試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【18禁版】 作:珍歩意地郎_四五四五
スミマセン
* * *
「──なにか?」
ヤン中尉は怪訝な顔をしてリストから顔を上げた。
最後の名前。
すっっっっっ……げェ、イヤな予感がする。
なにか、こう。地雷臭というか……アンタッチャブルな気配というか……。
事務所で書類に埋もれつつ、眼鏡の奥からキラリ、鋭い視線をトバしてくるイメージ。
「その最後の名前も……兵士なのか?アイルランドの」
「いいえ。|Elle est secrétaire qui accompagne un officier militaire.《彼女は観戦武官にくっついてきた秘書官ですよ》」
「
「とんでもない!オ・ツボーネサマ少佐。兵站と補給が専門分野のプロですよ」
「我が部隊の補給の劣悪さを見せつけて、ハジをかこうってのかぃ」
「いや。じつを言うと目的は──ほかにあります」
「と、言うと?」
ここだけのハナシ、とヤンは急に声をひそめ、
「一団のなかに、IRAと繋がりのある人物もいるらしいんです」
「はぁ?IRAだ?」
イギリスからアイルランドの独立を勝ち取ろうとする『
市民を巻きぞえにして、派手にドンパチをするノータリン共らしい。
「ベルファストで、タチの悪い花火大会してる連中だろ?」
「昨今、ウチが待ち伏せで人員を減らしてるのは分かりますよね。彼らのツテで、アイルランドから補充兵を呼べるかも」
よしてくれ、とオレはチカラなく鼻でワラい、
「ウチの部隊が、体の良いテロリスト訓練キャンプになっちまう」
「あるいは。しかし人手不足よりはマシですよ。都合のイイことに、彼らは血の気が多い」
茶を飲み終わると、俺たちは肩をならべて炎天下、本部バラックに向かった。
途中、道の向こうから、もと
「おい、マイケル!いま本部棟にいったらな?ものスゲぇ美人がいたぞ?」
俺はヤンの方をチラッと見て、
「美人って、どんな?」
「いや、それがちょっと冷たい感じの、砂時計みたいなエロ体型した女でな?」
「へぇぇ」
「砂時計、ってなんです?アルモン大尉」
「ヤン、キサマも分からん奴だな!ムネと腰と尻が“8”の字型の女だよ!」
「ふぅん。
ヤンの言葉にチラッと感傷めいたものがよぎるが、このアフリカの炎天下にあっては、そんなモノはたちどころに蒸散してしまう。血まみれな
アルモン大尉と別れ、基地の本部バラックに入った時。
生ぬるい空調が効いているとはいえ、このクソ暑いのにスーツを着込んだ2人組とバッタリ出くわす。
片側の七三分けに見覚えがあった。
ドレッドの一味の暗殺を依頼してきた
もう片方は、いかにも若い。スーツもコナれず、まだ20代じゃなかろうか。
「あぁ、マイケル中尉ですよね?良かった!ちょうどイイところへ」
若手のほうが、写真と俺とを等分意に見くらべながら、外交的な笑みで俺に近づく。
大尉だよ、と傍らにいた七三分けの男が、やわらかく訂正。
「中尉どのは、大尉に昇進されたのだ」
「これは!おめでとう御座います。大尉どの」
こいつ、と俺はスピッツのようにサカぶってハキハキとしゃべる若手を、うさんくさげに一瞥。もしや、ラングレーの新人だろうか。七三分けの方を見ると、ポマードをテカらせ微妙に肩をすくめてみせる。
そこでオレはビンときた。
「昇進したのは、お互い様のようですね」
「なに。ちょっと状況が変わったのだ」
そう言うや、この男は俺をヤンと若者から引き離し、窓からの光が差さない廊下の片隅へとといざなうと、タバコ臭い低い声でボソボソ話す。
「クリューガー氏を覚えているかね?
