試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【18禁版】 作:珍歩意地郎_四五四五
パタッ……パタタッ。
ジーミの店に向かう途中から、フロントグラスに大粒の雨が当たり始めた。
──おかしいな。予報では雨なんか降らないハズだったんだが……。
これも“ゲリラ豪雨”と言うヤツか。
夏の気候も、すこし前からだいぶアヤしくなってきた。
今までに無い気温の移り変わりや天候の急変などが、ごく当たり前におきる。
そういえば今夏の山岳地帯における遭難者は、すでに結構な人数に達しているらしい。
だいたい日本は『四季の
これからこの国も、どうなることやら。アフリカの雨季もだいぶ変わったことだろう。
夢の中で経験した異世界の“あの王国”は、さすがに気候変動とは無縁そうだったが……。
そんな考えの横から【ボニー】が何を思ったか、若干セクシーな気だるい声で、
『マイケルさま。雨が降って参りました。路面の
すると【SAI】のヤツが、いかにも呆れたように、
『【ボニー】……マイケルは百戦錬磨の轢殺屋です。余計な情報は、シャカに説法です』
『あら!ワタシはあくまでマスターであるマイケルさまの心配を──』
『ソレにナンですか、今のは。なに色気づいてるんですか』
『少しでもマイケル様に気持ちよく運転してもらうためですわ?無粋なポンコツAIですわね』
オレは思わずため息をついて、
「分かった、分かった。ケンカすんなお前ら……」
どうもコイツら相性がわるい。まるで
だが、そうなると
──いや……まて。
オレはコンソールに増設された、炊飯器用の入出力用ソケットを見た。
けっこうな情報量をやり取りするのか、ビニールが熱をもったような臭いがする。
いつのまにか轢殺トラックに取り付けられていた、見たことがない妙な規格のコネクター。
──こいつを設置したのは、どこの
家庭用電源コンセントが利用できる炊飯器めいた
きたヤツは。その謎めいたセクションなら、改造を受け付けてくれるかもしれない。
整備部の親方であるギミック好きな“M”。
技術部奥まったポジションに巣くう“ロック”吉村。
彼らにそれとなく匂わせてみたが、ふたりとも
なんとか【SAI】を改造したヤバげな連中に、連絡をつける手段はないものか。
──いや、ヒョッとして……?
この炊飯器自体に、連絡手段があるのではないか。
少なくとも、モニターされているのは確かだろう。
──だが……そもそも何のために【SAI】を?
テールランプの灯がにじみ、心なしか家路を急ぐ車の流れがゆっくりになった気がする。
転生協会と、その
こういう時には、自動運転の車と、有人車のあいだにタイミングの差異がうまれ、事故が起こりがちになるのだ。コチラも気をつけねば……と、考えていたところに警告音。
【ボニー】が『今度はどうデス!』と言わんばかりのドヤ声で、
『特定コールを発信するPC発見。銭高警部補です。対向車線を25秒後に通過します』
黒タバコを臭わせる、あの唯我独尊な大型猟犬。
こんな天気でも、しつこく得物を狙っているのか。
ご苦労さん、とオレはそれらしきセダンが対向車線を一瞬、通り過ぎるのを目で追った。
フロントガラスの一部が、すかさずワイプ画面に変化。
助手席でムッツリと腕組みをしている男の映像をリプレイ。
──アイツのために、またあのヤバいクラブへ行くことになるとは、な……。
詩愛が強姦された事件に関する警察側からの内部捜査情報。
その見返りとしての『紅いウサギ』に対する店事情の内偵。
──『
ハヤいとこ“あの場所”から足を洗ってほしいモンだ。
それどころじゃない、最近は『フクロウ』まで“ウサギ”に入れ込みやがって。
ときどき、店で誰かに抱きつかれていたと、マンションで美香子になじられている。
