※この作品はR-18です。

試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【18禁版】   作:珍歩意地郎_四五四五

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  〃  Ⅱー2(『フェティマ』たち

 

 非常口めいた鉄の扉を開く。

 と……黒タバコの臭いは一気に強くなった。

 のぞいてみれば、そこは牢屋めいた鉄格子が両側にならんだ、薄暗い廊下のどん詰まり。

 汚れが落ちやすいよう、透明コーティングされたコンクリート敷きの床には水が撒(ま)かれたあとがあり、片すみには水を払うための床用ゴムワイパーとモップ、バケツ。加えて丸めたホースが置かれている。

 そして扉のすぐ手前、少し広くなった場所は──壁際に長机とパイプイスがならび、2人の男が腰掛けていた。

 

「よう。遅かったじゃねぇか、マイケル先生よォ……」

 

 タバコの臭いと、物騒な色合いをはらんだ金属音。

 もしや……と、予想はしていたが、いざ目の当たりにすると絶句せざるをえない。

 

「待ちくたびれたゼェ、先生……お前ェの招待状にァ、21時集合って、書いてなかったか?」

「……わたしの招待状、だって?」

 

 オレは2人の男たちを交互に眺めやってから応(こた)える。

 

「なんですソレ?わたしは知りませんよ」

 

 2人の男。

 

 そのうちの片方、金属音を響かせていた男は、なんとニコニコ転生協会の同僚、コリンズだ。トレードマークである左手の義手に仕込んだ飛び出しナイフをしつこく鳴らして、少し離れた場所にブッスリと座る相手を威嚇(いかく)するように。

 

 そして、もうひとりの相手は……。

 

 賢明な精鋭読者諸兄は、もうお察しのコトだろう。

 そう。あの銭高警部補が、トレードマークであるトレンチコートはおろか、ソフト・ハットもかぶらないまま憮然(ぶぜん)とパイプ椅子に腰かけ、その長い足を持てあまし気味に組んでいる。愛用の帽子をかぶらない警部補の顔は、どこか落ち着かないように見え、なによりテッペンの髪の薄さが目立つ。

 驚いたことに、ふたりとも紺のテール・コート(燕尾服)に真珠色のウェストコート(ベスト)。蝶ネクタイはもちろん、さらには胸に白いチーフをのぞかせるという、一部のスキもない“キメた”出で立ちで。何より、この連中のワードローブ(衣装ダンス)に、フォーマル・ウェアがあったこと自体が、一番のビックリといってイイ。

 

 ──ウソだろ。招待状に服装コードなんてあったっけ……?

 

「バァか。お前ェの招待状だよ。オレんとこの寮へ、直々に送ってきたンじゃネェか」

「本かn(本官)……いや、ワタシぁ部署に直接届けに来て、オドロきましたゾ?」

「それは……メガネをかけた中年男でした?」

 

 はぁ?という2人のハモった反応。

 

「お前ェが“書き留め”で寄越(よこ)したンじゃねェのかよ?」

 

 コリンズが不思議そうに眉をひそめた。

 

「そういやァ、持ってきた配達員がプラチナ・ブロンドの、ちょっとイイ女(スケ)だったナ。外人まで雇うたァ、郵便局も相当人手不足なんだナァ」

「本か……自分のところは、上司から直接手渡されましたが?一体どういうツテですかな」

 

 警察署内の勤務机で渡されたという銭高の言葉。

 信じられん……いや!警察上層の誰かが、あ(・)の(・)店(・)の顧客だとしたら?

