※この作品はR-18です。

試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【18禁版】   作:珍歩意地郎_四五四五

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     〃     (後:幻影と刻印付け

 

──“ちびピエロ”が、なんでアタシの夢に出てくるのよぅ!!!

 

 ムカっぱらを立てる『美月』だったが、すぐにその考えはフッとんだ。

 

 見れば『小男』は、あれほど小粋に着こなしていた白いスーツも今は血と泥によごれ、見る影も無くボロボロ。赤熱した手鎖でつながれた手首は焼けただれ、すすけた顔は誰かに殴られたものか、片側の頬が腫れあがり、醜怪な顔が、ますます竹中英太郎が描くところの怪漢(きもメン)チックになっている。※1

 

 王女は、そんなヨレヨレの醜男(ブおとこ)を小気味よさそうに冷然と眺めやると、

 

「よいか、下﨟(げらふ)。不埒(ふらち)な業(わざ)した罪咎(ばつ)を、これより先の下知……いや、命令にしたがうことで赦(ゆる)すのだ。有り難く思え!」

「ふらち?……って、“ちびピエロ”が、ナニやらかしたんです?」

 

 畏(おそ)れを乗りこえ、気がつけば『美月』は口をはさんでいた。

 いつかの晩。まだ4人がマンションにそろい、幸せな“家族ごっこ”が行われていたころ。

 夕食後の一家団欒で、炊飯器の【SAI】と大型モニターをつなぎ、全員で見た『桃太郎侍』。

 そこに出てきた、

 

 『ひとぉつ、ひと世の生き血をすすり、ふたぁつ、ふらちな悪行三昧(あくぎょうざんまい)……』

 

 ……というフレーズを思い出し、怖さより好奇心がまさったからである。

 すると、下の者からのいきなりな啓上(もうしあげ)にも、寛大なことに王女は激することなく、

 

「んぅ?ふむ……じつはこの阿呆めが身の程知らずに──」

 

 王女は焼けた鎖につながれる『小男』を指さすが、途中から巫女が口をはさんで、

 

「その“少女(おみ)”のかなしぅ(貧しい)乳を揉(も)まんとしたものぞ」※2

「はぁっ!?ダレが貧乳ですか!──だれが!」

 

 冠巫女の余裕めかした含み笑いな目線に、王女がいきりたつ。

 今まであれほど漂っていた神聖な雰囲気は減退し、どこかオチャラけたラノベ風味な気配が、そこはかとなく……。

 ただし──。

 喪服の老婦人だけは、相変わらず広間のすみに控えたまま、強烈な威圧を発する女たちと視線が合うのを畏(おそ)れるかのように平伏したままだった。

 

 冠の巫女は、プンスカする王女に対し、年上めかした余裕をかまして、

 

「さても。わらわ(子ども)は童(わらわ)らしうせんと。乳(ちち)と言うものは──斯様(かよう)なものぞ」

 

 おもむろに彼女は白衣(びゃくえ)の合わせ目をくつろげ──ユサリ……。

 きわめて大ぶりでカタチのいい、しかもピンクの頂をもつ純白の豊山(やま)をまろびだした。

 

「…………キレ~~イ……」

 

 またも『美月』は、われ知らず賛嘆を口にしていた。

 輝くばかりの白さ。そこに厳かさと神聖さをも加味したふたつの巨乳。

 同性から──しかも他の女を敵視する水商売に就く彼女をしても、ほれぼれと。

 灼けたクサリに繋がれる『小男』すら、痛みを忘れたかのごとくその美乳に眼を見はる。

 

「ふ……フン、ナニよ!おおきければイイってモンじゃないんだからねッ!」

 

 急に王女は腕組みをするとソッポをむき、ほおをふくらませスネてみせる。

 対して巫女は周囲からの賛嘆と羨望がまんざらでもないのか、フフン♪胸を揺らして。

 いきなり和(なご)みだす広間の雰囲気に加勢され、『美月』は引き気味なジト目で小男をニラみ、

 

「え~!ちびピエロ、おっぱい触ろうとしたんだ、サイテぇー」

「おっ、オマエは──『美月』!」

 

 そのとき、はじめて『小男』は自分の店のトップアイドルがいるのに気づいたようだった。

 次いでススだらけの顔をさらにゆがめ、首を振って痛ましげに、この超・高級サロンの店長は呻(うめ)いた。

 

「……そうか……お前まで、こんなトコロに来ちまったんですか……」

「ハナシそらさないでよ!HENTAI!」

 

 自分の夢だけあって、『美月』は雇い主に対し、ふだんできないような居丈高となる。

 繋がれてひざまづくバイト先の店長の面前で、彼女は腰に手をあてて仁王立ちに。

 読者的には、ハの字に広げた彼女の股下に店長がくる、おなじみのアングルで。

 

「なにオンナのムネ、勝手に触ろうとしてンのよ!」

「ちっ、ちがう、それは誤解ですお!って……」

「壺住民なの?アンタは!」

 

 もぅよぃ、もぅよぃ。これ以上ものがたり逸らすな(ハナシをそらすな)!

