※この作品はR-18です。

試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【18禁版】   作:珍歩意地郎_四五四五

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第64話:婦(をんな)たちの事情(前編:ちょいエロ中尉

 

「人間の……魂」

 

 不意を突かれ、今度こそオレは言葉に詰まってしまう。

 

 肉体を滅却し、魂を異世界におくる轢殺トラック。

 そんなドライバーを抱える転生協会の内幕を、こんな下っ端の女が知るだと?

 ありえない。転生協会の事業所長は、業務に関し情報の統制を厳にしていると言ってた。

 

 ──いや、まてよ……?

 

 オレは、ポケットの中のイヤホン型AIコネクターを無意識にさする。

 

 とはいっても、この女。懲罰用スレイブ・ドール(奴婢人形)とやらに改変されたとはいえ、名にし負う希代の妖店“紅いウサギ”の従業員だ。事務所で、あるいは馴致(調教)場に向かう通路で。カタギの一般人には思いもよらぬ情報を、耳にすることがあるやもしれん……。

 

「いかがしまして?お客さま」

 

 『魔ホト』は不思議そうな表情(かお)をしてこちらをのぞきこむ。そこに暗喩(ほのめかし)や猜疑(うたがい)。あ(・)て(・)こ(・)す(・)り(・)などは浮かんでいない。ただ純粋に、当惑(とまどい)と逡巡(ためらい)があるだけだ。

 それを診てとったオレは、すこし落ち着きを取りもどし、

 

「ニンゲンの魂って?──なんのハナシだ」

「……口に出すのも恥ずかしい以前(まえ)の職場での話なんですが──」

 

 警察のことをこの元・女刑事はそう言いはなつ。

 そして自分の顔に施された濃い化粧と淫猥(みだ)らな整形手術に思いあたり、こちらの凝視に堪えきれなくなったのだろうか。イヤリングを燦(きら)めかせ“ウサギの備品”はツィ、と顔をそらして恐ろしいことを言いはじめる。

 

「聞いたことがあるんです……被害者のう(・)ら(・)み(・)をはらすため、トラックでひき殺すという『代理復讐』者のウワサを」

 

 ここで平静を保てたのは、以前の営業職のおかげだろう。

 交渉でヤバい要素を客から突っ込まれた時にも、なに食わぬ顔をよそおう能力。

 それをフルに発揮し、いかにも“聞いたコトがありませんねェ”という雰囲気を装って、

 

「復讐の代理?トラックで?……なんだそりゃ。都市伝説か、安出来のラノベかね」

 

いいえ、と彼女は上目づかいに凝ッとこちらを見る。

 

「無辜(むこ)の犠牲者の泪(なみだ)を濯(すす)ぐための“復讐屋”が日本のどこかにいると。長官の秘書役を務めていた時に、チラッと……」

 

 え”ッ!とオレの方は、むしろ後半のセリフに耳をうたがって、

 

「長官、というと……まさか警察庁の長官?」

 

 耳朶(みみ)にさがるイヤリングが肯定に揺れた。

 相手の顔を見るが、冗談やフ(・)カ(・)シ(・)を言っている筋には見えない。まさか警察の上層部が、轢殺屋を知っている?異世界にブッ飛ばすことも、伝わっているのだろうか。

 しかし……ココは否定の一手に如かずだ。

 

「まったく信じられん。そんな都市伝説(ヨタばなし)を、警察のトップが信じているとはね……」

「伝聞かどうかは存じませんが、関係する予算が実際に執行されたと聞きます」

「まッさか!そりゃヒマなキャリア公務員どもがホザく、根も葉もないウワサだよ!」

 

 オレは出来るだけ転生協会がらみのネタを打ち消そうと、いかにもバカにしたような素振りで応える。ありえない。証拠がない。なによりこのSNS社会で目撃者がいない。等、等。

 

 しかし『魔ほと』は「それでは、お客さまの仰るとおり、そういう事に」とニベもない。あきらかに“轢殺トラック”の存在を信じて疑わないようだった。そういや『ナナ』を拉致して強姦してたヤクザふたり組も“人喰いトラック”とか言ってなかったか。もしかしたらオレたち轢殺トラッカーが思っている以上に、ハナシは広がっているのかも……?

