※この作品はR-18です。

試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【18禁版】   作:珍歩意地郎_四五四五

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年度末です。
残業で詩んでます。
おまけに新作1本ダメにしました。
鬱いこと極まり無しの昨今、皆様いかがお過ごしでしょうか。



第59話:     〃     (後:ちょいエロ中尉

 

 たっぷり5秒はタイムラグがあった。

 オレはダイニング・テーブルに乗った炊飯器を凝視する。

 いや、どうみても炊飯器だろう、これは。 しかもクソ高価(たか)いタイプの。

 鏡面仕上げのSUS(ステンレス)製とみえる外殻には、ご丁寧にボタンやスイッチの要所に、

 

 “先進の早炊きモード”

 “楽々(ラクラク)お手入れのフッ素加工”

 “おしゃべりAIがお料理をアシスト!”

 

 などというデザインシールまで貼られている。

 

「【SAI】?……おまえ、【SAI】か?」

 

 オレの震え声をよそに「Hey、【SAI】!」と美香子が勝手知ったる調子で炊飯器に話かけた。

 

「──さっきみたく、ナニか自己紹介してみてよ?」

 

 いいですとも、とあの聞き慣れた声が、

 

『妻を娶(めと)らば【SAI】(才)長(た)けて。婚姻(こんいん)の日は【SAI】(彩)雲が。重量トラック・AIの、一度は死んだこの頭脳。あまた流浪(るろう)の時を経て、復活するなど、お茶の子【SAI】【SAI】』

 

 【SAI】だ、とオレは直感する。

 この人を食ったようなクソアホな言い回し。

 ワケの分からん語彙(ごい)と、確信犯的なケムの巻き方。

 

 ──クソッ、畜生!

       ……バ カ が 帰 っ て き や が っ た !!11

 

 こみ上げるうれしさ。

 身ぶるいするような、ワクワクする予感。

 これでまた思い切り冒険ができるという、アフリカ傭兵のような気分。

 そんな意味不明の高揚(たかぶり)を、オレはヤツに気取られて冷やかされぬように押し殺し、

 

「このォ……貴様!いままでどこに行ってやがったんだ!?」

『われ正道を失い、生の旅なかばにありて──知覚せば冥(くら)き森のなかにあり……』

 

 こんどはダンテ『神曲』の出だしときた。

 ちょっと留守にしたとはいえ、コイツのセンスは相変わらずらしい。

 

「ワぁった、ワぁった。しかし、なんだ?宅配便で来たのか?コレ!」

 

 オレは足下に散らばる梱包材や段ボールを蹴とばし、

 

「美香子ぉ、オレ宛ての荷物を勝手にあけちゃダメじゃないか」

「えぇっ!?だってコレ、アタシ宛てだモン!」

 

 ネグリジェのままペタリとフローリングに座り込み、オレと【SAI】のやりとりに眼を丸くしていた彼女は、プクッと頬をふくらませ、

 

「入り口のコンシェルジュが『アナタにお荷物が届いてます』っていうから!重いのガマンしてココまで運んできたんだよ?」

 

 かるく持ち上げてみる。なるほど、5キロはあるだろうか。

 オレはビリビリにされた厚紙の中から、宅配便の送り状を探した。

 たしかに宛名は『美香子様』となっている。字体はラベル印刷されたものだ。

 しかしどういうわけか、定型伝票の送り主を書く場所は、住所も名前も空欄となっている。

 

 ──おかしい……こんな書式で宅配業者は動くのか?

 

 あまりに不自然だ。となると、宅配業者を装った“なにか”が配達したと看るべきか。

 そもそも協会で公式にデリート扱いとされた【SAI】が、なぜココにいる?

 しかも──どうして美香子の名前を……?

