※この作品はR-18です。

試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【18禁版】   作:珍歩意地郎_四五四五

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第80話:怒りをこめて、轢き殺せ!(前編

 

「オホホホホホホ!……オーッ、ホホゞゞゞゞ!」

 

 砂時計の最後の粒がおちたとたん、哄笑(たかわらい)する『サロメ』。

 そして何を思ったか、彼女はゲーテの『ファウスト』に出てくる悪魔(メフィストフェレス)の台詞をもじり、

 

「時は、止まれり!

    しかして──真夜中のごとく黙(もだ)している!

                砂針(すな)は落ちた──コトは済んだ!」

 

 勝ち誇るようにそう叫ぶや、『モルギアナ』の頬に、首筋に、乳首に。そして額に穿たれた呪わしい宝石に、熱烈なキスをする。

 

「いま、貴方(アンタ)が飲んだのは、ある特殊な薬効成分のお紅茶でね!そして──それと相反する成分のお紅茶をわ(・)た(・)し(・)た(・)ち(・)は飲んだ。薬効が身体に染みわたるまで15分!」

 

 ザワリ、オレの血管がおののく気配がした。

 まさか、あの紅茶に毒が……!

 だが、傭兵の負けじ魂か、それとも騎士団長の沈着さが発露したのか、自分でも意外なほど冷静に、控えの間に集う舞姫や『フェティマ』の『ユリ』と『ケイ』、それに奴隷アンドロイドの『レティシア』を睨(ね)めつけつつ、

 

「なるほど……この店は、客に対して平然と毒を盛るのだな……見下げ果てたモノだ」

「毒ですって──!?」

 

 くちびるの端に、あいかわらず勝ち誇った笑みをのぞかせながら『サロメ』は、

 

「ダレが毒と言いました?ロシアが産み出した劇物『ノビチョク』はご存じ?アレは単体では全く無害なAとBを混ぜ合わせることによって薬理作用を発生させるもの!それとおなじ……いえ、もっと激烈な作用の“紅いウサギ”特性薬を!あたィ──わたくしたちは飲んだのですわ!つまり──」

 

 ここで舞姫のシンネリとしたふくみ嗤い。

 

「つまり、あた──わたくしたちとアナタ!互いの体液が触れあったとき、すみやかな死が……それも激烈な苦しみをともなう非情の死が!訪れますの!」

 

 オレは動揺をおさえつつ、黙然と考える。

 つまり、ある特定の条件下でなければ、毒物ではない……ということか。

 すると……その、特定の条件というのは、すなわち……。

 

「ようやく、お分かり頂けたようね!」

 

 『サロメ』の顔が、いよいよ勝ち誇ったように。

 

「……そう、愛液、唾液はもちろん、汗すら致命傷となる……つまりアナタは!もう!あたィ……わたくしの可愛い『モルギアナ』に触れることはできないのよ!キスはもちろん、おマンコなんてトンでもない!この子は、アナタから見えないコンドームによって隔離されたも同じ!」

 

 またも、勝ち誇ったような『サロメ』の哄笑がひとしきり。

 

「キタないぞ!招待客にむかってこの仕打ちか!薬物を盛るなんて……っ!」

 

 オレは『サロメ』を睨(にら)み、次いで『ユリ』と『ケイ』に鋭くガンを飛ばす。

 しかし、高級『フェティマ』2人組は顔を見あわせ、とまどったように。

 そして最後にオレは、おそるおそる『詩愛』の態度をうかがった。

 だが──彼女は『サロメ』に愛しげな手つきで撫でられるまま。

 ウットリとした表情(かお)で、コチラに悦楽をふくんだ流し目。

 しかし額の凶々(まがまが)しい宝石は、赤黒く沈黙したまま。

 

******

 

 ……本来ならば、それは“悪魔の宣告”にも等しかったコトでしょう。

 ワタシとマイケルさ(・)ま(・)が、もう肌も触れあえない、手さえ握れないなんて。

 でも『サロメ』さまの言葉を聞いたとたん、己の胸のうちに、やすらかな安堵が……。

 正体の見えぬ“浄福感”、そして“静かな諦観”広がったのは、我ながら不思議でした。

 