 

 あまり否定するのもヤブヘビに思え、エレベータ・ホールに向かう地下特有の重苦しい通路を見まわすふりで一息つくと、さりげなく話題を変えてみる。

 

「でもなぜ?キミみたいな長官の秘書をするようなエリート人材が、現場の捜査畑!しかもヤバい囮(オトリ)役に……?」

「接待の要員として飽きられたンですのよ。後任の若いコが来たので」

「接待って……」

 

 フッ、と“おしゃぶり口”(フェラチオ道具)にされた肉感的な唇を面紗(ヴェール)の下で幽(かす)かにゆがめ、元・女刑事は濃くマスカラの刷(は)かれた目元をほそめて自嘲ぎみな笑みを漏らした。

 

「女性が強いられる接待というヤツですわ。パーティ。料亭。そしてホテル……」

「まさか!警察のトップだぞ?」

「で(・)も(・)オ(・)ト(・)コ(・)で(・)す(・)わ(・)!」

 

 ピシリ!

 奴婢人形に改変された元・女刑事は断言した。

 

「さんざん交渉の道具にされ、便利に使われたあとは、じっさいの“行為”の映像をネタに箝口令(くちどめ)されて払い下げられ、どういうワケか映像が銭高警部(あの男)の手にわたると、そのタイプの経験があると知られて、幾度となくオトリ捜査要員にされました。おそらく回数が度をすぎたんでしょう。警察上層の一部に、この強引な捜査手法が知れると、警部は警部『補』に降格となりましたが」

 

 “あの男”

 

 そう口にした時の、彼女が放ったひくく憎々しげな声。

 語勢のウラには、まるで「絞め殺してやりたい」と毒づかんばかりの勢いをこめて、

 

「それでもあの警部補ドノは懲りず、ヒショクと結婚する約束をチラつかせ、代わりにこの店への潜入を命じたんです」

 

 ──“ヒショク”?

 

 聞き慣れない単語に、ちょっと考えさせられる。

 公務員の人間には、自分のことを『小官』、または『小職』とへりくだるヤツがいるが、もしかすると『卑職(ひしょく)』、あるいは『婢職(ひしょく)』と言ってるのかもしれない。あるいはそういう風に自分を言えと、調教・馴致に際し、アタマに刷りこまれたのだろうか。

 

 黒タバコの臭いがしみこんだトレンチコートをまとう、長身の中年男。

 張り込みの時の熱に浮かされたような、まるで狂信者のような目つき。

 

「あの『猟犬』の性格なんざ分かりきってるだろうに……」

 

 知らず、呆れ声になったオレは、イライラと元・女刑事を諭すように、

 

「ヤツは“捜査のためならどんな手でも使う”と宣言してはばからない人間だぜ?」

「えぇ。聞いたことがあります」

「そういや、キミが帰ってこないのを心配していたが……それだって」

「えぇ。どうせ手もちの駒がなくなり、不自由しているだけのコトでしょう」

「そんな奴の約束なんか……」

「えぇ!──えぇ!──えぇ!」

 

 カツ!──カツ!──カツ!

 ヒールで地団駄を踏んだ彼女は、

 

「信じたヒショクが白痴(バカ)でしたの!」

「まっったく。そういうや(・)る(・)せ(・)な(・)い(・)話を聞くと、おれは「可哀想」を通りこして腹が立ってくるんだ」

「愚かな女で申しわけありません──お客さま?」

「……なんだ」

「ほんとうに、ほんとうに!ご存じありませんか?」

「だから、なにをだね?」

「トラックを使って痴れ者を殺す『代理復讐業者』を。そして──」

「そして?」

「金額で幾らなら……依頼を受け付けてくれるかを」

「銭形を、殺(や)りたいってェのか?」

「殺すだけでは、飽き足りません!」

 

 そう言って彼女は、うすいブルーの銀髪に染められた頭を激しくふった。

 

「もっと生きながら後悔をさせたくて……このひたいを見て下さい」

 

 前髪に載せられたティアラ。

 両脇からは鎖がのび、額を飾る大ぶりな宝石を吊り下げている。

 涙滴型にカットされた、血のように紅い貴石。長辺で3cmぐらいはあろうか。

 それが、このうす暗い廊下でも光をうけ曄々(ようよう)と煌(かがや)き、不思議な気配を周囲(あたり)に散じている。

 否(いや)!よく見ればその宝石は、なかで火が燃えているように妖しく照り揺らいでいるではないか!