「アンタは!アタシの付き人なんだから!香水クサい尻軽女に引っかかるンじゃないわよ!?」
彼らに銭高の助手だった女刑事の姿を見たか聞いてみるが、ふたりとも否定している。
ただし美香子のハナシによれば、店の“ウラ側”には『神聖・
サッチー刑事のやつ、すでに“ウサギの
“小男”のやつは、相変わらず留守らしい。
店の規律が、さらにグダグダになってなければいいが。
それに店主が居るとき店へ行かないと、金がいくらあっても足りないだろう。
雨はさらに勢いをまし、街の灯をさらにボヤけさせる。
ワイパーの規則的な動きが催眠効果をよんだか、ふと同じように雨の夜、
夢でみた光景のはずではあったが、前にも言った通り、あれはオレの前世だと受け入れる気分になっている……。
信号が、赤になった。
濡れた路面に赤いシグナルが、まるで流れ出た血のように……。
あのときは、こんな(見ようによっては)至れり尽くせりの“豪華”な車ではなかった。
弾痕の目立つ英国製のランド・ローバーで、ワイパーの動きも“しゃっくり”をするような代物だったっけ。
助手席には……たしかMP40を構えたグェン・カオ・キ伍長。後ろの座席には、のちに北朝製のステンシルが入った対人地雷を踏んでフッとんだスァン・ニャム曹長。そして『エリア―ヌ・
地面がぬかるんでビシャビシャの路地にある、ウサン臭い華僑の配下が経営するタンメン屋の汚いテーブルに陣取り、
あのとき戦った戦友たちは、どうしているのか。
まぁ、それをいったら中世のDQN吟遊詩人「フランソワ・ヴィヨン」の文句ではないが、
──
そんな中、夢に出てきたジーブリール伍長そっくりのジーミが酒場をやっているのは、考えてみれば運命の贈り物か。
轢殺稼業やら……。
女難めいた水族館へのおでかけやら……。
果ては詩愛の強姦事件など思いもかけぬドタバタ騒ぎ……。
いつの間にか足が遠のいてしまったが、思えばもっと通うべきだった。
──そして、あの不思議なメールの文面……。
【De nouveaux vins sont arrivés dans notre bar.
Vous souhaitez venir dans notre boutique ce soir à 22:00 ?】
『新しいワインが私たちの店に入荷しました。
今晩22時、当店にいらっしゃいませんか?』
「【ボニー】。ジーミの店から少し離れたところで下ろしてくれ。場所は【SAI】に聞け」
『かしこまりましたわ?マイケルさま……ほらポンコツ炊飯器!さっさとデータをお寄こし!!』
『ムカ。この低級AIなんか寝言いってますよ?マイケル。事業部のスクラップ場行きですね』
『電子ジャーはダマって米でも炊いてりゃいいのよ!この前オーバーヒートしかかったクセに』
『こんな性悪AIと一緒に作戦行動なんて、吐き気がしますねマイケル』
はぁぁぁっ、とまたもやため息。
やはり、このスーパー・コンピューターども。
なまじ人間に近いだけに、相性が悪いとサイアクだな……。
ドカン!
オレは大径のハンドルをたたき、
「いいかキサマら!作戦遂行において!
互いに干渉しあうのはやめろ!!」
それで轢殺をミスったらどうする!!と、
『……ホラぁ、おこられたじゃないの』
『そっちのせいでしょうが。ほら【ボニー】……これが『ジーミの店』のデータです』
まるで父親にカミナリを落とされた子供たちのように、AI同士で恨みがましくヒソヒソ……。
ほどなくして。
ジーミの店がある
「【ボニー】、いちど目標の前を、ゆっくり通りすぎろ」
雨をすかして細長い通りの入り口にある古めかしい鈴蘭灯をワイパーごしに眺めつつ、
「向かいの店『BAR1918』の様子にも注意!店内をサーモ・グラフィーで走査。同時にレーザー盗聴を実施ぃ──ぃぃっッ?なんだァ!」
いきなり急ブレーキ!
