※この作品はR-18です。

試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【18禁版】   作:珍歩意地郎_四五四五

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今回は“週刊”を守りました!


第72話:その夜の断片(前

 

 オレは空き缶をまとめると、廃屋を出て自販機よこのプラ箱に捨てる。

 

「──大尉……くそっ!」

 

 なにか大きな別れをしてきたような、そんな虚しさに包まれて仕方がない。

 もう二度と会うこともない相手。永訣の別れとも、破鏡の離別ともちがう。

 そのクセわかれた当人は、胸の中にいるような、妙な感じがしているのだ。

 

 雨は──ほとんど歇(や)んでいた。

 それと反比例するように、遠くで尾を引く爆発騒動は、ますます広がってゆく気味がある。次から次へとサイレンを鳴らし、警察車両がやってきた。監視カメラを警戒したオレは、彼方の喧噪からはなれ、『ジーミの店』からよほど遠くまで来たと思われるところで、ヒョッコリ表通りに顔を出してみる。

 

 すると──遠くからスカニア製の“わが戦車”が、不安げな、それでいて下司な好奇心を浮かべた野次馬たちの流れをさかのぼり、散発的な人並みを縫って片側一車線の道を、ゆっくりとやってくるではないか。

 ハザードをつけ通りの脇によると、助手席のドアが自動で開いた。

 

『お帰りなさい、マイケルさま』

 

 オレは黙って頷くと、苦労して車内によじのぼり、運転席がわに移る。座り慣れたレカロのシート。電子機器の気配に満ちたキャビンの雰囲気。ようやく安全地帯にもどってきた感触。またもやマッサージ機能が、女の細やかな“かいがいしさ”で起動して。

 

 ──そういえば……。

 

 オレも新婚当時は、お帰りなさいとか言ってもらったっけ。課長のイヤミに耐えて帰宅し、ソファーにグッタリ座った時は、あのクソ女に肩もんでもらったものだ……ヤツを間男に奔らせたのは、オレが悪かったのか、ヤツが悪かったのか……。

 

 自分の中で片付けていない宿題が急にあらわれ、しばらく憮然(ぶぜん)とする。

 すると、【ボニー】のヤツが、そんな横合いから、

 

『いかがでしたか?──ワタクシの“おてなみ”は』

「あぁん?……手並み……だと?」

『マイケルさまのピンチを察したワタシは、PC(パトカー)を虚偽の中央指令で誘導したのちに車のコントロールを乗っ取って、店舗(みせ)に突入させたのですわ!』

 

 えっへん。褒めてほめて!と言わんばかりな【ボニー】の声。

 

 ──なんてコトを……。

 

 ガックリと脱力。

 まさか、そんなカラクリだったとは。

 するとコチラの気配を敏感に察したものか彼女は、

 

『あっ、あっ、銭高警部のバイタルに問題はありませんよ?チャンと確認しましたワ?』

「……【SAI】のヤツは?その作戦に、文句は言わなかったのか。おぃ【SAI】?」

『先ほどマイケルさまが天誅を加えてからは、ウンともスンとも言いませんが……』

 

 やべぇ!と、はじめて思い当たった。

 もしかしたら、炊飯器(コイツ)を強く叩きすぎたのかもしれない。

 オレは表示灯が消えたままの円筒形な筐体をゆすり、トラックとの接続を確認。

 コード部の付け根がかすかに暖かいところをみると、電源は供給されているらしい。

 

「おぃ【SAI】!……【SAI】!しっかりしろ【SAI】!」

 

 すると、弱々しいLEDが炊飯器に灯り、かぼそい言葉が漏れてきた。

 

『助けてくれ……殺してくれ……SOS……SOS』

 

 普段の図々しいコイツからは想像もつかない異様なセリフ。

 なんてコトだ──やはりコイツを叩いたのがマズかったか。

 

『マイケルさま?このド阿呆AIが、ナニか言ってますわ』

「うん。どうやら叩きドコロが、悪かったらしい」

『せっかくですわ。こんな要求してますので、引導をわたしてやりましょう!』

「……は?」

『攻撃用・印加電圧(いんかでんあつ)、用意!』

 