 

「ペア・シェイプ・カットされた20ct(カラット)のサマタリア産ルビーです」

 

 どうか触って……と、肉厚な口唇(くちびる)が面紗ごしに呟やく。

 オレは遠慮がちに窃(そ)っと、彼女の額をかざる血のように紅いルビーにふれてみる。

 と──どうしたことか貴石は、まるで額に食いこんだように、頑固(ガンコ)に貼りついてビクともしない。

 

「懲罰型スレイブ・ドール(奴婢人形)の証(あかし)です」

 

 長いまつげをしばたたかせ、哀(かな)しげに元・女刑事は囁く。

 

「ひたいの皮膚(ヒフ)に……接着されているのか……」

 

 いいえ……と彼女は、みょうにおごそかに首をふると、

 

「前頭の骨をドリルで貫ぬき、表と裏で“宝石のリベット留め”をしているんです」

「……またヤバい手術を……脳自体に、影響ないんだろうね?」

「影響ですって!?」

 

 彼女の表情(かお)がサッ、と一変した。

 冷え冷えとしたLEDが灯る殺風景な通路で、元・女刑事は全身をふるわせ、

 

「影響どころか!このルビーは特定指向の感染性タンパク質に漬けられていて、ヒショクのアタマは日、一日ごとに男の“性処理用・メス人形”になっていくのよ!?」

 

 やおら感情を爆発させるや、妖しげな施術によって肥大化された己の乳房、それを薄物ごしに震わせ、ケバく彩られた化粧の奥から眦(まなじり)を決し、はったとコチラをにらみ据える彼女。

 

「首輪で拘束され、得体の知れない液を吐きだすHな“お道具”を前後に挿入(いれ)られ、抜けないように貞操帯で封じられたまま、天蓋(てんがい)付きの広いベッドで目覚めるたび、どんどん自分が男性のアレ(チンポ)を!“おなさけ(精液)”を!欲しがるだけの“お人形さん”になってゆくのが分かるの!なのに──なのに何も逆らえない!拒否できない!相手の欲しがるまま望むまま、淫(ミダ)らな衣装を着せられて!“性の道具”として施術された肢体(カラダ)を提供して!あられもないポーズを取らされて。この虚(むな)しさ!哀(かな)しさ……それにせつなさ!お客さまに分かります?自分が自分でなくなってゆくのよ!……でも仕方ありませんわね。そういう風に手術されたんですもの!そういう風に調教されたんですもの!そういう風にアタマをイヂられちゃったんですもの。もう──もう、どうにもならないの!」

 

 悲嘆(なげき)と悲哀(かなしみ)を声にみなぎらせ、彼女は一気に叫んだ。

 薄物ごしにピアスが輝く乳房と股間をスリスリしつつ、彼女は焦れたように身をゆする。

 そんな相手の激情に圧倒されつつも、胸の内のどこかでオレは覚めたまま、今の言葉に心中首をかしげた。

 

 ──妙だな……。

 

 たしか小男は、この元・女刑事にクスリや強制洗脳の施術はし(・)て(・)な(・)い(・)と言った。催眠暗示や脳髄手術のたぐいも同じく。しかし今見れば、哀しみにむせぶ彼女ではあるが、その仕草や身ぶりが、まるで振り付けを受けたようにいちいち淫猥で、わざとらしいまでに扇情的な動作のようにも思える。

 なにより額(ひたい)を穿(うが)つ、禍々(まがまが)しい奴隷の証……。

 

 まさか、オレにまでウソをついたというのだろうか?あの男が。だとしたら、もうヤツは信用できないことになる。いままでは何となくこの“女衒(ぜげん)の館”に馴れ合いで近づいていたが、そろそろ危ない。いつこちらに牙を剥くか、分かったモノではない。やはり自分のような『まっとうなカタギの善良な市民』は、あんな男と関わってはイカんのだ……。

 

 だがそのとき、ふと別の考えが。

 そう、180度転換した可能性がアタマに浮かんだ。

 

 ──いや、まてよ?もしや……。

 

