※この作品はR-18です。

試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【18禁版】   作:珍歩意地郎_四五四五

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  〃  Ⅱー5(舞姫・モルギアナ/B(その1

 

 凝(こ)った彫刻がほどこされた木製の両扉。

 

 そこで、いままで続いていた廊下は終わっていた。

 扉の両側には、ドレスを着た『フェティマ』が2体、佇んで。

 淑(しと)やかな風情で手を前に重ね、ゆるやかに頭をたれる格好。

 

 ──しっかし……配置はどう見ても、扉を守る“衛兵”のスタンスだぞ、畜生。

 

 イザとなれば、ドレスを脱ぎすてて一瞬で戦闘モードに入るんだろう。

 木製らしい両開きの扉には等身大な女性が2人、浮き彫りに。

 

 精密に彫られている像のモチーフは例によって淫らなものだ。

 全身を細鎖で縛められ、前後の孔に淫具を挿入(いれ)られて。

 宙づりの2人は扉が合わさることでキスをする。

 

 扉が開かれ、彫刻のくちびるが離れた時。

 

 ──えっ……。

 

 オレは、自分の耳をうたがった。

 精巧な木彫りの女たちから、ため息がもれる気がしたのだ。

 それはコリンズも同じだったらしい。扉を通るとき、ヤツはさりげなく豊乳にふれる。

 (アァ……ッ!)と像が、喘ぎ声をもらした……ような。

 

 ヘンタイ同僚の手がギクリ、止まるのが見えた。次いで木彫りのオッパイを拳で叩いてみるが、コツコツという音がするばかり。

 

 オレも通るときにユックリ歩いてさりげなく触るが──やはり木材だ。番手の細かい紙ヤスリで、極めて滑らかに仕上げられたこと以外、とくに変わりはない。おまけに、これまでにもそうとうイタズラされたとみえ、オッパイは手あかでうすく黒ずみ、ボッキしたチクビなどは摩滅している。ただ……体温の伝わりがいいのか、彫刻がすこし温かかった……印象が。

 

 扉の断面を見るが、木製なのは表面だけで、扉そのものは分厚い金属であることが分かった。なによりヒトを埋め込むほどの厚みはない。

 もっとも──人間を正面からタテにぶった斬って両断し、半身を埋めれば別だろうが……。

 

「──この“門”が、お気に召しまして?」

 

 『小枝子』が後ろからオレの背中を押しながら耳もとでささやくように。

 

「いつか──また詳しくご説明しましょうねェ?けれど今は会場に急ぎませんと」

「ンだなァ。思ったより手間ァ食っちまった……」

 

 店長代理が、手首のキンキラなロレックスをチラ見して心ここにあらずな顔で、

 

「遅れるとマジでヤベェから、早くしようぜ」

 

 では、えぇとアナタ……、と『小枝子』は同僚のほうを見る。

 

「オレですかい?……へへ。コリンズ、ってぇケチな野郎でして」

「そう、ではコリンズさまは、別の広間へ。マイケルさまは、こちらへ」

 

 そう言って『フェティマ』と『小枝子』が、同僚を近くにあった別の扉に案内する。

 オレは彼らから離れ、また店長代理と一緒に廊下を進みはじめた。

 

「アバよぉ、マイケル!いや、今度会うときは──ミ(・)シ(・)ェ(・)ル(・)かもなァ!?」※

 

 別れぎわにコリンズは、またもや下品ぶりを発揮して、

 

「そんときァ、オレっちが!テメーのヒーメン(処女膜)ぶち破って、マンコと肛門からザー汁ながしてヨガるテメーに“アヘ顔ダブルピース”させてやッから、待ってなヨォ!」

 

ムカっとしたオレは思わず、

 

「キサマも!この店の“フェラチオ人形”にされんよう、気をつけろ!」

 

 オレは華やかな扉の向こうに消えるヤツの背中に言い返した。

 

「そうなったらワタシでさえ!見分けはつかんくらいに改造されるからなァ!?」

 

 扉がしまり、なにか言いかけたヤツの言葉を遮断した。

 オレと店長代理は、そのまま緋色な絨毯敷きの廊下を歩いて行く。

 やがてその路は大きなホールと高さ20mはあろう特大の扉で終わった。

 ローマ法王が支配するバチカンの大聖堂でも、こんな扉は、そうあるまい。

 

 ──ふぅむ……。

 