 なにやら、また“紅いウサギ”のマジックが、ひそかに発動している予感。

 コレは気を引き締めてかからねば。ウッカリするとホンキで『ダッチ・ハズバンド』にされて、気づいたら有閑夫人(マダム)のマンコを舐めていた、なんてコトになりかねない。第一、あのバニーガール。こんなトコロに連れてきて、一体ナニをさせようというのか。そして、まるでこの場所を恐れるようにシリを振り立ててソソクサと、逃げるような急ぎ足で去って行ったのも気にかかる……。

 

 ──それに、ここの空気。

 

 銭高の喫(す)う黒タバコの臭(クサ)さに紛(まぎ)れてはいるが、よく嗅いでみると、消毒液。そして女の愛液の匂いがする。のみならず、大小便や血液……それに嘔吐物(ゲロ)の気配まで。喫煙者である銭高やコリンズの鼻では、この微妙な不吉さを嗅ぎ取れまい。

 念のため、廊下の両側にならぶ檻を数個、確認してみるが、せまい部屋のなかには、どれも黒いラバー・マットとトイレの他には何もなく、ロックが外れて「C」の字になった首輪だけが、長いクサリに繋がれて個々の檻に等しく放置されているのを観るだけだった。しかし一カ所、浣腸用とみえる大きなシリンジとカテーテルが、檻のスミに転がっているのが目を引いた。いったい何の目的で使われる場所なのだろう……。

 

「まぁ、落ち着いて待ってなよ」

 

 ウロウロと辺りを調べるオレを横目に、コリンズが今度は飛び出しナイフを固定したまま、どこから取り出したものか小さな砥石で、その長いブレードをシャリシャリとこすりだす。黒と白。フォーマルな装いの男が、この物騒な得物を黙然と研ぐサマは、辺りの雰囲気もあって一種異様なモノを感じさせて仕方がない。

 

「どういうワケか、ここは電波も圏外でよォ。携帯端末つかえず退屈(ヒマ)だが、この先のお楽しみ考えると想像がフクらんで、それもワルくねぇ……」

 

 とりあえずこのアホ同僚にはこれ以上、よりによって現役警察官の目のまえで違法な飛び出しナイフをひけらかすのを止めさせないと……まてよ?すると銭高は、自分が警察の人間であることを明らかにしていないのか。

 オレはコリンズに話しかけようとしたが、それより先に銭高が口をひらき、

 

「マイケルさん。そのゥ……」

 

 ここで相手はいくぶん言葉を選ぶようにして、

 

「……“目的の情報”は、確認して頂けたのでしょうな?」

 

 そう言って、この男はコリンズの研ぐナイフを胡散(うさん)臭げにチラ見し、

 

「もう長いあいだ──確認が取れてないのですが……」

「大丈夫。店長に確認してやるよ……それとコリンズさん、ソイツはやめてくれ。この店は格式を重んじるところなんだ」

「格式がドウとかァ知らねェが──」

 

 コリンズは急にニヤけ顔になり、義手に長いナイフをシャキン!と納めながら、

 

「ウワサどおり!女(スケ)が一級品、いや“特級品”ってェのは認めるな。さっそく一発ヌかれ了(チマ)ったァ」

「はぁ?ナニいってるんですか」

「アンタもスグに分かるよ。そこのウスらデカいオッサンも──いい思いしたンだろ?」

「……ワタシぁ挑発には、ノリませんでしたぞ?」

「ナぁんだ、もったいねェ」

 

 ワケの分からない、謎めいた会話。

 

 と──廊下の奥で、ガシャン!

 まるで金属が外れたような音がして、コンクリートの床を戛々(カツカツ)踏みならし、反響させ、人影がふたりばかり。薄暗い彼方から、檻のならぶ廊下をコチラへやってくるのが見えた。

 

「ほゥら──オイデなすった♪」

 

 コリンズがオレの顔をチラチラ見ながら、嬉しそうに。

 

「ナニが“おいでなすった”なんだ?」

 

 しかしコリンズは口元をゆるませ、ニヤニヤと応えない。

 ラチが開かないので銭形の方を向くと、この猟犬は自分のテール・コート(燕尾服)を黙って指さす。

 やがて……徐々に姿をハッキリさせたのは、大きな“膨(ふく)らみ袖(そで)”が肩口に付き、スカートの裳裾(すそ)がA型に広がる優美な黒いロング・ドレス。その上に、大きな白いフリル付きエプロンを着るスタイル──まるでヴィクトリア朝のメイド服を思わせるコスチュームをまとった、若い女のふたり組だった。

 

 ただし──デカい。身長は190ぐらいあるのではないか。

 