 

 巫女は自分の豊乳を白衣の中に収めつつ苦笑いして、中年男とギャルの諍(いさか)いを止める。そして鎖につながれる『小男』に、

 

「思ひ取りしか(理解したか)。前話(さき)に申した通り、検非違使(警察官)の『銭高』と、同輩(ともがら)の『こりんず』ぞ!」

「あ(・)の(・)男(・)の知り合いに、そんな奴がいるんですかい」

「“あの男”ではなく“マイケルさま”──であろうが!!」

 

 いきなり王女は傍らに立ててあった大剣を抜き放ち、秋水をその男の目前へ突きつけた。

 

「我は申したな?彼(か)のものを侮(あなど)ること──許されぬ!」

「は、ハイハイハイ。レイカさま、そりゃぁ、もう」

「そして!あの男を、そ(・)の(・)気(・)に(・)さ(・)せ(・)る(・)のだぞ?店で一番見目良いキャストをつかうがよい。チーフレディの『小枝子』や『麗華』をつかってもかまわぬ。イザとならば薬師(医者)のクスリを頼ってもな」

 

「まな(ダメだ)!──其(そ)れはな(・)ら(・)ぬ(・)ぞ!」

 

 ここで巫女のダメだしが大音声(だいおんじょう)に入った。

 

「あくまで、彼の益荒男(まいける)の本意(意思)に任すのぢゃ!!」

 

 神々しい女たちがにわかに下世話な応酬をはじめるなか、『美月』はヒソヒソ声で、

 

「……ちびピエロぉ、あのお姉サマたち、なんて?」 

 

『小男』は、ブスブス焼けただれる手首に顔をしかめながら、それでも気丈なコトに「ダレが『ちびピエロ』ですか!」と彼女をささやき声で一喝し、ニラんでから、

 

「おまえのマイケルさんが“プレ晩”で思わずキャストに手を出すような、そんな色っぽい段取りを付けろと」

「手を出す……って?」

「アタシに言わせなさんな!SEXのコトです!」

「えぇ!……っ?」

 

 いきなり『美月』が大声を出したので、ギロリ!女神たちの争いは止んだ。

 それが自分の背後だったので『小男』は気づかずに先をつづけ、

 

「本人が手を出さなければ、かわりに絶望させる段取りでもイイとのコトですよ」

「ぜつぼーさせる……って、チンコきるとか?」

「汝(なむぢ)……興有りな(面白い)コトを申すのぅ……?」

 

 巫女は、冠をいただく美しいひたいに青筋をうかべ、冷気をまとって『美月』に歩みよるや、ウィッグをつけないスキンヘッドな彼女のアタマを、伸ばした爪に血のようなネイル・グラデーションが目立つ指でワシづかみにガシガシとゆらす。

 

「ちょ……ッ!イタい!イタい!!」

「えぇ(あァん)!!!?」

「イタいですゥ、おゆるし……くだしゃぁぁぁぁ……ぃぃ」

 

 虚(うつ)けが!と巫女は、月曜の朝に生ゴミを出すような手つきで美月の頭を放り出した。

 そして、涙目で、ウィッグの留め具が光る自分のボウズ頭をさする『美月』を睥睨(ニラ)んで、

 

「近ごろの童は『礼』を識(し)らぬ!そ(・)ち(・)の教えが足らぬのではないかぇ!?」

「店主(ジェンチュ)!言われたぞよ。ぬしの教育カリキュラムが至らぬから!このような」

「みたまえ『美月』くん!キミのせいでアタシが怒られちまったではないですか!」

「オッパイさわったHENTAIに言われたかないわよ!──まって?」

 

 と、ここで『美月』はチャ~ンス♪とばかり小狡(こずる)い笑みを浮かべ、

 