 ──その気持ちを精査したとき……。

 

 |嗚呼、コレでマイケルさ(・)ま(・)をあきらめられる……。

 自分は、ただのSEXドールとして御奉仕してゆけばイイ……。

 人並みの幸せなんて求めてはいけない、淫乱人形でいればイイ……。

 

 ──そう……。

 

 たとえてみれば“女”を捨てて戒律の厳しい会派の修道院に入信したような。

 もう自分を偽らずともイイ。希望を持たなくてイイ。イヤらしいマゾに徹すればイイ。

 そんな“割りきり”が、ある晴れ晴れとした心象をもって、自分のなかに行き渡ったのです。

 

「お姉ェさま……マゾ人形『モルギアナ』を、どうか宜しくお願いしますね……」

 

 そうおねだりしたときの、お姉サマの慈愛にみちたお顔。

 満足げな吐息、晴れやかな笑み、ウットリとしたまばたき……。

 

「あぁ……あぁ……なんてコトなの……」

 

 わななくような声が、頭の上から降ってきました。

 

「なんて素晴らしいの。エロス(愛)の神サマに、お礼を申さねば!」

 

 女性特有の、トロけるような愛撫。

 忌避(タブー)が起こりかけるが、額の宝石が振動する。

 とたん、貞操帯をハメられるおまたが、自然とひらいてしまう。

 女同士の、限界をしらない求め合い。互いの尾を呑み込まんとする蛇。

 

 ビクン!

 

 ミジめな鼻輪をゆらし、全身を奔(はし)るアクメに心ならずものけぞって。

 恥ずかしい“よがり声”すら漏れ、上級『フェティマ』たちが軽蔑の眼差し。

 でも、それすらもいまのワタシは、ゾクゾクするような恍惚と高揚(たかぶり)を感じてしまう……。

 

「もう、オマエの美事なオッパイを、男に観させるのさえ惜しいよゥ……」

 

 そう言うや『サロメ』さまは貞操帯とセットになったステンレスのブラを、傍らの引き出しから取り上げると、キビしくワタシの胸に巻き付け──バチバチン!

 

 宝石が象眼される首輪と貞操帯に、がんじょうなチェーンで連結させ、ピアスに飾られた乳房を封印されてしまう。

 

「ついでにオマエの、このイヤらしいお口も塞(ふさ)いでおきましょうねぇ……」

 

 そういうや、咥(くわ)える内側に長いチンポの付いた黒いボール・ギャグを深々(ふかぶか)と!ワタシのノド奥までのみこませる。男性器を検知した歯列がオートで『フェラチオMODE』となり、引っ込む気配。

 呑みこんだディルドーそのものは、装着された者の体温でみずから変形するタイプらしく、気管のほうに麻酔剤をにじませながら進入してゆき、嘔吐反射をころしつつ気道を保つち、息苦しさは消える……。

 そして肉厚にされたワタシの赤いくちびるが黒玉をしゃぶったところで──カチリ!ボールの両端から伸びる革帯が首の後ろで連結され、口淫の奉仕(おしゃぶり)をできなくしてしまう……。

 

 ──おごぉ……。

 

 肢体(カラダ)に刷りこまれた、呪わしい条件反射。

 淫具をしゃぶると、またしても“おまた”は濡れ濡れになり、カラダは受け入れ状態に。

 

 ──これが精液やオシッコの臭いがするホンモノのおチンポでも、ワタシの欲情スイッチは入ってしまうのかしら……。

 

 ステンレスに封印された内側で、乳首と肉芽が悲しいほどシコり勃(た)つのがわかる。

 額の宝石がまたも振動をはじめ、ディルドーを挿入(いれ)られる女陰(おマンコ)と肛門(アヌス)がモノ足りなさに切なくなり、双方のお道具を、下のそれぞれの恥ずかしい穴が、未練がましく幾重にも喰い締めて……。

 

「コレでよし……コレで、もうオマエは、あたィ……わたくしだけのもの♪」

 

