試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【18禁版】 作:珍歩意地郎_四五四五
重サンをウネウネと吊り上げる触手の向こうに、敵性トラックのヘッドライト。
こちらに殺気の照準を向けているのが、まざまざと感じられる。
「くッ……【SAI】!こっちもEMPだ!!」
『Negative。先ほどの敵性トラック対応で、攻撃容量が残っていません』
みょうに冷たい反応が返ってきた。
「二次駆動用バッテリー満タンにしてなかったのかよ!【ボニー】のヤツ!」
『彼女のせいではありません。相手を制圧するためEMP攻撃が0.5秒に6回必要でした』
「残弾ゼロってことか?ならコッチも捕獲用ケーブルで、勝負だ!」
『この接続ケーブルは情報の高負荷転送に耐えられますが、それでもタイムラグは生じます。完全状態の敵性トラックと渡り合うのは、明らかに不利です』
「ッハ!?じゃこのまま、あのオヤジ見捨てろってェのか!」
『残念ながら現時点でトラックのAI対決では勝機がありません』
いつもの“アホAI”らしからぬ理路整然とした音声。
そこでフト気がついた。
もしや──【SAI】のヤツも、余裕がないのでは。
チャラけた態度に割くリソースがないため“
──くッそ!……ならば!!
『仲間は絶対に見捨てない』
これは歩兵たちの鉄則でもある。
『マイケル!なにをするのです』
「あれだけ映画みててワからんかァ?」
ハ!と、オレは自分の口元がヒクつくのが分かった。
最高だぜェ!とアタマの中で、そんな声が。
バカな……あり得ない!と、もう一人も。
「こういう時ァな──“体当たり”
……って相場がキまってンだよぉォォッツ!!」
後輪がホイル・スピンをおこし、車軸が左にブレる。
普通なら【ボニー】がオートで修正してくれるのだが、つまりそういうことか。
重サンを宙づりにしてたトラックは、目くらましのつもりかハイ・ビーム。だがそれは突っ込む目標の位置を知らせてくれるだけだ──バカめ!
こちらが特攻をかけると相手が理解するのに若干のタイム・ラグがあったらしい。
相手が重サンを高々と宙づりにしたままバックするのに数秒かかった。だが、それだけあれば十分だ。
同ベクトルの速度差で若干いきおいを相殺されはしたものの、頭突きのように相手のフロントを一撃。こちらの方が大型なので、F=Mαの法則で相手のフロントグラスにヒビがはいり、バック中の敵トラックはバランスをくずして車体が横をむき停止した。
「コレは【ボニー】の分!」
オレはギヤをバックに入れると後進をかけ、闘牛場の雄牛よろしく距離をとる。
すぐさまシフト・ノブを一速に動かすときの高揚感。
死刑宣告のようにアクセルを一度吹かす。
「そしてコレは──
ふたたび突撃に転じたとき、相手は超信地旋回で車体をターン。
ケツをまくるかのようにタイヤから白煙をだして逃走にうつる。
「逃がすかぁッ!」
突進したとき、急に【SAI】がブレーキをかけた。
いきなりエンストしてガクリ!トラックは止まる。
グエッpツ!またも胸をうちつけ、吐き気が。
「なんだ畜生、ジャマするなッ!!」
『マイケル。相手は人質を投げ捨てました』
「なにぃッ!?じゃ……重サンは、ドコにいる!?」
『いま──轢きました』
「え”」
下部モニターをチェック。
「あぁッ!重サンがダブル・タイヤに轢かれてヒクヒク
『心音微弱……もうすぐ心停止かと』
「チッキショォォォォッ!!ヒデぇことしやがる!」
『えぇ……?』
折れ曲がった体の具合から、もう助からないことはひと目でわかった。
・敵に囲まれる現状。
・相手への報復。
・同僚の処理。
最適解は──。
・重サンをすみやかに転生処理。
・包囲されるCYからの逃走。
・相手の追撃にうつる、だ。
「【SAI、重サンを
『了解しました……では、と』
捕獲用触手が繰り出され、重サンの背負うリュックを取り外す。
「おぃ……ナニをやってる?」
『“
「そんな、重サンを火曜日の資源ゴミみたいに……」
『転生装置には、なるべく余分なモノを入れない方が機材の寿命を延ばすのです』
「そりゃまぁ、そうだろうケド……」
そのとき、後ろからヘッドライトが照らされた──2台いる!
