試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【18禁版】 作:珍歩意地郎_四五四五
・ひとつ!わたしたちは安全・確実に目標を撥ね殺します!
・ひとつ!わたしたちは笑顔絶やさず目標を撥ね殺します!
・ひとつ!わたしたちは誠意を以って目標を撥ね殺します!
・ひとつ!わたしたちは努力奮闘し、目標を撥ね殺します!
・ひとつ!わたしたちは倫理に
“ウサギ”での悪夢の一夜から、1週間ほどたった日の朝会。
例のごとく、ニコニコ転生協会“ 愛の五箇条 ”を、出席できる轢殺屋で唱和。
それを口パクで終えても、オレの脳裏には先日見た詩愛の痴態がこびりついていた。
あの
“砂時計”型の、ダッチワイフ的なエロすぎる体型。
そして『おしゃぶり』専用にされた、真っ赤なくちびる……。
あんな具合に過激な改造をうけては、もう満足にアリアも歌えまい。
『美月』にも劣らぬ彼女の歌唱能力。店としてはあきらめたのだろうか。
口舌も長くされ、イボをつけられたのでは、微妙な発音は難しくなったろうに。
あるいは、もう妹が
まったく、あのド淫乱な情景を思い返すと、ズボンにガマン汁つきのテントを張ってしまう。
──あれほど清楚な
──あれほど知的な
いまも『サロメ』の愛撫をうけ、股間から愛液をながし、サカってることだろう。
女の絶頂は限りがないので、体力が続く限りむつみあう、という
「──ケルくん……?」
──まったく。あんなにも、エロい
「ヒャまおかァ~~!!じゃない、マイケルくん!!!」
ハッ!
イタチ
気がつけば、電子白板前の半円陣は全員コチラをむき、夏用スーツを着た業務統括が持つレーザーポインタが自分に向けられている。
「ナニをぼぉつとしとるんだねナニを!それにィ、今月のキミの成績!」
白板の手描き文字が一転、各轢殺ドライバーの執行数棒をしめすグラフとなる。
その中でレーザーの赤い輝点が、中央よりやや下にあるオレの名前をしめし、
「まだ、ノルマに届いとらんじゃないか!」
集団の中で、オレより下の順位にいるドライバーがモジモジ、居心地悪そうに。
こんなとき、朱美や重サン、100歩ゆずってフィヨードルでも居てくれたら、ボンヤリしている自分を、ソッと注意してくれたのだろうが、
・ひとりは
・ひとりは転生処分(転生成否不明)。
・もうひとりは、組織の中で出処進退が分からない。
……とあっては、注意してくれるような懇意のドライバーが、ほとんど姿を消してしまっているのが地味にイタい。
情報交換をするようなドライバーが、いまとなって辛うじて、義手に仕込んだナイフを鳴らす、例のコリンズぐらいとは。そのコリンズは、今月ぶっちぎりで最下位にランクされている。そして“ あの夜 ”以来、姿を見ていない。
──あのヤロウ、無事にウサギを脱出できたのかァ?もしかして、いまごろ生体手術をうけて美少女のエロ人形に改造されてたりして……。
などと考えつつ、オレはイタチ面にむかって、いかにも誠実な口ぶりを装い、
「いや、コレからですって!気合イレます。自分が予算ショートしたこと、ありますか?」
「フン!どうだか?最近は目標が、なかなか処分できないようだが?」
「大丈夫ですって!そういや、フィヨードルですけど……」
オレは話題を変えるためにワザと別のネタをふり、
「そこ──そのボードに、名前が出てませんが?ほかの巻き狩り隊の連中も」
あぁ……と業務統括のイタチ面は手元のタッチパネルを何度かスワイプして、
「カレなら、この事業所から転属になった。所属する巻き狩り隊のメンバーも、だ」
ザワッ、と半円の集団からヒソヒソ声
(……初耳だぜ)
(……でもまだヤツらのトラックが一台、残ってるよな?)