土砂降りの中、テールランプが遠ざかってゆく。
どうやら突然飛び出したスクーターを轢くところだったらしい。
「マイケル。今のスクーターの転生指数、81です」
フロント・ウィンドウに直前画像のリプレイ。一時停止。対象スクーターのズームアップ。
安物のビニールカッパを透かして、運動用のジャージが透けて見えた。
ナンバーは折り曲げられているが、トラックの高い視界ではバッチリ。
ウィンカー・レンズも片方が割れている。どう考えても
チッ!と思わず舌打ち。
「くっそ。こんな雨の中じゃなかったら、追いかけて轢き殺すんだがな……」
『【ボニー】の経験値じゃムリでしょう』
『アラ、言ってくれますわね!あんなスクーターの100台や200台!』
いきなり二次ジェネレーター音が急激に高まった。
「やめろ【ボニー】!ストップ、ストップ!!」
オレはあわてて“彼女”を止めた。
「この雨だ。追っかけっこは大重量トラックには荷が重い。ヘタにスリップなんぞして
『や~~ぃ♪また怒られた~~m9(^Д^)プギャー♪』
トラックのフロントグラスに顔文字。
『ぐふぅっ!』と【ボニー】が半泣きをこらえる気配。
やがてトラックは『ジーミの店』の前を、ゆっくり通り過ぎる。
店はバー特有のうす暗い照明がつき、表に出されたハイネケンの丸カンバンも点灯して。
反対に“敵の店”である『BAR1918』は電気が消え「Close」の札が下がっている。
「【ボニー】……どうだ?店のなかに、変わった反応があるか?」
スピーカーから返事は無かった。
「……【ボニー】?」
『マイケル、【ボニー】からデータが来ました」
「は?【ボニー】はどうした」
『さぁ?……目標建屋内に聴音反応なし。向かいの『BAR1918』も同じですね。ただし赤外線もそうですが、この雨でだいぶ感度が落ちます。息をひそめられたり、障害物の影に隠れていると、検知できません』
【ボニー】のヤツ、どうやら完全にスネたらしい。
こいつ、なんかますます人間に近づいているような気配。
これじゃ気難しい女を助手として乗っけてるのと同じだよホント。
「おい、【ボニー】」
『……』
「気持ちは分かるが、【SAI】と連携してやってくれ?とくに、今夜は」
『……』
「オフィシャルなAIとしては、お前だけが頼りなんだから」
『……』
「お前が頑張ってくれないと、このトラック──ひいてはオレの轢殺スコアがお手上げだ」
『……』
「なにより、お前が活躍しないと、ハナシが進まない』
『……』
「別の応募用・新作を書いてたおがげで更新も滞り、精鋭読者さまを待たせてるんだから』
『……』
「ナァ……
しばらく沈黙。
ややあって、ようやく、
『……ふ、フン。ま、そこまで言われたんじゃ、仕方ありませんわね』
どうにか機嫌が直ったらしい。
まったく、なんでココまで気を使わにゃならんのだ。
助手席に括り付けられていた【SAI】が、ひやかすように、
『ヤレヤレまったく!これじゃタチの悪いメs──』
ガキン!
オレは電気ガマを殴りつける。
『きゅぅ……』と声がして、インジケーターが明滅し、消灯。
どうやら気絶した演出らしい。まったく
スカニアのトラックは商店街の外れにユッタリ停車すると、ドアが自動的に開いた。
とたん、ムワッとした空気と雨が吹き込んで、早くもズボンがズブ濡れになる。
オレは助手席の足もとに置いてあったショルダーバックを肩にかけると、
「さ、それじゃ行ってくるぜ?