「え……ダレでしたっけ」
「ほら、第48話:傭兵たちの視線(2)で出てきた警部どのだよ」
あぁ、とようやくオレは思い当たった。
珍しいローデシア
疲れたような顔に、短く刈り込んだ銀髪が目立っていた人物。
「最初っからそう言ってくれればイイのに」
「殺されたよ。連中に──
いきなり冷酷な現実に、ボディ・ブローをカマされた気分。
連中──つまり、あのドレッド・ヘアの
目標識別用の、オレの隠し撮り写真を持っていた執念深い一味。
「どこで」
「
「使われた銃は?」
「大戦で使われた古なじみのSten・MkⅡが2丁。遺棄された車の中に」
「
「そう。ゆえに、こちらも単独行動は避けるよう“上の方”からのお達しでねぇ」
「なるほど。それで──あの若者ですか」
俺が若者の方をみれば、ヤン中尉となにごとか談笑している。
CIAの関係者にしては、ずいぶんと外交的なようだ。
なんとなく品格があり、世間知らずな部分が見える。
おそらくイイとこの大学を出たてなのだろう。
イェールか、それともハーバードか。
「近々べつの作戦が発動されるはずだ。それまでは──生き延びてくれたまえ」
「便利に使ってくれますねェ……別の作戦、って?」
七三分けは背をかがめ、声をひそめた。
「『オペレーション・ストリキニーネ』いまはヒトがいるので後ほど説明する」
「……名前からしてブッソウですね」
「物騒といえば、相変わらず
またあとで会おう、と七三分けは若者に声をかけて去って行く。
ベンリに使いやがって。オレは協力会社じゃねぇぞ。
密かに腹を立ててるとヤン中尉がやってきて、
「あの男の用事、なんでした?」
「べつに。部隊の今後の動向なんて聞いてきやがった。そっちこそ──」
俺は廊下を去ってゆくラングレー2人組の背中を追いながら、
「あの若い
「あぁ。あの青年、プリンストン卒業だったんですよ。わたしも昔、ケープタウン大学の学生だったころ、交換留学生として一時期プリンストンに居ましたから」
なるほど。学生時代の結びつきは強いらしい。
対して俺はといえば、イギリス名門のサンドハースト陸軍士官学校に居たものの、傭兵となった今では同窓会など思いも及ばない。しかし在学中のDATAだけはシッカリ残っているとみえて、CIAなんぞが“汚れ仕事”を依頼しにくるのだが……。
「そら、この会議室ですよ。中で観戦武官がお待ちです。それと……」
「それと?」
「このコトは、国際的に微妙な事項なので、どうか内密に」
分かってるよと言って俺が先に立ち、会議室に向かおうとした時。
──はぁッ!?
俺はギクリと身体をふるわせ動きを止めた。
本部兵舎の通路は、行く手がT字路になっている。
そこに、戦死したラルゴが腕組みで壁によりかかっていた。
別に野戦服が血まみれとか、顔が半分ないとかそんな風情もない。
コチラをみてニヤついている風情。生きていた時の不敵さそのままに。
そんな折。フイと、腕組みをしたそこに、床から黒いカタマリが飛び乗った。
──え……。
よくみれば、それは見覚えのある黒いネコなのだった。
そしてラルゴの腕の中でモゾモゾと動きコチラをふりむけば……。
なんと、あの不吉な金色の眼の片方がない。半眼の黒い空洞となっているばかり。
「マイケル大尉、どうしました?マイケル?」
「ヤン!あれ……ラルゴ……ラルゴの奴が!」
俺が指さしても、ヤン中尉は彼方に目を細めて怪訝な顔をするばかり。
「あのクソ猫だ!中尉!──見えんのか!?」
『いつもながらごあいさつだネェ……』
ラルゴの腕に抱かれながら、黒ネコは生意気にも一丁前にタメ息をついた。
以前は二叉だった一本シッポを、いかにも不満げに、フヨフヨ動かしながら。
『さんざん苦労して、とくべつに、出てあげたのにサ?』
「要wるwかwよw──クソ阿呆が!」
俺の口が勝手に動いた。
そして──そのとたん!
アタマの中で、みょうに未来的なトラック運転席からの光景がうかぶ。
まるで宇宙船のコクピットか、なにかの研究室をおもわせる電子機器群。
光るスパゲッティめいてグネグネと複雑に絡みあう、夜の高架道路の光景。
あたかもバビロンの高層建築めいた建物が、夜空に灯火を並べそびえ建って。
──ナンだ、コレは……なんだ!
『いまのキミが居る場所さ』
「イマの俺だと……?」
『ヤめといた方がいいと思うんだけどねぇ……これは親切心からの忠告だよ?』
「やめるって……何をだ!」
『キミの世界の
「ことわりサマ?何のことか分からんぞ」
『平たく言えば、神サマかな。冷酷で──残酷な。この眼を見てよ』
金色の瞳と視線を合わせた刹那、前頭葉にシビれが奔った。
俺の頭に、白いキモノと紅いロング・スカートをはいた女の姿が浮かぶ。
ゾッとするような美しさ。いや、よく見ればそこには冷酷さと冷徹さが充ちて。
手には
「そもそも、どしたその目!
