試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【18禁版】 作:珍歩意地郎_四五四五
寝落ちしてしまいました……((+_+))
「そういやマイク。さっき……本部付きの大尉がどうとか言ってましたが?」
低いブッシュをかき分け、基地に向かう通りに出てホッとしたとき。
ヨークのやつが、迷彩服の裾についたダニを払いながらボソボソと、
「やっぱ、あの爺サンも一枚噛んでました?」
──うっ……。
敵を嗅ぎ分けるこの男の鼻は、やはり大したものだった。過去に何度助けられたか分からない。肩を並べて戦っているこの男が死ぬとき、自分もまた運が尽きて戦死するような──そんな予感がしている。
「やっぱ、ってお前……気づいていたのか」
歴戦の軍曹は、濃いゲジゲジ眉をしかめて、
「さっき地獄に墜ちたノッポ野郎ね?アイツと爺さんが、基地の廃棄されたバラック区画で一緒に居たの見ました──あの爺サン、カネに困ってたから」
「老後の資産の心配、か?そのために情報を売ったのか」
意図せず俺のほおにヒクつきが奔る。
「オレは食い詰めたジジィになったら、コイツで自分の始末をつけるよ」
俺は、ホルスターからワルサーPPを抜いた。
ムカつくことに、スライド部がハデに傷ついてる。
前後に動かしてみたところ、とくに引っかかりはない。
そろそろ夕方の気配を感じさせる大空に向け、かるく一発。
覚えのあるリコイル。作動にも、問題が無いようだ。良かった。
この拳銃で何人を処刑したか……いずれも殺されて当然のヤツらだ。
ヤンの奴とミルズ伍長を撃てず仕舞いは残念だった。ヤツらのために部隊は……。
一発──そして、もう一発。
「あの爺サンも、撃ちます?」
ヨークの声に、さらに一発。
そんな俺の横顔を、コイツは横並びに歩きながらチラチラ盗み見る気配。
「なんだヨーク……言いたいことがあるならハッキリ言え」
「──あの爺さんの孫娘、
ボソボソと喋る戦場彼の口からポツリ、そんな言葉が漏れた。
「
いかにも、処刑を思いとどまらせようとするヨークの口ぶり。
しるか!死んでいった者たちの敵は討たねばならん……と思った時。
メガネの奥から、いつも生理中の女のようにイライラとした視線を投げてくる姿。
──あ、そうだ。
「……マイク?マイク、どうしたボンヤリして。やっぱ処刑は見送るか?」
「ん?あぁ──」
オレは足をとめ、ヨークを、そして自分の野戦服姿を眺め下ろした。
アフリカの乾いた風が吹いてきた。夕方が近いのだ。
──なんか……イヤになってきちまったな……。
打算で動く連中。
恐怖と死を餌とする集団。
己の欲望にあくまで忠実な一派。
利権を“偉大なゲーム”と標榜する豚共。
戦乱の傷跡を癒やしきれない、根無し草たち。
そして──。
それらが複雑にからみあう、このアフリカという
──もうウンザリだぜ……。
オレは手にしたワルサーの残弾を、空へと撃ち込んだ。
スライド・ストップがかかり、硝煙をたなびかせて処刑用の機器は沈黙する。
「ヨーク。オレは降りるよ……。今度の契約更新は、しない」
「除隊するですか、大尉殿。ヤメて、なにします?」
「さてねぇ……」
弾倉がカラになったワルサーをしまい、オレはウン!と伸びをした。
そして、英語が母国語の軍曹にむかって、どういうわけかフランス語で
「
「……
なんでまた、というようにヨークのヤツは英語で返し、
どういうわけか、事務用のスーツを着た巨乳美人の印象が、また戻ってくる。
メガネの奥のキツい瞳に、いまからどうやって言い訳をしようか、心のどこかで考えている自分がいる。なんだかわからないが、そこには一抹の悲哀と、綱渡りな感情と、そしておかしみがあった。
「
トラックねぇ、とヨークはあきれたように、
「なら、自分も酒場のオヤジを
俺の頭の中に『ジーミの店』という名前が、不吉な印象としてうかぶ。
あのドレッドが持っていたスチェッキン・マシン・ピストルもイメージされて。