 『サロメ』さまの、満足げなつぶやき……。

 

******

 

 ネットリとしたレズビアンの睦(むつ)み合い。

 2匹のメスが、お互いを快楽で呑み込もうとする。

 淫臭をただよわせ、いつ果てるともなく続く女の痴態。

 

 それに対して、ホールの中継を映すモニターの中では、銭高警部補が食いかけの料理やシャンパンボトル、靴などを投げつけられ、散々なありさま。花道の上の『まほと』は改造された豊尻に手をやり、プラチナ・ブロンドをスポットライトに輝かせ、さも小気味よさそうに睨(ね)めつけて。

 

  ──ここでも“女の戰い”は、女の勝利に終わった、というワケか。

 

 全身をピンクに染め、『モルギアナ』に改造された『詩愛』が肢体を波打たせていた。

 たぶん貞操帯の内側に仕込んだ淫靡な仕掛けを、『サロメ』が発動させたのだろう。

 んふ~、んふ~、と『詩愛』のせつなげな鼻息。閉じた目から、うっすら涙も。

 

 そのとき──この女たちの広間をノックする気配がした。

 こめかみにチックをヒクつかせつつ、ダレだェ!?

 妹分を玩弄する手を休めず『サロメ』が声高に。

 

「オークションの用意が整いました……『モルギアナ』さまのご出品準備を」

 

 ロックが解かれた扉から、黒服が3名入ってきた。

 真ん中に黒い大きなスーツケースを囲んでいる。

 

 ジィ"ィ"ィ"ィ"ィ"…………ッッッ。

 

 頑丈そうなジッパーが周囲を走ってガバァ、開けられたとき。

 なかは女性がM字開脚をしたウレタンの“鋳型”になっていた。

 (スーツケースを閉じると同時に、M字開脚も閉じる仕組みである)

 内側にマスクや酸素ボンベ。バイタル用の端子や、お決まりの性具まで。

 女を呑み込んだあとも、嬲りつづける淫猥な仕掛けが盛りだくさんだった。

 

「そんなモノに、この子を封入(イレ)るってェの!?」

「いちおう、逃亡防止のための規則ですので」

 

 そう言って黒服の一人が『詩愛』の腕をとった。

 

「いやっ!……怖い!」

 

 だが、黒服がリモコンを操作すると、たちまち彼女の額の宝石が輝き、目は虚ろになる。

 そしてそのまま『サロメ』のもとをはなれ、夢遊病の足どりで男たちの輪のなかにはいるや、躊躇(ためら)うことなくスーツケースのくぼみに尻から背中へとすべり入り、脚をM字に、両腕をW字にピタリ、まるであつらえたように寸分の狂いもなく収まった。すると、すぐさま黒服たちが備えつけの赤い革ベルトで腕や脚、胴や股間、頸部、アタマなどをギチギチと幾重にも拘束し、スーツケースと一体化させてしまう。

 

「この金属の貞操帯とブラジャーをハズしてください──」

 

 黒服のひとりが不満げに、

 

「内部の車輪連動型ディルドーを挿入します。乳房は搾乳マッサージシステムに、口は呼吸器に接続したいのですが──貞操帯のカギは?」

「それは強制調教・放置プレイ用の時限式ロックで、すぐにはハズせないよ!」

 

 いまいましげに『サロメ』は唾棄せんばかりの勢いで、

 

「そのまま、連れてくんだね!……15分も経てば、ハズれるし」

 

 黒服たちは、一瞬顔を見合わせるが、やむなしと言う風にうなづいた。

 やがて『詩愛』は心電図用の端子をつけられ、呼吸用のチューブを吸・吐気用に2本、ボール・ギャグにねじこまれ、手のひらをグーで拘束するための玉型手袋を、足先は赤いバレエ・シューズで固められる。

 

 大きなスーツケースはゆっくりと閉じられていき、鼻輪をぶら下げたままな『詩愛』の虚ろな視線を覆いかくし、彼女の両手両脚はしゃがんで祈るようなカタチに合わさると、ふたたび

 

 ジ!ジッ!……ジィ"ィ"ィ"ィ"ィ"…………ッッッ!