 【ボニー】の声に、チュィィィ……ンと何かがチャージされる気配。

 トラックのルームランプが、すぅぅぅ……っと冥(くら)くなる。

 

『いけトラック!10万ボルトよ!?──ピッカァ♪』

 

 彼女は声優の声色そのままに、ひとり芝居で叫んだ。

 とたん、例の奇妙なコネクターが接続元からすごい勢いで勝手にパージされる。

 一瞬、壮絶な火花が青く運転席をてらして。コードの被膜が溶ける時のケミカルな臭さ。

 

『ナニするんです!コロす気ですか【ボニー】!』

 

 なんと、【SAI】がいつもの調子にもどって叫びやがった。

 このクソ野郎。まさか仮病、あるいはタヌキ寝入りだったのでは……。

 

『アラやだ、このポンコツAI。まともな演算能力が残ってたのね?イヤらしい』

 

 【SAI】の抗議に対し、悪女めかして鼻で嗤(ワラ)う女性型・人工知能。

 

『当然でしょう!いまのは“ジョニーは戦場に行った”のラストじゃないですか!』※

『そんなの知りませんわよ、ねぇ?マイケルさま』

「う……まぁ……言われてみれば……そうなんだが」

『その電子ジャー、接続をイジェクトするなんて。そんなギミックがあったのね?クヤしい!』

「まてまて【ボニー】」

 

 オレは息巻く彼女を押しとどめた。

 【SAI】のやつ。責任能力があるなら、なぜ彼女の無謀な作戦行動を止めなかった?

 こんな大層な襲撃計画たてなくとも、なにか別のプランがあったハズだ。

 

「おぃ、【SAI】!……オマエ、今回の作戦行動には干渉しなかったのか?」

『わたしはPC(パトカー)をダイレクト入店させるような、そんな過激なプランは立てません。【ボニー】にポートをが閉鎖されてたんです』

『フン、ナニよ良い子ぶって。あんな“女の敵”は、ガス爆発でブッとばされて当然ですわ?』

 

 ……おそろしい。

 

 コイツは──PCを突っこませた後のガス爆発まで計算に入れていたというのか。

 もしかしたら建物の青図まで手に入れ、ガス配管の位置を確認してからそこへピンポイントに車を突入させたとも考えられる。

 じゃぁ発火原因の銃撃戦は?……まさかそこまで人間の行動を、読んでいたと言うのか。

 

「【ボニー】チャンよぉ……それじゃオレの安全はどう考えていたんだ?」

『音響判断でのみですが、携帯火器を照準され、残時間もわずかと考えたすえ可能性に賭けました。もってあと30秒といったところでしたから』

 

 ……まぁ。たしかにオレの命は、あと数秒だったろう。

 

「ふぅむ……」

 

 とうやら手法は荒っぽいにせよ、この女性型AIに助けられたのも事実なようだった。

 

 命のやりとりの疲れ……。

 コンゴの裏切り合戦での疲れ……。

 女淫魔を介し2人の自分と向き合った疲れ……。

 そのうちの1人である傭兵大尉と、いま死別してきた疲れ……。

 

 これら三重、四重の疲れに打ちのめされ、オレは運転席のシートを倒し大きくため息をつく。

 

「帰ろうか……おまえら。今日は、もう十分綱渡りをしたよ」

 

 トラックが二次ジェネレータを復活させた。

 ルーム・ミラーを見れば、彼方では回転灯の赤い洪水だ。

 あの爆発で、ほかに死人が出てなきゃイイが……。

 

 疲労にまみれた身体を、トラックの機動にゆすられるのは気持ちよかった。

 サラリーマン時代、残業つづきの終電で、イスに座って揺られていたころを思い出す。

 (そして寝過ごしたあげく、線路わきの国道をトボトボ何時間も戻るのまでがセットだった)

