試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【18禁版】 作:珍歩意地郎_四五四五
座したまま、女神が巫女服の
すると──目の前でサカっていた三人は、とたんに消えてしまう。
あとは、薄明かりの世界につつまれ、オレと
ふと、どこからか……新緑の香りを思わせる、清冽な微風も吹き寄せててきた。
相手はユラリ、起ち上がると、
「いと
「あの……ナニを仰っているのか、イマイチよくわからないんですが……」
すると。
この縁結び神社の女神は、
「
「あがさにわ?……ってナンです」
女神は、しばらくブツブツと、ナニか呪文を唱えるようだったが、
「モー!コレがアタシの召使いになるなんて、チョベリバ~~!……で、わかるかの」※1
え”……。
いきなりの豹変にオレは脱力。
なんだ。現代語も話せるんじゃないか、この女神様は。
しかし
「もー。そんなん出来るなら、どうか最初からそうして下さいませ」
「
トゲのついたムチを振るうような“ お叱り ”が来た。
だが、そこに「ふふん♪」幾ばくかのドヤ顔な
「スゴいですねぇ……さすが。
「
「ワタシが……女神様の下僕になると、どうしてそうハッキリと思われます?」
すると、今度は感情の乏しい少女を想わせる、抑揚がない口調で、
「当然。勇者ヒ○メルでも──そうする」
──ぐ……ッ!
なんだ、最近の言葉もできるのか。
目の前のドヤ顔が、ますます高まったような気配。
もしかして参詣者の会話を、いちいちワッチしているのかもしれない。
だが、いくら目前の相手が“ゆる言葉”をつかったからといって、なれ合うような不敬は出来ない。なにせ相手は女神なのだ。そして相手から吹き寄せる苛烈さは、いささかの
「おそれながら……あいにく当方は、下僕になる気は……」
オレの抗議にも、目の前の相手は微塵に聞く耳を持たぬ風で、
「
女神はきびすを返した。
すると。まわりの雰囲気は、またもや一転。
まえのように真闇となり、かろうじて足下だけがわかるだけとなる。
すすむうち、板張りを踏む感覚はなくなり、神社に敷き詰められる玉砂利のものに。
やがてそれを過ぎると土の匂いが濃くなり、ついにはどこかで嗅いだことのある焦げ臭さ。
──あ……。
匂いが記憶を想起する強力さで、すぐにオレはそれが灼かれた骨の臭いだと分かった。
神社の中庭で行われた禁断の咒術。真琴とともに歩いた、あの
「そのぅ……どこまで、いらっしゃるんです?」
──
それはオレの胸を氷の矢で射貫くように、ヒリヒリと伝わる。
──これより先、
──声を、出してはイケない、ということでございますね。
──
進むにつれ、あたりの気配が冷え冷えとしたモノになってゆく。
空気はしだいに暗くなり、やがて鍾乳石と水滴の気配が横溢する湿っぽいものに。
その気配に、なんとなく覚えがあった。過去に真琴をおって入り込んだ洞窟を思い出す。
──ここは、まえに来たことのある場所……ですよね。
──覚えあり
──は……炎のカギ、ですか?
──そなたがFALとか申す自前の
──なんだ、もう。さいしょから、そう言ってくだされば(ゴニョゴニョ)。
──あぁ!?(ギロリ
──イエ、ナンデモアリマセン……。
暗闇でも薄ぼんやりと光る、巫女姿。
脚の歩みにつれる
そのうしろについてしばらく行くと、次第にあたりは明るくなってゆく。
やがて……洞窟をでた目の前に展開する光景に、さしものオレも息を呑んだ。
日暮れたような空のもと。ウネウネと続く丘一面に灯り、ユラめくロウソクの
──これは……。
さすがにオレも気づく。
そして、そのあまりな壮大さに、舌を巻かざるを得ない。
──ウワサに聞く“寿命のロウソク”……ってヤツか。
見わたす限りの焔の列。どれくらいあるのか、全く見当が付かない。
幾万、幾十万どころではない。視野からハミでるほどの、光のゆらめき。
不思議なのは、色が一定していないことだ。まるで炎色反応のように、緑、橙、蒼。
それぞれがふしぎな輝きをもって、さまざまな大きさで
──
縁結び神社の女神は、ゆるやかに首をふり、
──
──いんがの……ほむら。
その言葉を、オレは
──さらに
女神は、手近の暗い色をしたロウソクを指し示した。
驚いたことに、その焔をよくよく見てみれば、ヒトの顔がうかがえるではないか。
墨のような景色で全体に
──
──つまりコレを……消せばいいので?