 ──そうだ!コレはご主人サマと正々堂々、おま……チガう、“愛されタイム”に突入──。

 

 ぬばぁぁ……っっ。

 

 巫女が、己の冠に付く鳴り房も静かに、うつむいてほくそ笑む『美月』の後ろへヒラコー風味に佇立した。

 

「そなた──面白いコトを考えておるなぅ」

 

 ゴロゴロと、またもや空で雷鳴が轟く気配。

 ふたたび頭の上で、ゆるやかに巡る歯車の間をムラサキ色した放電が。

 

「阿呆な子……考えずに姦(や)ればよいものを……」

 

 ボソリ、つぶやく王女に巫女は眦(まなじり)をケワしくして、

 

「なんじゃと!」

「いいぇ?コッチの話ですわ」

「そも(だいたい)、このヒトの仔は、賽(賭け)の判者(審判)として喚(よん)んだものを……もう堪(た)ふに能(あた)わず!そちは命の畢(おわる)るまで、婀娜(あだ)に舞ひ狂へ!」

 

 巫女がいただく冠の鳴り房が、煌々(キラキラ)とひときわ鳴り輝いた。

 

「あぁっ……熱ィィィ……っ!」

 

 絨毯の上でつま先をゆらし、地団駄を踏む『美月』。

 なんと。彼女の足に巻かれた喪服の黒レースが、ユルユルと血がにじむように赤くなってゆくと、やがてそれは舞踏用の艶やかなエナメル革に変化するのであった。

 スケスケの淫(みだ)らなネグリジェも、スペインの浮気な女たちがフラメンコを踊るときにまとう、薄いフリルがいくつもついた赤いドレスに替わっている。

 

「はぁ!ぁぁぁ……」

 

 次いで『美月』は己のカラダを抱きしめる。

 広間に居る者全員が観れば、ドレスの薄ものをすかし、真珠のビーズが、頸や乳房、秘所などに巻きつき、締め上げ、食い込んでるのが覗えた。

 顔つきや体つきがみるみるうちに大人びて、しかし真珠の玉の連なりはサイズを変えないのだからたまらない。

 

 豊かな黒髪がウェーヴを波打たせて腰まで。

 濃いアイシャドーや、グロスの効いたリップ。

 耳朶からさがる、ダイヤモンドのような耳飾り。

 熱にうかされたような高ぶりと性的なエクスタシー。

 

 これらに翻弄され、全身を“人魚の涙”と別称される宝石の連なりに身を縛(いまし)められたまま。彼女は、まるで靴に踊らされるように華麗な足さばきで、豪奢なフリルのスカートを舞わせてひとしきり激しく踊ったあと、広間の中央で華麗なI字バランスをキメてみせた。

 形の良い脚が天にまっすぐ伸び、ドレスの裳裾がまくれて露わになる、その真っ白い無毛の股間。

 

 ツヤツヤ、ぎっちぃぃぃぃぃ……ンんん。

 

 ヒシヒシと真珠の連なりは食い込み、とくに肛門と膣口、それに女の核(さね)に当たる部分には、ひときわな大玉が愛液にまみれつつ、心なしか振動するように女の雫(しずく)を垂らし、キラキラとネバり気のある糸を、つつぅ……ッと引いている……。

 

「あッ、ぁツ、あぁ……っッッ!!……いくっ・いくっ・いくイクッ!!」

 

 だが、強制的にI字バランスで呪縛されるとみえて、彼女のカラダは微動だにしない。

 そのうえ表情まで操られているのだろうか?ニコニコと客に媚びを売るような、営業スマイルめく笑みで、本気汁まじりのラブジュースを間欠的に飛沫(しぶき)散らす。

 

 巫女がどこから出したか神楽鈴を鋭い調子で打ち鳴らす。

 神さび、朗々とした謡いの聲で、

 

 

「それ、舞え、舞え、白拍子♪

   舞わぬものな~ぁ、ら、猪(シシ)の仔や、狗(イヌ)の仔に、

       番(つが)わァせん~、はぁ~らぁ~まァ~せん♪」

 

(舞え舞え、遊女よ。

   舞わぬならイノシシの仔や犬の仔を使って、

         おマンコさせるぞ、孕ませるぞ)

 

 それから舞いは踊りとなり、囃(はや)す神楽鈴の調子はだんだんと迅(はや)くなる。

 