雨……散乱するガラス。この乾いたコンゴの大地に、どこからそんな心象がやってきたのか。
「あまり、感心しないな。もっといい名前をつけなきゃ」
「ダメですか。じゃ酒場だし、あのクソ重い機銃の名をかけて『BAR1918』とか」
またもネガティブなイメージ。
こんどはあからさまな敵愾心が、胸の中に広がってゆく。
ドレッド。そして、あのクソむかつく“おさる”のジョージ。
謎めいた褐色の踊り子である美貌の
「これも
いきなり俺は襟首をつかまれ、地面に引き倒される。
あつい湯が、ビシャビシャッ!顔に、身にふりかかる気配。
転がったまま見れば、ヨークの胴体が千切れ、血が噴出していた。
かなり遅れて機銃の乾いた連射音がドコドコ、彼方から響いてくる。
あたりの草木が、死に神のカマで薙ぎ払われるように倒れ伏してゆく。
やがて──尾を引くような口笛。
──重迫だ!※
俺は身をふせたまま、追い詰められたこの短い残り時間で掩蔽物をさがす。
もちろん、ここは基地に向かう路上だ。そんなモノがあるわけがない。
数メートル先にソフトボールの玉ぐらいな石があるのを見つけた。
目を見開き、そこへ這いずっていこうとしたとき。
瞬間、暴力的な爆風に身体を掴みあげられた。
赤い空に黒い太陽が輝いたように見え……。
あとは、なにも分からない。
* * *
ほおが冷たかった。
いや、ほおだけじゃ無い。
腹がジットリと濡れている。
雨だろうか。背中がジットリと。
ほおの下にあるのは、砂じゃなかった。
なにか……トゲのある堅いような肌触りが。
おまけにアチコチうめき声のようなものが聞こえる。
アフリカの炎天下から一転、今はいきなりどこかの町の深夜めいて。
──うっ……あたた。
うつ伏せで倒れていた上半身を起こしてみれば、うらぶれた繁華街の寂しい灯火を逆さまに映す濡れたアスファルトが手のひらに食い込んで痛い。いや、痛いはずだ。そこいらに砕けたガラスが散乱している。雨の反射とガラスの硬質な反射が混じり合い──混然として。
フラフラ立ち上がると、あちこちの物陰にヒトが倒れていた。
わずかに残る匂いが、ガス爆発の気配を伝えている。
店舗の正面からハデに突っ込んだパトカー。
『ーミの店』と半分フッとんだ看板。
ひしゃげた窓ワクとブラインド。
散乱する酒瓶と
急速にコンゴの血まみれな日常が遠ざかってゆく。
引き換えに、21世紀の無菌パックな日本の感覚が、ジワジワよみがえってきた。
──あぁ……思い出したぞ……。
オレは、ドレッドのクソ野郎にメールで『ジーミの店』誘い込まれ、
ギリギリの一瞬、幸運にもパトカーがダイレクト入店して救われたが、そのときの衝撃で厨房機材のガス配管が傷つけられた違いない。
とどめに銭形とドレッドが(よせばイイのに)銃撃戦なんかおっぱじめやがったもんだから、もれた調理用ガスに銃の
見れば、パトカーの中に銭高と相方らしき若手がひっくり返り、力なくうごめいていた。
すこし離れたところには、オレを背後から狙っていたガキが、顔面にデカいガラス片を食い込ませ、血だまりのなか白目で宙を見上げて動かない。
──くそドレッドや“おサル”の野郎は……。
見回すが、姿はキレイに消えていた。
ヤツらのことだ。さっさとケツまくってトンづらしたんだろう。
野次馬が、ふたたび動き出し、集まりはじめる気配。
赤ん坊の泣き声が、ヒトのうめき声が、ヒステリックな叫びが、途切れ途切れに伝わってくる。
遠くから消防車の救急車の、そして
──そうだ……。
オレはソッと店内に忍び込み、爆発の余波ですこし焼け焦げたカウンターを指紋に気をつけながら乗り越えて、倒壊したオーディオ・ラックから詩愛の輪姦シーンがはいった情報メモリーを抜き出した。もうこれ以上、あの子を
ボロボロになったジャケットの内ポケットに入れ、コッチも
そのとき、はじめてトラックとコネクトするイヤホンが無くなっているコトに気づいた。