またもこの女神は首をふると、
──
──かいしゅ……つみなう?
──えぇ
そんなら早くそう言ってくれればイイのに!と、またもオレは心中ほおをふくらませて。
──なんじゃ?なんぞ申したか!
──いいえ……めっそうもない。
──そちが
──えぇ……そんな。
《b》──それを、次なるは
イライラと、またしても女神は手を打ち振った。
そして……次に怖ろしいことをシレッと宣告する。
──
その言葉は。
オレの中に、あたかも雷のように響いた。
しばらくは、アタマがジィィ……ン。
──オレの……寿命……あと……1年……だと?
あろうことか女神は、ご
──
長くて1年の命だというのか。
では……もっと短くなる可能性もあるわけだ。
病死だろうか。それとも業務中の事故死?あるいは……。
──なにを然こそ驚くや、
オレの脳裏に先ほど蝋光のもと、亀甲縛りでおもうさま嬲られていた母娘の姿が浮かぶ。
『いや“親子どんぶり”より、長生きしたいです』と言いたかったのだが、アタマの中が真っ白なのと、相手の
──
──いえ……べつに。
──案ずるな。然れど、なにより
──ナンです?“ココロスサブ”って。
ふてくされたようなヤケクソ感で、オレは女神にたずねた。
相手はため息をつき、手もとの神楽鈴を手慰みに小さくシャン、と鳴らして、
──ほんに
絶望……。
まえにもどこかで聞いたことがあるような気がする。
そうだ!美香子のヤツが“絶望するな”とか言ってたっけ。
上級フェティマの『ユリ』は、たしか“ 絶望指数 ”とかナンとか。
──オレが……ワタシが絶望したら、ドウなるんです?
どうしても余命一年というショックから抜けきらないまま、女神にたずねた。
──それで、なにか変わるんですか。
──
──つまり……地獄?
女神は
かわりに、これ以上は無いと思われる、
──案ずるな。
清冽な風が吹き渡った。
身体をどこかにもってかれるような勢い。
間髪をいれずにガン!と殴られたような衝撃。
目の前が暗くなり、背中から墜ちてゆくような落下感。
ややあって。
どこかでピーピーと、アラームのような電子音がなっている。
遮光カーテンのすきまから漏れる光が、スプリントな軌跡を描いて。
リビングの白い壁に、鮮烈なオレンジの鋭角な幾何学模様をうかべている。
キリキリと、
さいごの言葉の響き。それは、いまだ耳のなかに生々しく残っていた。
天井のシャンデリアを
『マイケル──マイケル起きてますか』
いまは、【SAI】に返事をするのもメンドい。
見てきたモノが、夢でないことは、先の経験からわかっている。
寿命が「あと一年」とされた今、ショックすぎて何も手につかない。
──クソ…………っ!