 ついには広い絨毯のペルシャ模様から青白い炎が妖しくゆらめきだし、その上をトランス状態めく表情(かお)をした『美月』が、ビートの利いた激しいコンテンポラリー(現代舞踊)を、赤い舞踏靴から火の出るような勢いで跳躍し、旋回し、回転して。しまいには、踊り手は白目をむき、口もとからアワを噛み、それでも手首足首、それに全身をはいまわる真珠の連なりが、彼女を糸のもつれた操り人形のように、関節の可動域も無視したムリヤリな動きをさせる。

 

 王女や老婦人、それに『小男』は、降って湧いたこの陰惨な情景を、聲もなく見守った。

 ただ独り。冠の巫女だけが、神楽鈴をあやつり、冽たい笑みを浮かべて楽しそうに。

 ただし、その瞳は笑っておらず、超然と何ごとかを見越すような目つきで。

 

「あぅ……あぅ……」

 

 激しいステップを強いられるパートで白目を剥いた『美月』がわずかに意識を取りもどし、かすかなうめき声をたてた。

 

 その時だった。

 

 片足を上にしてドレスを翻し、赤い渦となって旋回する『美月』の足もとにまろび出て、巫女に向かい額をすりつけ平服した者がある──あの、喪服の老婦人だった。

 

「お媛(ひ)ぃサマ!どうか──どうかこれ以上は……ッ!」

 

『賢しらがる(出しゃばる)でないわ!』

 

 激しい一喝とともに、老婦人の身体は電撃にに打たれ、ムラサキの火花につつまれる。

 これで呪縛が一時解けたのか、息を切らして『美月』もその傍らに倒れ込む。が、すぐに急変と成熟させられた重い身を起こし、膝立ちで老婦人にいざりよるや、

 

「お婆ぁチャン──お婆ぁチャン!!」

 

 『美月』は、飾り輪がキラめく大きな乳房をゆらし、老婦人をゆすり起こした。

 ややあって。老婦人は、かろうじてまつげをしばたたかせ、

 

「貴女(アナタ)。富貴ノ路(金持ちの道)を進むもイイでショウ……Mais plutôt.(デモ、ソノ代わり)曲がったコトをしてはなりませんよ……」

 

 ふるえる唇でそう言うや、乱れた白髪の奥から、キラキラした目で『美月』を見た。

 そしておもむろに自分の首から苦労して銀の十字架を外すと、その鎖を黒髪波打つ『美月』の首にかけ、

 

「Dieu regarde toujours(主は、いつも見てらっしゃいます)……」

 

 そう言ったかと思うと、卒然、絨毯からの青白い炎に包まれる。

 全員の見守る中、老婦人は微笑みながら、紙のように燃えて、消えていった。

 『美月』は肩をふるわせ、ややしばらく俯いていたが、やがてキッ!顔をあげ巫女を睨む。

 

「こぉのクソ巫女がぁぁぁぁっ!よくも──お婆ぁチャンを!」

 

 燦然、巫女の瞳が凶悪に光った。

 アチャー、と王女が手をひたいにあてて。

 ぶるぶるぶる……『小男』が赤熱する鎖に繋がれたまま身震い。

 

「あの媼(おうな)の魂(たま)は、輪廻(りんね)のながれに還ったのじゃ。祝着(しゅくちゃく)たる哉(かな)。しかして(だが)!」

 

 と、ここで巫女は『小男』をニラみ、

 

「赦(ゆる)せぬのは、この牝(め)の物言ひ……裂きて肥(こえ)の桶につけおくべきか或(ある)いは……」

 

 申し訳ございません!と『小男』はジャンピング土下座。

 

「キャストの失態は、雇用主の責任であります。どうか罰は、このあたくしメに……ッ!」

「よし──よき心構へぞ」

 

 巫女は無造作に“紅いウサギ”の店長を剣印で指さす。※3

 ボゥッ!たちまち『小男』の身体は、老婦人とは違うリチウムの炎色反応めいた深紅の炎につつまれた。

 

「あちッ!熱ッ!そんな!……ンぎゃぁぁぁあああああああああああ!」

 

 スーツが燃え上がり、肌が熱で泡立ち、炭化してゆき。

 やがて『小男』は一山の骨となって、哀れ絨毯のうえに灰となり積み重なった。

 大人となった『美月』は唇をわななかせ、それでもひるむことなく決然と、

 

「こんなことして……神さまのバチがあたりますように!」

 

 氷のような印象の巫女が、少しばかりゆるんだ。そして、

 

「……神、とな?」

「えぇ、そうよ!!」

 

「──此処に居るぞえ」

 

 そんな聲が聞こえたような気がした瞬間!