 

 女性型人形の肢体(カラダ)を呑み込んだスーツケースは、ジッパーも苦しげに閉じられる。

 ピチン、と錠前がかけられると、シュッ!圧空が入るような音がして、中に入れられた彼女の身体は、スーツケースのなかで膨らんだバルーンにより完全に固められたのが分かった。黒服のひとりがタブレットで心電図や呼吸数、発汗や血中酸素濃度、体温などのバイタルをチェック。

 

「では、オークション会場に運びます……イイご主人様にもらわれるとよいですなァ?」

 

 クックックッ、黒服のひとりが下卑た笑みをもらすと、一団は大きなスーツケースを囲むようにゴロゴロ、垂直のまま動かしてゆく。

 

 パタン。

 

 重い扉はモーター仕掛けで静かにしまった。

 まるで今までのことが、すべて夢であったかのように。

 唯一、男たちがつけていた下品な香水の臭いが、現実を証している……。

 

「……いいのか?」

 

 オレは『詩愛』──『モルギアナ』をオークションに連れ去られた『サロメ』が、あまりに平然としていることを不思議に思って問いつめた。

 

「大金がついて、海外の……それこそアラブの大富豪にでも買われるかもしれんのに?」

「心配ご無用。どうせデキレースだよ!……ですわ」

 

 ハッ!と『サロメ』は手をヒラヒラさせ、

 

「いくら入札額が多くても、それを上回る金額で、うち(ウサギ)が落札(オト)しますもの」

「ふぅん。そんなカラクリか。どうりで……しかし、ほかの入札者は怒るだろうな」

「バレやしませんわ。代理のモノがちゃんとうまく処理すると聞いてるわ。あの子の装着したものが時限ロックでハズれるというのもウソ。男の手を、触れさせるモンですか!」

「なぁる。しかし……ヤツらは欲しいと思ったモノは、どんな手だって使うからなぁ」

 

 オレのなかで、騎士団長の記憶がうかぶ、

 辺境地帯の商人ギルドが営む違法な地下人身売買。

 エルフや半獣人の変わり種が、とくに高く売れていた。

 あらかじめ楽屋に潜入。化粧でキズ物によそおい、安価く入手。

 奴隷の身分から救ったそんな半獣人を、部隊でも少なからず使っていた。 

 

「まぁ、気をつけるこった」

 

 モニターでは、オークションの準備が進められているらしく、華やいだバニーたちがステージを右往左往していた。入札カウンターの表示テストが繰り返され、あ~テステス、というお決まりのマイク・テストまで。

 『ユリ』と『ケイ』の高級『フェティマ』たちが業務用のニコやかさを取りもどし、

 

「では、マイケルさまァ。オークション・会場のほうへ」

「……オレはオークションなんて興味ないよ」

「シャンパンも、ビンテージ年の逸品が出るんだケドなぁ」

 

 クヤしいがノドが鳴った。

 このクソ舞姫に飲まされた得体の知れない紅茶を、高貴な黄金の泡で洗い流したい。

 だが……持ち前の仕事優先な本性がジャマをする。やっぱり『小男』と会うのが先決だ。

 

「店主に会う段取りをつけてくれ……それと──」

 

 また、部屋をノックする音がした。

 

「ッたく!きょうは先客万来だねェ。お入り!!」

 

 『サロメ』の声に、拘束用の枷がついた車椅子を押す『フェティマ』が2体。

 入室するや、黒いメイド・ドレスの裳裾を優雅にひろげ、声をそろえて、

 

「「『モルギアナ』さまのオークション出品準備をするために参りました……」」

 

 えっ、『サロメ』の顔が素にもどる。

 

「ナニ言ってンだい?さっき、黒服が運んでったじゃないか!」

「「どういうことでしょう?コントロールからは、聞かされておりません……」」

 

 『ユリ』の動きのほうが速かった。

 耳から高周波をならして、どこかに通信。

 オレはハッと思いついて、緊張したヒョウのような『ケイ』に、

 