『キミの世界の理サマに、
「かぶらや……?」
『気をつけなよ?死んだら魂を拉致られて、永遠に理サマの
“竿師”とは何か、分からなかった。
だが、暗闇の中にうかぶ日本のジンジャらしき建物がイメージされる。
例えれば、敵側の十字砲火が約束されているような道をすすむ感覚。
あるいは地雷原をあるくような……。
『鳥居の結界が破れてるから、危険を
これは大サービスだからね?と黒ネコは恩着せがましい口ぶりで。
俺は無表情になったラルゴと片目の黒ネコを疑心暗鬼に代わる代わる見やりつつ、
「なんだエラそうに。大サービスだってェ?」
そうさ。と黒ネコは顔をペロペロと前足で洗う。
終わったあと、この猫は
金色の瞳と視線を切り結んでいると、頭の中に相手の声。
『いいかい?よくきいて。
キミが傭兵の現実を味わえば味わうほど“理サマの下僕”に近付くし、
特殊騎士団の夢を見れば見るほど、ボクが“救済”しやすくなるんだ』
「言ってる意味が分からんな。騎士団だって?中世の?」
『正確には“異世界”だけどネ。そこでキミは“因果”を精算しなきゃならない』
──ますます分からん。
「なんで俺が、因果だかテンガだか知らんが、そんな負債を抱えてるんだ?」
『キミの“
「債務!部隊を危機にさらしたコトが?
『逆だよ。王国の反逆者を
「王国だ?王国って、どこの?アフリカのか?」
『さぁて。
そう言って黒ネコは、ラルゴを促すように頬をシッポでくすぐった。
死んだはずの狙撃屋は俺のほうを一顧だにせず、スタスタ曲がり角に消えてしまう。
「おぃ待て!ラルゴ……ラルゴ中尉!」
T字通路に向けて、俺は駆けだした。
そして曲がり角を左に回ったとたん!
いきなり“金色のモップ”と鉢合わせ。
ドスンとした衝撃と短い女の悲鳴。
ついでバサバサ紙のフォルダーが、板張りの床に散らばる音。
「
金色のモップから、そんなカン高い囁き声が洩れる。
ちがう──よく見ればモップじゃない。外国の制服を着た女だ。
組みひもに一つ星の肩章。少佐だろうか。
香水の薫る、ボリューミーな生暖かい柔らかさが床にかがんだ。
──しまった!
俺はあわてて散らばったフォルダーを拾い集めた。
そしてその場しのぎにキレイに整えると目の前の人物に渡そうとする。
相手は豊かな金髪をかきあげ、そのスキマから一瞬、刺すような視線を向けるが、ふとその眼差しが和らぐと、驚いたように凝固する。
「あなた……マイケルさんじゃないの!」
俺は相手の姿・格好をマジマジと見た。
ムチムチ(死語)なボディを強調させるように、立体裁断でピタリとあつらえたようなイギリス風の軍服。ネクタイ下のYシャツはパツパツでボタンがハジけ飛びそうだ。腰回りを張り裂けそうに包む“パンすじ”の浮いた、軍隊の勤務服にはありえないミニのタイト・スカート。太ももからはガーターベルトがのび、形のよい締まった脚をピッチリと包むストッキングの切り返しを吊って。
彼女は古めかしい角ぶちメガネをクィッ!と押し上げる。
そしてガラスの向こうから鋭角的な視線を投げかけて、
「マイケルさん!あなたトラックの消耗品請求リストがまだ出てませんけど?」
「う……ト、トラック?」
「それにナニ?そのカッコ。腰に下げてるのピストル?コスプレなのかしら」
俺は相手の剣幕に
「ええと……先週に納入された、対空兵装つきの
「はぁ?なに寝ぼけてるの!あなたの
「れ……轢殺ゥ!?」
次いで彼女は、ハッ!と自分の服装をあれこれ身をよじって見下ろし、
「な!ナニよこの制服。なんでわたしこんなモノ着て?それに──パツパツじゃないの!」
次いで自分のムネの巨大さに初めて気づいたように、ギョッとした顔で、
「やだ……あたしのオッパイ!またこんなに大きくなって……」
参謀肩章と略章がならぶバストを、おそるおそるフヨフヨと
「作り物じゃ……なさそうね……いやァッ!?あたしのオシリ!」
次に彼女は美事に張り出した自分のデカ尻をなでまわし、
「骨盤が!?こんなにアタシのおシリ大きくないのに!それにナニよこのスカート!きゃぁッ!ショーツ、ショーツに何か?食いこんでるぅッ!」
なるほど。よく見れば、ピッチリなタイト・スカートの生地に、ロザリオの数珠めくシルエットが縦スジに一本、下腹とヒップの上に浮かび上がっている。
「ウソ!こんなのウソよぉぉ……!!」
うろたえたように叫ぶ彼女。
そこへ、前線基地司令のミヒャエル大佐が通りかかった。
傭兵たちには『無能』の烙印を押されている初老の男は、ゲジ眉をしかめて、