 しかし、それ以上の推論は、目の前で痴態をさらす元・女刑事に邪魔される。

 豊かな胸をモミしだき、人さし指、中指、くすり指で股間をはげしく撫でさする淫姿(すがた)。

 薄物が立てる絹擦れの音とともに、乳首やラビアを残酷に穿(うが)つ飾り房つきのピアスが、何よりひたいのルビーがキラキラと輝き、熱いよがり声と吐息が、それに伴奏する。

 

「オッパイも!おシリも!性器どころか(ふッ!ウぅぅ……ンッ!)おっ、おシリの穴まで!男の──男の性欲の《はけ口》に改造手術されたのよ!?こんなみッともない“人間オナホール”にッ!!それどころか、おくちは『レイカ』さま専用の小便器も兼ねてるの──見てッ!」

 

 元・女刑事が口もとをおおう面紗(フェイス・ヴェール)をかかげる。そしてボッテリとしたくちびるを大きくひらき、トロンとした顔で、驚くほど長い紅舌(した)を延ばした。すると──舌は根もとから二つに分割され、その表面には等間隔にイボのような盛り上がりがついているではないか。

 舌をダラリ、のばしたまま彼女は、

 

「裂(ひゃ)かへた長い舌は、『レイカ』ひゃまのお小水(ヒッホ)のあと、女陰(ホマンホ)の中に差ひ入れて奉仕するひゃめ。舌の突起は、女陰(ホマンホ)の恥垢(スメグマ)をヒレイに舐め取るらめなのひょ……あ(・)ら(・)ひ(・)を……あらひをほんは、ラう・ドールりみた肢体(ハラダ)に改造ひへ!」

 

 施術された己の口内を見せながら、なかば悲鳴まじりに元・女刑事がそう叫んだときだった。

 

 ビュクビュクッ!

 

 彼女は、急にはげしく身を震わせると腰をかがめ、淫猥(みだ)らに改変された自分の軆(からだ)を抱きしめる。それはまるで内なる衝動を、ムリに抑えこもうとするかのようにも窺えた。

 通路の壁にヨロけかかり、身をもたせる彼女。

 イッ、イッ、イッ……と声を殺し、リズミカルに体をゆらす。

 やがてブルブルッ!いちど身ぶるいしてからは激情がおさまったか、『魔ほと』は壁に体をつけたまま、ズルズルと脱力したようにしゃがみこんでしまった。

 

 殺風景な廊下に、幽かではあるが汗混じりな女の体臭と淫液(モノ)のにおい……。

 不覚にもチンコが固くなって──いや、ちがう。この感覚、オレのものじゃない。

 

「──でもよォ。あのオヤジ(小男)も、罪なヤツだよなァ……」

 

 ふいに口が勝手に動く。

 やはり。アフリカ傭兵隊長の気配だ。

 コンゴにある場末の酒場で、くつろいでいるような心象。

 イブニング・ドレスを着たベルギー人の若い女を品定めするような。

 ふと、自分の店を荒らされたジーミのヤツは、どうしているかなと心の隅で考える。

 『魔ほと』の前で片ひざをつくと、うなだれる相手のあごのしたに曲げた人差し指でクィッ、とうわ向かせ、

 

「──こんな美人をヨォ……」

 

 面紗で半ば覆われる上気した表情(かお)。

 恥ずかしそうな面差しが、そのときわずかに緩んだように見えた。

 オレの手を遠ざけようとするが、一瞬、ビクッ!またもや激しく身を震わせる。

 

「かしこまりました……」

 

 いったい誰に対してだろうか?

 ポツリ。彼女はそうつぶやくや、後はあきらめたように。

 目を閉じ、アラビアの舞姫めいた淫らな衣装の前をみずから開いて、乳首ピアスに飾られる胸を露出させる。

 

 ──オイ、コラ!やりすぎだこのバカ!