「急げ【SAI】!もう時間が無い!」
『承知。走行しつつ転生処置を実施。モーター駆動は使用不可』
エンジンをかけ、オレは
だが──ダメだった。金網張りな入り口のゲートは閉ざされ、まえに一台、黒いトラックが。
上空をドローンの影。数機飛び交うのが備えつけの対空レーダーでもうかがえた。
『出口はありません。あのトラックと差し違えますか?』
「まだまだアマいぜ、【SAI】、こうすンだ!」
オレは来た道を後進。
やがて目ぼしをつけていた場所にくるとギヤを前進に切り替え。ハンドルを切って、そこの薄い金網フェンスをブチやぶった。
植栽を踏み荒らし、立木をヘシ折って、しばらくゴトゴト、ユサユサ走り、最後に歩道のガード・レールを踏み倒せば、ようやく工業地区の一般道だ。
「よォし出た。【SAI】!ヤツの足取りはトレース出来ているんだろうな?」
『確認中──完了。現在高速の入り口に向け国道を西進と思われます』
──逃がしゃしねェぞ……。
コンバット・トラッキングで敵の足跡を発見・追跡に入るときの高揚感。
殺意と作戦成功の予感が、全身をアドレナリンとともに駆けめぐる懐かしい感触。
深夜ゆえ交通量が少ない道を、制限速度や信号機など無視して、まるで血の臭いをかぎつけた猟犬のように突っ走る。
上空に例のドローンは見えなかった。たぶん足がつくことを恐れたんだろう。
『目標、前方500mに接近。赤信号で停車中』
「【SAI】、転生トラックが発信する
ここから先は、慎重にいかねばならない。
闇雲に突っ走って体当たりすればイイというワケでもないのだ。
おなじ高速の入り口を目指すと思われる大手物流トラックの後ろにピタリ、ついて接近する。
だが、あともう少しで渾身の追突を!というところで……。
『敵、我々の接近を察知した模様。赤信号を無視し、急速発進』
「──っチ!」
加速を手動でブースト・モードへ。
赤ネコヤマトのトラックわきから、こちらも猛然とダッシュ。
彼方に遠くなるテールランプの灯を、逃がすか!とばかりに追う。
──しめたッ。
行く手。かなり大きな交差点で深夜でも交通量がある交差点。
信号は赤だ。あの流れをムリヤリ突っ切るワケにはいくまい……。
と、どうしたことか、急に交差する信号側が黄色になり、やがて赤へ。
かわって我々の進行側が青になり、そこを黒いトラックは矢のように直進する。
『マイケル。敵は信号機に干渉した模様。はやく差を詰めないと、赤にされます』
スーチャを手動展開。
燃料消費量がハネあがる。
気張れ、スカニア!スウェーデン魂を見せろ!