トラックを飛び降り、雨のなか小走りに商店街のひさしへと逃げ込んだ。
腕の時計を見れば、時刻はもうすぐ23時になるところ。
案内メールの時刻からは、30分ほど過ぎている。
──問題ない。真打はチョッと遅れて登場するものだ……。
あたりを見回せば、店のほとんどは閉まっていた。
雨にまぎれて聞こえてくるのは、カラオケパブから漏れる歌声。
業務用の酒屋が瓶ビールのケースを動かすカチャカチャと澄んだ音色……。
クタびれたスーツを着た中年オヤジと、パンツの見えそうなほど短い、ラメ入りのピタピタなスカートを履いた女という“いかにも”なカップルが、腕組みをしつつどこかへと消えてゆく。
雨合羽をきたヌーバーの配達員が、この土砂降りのなか懸命にペダルをこいで走っていった……。
オレは耳に付けたコムをONにし、
「──【ボニー】……聞こえるか」
『はいマイケルさま。乾度良好』
新品のハンズフリー・イヤホンから、柔らかい声。
最近は、けっこう性能のイイものが量販店で手に入る。
ちなみにコレは今のところ自腹だ。あとで忘れないよう、お局サマへ領収書を出さなくては。
「お前がトラックを遠隔操作する“コネクター”の使用許可が出ないので、音声通信だけで状況確認となる。チャンネルはオープンにしておくので、ヤバそうになったら【SAI】と相談して最適な行動をとれ。ただ“捕獲用触手”は絶対に使うな?」
『店舗に突入というのは、最後の手として有効たりえますか?』
──う……。
スカニア製の重量級トラックがダイレクト入店した空撮がらみの動画が、朝のニュースで流れる有様を想像し、オレは思わずゾッと身をふるわせた。
そうなった場合、警察の事情聴収には、なんて答えればイイんだ?
──『ブレーキとアクセルの踏み間違い』か?
轢殺業界の笑いものだ
朝会でイタチ面が顔をまっかに怒鳴る有様が、今から見えるようでもある。
「……
『かしこまりましたわ──マイケル様』
──これでよし……。
オレは何気ない足取りを装い、ジーミの店に近づく。
店舗の前はアーケードのほろが破れ、ビシャビシャと雨が降り注いでいた。
オレは小走りに『ジーミの店』の前までゆき、素早く店内を確認。
背中を雨に打たれつつ、木製ブラインドの細いすき間から中の様子をうかがうも、フツーに照明が灯り、テーブルからイスも降ろされて、いつも通り営業している感じだった。
特段の変化は無いように思う──ただジーミの姿も、この位置からでは見えない。
覚悟をキメて、オレは店の扉をあける。
カラカラと鐘がなり、冷房の効いたタバコ臭い空気が吹き寄せてきた。
扉をしめ、ブルッ!身をふるわせてから、どことなく
「ジーミ!……
暖色系のうす暗い照明と、サラ・ヴォーンのヴォーカルジャズ。
破損したテーブルが一卓、フロアの一番奥の隅に寄せられていた。
古いタイプの大画面プロジェクターが、ひと昔前のMVを無音のまま流している。
タバコの気配にまじり、わずかな鉄さびの臭いを感じた。
ちなみにジーミは、タバコを吸わないし、酒も飲まない。
イスラムの彼が、なぜ酒場を開いたのか機会があったら聞いてみたいものだ。
ふと、黒ビールをこぼしたような床のシミに気づく──まだ新しい。
オレの手がショルダーバックの中にさりげなく伸びる。
──来るぞ……迎撃用意。
頭の中で声が響いた。
いつものアフリカ傭兵の声じゃない。
王国を
王宮の女官たちが、邪術で次々と水を吐く銅像に変えられた一件は、未だにショックがデカい。
──誰がジジぃか、だれが。済んだことはいい……集中しろ!
オレに似た男が、
──と……。
カウンタが弾けたように、いきなり黒い影が目の前に飛び出した。
オレの身体は勝手に動き、ショルダーバッグのなかに仕込んだ、もはや馴染みとなった感のある電撃付きのゴム警棒を逆手で抜き出すや、軸足をキメて腕を瞬時に一閃。
それは凶悪なうねりとなって、相手の頭部を直撃した。
──抜刀操術!……
ほおをモロに打ち当てられた人物は、そのまま酒場の床に昏倒した。
目の周囲だけが表に出た、バラクラバ戦闘帽をかぶる敵。
たぶんまだ若い。
警棒の感覚が、鍛えられていない豆腐のような肉を殴った気配を伝えてくる。
つづいて店の奥から同じような人影がふたり。
そのうちの片方が腕を振り上げて、何かを投げつける。
ヒョイと首を傾けて避けると、それは後ろの扉に突き立った音──たぶん投げナイフだ。
生意気にもコレはフェイントだったらしい。
もう片方が同時に鉄パイプをふりかぶり、オレの頭上を襲う。
──未熟……!