「ナニを騒いでイルか!ナント──観戦将校のオ・ツボーネサマ少佐ではナイか!」
バイエルン訛りのトゲトゲしいフランス語で、この人物は彼女の
超・グラマーな女性将校は、張り出したヒップを内またで突き出し、Jカップはあろうかというバストを下から支えながら、
「少佐ですって?……ワタシ……ワタシは転生協会・総務担当の……」
彼女が、タイト・スカートとキチキチのブラウスに包まれたカラダをもぢもぢとクネらせ、要領も得ず口ごもるのを見ると、この指令の頭に“ヘンなスイッチ”が入ったらしい。腰から指示棒に使う細身の竹をサムライのカタナよろしく抜き出すと、恐ろしいことを言い出した。
「オィ、マイケル大尉!コイツを──
俺は耳を疑った。
マジかよ、そんな。
まさか、基地司令が。
たしかに、この基地のトップは首都レオポルド・ヴィルの秘密クラブで、黒人の若い女を裸にしてイタぶるのが趣味と聞いていたが、まさかココまでとは。しかも、まだ昼前の時間帯なのに!やはり“マッド”マイクが指揮をとる第5コマンドに移った方が良かったかと、遅ればせながら舌打ちする。
「カンベンして下さいよ……おい、ヤン!お前からも何とか言ってくれ……ヤン!?」
だがヤン中尉はニコニコと微笑するばかりで動く気配はない。
その間にもオ・ツボーネサマ少佐は力なくブツブツと、
(ウソよこんな……こんなのウソよ……)
ついに業を煮やしたらしい司令は
「オィ!ダレか?腕っぷしの強い奴!いなイカ?──来てクレ!」
通路の奥の方で「応ゥ!」と野太い答えがあがった。
ドスドスと、急造の安普請な床を、足音あらく近づく気配。
「オデたちを呼んだンは……オマエかァァァ~~」
そのときコーヒーを飲んでいたら、おそらく俺は噴き出したろう。
奇妙な迷彩服を着た、2mはあろうかという巨漢がふたり。
まるでハー○様のような威圧感で、ドスドスとやってくる。
見たことのない空挺部隊章のついたベレー帽。それに略章。
作戦から戻ってきたばかりなのか獣のような臭いがすごい。
──ふえぇぇぇ。
なにより驚くのが、うす緑色の肌と厚い唇から出る犬歯だ。
内臓の病気?にしては動作と面構えが精力にあふれている。
おまけに趣味の悪い、幅広な革のリストバンドと犬の首輪。
まるで中世の異端審問官が下僕に使っていた拷問担当者だ。
「ちょうどイイ!この
ヒュッ!ムチのように竹が打ち下ろされる。
それと同時に、緑色の巨漢2人は牙のような犬歯がのぞくブ厚いくちびるからヨダレをながして、オ・ツボーネサマ少佐に襲いかかった。
「やめろ!」
俺は彼女を救おうとするも、固縛されたように自由がきかない。
見れば、狼藉をはたらく大男の背後。通路に設けられたスピーカーのうえに黒い塊がある。
そこから金色の単眼が、こちらをジッと見おろして。
「くそネコぉ!──貴様の仕業か!」
獣臭い空挺兵たちの毛むくじゃらな剛腕が、仕立ての良い少佐の制服を、まるでティッシュペーパーのようにズタズタにする。悲鳴とともに肩章や略章は飛び、ネクタイは引きちぎられ、ブラウスはぼろ雑巾に。シルクのスリップやコルセットが一吹きで剥ぎ取られると、巨大なオッパイがブルン!驚くばかりの白さでまろび出た。
「やッ!──イヤァァァ!」
両腕と両脚を“緑の鬼”ふたりがかりで開かされ、まるでXの姿勢で固められる。
あれほどオ・ツボーネ様を責め立てていたショーツの仕組みがあきらかになった。
それはクロッチの部分が数珠状になり、丸い玉の連なりが股間に喰いこんでいる。
「助手がいるナ……それッ!」
ヒュッ!
細身の竹が、ふたたび空を斬る。
すると、またも通路の奥から、小柄な女性が3人、しずしずと現れた。
手に持つ盆に、それぞれ羽根飾りやビーズの束、それに男性器のカタチを模したモノまで。
──えぇッ………?
3人の女性は等しく全裸だった。
身体に何かを塗られているらしく、皮膚がガラス状に照りかがやく。
三つ子だろうか?彼女たちの背格好、そして顔つきが、等しくおなじに。
プラチナ・ブロンドのベリショヘア。エメラルド・グリーンに輝く澄んだ冷たい瞳。
「その牝ブタを『チチび〇たリカ』にしてしまえ!!」
3人の若い女性は(それはすこし古いのでは……?)という顔を一瞬うかべるが、すぐに基地司令にうやうやしく一礼すると、次いでこちらを向いた。
──庶務の6号……
俺のなかで、声がした。
見たこともない光景がフラッシュ・バックする。
忙しそうなオフィス。そのわりに電話の音が聞こえない。
机の上に載っている“譜面付きの薄いタイプライター”みたいな奴、ありゃナンだ?