 おまけによく見れば、彼女たちの身を包む、ヒダのたっぷりついた優美な黒いメイド・ドレスや、その上に重ね着する白エプロンは、どうやら全部がツヤ有りのうすいラバーで仕立てられているらしい。目前までやってきた彼女たちが並んで足をとめ、優雅にスカートの両サイドを拡げて、チョッと腰をかがめて一礼する。そんな“お決まりのポーズ”をとったとき、それぞれの金髪と銀髪を飾る白いヘッド・ドレスまでもが、ラバーの光沢を艶やかに奔(はし)らせる。

 冷たく、硬い印象を放つ、美貌のメイド・ペア。

 パープルのアイシャドウに飾られた氷のような2対の瞳がオレを見下ろすや、ケーキの上に飾られたブルーベリーを想わせるグロス付きリップが交互にひらき、

 

「お待たせ致しましたマイケルさま。Bサイド勤務・F.T.M.(フェティマ)のシャーリーと……」

「……ハマです」

 

 相手から漂う、身長のせいばかりとも思えぬビザール(奇異)な威圧感。

 なんだろう……このラバーの黒ドレス女からは、血の気配さえするような……。

 そんな印象に何となく反発を覚えたオレが「ゴメンくさぁい」とさりげなくボケると※

 

「──それを言うのはお客様で100万人目です」

 

 『ハマ』と名乗ったメイドは眉一つ動かさず、冷静にリターン・エースを返してきた。

 客あしらいにも慣れているってコトか。Bサイド勤務ってことは、ウワサに聞くこの店の暗黒面“ウラ”に所属するスタッフかもしれない。店主のやつ、いよいよ“ウサギ”の本気をみせるつもりか。と、なると──コチラも気を引き締めてかからねば……。

 

「……ちえッ、こっちのギャグも月並みか。でも、なんだね『フェティマ』?って」

「Fetish(フェティッシュ)・Maid(メイド)の略だよ!なぁ?」

 

 いきなりコリンズが得意げに鼻をうごめかして、横から口をはさんだ。

 

「新人の“指導”役にして、フロアの“風紀係”……」

「“ゴメンくさい”たちに、そう説明されたんです?」

「コイツらの前に来た別の『フェティマ』が、そう言ってたゼ?だいたい名にし負う“紅いウサギ”のメイドさんだ。とおり一遍の役割なハズがねぇと俺ァ──」

「マイケル様」

 

 こちらの会話を断ち切り『シャーリー』と名乗った側が事務的に、

 

「お(・)召(・)し(・)替(・)え(・)の御用意ができております──どうぞ、コチラへ……」

 

 その言葉に、遅まきながらようやく気づいた。

 

 ──そうか!この2人も、着替えさせられたのか!

 

 やれやれ、道理で。おかしいと思った。

 パーティや晩餐会など、まるで縁(えん)の無さそうな、無粋(ぶすい)きわまるこの2人が、こんなにピッシリとキメてるなんて。しかし馬子にも衣装。両方とも仕立てたようなテール・コートが、おそろしく似合ってる。だがいまさら自分も貸衣装を着させられるというのは、ナンだかな……。

 

「このスーツじゃ、だめなのかい?」

 

 こんどは『ハマ』と名乗った方が、

 

「店主(ジェンチュ)の厳命ですので。そちらのおふたりは、もうじき別の者がお迎えにあがります。たいへん申し訳ありませんが、今しばらくお待ちください」

「ソレまで俺ぁ、ナマごろしってワケかぃ?」

 

 ニヤニヤとコリンズ。

 フェティッシュ・メイド達の目つきは、ますます氷のように。

 だが、場数を踏んだ轢殺ドライバーにとっては、それがむしろ“ご褒美”だったようで、

 

「オッとぉ!イイねぇその目つき……チンポしゃぶらせながら、そんな上目づかいされたら、たちまちイッ了(ちま)いそうだぜぇぇ……」

 

 このとき、フェティッシュ・メイド2人は、なにか顔を見合わせ暗黙の了解をしたらしい。

 仕方ない、とでも言うようにうなづきあって、

 