 インパネの時計を見れば、もう真夜中を大分過ぎている。とりあえずマンションに帰って、ジャグジーのブクブクを浴びたい。今日は美香子と『フクロウ』は2人とも朝帰りだろう。とにかく、今回は疲れた。

 

「走れ、はぁしれ~~~轢(れき)ィ殺(さつ)ぅ~トラックぅぅぅ♪……とぉ」

 

 い○ずトラックCMの歌を、何気なくオレはくちずさむ。

 運転をAIにまかせ、ハンドル手放しで夜の都市(まち)をゆくのは気持ちいい。

 明日は有給をとろうか。どうも轢殺目標を2~3件、立て続けに処理したような疲れだ。

 

『あら。ご機嫌ですわねマイケルさま。ワタクシも作戦が的中してうれしゅうございます』

『ま、銭高をしばらく足止め出来ただけでも、ヨシとしますか』

『明日は金曜日。ハナキンですわ。マイケルさまも、すこしお休みなさったら……』

「ハナキン、ねぇ……そうだ、夏期休暇の申請を、まだお局サマにしてなかったな」

 

 その時。ふと、奇妙なことにきづいた。

 

「そういや【ボニー】。おまえ、よくオレが現場から離れたここに居るって分かったな?あの裏道に、監視カメラは無かったハズだが。トラックの赤外線探知も、そんなにレンジが長くないだろうに」

 

 エッ?と本気で怪訝そうな彼女の声が響いた。

 

『マイケルさまが通りすがりの女性を使って、伝言したのでしょう?ココに居るって』

「女?知らんぞ、そんなの……どんな格好してた?」

『若くて、胸の大きい──長い髪で顔の片側を隠した、男好きのするスタイルな女性でしたわ?』

 

 ──あの女淫魔のフェリス?……まさかな。

 

 オレはとっさに浮かんだ考えを打ち消す。

 そして彼女が逃げ際に言ったセリフを、あたまのなかで繰り返した。

 

──ひと月後……一月後のDies Veneris(金曜日)に……ウサギ……

 

 * * *

 

「は?明日の金曜日に有給を取りたい──だと?」

 

 深海のようにうす暗く、気怠く、密やかで。

 それでいて静かな熱気を感じさせる“紅いウサギ”の木曜深夜。

 

 客層が客層でもあり、安居酒屋のようにドンチャン騒ぎとは無縁だが、うなるほどの金満家たちがアール・ヌーヴォー風のブースごと高級ソファーを占拠して、“推し”のフロア・レディを傍らに談笑するかと思えば、反対にホステスを人払いした紳士たちが、意味ありげな封筒を傍らに、何事か真剣な表情(かお)で語り合う……そんな、熱にうかされたような、一種異様とも言える静かな活気を呈した雰囲気のなか。

 控えめに演奏されるジャズピアノの音色が、高級スーツやイブニング・ドレスの首に、肩に漂い、バニー・ガールや黒服たちは、それこそ“深海魚のように”音も無くフロアを回遊する──という光景を、年期の入った革装丁のワインリスト片手にしたフロアマネージャーは、有給申請をしてきた、ベトナムの民族衣装を着るアオザイ姿な美香子こと『美月』の前で指し示すと、

 

「木曜でさえ、この活況なのに。週末に“トップ・ドール”の一員であるキミが抜けるなんて考えられないよ。どうかしてるぞ?許可できっこないだろう」

 

 トップ・ドール。

 

 新しくできた店の用語だった。

 来店する客に奉仕する人形(ドール)。

 “ちびピエロ”こと『小男』が不在のときに出来た言葉(ワード)と彼女は聞いている。

 実際、女たちの福利厚生を第一に考える店主だったら、こんな単語を許可するかどうか、とフロアマネージャーも、実は首をかしげていた。『美月』は、スリットの切れ上がった白いアオザイから、JKという年齢のわりには性的、肉感的に伸びた形のよい脚を露出させ、衣装に合わせたミュールで毛足の長いトルコ絨毯をボフボフ踏みならし、