ゴム警棒を斜めに迎撃させ、相手の勢いも利用して脇に流すと、返す挙動で敵の手首を打ち、鉄パイプを落としたあとで相手の肩を存分に砕いた。
獣のような悲鳴をあげ、床にのたうち回る若造。
ナイフを投げつけた方に初めて
ゴム警棒を逆手から順手に持ち替え、相手が新たに手にした戦闘用のナイフを捌く。
切り裂かれたゴムの小片が飛び散り、敵の刃筋に冴えがあることをみせるが、
折をみてノドに突きをくらわせ、バーカウンターに背中を突かせると“
鼻血を出し、敵の眼がグルん!
白目をむくや、そのままヘタヘタと女の子座りに崩れ落ちる。
──これだけか?いや……違うな。
キュピーン!
店の奥の部屋に、まだ気配がある……しかも複数だ。
オレの感覚は、いまや異常に研ぎ澄まされ、まるでアヘンを
部屋の奥から、またもやバラクラバをかぶった男がふたり、姿を現した。
いや、ふたりではない。彼らは間に大柄な男を挟んで引っ立ててくる。
「ジーミ!ジーミ伍長!」
別の“俺”が、叫んだ。
血まみれになったセネガル人の顔。
どうやら店に乗り込んできたこのチンピラどもに、手ひどく痛めつけられたらしい。
あの奇妙なメールの文面。思った通り、これでようやくハッキリした。
コイツは脅かされて、こちらを誘いだすために、あのメールを書かされたのだろう。
しかし、ジーミが作ったその文章の不自然さをオレが見抜き、こうして優位な状況で敵と対峙している。
「手前ェら……よくも伍長を……」
今度は口が勝手に動き、警棒を握る俺の手に力が籠められた。
「くそ。ワルサーがありゃァ、こんな連中みな殺しにしてやるんだが」
──寂れているとは言え、商店通りの中で音を出す飛び道具かね……?ムリだろう。
アフリカ傭兵のボヤきに対して、老騎士団長の冷静な気配。
「るせぇ!部下をこんなにされて、ダマってられるかってンだ!」
“俺”はゴム警棒を、さらにギリリ、握りしめる。
血気にタギるその勢いは、もはや“オレ”自身にも止められない。
「──うっ、動くんじゃねぇ!」
腰の入っていない声が、伍長の首もとにナイフを突きつけた男から発せられた。
「そのヤベぇ警棒を放しな。コイツがどうなってもイイのかよぅ」
3人と自分との距離は3m半というトコロか。
間にテーブルや椅子があって、一瞬で間合いをつめるのは厄介だ。
──どうするよ?アフリカ傭兵の俺。
──私に任せたまえ、オレよ。こんな小僧ども、ただのひと討ちにしてくれるわ。
──チョィ待ちなァ。部下をイタメつけられたんだ。俺がギッタンギッタンにしてやるぜ。
ふふっ♪と“我々“が胸のなかで顔を見あわせる気配。
「なんだぁ?ナニ笑ってやがるんだ、ジジィ」
「誰がジジィかっ!」
いきなり老騎士団長が、ジーミにナイフを突きつける男に警棒を投げつけた。
相手がナイフを持った腕でそれをブロックした時、スキが生じる。
自分の身体は恐ろしい運足をみせ、テーブルを弾き飛ばしてナイフ男に殺到。
その迅速さ。
その強圧さ。
その精密さ。
アッというまにナイフ男は、知らない体術で天井まで弾き飛ばされると、照明をいくつか犠牲にして、ガラスの破片と共に板張りの床をふるわせて落下し、ぐぇっ!カエルがツブれたようなうめき声を立てた。
──ザッと、こんなものだ……。
──やるなァ、ぢぢ~……。
──だから!ジジィではないわ!ひとたび精強な器を与えらるば、この100倍も暴れてみせん!