(……あぁ、アレはコリンズさんのよ)
(……そいや破門になったンだっけ。先日、イヤにメカしこんでやがったが)
(……また女んトコだろ?野郎ォ、みょ~にニヤついてやがったぜぇ……)
「ハイハイ諸君、注目!とにかくだ。ノルマに達せぬものは鋭意努力するように、それと!」
おーい、アレを持ってきてくれ!とイタチ面は小柄なカラダをねじ曲げ、事務所の奥に叫んだ。するとイタチ面の後釜をネラっている小太りな補佐が、ブルーシートで何かを
「ハナシがそれた!コレの件だ!」
全員の怪訝そうな視線が、台車の盛り上がりに集中する。
「マイケルくんから
イタチ面の意を受けて、バッ!補佐がブルーシートをマジシャンの手つきで取りさった。
すると覆いの下からは、M字開脚姿をした、ひと昔まえのダッチ・ワイフがあらわれる。
意外な出モノに轢殺屋たちはドヨめく。女性ドライバーなどは、ロコツに顔をしかめて。
ウェーブのかかった黒髪。ロケット型のオッパイ。前後にオナホールをハメこんだ巨尻。
ビニールの肌をテカらせ、濃いめの化粧をした口はポッカリと、何かを待ちうけるよう。
さすがに轢殺屋たちは意外なモノの出現に一瞬絶句する。
ややあって、口々にオレを冷やかすように、
「マイケル、なにコレ。オナニーでもすんの?」
「イヤだわ?ホンキかしら。運転席、イカくさくなりそう……」
「もっとイイやつ買えよォ。最近のは、デキが超・イイらしいぞ?」
なにげなく同僚の放った最後の言葉が、意外にグサリと胸にきた。
そう──たしかに“ 最新のダッチワイフ ”は、造りが超・イイのだ……。
マヌケに口をあけたその『性奉仕ドール』に、なんとなく詩愛を重ね合わせる。
額を貫通し装着されたあの宝石が、完全に脳を侵したとき、彼女もこうなるのでは。
イタチ面は、ザワめく轢殺屋たちのあとをひきとって、ニヤニヤしながら台車を示すと、
「そう!なんでもマイケルくんはァ、トラックが無人であることを通行人に覚られないようにというワザとらしぃ~い言いワケで、精巧なダミー人形を希望したのだよ。だが、金額的に決済が降りなくてねェ……そこでだ!」
ふふン。いかにも思わせぶりに、このやせぎすな事業統括は、
「
このあまりにあからさまなアテこすりは、さすがに轢殺屋たちを鼻白ませる。
なんでこの小役人じみたヤセ男が知っているのか、オレはそっちの方が不思議だが。
一団の気配を察してか、イタチ面のドヤ顔なワラい顔は固まり、きまり悪げな風になるが、それでも最後は精一杯の虚勢をはって、スーツの襟をこれみよかしに引っぱり、
「まァ、大事にしたまえ……
それだけ言うと、タッチパッドを小脇に、スタスタと所長室のほうへ歩いていってしまう。
「……ゲス野郎が」
全員の気持ちを代弁し、集団の中からボソリ。ひくいささやき声が憎々しげに。
朝会が終了し、ダルそうな足どりで個々に散開してゆくドライバーたち。
これから下見に行く者もいれば、張り込み明けで帰る者もいるのだ。
それでもザワザワと、少なからずの轢殺屋が台車を取り囲んだ。
「サワった感じ、ホンモノっぽいよな」
「イヤだわ?ナンかコレ、生々しいんだけど」
「顔の作りが、もうチッと良けりゃイイんだが……」
なぁ?オレは良い機会とばかり、
「フィョードルさん、別れ際にひとことあってもイイのに。いまナニしてんだろ」