 

「ちびピエロなら!おkしてくれたわよ──きっと!」

「じゃぁ店主に直接、直訴したまえな。ホラ、あと30分でステージだぞ?」

「え──もう帰ってきてるんだ?」

「まだだよ。どうもあちこち陳情に回っているらしい。さ──パウダー・ルーム(化粧室)に……」

「ちぇぇぇ……ッ!明日は“ご主人サマに”連れてってもらいたいトコがあったのにぃぃ」

「なんだ?あの同居人のパトロンさんか?店主も一目おいてるという……」

 

 フロア・マネージャーは自分の腕に巻くパテック・フィリップの金時計をのぞき込みながら、

 

「でもトラック・ドライバーだそうじゃないか。そのワリには羽振りが良さそうだが……」

「──あァ、ここに居やがった。『美月』!」

 

 そのとき、フロアの片隅で顔を寄せ合っていた彼らの背後から声がかかった。

 2人が振り向くと、下品なミラー・サングラスをかけ、ピンクのスーツを着る痩せぎすの男が、いかにもな作り笑いをうかべ、その唇から黄色い歯をのぞかせていた。

 『小男』が留守の間、店主代理をまかされたチンピラ風味な人物。

 なぜ、こんな男が“紅いウサギ”の3番手であるのか。かねてからスタッフの中でもウワサされる謎の多い人間だった。そして店主とNo.2が不在がちな昨今、この男が店を任されてからというもの、本来高級志向である店内の雰囲気が、どこか少し変わってきたようでもある。

 

 ピンク・スーツ男のうしろには、大きめな銀盆を捧げる端正な黒服青年。

 美香子がよくよく見れば──なんと、自分が住む高級マンションの同居人、『フクロウ』ではないか。ピシリと店の制服を着こなして、物なれた調子で恭(うやうや)しく盆を捧げもち、“いっちょうまえ”に彼女など知らぬ風情をして、すまし顔で控えている。

 ナニよ、童貞のクセに!──イラっとする『美月』

 

「重要なお客サンが、法皇(ほうおう)の間でお待ちだァ──コレ着て入室(はい)ってクレとヨォ」

 

 店主代理は、『フクロウ』が持つ背後の銀盆を、ダルそうなそぶりで肩ごしに示した。

 これを聞いたフロア・マネージャーは、ワインリストを小脇に抱え直すと抗議の口ぶりで、

 

「三番代理。もうすぐ『美月』クンの深夜ステージタイムですが?」

「ハァ!?ンなもん、代わりで充当しろヤ。どうせ“オモテ”の客ぢゃねぇか。コッチは“ウラ”のお客になるかも知れねぇ御方を待たしてンだ」

 

 ミラーグラスをズラして鋭い目つきを露出させた男は磊落(らいらく)な口調でそう言うや、有無を言わさぬ態度でフロア・マネージャーをシッシッ、下がらせる。燕尾服を着た端正な中年男は無表情のうちに怒りを押しかくし、一礼もせずにその場を去るとフロア席の巡回をするそぶりで抜け目なくこちらを監視する風。

 

「『法皇の間』って──あんな高価(たか)い個室で……ダレ?」

「チョ~金回りのイイ客だぜェ。オメーもせいぜいガンバって、チップ稼ぎな」

 

 ──ッハ!さては、このチンピラそうとうもらったわね?……。

 

 なにげなく彼女が銀盆の上をのぞき込むと、紅いエナメル光沢のバニー衣装。

 ウサギ耳とカフスに蝶ネクタイ。重ね履きするシャイン・ストッキングと網タイツ。

 カフス・ボタンとイヤリングの宝石は、ともにホンモノの最上級コロンビア産エメラルドだ。

 

「え……?」

 