「──承知致しました。ではソチラのお客様も、ご一緒にどうぞ」

 

 ラバー・ドレスの彼女たちに促され、オレとコリンズは銭高を置き去りに、彼女たちがやってきた廊下を引き返す。こちらとしては、幾分ホッとする思いだ。この男がいれば、デカい姉ぇチャンたちに“逆レ”を受け、ムリヤリ“奴隷人形”にされるという危険性が減るかもしれない。イザとなれば、自慢のナイフに活躍してもらわねば。やはりこんな時にワルサーがないのは恨(ウラ)めしい……。

 

 コツコツと異様に足音を立てる『フェティマ』たち。

 硬いコンクリの床に、両側にならぶ無人の檻に、無限に響くよう気配で。

 彼女たちに従って廊下の端まで来ると、妙に頑丈そうな両扉で行き止まりだった。

 すると、電子音がして角材のように太い、鉄製とみられる閂(かんぬき)が横にスライド。大音響をたてる。

 あぁ、さっきの音はコレかと思うまもなく、グリスの効いた重そうな扉の片側は、オートでなめらかに開いてゆき、冷え冷えとした雰囲気は一転、なごやかなものになり、空気までもが快適に。目の前には緋色のカーペットが敷かれた、フランスの『パラス(宮殿)・ホテル』を想わせる廊下が広がっている。

 

「うへへ……コレコレ。もうキンタマも復活して満タンっす♪」

「もう、ココに来たことが?」

「まぁダマってこの『フェティマ』サンたちについて行きゃァ、間違いねェって」

 

 コリンズが左腕を撫でさすり、ヨダレを垂らさんばかりに相好をくずした。

 その好色そうなニヤケ面に、あえて聞き返す気にもならず、だまって更に案内されるがまま、フェティッシュ・メイドについて歩いて行くと、やがて2人は一つの扉の前で止まった。金の縁取りがついた、いかにも高級そうな木製の扉である。

 

「では──マイケルさまはこちらに」

「ソチラのお客さまは──しばらくお待ち下さい」

 

 まるで例の双子医者を思い出させるほど、息の合った2人。

 するとコリンズは、

 

「けッ!まァお前ェがしゃぶられンのを観る趣味ァねェから、おとなしく待ってやるかァ」

 

 あやしげな同僚のセリフ。

 それを背に、ややオレは緊張しつつ、彼女たちが開けた扉の中に入る。

 一見して……なんと言うことはない。様々な夜会服が下げられたキャスター付きハンガ-・ラックが、巨大なトルコ絨毯の上にトコロ狭しとならぶ、まるで英国の紳士服街・セヴィルローに建つ店にある“吊るし”置き場のような、そんな印象。

 

 まるで逃亡を防止するような位置で両脇をフェティマに固められ、待つことしばし。

 やがて近眼鏡を鼻さきまでズラした、灰色髪な老女3人が現れて、その小さな体に似合わぬパワーを発揮し、まるで奪衣婆(だつえば)のように、いきなりオレのスーツを引き剥(は)いだ。そしてひとりがメガネをシワのある額までズリあげると、やおらスーツの裏地に顔をおしつけクンクンして、

 

「あぁ~イイよゥ~~オトコの匂いだよゥ~~!!!11」

「フェムさん!アタシにも──アタシにも!!」

「エニュさん!そんなに引っぱるとスーツが切れっ了(ちま)うよ!」

 

 脱がしたスーツを奪い合う3人の老婆を、しばらくオレは呆気にとられて観ていたが、やがてその視線に気づいたのだろう。すましかえってしばらく姿を消すや、キャスター付きのハンガーに、一着のテール・コートを下げてやってきた。その服に、さすがのオレも目をむく。

 

「なんだよソレ!──そんなの着ろってェの!?」

 

 ハンガーには、銀色のスパン・コールがついたテール・コートに白いズボン。真珠色のウェストコート(ベスト)。

 何のことはない、一昔前のどハデな結婚式の花婿(はなむこ)スタイルか、紅○歌合戦の演歌歌手じゃないか。

 

「イヤだよ!そんな“チンドン屋”みたいな格好!!」

 