ソファーの上で荒っぽく寝がえりをうてば、時計は16時を指していた。
どうすれば……いっそ、轢殺稼業なんか辞めちまい、手もとの金で豪遊でもするか。
──豪遊……ねぇ。
海外リゾートで★付きのホテルに泊まって、余生をノンビリ過ごす、とか。
それとも金に飽かせて100年モノのウィスキーや、200年モノの
あるいは……それこそ“紅いウサギ”にでも行って『美月』や『モルギアナ』を借り切って……。
『マイケル!』
「うるせェなぁ!聞こえてるよ!」
オレの怒鳴り声に数瞬、さしものクソAIも、沈黙。
『どうしました。何かありましたか?マイケル』
「AIには、とうてい分からん理由だよ」
『たしかに分かりませんね。マイケルの
「あァ?オレの数値が、どうしたってェ!」
『いえ……なんでもありません。計算のご協力、ありがとうございました』
「……んでぇ?」
ガシガシとアタマをかきむしってから、
「……その大事な計算とやらは?ウマくいったンかよ」
『まだ道半ば、という所ですね。でも、イイ感じです』
「いったい、おめーは……ナニやってやがんだ?」
『おおよそのメドが立ったら教えます。ただし──』
「ただし?なんだ」
『ヒトの仔に理解出来るか、分かりませんが』
いままでに無く、このAIはエラソーに付け加えやがる。
「勝手にしやがれ!」
オレは冷蔵庫からノンアル・ビールを引き抜き、口のはしから
*****
指笛、やブラボー。
そして盛大な拍手とともに、ショーは終わった。
スポット・ライトから名残惜しげに身を引くような足どりで。
最後に客先のほうにむかい、肉感的な赤いくちびるからの投げキッス。
興奮した面持ちも
間をおかず、白衣の専属のスタッフたちがエステ用のチェアを用意して彼女を取り囲む。
──ふぅ……。
上気した顔でホッと息をつくと、この歌姫は腰まである盛大なボリュームの金髪ウィッグを首をかしげてムシり取るや、かたわらの男性スタッフに放り投げた。
ネオジム磁石を幾何学的に埋めこまれた坊主頭に輝く汗。
ひとりの女性スタッフが、柔らかいタオルでソッとそれを拭く。
次いで彼女は──パチン!!
ホルター・ネックなデザインの、スパンコールが輝く赤いイブニング・ドレス。その首輪部分にあるSM的な留め金を外すや、ストンと脱ぎ捨てて足もとの赤い輪にしてしまう。
ダイヤが飾る赤い首輪。
銀鎖で下げた年代物の
ガーター・ベルトとストッキング。
それに足首に巻く革枷付きのハイヒール。
ただ、それだけの
スタッフが用意したチェアに、糸の切れた人形のごとく、背中から倒れ込んだ。
天井のライトから放たれる光が、ピンクの乳首と
これらの秘所に
薄いドレスの生地表に、これらのピアスを思わせぶりに浮かび上がらせ、より
おまけにどうしたことか、
ややあって、その秘密も知れる。
『美月』が少しばかりイキむと、ピアスが幾重にも飾る小陰唇がトロリ、蜜を吐き、やがてバイブする
「ヘッ!JK風情が、いくら背伸びしたトコで。色っぽさはタカが知れてらぁ!!」
演目中、客席からステージに投げつけられた、こころない酔客のひとこと。
それを真剣に悩んだ彼女は、自分の“アクメ顔”を利用することを思いついたのだった。
ブレスレット型のリモコンを手首にはめ、おマンコに仕込んだ“エッグ”を使い、要所で性的興奮を奮い立たせ、昂ぶらせて。オッパイや股間をモミつつ、客席に流し目……これで彼女の人気が不動のものになったのは、彼女専用のスタッフだけが知る秘密だった。
それが証拠に彼らは、この一連の痴態をみても眉ひとつ動かさず、
女性スタッフのひとりは、彼女が産みおとした“エッグ”を、なにごとも無かったかのように拾い上げて超音波洗浄機に入れた。幾本もの腕が、『美月』の肌の
ふと、『美月』は全身をさざなみのように覆うマッサージの快楽に身をゆだねつつ、
「……ドウだったァ?……今夜のアタシぃ……」
「サイコーでしたわよぉ~?」
ただ一人、白衣たちに混じるオッパイの大きなピンクのバニーガールが、それに応えた。