黄色から赤になるタイミング、ギリギリなんとか突破した。
「くっっっそ!」
次から次へと、敵は行く手の信号機を強制的に青に変えながら進行してゆく。そして自分が通過したら、すぐさま黄色から赤へ変えるのだ。
2台のトラックはそのまま夜の国道を
「畜生──ムシャしやがるぜ……」
『アナタもです』
相手につづいて高速のランプウェイを駆けのぼり、猛然とETCのゲートを通過し、彼我は本線に合流する……。
「ダメだ、離される!……【SAI】、加速用モーター!まだダメか!?」
『EMP攻撃用の急速充電をあきらめれば、可能です』
「かまわん!ぶつけて仕留める!!」
とたん、モーターが駆動する高周波音。
加速は爆発的に増加し、頭上を流れる照明の勢いとセンターラインの流れが段違いに。
自分の目は、彼方を爆走する謎の黒い轢殺トラック、そのテールランプに釘付けとなる。
「よくも──重サンを
『…………』
* * * *
ここで話は、ようやく75話のアタマにもどる。
あれからジャンクションや、立体交差、ループ橋での競り合いをつづけてきたが、どうにも相手の方が速くて追突する射程距離に入らない。
『マイケル。EMP照準・検知。シールドMODEに入ります』
「くそ!あのトラック、後方からも攻撃ができるのか?」
その時、後方からハイビームが爆音とともにが近づいてきた。
追い越し車線を走るこちらに激しいクラクション。改造マフラーから派手にバック・ファイヤー2,3発。荒いハンドルさばきで車線変更すると、走行車線からそのまま追い抜いてゆく。
青いボディに白いストライプ。無意味に幅広なタイヤと思いきり下げた車高。
おなじくワケわからん糞デカなリヤ・ウィングには
“
という、アタマ悪そうなステッカー。
『照準用・予備高周波を検知──来ます』
イキった走り屋の車が走行車線から追い越し車線へ移ろうとした、その時。
いきなり走り屋のフロントが流れ、中央分離帯へ激突し、華麗に夜空を駆け上がった。
「バッk──!やりやがった……ッ!」
とっさに左へと回避。走行車線にだれも居なかったのは幸いだった。それでも後ろが流れ、立て直すのに冷や汗をかく。走り屋はボディを粉砕させながら何度も横転し、道路の真ん中で車線をふさいで
パーキングを引いて、リヤをスライド。
反動で振れたボデーが、走り屋の残骸をよけるが、“おつり”で反対側に流れたぶん、路側帯のポールをニ、三本なぎ倒す。
しかし、このおかげで車体はビンタを受けたように正中にもどり、ガランとした三車線の中央をガタつきながら走っていた。
『マイケル。左5番の外側がバーストしました』
──くそ……。
たぶんポールと接触したとき、タイヤのサイドウォールに当たったんだろう。
オレはアクセルをゆるめた。敵のテールランプが、みるみる遠くなってゆく。
『マイケル。発電のため、このまま高速走行を、どうぞ。転生執行用の電力も不足です』
「わぁったよ、【SAI】……あとどれぐらい必要だ?」
『充電完了予測でしたら、あと1h15min36sec』
この先のインターで折り返して帰路に向かえば、ちょうどそのくらいになる。
オレは高速をおり、メインの通りを外れてアスファルトの路面も荒れ果てた、車通りの滅多になさそうな横道に入るとトラックをとめて運転席をおりた。
街外れの新鮮な空気に混じる草の香り。
いつのまにか勢力を増している虫の合唱。
高架を呻りながら
その明かりを頼りに、車体をグルッとまわり被害状況を確認。
──さすがは轢殺トラック……。
改めて自分が乗る車の底力を実感する。
意外に損傷は目だたなかった。歪みやヘコみも、夜間なら無視できる。
もともと人体を粉砕するために、各部が鋼鉄で頑丈作りに出来ているのだ。
一番目につくのはフェンスを強行突破するときについた、ボデーを斜めにはしるスリ傷だろうか……。