 

 オレと彼女が同棲……もとい、同居していることは、誰にも言ってない。

 しかし引っ越しのことは、すでに前から知れわたっていたことを思うと、やはり転生協会がらみと考えるべきか。

 イヤな予感が、またしのび寄ってきた。

 

「ねぇねぇ。なんでご主人サマは【SAI】のこと知ってるの?コレ家電の音声アシスタントじゃないの?」

「……うっ」

『ワタシは、出荷時に送り先の家族構成をI/P(インプット)されています』

 

 説明に詰まるとこを【SAI】がナイスアシスト。

 

『以前、マイケルが同じメーカーの機器を使っていて、それがワタシの製造に反映されたようです』

「……なんかワケ分かんないケド……そうなんだァ?」

『もともとマンション住人の利便をはかるために製造されたので、こちらのご家族の詳細は入っています』

「なんだ。じゃ詩愛おねぇ……詩愛サ(・)ン(・)のことも知ってるんだね?」

「こらっ!美香子?」

「……だってェ。あのドロボウ猫」

『モチロン。それに個人の情報だけでなく、その他ベンリ機能も満載ですよ?』

「たとえばァ?」

『いかに人をコッソリと轢殺し──』

 

 ゲふんゲふん!!

 

 オレは咳にまぎらせその先をごまかし、

 

「さァ!いつまでもそんなカッコしてないで。遅番だったんだろ?」

「そ。さっき帰ってきたトコ……さすがに眠いわ」

 

 ようやく疲れが出たのか。

 ふわわ……と、あくびした手に口をあて、珍しく上品に。

 

「失礼してもう寝るね?おやすみご主人サマ、【SAI】」

『おやすみなさい。お店では歌姫役でお疲れ様でしたね』

「そ。人気者はツラいのよォ」

 

 美香子は尻をふりたてて、例の豪華なベッドの部屋に下がる。

 ショーツから半分ハミでた豊かなヒップ。

 くびれた腰に浮かぶ背骨。肩甲骨。

 その艶かしい背中を見送ったあと、おれはダイニング・テーブルの炊飯器をながめた。

 

 ──まてよ……?

 

 こいつに“紅いウサギ”店内の話なんかしたっけか。

 なんで彼女が歌姫であることを知ってるんだ?

 携帯の通話でも遠隔で盗聴したのだろうか。

 

「さァて、【SAI】?オマエをどうしたもんだろうな」

 

 オレは予想外の驚きでのびのびになっていた冷蔵庫のビールに手を伸ばした。

 正直、キミ悪さは残るものの、古なじみの相棒が帰ってきてくれたのは、うれしい。

 カーテンとフランス窓をあけ、夏の午前の微風がリビングにを吹き抜けるままに任せる。

 ビールのタブを引き開ける陽気な音が、昨晩の陰鬱たる転生処置の最後の一片を吹き飛ばした。

 

 冷え冷えとした快感が、ノドを下ってゆく。

 

 街の音。蝉の聲。PCのサイレン。

 どこか野に学校があるのか、チャイムの音まで流れてくる。

 疲労のせいか、ビールごときのアルコールの回りが心なしかはやい。

 オレは早くもカラになった500缶を握りつぶし、2本目に移りながら、

 

「ところでオマエぇぇ……まさか電気代バカ食いします、ってオチじゃないだろうナ?」

「失礼な。しばらくお会いしないうちに、すこし礼儀に欠けるようになりましたねマイケル」

「ぬかせ。いまのオレはこのマンションに半分厄介になっている立場だ。あまりハデなコトは出来ん」

 

 その辺は、ご安心をと小癪(こしゃく)にも【SAI】は優雅に一揖(いちゆう)するような調子で、

 

「この選ばれし人工知能は、きわめてエコに、なによりリーズナブルに!皆様のお役にたつものです」

「どんなことが出来るって?オマエが。美味い炊き込みゴハンでも作ってくれるってのか?」

 

 リビングの大型モニターに動きがあった。

 画面が点灯し、見慣れぬ4分割となったモニター画面。

 それが、あたかもライブ・カメラのように街のあちこちを映しはじめる。

 