 サンピエトロ大聖堂の『Porta Santa(聖年の扉)』をそのまま縦横にデカくしたような。

 表面には、様々な図像のプレートが青銅の鋲でとめられるが、イメージが混在して分からない。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 大扉にはめ込まれたプレートのひとつ『崩壊・炎上する都市に嘆く老人』?を眺めていると、背後からサングラス男がやれやれといった調子で、

 

「さて──あッシは、ココまででサ」

「は……?この先の案内は」

「そのうち扉が開いて、つぎの案内人が来まさァ」

 

 そう言うや、おどけたように口をへの字に、肩をヒョイとすくめ、

 

「あッシは、ウラのエリアには踏み入れられないんで……」

 

 オレは、すこし意地悪をしてみる。

 

「店長代理ドノも、そこまでの権限は持てない。というワケか」

 

 だが、意外にも相手はブルブルっ!カラダをふるわせると眉をしかめ、

 

「うぇぇぇぇ……ッ!冗談じゃありやせん!」

「は……?なんでだ」

「正直、店長になったとしても“ウラ”の管理はゴメンでサァ!……なにね?いろいろ不気味なコトが多すぎるワケで……正直“オモテ”限定で、オンナ侍(はべ)らせてた方が、ラクっスよ」

 

 そいじゃ、と手を一度上げたなり、このチャラ男はもと来た廊下をサッサと帰ってゆく。

 

 男の姿が見えなくなったころ。

 この巨大な大扉はガコリ、閂をハズされるような音をさせたかと思うや、内側へズ……ッ!まるで恐竜めくような動きで開くと、

 

 ガゴゴゴゴゴゴ……。

 

 今までの扉は大小どうあれ、蝶番のキシミなどさせずに開いたものだが、さすがにこのサイズとなるとムリらしい。大扉は片側だけ開いてゆき、やがてヒトが3人並んで通れるぐらいの幅を作って止まった。

 みれば、その先は絨毯がとぎれ、磨かれた大理石の広い床が続いている。

 その静脈模様の中央に、一台のJoy・Doll (ジョイ・ドール)が止まっていた。

 相変わらず乙の字に人体を封印されるようなデザイン。ただし。今回の個体はドレスをまとわされておらず、白いプラスチック製のボディを高い天井から降ってくる光に冷たく反射させている。

 額のナンバーは『114・514』だ。

 ケタ数のちがいは、なにを意味しているのだろう……。

 と、このJoy・Dollはクルリ、その場で方向転換するや、ゆっくりと奥へ進み始める。

 

 ──ついてこい、ってンだろなァ、やっぱり……。

 

 大理石の床に跡をつけないためか、白タイヤを履かされた“拘束人形”のあとを、オレは趣味の悪いイタリア風の靴をカツカツと鳴らし、歩き始めた。

 

 森閑とした雰囲気。

 ヒンヤリと澄んだ空気。

 高い天井は、まさに大聖堂を思わせて。

 

 ──だが……ちょっと待てよ……?

 

 ふとオレは脚をとめた。

 表で見た“紅いウサギ”はそれほど高層建築ではなかった。

 これほどの高さを稼ぐとなると、かなり地下を掘らなくてはならないだろう。

 高い窓から斜めに差し込む光は、どう見ても陽の光だ。よほど優秀なライトなのか。

 不思議なことに、触れるとすこし温かみを感じる。LEDライトにしては、熱があるのが不思議だった。

  

『ンああああああ~~~……ッ!』

 

 脚を止めたオレをせっつくのか、Joy・Doll (ジョイ・ドール)がこちらにボディを向けて妙な叫びをあげた。おそらく早く来てくれと言っているのだろう。

 

「わかったよ。それじゃハヤいとこ、目的地に案内してくれ……」

『~~~おかのシタ!』

 

 首元のスピーカでそう言うと、114・514号は心もち車輪のスピードをはやめ、大理石の床をすすんでゆく。

 どこかで鳥の鳴き声がした。

 見上げれば、遙か高みのドーム状の窓に、つがいが留まっている。

 これもカネをかけた“紅いウサギ”の演出なのだろうか。

 日の光ソックリな照明といい、空調臭くない空気といい、なにやら本当にヨーロッパの片田舎に建つ大聖堂のなかにでも居るような気がしてきた……。

 

「おっ……」 

 

 見れば──彼方にドレス姿の女性が立っている。

 水っぽいカクテル・ドレスではない。宮廷用の晩餐会用・ドレスだ。

 Joy・Dollは先にホイールを早めて加速し、女性のもとに行くとアタマをなでられて。

 そして、その場からすこし離れた場所で動きをとめ、彼女を見守る気配。

 

「本日は、ようこそおいで下さいました……マイケルさま」

 