まぁイイ。あれは大量生産の民生品だ。警察の現場検証で拾われたところで問題ないと考えた。鑑識がDNA鑑定までするとも思えない。
緊急車両のサイレンが、いよいよ近づいてきた。
「だれか居マスかァ!」
素っ頓狂な若者の声。
ムリに大声をだして、怖じているのをごまかすような感じで。
すぐに別人の声が、こちらは少し面白がるように、
「うッわ、ひッでぇぇ……店ンなかボロボロじゃん……」
突然。
強力なライトの帯が荒れた店内の暗闇を裂いて、爆発の惨状を照らし出す。
その光の輪がパトカーをさぐり当て、車の中にいる警官たちを浮かび上がらせた。
次いでもう一本の強力な光が、ガラスで“なます切り”になった護衛役のガキを明るみに。
「オィあそこ!チョ~やべー!ヒト死んでネ?」
「動画動画!“つべ”の再生数オニ稼ぎだぜこりゃ!」
2人連れのガキがウヒャウヒャと死体に近づいているあいだ、オレは足音を忍ばせて『ジーミの店』の奥へと進み、発見した裏口から外の路地へとすべり出た。
小雨のなか、日陰に茂る緑の気配が濃く香る。
となりの建屋に張り付いている室外機のモーター音。
商店街の表通りでは、騒ぎがますます激しくなってきた。
チラチラと回転灯の赤い明滅が、この狭い路地にも伝わって。
オレは、その喧噪からのがれるように、防犯灯すらない暗闇のなかをおよぎ、すこし離れた目抜き通りへ出ようとした。
と──頭上から、いきなりネコの鳴き声。
反射的に見上げると、闇に金色の瞳が一つ。コチラを見下ろしている。
ブロック塀に居座るネコかと思ったが……おかしい。瞳の位置が、みょうに高いのだ。
──ヤツだ!
オレは中腰になって身構える。
手は、反射的に腰をさぐり、ありもしないワルサーを求めて。
こンのくそネコが……いつぞやのように、また巨大化したりするんだろうか。
――毎回毎回、ご挨拶だねぇ……。
やはり。
聞いたことのあるようなセリフが降ってきた。
だが、アフリカ傭兵の夢から得た感覚が残っているせいか、肝が据わっている。
「出やがったな?こッの化けネコめェ。なんの用だ!」
――まぁまぁ。そこだと濡れちゃうから、コッチ来なよ。
ヒラリ。闇より黒い大きな塊が路面に音も無く着地する。
やはりおかしい。サイズがネコのソレではない。まるで黒い豹だ。
しばらく冥い路地をゆくと、つたの絡まった家の勝手口前までやってきた。
と……そのちいさな格子門が風も無いのにキィ、ひとりで開いてオレをさそう。
――入って。ココは空き家だから、遠慮はいらないんだ。
雨戸のしまった、廃屋一歩手前に見える二階建ての一軒家だった。
勝手口から敷地にはいり、格子の門扉が施錠されているカーポートに侵入。なるほどココなら濡れる心配もない。すこし離れた場所にある自販機の照明を利用して、この面妖な“古なじみ”を凝視。しかし――どうもはっきりしない。姿が、みょうにボヤけるのだ。
「空き家だって?……ずーずーしぃな。なんでそんなコト知ってるんだ」
――だって、ボクが殺しちゃったから♪
沈黙。
マフラーを外したうるさいバイクが一台、彼方で雨の中を走っていった。
いや、それは本当にバイクだったのか。ショックによるオレの耳鳴りではなかったか。
それでも、すこし前までアフリカの傭兵だった度胸がオレをささえ、あくまで平然として、
「へぇぇ、そりゃァまた。けど、なんで殺したかのか……聞いてもいいか?」
相手はペロペロと顔を洗いながら、さも当たり前のように、
――そもそも寝たきりのお爺さんだったし。家族は離散してるうえ、むかし保険金サギでヒトを(それも子供だよ?)殺しているから、因果応報で『地獄』に送ってあげたのサ。遅かれ早かれ、結末は同じだったからネ
地獄。
この黒ネコが言うと、みょうに説得力がある。
“転生”でも“異世界”でも、ましてや“天国”でもない。
「針の山」や「ウンコの池」があって、鬼にツンツンされるテーマパーク。
その内情を、オレに散々つきまとう、この得体の知れない化け物は知ってるというのか。
――ふぅん?見てみたいのかい……地獄を?