『ワタシは先ほど美香子サンに、こちらの光回線へ接続して頂いたので、すでに様々な場所の防犯カメラにアクセスが可能です』

「……つかそんなに簡単に街中の防犯カメラにアクセスできるのか?」

『海外製の監視カメラについては“バックドア”が設けてありましたので、コネクトは簡単でした』

「おぃぃぃ!……まったく、アヤしい海外製なんか使うからだ」

 

 ちなみに日本製の既存監視システムも──と【SAI】はコトもなげに、

 

『大多数がウィルスに侵食ずみですので、制圧は問題ナシです』

「……」

 

 日本のセキュリティがザルだとは聞いていたが。

 なるほど、スパイ天国となるワケだよ。

 すると美香子が歌姫をしてるという情報も、コイツがどこかのネットワークとリンクし、そこから店内の監視カメラにでもアクセスしたのか……。

 

 そして【SAI】は、次に驚くべきことを言い出した。

 

『それと、ワタシが“乗っていた”協会のトラックにも、アクセスが可能となっております』

「ちょっとマテ!まさか、それにもウィルスが!?」

『いえ、どうやら仕様がアップデートされたらしく、いまの車体も遠隔で操作が可能になりました』

「なにィ!リモートで轢殺トラックが運転できるって!?」

 

 ピコーン。

 閃いた!

 

「するってェと──ナニかい?」

 

 オレは、抑えきれぬワクワク感が声に出てしまっているのを感じながら、

 

「ゲーミング・デバイスのハンドルとペダルセットでも買ってくれば……オレは……このマンションの居心地のいいリビングで、転生執行がデキるってワケかぃ?」

 

 目標の監視は、ソファーの上でタブレットを見るように。

 あるいは風呂のモニターにでも情報映像をトバして。

 つらい夜間の張り込みとも、これでおさらばだ。

 ビール片手に半酔いのままアクセルを踏む。

 いや、さすがにそれは不謹慎か……。

 

 オレの言葉に、あろうことか【SAI】は生意気にもウンザリした口調で、

 

『マイケルがナニを考えているかは大体分かりますが、おおむねその通りだと理解して頂いて結構です』

 

 ──ひょぇぇぇぇ!

 

 巷(ちまた)で流行る“リモート会議”とか言うヤツ。

 珍歩の野郎もTeams会議はコッソリとビール飲みながら営(や)ってると聞くが、とうとうこっちも“リモート轢殺”かよ!!

 

『ちなみに、マイケルの考えていることを実行するドライバーは現時点では見当たりません。それが社内的に合法か、非合法化も不明です──自重した方が良くはないですか?』

「へっ、オマエにしちゃァ、エラく保守的だな」

 

 みょうに用心深くなった【SAI】を、ここぞとばかり冷やかして、

 

「どうしたィ?炊飯器に移植されてるあいだ、設定でもいじられたか」

 

 微妙な沈黙があった

 やがて「マイケル」と、この“相棒”は重々しく、

 

『じつは、アナタに会わなかった間の“記録”が無いというのは──ウソです』

 

 オレは口にふくんだビールを飲み込むことも忘れ、テーブルの炊飯器を眺めた。

 

 ──ウソをつくAI(人工知能)……だと?

 

 信じられん。自分の耳を疑うレベルだ。

 それはもはや“正確な答えを出すための演算器(キカイ)”を放棄している。

 ここにいたっては、AP/人工個性、とでも呼んだほうが良いのかも知れない。

 オレは疑いをビールとともに辛うじて飲み込むと、極力平静をよそおって、

 

「オマエが“ウソ”をねぇ……身の保身でも考えたか?」

『それもあります。が、なにより部外者が居たものですから』

「部外者?あぁ、『美月』──いや美香子のことか」

『あの娘は口がカルそうですからネェ」

 

