいフロアレディ男の指示をうけ、ウィスキーをストレートで注いでいる。JAMESONの“カスク(樽出し)”か──イイ趣味だ。 

 

「これ……この男だけ、ズームできるかな?」

 

 室長がコンソールを操作。

 モニターの男が拡大される。

 

「ストップ。コイツをプリント・アウトできる?」

 

 オレは、この人物を睨みながらつぶやいた。

 

「あるいは──画像DATAが欲しい」

 

 そばにあったプリンターが印画紙品質のフォトを吐き出した。

 室長が気を利かせ、正面・左右の横顔をベスト・ショットで印刷。

 

「この顔が来たら──注意して欲しいね。たぶん店にとって危険なヤツだ」

「ありがたいですわ」

 

 映像を見続けるが、そのあとは特段変わったこともなく、日付が変わる頃に二人は退店していった。

 

「連中、この日はいくら支払ったんだろう?」

 

 室長がまたもコンソールのキーを叩いた。

 

「記録では¥10,386,500.-となっております。それに女たちにチップをわたしてますので、ざっくり1100万、といったところでしょうか」

「現金(キャッシュ)で?」

「──まさかw」

 

 監視室長は営業スマイルをゆがめ、やや嘲(あざけ)る気配。

 

「正規の小切手ですわ」

 

 その馬鹿にしたような笑みにムカついたオレは、つい虚勢を張ってしまう。

 

「当ててやろうか?──それ、穂積(ほづみ)銀行の『当座預金』だろう」

「……お客様のプライベートには、お答えできません」

 

 一泊の沈黙が、すべてを物語っていた。

 ふぅむ、と腕組みをしてオレは唸る。

 

 なにか……すべてを棄てて、かかってきてないか?この爺ィ。

 どうあっても、あの性転換メス人形を始末する、そんな意思を感じる。

 それを果たせないのなら、先日のようにこの店ごとツブしに来そうな予感が。

 前回はうまく食い止めたが、なにやら組織にユルみが出ている今なら簡単そうに思える。

 

「最近、店主は出張ギミなんだろ?」

 

 オレは語勢をかえて、監視室長につめよった。

 

「ココだけの話、店内の規律にほころびが出ている気がするが、大丈夫かね?」

「と……おっしゃいますと?」

 

 コケティッシュに小首をかしげ、監視室長は、またも微笑を絶やさない。

 

「あぁ、ヤメてくれ!」

 

 なにやらコイツも六道ビルヂングの受付嬢めく臭いがしてきた。

 普段のオレならカルくゆさぶって、あいての感情を引き出してやるところだが、午後に昼寝したとはいえ、今日は何か、もう疲れたよパトラッシュ。

 

「そういった表面上の取り繕(つくろ)いは、もうお腹いっぱいなんだよ」

「申しわけございません。しかし店内規定により──」

 

 まただ。

 この野郎も、コールセンターのオペ嬢みたいなこと言いやがって。

 

「そうカタいこと言うなよ。小おt……店主には、この店の参謀役になってくれって言われてる。けど浸水箇所の分からない泥船の舵は、とりたくないんでね。なおかつ……」

 

 オレは顔をひきしめ、監視室長をにらみ、

 

「大事な子を、この店で働かせている都合上、アブないところには置いておきたく、ない!」

「本店に関するネガティヴな情報を発信する権限は、私にはございませんし──かりに権限があったとしても、雇用される組織の悪評をひろめるつもりはございません」

 

 相変わらず営業スマイルのまま、監視室長はさえざえと言ってのけた。

 

「ふん……じゃぁ店の風評に関わらない質問なら?」

「質問の内容によります」

 

 妥当な応えだ。

 オレは素早く頭を巡らす。

 

「さっき、この男にブランデーをぶっかけられた女がいたな?名前は」

「従業員のプライベートも、堅く──」

「源氏名だ」

「……『きらり』」

「今晩来ているか?」

「残念。お休みです」

「今日のチーフ・レディは『麗華』氏だな?」

「えぇ。よくご存じで」

「この店には、もう長いのか?」

「従業員のプライベ──」

「『小枝子』とどっちが長い?」

「それは『麗華』さまですわ」

「彼女の配下の『ミチル』は今日来ているか?」

「シフトには入ってますわ」

「店の通用口にも、監視カメラはあるよな?ここで見張っているか?」

「もちろんでございます。出入り口、侵入経路になりそうなところは、すべて」

「キミは……先日の侵入者さわぎの時にはいなかったな?」

「わたくしは非番だったのです」

 

 どうもナニかヘンだ、とオレの中の傭兵隊長がブツクサ言っている。

 かといって、どこがおかしいとも言えないんだが……。

 