 股間の不自然な盛り上がりに彼女がクロッチ部分(おまたの合わせ目)も持ち上げてみれば、ゴロン。性器と肛門に挿入するためのディルドーが、内向きに接着されている。

 それだけではない。

 ブラのカップの中。ちくびに当たる部分にも、電極らしきものが、表面からでは分からないほど巧みに取り付けられていた。おまけに盆の片すみには、性具を婦(おんな)の体内に挿入(いれ)るための小瓶ローションまで。よく見れば、ストッキングやタイツもピアノ線で補強された穴が前後二つあるではないか。

 

「……ちょっと“三番”代理。こ(・)れ(・)をアタシに着ろってェのアンタは!」

 

 客であふれるフロアの手前、声を殺しつつ。それでも精一杯の怒りを背中から煮え立たせ、『美月』は三(・)番(・)というところを、ことさらに強調しながら、

 

「これ、『拘束服6号』じゃないの!アタシは“ウラ”のスタッフじゃないわよ!?こんな性奴隷を作り上げるためのバニー・コートを着るい(・)わ(・)れ(・)はないわ!!」

※第54話:好奇心の強いネコは……。(ウンコ注意!)参照

 

 だが、ピンク・スーツの男はシレッとした口ぶりで、

 

「大丈夫。今回ァ前後のディルドーに洗脳用のクスリは入れてネェ。以前(まえ)のようにはならねェよ」

「ホントでしょうね?もしウソだったら……ってチガう!そもそもこんなの、もう着たくない!」

「ウソなモンかィ。それに、これは店主代理命令だぜ?絶対に……着てもらわなきゃァなぁ」

「ナニよ、サード(三番)のクセに!アタシの店主は──“ちびピエロ”だけよ!」

「ふぅん。ザンネンだねェ……命令、聞かねぇなら『法皇の間』にァ代理としてオモテのメス人形を2、3人強制的にあてがってカンベンしてもらうしかナイねぇ……あぁ、いいトコに来た、『菜々(ナナ)』!」

 

 店主代理は偶然通りかかったエスコート用の黄色いバニーを呼び止めた。

 ワイヤーボーン入りカップからこぼれそうな巨乳。抜けるように白い、ムッチリとした肉感。──ただし、大きなメガネをかけた顔色はどこか青ざめて落ち着きが無く、気の浮かない顔で。

 

「オメーに『美月(コイツ)』の代わりとして『法皇の間』の接待をやってもらうが、どうだ?」

「ちょっ──」

 

 “トップ・ドール”の『美月』は気色ばんだ。

 

 『菜々』は一度“ウラ”のフロアに回ったものの、店外で拉致されて酷い目にあい、精神の状態を崩したため、一時的にリハビリを理由に“オモテ”のフロアへと戻ってきている。ピンク・スーツも、そんなコトは重々承知のはずだった。今またここでヒヒ爺ィなどを相手に接客させたら、拉致され、器具を使って蹂躙された時のフラッシュバックが起きかねない。それが証拠に『菜々』のほうも、救いを求めるような目でメガネの奥から哀願するような視線をチラチラと『美月』に送っているではないか。

第62話:AIたちの反逆・参照

 

 ──アタシなら……この『美月』サマなら、何とか相手をサバけるかも……。

 

「どうするゥ、『美月』(ミッキー)ィ。『菜々』を犠牲にして逃げるかァ?──それにヨ?ココだけのハナシ、いま、おれッチの方で、この店のバニーやフロア・レディをレンタル派遣する計画、立ててンだぜ?……言うこと聞かなきゃ、オメーにァ優先してエロぢぢ~、あてがってやるが?どうだ……」

 

 グッ!と口惜(くや)しげに行き詰まる彼女。

 やり方がキタない。だが、いかにもこの男らしい恐喝の仕方だ。

 それに“紅いウサギ”の女たちを店外にレンタル?……はじめて聞く話だった。

 

「……チッ!わァったわよ。その代わり、すこしだけだかンね?」

「そうこなきゃ!おぃナナ!『美月』の“お召し替え”を手伝ってやんナ?C-(チャンバ)12を使え」

 