 『美月』の身体は硫酸銅めく緑の炎に包まれた。 

 

「あぐッぅぅぅぅゥゥ!!!!」

「それそれ──さらにヒヒめかせてくれようぞ!」※5

 

 ──熱い!息が出来ない……身体が動かない…… 

 

          助けて……だれか助けて……っ!!

 

 

 

 

 ──………………………………。

 

 

 

 ──………………………。

 

 

 

 

 ──………………。

 

 

 

 

 

 ──………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

「ミッキー……ミッキーってば!」

 

 肩を手荒く揺りうごかされて、『美月(ミッキー)』は顔をあげた。

 

 重い緞帳の表な緋色のカーテンに仕切られた、上級キャスト向けのパウダールームだった。

 カクテル・ライトで囲まれた化粧台に据えられる鏡。そこに真っ青な女の顔が映っている。

 手元には散らばった化粧品。マスカラの長い瓶がキャップを外したまま倒れ、台を汚して。

 

「えっ……えっ……?」

 

 扇情的な、深紅のドレスをまとう自分。

 ゼーハーと、大きく何度も深呼吸。全身から冷汗がジワリ、湧き出て。

 鏡越しに背後を見れば、ティーカップを持ったバニー・ガールたちが苦笑している。

 

「どしたの?だいぶ魘(うな)されてたみたいだケド……」

 

 細かい目の焦点がようやく合った。

 後ろのバニーふたりは、『みほと』と『しをん』だ。

 いつぞやの事件から『小男』直々に降格され、今はエスコート・バニーに格下げ。

 それでも辞めないのは、この店の福利厚生が他店にくらべ、あまりにもイイからに他ならない。

 

「アンタが!もうすぐ出番だってェのに、なかなか来ないから、サードがコレ持ってけって」

「シッカリしてよぉ?今夜は“プレ晩”だってェのに。一番の稼ぎ時じゃん!」

「イイ男みつけて玉の輿ネラわないと!今回もスゴいの来てるよ?」

「アンタのために、わざわざフロア抜けて来たんだから!」

 

 ──“プレ晩”……。

 

 そっか、と『美月』はおぼろげながら合点した。

 

 あのフランス出張中に見た奇妙な夢……。

 炎に灼かれて息が詰まったとおもったら、自分はベッドの上で目覚めたのだ。

 エロ重く成熟したと思った身体は相変わらず元のままで、ネグリジェも傍らにかかったまま。

 全身を巡っていた真珠の縛り痕もみつからず、ただすこし、おまたが熱くなり、ちょっと愛液がシーツを汚してしまっていただけだった。

 夢の印象が去らぬままボンヤリ帰国した自分は、プレ・万聖節の祭りが開かれている店で、出番を待つうちに化粧台に突っ伏して、うたた寝をしてしまったらしい。

 

「あれからずいぶん経つけど……リアルな夢だったわぁ……」

 

 『美月』はこぼれたマスカラ瓶を片付けつつ、降ってきた脱力感に思わず呆然とする。

 

 異形達が集う酒場……。

 あの世めいた風景……。

 冠をかぶった巫女……。

 中央アジアの王女……。

 赤い凶悪な舞踏靴……。

   

 

 そして、何よりも……あの、喪服の老貴婦人(おバァちゃん)。

 

 二人のバニーガールは、自らの肢体(カラダ)をギチギチに拘束して照り輝くエナメル衣装が、お股やお尻に食い込む状態を直そうとして、クロッチやヒップの具合をズラしつつ、

 

「なぁに?夢が、どうしたって?」

「ボケてんじゃないよぉ?もうすぐ出番なんだから──はいコレ!」

 

 『しをん』が、受け皿に載ったカップをズイ!と差し出した。

 中で湯気を立てる液が、受け皿にチョッとこぼれる。

 臭いは、クリームを入れたコーヒーらしい。

 茶色い液が白濁し、回転している。

 

「サードからよ。目覚ましに、って」

 

 サード?と『美月』は眉をひそめる。

 

 あの下品なミラー・サングラスをかけた男。

 店での序列が3番目である、チャラ系なキャラ。

 プレ晩の今夜は、よりにもよってアロハなんか着ている。

 本人は、この“格式高い店”でのジョーカー気取りらしいが。

 ようやく店主が帰ってきたものの、色々と店に目が届かないまま。

 評判悪いあの男を降ろせばイイのに、今晩は“表”のエリア担当させてる。

 この大切な晩なのに!あんなチャラ男にウロウロされたんじゃ、気が散って仕方ない……。

 