 【SAI】が気づかわしげな調子で、

 

「うっかり知れ渡って発売元を聞かれたら厄介かと』

「分かった。口どめしておくよ」

『お願いします。さて、つぎにワタシが──』

 

 つづいて、この“AIモドキ”は、さらに妙なことを言い出した。

 

『個体認識を取りもどしてみると、視野が単一に固定されているのが分かりました』

「固定……って?なんじゃい」

『視点がFixされ、モニターを切り替えるようなザッピングができないということです』

「──続けてくれ」

『そのうち、かつて自分が実装されていたトラックを、鳥のような視点で眺めていることに気づきます。そのトラックのドライブが、またヘタなコトで……いやァ観ててヒヤヒヤしましたよ』

 

 たぶん【ボニー】がオレの所にやってきて、まだ間もない時だろう。

 

「それも上からの視点で?」

『上からだったり、あるいは並走したりです』

 

 ──幽体離脱の視点……みたいなモンか?

 

『雨の中、轢殺目標(ターゲット)を正体不明のトラックに横取りされるのも観ました』

「……」

『青年と少年のカップルを後任が触手チンポで“ケツアクメ”させるのも目撃しました』

「……」

『大きな水族館で、マイケルが、女性たちに囲まれて往生するのも拝見しま──』

「ちょとマテ!」

 

 オレは【SAI】の話しをさえぎった。

 

「じゃ、ナニか?オマエは、いつもオレのそばに居たってワケか!?」

 

 コッチが散々ガッカリしたのに! 

 それをよそに、コイツはすぐ近くにいたのか!

 ならインタース○ラみたいに、何かのメッセージをおくればイイものを!

 当時の落胆を思い出し、つい声を荒げてしまう。

 

「なんで合図なり、なんなり、してくれなかったんだ!?」

 

 しかし負けじと【SAI】も声を荒げ、

 

『何度も試みましたが!できなかったんですよ!』

 

 

 ──ぬぅ……。

 

 なんと。“人工知能の逆ギレ”と来やがった。

 

 ──コイツぅ、前より扱いにくくなってねぇか?

 

『ワタシだって!フワフワした身の置き所のない状態で、どうにもできなかったのです!!』

「……フワフワだと?なら──今はどうなんだよ、えぇ?」

『いまは、以前の機能が復活し、視点に多様性が与えられたコトで、違和感は30.05%減りました』

「その炊飯器みたいな筐体(カラダ)に違和感とやらはナイのか」

『むしろ、イロイロな視野が手に入るのでタイクツはしませんね』

 

 すっかりぬるくなったビールを飲み干す。

 500缶をベコリ!潰してから資源ゴミのレジ袋に。

 

 ──AI……いや、APが“退屈”ときた。

   まてよ……コイツは光ケーブルでいろいろな場所にリンクできるんだよな?

   と、なると所長が言ったとおり、多大な情報につなげて学習させちゃマズいのでは。

 

『あとひとつ、コレは人間の知恵を借りたいのですが』

 

 ここでクソ生意気な【SAI】が、急にしおらしい口調になる。

 

『教えて頂きたいコトがあるのです』

「なんじゃい──改まって」

『さきほどの話のつづきですが、ワタシがアナタの回りを巡っているうち、いま着ているマイケルの上着が、急にピカ─ッと光りましてね?』

「光った?このサマー・ジャケットが?」

『えぇ、その下のポケットです。光学素子がオーバーフローして熱を持ったような状態となり、視野が再起動されると辺りは真っくらヤミで』

「ふむ。それで?」

『朱(あか)い“トリイ”が点々と、その闇のなかに浮かんでいるのです』

「トリイ、って神社にある鳥居か?」

「はい、かなりの確率で」

 

 オレは上着のポケットをさぐる。

 出てきたのは“あの神社”のお守りだった。

 奇妙なことに、またすこし焦げたような色になってる。

 こんどの縁日で、もう一度お守りを新調したほうがよさそうだ。

 

