試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【18禁版】 作:珍歩意地郎_四五四五
* * *
夢をみた。
悪夢だったディエン・ビェン・フーの戦いや、キプロス紛争。それに今回のコンゴ動乱。
さまざまな風土。とりどりの天候。いろいろな街なみ。それぞれの匂い。
そこで出会ったクセのある連中や、一風変わった人々。
なによりも死んでいった戦友たち。
──そして……。
視点と舞台は夢特有の脈絡が無い理不尽な展開をみせ、見た事も無いような高性能の
その世界でも、宿敵はドレッドヘアを垂らす長身の男と、チンパンジーを想わせる
突然!場面は転回し、あの皇国に属する辺境王国の風景が、目前に。
彼方に万年雪を頂く壮麗な嶺々。
理学と魔術の粋を極めた建築。
蒼空をゆく伝書竜たち。
通りを行き交う獣人。
高楼に響く鐘の音。
澄み切った風。
爽やかな緑。
「……どぅ、帰りたくなった?」
王都を見渡す丘の上で、なかば土に埋もれる倒壊した大理石の柱のひとつに寄りかかり深呼吸をしていた“オレ”の背後から、いきなりイタズラっぽいような声がした。
いつの間にか手にしていたFALを構えてふり向けば、頭から二本の歪んだ角を生やした女が立っている。
──獣人だ……。
よどみなくオレの思考は反応する。
神殿巫女がまとう、頭巾が付いた黒のマントを羽織る姿。
彼女が身じろぎするたびに、陽光を受け漆黒の
裏地の赤色がチラチラと
ストリッパーを連想させる思わせぶりなポーズ。遺跡の柱をつかって様々に、蠱惑的に。
どこかで見た事があるな……と考え、不意に思い出した。
──コイツ、王女たちが噴水の銅像に変えられた時、下町であった“
※第49話:
たしか……「フェリス」とか呼ばれてなかったか。あのときは、ボンデージ風味な衣装を着た“妙にエロいガキ”が変身して、ムチムチ(死語)な“一級淫魔”とやらになったが、今度は露出狂とは。しかし、また何で出てきたんだろう……?
すると、こちらのアタマの中を読んだように、この
「アンタがこの不浄な地で血袋になると“魂の回収”が難しくなるんでね」
そう言うや、バッ!己が纏っていたマントを遮断幕カーテンのように宙に舞わせる。
マントが草むらに落ちたその向こうには、大きなコウモリの翼を生やす、ロングブーツに黒革のレオタード、それに全身をギチギチにクビるハーネスと拘束具をまとったアニメ調のスタイルな姿格好に変わっていた。
スパァ……ンンン!
スペードのようなシッポの穂先が一旋し、音速を超えた鳴りを出す。
そして、その長いシッポをスリスリと、いつのまにか金縛り状態な俺のほおに当てて、
「先に答えを教えてやろうか……最初に***したヤツが、お前を──」
卒然!と耳元で鈴の束が鳴るような気配が響いた。
女淫魔フェリスの声は、その清浄・苛烈な音にかき消される……。
まるで彼女の言葉を阻害しようとするかのように、
「……大尉……大尉どの、起きて下さい……大尉!」
はるか遠くからの声。
次第に鮮明になり、寝汗と、耳元のハエと。
それに加え、覚えのある兵舎の臭いが現実感を呼ぶ。
全身がドロを詰められたように重い……そして関節の痛み。
──ヤベぇ!……マラリアか?