「どうしたの?さァ!──ハヤく飲んで、メイク仕舞っちゃいな」 

 

 “サードから”という言葉に、どこか引っかかるモノを感じた『美月』は、

 

「要らないわ……代わりに、そこのサーモス(魔法瓶)取って下さい」

 

 格下のキャストに“取って下さい”という言葉づかいになったのは、老婦人の薫陶か。

 バニーふたり組は顔を見合わせる。

 

「せっかくサードが作ってくれたのに……」

「はい、あなたの魔法瓶。中身はなにが入ってるの?」

 

 渡される砲弾型をした銀色の保温ポッド。

 『美月』はドレスのストラップがよぎる肩をすくめて、

 

「べつに──ただの白湯ですよ」

「うッわ。意識タカい系……」

「さすがァ。ウサギのトップを狙うだけのコトはあるわね」

 

 弾頭部分に見えるキャップを外し、薬きょう部分から湯気の立つ白湯をコップに注いだ。

 あたたかい湯が胃にしみとおり、全身をわたり、悪夢で冷えた体にいきわたるような。

 

 ──もう一杯……。

 

 飲むほどに、あの悪夢の記憶が薄れてゆく。

 冷え切っていた全身が暑くなり、うっすら汗をかくまでになってきた。

 メイク鏡の中で、『みほと』と『しをん』は黒いルージュを刷いた口もとに微妙な笑み。

 

 ──なによ!ニマニマと薄ら笑いなんかして……さ、早くメイクしないと……アレ…レ?

 

 『美月』がリップグロスの小瓶に手を伸ばそうとする……が、体が動かない。

 鏡の中で背後のバニーたちが目線を交わすのが見えた。

 次いで何やらヒソヒソ声。

 

(まだかな……?)

(叱(シ)ッ──即効性って聞いてるけど、念のため)

(あのヘンタイ爺(じじ)ぃのスペシャル注文(オーダー)なんでしょ?)

(人形(ドール)化の手術料別で20億だって!古いフェラーリ10台分だと思えば廉(やす)いってサ)

(MJD!?ふぇぇぇぇ……カネもってるヘンタイは、言うコトが違うわ)

 

 ナニをいってるんだろう、と『美月』はボンヤリする頭で考える。

 ムカつくことに、全身が電気で痺れたようになり、喋ることすらできない。

 

 ──人形(ドール)化の手術……?20億……?ヘンタイ爺(じじ)ぃ……?

 

 霞(かすみ)がモヤつくようなアタマで『美月』は考えた。

 鏡に映るバニーたちのほくそ笑む顔が、ムカついて仕方ない。

 でもなんで自分は動けなくなったんだろう。瞬きすら出来なくなって……。

 

(コイツの姉貴も、オーダー入ってるらしいよ?“ペアで”飾りたいんだって)

(じゃぁ、倍の40億?なんだ……すッごいわね)

(とーこーろーが。デキのいい姉貴の方は、血が繋がってないんだってサ。で割引価格)

(そういうトコ、金持ちセコいよね……ね?もういいかナ。目ェ開けたまま失神してない?)

 

 パーにした手がヒラヒラと『美月』の目の前を振れるが、彼女は瞬(まばた)きすら出来ない。

 

「アハハハハ。もう大丈夫みたい!完全に疑似石化しているよ、このコ」

「な?言っただろ。コーヒー持ってっても。コイツ飲まない、って」

「まったくねぇ。この仔の保温ポットにも、クスリ仕込んどいて正解ね♪」

「これでウラミが晴らせたわ……デカい顔ばっかしやがって、クソガキ!」

 

 ピシャァン!

 『美月』のほおが平手打ちに鳴った。

 

 ──痛い!なによ!クスリですってェェェ!?