 ゆるやかに一揖(いちゆう)する姿が顔をあげると、それは『レイカ』だった。

 『麗華』という影武者を“表”のフロアで動かす彼女は、相変わらずの気品と美貌。

 なによりも、あふれんばかりの優雅さと──そしてなぜか一抹の哀しみ?──を漂わせ。

 

「レイカどの。お久しぅ御座います。お変わりなさそうで重畳至極(なにより)」

 

 相手に近づくや、オレの体は奇妙に動いた。

 右片ひざを折って頭をさげ、左腕は背中に。伸ばした右腕は斜め横に。

 

 ──あ、これ。特殊騎士団長の記憶だ……。

 

 すぐにピンときた。こんな時には役立つモンだ。

 あの皇国を簒奪(さんだつ)された敗残の老人。

 まだ自分の中に居るらしい。

 “ウラ”の女王は完爾(ニッコリ)と、

 

「わざわざ御足労いただき、恐縮のきわみですわ」

「ここにくるまでに、ずいぶん手間ヒマかかりました。今宵は、どのような趣向で?」

 

 多少は皮肉を効かせたつもりなのだが、彼女はどこ吹く風で澄まし顔に、

 

「いよいよ主菜(メイン・ディッシュ)、という処でしょうか。貴方(あなた)さまの御助力なくしては」

「気になりますねぇ。まさか私を生体改造して、この店の備品に?」

「それはあまりに芸がなく味気ないですわ?大丈夫、さらに面白い趣向を用意して御座います」

 

 ──ソレはそれで、もっと不気味なんだがなぁ……。

 

 

 オレが胸の内でため息をつくと、まるでそれを読んだかのように、ホホホ……この店のダークサイドを統べるらしい彼女は扇をひらき、口もとを優雅に隠す。

 

「さ、それでは参りましょうか──みなさま、お待ちですよ?」

 

 いったい、どちらへ……?と聞こうとしたが、ヘンに詮索するのも本当に怖じ気づいていると思われそうなので(実際、すこしばかりビビッていたが……)黙ってオレはドレスの裳裾(もすそ)を揺らめかせる彼女のあとにつづく。そのまま大聖堂の磨かれた床をしばらく進み、ようやくたどり着いた壁際にある洞穴のような通路へ入った。

 

「足もとにお気を付けあそばせ……最初は、すこし荒れてますので……」

 

 ……なるほど。

 

 出所が不明な明るさが満ちる、高さ3mほどの観音彫りめいた手掘りの洞窟(を、演出したものか?)……土やコケの臭いまで、ホンモノそっくりに作られている。

 やがて足もとは平らになり、おさえたザワめきが行く手から聞こえはじめた。と同時に、なにか甘ったるいような、健康に悪そうな気配も喧噪の気配といっしょに漂ってくる。とたん!ふいに骨まで蝕(むしば)むジャングルの霖雨(りんう)が、脳裏に驚くほど鮮明によみがえってきた。

 

 ──そうだ!この臭い……。

 

 においが記憶を喚起する威力は、どうしてこうも強烈なのだろう。

 これはインドシナ戦争に参加していたとき、中国人が営っていた地下酒場で吸ったマリファナ。それもアヘンを混ぜた“タイ式ブレンド”の香りに間違いない。だが……それだけではなかった。そのほかにも、いままで嗅いだことの無い、なにか淫猥(いんわい)な、みょうに“艶(なま)めいた”印象をつたえる気配すらも吹き寄せてくる……。

 

 しだいにうすボンヤリと明るくなる洞窟内。

 

 やがてようやく着いた出口の情景は……単館上映をする弱小映画館のような、あるいは地方のストリップ劇場のような“内輪的”ともいえる小ぶりな規模のホールめいたモノとなっていた。

 

『ようこそいらっしゃいました!』

 

 パッ!

 

 いきなりのまぶしさに目を細める。

 上からスポットライトで照らされたのだ。

 

『みなさまァ、今宵の主賓がおつきです!拍手をもって──お迎え下さいィ!』

 

 軽薄そうなアナウンスの声があがると、目がくらんだままな自分の周りで“やる気のない”拍手がパラパラと。すぐにスポットライトは消されてしまい、しばらく目の前は真っ暗となって動けない。なんでオレが主賓なんだ?と考える間もなく、

 

「さ、こちらへどうぞ……」

 

 耳たぶをくすぐる距離で『レイカ』の落ち着いたやわらかい声。

 絹擦れの音とともに、なかば目がクラんだ状態のまま、オレは腕を取られフロアを少し歩くと、手触りで、どうやら広い革張りのソファへらしき場所へと座らされた。

 すると……なにか暖かく柔らかい、そして強靱でいてし(・)な(・)や(・)か(・)なモノが足のすねをコスる感覚。

 