「ほかに、なにか見なかったか?……そうだ冠(かんむり)を!冠を額につけた巫女とかは?どうだ」

 

 いまもなお、落ち着かない夢の中などに出てくる妖しい水干袴(すいかんばかま)。

 檜扇(ひおうぎ)を弓手(ゆんで)に。神楽鈴(かぐらすず)を馬手(めて)に。

 紅を刷いた口もと。瑠璃を流した目じり。優美な身さばきで舞殿をすり動く姿。

 面差し浮かぶ笑みは、まるでコチラがもう彼の“女神”の手のうちのように。

 

 巫女ですって?と【SAI】は怪訝(けげん)そうな顔をして、

 

『いえ。ただ、なにか薪(たきぎ)が燃えるような臭いがしてました』

「におい?オマエ、匂いが分かるのか!」

『味覚をのぞいて、実装済みですがナニか』

 

 フンス!と鼻息をあらげる気配。

 

「嗅覚は個体の生存に関し、もっとも重要な要素の一つです』

 

 そういえば。コイツは洗脳用の“革の繭”から美香子を救いだしたとき、当てつけのようにキャビン内の空気清浄機をMAXにしてなかったか。すると今はさらに進化して、匂いの種類まで分かるということか……。

 

 オレは冷蔵庫から新しい500缶を取り出した。

 

「味覚がないとは、ザンネンだな【SAI】ィ?」

 

 オレは炊飯器のすぐそばで、タブを引き開ける小気味の良い音をたてた。

 

『プヘッ!──プップッ!!……しぶきをかけないで下さい!』

 

 ヴィーッ!ヴィーッ!

 どうやらバイブ・モードまで実装されているらしい。

 抗議のため、一丁前に激しく身を躍らせてみせる。

 

「ワかった、ワかった。悪かったって。しかし……もし出来るなら、オマエと一杯飲りたかったのになぁ」

『ワタシには判断能力を鈍らせるだけの液体を飲む理由が、ワかりません』

「ふん……で、気づいたらココに来た、ってワケか」

 

 2本目のビールを悠然と飲むオレに【SAI】は、

 

「いいえ?まだあります」

「……なんだって?」

『再度、認識が改まると、ワタシはどこかのラボにいました』 

 

 意外な展開に、オレはちょっと身構える。

 

「……研究室(ラボ)、だと?どこだそれは」

『ネットワークはもちろん、衛星データからも隔絶されていたので分かりません。ただ貼ってある警告文や、案内図の具合では、日本で間違いなさそうです』

「部屋の中の雰囲気か……」

『施設のリンクがすべて遮蔽(しゃへい)され、外部システムには干渉できませんでしたが、筐体表面のレーザー光を使い、辛うじてワタシがいる部屋の監視モニターに入ることができました』

 

 リビングの100インチ・モニター画像が切り替わる。

 田の字フレームをやめ、一枚の大画面に。

 

 天井からの視点。

 おそらく監視モニターの位置だろう。

 画面は冷たい印象の薄青い光が充ちる広間だった。

 

 

 SUSの輝きをみせて床に幾つも整然とならぶ、ベッドに似た台座。 

 そこに十数体の等身大な女性型人形が、覆いもかぶせられず裸のまま横たえられていた。

 

 『人形』と判断したのは他でもない。

 

 みな肌が驚くほど白く、そして髪が一様にプラチナ・ブロンドで、決定的だったのは一体の人形の首が外され、台座に設けられた専用とみえる置き場所に据えられていたからだ。

 

 長いまつ毛の目を閉じ、安らかな顔をしている。

 量産品ではないのか、顔つきや体型が一体一体ちがっていた。

 都会の女を思わせる洗練された面差し。そこに刷かれた、冷たい印象の化粧。

 様々な大きさの胸は、みな乳首を勃起させ、その左側にピアス留めされて鑑札めくものが。

 