──パソコンだよ……それよりもリサだ!理沙がいる!!
「だれソレ。この露出狂の三つ子かァ?人形みてェな
──所長のお供で出張に引き回されたあげく、秘書課に転属になったと聞いたのに!
3人の女性は上に両手に脚つきの盆を捧げ持つ格好で歩調をそろえて俺に近づくと、無表情のまま冷たい瞳をこちらに向け、
『マイケルさま──残念でゴザいます。もうお目通り
3人が声をそろえ、どことなく作り物くさい口調で。
よくみれば下腹部。
肌は、まるでプラスティックのように滑らかで、体毛が一本もない。見た目、精巧につくられたビニール製のマネキンだ。
「おマエたち!何をしてイルか。はやくその牝ブタに、お似合いの
『かしこまりました、マスター』
そう言うや、3人はレディのように腰を少しかがめ俺に一礼。
つぎにふり向くと、鬼たちに身体を抑えつけられたオ・ツボーネサマ少佐を取り囲む。
「なッ……アナタ、理沙!どうして?しかもなんで3人も──あぅっ!」
1人が、ワレめに食いこんでいた
よほど激しく苛まれていたのか、女の
もう一人が、大小の男性器を模したもの、それになにか細い管が突き出る衣装を、少佐の下半身にたくみな手つきで埋没させてゆく。
「あっ!だめぇっ!……イヤッ!そこはおシリの!
……あぁっ痛いッ!おシッコの穴に!そんな!」
たちどころに。
ビーズの下がる銀色をしたショーツやブラ、首輪に胸かざり。
キラめく腕輪や、スパンコールに長手袋などを強制的に装着されて。
頭とヒップには、まるでリオのカーニバルめいた派手な羽根の飾り物が。
最後に銀のハイヒール。そして商売女のようなケバいメイクをほどこされ、オ・ツボーネサマ少佐の装束は完成した。恥丘のうえに「-3」と刻印のある少女人形が、ガラガラと等身大の姿見を少佐の前に押し出して、変わり果てた彼女の姿を存分に見せつける。
「イッ、いやァァァァ!なに──なんなのコレ!」
ベットリと紅いリップを塗られた彼女の口から、悲鳴にも似た声がもれる。
しかし基地司令のミヒャエル大佐は、下腹部でモーター音を鳴らす少佐のキワどいショーツを、竹の棒でグィと押し、あふん♪と彼女のヒステリックな叫びを黙らせると、
「ヨシ!このくらいde、イイだろう。外の野郎ドモにも──見せてやれ!」
緑の巨漢たちがX型に固めていた彼女を解放する。
そして兵舎通路の途中にある、両開きな
* * *
エッ!とオレは驚いた。
兵舎の外は、昼前の太陽が強烈に照っている世界のハズだ。
いま見れば、夜の虫の声が
「なんで……いままで昼だったのに……」
だが、闇の中には、なにか圧倒的に強力な気配があった。
目に見えぬ巨大な群衆のような……抑えきれない、ある予兆のような……。
「ソレ!行かんか!」
ピシリ!──基地司令は、竹の棒でキレイなオ・ツボーネサマの背中を打ちすえた。
緑の巨鬼も、キバがチラ見えるブ厚なくちびるを歪ませて嗤いつつ、邪険に後押しして。
彼女は仕方なく、巨大な羽根飾りには狭すぎるい両開きの非常口を、カニ歩きの要領で横ばいに、両腕を上に差し上げて『出』のようなブザマな形で暗い外にオズオズと歩み出る。
とたん!──スピーカーの強烈な
闇は一転!
何台ものサーチライトが織りなす強烈な光芒に駆逐された。
爆発する嵐のような大歓声!口笛!
巨大なスピーカーから重低音の効いたリズムが流れ出し、幾千もの手拍子。
エレキ・ギターの旋律が走り、電子楽器とドラムが、大昔の“サイケ”な調子で。
全裸だったリサたち3人は、いつのまにか星の沢山ついた水色のビキニに、カーボーイ・ハットかぶり、二丁拳銃を下げた腰を扇情的にふりたてているのだった。
みれば、そこは人工池を隔てた舞台になっており、池の向こうは数百、数千もの兵士たちが、煮えたぎる強烈な欲望のままに叫び、手を打ち、眼をギラつかせてリズムをとっている。
「ウソだろ……」
ディエン・ビェン・フーで散ったグー伍長がいた。
スエズ動乱で迫撃砲の餌食となったゲオルギウス・パパレコポロス准尉とその小隊。
狙撃戦で撃ち負け、アタマを吹ッとばされたラルゴや、待ち伏せの十字砲火で血煙となった第1中隊の面々。そのほか迷彩服のパターンも季節も、時代さえバラバラな戦闘服を着た傭兵どもが、缶ビールやウィスキー、あるいはシャンパンのボトルを手に、女たちの舞に熱狂している。
──いや、いや……それどころではないぞ?