安全確保のため⊿の輪留めをタイヤにカマし、ボデーとキャビンの隙間から予備のタイヤを捕獲用触手でクレーンのように吊り上げ、後輪まで持って行くとデカいタイヤを交換する。小一時間後、アウター・ナットを渾身のちからをかけて締めつけ、最後に工具ですべてのホイール、タイヤをぶっ叩いて確認したころには、全身汗まみれとなっていた。
キャビンにあった2リッターのペットボトルを持ち出し、月光の下、上半身ハダカになって残っていた水をふりかけて浴び、すこしスッキリ。
空調のきいた運転席にもどり、あちこち蚊に食われたところをボリボリ掻きながら、そのときになって初めて、
──そういや、フィヨードルのヤツ……どうしたろう。
アタマに血がのぼって、敵性トラックをブッつぶすことと、その後の後始末しか考えられなくなっていたが、いまようやく余裕が出来てみると、同僚の状況が気になった。
コンソールの下にある手動送信用のキーを押し、
「フィヨードル、フィヨードル、こちらマイケル──感あらば、送れ」
へんじがない。 ただの しかばね のようだ。
『ダメですマイケル。EMPを受け、当車は転生関連をのぞく電子機材の65%を喪失』
「じゃぁ、向こうのトラックもダメだな……【ボニー】はどうだ?」
『ラボに送らないことには状況不明です』
「まさか、ここまで育成したのに……?」
ガックリと、オレはインジケータの極端に少なくなった寂しいインパネを眺めた。
また最初からやりなおすんじゃ……とうていヤリきれない。
『最悪──というか“最良”の場合、
「なんだ、最良ってのは。またイチからってのは、ゴメンだぞ?」
『しかし、おかげでトラックとAIの構成に関するアーキテクチャーの解析は完了しました。強制的に外部からの干渉を可能とするセキュリティ・ホールも多数、検出が出来たのでケガの功名です』
「やっぱり。外からコントロールを奪うことが出来るのか」
『設計思想と、車の目的からすれば当然でしょう。野放しに出来るはずがありません』
「やはり転生協会、食えない連中の集まりだな……」
『……そういう
みょうな声で、生意気にも【SAI】が反発した。
「ウルセー。お前だって似たようなモンだろ!」
『
一拍の沈黙。
『マイケル……ワタシ、なにも言ってませんよ』
「……聞こえたろ?いまの」
『たしかに車内スピーカーから音声が流れましたが、秘匿通話回線を使用した形跡はありません』
エンジンの音と路面からのタイヤの音だけが支配する空気。
コンソールにある秘匿通話回線のボタンを押して、
「フィヨードル?フィヨードル、あんたか?」
『…………』
応えは、なかった。
いささか肌寒くなってきたキャビンで、オレはトラックのエンジンをスタートさせた。
ズシン!
なかなか発振しない車体が、なにかを乗り越えたように揺れる。
その時になって、⊿の輪留めを外すのを忘れたのにはじめて気がつくも、いまさら外に出て回収するのはイヤだった。いそいでナトリウムランプのオレンジな灯火がふんだんに拡がる、明るい高速の入り口へ。
ランプウェイをのぼり、無人のETCゲートをくぐり、車の流れに乗ったところでようやく一息。そのまま、彼方から流れ寄せるセンターラインを
【SAI】に話しかけようとしたが、そうするとまたあの気味の悪い声が流れそうで怖い。
この沈黙は、トラックが馴染みの地域に近づき、車載AIが充電完了を告げるまでつづいた。
高速を降りて、どこか目立たぬ場所に停車することを提案しますという【SAI】にしたがい、工業地帯で夜間操業を行っていない工場を選びだし、その道路わきにトラックを止める。
と──いきなりリュックをつかんだ触手がトラックの下面から伸びてサイド・ウインドーをコンコン……。
『ハイこれ。元・ドライバーのリュックです』
パワー・ウィンドーを下ろし、リュックをつかむと触手は素早くもどってゆく。
『注意して下さいよ?たしか爆発物があるとか言ってました』