 すぐにピンときた。

 これは……ヒョウか、チーター。

 

 ──どうやらネコ科の大型動物が、フロアに放し飼いとなってるらしい……。

 

 さすが“紅いウサギ”だ。顧客のコネを利用し【ワシントン条約】などハナで笑い飛ばすいきおいで輸入したのだろう。手探りで触る、そのなめらかな毛並みはチーターのように細身ではなく、背骨もゴツゴツしていない。と、なるとヒョウかジャガー、あるいはメスのライオンか、小型のトラ……。

 

 いずれも権力や財力を誇示するのを好む、成金が気に入りそうな猛獣のたぐい。おまけにシャンプーが行き届いているのか、手ざわりも良くツヤやかで、フロアが少しもケモノ臭くない。よほど入念にケアされているらしいなと、なめらかな胴体をゆっくり撫でれば、重量級の精悍そうな身体が満足げに震えて。

 

 だが──ようやく視力が戻ってきたとき、オレは慄然(ゾッ)とした。

 

 足もとにうずくまるもの……。

 

 黄色ベースな茶色のブチ模様から、オレはてっきりヒョウかジャガーだと思ったのだが、アタマを撫でようとしたとき、その黒いソバージュ・ヘアはコチラを振り向いて、ニッコリと笑ったのだ。簡単にいえばネコ科の大型動物の胴体に、ヒトの頭をつけた──そんな印象。

 細胞死すらおこさず、まるで『ねんど○いど』の頭をすげ替えるように、異種動物への頭部接合を果たす技術……!もしやココでは、医療倫理をムシした脳移植の手術すら、日常的に行われているのかもしれない。

 

 二十歳(ハタチ)は届いていない、あどけない顔つき。

 それが、ネコ科の獣を模した濃い化粧をされて。

 ひたいには、ダイヤ型の大きな宝石が輝いている。

 いや、コレは宝石なのか?中でホノオが揺らめいて。

 クロームの鼻環が触れる肉厚な口唇に、ニコリと笑み。

 どこか色ボケしたような、痴呆じみた印象を感じさせる。

 

 ──う……。

 

 ノドをならし、その美しいケモノはオレのひざにノシリ!

 おおきな肉球をもつネコ科特有の前足を乗せてきた。

 飼いネコの数倍のぶっとさ。まさに、迫力満点。

 

 ──くっ!意外に重い!!

 

 そして長い舌でペロリ。オレのほおをなめると、バネの効いた後ろ脚でヒョイ!こちらが座るソファーの横に上がり込み、オレのももに、そのしなやかな背中をコスりつける。アッという間に自分の“売れない芸人風”な礼服のズボンは、黄色な抜け毛だらけになってしまう。

 

 ようやく暗がりに慣れた目で辺りを見回せば……。

 20ほどある低いボックス席は、みな着飾った老若男女の紳士淑女たちでうまっている。

 そのブース席にオレは相方もなく、この豪勢な革ソファーで独り、ポツンと座っているのだ。

 なかには、いま脇でノドを鳴らしている“美少女なケモノ”を何頭もはべらせた席すらある。

 さらによく見れば、そのケモノの頭を自分の股間に押しつけ、激しく前後させている中年も。

 

 ──いったい、どういう宴席なんだこれは。

 

 『レイカ』に聞こうと思ったが、いつのまにか彼女は姿を消していた。

 

 ひくく唸って、ソバージュの美獣が首すじを舐めてくる。

 ネコのようにザリザリしていない、フツーの人間の舌のようだ。

 いや、よくみれば……なにやら少女のカワイイ舌に凹凸がつけられている。

 じゃれ合おうとする“この娘”をどうにかあしらっていると、ソファーのわきを、黒ヒョウの胴体に黒人の少女の頭をつけた別の個体が、首輪からのびるクサリをチャリチャリと鳴らしつつ、一団につれられて通り過ぎてゆく。

 と……その中で。上級『フェティマ』に案内されて進む、白髪頭な一人の男の姿。

 

 ──えっ!

 

 オレは自分の眼をうたがった。

 

 ──鷺ノ内……さん!?