 

 懸命に『美月』はジタバタ身を揺すろうとするが、相変わらず表情一つ変えられなかった。

 クスリが効いているのか、身体は動かせないものの、皮膚(はだ)の感覚はあるので頬(ほお)がヒリヒリ。

 それをいいことに、バニーのふたり組は好き放題にイタズラをする。

 

「ホラホラ、ごかいちょォ~~~」

「ヤぁだ、この子ったら乳首がチョー・シコってる」

「あははははははh!wwwwwコイツ、パイパンなんだ?クリちゃんマジ勃起w」

「人形化したらおマンコも、あの人工のイボイボ膣を移植されちゃうのかナ?」

「気狂い双子の手にかかったら、なんでもアリよ。口をマンコに変えられちゃった娘だって」

「え~~~?食事とかどうするの?」

「ノドにバラの形した肉ヒダつくって、その穴にチューブで完全栄養の流動食──ほら」

 

 『しをん』が腰からタブレットを抜き出し、何かをスワイプして『みほと』にみせた。

 

「ひぃぃぃ、エグぅぅぅ……ってか、なんで挿入ノズルがチンコの形してるの?ウケルw」

「このイキった“雌ガキ”だってどう改造されるか。まぁコイツを買ったオーナー次第ね」

「捕まったお姉さんの方も、同じようにされちゃうのかな?」

「たぶん“一対”で同じ処置されるんジャネ?そんで、豪邸の居間に飾られるのよ、きっと。さ……運び出す準備しないと。『美月』だってバレないように、そこに置いた革製の全頭マスクとって。内向きに生えた猿ぐつわも忘れないで咥(くわ)えさせてね?」

「おっけー……うゎ!このマスク重(お)っも!」

「よぉし、ギッチリ拘束しちゃうわよぉぉ?この、めすブタ♪」

 

 口をむりやりコジ開けられる『美月』。

 そこへ呼吸用の穴が貫通したシリコン製チンポが侵入、まずノド奥まで犯される。

 そのあと彼女のキレイな歯ならびをマウス・ピースが囲んで。

 

 ガボッ!

 

 重々しい革の全頭マスクが被せられた。

 苦しい。そして酔いそうなほど、真新しい革の匂い。

 後ろに付いたハトメで、スニーカーのようにギュッ!ギュッ!上から順に、キツく編み上げられてゆく。ときどきヒモを使って頭をゆすり、手荒に締め付けられて。

 

 目のあたりにパットが付いてるらしく、それが眼球を圧迫して、『美月』は暗闇にヘンな模様がみえてきた。口の辺りを巡るベルトが引き締められ、シリコンチンポが、さらにノド奥へと。つづいてアゴの下にあったベルトが上に回され頭頂部で締め付けられたらしく、マウスピースを噛む歯はキッチリと奥までハマり込み、ピクリとも動かせなくなる。

 

 外からくぐもった聞き取りにくい声が、

 

(この子は体調不良だから、今晩のショーは中止と伝えときましょう)

(えー、ダイジョブかなァ?***とかフロアまねーぢゃ~とかウルさくない?)

(ふふっ♪依頼は、その***なの。コレはナイショにね)

 

 ──なによ!肝心のトコが……聞き取れない!

 

 動かない身体にイラつきながら『美月』は半ばアセり、半ば焦れた。

 このままでは自分は、なにかとんでもない事になってしまうような、そんな予感と怖れが。

 

 ──依頼主って、ダレ?もしかして……ちびピエロ!?とにかく、早くなんとか……。

 

 心中、うそ寒いものを感じる『美月』をよそに、バニーふたり組は、

 

(げ~~そうなんだ……それはそうと、この歌姫(ディーヴァ)用ドレス着てたら運ぶとき目立つんじゃ?)

(そう思ってサ、奴隷用の運搬用具持ってきた♪──手伝って)

 

 筋肉と関節がシビれたような感覚のなか、身体にまとっていたオーダーメイドなディオールの超高級ドレスが手あらく引き裂かれ、シルクのクズとなって足もとに落ちる気配。

 

(いくよ?……いっせーの、っ!)

 

 M字開脚に持ち上げられたことで、『美月』は床に敷かれた毛足の長い絨毯を尻に予感して身構えるが、最初に触れたのは便座のようなU字型をしたゴムの感触だった。どうやら車椅子に乗せられたらしい。背中の空いた粗末な術衣めいたモノを上からかぶせられたあと、足首と手首を車椅子のひじ掛けと足板にある留め具でガッチリと拘束される。

 

(それからコレも♪)

(いや~ん。意識ないから、ソンナの無意味じゃない?)

(意識ナイからできるのよ♪さもなきゃ暴れてタイヘンだわ)

 

 ──ひぐぅ……ッ!!

 

 いきなり肛門に柔らかい棒状のモノがあてがわれたかと思うと、

 

 ぬぬぬ、ぬ…(ミチミチ)…ぬぅぅぅぅぅぅ……

              ……うぅぅぅ~~ッッッ!