 ──なんでだヨゥ。イイじゃねぇか?コレくらい。

 ──あまり感心せんな、中尉。小男とやらが、どこかで監視しているぞ。

 

 こんどは、あの老いぼれ特殊騎士団長の心象まで伝わってきた。

 

 ──上から視線を感じる。おそらくこの女性は何かで操られているな。憑依魔法だろうか。

 

 そう言われてみれば、元・女刑事にしては不釣り合いに下品な物言いをするような。

 これも洗脳ではなく、遠隔で命令されているとすれば、納得がいく。

 全ては、オレを誘うワナで、今この時も録られているのか。

 

 ──チェ……っ。

 

 オレは紳士的に相手のはだけた衣装を直し、背をかるく叩いてから両脇に手を差し入れて立ち上がらせると、廊下の先に向けあごをしゃくった。

 

「さ──エレベーターまで案内してくれ」

 

 『魔ほと』はしばらくボンヤリしていたが、やがてかるくうなづくと、ふたたび尻をふりたて、静々とオレの前を歩きはじめた。

 

 相変わらず没薬の香る、深閑とした重苦しい空気。

 そのくせ、なにか低周波音のようなものが、ずっとつづいている。

 

 T字の分かれ道をまがり、ようやく荷物用エレベータの前までたどり着いた時。大型エレベータの階数表示灯が動き出したのを見る。やがて箱はゴォン!と大きな音を立てて止まり、頑丈そうな扉が上下に開かれた。すると、エレベーターの中には優に2mはあろうという屈強そうなスキンヘッドの外人がふたり、電動ハンド・リフターのわきに立って、コチラをギロリ、睨めつけている。

 それを見たとたん、オレの血は逆流した。

 

 

 ──オーク!!

 

 

 忘れもしない。 

 悪夢のような『5月動乱』。

 その後の酸鼻と、また悲嘆と。

 蹂躙(じゅうりん)された皇国。破綻した抵抗活動(レジスタンス)。

 奴隷化され、銅像化された王女、侍女、側女。

 口から、女陰から、肛門から。水を勢いよくふきだして。

 大噴水に据え付けられた彼女たちがひり出す水流が、夕日に美しい虹を描く……。

 

 2人組の肌は、さすがに緑ではなかったが、筋肉といい、目つきとイイ。

 なにより歯が飛び出ている頑丈そうな受け口が、筋肉ダルマのオークそっくりだった。

 電動リフターのフォークには、ドラム缶の親分めいた金属容器が乗り、側面にスリ傷や緑のペイント痕をつけている。

 

【 おぃぃぃぃぃぃ、階数がちがッぞ!ココ3階じゃね? 】

【 チクショウ、まァた機械(マキナ)がバグりやがったンだナ…… 】

【 オィ!アイツらぁなんダ?ココに居てイイ奴なのカ? 】

【 んぁ?奴隷人形が居る。どぅせ“店”のヘンタイ客だぁ 】

【 ほな早く行くべぇ。電気炉の電気代がモッタいねぇど 】

【 ンだな。ボヤボヤしてッとまた猊下にドヤされッ了(ちま)ぅ 】

 

 大型荷物用エレベータの扉が、ふたたび巨大な爪切りのように上下に閉じてゆく。

 

 オレの中で少なからぬ驚きがあった。

 筋肉ダルマのような外人たちが話していた言葉。

 ラテン系でもスラヴ系でも、ましてやアジア系でもない。

 いままで聞いたことの無いような言語だが、およその意味は分かった。

 そして胸の中には、ある懐かしさがこみ上げる。剣戟(けんげき)の響き、軍馬の嘶(いなな)き。

 胸がうすく勘気(ヒステリー)のある、最後は愛娘と共にオークの餌食となったエルフ族の我が妻、シーア。

 

 ──そうか!お前か!騎士団長さんよ。

 

 返事はない。

 ただむせび泣きのような力の無い気配が伝わってくる。

 

「まったく……中尉といい騎士団長さんといい、オレの体を勝手に使うのはやめてくれ」

「どうしました?お客さま……」

 

 すっかり正気にもどったらしい『魔ほと』が、地下四階まで降りたエレベーターの箱を呼ぶのかボタンを押しながら背中越しふり向いた。

 

「いや、なんでもない。コッチもいろいろあってね……」

 

 エレベーターはなかなかやってこなかった。

 一階下ではドスン!ゴトン!ガキン!となにやら手荒くモノを扱っている。

 これで見当がついた。あの壁のスリ傷や重量物を運んだような床のへこみは、オークどもが雑に作業したあとだ。ヤツら、いったいどこの国の人間なんだろう……。

 それを聞こうとして口を開きかけるより先に『魔ほと』がポツリ、

 