 

 だが……何度見なおしても、まちがいない。

 あの権威主義の、医局に絶大な勢力を持つ初老の医師が!まるで19世紀のイギリス貴族を思わせる、り(・)ゅ(・)う(・)とした正装姿で、ガラス張りと見えるステージの正面。そこに据えられた特別席らしき場所に、うやうやしく案内されているのだった。

 奇妙なことに、そのソファーはブースに囲まれておらず、まわりから鷺ノ内医師のしぐさがよく見えるようになっている。おまけにそこの席だけ、上からスポットライトが当たって……。

 そういえばさっきオレのことを“主賓(しゅひん)”と呼んでいたが、あの詩愛の父親は、どういった位置づけになるんだろうか。どうみてもコチラより上席に見えるのは、気のせいか……。

 その老医師が座るステージ正面からは一本の花道が中央より延びており、よく目をこらすと、タテにガラスのスリットがある。おそらくステージと観客を仕切るガラスがそこで自動ドアのように左右に分かれ、ステージの演者が歩いて観客席にやってくるのだろう。

 

 おちつかなげに辺りを見回す老人の視線から、オレは本能的に身体をかがめて逃げた。いや、これはアフリカ傭兵のカンだったのか。見つかったらヤバい。そんな予感。

 と……そこでソファーにうずくまるソバージュのメスケモと目が合った。

 

「なぁ──オマエはココで飼われて居るんだろ」

『……うなぁオん?』

「コレから、ナニが始まるんだ」

『……ふみゃぁう!』

 

 そういうや、ゴロン。あおむけになり、またもやこちらにしなやかな肢体(カラダ)をすりつけ、ますますオレの礼服を毛だらけに……。そこで始めて気がついた。なんと、この娘の胸部分には、フサフサとなった人間の乳房がある。普通のネコ科動物のように腹にポチポチとチクビだけ並んでいるのではない。すると……生殖器も……。

 

「その子にナニ言ッてもサ──」

「もう、通じませんことよ──」

 

 この美獣の股間を確認しようとしていたオレはビクリ!身体をふるわせた。

 うしろめたげに振りむけば、『フェティマ』をもうすこし晩餐会向けにしたような、上級用途風な奉仕用・生体人形が2体。これも“宮廷風なメイド・ドレス”といった雅(みやび)やかな装いで立っている。片方は赤髪のショート。片方は黒髪のロングな髪型。ただし今までの『フェティマ』とちがい、片方は豊かな胸の下で腕を組み、もう一方は腰に手を当て、どこか人間っぽい、クダけた感じまで漂わせて。

 

「すでに知性を引き下げる手術の処置が済んでるンだワ」

「その額にリベット留めされたルビーが、その証なのよ」

「ウチらは『IQ・レデューサー(知性引き下げ器)』と呼んでるンだケド」

「脳に直接作用して、次(・)第(・)に(・)淫(・)乱(・)症(・)にしてしまいますの」

 

 ふふっ♪と顔を見合わせる間の数拍。

 

 思い出した。

 たしか『まほと』だか『魔ほと』だかにされたサッチーも、似たようなことを言っていなかったか。彼女も、同じようなモノをつけられていた!

 何て恐ろしい、とオレはひそかに舌をまく。

 

「……いくらお淑(しと)やかぶったご令嬢も、コレを植え付けられたら、もうダメ」

「……チンポやマンコの事しか考えられない、色(・)情(・)狂(・)の(・)淫(・)獣(・)に早変わりよね」

 

 知性引き下げ器……知性引き下げ器……。

 

 オレはヒザ上の美獣をなでながら、阿呆のように何度もつぶやいた。

その額に輝く大きなダイヤ型の宝石は、内に溶岩でも対流させるかのように。

 メスケモ化した少女は、撫でられるままウットリとした目で。その瞳も、いま見ればネコのように縦長な瞳孔をしている……。

 

「じゃぁ。もうこの娘は、会話が出来ない?そんな、ムザンな──」

「額に埋め込んだ宝石の等級にもよりますケド」

「この子は施術うけて、もう5年目ですわねェ」

 

 またも代わる代わる生体人形たちは説明する。

 この店は、本当にペア仕様が好きらしい。

 あの悪夢の双子青年医を思い出す。

 

「人間としての知性は、ほとんど残ってないと思われますわ……?」

「あとは食欲と睡眠欲、なによりお客さまに対する奉仕欲だけ……」

「時間が経つごとに、この宝石から出るウィルスが……」 

「脳に侵食して、内側から淫乱人形に変えてゆくんだゼ」

 

 あまりな内容にオレは眉をひそめ、

 

「本人は──この娘(コ)は?……それで納得したんですか」

「とうぜんよ、ねぇ?」

「あぁ、もちろんさネ」

 

 2人の上級『フェティマ』は、コトもなげに声をそろえてニッコリと。

 

「ほとんど老化しない美しさと──」

「衣食住、それに快楽の保証で──」

 

 あどけない美獣の顔が、オレを見上げる。

 

「さ、お客さま。やさしく触ってあげて下さい」

「ゆっくりだよ……そぉっと……そぉっと……」

 

 ええっと……とオレはとまどいながら、仰向けになりチクビをボッキさせる毛むくじゃらな二つのオッパイを触ろうとする──とたん!!