 ちんどんYah(ヤー)?※2と『シャーリー』が首を傾げ、『ハマ』が、

 

「これはわたしたちの依頼ではありません──店主(ジエンチュ)の“厳命”です」

「冗談じゃない、そんなイジられキャラみたいな服を着るなんて!」

 

 どうあってもですか?と『フェティマ』たちの目つきが一層つめたくなる。

 アイシャドウに彩られる眼は、まるで『奴隷人形』か『調教相手』でもニラむかのように。

 

「これでも……でございますか」

 

 『シャーリー』が、ラバースカートの前に手をかけた。

 

 すると──それはカーテンのような仕組みになっており、左右に開いたその奥にはスカートをフンワリ膨らませる“パニエ(骨組み)”越しに、網タイツに包まれたニーハイ(ヒザ上丈)の編み上げブーツを履く美脚が見えた。そして──黒いレオタードを食い込ませる股間。よく見ればそこには何とピンク色をした、ローションをテラつかせるディルドー(張り型)が、ムクムクと見る間に勃起して天をむくのがうかがえた。尿道口を模した孔からは、ツッ……ゥゥ……ッ、ローションがキラキラ糸とをひいて。

 

「コレを、あなたサマの“尻(ケツ)まんこ”にブッ挿入(さし)ても、宜(よろ)しゅうございますのよ……?」

「お待ちになって?『シャーリー』さん……」

 

 ココで『ハマ』が、自分もドレスの前を開き、勃起型の疑似チンポを見せつけながら、

 

「この方、アタクシの好みなの……姦(や)るならアタクシのディルドーで……」

「えぇ、よろしくてよ?なんでも、この方に“絶望”させろとのお達しなので……」

 

 ──絶望、だって?

 

 オレの怪訝そうな表情(かお)を読んだか、『シャーリー』は、

 

「そう、『絶望』。ですから『ハマ』さんとアタクシとで“上のお口”と“下のお口”両方から犯して差し上げることで、貴殿を絶望させると、こういう寸法は──如何(いかが)?」

 

 190cmの大柄なビザール女どもが、揃(そろ)ってこちらにノシかからんばかりに。

 ブルーベリー色のリップを刷いた艶(ツヤ)やかな口もとが淫猥(いんわい)にゆがみ、瞳は熱を孕(はら)んだように潤(ウル)みはじめる……。

 

 ──冗談じゃないぜ、クソが……。

 

 どうやってコイツらをぶちのめしてやろうかとオレが頭の中で忙しく算段していると、3人の老婆が、ド派手な上着やベスト、ズボンを掲げながら、

 

「まって!待って下さいマシよゥ──!」

「アタシらは、この方の着付けを終えて──」

「お時間までに、会場に送り出さなきゃイケないんですから──!」

 

 そのようなコトを言われましても──と、ラバーのロング・ドレスをテラつかせ、自分の股間から生えたディルドーをシコりだす『シャーリー』と『ハマ』。

 

「──ワタクシたち……ねぇ?」

「──えぇ。ス(・)イ(・)ッ(・)チ(・)が入ってしまったンですもの……」

 

 リュッ!りゅっ!りゅッ!

 

 ローションまみれのカリ高なディルドーが、彼女たちの手のシゴキにつれて鳴る。

 そしてそれは内側にも同じように生えて、彼女たちの胎内(なか)を犯しているのだろう。

 あるいはひょっとして“後ろの孔”にも挿入され、同時に刺激されているのかも知れない。シゴくほどに彼女たちの表情は切なげに、もの欲しげに上気してゆき、アイシャドーが彩る長いまつげがフルえ、ヨダレを舐める紅舌(した)がチラチラと、葡萄(ぶどう)色に照り輝く肉感的な口唇(くちびる)の上下を行き交って……。

 

 ──ひぇぇぇぇぇぇぇぇ……。

 

 だが、そんなコトに構っているヨユーはなかった。

 かつて──この妖しげな風俗店で、さんざ見せつけられた“人体改変”の高度な手術。

 男を……女に。

     女を……性奴隷(メス)に。

         性奴隷を……自我のない“ダッチ・ワイフ”に。

 冷酷に変貌させた“紅いウサギ”の技術が、いよいよ自分の身に降りかかったのかと身構える。

 さっきコリンズは携帯電波も届かないと言っていた。ならば勝手にインストールされた、【SAI】に連絡するアプリもダメだろう。

 

 ──クソっ!やっぱワルサーがあれば良かった……あの『小男』め!