「外の世界は……如何(いかが)でございましょうか、お客さま」

 

 言葉つきも改まった彼女は、こんどは寂しそうに、そんなことを声低くつぶやいた。

 

「ヒショクは当店の外に出られませんので……」

「“ウサギ(店)”の外に出るのは、禁止されてるのか?」

「基本的には。それどころか、自由なネットも手紙も御法度です」

 

 後半のほうは、なぜか恐る恐るといった声音で彼女は応えた。

 

「メールは、いちいち検閲を受けてから発信しております」

「ふぅん。しかし外界(そと)と遮断されて店の中だけに居るんじゃ退屈だろうに」

「例外として、外が見えぬようメクラ板を張り巡らせた大型送迎バスで……地方にある……隔離された……専用の温泉施設をつかって……エステを受けたり、セイギの訓練などをほどこされます」

「正義の訓練?」

 

 沈黙。

 ややあって、なぜか彼女はホッとしたように、

 

「殿方に奉仕するため、セックス・テクニックの教育・実地訓練を受けるのです……」

「あぁ“性技”ね。チーフ・レディたちに調教?されるのか」

 

 いいぇ。と、ここで『魔ほと』はふり向くと、廊下の天井にむかい、まるで何かに媚びるような口ぶりで、

 

「“調教”などという、畏(おそ)ろしいものではありませんわ?」

「ふぅん──というと?」

「女の悦(よろこ)びをイチから教えてくださる、ス(・)バ(・)ラ(・)シ(・)イ(・)再(・)教(・)育(・)施(・)設(・)ですの」

 

 ウットリしたように、そしてなぜか声高く、かつての女刑事は答えた。

 

「朝、昼、晩とフランス一流シェフの食事がつきますわ。愛玩人形(ラブドール)ひとりにつき、専用の下婢(はしため)が2名ついて、お食事のお給仕から化粧、洗濯、神殿のようなスパでの湯浴み。そして……しもの世話と、淫らで下品な夜の営み──アウッ!いいえ、いいえ!素晴らしいレズ3Pセックスまで、手とり足とり『ダルマ女』になるまで面倒を見て頂けますの!」

 

 ──神殿のようなスーパー銭湯か……。

 

 昼間の暑さを思い出し、オレは想像をたくましくする。

 大理石造りの壮麗なギリシャ神殿が、そのままジャグジーや打たせ湯、サウナに冷水風呂を備えたような光景を思い浮かべ(くそっ!ちょっとイイな)とうらやんでしまう。

 

 さびれたギリシャの田舎に、突如現れるコリント様式のスーパー銭湯。

 地中海性気候の日差しを浴び、半日ロバの背にゆられてようやくたどり着いた夕方。

 1200₯(ドラクマ)でレンタルのトーガを借りて着替え、係に案内され宏壮だる浴場へ。

 脱衣所で勇躍、借りた衣(トーガ)を脱ぎ捨てて、まずはひと風呂!広い浴槽につかる。 

 なんならペルシャ風に、そこに酒姫(サーキー)が現れてビールを注いでくれてもいい。※1

 サウナや打たせ湯、冷水風呂や電気風呂。巡りに巡ったそのあと。

 オレは浴場の断崖に立ち、エーゲ海を見下ろしながら湯にほてった体を海風に撫でさすられつつ、冷えたビールジョッキを片手に(もう片手は腰に)フルチンのまま、水平線に沈みゆく偉大なアポロン(太陽)を眺めながら、ングングと中ジョッキを飲み干すのだ……。

 

 ──う~ん……わwるwくwなwい。

 

 しかし。本当に、この店の財力は絶大だなと呆れてしまう。

 力の源泉はどこからくるのか。この妖しげな雑居ビルにしたってそうだ。そもそも、この地下には、なにがあるんだ?オークどもは『電気炉』とか言ってたか。大型の電気炉だとしたら、雑居ビルには不釣り合いな消費電力だろう。電力会社には何ていいわけするのか。あるいは近くの共同溝から“盗電”でもしてるのか。

 

「なぁ『サッチー』。この建物の──」

「ヒショクは『魔(・)ほ(・)と(・)』にございます」

 

 先ほどとは打って変わり、慇懃無礼ともいえる冷たさでピシリ、『懲罰用スレイブ・ドール(奴婢人形)』は応えた。

 