すると、轢殺屋たちはべつだん興味なさげに、
「イチイチ移動すんのに、挨拶する律儀なヤツなんて、いねェよ」
「そぅそ。おれたちはしょせん、単なる渡り鳥だからな」
「必要とされている事業所に、荷物をまとめて転属するまでだ」
「ヤツの巻き狩り隊だって、みんな
そんなもんかねぇ、とオレは腕組みをした。
「じゃぁ転属したドライバーの、その後なんてみんな知らないワケだ」
「他人がどうなろうとカンケーないわ。給料あがるワケでもなし」
「ンだナァ。俺たちは……ただ撥ね殺し、轢くだけサ」
するとこの時、そのうちのひとりが不意に思いついたように、
「なぁ?実際にこのドール、マイケルさん
ワッ!と一転、陽気になる集団。
こちらの抗議も聞かず、一団はワイワイと台車を取り囲むと大型エレベーターに一斉に乗り込み、地下の大駐車場へ。その騒ぎままたどり着き、天井の広い空間に反響させたので作業をしていた整備員たちも何ごとかと大荷搬入用エレベータをふりかえった。そして轢殺屋どもが信じられないブツを台車で運んでいるのを見て、こちらもテンション最高潮となる。
「マイケルさん?ナンすかぁソレ!」
「彼が夜間の張り込みに使うんだってサァ!」
「マジっすか!そんなのウチらの予算とおるんだ?」
「えーイイなぁ。ウチらにもひとり一体リアルドールくれんかな」
「いや、リアルドールみたいな高級品はP.O.通らなかったらしいぜ?」
わいわいわいわい、ガヤガヤガヤガヤ。
「はやくはやく!載せてみせてよ」
「マイケルさんのトラック、ドレだっけ?」
仕方なくオレは【ボニー】の後釜のAIに命じて運転席のドアをあけさせ、そこにシートでベルトでダッチワイフをくくりつけた。W字をした腕をムリヤリのばし、ハンドルを握らせる。
とたん……。
トラック前方を半円に囲んだ一団から、爆笑が沸き起こった。
オレもトラックをおりて振り返ると、なるほど失笑を禁じ得ない。
ポッカリ口を開けた人形がハンドルをにぎり、転生トラックを操るマヌケな絵面。
思ってもみない効果に、オレも腕組みをして笑いをこらえながら、
──これに殺される
騒ぎを聞きつけたか、整備の親方である『M』もやって来しなに爆笑し、
「よし!よし!……だがもうひと手間たりねぇなァ。コレじゃ芸がねぇ」
「ひと手間って、ナンです。まさか……また余計なギミックを」
「マイケル。おめぇ、すぐシコるワケじゃねェんだろ?」
このセリフが、また周囲の爆笑をよんで。
「あのね。コレはトラックが無人なのをバレないようにするためです!」
「ならイイや。オマエ、張り込み帰りだったよな。しばらくコレ貸せや。改造してやる」
ビクリ!思わずカラダが震えてしまう。
『改造』という言葉に、いつのまにか生理的な拒否反応が出るのに気づいた。
「ンだよ、そう妙なツラすんな。別にツカいやしねぇよ!」
ここでまた一団が大爆笑。
バシバシとオレの背中をたたくものすら。
またオレはむりやり話題を変えるため、
「そうだ、オヤっさん。今日、技術部のロックさんは居る?」
「吉村のヤツか?最近みねぇなぁ……おぃ」
意外なことに、ふと整備部の親玉は笑いを消してオレの方に顔をちかづけ、
「あんまりヤツと懇意にするな。いろいろヤバいヤツだゼ」
「え……ヤバいって?