よく見れば、全滅した王立・特殊騎士団の連中までもが、軽装の鎧すがたでウィスキーボトルをあおり、あるいは頭上に長剣をさしあげ、
「ガンバってねェェェェ~~!!坊やたちィィィ~~!!!」
淫らに腰を振りながら、リサ(-1)はそう叫ぶと、両腰から拳銃を抜き出し夜空に向け1発、2発。
リサ(-2)と(-3)は調子を合わせてショーツをギリギリまでズリ下げる。
兵士や騎士、傭兵たちの興奮と陶酔が、会場は狂乱の“るつぼ”と化していた。
品のいい香水の気配が、鼻先をかすめる。
目の端を、ブルーのドレスを着た女が通り過ぎたような気がした。
すると──いつのまにか自分の手には、ジャック・ダニエルのひと瓶が握られているではないか!
ワケの分からぬまま、それでも兵士たちの熱狂に感化され、同化した俺は、瓶の封を切ると、
カァッ、と食道が熱くなる馴染みの感覚。
もう考えるのはヤメだ。いまは旧友との再会を楽しもう。
酔おうぜ、楽しもうぜ、と言ったのは、アラン・シリトーだったか。
昔の戦場で死んだはずの仲間のところに行こうと、群衆の中をかき分けた時……。
『さ~ァ、ココで!みなサン、おまちかねェ!』
スピーカーから、バラエティ番組の
『われらが【チチび○た・お局】嬢の登場でぇ~す!』
音楽が調子をあげる。
すると、ハデなカーニバル衣装をつけられたオ・ツボーネサマが、銀色のスパンコールをキラキラと輝かせて“出”な動作でカクカクと、横歩きにステージへと繰り出すのだった。
戦士たちの歓声はひときわ高くなり、その熱狂ぶりは怖ろしいほどになる。
内側に刺さるオマンコ用・アヌス用ディルドーと、尿道バイブが相変わらず責め立てるとみえて、彼女は愛液をしたたらせつつ、ケバい化粧に痴呆じみた物欲しげな顔を浮かべ、ステージの端をカニ歩きに。見事に張り出した腰を前後にクイクイとヒネらせ、さらに快感を貪るかのよう。
「あぁっ!……ナニよ……ナニよコレ……オマンコが……オシリがぁッ!」
そう叫びつつも、オ・ツボーネサマは、両腕を上に差し出し、相変わらずのガニ股で。
それがある種の滑稽さを呼んで、兵士たちは酔いもまかせ、ますます熱狂するのである。
リサたちは、彼女の周囲を舞いながら、時に暴力的に巨乳をモミしだき、あるいは背後から戦士たちに見せつけるように恥丘を愛撫して。次第に手ワザは過激になり、本格的なレズプレイとなってゆく。
そのうち、男たちの熱狂がスゴいことになってきた。
黒人傭兵の数名が、堀を泳いでステージに登ろうとする。
中には迷彩服をすでに脱ぎ、勃起したモノを露出する阿呆すら。
『ふふっ♪──オモシロいコトになってきたねぇ』
足もとで、他人事のような声がした。
下を向けば、この乱痴気騒ぎのなかで黒ネコがペロペロ、悠然と顔を洗っている。
「おぃぃ……どーすんだコレ」
『ドウもこうもナイよ。キミのお局サマは、彼等に
「はァ?止めさせろよ、クソぼけが!」
『どうして?彼女も“オトコ日照り”なんだ。楽しませてあげなきゃ』
そうこうする内、水堀を渡りきった黒人傭兵たちに、カニ歩きな少佐は、やすやすと捕まった。
おさえられる両腕。
力ずくで大股に開かれる太もも。
黒い「スペードのエース」のピアス。
イヤがる彼女の耳に無理矢理に施術されて。※2
犯られる!と俺がステージに駆け寄ろうとしたとき……。
ヒュ──────ッ!
ロケット花火のような。
あるいは軽装迫撃砲の弾着のような。
そんなするどい音色が、会場に満ちる熱っぽい旋律を切り裂いた。
「──敵襲ッ!」
瞬間!