「わかったわかった、それじゃ『魔ほと』サンよ」

「なんでございましょう──お客さま」

「いま、ここは地下3階なんだろ?4階には、何があるんだ?さっきのオーク……じゃない、ガタイのいい外人たちはどこに行く?」

「それは……お答え致したしかねます」

「なんでだィ?実はオレ……いや私は、小おと……さっきのオーナーから、ここの管理職になってくれと言われてるんだ」

「お客さまが……弊店の……」

 

 濃いアイシャドウが飾る眼を見開き、『魔ほと』はオレの方を見た。

 なぜだろうか。

 一瞬、そこに逡巡(とまどい)と落胆。なにより軽蔑の影がよぎったような。

 

「な?それを考えれば──この雑居ビルの設備ぐらい教えてくれてもイイだろ?オr……私がマネージャーになったら、『魔ほと』クンは優遇するよ?地下にあるのは何だ?それに、この強烈な臭いの没薬(ミルラ)は、なぜ焚かれている?」

「それは──」

 

 『魔ほと』が何かを言いかけた時だった。

 またもや彼女の身体がビュクビュクっ!!はげしく痙攣する。

 身体を丸め、何かに耐えるように、淫猥な改変をされた身体を凝固させ歯をくいしばる。

 やがて、ようやくおそるおそるといった風に背を伸ばし、上気した額の汗をおさえ、

 

「申し訳ありません……やはり、ダメなようです」

「ダメ?説明してくれないってコトかぃ?」

「……はい」

 

 チッ!と思わず舌打ちが出る。

 

「ったく。小おとk……オーナーもオーナーだ。肝心なことは、チッとも教えちゃくれないんだから。さっきの、聞いたろう?」

「さっきの──とは、なんでございましょう?」

「ほら、私が『レイカ』女史と夜明けまで飲もうといったときサ。オーナーのやつ、急にオレを追い出しやがって。こちとら会社に用事なんかないのに。きっと『レイカ』に店の設備情報を漏らされるのが、イヤだったンだな」

 

 なんですって?と元・女刑事は一瞬、素でキョトンとした顔になる。

 次いで心底おかしそうに笑い出した。

 彼女はオレの目の前でひとしきり開けっぴろげに笑うと、目尻のなみだを小指で払いながら、うってかわって磊落(あけっぴろげ)な口ぶりで、

 

「なんてこと。あ(・)な(・)た(・)ホンキで気づかなかったの?」

「なにをだ?」

「あれはオーナーが『レイカ』さまのことを──」

 

 バチン!

 

 「ア"っ"!か"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"あああああああああ!!」

 

 電気がショートしたような音と共に、かすかに肉の焦げるような臭い。

 『魔ほと』は股間をおさえて身を丸めると、獣じみた絶叫をあげた。

 

「なんだ──どうした!?」

「あぁっ!イヤっ!そんな……来るっ……来るっ……くるぅぅぅぅゥゥゥ!!!111」

 

 

 またも元・女刑事は一度、痙攣したかと思うと、淫猥に手術された肢体(カラダ)をのけぞらせ、ピアスが飾るおのれの股間と豊満な乳房を烈しく揉みしだき、なぐさめはじめる。

 

「い"き"っ!ひぎぃぃぃィィィ!!!!」

 

 

 

 たちまち殺風景な廊下に女の淫液(モノ)の臭いが濃くたちこめ、動物の本能的なリズミカル動作がそれに加わる。熱いあえぎ声が伴奏となり、ハーレムパンツの紫色ショーツに濃いシミが広がってゆく。

 

 ブブブブ、という携帯着信のバイブ音。

 いや、違う。それは彼女の下腹部から響いているのだ。

 サテンの光沢を思わせる、黒く濡れそぼったハイレグショーツ。

 その表面には、オマンコにズップリと穿たれていると思われるディルドー(張り型)が尾部を浮かせて。

 

「いやぁぁぁぁああああああ!!取って!取ってェっ!おクスリが!おクスリがぁァァァ!!!」 

 

 身悶えする『魔ほと』

 おマンコと肛門を犯すディルドーを、元・女刑事は必死になって抜き取ろうとするが、どうしたことかハイレグ・ショーツの下でウネウネと淫らにく(・)ね(・)り(・)動くそれらに触れる寸前、彼女の手は、まるで禁忌に触れるように後もどりしてしまうのだ。