「……そうだな」
『ここにきて『恐怖の報酬』ごっこなんて、ゴメンですからね?』※
【SAI】のヤツに余裕がでてきたのか。音声が、いつものようにチャラけた調子に。
血の跡が残るリュックをあけ、古着らしい衣類をかき分けると、底の方にオリーブ・ドラブに塗られた金属製の物体がいくつか見つけた。穴をいくつも開けた250ml缶のてっぺんに、手榴弾の頭をつけたような形。コンゴの記憶でも、この手の武器は使ったことがなかったが、対テロ戦を行うローデシアSASの連中が使っていると耳にしたことはあった。
『では──始めます』
車体が、ゆるやかに
ボリボリボリボリ──例によって、イヤな
自分の
オレは手にした
──哀れ、老ドライバーよ。願わくば転生先に、タバコのあらんことを……。
『マイケル。転生執行、終了しました。電力槽が再度レッドラインです』
「エンジン駆動で帰投する。自律航行、出来るか?」
『敵性トラックとの交戦がなければ。運行は【ボニー】不在でも100%可能です』
フンス!という勢いの【SAI】。
「そうだ、重サンの転生先は、モニター出来ないよな?」
『キャビンのシステムが壊れてるのではムリですね。記録メモリーのフォルダーも損壊を確認』
はぁっ、とオレはため息。
「じゃぁ例によって最寄りの駅まで。そこでお前をコインロッカーに隠す」
ハンドルから手を離したとき、オレの携帯が鳴った。
画面を見ると──
シカトしようと思ったとき、強制的に通話は繋がる。
『マイケル……すぐに通話に出ろ』
「う……いやぁ、その。所長もこんな夜中まで大変ですな」
『こんな夜中に不穏な連絡をされる身にもなってみろ。お前ぇぇ──なにやった?』
“連絡をされる身”
ということは──もう今回のドタバタが知られて、通報されたということか。
あるいはフィヨードルからサルベージ依頼があって、それで発覚したとも考えられた。
と……なると事情聴取を受けるまえに、あの大男と話の“口裏”を合わせておきたいものだが。
「なに、って。通常の業務に関する活動ですが。それよりも、ドコからの連絡なんです?」
『キミの知ったコトではない!』
いきなりキレる所長。
『まえにもあったな?こんなコトが!執行用トラックを破損させおってからに……『第三会館』にて
「ちょちょちょ──所長!」
通話を切られかかる雰囲気に、あわてて引きとめる。
『あぁ?なんだ!』
「フィヨードルは?フィヨードルから連絡があったんですか」
フィヨードル?と相手のいらだたしげな声が一転、用心深そうな気配に。
通話口の向こうで、あのデブが考え込む姿がアリアリと見える気がした。
『ヤツが、どうかしたか?あいつも……この一件にカラんでいるのか』
「この一件、とは?」
『コッチが知るかッ!いいか?決して時間に遅れるな?』
そう言って今度こそ通話は切れた。
『意外とバレるのが早かったですね。
「悪事のワケないだろ?コッチは転生執行をジャマする黒トラック軍団に対抗しただけだ」
『お尋ね者になっている元・ドライバーの逃亡を幇助しました』
「手助けしたのはフィヨードルだ。オレは貸した金を取り立てに……うん、コレでいこう」
『いずれにせよ、第三会館からの無事なご帰投をねがいます』
「チェッ。どうせ
『当たらずといえども遠からず、です』
──こいつめ……。
* * *
第三会館──すなわち『六道ビルヂング』は相変わらずだった。
明け方に誰も居ないマンションに炊飯器を抱えて帰り、2,3時間ほど仮眠。
シャワーを浴び、相手方の印象を良くするため、夏用のスーツに服を着直して出撃。
添付されたマップは相変わらずわかりにくく、右往左往して時間ギリギリとなってしまった。
相変わらずの分かりづらい立地。
相変わらずの「ザ・昭和」とも言える外観。
白と黒の市松模様がチェス盤めくロビーも相変わらずなら、効き過ぎの冷房までも。