 

『フギャゥ!!!!!』

 

 一瞬の動きだった。

 

 この美少女メスケモは眼(まなこ)を金色に光らすや腕を一閃させ、オレのほおを直撃!……のはずが、ソレより早く“上級フェティマ”の『ケイ』が見事な反射神経で、その巨大な前肢をガッチリと掴んでいた。みればピンク色の肉球からは、巨大な爪が5本、ニョキリ!と伸びて……。

 

「IQレデューサーを頭にネジ留めされ、メスケモに堕ちた彼女にもサァ?」

「羞恥心は最後まで残っておりますのよ。お触りになる場所が違いますわ?」

「シッポの付け根を、やさしく……」

「トントンと叩いて下さいませ……」

 

 そんなモンかね?とオレは言われたとおりにする。

 すると、この美獣は攻撃の気配を一転。シリを高く上げ、切なそうな声で鳴いた。

 たちまち……甘ったるいような匂いが漂い始める。コレで分かった。ホールに漂う“タイ風マリファナ”に交じった嗅ぎなれない匂いは、このケモ娘たちのフェロモン臭だ。

 

「ホラ、この娘もうれしそう……♪」

「ナマイキねぇ、もう発情してる!」

 

 そう言って、彼女たちも手慣れたようにヒョウ柄の胴体を撫でる。

 ややあって2人は、ドレスを揺らして優雅に立ち上がると威儀を正し、

 

「申し遅れました。私たちは今宵のお供を申し付かりました『ケイ』と」

「その相方で、知性・礼法をおもに担当いたします『ユリ』と申します」

 

 だが、コイツらはすぐに後ろをむき密かにド突き合い、

 

(──ちょっとォ!ダレが知性担当だってェ?)

(──あによぉ~こないだの件!アレなによ?)

 

 なにやら険悪そうなヒソヒソ話……。

 

「えぇと……“こないだの件”というのは?」

「イワですわァ──お客サマ!」

「コチラの話です──オホホホ」

 

 やはり。いままでの“人形然”とした『フェティマ』とは一転、ずいぶん人間くさい。

 しかしマァ、これはコレでいいと思う。これまでの不気味な気配から解放され、なにやらホッとする思い。あの『六道ビルヂング』で見たOLのような無機質さが無いのは有り難かった。だが──先ほど『ケイ』とやらがみせた、ネコより早い反射神経はあなどれない。20~70ミリ秒というネコの反応速度よりも早い動作。用心しなくては……(ちなみにフツーの人間は250ミリ秒以上)。速筋の組成を組み替え“遺伝子ドーピング”しているのかもしれない。

 

 その時……。

 

 “表”とは段違いのエロ衣装を着せられたピンクなバニーがやってきた。

 光沢エナメル地のハーフ・カップから飛び出た豊かな胸には、鈴つきの乳首ピアス。女の子の大事なところを隠しておくべきクロッチの部分が股ワレになって取り去られ、露出した大陰唇や小陰唇に穿たれた飾りモノがキラキラしているのがモロ見えだ。

 

 そんな淫らな姿が、缶ビールやワイン、おつまみを満載したワゴンを押しつつやってくるのは、何かのギャクとしか思えない。そのワゴンも、この高級そうな広間には不釣り合いな、使い込まれたアルミ製のシロモノ。

 

「ビールにぃ、おつまみ~冷凍ミカン~。シャンパンはァ~如何(いかが)ですゥ~~かっ?」

 

 なんと。売り文句すら、かつての懐かしいJR車内販売の口調だ。

 コレが“ジジィのお客”に喜ばれるのよ~~と『ユリ』が説明する。

 股間から垂れ下がる鳴り物にチリチリと涼しげな音をさせる、このエナメルに照りかがやくバニーが近づくのを見はからい、オレは思わず、

 

「おネェさぁん、冷凍ミカンひとつ。あとビールちょ~だい」

「ビールは青ラベルと二番絞りがありますが……」

「じゃ青ラベルの方で……」

 

 と、出張帰りのサラリーマンめいた口調で注文するや、二人の上級『フェティマ』も、

 