あれほどの怒号も、歓声も、熱狂も、はたまた音楽も。
サーチライトの強力な光芒と共に、まるでスイッチを切ったように消えてしまう。
あたりは、森閑とした闇に、ふたたび塗り込められた。
人の気配も、タバコの煙りも。ビールやシャンパンの泡の気配すら、キレイさっぱり消えてしまう。
……いや、一つ残っていた。
シクシクと、女のすすり泣きの声。
──お局サマだ……。
まるで魔法が解けたかのように、オレは自身を取り戻す。
声をたよりに進んでゆくと、うずくまったサンバの衣装がようやく見分けられた。
この感覚には、以前覚えがあった。
あたりが真っ暗闇なのに、自分のカラダだけはよく見える現象……。
「あの……主任?」
オレの声に、派手な装束をムリヤリまとわされた女が、力なく顔を上げた。
「ナニよ……やっぱりマイケルさんじゃないの……」
「立てますか?さ、捕まって」
高いハイヒールのせいもあってか、ヨロヨロしながらも何とか彼女を立ち上がらせる。
そしてお局サマは、自分に強制的に着せられた衣装の股間を、ソッとさぐって。
「どうしましたか?」
「なっ!なんでもありません!」
ワサリ、尻から生える孔雀のような羽根飾りを波打たせ、彼女は脇を向いた。
それがウプッ!とオレの顔に当たり、二、三歩よろける。
「ちょっと、気をつけてくださいよ」
「仕方ないデショ!わたしだって、好きでこんな姿させられたんじゃないわ!?」
「そりゃそうですが……」
「助けてもくれないで!こんな変態的な衣装をムリヤリ着せられるの、見てただけのクセに!気楽にお酒なんか飲んだりなんかして!」
彼女は、ケバい化粧を
「黒ネコに呪いをかけられたせいで、カラダが動かなかったんですよ」
「ノロイですってぇ!?黒猫!?なにバカなこと言ってるの!」
「……調子出てきたようですね。それじゃ、行きましょうか」
オレの言葉に、ようやくお局サマは辺りを見まわし、
「ここ……どこかしら……」
「自分にも、分かりません。ただこの状況は、以前に覚えがあります」
「何でわたし、こんな洋物ビデオの外人売春婦みたいな体つきになってるの?」
そういって、お局サマは、またも自分の爆乳を、スパンコールが煌めくブラごしに揉んだ。
耳につけられた黒スペードのピアスが、フルフルとゆれる。
「あっ……あっ……」
またもお局サマ股間からモーター音がして、彼女はオレにしなだれかかる。
「おしり……お尻の穴に入れられたモノが、大きくなってく……」
おシリの穴、拡がっちゃう、と艶めかしく肢体をクネらせて。
上気した体温がオレの腕に伝わり、発情した牝の臭いが、あたりを濃く包んだ。
彼方に、揺らめく炎が見えた。
見覚えのある、青みを帯びた炎。
かすかに
まちがいない。この世界、これは──。
(気をつけて……)
そんなささやき声が、どこかでしたような。
黒ネコの声だ、と思ったとたん、
ヒュ──────ッ!
またも、あの弾着音のような音。
あれは迫撃砲の音じゃない……
彼女を助けつつ、よろよろと音の聞こえた方へ進んでゆくと、やがて足もとは玉砂利をふむ気配となり、彼方に朱色の拝殿がライトアップされて浮かぶのを観る。
──あぁ……やっぱり。
ここは、あの骨の小川と地続きな、現世と彼岸の
ヨロヨロ、ふらフラお局サマと歩いて行き、ようやく覚えのある白州へと戻ってきた。
あいかわらずソコでは、詩愛があぐら縛りに戒められ、異形の山伏たちに囲まれている。
真琴と母親は、責めから解放されたのか
「──よぅ戻ったの」
女神は相変わらず冷然と、
「
お局サマが、白州で
「
孔雀の尻をふりたてて近づこうとするが、わきに居たカラス天狗に六角棒で制止される。
「構わぬ!──捨て置け」
おそるおそる拝殿の女神を見上げたお局サマだったが、つぎにオレの方をむき、
「そうよ……コレは夢よね……そうでしょ?マイケルさん」
「そちが、其のように思うのなら、其うであらう」
オレの
女神に促されたように、お局サマは羽根をワサつかせ、詩愛の前に進み出てる、
そして淫らなショーツをはかされた腰に手をやると、荒縄で緊縛される彼女を見おろした。
「あらあら。大変な格好ねぇ……それともソレが、
あぐら縛りの姿勢で、詩愛は目の前に立ったサンバ・ガールを苦しげに見上げた。
そしてしばらく困惑していたが、やがてようやく思い当たったらしく、
「あなた……マイケルさんの会社の……お局サマ」
パァン!詩愛のほおが鳴った。
「ダレがお局よ!それともマイケルさんが──そう言ったのかしらッ!?」
キッ!ふりむく彼女にプルプルプル……おれは慌てて首をふった。
ヒソヒソヒソ……カラス天狗たちが何やら
(こえぇぇ~~)(コレだから女は)などという言葉も聞こえて。
「──そうね」
お局サマは、銀色の尻を振り立てて『ちちびんた』の盛大な羽根飾りをゆらし、
「貴女には、わたしの“お小水”を飲んでもらおうかしら……」
女神もふくめ、その場に居たもの全員の目が点になる。
おしょうすい……って、マジもんのアレだよな?例の飲料水じゃなく……。
「このサンバ用衣装は、オマンコとお尻の穴……それに尿道まで管理されるの。そしてさっき気づいたわ……このショーツのクロッチにある、ココのバルブを開くと、お小水が外に流れ出る寸法よ?さ?マイケルさん……いらっしゃい♪」
「え……な、ナニを……」
「この女の前で、わたしとアナタとのキスを見せつけてやるの……そうしてこの女の顔面に、おシッコをひりかけてやるんだわ」
ニんマリ、
「おぃぃぃ……詩愛のヤツが、おt……キミに何かしたかぃ?」
いいえ、ナニも?とキョトンとした顔でお局サマはオレを見た。
アブなくお局サマと言いかけたのは、バレなかったようである。
だが一転、彼女はまなじりに険を載せ、冷たい口調で言い放つ。
「でも──ムカつくのよね。お金持ちの家に生まれて、若くて、スタイルもよくて、高学歴で。そんなナニひとつ不自由してない、このキレイなお顔に、わたしのオシッコをひりかけたら、どんなに清々するコトでしょう……ねぇ?」
いや、ねぇ?って言われましても……。
「さ、そこのツカえなさそうな
カッ!
