試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【18禁版】 作:珍歩意地郎_四五四五
* * *
酒場に響く轟音。
物凄い衝撃が身体を襲った。
視界がブレ、オレはヨロめいて片膝をつく。
一瞬、あたりが白くなり、コゲくさい臭いがあたりに充満。
──撃たれた時は、いつもそうだ。
重い濡れタオルで身体を烈しく叩かれたような気がして、火傷するほど熱いものが自分の中から流れ落ち、まず痺れが。痛みは遅れてやってくる。
──畜生……オレもここまで、か。
長々と続いた、このラノベめいた物語もココで一巻のオワリと言うワケだ。
目の前に赤い閃光がチカチカまたたく。視力がボンヤリおぼつかない。
うすくなびいていた煙が落ち着いてみると……。
──えぇぇ……?
なんと、ドレッドと“おサル”がひっくり返っていた。
後ろに立っていたガキも頭から血を流して倒れている。
──なんだ……?
よくよく目をこらせば……。
あろうことか車が一台『ジーミの店』に“ダイレクト入店”してるではないか。
目の前にチラつく赤い閃光は……何のことはない、車の屋根から突き出たパトライト。
エアバッグが膨張した車内でうごめく人影。その助手席には、どこかでみたようなハットが。
背後でモノが動く気配がした。
ゾクリ、反射的に身を投げ出すと、
「パン!」
乾いた音がして店の什器が砕ける気配。
「動くんじゃねぇよ……」
年に似合わぬガラガラ声が、オレを釘付けにする。
やはり。ジャージのガキは、短銃身の回転式拳銃を構えていた。
ヘビのように生気のない目が銃口の向こうから
生意気にも、腰の入った両手保持で銃を構えて。これは過去に何人か殺っている気配。
「アブねぇなぁ、そんなモノふりまわしt──」
また銃声。
狭い店内に、以前より大きな音で響きわたる。
「ジョージ、おい起きろジョージ!」
銃声でドレッドが気がついたか、瓦礫の上に転がったスチェッキンをひろいあげながら“おサル”のほおをピシャピシャと乱暴に叩いて。
「──なんだなんだ?事故か」
「──スゴい音がしたわよ?」
雨の中、だんだん騒がしくなってくる店の外。
横なぐりの
これで晴れた夜だったら、商店街は大騒動になっていただろう。
「──ヤダ!車、突っ込んでるわよ?」
「──パトランプ?おまわりの車か?」
「──酒場にダイレクト入店、ざまァ」
割れたガラスをパリ、シャリ。
踏みならしてヤジ馬が恐る恐る中をのぞき込む気配。
「兄貴ィ!ずらかりますぜ……その前にテメーは死ね!」
ガキの銃がコチラを向く。
その時、重い銃声がしてジャージを着た身体は半回転してフッとんだ。
硝煙の気配。リボルバーが宙に舞い、ガラスがハデに粉砕される音。
車の助手席窓からコルト45が突き出て、銃口から煙を。
とたん、今度は別の方向から乾いた連射音。
車のフロントグラスが粉砕、陥没。
「──ヤクザだ!」
「──撃ち合いだぞ!」
悲鳴。野次馬がちりぢりになる足音。
店内でマガジンを棄てる気配にゾクリ──第二撃がくる!
瞬間、柱の陰にダイビングすると乾いた連射音と弾着がオレのあとを追った。
──ドレッドの野郎!無茶しやがる!
身を投げ出した位置から様子を覗いつつ、ガラスや割れた木材、破損した椅子やテーブルの間を
「キム!逃げるぞ!!」
ドレッドの声とともに何か重いモノが床を跳ね転がる気配。
「緊急緊急!こちら
パトカーからの声が終わるのを待たず、閃光と轟音が辺りをつつんだ。
* * *
…
……
………
…………
………………
激しい銃撃戦となった。
迫撃砲が至近に着弾し、悲鳴や
手近な遮蔽物の影まで匍匐前進を続けたオレは、となりに飛び込んできた人影に、
「銭高!ドレッドのヤツはスチェッキンを持ってやがる!その45口径で応戦しろ!」
飛び込んできた迷彩服の男は眉をしかめながら、
「Zenidaka?誰だィ隊長、しっかりしてくれ。オレだよ、ジャンだ!」
マシンピストルにしては威力のある連射。
土しぶきを上げながら目の前をよぎっていった。
──えっ……なんで?『ジーミの店』じゃない。
雨の気配すらない灼熱の日中。
近くで機銃を連射され、耳がよく聞こえない。
それでも血と悲鳴と、それに死の臭いは存分に感じられた。
大腸を破られ、糞便まみれになって悲鳴をあげる
すこし離れた場所で弾痕まみれに擱座しているランドローバーの影から、大柄な男がひとり、砂けむりをあげて、ヘッド・スライディングの要領で飛び込んできた。
「モッ、
「ジーミ伍長!