「じゃぁアタシたちはサロンで。あ、冷凍イチゴもつけてね♪」

「いや~タダ酒はいくらでも注文できるわァ。あとキャビア♪」

 

 ちょっ!オレは彼女たちをおしとどめ、

 

「ココの支払いって……どうなってんのさ?」

「へ?もちろんお兄さんよ決まってンじゃん」

「とうぜんよねぇ?レディの希望だモ~ン!」

 

 おまえら!とキレかかるオレだったが『ユリ』のほうがそれをおしとどめ、

 

「あ、ホラホラ……いよいよ始まるみたいですよぉ?」

 

 どこからかライト・ミュージックの演奏がはじまると、客席のかたすみにパッ!スポットライトがあたり、そこにはオレと似たような派手な礼服を着た男がひとり、オールバックに固めたヘアを頭上のライトにテカらせつつ、イキった姿をあらわした。

 

 先ほどと同じくまばらな拍手が“内覧会的な広さ”のホールにパラパラ響くと、

 

「レディース・エン・ジェントルメン♪マダム・ゼ・ムッスィユー!お待たせしました。さて!今宵は皆サマ、ツイておりますよォ?ナニせ、ひとりの舞姫のデビューに立ち会えるワケでして──」

 

 すると客席のアチコチで、

 

「……とうぜん“入札対象”なんだろうねぇ?キミ!」

「こないだみたいに魅せるだけ魅せて、おあずけはイヤよォ?」

「入札上限は!付けないでくれたまえよ!?いきなり打ち切りは御法度だ!」

「納品書のほかに個体の遺伝子情報も欲しいんだがね?リバース・エンジなんかせんから!」

 

 MCはいくいぶん気圧されつつ、ハンカチで額の汗をふきながら、

 

「はっ──なるたけ……ご期待に添えるよう、鋭意努力させて頂きます!」

 

 しどろもどろにMCが片腕をあげてどこかに合図。

 すると、ホールの片隅が変形し、古い奇妙な楽器を伴った演奏団が姿をあらわした。

 そしてどこかで聞いたことのあるような、ほこり臭い土俗的な曲を演奏しはじめる。

 

【音楽BGM】https://www.youtube.com/watch?v=lgOPJFUAFSo&list=RDlgOPJFUAFSo&start_radio=1&rv=lgOPJFUAFSo&t=60

 

 パッ!ホール全体の照明が消えた。

 

 ……と思ったが、正面の席に上級『フェティマ』と陣取る鷺ノ内医師のテーブルだけは、なぜかスポットライトをあび続けていた。天井より照らされ続ける鷺ノ内医師は、おそらくこの変化に気づいていないだろう。彼の白髪は、まるで天使の後光のように闇の中で輝いて……。

 

 ステージに、ピンクと紫の照明が灯った。

 次いでレーザー光が錯綜し、舞台の上を煙が。

 やがてガラスに隔てられたステージの左右に2本。

 下からクロームのポールがせり出し、天井まで伸びてゆく。

 ははァん。どうやらポール・ダンスを始めるのか?と察しがついた。

 ステージ背後に垂れる真珠色の幕が揺れる。たぶん後そこから現れるのだろう。

 

 と、思いきや!

 

 上からポールを伝い、クルクル螺旋(らせん)に回りつつ、二人の舞姫が優雅に降りてくるではないか。

 

 片方は──見たことがある。

 

 詩愛を“手マン”していた性悪のビアン(レズ)、『サロメ』だ。

 そして、もう一人。今夜がデビューの舞姫は……なんと黒人だった。

 ヌビア人よりも黒い肌。その皮膚の表面が照明をうけ、虹色に照り輝いて。

 アフリカの未開部族が行っていたような、瘢痕(はんこん)模様すら全身を取り巻く格好だ。

 

 ──ふぅむ……。

 

 肉厚な、ブ厚いくちびる。

 ダンサーらしい、均整の取れた肢体(からだ)。

 いかにも身体能力の高そうな、野性的、筋肉質な見た目。

 旧約聖書の一篇。ソロモンの『雅歌』記すところの【我ハ黒シ・サレド美シ】か。

 なにより例の“宝石”が、この黒人ダンサーの額に大きく耀いているのが哀しい。

 

 ふたりとも全身に施したボディ・ピアスに黄金(きん)の細鎖をめぐらせ、そろいの薄絹(うすぎぬ)を細帯に、そして股間がオープン・クロッチとなったハーレム・パンツ。楽団員が打つ小さなシンバルが鳴るたびに、ふたりは同調して『おまんこパンティ・ワ~オ』というようなI字開脚。とうぜん股間のクロッチがないので、大陰唇と小陰唇にこれでもかと穿ったピアスがモロ見えとなり、それらがフットライトを受けキラキラ照り輝くところを見せつける。