だが、すぐに昨日の散々なパトロール結果と部隊の損害を思い出す。
むりやり目を開けると、軍用折りたたみベッドの横にミルズの丸顔が立っていた。
爆発物が専門であるこの特技三級伍長は、職種がら鍛えたガマン強い性格を発揮して、
「大尉……お客さんですよ。例のスーツの2人組の片方が来てます」
「うぅ……何時だァ、
「もう1530時を回ったとこですよ」
1530時!オレは腕時計を目の前に持ってきて驚いた。
最後に記憶があるのが21時ごろだから18時間近く寝てたことになる。
──オレも焼きがマワったな……。
重い身体を持ち上げるようしにて、軍用ベッドの上に座る。
将校用バラックの4人部屋。同室の2人は留守で、1人は昨日死んだ。
ボリボリ頭をかきながら、昨夜CIAの小僧が言った台詞を頭に浮かべる。
俺の配下にいる裏切り者の名前。本当にヤツらは、ソイツをあぶり出したんだろうか。
「お客サンが待ってる場所に案内するンで、ついて来て下さい」
ため息をついて、ミルズ伍長はボンヤリしているコチラをうながす。
靴を履いたまま寝ていた俺は(ちなみに脱いで寝ると軍法会議モノだ)、そのまま立ち上がるとベッド脇に吊るすワルサーの入ったホルスターから銃を抜き出し、
その音のせいなのだろうか。
夢のなかで女淫魔がふるったシッポの一旋が、耳によみがえってきた。
ホルスターを大きな身ぶりで軍用ベルトにセットしてみせてから、
「おk、マイルズ。支度をするんで、1~2分外で待っていてくれ」
特技三級伍長を部屋から出すと、俺は外出のため念入りに身支度する……。
* * *
上空を「マダラハゲワシ」が旋回し、俺たちのあとを追うように円運動を移動させていた。
サバンナの掃除屋であるこの大型の鳥は、ハイエナと同じく腐肉の気配にめざとい。してみると、どこかに「死」の臭いを嗅ぎつけたのかもしれない。
「なぁ、マイルズ……まだ行くのかよ。もう射撃場も過ぎたぞ?」
ミルズの猫背な背中を追って、基地内の外れを30分ばかり歩いただろうか。
そのうえ道を外れて低い茂みの中を進んでゆく。やがて周りはハイエナが現れてもおかしくない雰囲気となり、そろそろ毒蛇にも気をつけなけれならないエリアになってきた。ウチの前進基地の病院には、血清があるかどうかもあやしい。熱帯雨林にシンバスを深追いしている、ほかの傭兵コマンド部隊の連中は、大丈夫なんだろうか……。
「さ、ココです」
ここ?と俺は低木に囲まれる小さく開けた草地を見渡した。
片隅には歩兵用らしき小さなタコ壺が掘られ、その隣には最近土を埋め戻した跡が。
「ココに、あのCIAどもが来るってのか?」
いつのまにか「マダラハゲワシ」が近くの木に留まってコチラにガンをトバしている。
腰に手をあて、それを睨み返しながら背後のミルズ伍長に、
「……何のために、こんな所まで」
「もちろん、秘密裏にコトをはこぶためです」
「なんだ『秘密裏に』って?密かに誰かを
しばらくの沈黙が、この小さな空間を支配した。
遠くから散発的に射撃場の銃声が聞こえてきた。
ハゲワシの黒い目は、こちらを狙ったまま
「いいえ……革命の、成就のためです」
みょうに力のこもった声が、背後からとどいた。
確信的な、あるいは狂信的な、力のこもった声。
──革命……だと?
ふり向いてミルズと向かい合う。
すると、相手の利き手には、ブローニングが握られていた。
引き金に指のかかった状態で微動だにせず、俺の
「どういうつもりだ……マイルズ?」
「その“マイルズ”って呼び方も、イイかげんヤメてもらえますかねぇ、大尉」
「ワルかったよミルズ特技三級伍長。ほら、サッサと銃を下ろしてくれ」
だが、拳銃を握る特技三級伍長の手は動かなかった。
「……いったいどういう魂胆だ?伍長」
「非常に残念ですが。大尉の旅は、ここまで……です」
「まさか……お前が部隊の情報を漏らしていたのか」
あの
まさか──自分の身内に、本気で裏切り者が居たとは。
そういえばコイツは、昨日の待ち伏せを受けたパトロールも病欠で参加していない。
それにしても、どこで俺とCIAのつながりを嗅ぎつけたのか。もしや敵のスパイ網が、すでに基地内を縦横無尽にめぐらされているのでは……。
なんとか場を和ませようと、俺はいつもの通り気軽い調子をよそおい、
「
「……」
「大学に入り直すんだと?