──ワルかったな、精強な身体じゃなくて。
残ったバラクラバ帽のひとりと我々3人の目が合った。
「はっ、はわぁぁぁぁ……!(ガクガク)」
残った小太りの若者は、ジーミを放り棄てて後ずさり。
セネガル人のマスターは放りだされ、床に崩れ落ちる。
どうやら相当手ひどい目に遭ったらしい。
──さぁて。コイツをドウしてくれよう。
──ハイ!先生。
──ん。ナニかね?アフリカ傭兵クン。
──この阿呆のキンタマをケリ上げるのが、イイと思います。
──そんな、キミ。チェ〇ソーマンじゃないんだから……
騎士団長の呆れたような意識。
バーの床に転がった警棒をオレは足の甲で引っ掛けてヒョイと宙にハネあげ、片手でキャッチ。
そして尻ずさりでふるえる男のバラクラバ帽を引きむしった。
──やはり。
意外に若い金髪のソフトモヒカンなガキの顔が露わになる。
見るからに鍛えられてない身体。鼻の下のヒゲすら、うぶ毛レベルでうっすらと。
──まてよ?コイツ、どこかで……。
チュィィィィィィ……ンン
なにげなくオレはゴム警棒の電撃スイッチを入れた。
高周波音が、静まり返った店内に響きわたる。
「ひっ!ひぃぃぃぃぃッ……やめて!やめるので!!キンタマにそれ使っちゃダメなのでぇぇ!」
いきなりコイツは、ふたばの「株スレ」めいた惑乱をみせ
へたり込んだままズルズルと、さらにオレから距離を取ろうとして。
その拒絶反応に、オレもようやく思いだした。
「そうか!キサマ『第9話:天与の手がかり(2)』に出てきた3人組のひとりだな!?」
賢明な精鋭読者は、もうお分かりであろう(C)白土三平先生
ラノベをバカにしたいたこの連中。
当時、まだ
「ふぅぅん……あれだけ教育してやったのに、まだ
「やっ、やめるので!あのときキンタマにそれ当てられたヤツは
ニマリ、自分の顔に嗜虐的な笑みが浮かぶのか分かった。
アフリカ傭兵のものか、
特殊騎士団団長のものか、
それともオレ自身のものか。
精査するには難しく、むしろどうでもよかった。
ここに至って、我々は文字通り完全なる
いわく、
『騎士と、傭兵と、聖なる轢殺者の名において』
『死』が──そして『死』こそが、われらの職業。
「助けて下さいよぉ!ヤバいっッスよぉ!」
金髪のガキが叫んだ。
「なにがヤバいだ、少年法に守られた、このクソ餓鬼が……ここで引導を渡してやりたいぐらいだぜ」
そのときジーミが血まみれの顔をあげて身じろぎし、オレに対してシッ、シッと追い払う仕草。
「
驚いた。
朦朧とした意識の中で、コイツが俺のことを“中尉”とよぶとは。
もしかしたら、本当にコンゴ動乱で一緒に戦ったジーブリール伍長の生まれ変わりかもしれない。
俺は、床に転がるガキたちの様子を注意深く監視しながら、
「
すると、なぜかこの大男は弱々しく首をふり、
「
最後の単語は
逃げろ……?なんでだ、と思った瞬間。
金属のスプーンを激しく打ち合せるような音。
セネガル人の身体は二度、三度。痙攣するように撥ねる。
憶えのある硝煙の気配とともに、酒場の床を9mmの薬莢が目の前に転がってきた。
「ようやく会えたな……嬉しいぜ」
聞き覚えのある声が頭上から降ってきた。
おれは死体になったジーミを抱えたまま、ゆっくりと顔を上げる。
消音機付きのスチェッキン自動拳銃を構えた長身な男の姿が、目の前にあった。
「やはり貴様か……ドレッド」
轢殺トラック、ようやく再開です。
当方の才拙くして、2正面執筆はムリでした。
やはりこちらの作品は、執筆者本人もどう転ぶか分からないので
書いてて非常に楽しいことを改めて実感した次第です。
今後とも宜しくお付き合いのほどを。
珍歩敬白