ジャンと言った男が、奇妙な形の短機関銃で応戦しながら、飛び込んできた男に叫んだ。
「──ジーミ、だと!?」
オレは目をむいて、砂まみれなセネガル人を見た。
ウソだろ。コイツ、確か酒場でドレッドに殺されたハズ……。
交錯する銃撃音を圧し、するどい口笛。
それに応じたように、大きな箱形無線機を背負った兵士がアンテナをユサユサと揺らし懸命に駆けてきて同じくヘッド・スライディング。狙撃兵だろうか、それを狙って二,三の至近弾。
「オイ、大尉!マイキー!!シッカリしてくれよ!」
ジャンと自己紹介した男が、オレの肩をゆすった。
「このままじゃ、いつかの二の舞だぞ──大尉!」
砂糖の山が湯に崩れるように、21世紀の記憶が溶けてゆく。
──そうだ……オレ……じゃない“俺”は、対シンバス傭兵集団、第二中隊のアタマを張っているのではなかったか。今はアンブッシュを受け、部隊は窮地に陥ってる……!?
「マイケル!なんとか──」
「ジャン!敵の勢力は三方向からだな?」
「おっ……おう。畜生、やっと元にもどりやがったナ!コイツを見てくれ!!」
ジャン伍長は弾幕をモノともせず、悠然とマップを広げ敵の火点を示す。
ラジオマンのチェチェン人が無線機から延びる受話器を俺に手わたし、
「コーゾク部隊──
俺はマップを再確認すると、腰のポーチからから発煙弾を取り出し、擲弾用ピストルに装填。すこし離れた場所に発射した。
また一連の激しい弾着に身をすくめていると、射った発煙弾が赤い煙をノロノロと雲ひとつない空に立ち上らせてゆく。
「サモス!サモス!
(──空電)
『どこだ?見えない──いや、見えた。ずいぶん遠いぞ、射程圏のすこし手前だな』
(──ツピ)
「その北北西!いいか北!北!西!150mを叩け!150mだ!」
(──空電)
『……150m!150mと言ったのか!?』
(──ツピ)
「そうだ!
(──空電)
『マイケルマイケル、敵と近すぎる、近すぎる。クロス方位無しで正確な射撃は期待できない』
(──ツピ)
トサカにきた。
この世間知らずな、正規軍くずれの教科書野郎が!
本物の戦争ってヤツを、まるで知りもしないクセに少佐で御座いとフンぞり返ってやがる!
(第48話:傭兵たちの視線(4参照
「ゴタクはイーから一発撃て!これが実戦ってヤツなんだよ!アフォが!」
俺はおもわず無線の受話器に怒鳴った。
「このままじゃコッチが地獄の鍋だ!──クソ腰抜けが!」
(──空電)
さほど待つまでも無く、怒ったような唸りをあげて迫撃砲弾が落ちてきた。
81mmだろうか。すこし離れた所に轟音と爆煙をあげる。
「爆煙が見えるか?爆煙が見えるか?そこから北西!
位置を修正した第二撃が敵の埋伏機銃陣地付近を囲むように襲った。
艦砲射撃で言うところの
「OKェェ、いいぞ、正規軍くずれの畜生が!──ハデにやってくれ!」
数拍間をおいて、晴天の空から2秒に1発の割合で死神が降ってきた。
次から次へと着弾。ときおり金属片と、誘爆らしき火球が轟然とふくれあがる。
30秒後、敵の攻撃は完全に停止。つづいて部隊の左翼を襲っている叛徒にむけて位置を修正しながら迫撃砲弾をお見舞いする。
沈黙した火点に向けて、中隊の突撃がはじまった。
こんな時、現地で徴募した黒人傭兵たちはおそろしい。待ち伏せのお返しとばかり、逃げ遅れた敵を、銃剣や
2時間後。
第二中隊を集合させ、エグモントやジャンに被害の確認、敵の
まえにも書いたが、この国のサバンナに日本感覚の“夕暮れ”はない。まるでスイッチを切ったように、昼から夜へと移行するのだ。そして今回、部隊は夜間用の装備を持っていない。装備の整った敵に夜襲をかけられては、ひとたまりもないだろう。なにせ向こうは赤外線暗視照準器を持っているというCIAからの情報だ。
それでなくとも今回の待ち伏せは前回より巧妙に仕組まれ、それ故に被害は甚大だった。
水を求め、うめきながら負傷者はバタバタと死んでゆく。重い死体をひきずり、負傷者は2人がかりで運び、無傷な後続部隊の助けも借りてどうにか撤収の編成を整え、ジャンやエグモント両伍長、それにヨーク軍曹などと名簿のチェックをしてるときだった。
いきなりヨークのやつがベレー帽をかぶった俺のアタマをつかんで押し下げる。
ヒュン!