「いいから──ダマって言うこときいとけ!」
ほどなくして騒ぎがおさまり、ダッチワイフも『M』に持ち去られる。
轢殺屋は散り、数台のトラックが相次いで出庫していった。
円盤のサンダーで金属を削る火花や、溶接のヒューム臭。
インパクトレンチの唸りもふたたび再開して。
そういった騒音が
──シリコンのような、安出来のビニールのような……。
だが、いまのダッチワイフと性処理ドールにされた詩愛の質感をくらべてみれば。
まさに出来は月とスッポン。イワシとクジラ。雪と墨。文字どおり“雲泥の差”だった。
──詩愛の肌は、もっと“ きめ細かな ”手ざわりで
同じビニールやシリコンの触感とはいえ、段違いの手ざわりのよさ。
たとえば、ボディを抱いた時ひとつをとっても、抱き心地がより人間っぽい。
いまの安物なヤツは。ケミカル臭がしたが、詩愛は……ふしぎなイイ匂いがしていた。
おまけに彼女の口を舌で嬲った時も
──やはり、超・高級品なダッチワイフとして、改造されてしまったのか……。
さまざまな作業音が満ちる、だだっ広い地下駐車場のなか。
トラックに寄りかかりつつ、オレは“ウサギ”から命からがら帰った日の朝を思いだす……。
せっつく【SAI】に応じ、持ち帰った炊飯器を家庭用電源コンセントにつないだあとは、疲労感に押しつぶされ、Q日だというのにビールすら飲む気になれず、遮光カーテンのしまった薄暗いリビングでボンヤリとヤツの満艦飾なLED点滅を眺めていたものだった。
今夜見てきたものが……。
くぐり抜けてきた体験が……。
ギリギリ成功したキワどい判断が……。
いまだ信じられず、ただ、ただ、放心するしかない。
腹の底にチカラがはいらず、漫然と肺から息がもれるまま、
「あの詩愛が……あの理知的だったヒトが……」
すると【SAI】のヤツがイライラと、
『ナンですか?マイケル。詩愛サマが、どうしました?』
「うん……」
『ワタシは難しい計算をするので、これから話しかけないで下さい?』
「うん……」
『電子レンジとかでブレーカーをトバすの、ナシですからね?』
「うん……」
アッ!と、そこで気がついた。
ウソだ……あの
人間を、あんな徹底的にダッチワイフに改造手術するなんて。
体重はもちろん、性奉仕用に仕組まれたアリえないほどのギミック。
あれは詩愛ソックリに創られた奉仕用ドールに、彼女の基本反応を入れたのでは?
「【SAI】!【SAI】!
『……だから言ったでしょう!話しかけないで下さい、って』
「ハァ?オマエほどの超・思考体が全力計算するって、どんな案件なんだよ」
『……んふ~~♪んふふ~~~~♪』
【SAI】のヤツ。
どうやら超・思考体と呼ばれたのがよほど嬉しかったらしい。
「うるサィですネェ!」と聞いたことのあるような声で一応スネたあと、
『あぁもう!で?要件は、なんなんですマイケル』
「詩愛の件なんだけど、サ」
『はいモル……いえ詩愛サマが、なにか』
「オレが会ったのは、詩愛の人格をインストールされたアンドロイドで……サ?」
『はい?』
「人間のままの、生身のホンモノが別にいるってコト、ないかな?」
『──可能性としては、ゼロではありません』
なぜか一瞬間をおいたあと、この量子コンピューターは応えた。
やはり!冷たい泥のようになった血が、ふたたび暖かく巡りはじめるような気分。
『……しかし持ち帰ったDATAを検索したところ、声紋は完全に一致してました。それに各種の反応も、このマンション時代とおなじです。完全な人格コピーは難しいですから、生体改造以外に唯一、考えられるコトは──』
オレはダラしなく座っていたソファーから、各種LEDを
「うんうん!──唯一、考えられることは!?」
『彼女の脳を移植して、専用の義体に移し替えたか……ですね』
え!と希望の火に、イキナリ冷や水を浴びせかけられたような気分。
「そんな……まさか……」
『あの店の
「だってそれじゃ……それじゃ詩愛は、ほんとうに元に戻れない、ってコトに……」
『ハナシはオワリですか?じゃ、今度こそ中断はナシですよ。あ、冷却水たのみます』
──脳の移植かよ……なお悪いわ……。
脳移植だとすると、もとの彼女の肉体は?
【SAI】のリクエストで炊飯器のINとOUTにホースをつなぎ、注水。
ジュゥゥゥ……ッ!はやくも過熱の気配。まるでグラフィック・ボードなみだ。
キッチンの蛇口から離れると、どこか雲を踏むような足どりで、リビングから出た。
そして廊下を進むと詩愛が使っていた部屋の扉をノックして、ためらいがちにひらく。
いつ彼女が帰ってきてもいいように室内はいじらず、入るのも遠慮している部屋だった。
──そう……もはや、遠慮する必要もないわけだ……。
人体を検知して、エアコンが自動でONする気配。
その微風に、女としての詩愛の身体の匂いと、化粧品が混じるのを感じる。
気配りが行き届いた備品や小物。彼女の香りが
ここで田山花袋なら、彼女のベッドに倒れ込み、おもうさま枕の匂いを
だが今の自分には、ここが
──ん……?