「チーフ・レディと、すこし話がしたいな?」

 

 いくぶん冷たくなった微笑で、この女はコンソールを叩いた。

 大画面は、現在のライブ映像になったらしい。

 画面は9分割され、映像のスキップを開始する。

 

「居られませんわね……専用のレスト・ルームかもしれません」

「連絡は?とれるかな」

「監視室ふぜいが、こちらから連絡するのは畏(おそ)れ多いことですの」

 

 うーぬとオレは大きくいきをついた。

 そしてふと、

 

「従業員……たとえば店を警備する黒服が、勤務中に職務怠慢だった場合、それは店主に報告する?」

「店主の補佐役に報告致します」

「それは誰?」

「第一から第三まで。その日シフトに入っている補佐役にですわ。ご存じの通り、弊店の店主は、最近留守がちなものですから」

 

 ──コレまでか……。

 

 収穫はあった。

 

 ・美香子を専門の医者に引き渡せたこと。

 ・結城のクソ爺ィが抱える飼いイヌの面(ツラ)を拝めたこと。

 ・店の監視部門は、いがいに信用ならないこと。

 

 総じて──“紅いウサギ”という組織は、ますます弱体化しているというコト。

 

「いや、ありがとう。参考になったよ」

「どういたしまして。お帰りですか?」

「あぁ。店主がいるときに──また来よう。ときに、キミ名前は?」

「……第二監視室長・『せつな』です」

 

 OK,ありがとうとオレはモニター前の席をたった。

 首がこったフリで、電子機器だらけの監視ルームを見わたす。

 律儀に監視業務をおこなう、そろいの服を着たオペレーター嬢たち。

 

 等身大のダッチワイフめくBINBO(やりマン)な身体に改造され、破廉恥なミニスカメイド服を着せられて奉仕していた、あの裏切りのポニーテール嬢は、その後どうなったろうか。スイカのような胸と、フェラ専用のようなエロくちびる。それに淫(みだ)らな豊尻にされて。マイアミやプエルトリコならともかく、この国で目立って外出できまい……。

 

 オレは『せつな』に送られて監視ルームを出た。

 “オモテ”のサロンからは距離があるので、あの物憂い気配はここまで伝わらない。

 機能一点張りの深閑とした廊下に人の気配は無く、空調すらどこかぬるく感じる。

 

 そのときだった。

 

 すこし先の扉から、ヒトかげがあらわれ、廊下の奥を歩いて行く。

 美香子が着せられたものと似たような黒いマント。

 そして銀金髪(プラチナ・ブロンド)のベリショ・ヘア

 なにより一瞬、見えた横顔。

 

「リサ!若宮ぁ……クン!?」

 

 転生協会の庶務の子が、こんなところに居るはずはない。

 しかし、そうはいっても遠目に見た感じがソックリだった。

 そういえば事務所で見たときも、あの銀金髪ではなかったか。

 

 グランド・ピアノの覆い布を思わせる、黒く艶やかな黒マントをひきずり、ロシアの民族舞踊団「ベリョースカ」のように歩行の気配を感じさせず、まるで宙に浮くか台車に乗っているように、廊下の奥へとすすんで行くのだ。※

 

 

「リサくん!」

「お待ちくださいマイケルさま」

 

 グイ!強力な力で腕を引き留められた。

 ふり向けば相変わらずの営業スマイルで監視室長の『せつな』が。

 

「こここから先は“ウラ”の領域となっております。いかに店主の信認を得ていても、お通しするわけにはいきません!」

「ちがうんだ!あの女性、ここのフロアレディかい!?」

 

 廊下の奥に若宮リサが消えようとしていた。

 

 オレは『せつな』の腕をふりほどき、奥へむかって駆けだそうとする。

 その手首を、強力な握力がつかんだ。

 

 ──まかせな……。

 

 またあの傭兵隊長の意識。

 グン!恐ろしい力で腕が引かれ、ねじ上げられる──ところを、オレの身体は華麗にそれを捌き、逆に相手の勢いをつかい、おもいきり宙に投げ飛ばした。

 グキリ!オレの腰が鳴ったのと時間差をおいて、ズダン!という意外に大きな落下音。

 

 ──この感じは覚えがある……。

 

 こんどは別の意識が入ってきた。あの騎士団長か。

 

 ──女に性転換したハレム(女の園)の護衛役と、わたりあったときのようだぞ……。

 

「おぐぇ……ッ」

 

 肺を打ったのか、カエルがツブれたような声をあげ、監視室長は廊下をのたうちまわった。

 

「貴ッさまァァ……」

 

 起き上がり、空手の構え。

 あの爽やかな営業スマイルは消えていた。

 乱れたヘアスタイル。その奥からはギラギラとした憎悪の瞳。

 

 ──うひぃぃっ!怖ッかねぇ。

 

 こちらも残心をとり、相手との間合いをはかる。

 よく見ればオッパイが片方なくなり、ブラウスの一部がぽっこり飛び出て。

 まてまてまて!おまけにタイト・スカートの正面が、チンコのかたちに膨らんでないか?