金属音がして、寄りかかっていた兵員輸送車のグリーン塗装が弾けとぶ。
ダァァ……ン!
すこし遅れて遠くからAK系の発射音が響いてくる。
確かに見た。半キロほど彼方の
すぐさまヨークは兵員輸送車に飛び乗り、防御された区画から車載のM2重機関銃をブッシュにむけドコドコとぶっ放し始める。
「Oh!WouWou、Oooooooou!」
灼けた
こっちも双眼鏡でヨークの射線を追うと、発射光があった辺りにM2の12.7mm弾が正確に襲いかかり、激しく土煙をあげるのが見えた。
──いる……。
間違いない、ドレッドの野郎たちだ。
CIAから暗殺を依頼された
今回の作戦における、影の目標だった賞金首のふたり組。
あの奇妙な形の──ドラゴンとか言ったか?──狙撃銃で、またこっちを狙ったんだろう。
かぶっていたベレーを脱ぎ、部隊章バッジに突き刺さったままの7.62mm弾を見る。
(弾頭が落ちないよう、工兵隊にいる馴染みに、記念として半田づけにしてもらったのだ)
今度も待ち伏せを受けて、ヤツを狩る作戦がダメになった。部隊の侵攻中に、俺は離隊して目標の2人を追う段取りだったのに……。
「ダメだ──手応えがナイ」
ヨーク軍曹が兵員輸送車から降りてきた。
「ウカウカしてるト、狙撃ポイント変えて、また襲ってくる」
マズい。こいつのカンが良く当たるのは精鋭読者もご存じのとおり。
「よし、撤収を急ぐぞ──**大尉ィ!来てくれェ」
ふたたびボロボロの体たらくで、部隊は日没後、前進基地に帰還した。
遮断機ゲートを開け、敬礼する歩哨の目が驚きで見ひらかれる。
──ムリも無いぜ……。
炎上した兵員輸送車の代わりに現地の建築業者が使っていたダンプカーと、不幸にもそこら辺にいた農夫から、干し草運搬用の荷台つき三輪車などをムリヤリ徴発し、死傷者をその上に山積みにして、死肉にたかるハエの唸りを引き連れながら、ゴトゴトと力なく営内に向け通過していったのだから……。
後の始末を下士官にまかせ、わざと悪臭ふんぷんたる戦闘服のまま指揮官たちは本部に出頭し、コトの次第を上層部に説明する。すでに執務机で一杯やっていた基地のスタッフどもは鼻をツマまんばかりに
だが、戦死者の──仲間の死を、こんな連中に等閑視されたくなかった俺は、会議室を退出まぎわ、居並ぶ(あくまで形式上の)上官たちに向かって、
「またも作戦行動の情報もれですよ!サー!!自分の部下たちは……犬死にしたんです!」
退出する前線指揮官の動きが一瞬止まった。
彼等の目は、一様に本部の高級将校にむけられている。
気まずげな沈黙が、会議用にあてた大部屋の空間に横溢した。
「行こうぜ──マイケル」
1人の中尉が俺の肩をたたく。
それを潮に、戦場狐たちはゾロゾロと中央バラックを後にして、思い思いの方向に散っていった……。
「
部隊が帰還した事を、いちはやく聞きつけたのだろう。
自分のバラックに向け、いつになく重く感じる武装を肩に、足を引きずって歩いていると、自分の従卒がわりにしている黒人少年オタ・ンクンダが、ピョンピョン跳ねながらやってきた。
そして白い手のひらに紙箱入りの石鹸をのせて差し出し、
「マイキー大尉、いまシャワー室の
ちょっとしょんぼりする黒人少年。
「分かった、わかった──そら、幾らだ?」
オレは相手の言い値で、
「
相手は喜色を取り戻し、ピョンピョン跳ねて暗い基地内へと消えていった。
腕時計の夜光文字盤を見れば、もうすぐ19時になるところだ。早いトコ熱いシャワーを浴びて、血と硝煙のにおいを、何より悲惨な光景の印象を、少年従卒から買った石けんの泡と共に洗い流したい……。
遠くの兵卒用酒場からは、すでに騒がしい気配と哄笑が明るい灯とともに、道の外へ漏れている。
「ヨォ……マイケルぅ……」
近づくにつれ、マリファナ臭い匂いが漂ってくる。