三面鏡の付いた
あぁ……と、この時。はじめて実感する。
オレは……彼女が必死の想いで差し出した花束を、目の前で捨てさり、踏みにじったのだ。
過去に妻をNTRれたことで意固地になり、心をひねくれさせ、彼女から捧げられた好意を、愛情を、誠意を、一顧だにせず。そしてガンコに
──それでこのザマよ……!
これは……
自分は、或る予感とともに実感する。
すべては“ 私 ”の責任だという、途方もない罪の重さを感じ、内心よろめきを禁じ得ない。
──どうすればいいのだ……この罪を滅ぼすには。
とりもどす?詩愛を?だが、あそこまで生体改造されていては、ボディを維持するための器機──SFでよくある、ヒトが横たわるカプセルのような──ものが、必要ではないのか。とても個人では賄いきれない規模と金額になるだろう。では他に彼女に報いる方法は……!?
──あ……。
そのとき、ある別の光景を思い出した。
さらに2~3日経っての夜勤明けのことだった。オレに、小包が届いたのだ。
もちろん昼間は留守がちなので、代わりにマンションのフロントに陣取るコンシェルジュが、代理に受け取ってくれることになる。
ふだん不定期な生活で、しかも張り込み明けの朝帰りに、コンビニ袋から透けるビールの500缶をぶら下げて高級マンションのエントランスを通るとあっては、相変わらずフロントの態度がそっけない。だが、どうもこのごろは、オレのことを『名家から追放されたドラ息子』であり、高級マンションと捨て
そのフロントのコンシェルジュから本名で呼ばれて小包を受け取ったオレは、肩に【SAI】の入ったトートバッグを揺すり上げ、高級フロア専用エレベータをつかって部屋にもどる。
リビングで小包を明けたとたん、涼やかな花の香りが、ひかえめに立ちのぼった。
荷物の中身は、あの日、店で着替えたまま置いてきたオレのスーツだった。
『──あぁ“匂いスミレ”ですね』
トートバッグから取り出された【SAI】が炊飯器のカメラで識別したらしい。
オレは炊飯器に電源コンセントと冷却ホースをつなぎ、蛇口を開きながら、
「“
『いいえ。この花は店のサービスではなく、おそらく詩愛サマからでしょう』
「……まさか……なんでわかる」
『ダメですねぇマイケルは。この冷却水を賭けてもイイですよ』
「だから、なんで!」
『知ってますか?この花言葉は「高尚」「秘密の愛」「誠実」「謙虚」です』
グウの音もでない。
オレはクリーニングしたスーツを入れる箱から忍びやかに薫る花を、ジッと見つめる。
その慎ましい控えめな花の姿は、詩愛そのものといってもよかった。
一生懸命、オレによりそってきた彼女。それを……オレは……。
「はぁい、マイケルさぁ~ん!」
いきなり大声で呼ばれ、背中を思いきりドヤされた。
後悔の色を併せ持つような匂いスミレの紫がうすれ、駐車場の騒音がもどってくる。
あぶなかった。もうすこしで涙ぐむところだった。その
痛ってェ……ダレだァ?と背中をさすり、ンだよ!ふり返ってみれば。
赤毛のソバかす娘が、ムフゥ~~♪とイタズラっぽそうな顔で、
「なァ~に、深刻なカオしてェ~、ぼぉ~~~としてるデスかぁ」
「
「えへへぇ~~。マイケルさんとぉ、地下書庫もイイかなァ~♪と思いましてぇ~」
例の偽装目的な、ぽややん口調でオレにしなだれかかってくる。
「おいおい、カンベンしてくれ。それに、まだキミにあげるようなネタは──」
叱ッ!