いや……結構。
即座にオレは拒否っていた。
まるで地雷原か十字砲火を喰らうような、本能的な危機を感じたからだ。
どうせこの黒ネコのやることだ。うかつに誘いに乗ったら、どんな幻影を見せられるか。
――ま、正解かもネ。生身の人間には、刺激が強すぎるかも。
だが、このクソネコ。
そういった端から背後の空間を歪ませ、なにやら炎に灼かれて苦悶する群衆を映し出す。
全身に火がついた
そうかと思えば、一面の氷柱が逆向きに立つ吹雪の平原で、ヨロヨロと行進する痩せさらばえた人間の列。ときおり、鋭利な氷柱に串刺しとなった人物が、こぼれた内臓をタレ下げながら、ちから無くもがき苦しむ光景すらも……。
《b》――今宵、お邪魔したのは、
「なんの話だ。アフリカで繰り広げられたコンゴ動乱のコトか?」
――そうさ?ご主人サマも喜ぶよ。けっこう、けっこう――こけコッコォォ……
この黒ネコは、おやじギャグめいたことを口にしたかと思うと、ナニやらアヤしげな振り付けの舞をしつつ流れるように体を動かして、
すると――不思議!
シッポがシュルシュルと伸び、新体操で使われるリボンのように変じてクルクルと。次いで、黒ネコの全身を動くマユのように包むや、パァツ!まばゆい光に包まれる。
「なんだァ……ッ!?」
眼が痛むほどの光量!
完全に目くらましとなった状態!
そこからようやく暗がりに慣れてみると……。
オレの目の前には、イッちゃってる格好な1人の女が立っていた。
アニメのように豊かな胸。
ハチを連想するほど細い腰。
ブリュン!と張り出した巨尻。
メリハリある引き締まった長脚。
そんなエロ
――コイツ……たしか……。
相手の金色な瞳がキュゥゥゥっと細められ、スパァン!ムチが一閃した。
そう。あの占領され、崩壊した王国で、女騎士や同僚と見たタカビな
『エロエロ衣装で、みなぎるチンポ!
――キュバス・ブラック!!』
やwかwまwしwいwww!
黒だの白だの!と叫びつつも、それならキュバス・ホワイトやピンクは居るのかと身構える。
――“不確かな記憶”の中だけの存在だと思っていたものが、ついにアタマの中から飛び出して、21世紀の日本に現れやがった……いや、ひょっとして、コレすら幻想かも?妄想と現実の境目があやふやになり“自身”の存在すら“自信”がなくなる……おっと、シャレてしまった、フフフ。いやまて!落ち着け。そんなダじゃれで現実逃避をしとる場合かッ!もしかしてガス爆発のショックで、脳に影響が出て……。
――ふふん。
黒ヒョウが化けた淫乱な空気をかもす美女が、ピンヒールなブーツを鳴らして近づく。
革衣装の半カップで支えられたおのれの巨乳をユサリ、これ見よがしにすくいあげ、乳首ピアスが輝く濃い乳輪を、二股に分かれた舌でネットリ舐めまわしてから蠱惑的な上目づかいで、
『どうだい?コレでも妄想と言えるかい』
そう言って、いつの間にか半分金縛りのようになっているオレの股間を、柔らかく愛撫した。
『現世にチャンと戻ってこれた“ごほうび”に、
レロロロロ……ン♪
目の前で長い舌がクルクルと螺旋状に器用なうごきを魅せる。
それは、あたかもチンポを舌で柔らかく愛撫しながら締め上げるように。
「……きわめて魅力的なご提案ですが、お気持ちだけ有り難く受け取っておきます」
口が勝手に動き、固まったオレの体が数歩下がる。
なんだ?と思う間もなく、さらに言葉はつづいて、
「閣下の
――騎士団長のジジィだ、とオレはすぐさま気づいた。
自分の中にある未体験の記憶。
そのひとりが、目の前のイケイケ姐ちゃん(死語)が履くニーハイ丈な革製の編み上げロング・ブーツを、ひざまづいて舐めるような勢いで許しを請うている。
すると次の瞬間、いきなり口調が乱暴なものにかわり、
「よぉ!アンタなら知ってンだろ?ヨークを殺した機銃の射手は――だれだ?」
もう1人の人格がいきなりケンカ腰にあらわれた。
先ほどまで、オレが経験していたアフリカ傭兵の記憶。
つっけんどんな口調で、目の前の女王様然とした女を難詰する。
すると、特殊騎士団長が慌てたように傭兵を一喝。次いでヒソヒソと、
――
――相変わらずウゼぇジジィだなぁ……酒場に根ぇ張る、タダの姐ぇチャンぢゃねぇか。
――阿呆ぅ!あの魔力は、貴様も見たであろうが!