 

 腕をあたまのうしろで組み、下品なガニ股になって腰を前後にはげしく振る姿。

 愛液のしずくが股間から糸を引いて垂れ、あるいはハーレム・パンツの薄物を伝い、ときに飛沫(しぶき)となって床を汚す。

 

 「あひっ!あヒィィィィいいいい!!!」

 

 

 白目を剥き、ときに2本の舌をだらしなくのばしてヨダレをダラダラとしまりなく。

 さらに快楽を貪ろうと言うのか、無残な動きを動物的にくりひろげる。

 やがて──それがフイに収まった。

 眼球がグルリとまわり、オレの方にロック・オン。

 何の脈絡もなく連想する、『シャイニング』の例のシーン。

 

 ──ヒッ……。

 

 『魔ほと』はボッキした乳首を、親指と人差し指でコリコリと弄びつつ、ジリジリと迫ってきた。

 上目づかいで長い舌をペロペロと、まるでヘビのように出し入れし、異様な気配を漂わせつつ。

 

 

 ゴウン!

 

 

 ようやく大型エレベーターの箱が下からやってきて、大仰な口をガラガラと開ける。

 

 

「犯して……」

 

 それと共にジリッ、と彼女が迫る。

 オレはエレベータの箱のなかにステップ・バック。

 とたん、腐った肉と饐えた血の臭いが鼻をつくのが分かった。

 だが、今はそれどころではない。必死に[閉]のボタンを連打する。

 

「犯してぇぇぇぇぇぇえぇl!」

 

 ガラガラガラッ!上から金網フェンスの一段扉が降りてきた。

 『魔ほと』はモロにそれにぶち当たり、カエルのように引っくり返る。

 オレは目前に展開する光景を信じられない思いで眺めつつ、速攻で1階のボタンを。

 

「犯してぇぇぇぇぇぇえぇl!」

 

 彼女は仰向けにひっくり返ったまま、誰かに正上位で犯されるかのようにガニ股で脚を持ちあげ、自分の乳房をモミしだきつつ床の上で腰をくねらせた。

 

「犯しなさいよォォォォォォォォォ!!!!!!」 

 

 二段目の鉄扉が上下からせりだし、その無残な光景をオレの視界から締め出した。

 古いペンキとグリス、なにより血の臭いに包まれつつ、エレベーターが上昇する。

 元・女刑事のあまりな姿から衝撃をあじわい、ブルブルと身体がふるえて。

 そして。エレベーターの、この臭気。

 またもアフリカ傭兵時代を思い出すかと思いきや、浮かんできたのはゾンビ映画のワン・シーンだ。

 

 

 そして──それで終わりではなかった。

 

 ズシン!

 一階にたどりつき、大型エレベーターの扉が開く。

 空調の効果が薄れ、わずかに外の熱帯夜が感じられるように。

 

 ──もう監視カメラに見られても構うモノか。

 

 オレはポケットからAIコネクト用のイヤホンを携帯と同時に取り出し、イヤホンをさりげなく装着してから携帯の相手先にかける素振りで、

 

「【ボニー】……聞こえるか」

『マイケルさま──通話状況が非常にワルいデス。連絡が取れないので心配いたしまシタ』

「ここの建物のシステムにハッキングは出来なかったのか」

『情報の遮蔽がミョウに厳重でオ助けできまセンでシタ。申し訳ありまセン……マイケルさま?』

「なんだ、【ボニー】」

『この声、なんデスか?』

 

 声?とオレはイヤホンを外して耳をすます。

 すると、乏しいLEDが点々とつづく廊下の彼方から、

 

「ァァァァァ"ァ"ァ"ァ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"あ"あ"あ"!!!!!!」 

 

 けたたましいヒールの音とともに、とおくから叫び声が近づいてくる。

 

 ──うヒィィィィッ!チョー怖ェぇぇぇぇぇぇ!!!!




前の話の方に出したコンタクト型の端末。
自分の想像でしたが、もう試作品があるんですね。
情報端末は恐るべき速さでどんどん進歩してゆきます。
脳に直接アクセスなんていうのも、時間の問題なんでしょうね。
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