 

 あの醜男に思い至ったオレは、とっさに、

 

「おぃ!──店主ゥ!」

 

 疑似チンポをしごきながらユッタリと迫るビザール女たちをニラみつつ後ずさりしながら、

 

「……観(み)てンだろ!?どういうことだコレは──これが!客に対するこの店の礼儀か!!」

 

 追い詰められたモノの目つきで素早く室内を見渡した。

 だが──出入り口は、入ってきた一カ所だけのようにみえる。

 壁際にビッシリとならぶクローゼットや、キャスター付きハンガーの列……。

 その衣装ラックの迷路からは、例の三姉妹が、おっかなびっくり顔をのぞかせて。

 

 その時だった。

 

 シャァン!

 

 耳もとに大音量で鈴の音が。

 緊張のあまり高血圧が耳鳴りを呼んだのかと思うほど。

 そしてすぐに気づく。これは──いつもの神楽鈴(かぐらすず)の一振りだ。

 一瞬、視野がはげしくブレ、平衡も失調して床が波打ち、思わず片ヒザをつく。

 それは目の前で疑似チンポをシゴきながら迫る『フェティマ』たちも同じだったらしい。

 

『──おふぅッ!』

『──ウんむぅ!』

 

 いきなり白目を剥き、何かの発作をおこしたように2人して仰向けに倒れ込む。

 それでもシココココ……己の股間に装備したチンポを動かす手は執念ぶかく止まず。

 編み上げニーハイ・ブーツの美脚を盛大に開き、腰を浮かし、あくまで快楽を貪るように。

 

 やがて──。

    ……ズビュッ!

        ……ンビュッ!

 

 彼女たちは疑似チンポから盛大にローションを吹き上げ、ガクガク脚を振るわせてイった。

 ビザールでキッチュなラバー・ドレスが、彼女たちのローションで白く汚れる。

 ご丁寧なコトにそれは、男性の精液じみた気配が濃く臭って……。

 

「ディノさん、『フェティマ』たちが、またおかしなコトに」

「エニュさん、どうせいつもの “バグ” じゃないのかねぇ?」

「ふだんから横風(そんだい)だから、バチがあたったんだよフェムさん」

 

 ジャケット。ベスト。ズボン。

 ド派手なテール・コートの部分を持った3人の老婆たちが、顔を見合わせ(プークスクス。

 ヒクヒクと、床で無様にケイレンする大柄な美女たちを横目に『ザマァ♪』の気配。

 

『申し訳ありませんナァ……マイケルさん』

 

 背後からいきなり『小男』の声がした。

 驚いてふり向くが──そこには誰も居ない。

 たぶんスピーカーの効果を使った立体音声だろう。

 

「小おt……店主か!?どうなってンだ、今夜は!」

『すみませんが、そこのレディたち(三姉妹)が持つ燕尾服を着てくださらんか』

 

 ホラホラ♪と老婆たちは、それぞれが持つ燕尾服のパーツをゆらしてオレに示す。

 

「……ツレたちが着ていた、フツーの黒いヤツにしてくれよぅ」

『生憎(あいにく)ですが、アンタは今夜の“主賓(しゅひん)”でしてな……』

「しゅ……主賓だァ?このオr……ワタシが?」

『左様。ゆえに、一番“目立つ”姿をして頂きたいのです……間(・)違(・)い(・)の(・)ナ(・)イ(・)よ(・)う(・)に(・)』

「間違い?間違いってなんだよ!」

 

 聞き返したが、もう応(こた)えはなかった。

 テール・コートのパーツが、椅子にかけられる。

 そのほかにも、シャツ。カフスボタン。蝶ネクタイ。

 それになんと、チェーン付きの金がわをした懐中時計まで。

 それら細々としたモノが、椅子わきの小テーブルに並べられて。

 