「ちょっと、ちょっとおまえら――アタマの中でケンカすんな」
ツタの這う、廃屋一歩手前な空き家の裏庭で、ジタバタとオレは頭をかかえた。
“淫魔”のほうも(……イラッ)とシッポを一旋させ、
『……ホントにメンドくさい子たちだネェ!』
やがて潮が引くように視力が戻ってみると──オレの横に、2人の男が立っていた。
血まみれの迷彩服姿をした若い男と、軽装の鎧をまとった中年。
「あぁっ──おまえらは!」
「なんと!またしても具現!ありがたいことに、こたびも若い姿とは」
「ちっ、おぃ姐サン聞いてンだろ!あの機銃と重迫を撃ったのは、だれだよ!」
アフリカ傭兵の俺と、王国特殊騎士団のオレ。
3人の自分が、自販機の明かりをたよりに顔を見合わす。
オレは、いまだ“裏切り合戦”の記憶が生々しい血まみれな野戦服の俺に、
「なぁ。あれからどうなったんだ?あの迫撃砲で、死んだのか?」
「それはコッチがききてぇよ。ヨークの野郎は、どうみてもM2で殺られてるし」
「酷いありさまだな……ケガは、大丈夫なのか?」
「なに。ヨークの返り血だ。攻撃してきたヤツは……タダじゃおかねぇ!なぁ姐ちゃんよぅ!」
スパァン!またムチが空気を切り裂いた。
「これから先に起こることなど、生きてる人間に言えるわけないでしょ!」
そんなコト言ったってよォ、と傭兵隊長は不満そうに、
「俺ァ、もう
と、血まみれの迷彩服がすこし離れた場所にある自販機を指さして、
「“2020年代の新しい感覚”って書いてあるじゃねぇか。俺がいた世界は1960年代だ。どう考えたって、この俺が100年近くも生きるわけァねぇ。もう死んでる」
「2023年……帝紀265年ではないのか?張り紙の精巧な絵を見ると……あれは飲み物を提供する機械だな?美味そうだ」
騎士団長の言葉に、淫魔のフェリスがぴしり!スペード型をした己のシッポ先で自販機を指す。すると筐体のLEDがピロピロピロ……勝手に明滅してメロディがながれ、相次いでガコガコン!受け取り口に品物が落下する音。
ん。と淫魔に眼でうながされ、オレはしかたなく小雨の中、ガレージのひさしを出て自販機まで走り、受け取り口にあった3本のジュースを取ってくる。そしてそれを騎士団長とアフリカ傭兵に一本づつ渡した。
「なんと、冷たい!……なんなのだ、コレは」
「ジジィ。これはこうすンだよ」
パシュ!と缶を開ける音がガレージのモルタル空間に相次いだ。
「なんだコレは……貴腐の発泡酒か?奇妙な味わいだな……」
「ただのジュースだよ。コカ・コーラの変わりダネだぜ。俺の時代にもあった」
それを飲んで落ち着いたら、よくお聞き?