「位置は?備品だろ!逃亡防止の発信器みたいなものは、ついてないのか!」

 

 いやな感覚が、冷や汗と共につたうのをあえて無視しつつオレはたずねた。

 

「モチ付いてる!いま問い合わせ中──ダメだ、反応がない!『ユリ』!おいで!」

 

 2体の高級『フェティマ』は脱兎の如く部屋を飛び出してゆく。

 車椅子を押してきた一般『フェティマ』は、命令がバグったようにポカンとして。

 

「えっ?……えっ?……」

 

 コトの重大さがわかりかけてきた『サロメ』は、ガクガクとふるえだした。

 オレは、自分の吐いた軽口が、まるで言霊(ことだま)のようにそのまま現実になったコトを恨(うら)む。

 

 爪を噛み、ジリジリと落ち着かない『サロメ』。

 あの一団がスーツケースに『詩愛』を入れたまま、紅いウサギを出たら……。

 

「『ありさ』!一時休戦だ!」

 

 オレは『サロメ』を本名で呼びかけた。

 

「店の外に出られたら、もうウサギのスタッフじゃ、手に負えない。だが、オレとオレのトラックなら、防犯カメラの映像にアクセスして追跡出来る!オレがトラックを停めた搬入車専用のパーキングに行きたい!」

「この店のスタッフは、それほどバカじゃないわ。侵入者なんて──」

「じゃぁ!なんで『詩愛』……『モルギアナ』は、拉致られた?」

「それは……」

「答えはひとつ!ヤツらが“侵(・)入(・)者(・)で(・)す(・)ら(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)”からだ」

「不審者用の店内・追跡システムがありますわ?」

「おそらくソレも、内部からハッキング受けて無効化されてる!」

「そんな……それじゃあの子は……どうなるの?いったいダレが!」

「さっきのホールで、オレとのイザコザの最中、目をつけたダレか、かもしれん。その金持ちも、あるいはオークションがデキレースと知っていたのかも」

 

 顔面を蒼白にする踊り子を、しっかりしろとばかりオレは怒鳴りつけた。

 

「時間との勝負だ。アイツを取り戻したかったら、自分を店の外に連れて行け!」

「『レティシア』!」

 

 キッ!『ありさ』が元・同級生のアンドロイドを睨(にら)んだ。

 

「この方を3番非常口へ!フレンダーMODE・実行(ラン)!」

 

 とたん。

 アンドロイドの両腕・両脚が曲げられる。

 つぎにヒジとヒザから走行用のローラーがでてきた。

 おまけに背中の中央から、肌色のイボ付きディルドーまで。

 まるでデキの悪い3Dアニメじみた“ムリヤリ感”が満載だった。

 

「さ、ソレを使って上に行きな!アンタとあの子はクスリで隔離されてるから、取り戻した時ふたりだけで会っても、オカシなコトにァならないだろうし!」

 

 オレは曲げたヒジとヒザで床に四つん這いとなっているサイボーグに、

 

「あの……その背中のチンポは引っ込まないの?」

「インターロックが掛かってるんでムリなんだよ……ソイツの尻に乗りな!」

「『モルギアナ』サマ、ハ、イツモ、コレデ責メラレ、オ悦ビ、デシタ」

「『レティシア』!よけいなコトいうんじゃないよ!」

 

 オレはおっかなびっくり、まるでバックをするようにアンドロイドの尻に腰をのせ、手は彼女の肩甲骨あたりに置いた。ヒンヤリと、医療用ステンレスの気配。かわいそうに、この子は完全な機械人形にされてしまったんだな……。

 

「うまくいったら……店で一番のシャンパンをオゴるよ!さ──お行き!」

 

 『サロメ』の一喝。

 女たちの広間の扉が自動で開き、『レティシア』は電動の車にありがちな、ものすごい初期加速で疾走を開始した。アブなく振り落とされそうになったオレは、心ならずも背中のチンポにしがみつく。

 

*****

 

 廊下のどこかで争う気配がした。

 なにやら女の罵声も聞こえてくる。

 『ケイ』や『ユリ』ではない。もっと野太い声。

 ふと、オレはかつて対峙したツリ目のテコンドー女を思いだす。

 その騒ぎから遠ざかるように、サイボーグは快調なモーター音を立て廊下を疾走した。

 

 はやく!はやく!……また『詩愛』が拉致られたすえに辱められたら!こんどは彼女は、何に変われば精神的に救われるのだ?穢された身体を新しくする名目で、いまオレがまたがるアンドロイドじみたサイボーグにでも改造されたがるのだろうか。

 

 ──それだけは、絶対に阻止だ!