「……別に、もう言ってもイイでしょう。南アのケープタウン大学です。そこで、政治を」
俺は、この男がコンゴの下層原住民に対し、妙に同情的だったのを思い出した。
「“現地民”だ、コフィン。“黒んぼ”ではなく――現地民と言え」
秘密の将校バーである【Alfa】では「二グロ」といったコフィン准尉に対し、嫌悪感すら隠さなかったではないか。
※第48話:傭兵たちの視線(4参照
──革命……もしや、原住民を率いて、政府転覆運動でも考えているのか。
──そのためにシンバス側に、渡りをつけているのかもしれない。
──いやまて?ケープタウン大学……どこかで聞いたような。
拳銃を握る手に力が込められる。
なんとか時間稼ぎをしなければならない。
みぞおちに9パラをぶち込まれるのは、ごめんだ。
腹を撃たれ、七転八倒で苦しむ傭兵たちを過去にさんざん見てきた。
そこでフト、俺は考える。
──あれ……この状況、前にもあった気が。あの時は、たしかスチェッキンが……。
伍長が俺に近づく。つられてコッチもタコ壺わきまで後退し、軟らかい土に足をとられた。
──たぶん、このまま俺を撃って、穴に蹴転がすつもりだろうな……。
なんてこった。最初から、準備されていたのだ。だが、仕掛けが込み入りすぎてる。コイツ1人の仕業じゃあるまい。この穴だって、掘るには相当手間のかかる深さだろう。
「さよなら、大尉どの。
「ハハッ!どうせ撃つなら──」
俺はチャンスをうかがうため、ワザと余裕ぶったフリで嘲るように、
「最後に理由ぐらい、教えてくれてもいいだろう……革命だと?」
伍長の眼に迷いが奔った。
やがて右手から、やや緊張をぬくと口元をゆがめ、
「そうです。
「ふふん。暗殺だぁ?──コンゴの住民をおもうのはイイが厳重な警戒を、どうやって?」
「こちらには同志がいます。彼らの助けをかりて、実行します!」
「同志だと?やはり、ほかに仲間がいるのか。ソイツは誰だ──言え!!」
「それは……」
すこし離れた場所で、草を踏む気配。
「そっから先ァ──自分が説明しましょうか、マイケル大尉」
ちかくの木の陰から、あの
どこかと連絡していたのか、手にハンド・トーキーを持って。
あまりのことに、一瞬、アタマがついていかない。
まさか……最初からハメられていたのか?
あの、石けん箱から出てきた紙片……。
【身辺注意 暗殺計画進行中】
畜生。せっかくの警報を、もっと真剣に考えるべきだった。
コイツらの動きがあまりに速く、致命的な後手に回った。
──まぁいい。まだ、挽回できるチャンスは……ある。
とりあえず俺は、大尉らしく威厳をとりもどして、
「キミか……一体、どういうつもりだ?コレは」
「どうもコウもないっス。よぉマイルズ、大尉サンの武装解除は?したのか」
「いいえ。撃ってからやろうと思いまして」
「アァほ。トロいんだなァ手前ェは。だからダメなんだ」
目上の人間に唾棄するような口ぶりでそう言うと、CIAの若造は俺に歩み寄る。
そして腰から手荒くワルサーを抜き出し、ウラ表をじっくり検分する風。
「聞けば、コイツは処刑用の銃らしいスね……人民を何人殺したんです?」
「あくまで部隊の秩序を保つためのものだ。一般市民に向けたことは、ない」
フン、と若造は唇をゆがめ、ワルサーを無造作に遠くのブッシュへと投げ棄てて、
「ごたいそうなこって。自分にゃ、キレイごとにしか思えませんがね」
「伍長のいう“革命ごっこ”とらやに、キミも参加してるのか」
「ごっこ、ではありません大尉!」
わきからミルズが色めき立った。
「これは“大義”のためです!」
相手の勢いと『大義』という言葉を聞いて、俺は失笑せざるを得ない。
このロクでもない独りよがりなオナニーのために、かつてどれほどの男が死んでいったことか。
「大義、ねぇ?……あの男は知ってるのか?もうひとりのCIAの……」
そこまで言ったとき、こんどは若造がゲラゲラと開けっぴろげに笑い出した。
あの年かさなCIAの
それに対し、ミルズ伍長は仏頂面のまま、ブローニングの撃鉄を落として腰に納める。
若造は、ようやく笑いやむと目尻をはらい、
「昨日の夜。通りで大尉サンと会って、
「なぜだ。彼は今どこに居る」
ブフォッ!と若造は、ふたたび笑いかけたが、どうにかそれを
「すぐ近くに居ますよ」
オレは辺りを見まわした。
まさか、あの男までグルだったとは。
南アフリカ警察のクリューガー警部が殺されたのも、こいつらのシワザか?
ドレッド一味を暗殺するという依頼も、実はカモフラージュだったりするんだろうか。
第48話:傭兵たちの視線(1参照
「ヨコに見まわしてもダメですよ。縦に見なきゃ」
「──なんだと?」
「あのイケ好かないオヤジは、ちょうど大尉さんの足のウラ」
おれは柔らかくなった蛸ツボわきの土を見た。
丸く埋め戻した跡は、そのためだったのか。
「殺したのか……彼を」
「イチイチ
「
「それに……最初から「始末しろ」と、
──本部……だと?