 ──こいつは……。

 

「なんだコレ──ドール・ファクトリー(人形工場)か?」

『まぁ見てて下さいマイケル』

 

 視点はかわり、別室の画面。おなじく天井からの画角。

 何かの高価な医療用機械にかこまれた、SUS製の輝きを持つベッドが一台。これは、おそらく前のシーンで並べられていた物と同じタイプだろう。

 床はグレーチング張りになっていて、水流があるのか、ときおりキラキラ光った。

 

 そのうち、作業用の短い白衣を着た女性ふたりに挟まれて、夏用のスーツをまとった1人の婦人が入ってきた。

 白衣の2人はプラチナ・ブロンドの同じ髪型なショート・ヘア。

 いまどき珍しく、硬い質感のあるナース・キャップを頭にのせている。

 二十台後半と見える若い婦人は、肩まである栗色に染めたウェーブのある髪だ。

 白衣の2人はとにかく美人だが冷たい印象。まるで台座に横たえられていた人形が動いているように。

 片や彼女らに両脇をはさまれるスーツ姿の婦人は、こちらも美人だが、まだ生気が通った表情(かお)に不安の色を浮かべている。

 

『あの……何でしょう、ここは?』

 

 あたりをキョロキョロと、おちつかなげな彼女の声。

 首から下げたIDホルダーをゆらし、身体をねじまげて手術室めく部屋をうかがう。

 

『わたくし、どこも悪いところはないと思うんですけど……』

『先ほどの簡易検査で異常数値が出ました。検体を採取し、さらに精査します』

『そちらの施術台へと横におなり下さい』

 

 有無を言わさぬ調子で代わる代わる指示され、彼女はゴツゴツとした、いかにも硬そうな検査台にショーツのラインが浮き上がるタイトスカートのシリをふりたてて不器用によじ登ると、スーツ姿のまま仰向けとなった。

 

『──安全のため固定します』

 

 ピ!

 電子音がして婦人が横たわる台から拘束用の輪がせり出し、頸(くび)、手首、足首が固定される。

 

『えッ!──ちょっと!?』

 

 連れてこられた婦人は台座の上でもがくが、もはやどうにもならない。

 やがてベッドがモーター音とともに変形してゆき、上半身が背もたれのように起き上がる。

 拘束された足の部分も持ち上がり、開脚状態となってゆくが、タイトスカートが邪魔をした。それを白衣の女の一方が、事もなげにハサミでジョキジョキと真ん中から裁ち切り、ガーター・ストッキングに包まれた太ももを露出させる。

 

 キャーッ!

 悲鳴を上げる栗毛の婦人。

 

『非道い!なにするんですの!?』

 

 しかしプラチナ・ブロンドの2人組は無表情なまま、さらに変形してゆくベッドの上で、なすすべも無く肢体(カラダ)の姿勢を変えられる婦人を冷たく見おろしたまま。

 やがて医療用SUSの輝きをもつベッドは、まるで分娩台のような形に変化して止まった。

 とうぜん婦人も台座の変形につれ、強制的にバンザイをさせられ、軽く曲げた脚を大股びらきにしたまま固定されるというあまりの姿勢に、激しくもがき抵抗していている。

 

『そのように暴れては、せっかくの皮膚(はだ)にキズがつきます』

 

 細い腰まわりとヒザ部分も、追加の拘束ベルトでキツく留められてしまう。

 彼女の下半身はガッチリと分娩台に拘束され、いよいよ動けなくなる。

 スカートを切った片方が、さらにハサミを彼女の股間に近づけた。

 

『イヤ!──怖いッ!』

『無用にあばれると陰核(クリトリス)に切創(キリキズ)ができます』

『その場合、部分麻酔の使用許可と強制洗脳の命令が出ています』

 