 床でケイレンしたまま横たわる『フェティマ』の横に衝立(ついたて)が用意され、その陰で、オレは仕方なくこれらの品々に着替え、身につけた。

 シャツのサイズは、肩や首回りもふくめ、まるであつらえたかのようにピッタリだ。

 ズボンを履き替え、衝立にかけたとき──シュッ!それはたちどころに消え、衝立の向こうで老婆たちの争う気配。ソッと除けば、股間の辺りをスハー、スハーと代わるがわる、まるでネコの腹を吸うような勢いで恍惚(うっとり)となって。

 

「あぁ……イイよぅ……イイよぅ……」

 

 そんな老婆たちの恍惚としたうめき声を聞きつつ。

 白地に甲の部分が茶色をしたハデな革靴を最後に履くと“お召し替え”は完了となった。

 免許証や財布、カードケースや携帯端末を、チンドン屋衣装の各所に目立たぬよう納める。

 姿見で自分と向き合えば、鏡の向こうでは売れない芸人が、情けない顔でコチラを見返して。

 

 ──オレは……いったいとこで、なにィやってンだ?

 

 そんな思いがひとしおだが、あえてそれから強引に目を背け、

 

「ホレ──着たぞ。これで満足か?クソが」

 

 殿さま、殿さま、と背後で三老婆のひとりが、

 

「コレを、お忘れですぢゃ……」

 

 みれば、例の招待状に入っていた妙に重たい平板。

 

「これは守(・)り(・)札(・)ぢゃて。くれぐれも店を出るまで、肌身ぃはなさんようにナ」

「さうぢゃ、さうぢゃ。いのち冥加(みょうが)に、この外道たちから守り通せたであろ」

「この店は、冥府魔道の迷路ぢゃ。よぉくよぉく心に刻みつけるのぢゃぞ?」

 

 そういうや、オレを三方から取り巻いて、

 

「えぇかネ?ババの言葉をよく覚えておいでなされ」

「婦人(をみな)の悲嘆(なげ)きを!受け止めてあげるのぢゃ」

「心疵(キズ)を負った小鳥を優しく抱むのぢゃ」

 

 そして、周りをゆるやかな足取りで行きつ戻りつ歩みつつ、

 

「──キレイは汚い」

「──汚いはキレイ」

「──これぞ魔女の九九」※3

 

 そういって、不思議な歩みでオレを着替え部屋の外に押し出した。

 すると、そこにはコリンズは居らず、代わりに新たな『フェティマ』が二体、ドレスの裾をひろげて大柄な身体を恭(うやうや)しく屈め、黒髪と白髪の頭を下げている。おまけに今度の2人は黒ドレスに白エプロンと、白ドレスに黒エプロン。髪の色とドレスの色を反対にして。

 

 その脇を──女子修道院の作男のような、腰にカウ・ベル(牛鐘)をつけた作業着の男が、ホテルの客室クリーニング担当が使うLサイズのリネン・カートを押し、カラカラと鐘を鳴らしつつ部屋に消えたかと思うと、中でドスン!ゴトン!……やがてカートの袋から、編み上げブーツを履く4本の脚を天井に向けて突きだす台車を、キィキィと車輪を鳴らしてゆっくりと押し、無言のまま廊下の彼方へと消えていった……。

 

 それを一顧だにせず、新たにやってきたラバー・ドレスの大柄な美女たちは、

 

「大変失礼を致しました──マイケル様」

「これから先は、私(わたくし)たちがご案内致します」

「Bサイド勤務・A級F.T.M.(フェティマ)の『ブラック』と」

「──同じく『ホワイト』であります。どうぞこちらへ……」

 

「ぶっかけアリえな~ぃ!」とオレは心の中だけでつぶやいた。

 どーせ『100万人目だ』言われるのは、目に見えていたから……。

 

 

 




※ チャーリー浜……って精鋭読者諸兄はご存じですよね?
※2 ドイツ語のYes
※3 ゲーテ・ファウストより。
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