「どうでぇマイキー。今回も、エラくハデにやられたらしいじゃねェか」
「体調は、もういいのかコフィン。アミーバ赤痢さまサマだな」
「ヘッ!コキやがれ。このクソ忌々しい腸の菌を、ウィスキーで消毒してやったのよゥ」
そういうや、この片目の古参下士は、酒臭い顔をよせ、
「また、情報漏れだってェ?ヤバいぜマイケル!こりゃぁヤベえ!!」
「……あぁ、そうだな」
「おれァ、次の作戦で足ィあらうぜ。オージーに牧場を買ったヤツが、おれに来ないかと言ってくれてンだ……アンタにァ、世話ンなったが……もうじきオサラバよ。ミルズと同じにな」
「ミルズも?」
俺はラテン語をあやつる高学歴な特技三級伍長を頭におもいうかべた。
今回の作戦では、ヤツが居なかったおかげで、迫撃砲の小隊が後手に回ったのだ。
「アイツは、どっかの大学に入り直すとか言ってたナァ……ま、そういうコト。いつまでも傭兵で居られるわきゃネェしな。折り合いをつけて、まっとうな暮らしをしねぇと」
悪く思うなよマイキー、とコフィンは耳に挟んでいたマリファナに塹壕ライターでふたたび火をつけ、酒場の方に戻っていった。
仕方ないね、と大きくため息をつき、俺は予備弾倉の入った胸のポーチ+肩にかけた自動小銃の重みをいつになく辛く感じながら、盛大に虫の聲が鳴る薄暗がりの中、自分のバラックへと向かう。
──足を洗う、か……。
たしかに、いつまでもこんなヤバい仕事をつづけるワケにはいかないだろう。
いつかは運がつきて、死神と向かい合うことになるのだ。
──そう、転生トラックの運転手も、いつまで……。
あともう少しで自分の寝棚というとき、そんな考えがチラリと浮かぶ。
なんでカミヨンなんか?俺はカミヨンなんか、コロがしたことは無いのに。
だが、そう思うはしから、なにかいかがわしい職業。カミヨンで人を撥ねて暗殺するという
職業に、みょうな親近感を覚えるのは何でだろうか。
黯然と往来で足を止め、考え事をしていると、通りがかったジープのライトに照射され、ハデに警笛を鳴らされ、道の端に追いやられた。
そんな時、バラックの影から、
「──マイケル中尉……あぁ、いや大尉」
聞き覚えのある声がした。
だれだ?と薄暗がりに目を凝らせば──あのCIAの若造だ。
めずらしい事に今日は1人だ。半袖のサファリ・ルックにスカーフというシャレた姿。
「よぉ……散々だったよ。だいぶ部下をやられた」
「どこかで情報漏れがあると、本部の兵舎でタンカ切ったらしぃスね」
「じっさいそうだ。こうも見事にやられたんじゃ、な」
「実は、我々も基地内の内偵をひそかに進めてまして……」
「ふぅん。そんな動きをしてたのか」
「内通者は、だいぶ絞れてきました」
疲労が一瞬でフッとんだ。
おもわず詰め寄り、相手が着るサファリ・ジャケットの胸ぐらをつかむ。
「誰だ、ソイツは!……俺の知っているヤツか?」
「ちょ、まって……えぇ、貴方の配下にいる隊員です」
「名前を言え。これから殺しに行く!」
相手が顔をしかめたのは──。
こちらの殺気のせいか。
あるいは戦場帰りの俺が放つ臭いのせいか。
仕立ての良さそうなジャケットを汚い手で掴まれたせいか。
または腰のワルサーPPをいきなり抜いて相手に突きつけたからか。
──それとも……これら全部か。
CIAのルーキーは、やんわりと俺の手をジャケットから外し、
「まぁ、その……確定情報じゃないスから、明日まで待って下さい」
「あした!あしたになれば、状況が確実になるのか!?」
「一応、自分の指導役もすでに……」
俺はこの若造の指導役ともいえるスーツの男を思い出した。
「いま情報の最後の確認をしているワケか。彼は、いまどうしている?」
「さぁ……自分には、なんとも」
この若造、妙な含み笑いをしながらエリ元をなおす。
ふん。さすがは
「明日なんだな!」?