「いらっしゃいませ。御用件は」
靴音をアール・デコ高い天井に響かせ近づくガタイの良い守衛
相変わらずの重武装に、外来者への質問も相変わらずとキタもんだ。
「あー、ハイハイ。アクセス・コードだろ?──ホラよ」
オレが差し出す携帯の画面をハンディ・ターミナルで読み取り。
ピッ!という音が、広いホールに冷たく反響した。
これも前と同じ“相変わらず”だ。するってェとこの次は──。
ホール彼方のドアを向けば、思った通り。電子音に呼応したように自動でひらく。
だが、ここからが前回の筋書きと外れはじめた。
開いたドアからスカした足取りでヒールの音もカツカツと、1人の事務員がベストに包まれた胸をいそがしく揺らして歩み寄ってきたのだ。今回も冷たい感じの美人だ。そして結い上げた髪は──またしてもプラチナ・ブロンド。どうもこの髪の色には不吉な予感がして仕方ない。
「1130時来訪予定の執行ドライバーですね。コチラへどうぞ」
そういうやクルリ。きびすを返し、タイト・ミニの豊尻を振りたてて歩いてゆく。
ガンダムのようにパフ袖のふくらみ肩がついた制服ブラウスの背中に向けて、
「今日は、オレで何人目なんだい?」
「……」
「結構長くかかるのかな?」
「……」
「そうだ、長引いた時のために飲み物買っておきたいんだけど?」
「会議室にウォーター・サーバーが用意されております。ご安心を」
爽やかな声で前を向いたままハキハキと。あとはとりつくシマも無い。
前回とは違うエレベーターに案内され、頭をさげる彼女に送られて、エレベーターのハコに乗る。と──中は行き先の表示ボタンがなく、扉が閉まるや、いきなり下がり始めるではないか。
しばらくの後、チン、と扉がひらけば、そこは殺風景なコンクリ作りの廊下だった。
床と良い、壁といい、透明なアクリルペイントが塗られ、まるで汚れをふきとりやすくしているようなイメージ。
「いらっしゃいませ。こちらにどうぞ」
わっ!……またやられた。
ワキから、上と同じ制服を着た事務員。
まったくコイツらの気配の無さはなんなんだろう。
そしてショート・ボブにした髪は……またもやプラチナ・ブロンド。
──ん……。
オレは鼻をヒクつかせる。
まちがいない、血の臭いだ。しかも──まだ新しい。
床の照明を利用してよくみれば、モップで雑に何かを拭いたような跡がある。
立ち止まってヒョコヒョコ姿勢を変え、床の掃除あとを確認していると案内者は、
「お急ぎ下さい。予定時刻を
そう言って彼女は同じくタイト・ミニの尻を振りたて、うす暗い廊下の先を歩いてゆく。
やがて案内された扉の前を、女子事務員が節のような調子をつけてノック。
「はいりたまえ」
中からの声に、女子事務員は扉をあけて室内に入り、入り口わきで深々と頭を下げた。
ネクタイを直しつつ、あくまでオレは平静をよそおい中に入ってみると、広い会議室には正面に一文字のテーブル。そこに6人ばかりが腰掛けていた。
──畜生……まぶしいな。
彼らの背後の壁は一面に発光しており、個々の顔はよくうかがえない。
まるで刑事ドラマにあるように、電気スタンドを顔に突きつけられるような具合だ。
そして次に気づいたのだが、背後に2人。フロントでみたガタイのいいガードマンめく人物がゴム製と見える棍棒をもってオレを無表情に見つめている……。おまけにパッと見たところ、ウォーター・サーバーとやらは見られない。
「あぁ、彼らは気にせんでくれたまえ──どうか中央のイスへ」
言われるまま、オレはポツンと置かれたパイプイスに歩いて行くと、スーツの前ボタンを開けてから、あくまで余裕のフリをして座る。
そこから先は、オレの勤務評定や、最近の転生執行に関する話となった。
・現在の仕事に不満は無いか?
・給与(可処分所得)の使い道は?
・違法薬物等、社会的通念に反する行動はしてないか?
・事業所の所長や、他の転生ドライバーとの関係は良好なものか?