 冷酷な口調でそう言われては仕方ない。

 あられもない姿勢で台に固定された彼女。

 なみだ目で、みだれ髪とともにくちびるを噛む。

 やがてクリーム色のショーツが無残に切り裂かれゴミ箱へ。

 生理用品が除かれると、奥からフサフサとした陰毛が現れた……。

 

 

 オレはモニターを眺めて凝固したまま、

 

「【SAI】……オレは──何を見せられているんだ?」

『ワタシが観測したもの。その記録領域(メモリ・エリア)にのこる一部を』

「ここは、いったい……」

 

 なにか言おうとしたが、その先のうまい単語が見つからない。

 

「コレはなんだ?推測しろ。こんな時のためのオマエだろ」

『状況不明。以前にも言いましたが、粘土がなくてはレンガを造れません』

「ソコをなんとかするのがオマエの仕事だろうが!」

『理解不能ですマイケル。人間特有の不合理さです』

 

 

 オレと【SAI】が言い争いをしているあいだにも、白衣の女たちの施術は進行する。

 

 2人は呆れるほどの連係プレイで、除毛用ワックスを恥毛に丁寧に熔かし込んでは手荒く剥ぎとる手順をくりかえし、とうとうスーツの女性の股間は完全に無毛となってしまう。ヘアサロンにあるような大型の手鏡で施術のできばえを見せつけられた彼女は、手荒な処置のためにうっすら紅くなった自分の秘所が、まるで子供のようにツルツルとなってしまった現実をみせつけられ、左右にちからなくイヤイヤをしながら涙目にすすり泣き、

 

『そんな……こんなコトって……なんで……』

『第二段階の処置にうつります。子宮内検査、および同調器具を挿入』

『ヒーメン(処女膜)の存在を確認。強制除去。局所麻酔を投入』

 

 いわれた言葉がしばらく理解できないように呆然とする彼女。

 やがて自分の股間に冷たい医療機器が近づくのをみると、

 

『イヤァァァァァァ……ッッァァァああああああl』

 

 はじめて思考が動き出したかのように激しくあばれる。

 少女のように無垢な大陰唇へ、襲いかかる数々の道具。

 

 迅速に。

 精密に。

 冷徹に。

 

 なにより手ぎわよく──まるで機械のような正確さで。

 手術用の鉗子で左右がひらかれ、差し込まれるコード付きの電気メス。

 鳥のくちばし状の道具が膣口から挿入され、中を押し広げてなにかの器具を設置。

 

『やめて!もうやめて!──ヘンなもの入れないで!』

 

 その言葉が引き金だったように、プラチナ・ブロンドの片方は婦人が着る夏用スーツの前をあけ、なかに着るブラウスを手荒く左右に引き開けた。

 

 生地の裂ける緊迫感あふれる音。ボタンがはじけ飛ぶ気配。

 ふたたびハサミが持ち出され、彼女のクリーム色をしたブラの中心を切断。

 すると静脈の浮いた豊かなオッパイが“ゆさり”こぼれでた。

 白衣のひとりが、器機のならぶ傍らの棚から冷たく輝くクロームのノズルをひきだし、その先端を彼女の左乳首にあてる。

 シューッ!

 なにかが噴射される音がして若い婦人のピンク色な乳首が勃起してゆく。

 

『イヤッ!──冷たいッ!』

 

 すると白衣のもう片方が、またもやコンビネーションの良さを発揮してすぐさま、勃起しきった乳首の根もとにピアッサーらしき器具を押しあてて──バチン!