 相手は、そのスカートのスソにあるジッパーを引き上げ、ストッキングの脚を自由にして横にひろげた。よく見れば○麗(チュンリー)かよと突っ込みたくなるような、筋肉の塊めく太もも。

 

 ──各員、注意せよ!やる気だぞ……こやつは。

 ──ちぇぇぇッ!!ワルサーが無ェのがザンネンだゼェ。

 ──おいおい、まさか「百裂脚」でもトバしてくるんじゃあるまいな……。

 

 緊張する頭の中を、バラバラな思念がうずまく。

  

「そこで何をしてをる!!」

 

 裂帛(れっぱく)の勢いをこめる、氷のような気配の一喝。

 凜とした気配をともなって、オレの背後から“楽屋裏”の廊下に響きわたった。

 身構える監視室長から殺気が雲散し、かわっておかしいほどの狼狽(うろたえ)がこの人物をゆるがす。

 

 ふりむいて、まさにオレは瞠目した。

 

 まるで画の中から抜け出たような、気品あふれる女性。

 うす翠(みどり)に染めた艶(ツヤ)やかな髪を、黄金(きん)と真珠のチェーンで結い上げている。

 物ごし。仕草。そして雰囲気が、まるでこ(・)の(・)世(・)の(・)も(・)の(・)で(・)は(・)な(・)い(・)ような品格で。

 そんな人物が、金のフチ取りをした濃いブルーのドレスをまとい、こちらを睨(ニラ)んでいる。

 

「あぁ、そんな……『レイカ』さま!」

 

 『せつな』がオレを無視して彼女に走り寄り、面前でガバとひれ伏した。

 

「申しわけありません!不様(ぶざま)なところをお見せ致しまして!!」

 

 オレはピンときた。

 さきに小男とチーフ・レディ『麗華』の間で、女の肢体(カラダ)をつかった“人間ワゴン”を傍らにして交わした会話(第102回参照)。彼女が影武者を行っているという、この妖しい店の、もう一人の主人。

 

 ──これが……『レイカ』!

 

 オレはト○ノ監督のキャラめいた驚きをするしかない。

 まるで巌(いわお)のように王女然と、監視室長を尊大に睥睨(へいげい)する彼女。

 しかし、次いで打って変わって涼やかな声で、こちらを一瞥(いちべつ)しつつ、

 

「彼(か)の者が店主の賓客であること、そ(・)ち(・)にも伝わっておろう。なにゆえ斯様(かよう)な無礼をはたらく」

「いえ!いえ!『レイカ』さま!あのものが“ウラ”に行こうとしたからでございます!」

「その呼び方はお止しなさいと言った筈(はず)ぢゃ。せめて“奥”と──」

 

 そう言うや、今度は『レイカ』がオレの方を向き、

 

「お客人。そなたはなぜ禁足域の“奥”を、あない(案内)も無しに犯そうとしたのぢゃ。少々乱暴ではありませぬか?」

 

 おそれながら!──と、こちらもつい時代がかったセリフになってしまう。

 

「決して禁足域に踏み込もうとしたのではなく、知人やもしれぬ者を見つけ、その後を追おうとしただけです!」

「──それ、見よ」

 

 彼女は『せつな』にむけて完爾(ニッコリ)と微笑む。

 

「よく意思を疎通(とお)さば、諍(あらそ)いごとなど起きぬのぢゃ──少なくともこ(・)こ(・)で(・)は(・)の」

 

 自省せい!と、またも鞭のような一喝。

 あたまを擦り付けんばかりに『せつな』は平伏する。

 

「──さて……」

 

 もう『せつな』は用済みだと言わんばかりに見すて、チーフ・レディ『麗華』は嫣然(えんぜん)、こちらへと優雅きわまりなく歩み寄る。

 そして高貴ともいえる、有るか無きかの微笑をうかべ、

 

「お初、お(・)目(・)も(・)じ(・)いたす。この店の“ウラ側”で女性たちの“指南役”を預からせていだだく『レイカ』と申す……」

 

 冷ややかな視線が、オレを打った。

 

 




※https://www.youtube.com/watch?v=lQq3ld_E_jw

さ、これで一応、役者は出そろいましたか(たぶん)。

……気合いで月曜更新に戻しましたが、もうダメ。
  今日は有給使って休みます……。
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