淫魔はユサリ、巨乳の下で腕組みをして乳首ピアスを
「いいかい?もういちどハッキリさせとくよ?ボウヤたち……前にアタぃが言ったろ?アンタたち3人は、いずれも“影”なんだ。『光をプリズムによって光学的に分割し、それぞれのスペクトルにわけた存在』だと。これは“
※第49話:災殆のたくらみ(9:重要回・その2参照
騎士団長が、缶ジュースを飲みながらチラチラとオレを見る。
シュールな図だ。腰に長剣をぶっさす騎士が、炭酸飲料を飲んでいるんだから。
いままで幻想だと無理矢理自分を納得させていたものが、一気に崩れ去る思いがする。
そういや前回“実際の姿で”会ったときは“あの王国”に来てくれと、土下座する勢いで頼まれたっけ。もう国は崩壊して簒奪者たちのものになっているのに。いまさらどうやっても手遅れだろう……。
「いいかい、アンタたち」
女淫魔は、オレたちの顔を等しく見比べながら、
「これも前に言ったけど、アンタたちは重なり合うガラスの画さ。
だが、フェリスとやらの1級淫魔が、そう言い終わらぬタイミングで。
またしても、あの神楽鈴が遠くから聞こえ始めた。
一定の間隔をおいて涼やかに、それでいて威嚇するような色合いを含んで。
直線的に続く路地の彼方に、蒼い鬼火のようなものまでチラチラと浮かび始める。
キッ!
女淫魔の
「やっぱり
騎士団長とアフリカ傭兵の姿がボヤけはじめた。
中年男の方は、諦観したものか腕組みをしたまま名目する。
傭兵大尉は自分の手のひらをながめ、それが次第にあやふやとなるのを看ると、
「
彼は、何か感じるモノがあったんだろう。
血まみれな手でオレの肩をつかみ、グイ!と自分の方へ引き寄せた。
「あとは──タノんだぞ?たぶん、俺はココまでだ……あの重迫でクタばったんだと思う。この物語には、もう出てこない……ザンネンだがな?まぁ、傭兵の運命なんて、こんなモンさ」
不敵な笑みが、アフリカの陽に灼かれた顔に浮かぶ。
「そんな……それはあんまり……」
「ハハッ、そうシケた顔すんな。あのイケイケ姐ちゃんが言ってたろ?俺たちは3人で1人だって。だとすりゃ──俺たちは、いつでも一緒だ!」
神楽鈴の音が、ますます近づいてきた。
空き缶がコンクリの床に落ちる音。
気がつけば、あの騎士団長の姿が消えている。
チッ!──女淫魔の鋭い舌打ち。
「これを──!」
アフリカ傭兵は腰から何かをを抜き出し、オレの手に押しつけた。
平和な世界にすむ人間にはズシリと重い、黒光りする金属塊。
ワルサーPP──中型自動拳銃。
スライドには、大きくキズが入って。
記憶を共有し、焼きつけられたた今なら分かる。
ミルズ伍長に放り投げられた時にできた打ちキズだ。
「いいか、コイツを手放すな?あとで絶対に必要になるときが来る!」
「──大尉!」
「
肩をつかむ力が急に消えた。
と同時に、迷彩服の男も忽然と消失している。
女淫魔が、抗いながら闇に溶けてゆく。その口が悲鳴めいた声で、
──ひと月後……一月後の
あとはなにも聞こえない。
気がつけば、オレがただ1人。
廃屋の空きガレージにポツンと立っているだけだった。
あれほどあった血の臭いも消え、裏路地の緑とカビ臭さが匂うだけ。
──大尉……。
手にしたワルサーの重みも、いつのまにか消えている。
だが、断じて夢まぼろしではない。
それが証拠に350ml缶が3つ、コンクリの床に転がっているではないか。
……逃がさん、ぞえ……
オレのすぐ脇を通り、何か尋常ではない気配が風圧を伴い猛然と駆け抜けていった。
やがて。かなり遠くで、ネコの壮絶な悲鳴が聞こえた……ような……。
* * *
※重迫:重迫撃砲
ハイ、終盤に差し掛かってドンドン退場してゆきますよ~~。