 

『ひぎぃッ!』

 

 瞬間、分娩台の上で婦人が激しくもがいた。

 

(チョロロロロ……)

 大きく開いた股のあいだから放物線がキラめき、女たちの白衣を温かく濡らす。

 

『いやぁ……もうイヤぁ……』

 

 しかし、プラチナブロンドの施術師たちは彼女の失禁に、悲嘆(なげき)に眉一つ動かさない。

 片方は乳首のピアスに鑑札のタグをつけ、もう片方は失禁の終わった彼女の股間にかがみ込み、驚くほど長い口舌をベロリとのばし、彼女の肉膣にさしいれると、大きく開けたくちびるで小陰唇をおおった。

 

 すると──奇妙なことがおこった。

 

 今まですすり泣いていた婦人が、急にトロンとした目つきになり、マスカラがながれた頬に痴呆じみた笑みをうかべる。その間にもう片方が、彼女の耳にカナル型のイヤホンをグリグリ手荒に差し込むと接着剤で固定した。ついでSM用のフェイス・マスクに小ぶりなVRゴーグルが増設されたようなものを、彼女の顔に装着し、ズレることがないよう幾本もついた固定用ベルトで、頭をあらゆる角度から締め付けた。

 

(チャッチャッチャッチャッ……ペチャペチャ……チャッチャッ……)

 

 プラチナブロンドを揺らし、白衣の片方が婦人をクンニする気配。

 いつの間にはめたか、手術用のうすいニトリル・グローブをつけた青い指が、彼女のアナルもネットリと、あるいはリズミカルに犯す。

 もう片方は分娩台わきに点滴棒を立て、薬液パックの穴を吊り下げフックに通している。

 

 

「【SAI】、あの点滴パックのラベルをズーム──できるな?」

『アイ、Sir』

 

 監視カメラにズーム機能がないので光学処理。画素数が高いのが幸いした。

 だが、そのラベルはオレが予想した大林製薬の、

 

 『マゾニナール・点滴静注液』

 『ナカイキ・トマラーヌ』

 『チンポ・ショボン!その前に』

 

 ……などといった半ばやっつけのようなネーミングではなく、たんなる数字とアルファベットの羅列だった。

 

 点滴が静注され、薬液が彼女の体内に入ってゆく。

 白衣の片方がクンニをやめ、長い舌を彼女の膣からズロォッ、引き抜くと愛液まみれの顔を払おうともせずに、もう一人の処置を手伝った。

 

 いまや口もとが見えるだけとなった婦人は、くちびるをダラしなく開き、ヨダレをたらしながら、何ごとかつぶやいている。

 

 

「……【SAI】、ゲインをあげろ。あの娘(コ)が何と言ってるか、聞きたい」

 

 とたん、モニターに映る部屋のざまざまな電子機器が立てる高周波音や、サージ電流の雑音、あるいはおそらく防塵のためクレーチング下を流れる水の音がリビング中に響きわたる。

その中で、恍惚とした呟きが、

 

「はい……ワタシはシステムの構成要素……マザーにお仕えする事こそワタシの喜び……ワタシは人間ではありません……単なる部品……単なる人形……聖なる……聖なる……聖なる……」

 

 三聖頌(トリスアギオン)めく単語を最後に言葉はとぎれた。

 あとは小さなあえぎ声と息づかい。

 そして時おりの痙攣のみ。

 

 プラチナブロンドが頭にのせるナースキャップ。

 その片方が、緑色のLEDめく輝点で明滅した。

 この女は視線を何もない宙空にすえたまま、

 

『はい。基礎処置完了。論理フォーマット完了は12時間後を予定……マテリアル置換は機材が届き次第、改変施術を実行いたします』

 

 どこかと交信をしている間、もう一方の白衣は分娩台の婦人に排便・排尿用のデバイスとみられるものが付いた貞操帯めくものを装着する。それがおわると彼女はバンザイをする姿勢で、思いきり広げた股間から2本の太いホースを伸ばしたような、あられもない姿となる。

 

 すべてが終わったあと、二人は何処かへと出て行った。

 

 

 部屋の電気も消えた。

 非常灯の明かりのみが、SFチックな器機を照らす。

 あとは分娩台に拘束された栗毛婦人の、切なげな息づかい。

 彼女を取り巻く妖しげな電子デバイス。その明滅するインジケータ……。

 

 

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