 

 やがて、目の前が大理石のカベになる。

 と、いきなりソレは両開きにひらき、なんと隠しエレベータの正体をあらわした。

 中に駆け込み、無音で扉がゆったりとじるのがもどかしい。こうしている間にも……!

 

 無表示だが上への加速度感を感じる数拍の間。

 とつぜんアンドロイドはぎこちない音声でトンでもないことを言い出した。

 

「オ客、サマ」

「あぁ?……なんだ!」

 

 いま、この時にも人形にされた『詩愛』がヒドいめに遭ってるのではと、つい邪険な口ぶりになってしまう。

 

「ワタシハ『アリサ』サマ、ニ、仕返シ、ヲ、シマシタ」

「……仕返し?なんのことだ?あの性悪なクソ『サロメ』にか?」

「サッキ、ノ、紅茶、ハ……タダノ、紅茶デス。オクスリ、ハ、入ッテマセン」

「なっ──!」

 

 一瞬、オレは現在の非常事態もわすれ、呆気にとられる。

 

「ソレ、ニ、ワタシ、ハ、後妻業、ジャ、アリマセン。アノ方ヲ、アイシテ、イマシタ」

「じゃぁ、美人局(つつもたせ)をやったというのは?」

「ソレ、ハ……当時、ノ、彼ニ、逆ラエナカッタ、カラ、デス……」

「キミは完全に自我を奪われてるんじゃないのか?」

「ワタシ、ノ、個性、ヲ、奪ウト、イヂメル楽シミ、ガ、無クナル、ラシイ、デス」

 

 やはり、とオレはこの非常時に満足してうなずく。

 推測はあたっていた。あの性悪な舞姫の考えそうなコトだ。

 オレは話題を変え、このサイボーグから生体改造の現実を探り出そうと、

 

「キミのボディは……完全に機械なのか?元にはもどせない?」

「ボディ、ノ、中身、ハ、人工臓器、ニ、換エラレテ、シマイマシタ。脳、モ、半分……」

「『詩愛』は──いや、『モルギアナ』は……元に戻せるんだろうか?」

「ワタシニ、ハ、分カリマセン」

「可能性は……ある?」

「タダ“生体・スレイブ・ドール”ハ、1日一回、特殊、ナ、輸液、ガ、必要、デス」

「栄養剤みたいなものか……」

「ソノタメ、『モルギアナ』サマ、ハ“ドール”ニ、サレテ、イル、カギリ、アノ店、ニ、永久、ニ、縛ラレル、ノ、デス……」

 

 上昇は緩やかになり、音もせず扉がひらいた。

 

 ──見覚えのある廊下だ……。

 

 思い出した!狂奔したサッチー……いや、『まほと』に追いかけられた廊下だ。

 とつぜん、夜会服のポケットに入れた【SAI】とのコネクト・インカムがバイブした。

 ふるえる手を押し殺し、急いで耳に付ける。

 

「【SAI】!【SAI】!──聞こえるか!?」

『そのインカムで収集した情報を既にDL・解析ずみ。『モルギアナ』──失礼、改造された『詩愛』さまを乗せたと思われるワンボックスカーを時系列から割り出し、防犯カメラのリレーと衛星を使って追跡中』

「マジか……」

 

 いままでの焦燥がふきとび、一気に勝利の予感に胸が沸き立つ。

 

 ──さすがは量子コンピュータAIだぜ……。

 