俺の表情に気づいたものか、ミルズのヤツが、
「本部のことまで言うのは、行き過ぎじゃないかね。いくらもう居なくなる人間とはいえ……」
「うるせェ。ツカえねぇヤツはダマってろ」
「しかし──」
「じゃぁオマエから報告すればいいだろう。408号室に」
「……残念だったな、坊主。こっちの担当は、全然別のラインだ。傭兵風情とみくびったな?」
「ちえっ、じゃぁ官房か……」
「まったく違う。ホロシェフスコエ通りだ※」
「水族館※……セーロフ※のところか!どうりで……保険会社※とつながるワケだ」
そう言った後、CIAの若造はミルズにむかい、鼻で嗤うような調子で、
「革命か……いつの世にも居るんだな。時代遅れの夢を見るようなヤツが」
「──なんだと?」
「そういうヤツが、利用されて棄てられるんだよ……とくに
永遠の一拍があった。
ミルズが素早く動き、ホルスターに入れていたブローニングを抜き出そうとする。
それより早く、乾いた銃声が二発。小さな空間に響く。
特技三級伍長がハラをおさえて「く」の字に折れ曲がった。
「──なんで……」
そのままヨロヨロと若造のほうに2,3歩進むが、やがてヒザから崩れ落ちる。
いつのまにか彼の手には、ソビエト製のマカロフ中型拳銃が握られ、銃口から硝煙を立てて。
若造はミルズに近寄ると、ビジネス用の茶色い革靴で容赦なくミルズの頭を蹴り飛ばす。とどめを刺すまでもなく、かつて俺の部下だった特技三級伍長は、すでに死んでいるのがわかった。
若造は死体の腰からブローニングを抜き出してワルサーの後を追わせると、
「さ、大尉サン。そのゴミを、穴に引きずって棄てて下さい?」
「仲間割れかよ……そして次は、オレも始末するのか」
フフン。この若造は生意気にも意味深なニヤつきをもらし、
「アンタを撃つのは、自分の役回りじゃないっス」
「……なんだと?」
「むしろ自分が大尉サン撃ったら、オコられッちまう」
クイクイと銃口をふり、作業をうながす若造。
俺は仕方なく、うつ伏せに斃れた伍長の両足首を持ちあげる。
迷彩服の背中側に、弾丸の出た射出口はない──盲管銃創だ。
弾丸が体内で砕け、動脈を傷つけられて失血死したんだろう。
「じゃぁ、俺を撃つ役まわりは、だれなんだ?」
返答はない。
ただマカロフの銃口と
仕方なく、そのまま乾いた草地をズルズルと、死体を渾身のちからで引きずってゆく。
──イテテ……。
野戦服の下でベルトにはさんだ予備のワルサーが、ヘソにあたってヒリヒリする。
これも、あの得体のしれぬ悪夢がもたらした
死体特有の重さにネをあげ、いちど足を放り捨てて腰をのばし、アゴを伝う汗をふいたとき。
樹上で期待に羽根をふるわせ、曲がった首を精一杯のばし、前のめりになるハゲワシと目があった。
時ならぬゴチソウとばかり、死体と二人の生者とを等分にうかがう様子。
かがんだときにさり気なくワルサーの位置をなおしてから死体の足をもち、ようやくタコ壺の傍らまで。
「よぃ……せっ!と」
穴の縁から転がすと、力をうしなった身体が土塊と一緒に落ちてゆき、穴の底でありえない角度に曲がる。土にまみれた顔の中で白目が恨みがましくこちらを見上げ、後味が悪い。
ギャァッ!と一声。
ハゲワシが、おれの獲物を、と抗議の鳴き声をあげた、ような。
彼方の射撃場では、重機関銃の射撃練習が始まったらしい。
一発でM2とわかる、底鳴りする連射音がひびきはじめた。
──なるほど、畜生。イイ場所をえらんだモンだ……。
射撃場近辺の基地外れなココなら、チョッとやソッとの騒音を立てても気にするものはいないだろう。おまけに通いの道からも、ずいぶんと離れている。
「……なんで、コイツを殺した?」
俺は必死に状況を整理しようと、晴天のクセに妙にうすら寒く感じる小さな広場をながめやりつつ、
「キミの仲間じゃないのか」
「ハ!そんな“傭兵風情”のウスノロが?」
「なにか革命とか言ってたが。『シンバス』を率いて、この国を倒すのか」
「そうっすネ……革命!……なんてイイ響き!……騒乱、惑乱、紊乱、喪乱……」
「だが、よほど気をつけねば、革命のもたらす実りは喪われることになる。ボナパルト※は、そう言ったな」
いきなり声が割って入った。
振りむけば、本部付のヤン中尉が立っていた。