等々……根ほり葉ほり、キリがない。
すべてに当たり障りなく答えると、中央の(どうやら一番の年長者らしい)人物が、
「では……転生執行ドライバーとして、最近、なにか困ったコトは無いか」
──おいでなすったな……。
オレはパイプイスの上で身構える。
さて、どう出るか。ここから先は、チェスだ。巧い具合に、コマを運ばねば。
「実は……とある方面から、業務の妨害が入って、困っております」
「と──いうと?」
まぶしい中でも数人が身を乗り出すのが分かった。
「他の事業所か、あるいは同業他社かもしれませんが、黒い轢殺トラックに執行をジャマされるケースが2,3ありました。
「そしてキミは昨夜、その黒いトラックと戦闘行為を行ったわけだな?」
「えぇ、待ち伏せされました」
テーブルの端にすわる1人が、激した口調で、
「その場所に行った、理由は!?」
ホラきた。
オレは悠揚迫らず、ワザと落ち着いた身ぶりで、
「……以前の同僚に、会いにゆくためです」
「その元・ドライバーは協会の手を逃れて逃走中だ。
つまりフィヨードルの関与はバレている。
もしかすると──もう尋問された後かもしれない。
そう考えると、入り口で感じた血の臭いが、別の意味合いをもってくる。
「……違いますね」
「どう違うのだ!」
「その人物に、わたしは金を貸していたのです」
「金だと!?」
「札をゴッソリ持って行かれました。返してもらおうと思って」
激高した雰囲気が、ここでスン……とトーン・ダウンする
「じゃぁフィヨードル執行士の用意したパスポートやカード類は!?」
「その黒い“クソ転生トラック”が、ウチの車にEMP攻撃を仕掛けて暴走させまして。話題の人物ごと執行処理しちまいましたよ」
ここでヒソヒソと男たちの会話。
(──執行ログは……?)
(──自爆モードに入っていて、直近のものはサルベージ出来ない)
(──被疑者の答えは……ドローンの盗聴記録とも一致する)
(──空撮映像で【ボニー】車が死体を轢くところも確認済みだ……)
オレは地下駐車場に帰庫した時のことを思い出した。
驚いたことに、整備員たちが手ぐすね引いて待ちかまえており、満身創痍のトラックをソレッとばかりに取り囲んだものだった。おそらくこの連中から連絡がいったに違いない。
そして──目の前のオヤジたちの会話。
ドローン。盗聴。空撮映像。
やはり。黒いトラックは転生協会の別働隊なのか。
装備がやたら贅沢なのも、
眉をしかめ高速で考えていると、ふたたび中央の人物が、
「キミは……元・ドライバーが、
微妙な質問だった。
相手の確信的な口調。
すると、これもどこかで盗聴?
あるいはフィヨードルがゲロったのか。
と──ここまで考えるのに0.3秒ほど。そして1秒後には、
「いいえ。ウワサには聞きましたが、単なるヨタ話かと思ってました」
「信じなかった、というのかね?」
「だってそうでしょう?執行ドライバーを用済みだから消すというのでは、まるで『悪の組織』じゃないですか」
ここぞとばかり、オレは強調する。
「そんな、後ろから撃たれるような信用のおけない組織に、オレは雇われているんですか?」
相手の連中が、鼻白む気配。
「黒い轢殺トラックもそうですが!水面下でコソコソ怪しげな行動をされたんじゃ、前線にいるオレ──私たちトラッカーは、たまったものじゃ有りませんよ!」
「……」
「執行の妨害はされる、備品の申請はケチられる、用済みのドライバーは消されるじゃ、話になりません!」
「べつに、我々は『用済みの人材を処分する』などと言うことは行なっとらんよ」
まぶしいなかで目を細めると、中央の人物が組んだ手をアゴに乗せるのが分かった。
「ただ問題の人物は、情報をマスコミにリークしようとしていた。だから捕獲対象になったのだ。キミはどう思うかね?転生協会の内情が──マスコミにバラされるのを」
「そりゃぁ、まぁ……断じて避けねば、と考えております」