 

 口もとをおおう面沙(フェイス・ヴェール)の奥でニコやかな笑み。

 まるで羞恥を知らぬように、次々とあられもないポーズ。

 

 曲が終わる時には、シンクロした二人のポーズは大股開きで膝立ちとなり、片手を床に付け胸をそらせ、もう一方の空いた手で“くぱぁ”して、女の中を見せつけるという身もフタもない格好で曲はフィニッシュした。

 

 またもパラパラとまばらな拍手。

 なにかシラけた期待外れめいて。

 そこでオレはおやっ?と考える。

 

 ──この連中の目的は……どこにあるんだろう。

 

 ショーに飽きてる風でもない。だが目の前のエロダンスでないことは確かだ。それでいて、“ある何か”を熱心に待ち受けるような……。と、オレは腰を浮かし、周囲のテーブルを盗み見していると、

 

「あぁ~ら♪お分かりになりましてェ?」

 

 『ユリ』が、イチゴを舌の上で転がしつつクスクスと。

 『ケイ』もシャンパンをングングとガブ飲みしながら、

 

「でも……お楽しみはもうじきダァねぇ」

 

 古楽器を演奏する合奏団の曲目が変わった。

 圧力をもった不穏さ。何かが産み出されようとしているような、胎動の響き。

 

 黒人のダンサーが前かがみになり、身をゆるやかに、リズミカルにゆする。

 それを『サロメ』が、彼女の周りを舞いながら、ゆるやかに廻って。

 BGMは間違えようも無い。ストラビンスキーの『春の祭典』だ。

 堆肥。精液。糞尿。それらが春の胸苦しい息吹を喚びこむ。

 大地が息づくように、黒人の舞姫が徐々に身をおこす。

 すると……これは、どうしたことだろうか。

 肢体の色がだんだんと薄くなって。

 

 ──えっ……?

 

 ガニ股な、それでいて躍動感のあるコンテンポラリー・ダンス(現代風舞踏)。

 どことなく野性的な、激しい身ぶり──跳躍。

 

 それが、曲調の変化とともに、次第に古風になり……エレガントになり……。

 

 振り付けがワルツのようになる頃には、あれほど黒かった黒人ダンサーの肌は、日本人とそう変わりなくなってしまう。筋肉質で野性味あふれる身体は、いつのまにか女性らしい柔和な体つきに溶け、胸はふくらみ、腰は、ボンデージ・コルセットを嵌められたように極度なくびれをみせ、臀部(シリ)に至っては女性ホルモンを注射されたか、あるいはシリコンでも注入(いれ)られたような豊尻に……。

 

 そして──。

 

 絹のように滑(なめ)らかな背中には、踊りによって身体が上気した作用のためか、いつのまにやら刺青が色濃く浮かび上がっていた。しかも、その彫り物のデザインの下品さときたら……。

 

 キンタマに羽根のついた2本のローマ風な長い包茎チンポが精液を噴き出しながら背中でカラみあい、さらに豊尻にはいくつもの“正”の字が。

 ぶっとい太ももには、股間にむかう↑のしたに【お客さまチンポ専用】

 もう一方の脚の↑のしたには【ガマン汁発・天国行き】

 やがて曲が終盤になると……。

 こちらに下品な彫り物の刺青(はい)った背中をみせたまま、ボリュームのある美脚をハの字にして前かがみ。すると──豊かな尻の谷間に埋まるルビー色のアナル・プラグが丸見えとなった。

 

 楽団が奏でる最後のフレーズとともに、横Vの字にした片手ピース・サインで顔をかくし、悪戯(いたずら)っぽい笑いを浮かべ、指のあいだから片目をのぞかせる彼女。もはや口唇(くちびる)も──光沢のある深紅のリップに染められてはいたが──肉厚な黒人くちびるではなかった。アホっぽい、シマリない笑みと共にこぼれる真っ白い歯が印象的に。

 

 やがて──サッ!

 

 顔を半ば隠していたピースサインがどかされ、面(おもて)があらわになったとき……。

 オレはガン!頭をなぐられたような衝撃をうける。

 次いで叫ぼうとした言葉は、ステージ正面の席で仁王立ちになり、白髪を輝かせる鷺ノ内医師の悲痛な声に先をこされてしまう。

 

「あぁッ!?……詩愛?……詩愛ッ!!」

 




※ミシェル:「マイケル」の女性名詞。
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