アイロンの効いた、カーキ色な基地勤務服に略帽。
磨きたてた剣吊り用のサム・ブラウンベルト。ホルスターは無い。
いつもの格好だが、その雰囲気は、普段の中尉からどこか遠いように思われる。
「どうした?キミ。なぜマイケル大尉が──まだ生きてる?」
俺を視線から外すようにして立っていたヤンは、理知的な語勢でCIAの若造を問いただす。
「なぁに。ただの“余興”ってヤツですよ」
「余興だと……?それにミルズ伍長はどうした」
「べつに。あいつぁ
そう言うや、若造は俺の方にズイ!と拳銃を向け(分かってるよな、うん?)とでも言うように。
「何をやっているんだ。はやく大尉を始末して、証拠を消さないと」
「いったいどういうコトなんだ?ヤン」
俺はつとめて冷静に相手に近づいて、
「こっちを向け。部隊の情報を流したのは……オマエなのか」
「……」
相手は横をむいたまま答えない。
「おまえのせいで、みんな死んだぞ?ラルゴも、ハリーも、それにマイル──」
チキリ……。
背後でマカロフの
ブッシュの小さな広間に圧倒的な存在感で響く。
どういうことだ。まるでワケがわからない。
ゆっくりと俺は深呼吸をして、
「いつからだ?ヤン。どうしてお前が、こんな……これも“革命”とらやのためなのか?」
「……」
「圧政を受けるコンゴの大衆に、シンバスの力を利用して一斉蜂起でも呼びかけるのか?」
「……そんなチッぽけなものじゃないですよ」
「なんだと?」
ヤンは、相変わらず俺から顔をそむけたまま、
「私が求めるのは、ただ一つ!万国の労働者による──『世界同時革命』です!」
はぁっ、と思わず糞デカため息。
「オマエもかよ……いったいウチの部隊は、いつから革命マニアだらけになったんだ?」
「ま、そんなワケですから、大尉サンも覚悟をキメてくださいナ」
若造が、ニコニコしながらイケしゃあしゃあと。
──
「死ぬ前に教えろ、ヤン。基地内に潜んで情報を流してたのはキミと、その若い奴と、ほかに誰がいる」
ヤンは一度大きくため息をついた。
そして、こちらから顔をそむけたままボソボソと、
「あとは……あの老いぼれ大尉が居ますねぇ。老後の資金稼ぎの……」
驚いた。
スターリングラードでの経験もある、あの顔にすさまじい傷を持った老大尉。
パジャマ姿にトレンチ・コートを羽織り、朝のパイプを吸っていた白髪の男。
※第40話:戦塵の
──まさか……あの爺さんもそうだったとは……。
「ま、あの老人もアワれなモノでね。もうムリが利く年でもない。身寄りもない、金もない。ナイナイづくし。だから金になるコトなら、何でも食らいつく……あと、大尉には申し訳ないが──」
ここで初めてヤンはこちらを向き、“事情通”が恩着せがましく情報をひけらかすように、
「じつはお宅のミルズ伍長も、こちらの陣営でしてね」
「……げぇっ!孔明──じゃなくて、ミルズがぁッ!?」
危ないところで反応できた。
ウンウンと若造が、ヤンの背後でひそかにうなずく。
「どうです、灯台下暗しでしょう。あとは私の従卒が、極めて不本意ではありますが、アナタを処分したあと、穴を埋め戻しにきます。この穴を掘ったのも、彼ですから」
「オマエの従卒って……ブートキャンプから救い出した、あのノッポかよ」
「そう。あなたが配下にする小隊長たちには、疑われていたようですが」
その時。
若造が出てきた方向と反対側から、ブッシュを揺らし、大小二つの人影が出てきた。
小さい方は、目のツリ上がった中国系の人物。
そしてもう一人の長身は──あの、歪んだ狙撃用ライフルを肩にしたドレッドだった。
「よう……やっぱり、おれらは“縁”があるナァ」
迷彩服を着た宿敵の男は、肩のクソ長い狙撃銃をジャマっ気にいちどゆすりあげると、
「あのクソ銭高の覆面パトが突っ込んできた時ァ、どうしようかと思ったが……」
そう言うと、消音器付きのソビエト製スチェッキン・マシンピストルを腰から抜き出し、ピタリ、こちらに照準を向けた……。
※ホロシェフスコエ通り:GRU(ソ連軍参謀部情報局)の本部アドレス
※水族館:GRU本部の建物がガラス張りのため
※セーロフ:イワン・アレクサンドロヴィチ・セーロフ/GRU局長
※保険会社:KGB本部入っているビル
※ナポレオン