「えぇ、たぶん……とにかく、段取りができたら連絡しますよ」
「本当だな?裏切り者のシッポを、つかめるんだな?」
「そりゃもう──確実に」
それだけ言うと、若造はサッサとうす暗い通りを歩いて行き、いちど大きくコケそうになってからバラックの十字路を曲がり、姿を消した。
──やはり居やがるのが、裏切り者が……。
以前は将校用バーのバーテンが、それかと思っていた。
しかし、ヤツが死体となって転がってからも、どこかの手先となって情報を盗むヤツは、いまだ基地の中に存在するらしい。
大人数で動くため、部隊の出撃タイミングは分かるだろうが、通過する経路や陣容、所持する装備などは分からないはずだ。
今回は、絶好の待ち伏せポイントで、対人地雷を使って足止めしたあと、アウトレンジから効率的に十字砲火を浴びせてきたことが分かっている。つまり事前にタップリ時間をかけて準備しなければ出来ない動きだった。
──しかも、俺の部下の中に……だと?
いったん自分の寝床に帰り、FALや双眼鏡、予備マガジン、手榴弾などのクソ思い装備品をおいてから、着替えの戦闘服を手にシャワー室へと向かう。コンクリむき出しな、うす暗くカビ臭いシャワー室をペタペタ歩き、手近な場所にワルサーのホルスターをかけ、シャワーのバルブを思い切りひねった。
……残念ながら、シャワーはもう熱くはなかった。
兵員どもが先に存分に浴びたおかげで、非力なボイラーの加熱が間に合わなかったのだろう。
生ぬるい水流を仰向けに浴びながら、俺は
──裏切りモノが、俺の中隊に……居る……?
ジャン、エグモント、ジーミ、ヨーク──ヤツらが裏切り者だとは、考えたくもない。
ハリー、レルヒ、ポール、コフィン。あれだけ戦場の修羅場で血反吐を吐き、おなじ辛酸をなめ、死線をくぐった連中だ。
絶対にちがう。あの愛すべきクソどもを疑うことは、俺自身の墜落にもつながる。
よしんば裏切られてるとしても、アイツらを疑うなら俺が死んだほうがマシだ!
ペンキ塗りなシャワー室の壁をこぶしで叩き、俺はぬるま湯が流れてゆく下水口に目をこらす。
──そうさ……奴等となら、俺は肩を並べて地獄までも進軍できる!
勢いだけはある水流が全身を叩き、黯然とした思いに拍車をかけた。
そして不意に、とてつもない疲労におそわれ、シャワー室の床に膝をつきそうになった。
アタマの中に流れ込んでくる
得体の知れない王国での剣戟。
噴水の銅像にされた美貌の女官と女騎士たち──それに王女。
以前にも感じた、おそろしく近代的な
トレンチコートを着た、執念深い刑事。まるでピット・ブルかジャーマン・シェパードのように。
非情にも輪姦された女。酒場で人気の美少女。ムッツリスケベな引きこもりのガキ。嫁かず後家のお局サマ。気っぷの良いトラッカーの姉御……。
──イカん……もう疲労が限界だ。ハヤいとこ
俺はわきに置いたヨレヨレの戦闘服から、少年から買った石けんの箱を出した。
黒人がニッコリ体を洗っている紙箱のパッケージ。それをあけ、中から硬い石けんを振り出したとき、一緒に折りたたんだ紙切れが出てきた。
なんだ?と二つ折りのそれを開いてみれば……。
【身辺注意 暗殺計画進行中】
ノートの切れ端に殴り書きで書かれた文字が目に飛び込んできた。
疲労にもかかわらず、ドリルのように脳にねじ込まれ、刻まれる。
しかし、たぶん質の悪いインクで書かれたのだろう。
たちまちシャワーの水流でブルーブラックの色はニジみ、ぼやけ、消えていった……。
週間にしようと努力してますが
仕事が忙しくて、とても……。
登場人物たちにまかせプロット無しで進めてきた『コンゴ動乱』編も
どうやら大勢がつきそうな感じです。