瞬間。
態度を豹変させ、この赤毛の小娘は目つきを鋭くしてオレを
そして声をできるだけ低くするようにして、
「アンタもワかんないヒトだね。ここでは盗聴に気をつけろと、あれほど……!」
いきなりザラついたものを舐めさせられたような感覚。
この小娘、やはりプロのエージェントなんだろうか。
カミソリのような視線をタジタジと受け流しながら、
「ワかった、ワかった。ワルかったよ……まぁアノ件は、コッチも気をつけてみるから」
「ホントにぃ~~~。タノみましたよぉ~?オヂさん!」
──おじさん……。
はぁっ、と高い天井を仰いで大きくため息をついたとき。
サンダーの火花がとばす鉄粉の臭い。
それが轢殺したときの血しぶきを連想させ、ちょっと眉間にシワがよる。
「んでぇ?このナイスな「オニイさん」!に、なんの用だ?」
「あ~アシュラがァ~、所長室にぃ~、来いってぇ~」
「はぁ?ハヤく言えよそれを!」
「だってぇ~~」
まったく!と憤然、指示ラインのペイントが錯綜するコンクリの床を歩きかけるが、ふと、
「そうだ!そういや“お局サマ”ってサ?最近見ないけど、なんか聞いてる?」
「えぇ~?長期休暇でしょぉ~~?」
キョトンとした顔で、コトもなげに、
「優雅なご身分デスよねぇ~~」
──なるほど……対外的には、そうなっているワケか。
姉妹ともども“紅いウサギ”の手に堕ちて。
お局サマの額に、あの呪わしい宝石がハメられてなかったのは幸いだった。
妹のほうはザンネンだったが、姉が稼いだ大学費用でホスト遊びするようなクズだ。自業自得というものだろう。それにどうも、アノ店はお局サマの事務能力を見抜いてるフシがある……ヒョッとして、会計担当も兼任するんじゃなかろうか。
エレベーターでオフィス・フロアまで上がる。
地下の喧噪がウソのような、取り澄ました雰囲気。
物憂げな空気のなか、女性事務員がPCの端末をたたく。
お局サマの代理でやってきた例の男が、コチラに気づいて会釈。
オレも片手でかるく手を上げそれに応えると、静かな廊下を所長室の方へ。
「所長──失礼します。マイケルです」
そう言ってノックをすると、中から扉が勝手にひらいた。
一歩踏み込んでみると、どことなくウンコ臭さがのこる、ような。
扉のわきに、見なれぬ金髪の女性事務員がノブをつかんだままアタマを下げて。
中央のデスクでヒジをついて組んだ手にアゴをのせ、不機嫌な顔をするアシュラが、
「いそぎと言ったろうが!!」
そう言って、いきなり怒鳴った。
「
名物、
従業員の──なによりイタチ面の、恐怖のマトでもある。
だが、入社した当初なら震え上がったろうが、今のオレには騎士団長と傭兵の経験がある。
その死線をかいぐぐった眼で見てみれば、目の前の人物など、タダの肉ダルマにすぎない。
ただ、ここで所長に向かって『彼女は急ぎだなんて言ってませんでした』などと言いワケしようモノなら、あのクソ生意気だが気味の悪い赤毛ッ
「それはイイですけど……所長。この部屋、なんだか」
「──なんだ!」
「なんか……ウンコくさくね?……ウンチ、出たので?」
不機嫌そうだった所長の顔がカァッ!みるまに赤くなる。
「うッ、うるさい!そんなコトはァ──どうでもいい!」
組んでいた手をほどいて、ドン!執務机を一撃。
コーネリア君!アレを持ってきてくれ、とアシュラが金髪事務員に命令する。
「
そういうや、この冷たい感じの美人は、制服の胸ポケットから取り出したメガネをかけ、所長室にある隣の部屋に向かった。ほどなくして、薄いキング・ファイルを持ってくる。それを所長の座るデスクに置くと、一礼してまた隣の部屋に引き下がった。
「いま割り当てられている
所長が、事務用のファイルを太い指でひらく。
すると、1ページ目に添付されたと3D写真が光をうけて立ち上がった。
「コイツだ。コイツを!最優先だ」
オレは奇妙に
間違いない。それは──『小男』の写真だった。