お局サマは“残機”を踏み潰すように、ちちびんたのヒールを鳴らし、
「エラそうに
山伏姿のカラス天狗たちが、顔を見合わせためらう。
「ボヤボヤしてると、アナタたちにもションベン引っかけるわよ!!!!」
暗闇のなかで羽根飾りの表面に電撃が奔った。
彼女の全身から、ただよいはじめる妖気と鬼気。
カラス天狗たちはあわてて詩愛を左右からおさえる。
「口を開けさせなさい!!」
え”ッ、とまたもや全員が固まる気配。
お局サマはショーツについた尿道バルブを確かめながら
「その娘のお口に──ご馳走してあげるわッ!」
早くッ!の一喝に、3人目の山伏が、後ろから詩愛の口をムリヤリ開かせる。
そこへすかさず4人目が「O」型の猿ぐつわを素早くハメて、放尿の準備は整った。
「はがぁァァァツ!……あごぉぉぉっ!」
悲しげに叫ぶ詩愛。
ポッカリと固められた口でイヤイヤをするが、屈強な天狗たちがそれを許さない。
ふと、お局サマは、天狗が胸に挿していたマッキーを見つけると、その太字側のキャップを開けて詩愛のなめらかな額に、
TOTO
……と書き込み『これでよし』と満足げにニッコリ。
「……オニですかアナタは」
「なによ!コレはワタシの夢よ!?だったらナニしてもイイんだから!」
「もう十分だろう、そのへんで──」
うるさい!
お局サマは振り向きざまに腕を一閃させた。
孔雀羽根のコスチューム越しに繰り出された無挙動の一撃。
それは完全に不意打ちな裏拳となり、オレの顔面にクリーン・ヒットした。
「へぶぅっ!」
妙な声をあげて、オレは後ろにひっくり返る。
「ドッ!」
傭兵たちの哄笑が、ワーンと反響して周囲を押し包んで……。
* * *
『マイケル……マイケル!……』
オレは、闇の中で眼を覚ました。
耳の中には、まだ連中の笑い声が響いているような。
目の前には、込み入った計器類がならぶ、灯の入ったインパネ。
顔の片側は、何かにぶつけたような鈍痛が、鼓動に合わせてズキズキと。
『マイケル、大丈夫ですか?だいぶウナされてましたが……』
熱を持った精密機器の匂い……。
ゴムと、樹脂と、モーターの気配……。
可聴域ギリギリな、電子機器の稼働音……。
──そうだ……いまは
『ダイブ
『発汗収束。交感神経復調──心拍正常域へ……マイケル、今夜は帰投しますか?』
「オレは……どうしたんだろう?」
『監視をシテたら、いきなり意識を失いまシタ。呼びかけニモ返答がなくテ……』
うわっ!と【SAI】の驚いた声。
『マイケル!なんかズイブンと酒臭いですねぇ!』
『呼気にアルコール反応。ただし血中濃度は正常値……コレはどういうコトですの?』
オレは運転席のサイド・ウィンドーをおろした。
夏の都会の深夜の空気。そこに混じる排ガスや、騒音。虫の聲。
なにかホッとするような気がして、オレはいつまでも顔を外にさらしている……。
夜の都会が奏でる通奏低音。
そのはるか彼方に、男たちの歌声が聞こえるような、そんな気がしていた。
* * *
※:肉棒役のこと。
※2:“黒人チンポに負けた女”であることを証明する烙印。