 ローションの効いたヌメりで、いぼ付きの胴体が肛門の中を滑ってゆく。

 やわらかいイボが肛門を通過するたび、ヌプッ……ヌプッと括約筋が山を乗り越え、それが“マゾ美”と呼ばれたころに激しいアナル調教を受けた『美月』には、革の匂いが充満する暗闇で、尾てい骨から背中を駆けのぼり、脳天がしびれるほどの刺激となってアクメをよぶのだった。

 

(アラ……このコ濡れてない?……呼吸(イキ)もなんか、荒いような)

(まッさか!気絶してンのに。あとは、このシッポをアームに繋いで──っと)

(コッチのチョー、グロい『ドラゴン・ちんぽ』の方は~?)

(モチロン!いままで散々バカにしてくれたお礼よ!おマンコにブチこんでやるわ!)

 

 タップリ味わってもらわなきゃ、という『しをん』の声とともに、女陰の入り口が、細く冷たい指で割りひらかれ、何か大きいモノが侵入してくる。

 

 ──いっ!いやぁぁぁぁぁあああああああッッ!

 

 

 女が女を嬲(なぶ)るときの情け容赦ない手つきで、どうやら凶悪な張り型が自分のおマンコを犯しているらしいことに気づいた『美月』は、懸命にカラダを動かそうとするが、指一つ、それどころか声すらも出ない。

 

(それ……コッチも連結……ナニよこれ……硬いわね……)

 

 ガチン!音がして、何かが接続されたような気配。

 その時、パウダールームの扉が大きく叩かれて、男の声が、

 

(依頼のあった女ドレイの素体、受けとりに来ましたァ~~)

(ちょうど良いタイミングだわ。このコよ、運んで頂戴)

(良いスタイルしてそうなのに……勿体ないですね)

(余計なゴタクはイイから、サッサと運ぶ!)

(A-9エレベータの前までオネガイね?)

 

 声に『美月』は聞き覚えがあった──『童貞』クンだ。

 

 ──助けて!アタシはココよ!

   『童貞』!……『フクロウ』!……あひゃぁッ!

 

 考えは途中で残酷に引きちぎられた。

 なぜなら車椅子が動き出すと同時に、体内に挿入された2本のディルドーが、まるで車輪の回転と連動するかのように、膣壁、腸壁をミチミチ・ミリミリとイボで引っかきつつ、ごくユックリと上下運動を開始したからである。

 

 ──いやぁぁッ!

   ──こんなのってッ!

     ──んふぅぅ……ッ!

       ──はぁぁぁ……ん!

         ──あひぃぃぃぃぃぃ……ッ!

 

(おっ、見ろよドレイの運搬だぜ)

(奴隷用の粗布術衣着せられてるから分からんが……)

(ウム。けっこうイイおっぱいしているようだな。だれだ?果報者は)

 

 そう言う声がしたかと思うと一瞬、『美月』の右乳首は激しくモミしだかれる。

 どうやら来賓のいる通路を、堂々と運ばれているらしい。だが自分の股間を焦らすように犯す2本の責め具のおかげで、もはや彼女は恥ずかしさを感じる余裕すらなかった。

 

 ──だめっ!だめっ!だめっ!だめっ!

 

       ……いくぅ!……ぅゥゥ……ッッ──!

 

 

 革の匂いが充満する濃密な闇。

 それが一瞬、『美月』の目の前で真っ白になった。

 そして──今度こそ本当の闇となり、彼女の意識は快楽に堕ちてゆく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






※1竹中英太郎:江戸川乱歩などの小説を担当した絵師。
       当時流行したエロ・グロ・ナンセンスの一端を担った。
 
※2その少女の:ここで2人の“神格”は、巫女の方が数段上と理解できます。

※3剣印:ピースを閉じた手の形。呪法で使われる。

※4いつぞやの事件:17話:空白地帯への浸透偵察(4)~18話“紅いウサギ”の遥夜(1)参照

※5ヒヒめかせてくれようぞ!:ピイピイ言わせてやるぞ!

スイマセン
1話分ミスりました。
この76話のネタは、あと1回続きます。
(第77話:人形にされた『美月』に続く)

それが終わったあと……いよいよこの物語の最難関パート(かつ最大エロ回)に入ります。
皆々様、どうか宜しくご期待のほどを。
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