 C(チャンバ)というのはフロアの壁際にある、チョットした化粧直しや、客にイヂメられた時の“泣き部屋”として使われる、広めの“告悔室”めいたブースの事だった。

 『美月』は、淫らなバニー・コートが載る銀盆を青年から受け取った『菜々』とともにチャンバーに入るや、サッサとアオザイを脱ぎすて、ミュールも蹴りとばして全裸となる。そして用心のため、彼女は乳首からリング・ピアスを甘い痛痒(いたかゆ)さとともに外した。

 『菜々』の方は、小部屋に備え付けの消毒用アルコールで自分の手指を清めてから、バニー・コートのクロッチに植え付けられた膣(ヴァギナ)と肛門(アヌス)用のディルドーにローションをタップリと塗りのばす。

 

「ゴメんね?ミッキー……」

「うぅん、イーのよ『菜々』(なっちー)ぃ」

 

 女たちの微妙な沈黙。

 『菜々』は、自分の犠牲になったフロア・レディを見て。

 『美月』は、こんなアブない衣装(コス)を着て相手する客を、いなせるかどうか思案しながら、美脚を輝かせるシャイニー・ストッキングを履つつ『菜々』に向かって、

 

「でも……アレってホントなの?アタシたちをレンタルするだなんてサ?」

「はじめて聞くハナシだわ。でも“ちびピエロ”が許しはしないわよ──きっと」 

「そう……そうよねェ?大丈夫よねぇ?アタシたちに、そんなデリヘルみたいなマネを……」

 

 『美月』は、光沢ストッキングの上から網タイツを重ね履き。

 『菜々』は、彼女のタイツのシーム※が直線になるように、慎重に合わせて。

 それが終わると、つぎに股間にある前後の穴を、ふたつながらにシンクロさせる。

 

 ──ふぅ……よし、と。

 

 淫(みだ)らな衣装を身体にまとわせる準備は、できた。

 『美月』は、革製の重いバニーコートに網タイツが飾る両脚を入れると太ももまで引き上げ、女を嬲る性具が脚のつけ根にとどく寸前で、部屋にあったイスに片足を乗せ、大きく“おまた”を拡げる。

 

「さ、なっちー。姦(や)ってちょーだい」

「うーん、もうチョットそこ拡げて……そぅ……いぃわ……」

 

 ツン。

 

 『菜々』の手で、ストッキングに開いた二つの穴を通し、おまんこと肛門(アヌス)の入り口に、ローションでヌメるディルドーの亀頭が当たったとき。美香子は不覚にもプルル……ッ。身をふるわせ、じんわりと蜜を吐いてしまう。

 

「さ、ミッキー。いいコト?……イクわよ」

 

 ぬッ。ぬぬぬ……

       ぬぅぅゥゥゥゥ……っ。

 

「んふぅ──ッ!」 

「だめよミッキー。もっとチカラぬいて!」

「そッ、そんなこと言ったって……ンんん……ンはぁ!……ん♪」

 

 血管まで模したディルドーは、ミチミチと前後の穴に挿入されてゆく。

 サスがにキツさを覚えた『菜々』は──ずろろろろろ……っ。

 一度ゆっくり引き抜くと、ふたたび美香子の体内に、むりむりむりッ……と押し込んで。

 

「ぃやァん、なっちー!ひとの肢体(カラダ)で遊ばないで?」

「そんなコトいったって!ミッキー締まりがヨすぎで挿入(はい)ンないんだもの!……」

「なら、もうチョット静かに姦ってヨォ」

「精一杯やってるのよ?コレでも……いやッ、髪つかまないでよっ!おミミが取れちゃう!」

 

 フラつく身体を支えようと、『美月』が『菜々』の頭をつかんでバランスを取ったのだ。

 しだいに険悪になる女たちの会話。そして行動と応酬。

 様々な想いが重なり、フロア・レディたちも余裕が無くなってきている。

 

 やがて──。

 

「オッケーよ……ぜんぶ……挿入(はい)ったァ」

「あぁッ……きっ……きつひィィ……」

「さ、ミッキー。いっかい蹲踞(しゃが)んで」

 