そうだろう、と相手は組んだ手の上で満足げにうなずき、
「我々は、警察やその他、法執行機関の手に負えないモノを処分することで、社会の
「そりゃぁ、まぁ──そうですけど」
「我々の組織も、多岐にわたっているのだ。黒いトラックの部隊も──存在は、把握している」
「それならば、対応策を──」
「一朝一夕には行かんのだよ、キミ……よろしい、コレまでだ」
いきなり強烈な灯りは消え、おれは6人の残像が網膜に刻まれたまま、暗闇に取り残される。
長テーブルからオヤジたちが立ち上がり、退出してゆく気配。
「待って下さい!フィヨードルは?巻き狩り隊の隊長は──どうなったんです」
答えは無かった。
かわりにガコン、扉が閉まる音。
と、天井のライトがまっとうな光量で灯り、入ってきたドアが再び開くと先ほどの女子事務員がプラチナ・ブロンドの頭を深々と下げ、片手を廊下の方に誘っていた。どうやら退出していいらしい。部屋にいたゴツい警備の2人組も、いつのまにか消えている。
廊下を逆に歩き、エレベータに乗り、チエス盤めいたロビーまでもどってきたとき、オレはジットリと冷や汗をかいているのに気づいた。猛烈な計算をやった後のように、頭がアツく、フラフラする。知らぬ間に相当な緊張をしいられていたようだった。
警備員を横に見つつ、真鍮取っ手のガラス製スイングドアを開ける。
忘れていた熱風──しかし冷えたような身体には、その暑さが有り難かった。
今回はタクシーの送迎はナシらしい。ま、あんな無愛想な運ちゃんに運ばれても、面白くないだけだ。いまは早くビールが飲みたい。
時間を見れば──なんと!はや13時になろうとする処じゃないか。
やはりそれだけ頭をフル回転させてたワケだろう。
──どうにかクリアしたらしいな……どうにか。
コトと場合によっては、後ろに控えていた警備員に頭を割られていたかもしれない。
血の跡を残しつつ、ふたりに足首をつかまれ廊下を引きずられる情景が見える。
ちくしょう……いつもながら六道ビルヂングにはヒヤヒヤもんだ。
雲一つない青空を見上げ、大きくひとつ息を。
そして、ひと気のないビル群の谷間を歩き出す。
そのとき、携帯が鳴った。
──マタかよ……こんどはなんだ!
画面を見れば、なんと……表示は美香子からだ。
思わず腕時計をみる。二つある短針のうち、フランス時間は朝の6時を指して。
「もしもし?」
『あ、ご主人サマぁ。元気ぃ?えーと、
「
『え~~スゴぉい。ご主人サマ、フランス語できるんだ。アタシねぇ?いまフランス』
なんだって!?とワザと驚いてみせる。
「まさか、歌のレッスンとかのためか?」
『ぴんぽ・ぴんぽ~ん♪大正解!』
ちょと離れていただけなのに、妙な懐かしさを感じてしまう。
オレはビルの日陰に入ると、そこのミョウちくりんなオブジェに腰掛けながら、
「エラいな、早起きじゃないか。そっち、まだ朝の6時だろ?」
『夜のレッスンと研修がこっちの時間で4時にオワってね?いろんな高級クラブで、乳首とおマンコ・ピアスつけて逆バニーとか、アニメのキワどいコスプレとか。フランスってほら、HENTAIアニメのいきおい、スゴいじゃない。
「……あのな」
『でね?でね?……ねェご主人サマ』
と、ここでなぜか一転。
この小悪魔は、きゅうに声の色合いを変え、通話口の向こうから不安そうにして、
『お姉ェ……詩愛サンって……フツーに
「なんだよいきなり。どうした?」
やや久しく沈黙があった。
美香子は、やがて恐る恐るという風に、
『夜明けにね、ホテル帰ってきてね?』
「うん」
『寝ようと思って電気消してベッドに入ったら──』
「ふむ」
『お姉ェちゃんが──悲しそうなカオして、枕もとに……』
※恐怖の報酬:火災消火のため、悪路を通りトラックで爆発物を運ぶという筋書きの映画。
1953年フランス版と1977年アメリカ版があり。(前者がオススメ
※2
※3