 インカムをデータ収集状態にしておき、通信事情が復活したら即座にDL。

 今までの事象を把握し、すでに拉致に使った車を特定したらしい。

 まったく。こんなAIだらけになったら、人間なんて駆逐されてしまうのではないか。

 

「オレの居場所は分かるな?その近くで待て!」

 

 またも突発的な快走をみせた『レティシア』は、これまた覚えのある鉄扉の前で停止した。※

 

「ワタシ、ハ、ココ、デ、オ帰リ、ヲ、オマチ、シテ、イマス」

『マイケル、その“半・生体脳”を全解析。通信回線を掌握』

「【SAI】、この子はサイボーグなんだろ?」

「生体部分は、ほぼ残っていません。脳髄も68%電子化。念のため全コピーします』

 

 オレが跨がっていたアンドロイドの頭部から、いきなりスパークが奔(はし)った。

 やがてボディをガクガクふるわせ、M字開脚!まんぐり返し!T字倒立!など。

 さまざまなポーズを、バグったように次々とキメたのち、ようやく通常の直立不動な待機ポーズめいたものにもどる。そしてなにごとも無かったかのように、

 

「……イッテ、ラッシャイ、マセ、オ客、サマ」

 

 もとに戻った『レティシア』は、銀白髪のアタマを深々と下げた。

 

 重い鉄の扉をキシらせて開ける。

 すると、酒や香水の匂いとは無縁な夜気が流れ込んできた。

 そしてオレ目の前には、早くも我がトラックが待ちかねたように威容を横たえて。

 ジェネレータは、すでに二次まで駆動。猛獣めく低い呻りを夏の終わりの夜空に響かせる。

 ほんの数時間見なかっただけなのに、いまはこの血と必殺の気配が横溢(おういつ)する“問答無用の転生マシーン”が、この上もなく頼もしく見える。

 

『お待たせしやした、マイケル』

 

 車外スピーカーがそう言うや、助手席の扉が開いた。

 

『詩愛サマの件は、残念なこってした。けどマイケル。半分はアンタの責任ですゼ?』

「オレが?なんでだ」

 

 コイツ、また口調がヘンだ。みょうな時代劇に影響されてなきゃイイが。

 助手席から、馴染みの電子器機の匂いを嗅ぎつつ、運転席へゴソゴソ移る。

 各種インジケーターが“人間用に”復活し、コンソール・ランプが華やかに。

 “紅いウサギ”の悪夢めいた余韻が祓(はら)われてゆく……だが、これからが本番だ!

 

『詩愛サマにダマって、朱美ドライバーと夜祭りに行ったから、あんな悲劇ィ惹起(じゃっき)したンですゼ。ソコんトコぉ詩愛サマのために、もっと噛みしめてやってもバチぁ当たらねェと思いやすゼ』

 

 チカチカと点滅する炊飯器。

 バイブまで加え、まるで怒るように

 と──いきなりミュージック。スタート。

 フロント画面にワイプでふるい動画が映される。

 疾走する小舟の舳先に火事装束すがたで仁王立ちの男。

 

 https://www.youtube.com/watch?v=8kHJIm4a4VI

 

 ──ちょ、萬屋錦之介じゃねーか……。

 

 ギアを静かに一速にいれ、前後左右を確認。

 あたりの様子をうかがいながら、そっとトラックを発進させる。

 慎重に、そして確実に。目標を追い詰めて『詩愛』を救出するのだ!

 

 だが……。

 

 BGMを聞きながら【SAI】のナビに従って目標のワンボックスカーを追ううちに、だんだん自分が『悪人共を誅(ちゅう)する闇の奉行』めいた気分になってくる。いつの間にかアクセルに力がこもり、まるでトラックが、あの「エンジン積んでるだろコレ!」と突っ込みたくなる江戸時代にしてはありえないスピードの二丁漕ぎ鯨舟で、オレがその舳先に立っているような錯覚すら。

 

 ゴグッ!シフトを手荒く動かし、ギアをさらに上げた。

 

 必殺の轢殺マシーンは“下手人ども”を追って、夜の都市を驀進する。

 

******




※(第64話、参照)
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