 イスから脚を下ろした美香子は、言われるままグゥゥん、としゃがみ込む。

 挿入されたディルドーがひときわ深く“女”を穿(うが)ち、そこへ……グイッ!毒々しい赤のマニキュアをつけた『菜々』の手が、バニーコートのクロッチで掩われる美香子の股間を押してディルドーの尾部を、さらに彼女の中に沈め“とどめ”を刺した。そして余ったローションやにじみ出た愛液などを、化粧用のコットンタオルて丁寧に拭く。

 

「さっ、さぁ。これでイイわ?ミッキー。立(・)っ(・)ち(・)して」

 

 『美月』を立たせると、『菜々』は彼女の背中に回り、尻の上から伸びるジッパーをジリジリジリッ……とあげる。

 

「いやァっ!これ──ウェストきつくない?」

「仕方ないわよ。拘束具をかねてるンだもの」

「なっちーほどオッパイないからナァ」

「ナニ言ってんの。そんなにカップみちみちで」

 

 ジッパーがようやく上まで上がったとき。

 『菜々』はつまみのエンドが“ロック仕様”になっていることに気づいた。

 持ち手をスリットに入れてロックしてしまえば、自分からは外すことが出来ない仕組み。

 『拘束服6号』のウワサは彼女も聞いていた。身体の感覚を良いように編集される奴隷製造服。

 

 ──コレを着せられたミッキーは……。

 

 勝手にバニーを脱ぐことができず、客に好きなように嬲られ、蹂躙されるのが目に見える。

 ふと──チャンバーの表で待っている、彼女と知り合いな青年の顔が浮かんだ。

 この仕事に就いてから、はじめて(……良いなぁ)とおもった男子。

 『美月』は邪険にしているが、気のないハズがない。

 

 ──あのヒトを……自分の彼氏にしたい……。

 

 『菜々』は心を冷たくして、窃(ソ)っとジッパーの持ち手をスリットに差し込み、ロックする。

 これでバニー・コートは専用ピンをホールに差し込まない限り、ジッパーは下ろせない。

 「ピチリ!」という音は、彼女の耳にまるで雷のように大きく轟いた。

 それは決してウサギの耳を付けているせいではなかったろう。

 

「──なに?……なんの音?」

 

 金髪をユサユサとゆらし、『美月』は小首をかしげる。

 

「え、なんか聞こえた?……さ──かわいいポンポン尻尾、つけたげる♪」

 

 後ろめたさを押し隠し、『菜々』が、バニー・コートがピッチリ包み込む『美月』の豊かな尻に、フワフワのバニー尻尾をつけている間。

 拘束服6号をまとわされた『美月』はウサギ耳を頭にピン止めしてから、エリ付きの蝶ネクタイを首に巻く。そしてエメラルドが煌(キラ)めくカフスボタンで手首を飾り、最後に恐ろしいほど高いピンヒールの赤い靴を履いた。

 

「……ようやく出来たわねぇ」

 

 『菜々』は一歩下がり、“同僚”の仕上がり具合をメガネ越しに眺める。

 そして彼女自身、畏ろしいほどの出来映えであることを、認めざるをえない。

 

「……ウン──佳(い)いわ?ミチミチして、とってもイヤらしくてセクシー」。

「そう……だいじょうぶかなぁ?」

 

 『美月』は身体をねじり、ひときわエッチな拘束バニー姿の自分を見下ろして確認する。

 

「だいじょうぶ。アタシが男だったら、きっとホツとかないわね」

「……お尻とおまんこに入れたヤツの感じ強すぎて、まっすぐ歩けないカモ……うふっ♪」

 

 コンコン、とチャンバーの扉をノックする気配。

 

「『美月』サマ、ご用意は出来ましたか?お客サマお待ちです」

 

 外から『フクロウ』の取り澄ました声……。

 

 




※ジョニーは戦場に行った:1971年製作のカンヌを獲った映画。
※シーム:網タイツをはいたとき、モモ裏やふくらはぎに走る合わせ目。
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