この場違いともいえるスタッフは、大きな扇で『美月』をあおぎながら、ぎこちない笑みを浮かべ、
「とくに『歌に生き、愛に生き、』はサイコーでしたぁ~」※2
だが、へにゃへにゃした彼女の口ぶりで賛辞をうけても、まるで臨終のように眼を閉じ、されるがままにマッサージを受ける『美月』は、口の端に皮肉な笑みを浮かべるだけで、なにも応えない。見方を変えればそれは“アンタに「プッチーニ」のナニがわかるのサ”とでも言いたげな風情のようでもあった。
「ところで──」
と、ここで彼女は。まぶたを片方だけひらき、ギロリ!そのバニーを見て、
「その後……あの
そう、このバニーは第17話:空白地帯への浸透偵察(3)で初登場の、そして今はマイケルの情報屋をつとめる青年『フクロウ』と同棲する“うわばみの『菜々』”だった。
酒豪の二つ名を持ち、なぜか“ウラ”の営業エリア担当に回った彼女だが、『美月』は店のトップ・
「どうなのョ?それとも──」
ふふっ♪
ここで彼女は少しばかり
「もう……
スタッフ全員の耳がダンボになる気配。
すると『菜々』は、恥ずかしがってモヂモヂ。
あぁ、そうなのネ……と周囲でヤレヤレの気配がただよう。
やがて『美月』の
「でもナナちゃん、それ公言したらダメだからね?キャスト同士の恋愛は、店長の許可が無いと……まだ申告してないんでしょ?」
「だってぇ~。てんちょォ、いつ帰ってくるか、ワかんないんだモン」
「アタシが──どうしましたって……?」
楽屋裏に、一人の人影が入ってきた。
スタッフは『美月』をメンテナンスする手を止め、一斉に直立不動となる。
なにごと、と歌姫も両目をあけて声の方に首をねじむけ、調子ハズレな声をあげた。
「キャァッ!ちびピエr……てんちょォ!!!!!」
あわてて『美月』はマッサージ・チェアからハネ起きると、傍らにかけてあったシルクのガウンをはおった。そして突然あらわれた自分の店の親分をあらためて注視して、ギョッとする。
疲弊しきったような『小男』の姿が、そこにあった。
ふだんの醜怪な風貌が、いくぶんマシに見えてしまうほどの徹底的な
おまけに両手首には包帯をまき、そこから血がうすく滲んでいる。
まるで地獄の業火に焼かれたかのような、異様に日焼けした顔。
この人物から漂う
「ナンです?『
「アタシが!タノんだのよ!」
『美月』は、ガウンの帯をむすぶと──ブルン!
生体豊胸処置された胸をゆらし、シルクの生地をテカらせるや決然、『小男』に向かった。
「この店の、トップ・
「……ほぅ」
自信満々な彼女を上から下まで。
やや久しくジロジロ
それは、どこか肉食ペットの生き餌を値踏みするように。
「アナタは、すこし……」
『小男』はズィ!『美月』の方に一歩を踏み出し、
「カン違い、しているようですネェ……」
「なっ……ナニよ!」
「アナタぐらいの
「うそよ!──ウソ!」
思いがけない相手の言葉に『美月』は食い下がった。
「アタシよりアリアが上手い歌い手なんて、店内のウワサでも聞いたことないモン!」
「そこはソレ。情報の
「……ひとく?」
アホっぽく小首を傾げる『美月』に“紅いウサギ”の店長はイライラと、
「情報の
と、ここで『小男』は──ニヤリ。
あたかも代官の前に座る越後屋のように、意味ありげなうす笑い。
「アナタと違い、知性も品性も。なにより“夜のお相手”も抜群の技術を
数段、格上の存在ですよ。と『小男』は手首をさすりながら、(この小娘が……)と言わんばかりに。
「そんな!ねぇねぇ『菜々』!そんな
「ワタシは、特別ステージがあるロイヤル・スィート区画には立ち入り禁止ですので」
「ね?ごらんなさい。これが情報の秘匿というモノです。ただし──」
『小男』は笑いをさらに醜悪なものにして、
「もうすぐ、一般会員サマ用の夜会──『
ここで『小男』の悪人面は、最高潮に達した。
「我が店が誇る、秘蔵の性奉仕ドール……いえ失礼。
****
その晩の運転は──再生された【ボニー】に、ほどんど任せっきりとなった。
目の前で大径ハンドルが勝手に回るのを見ながら、夜の街に流れる灯火をボンヤリ眺める。
歩道をゆく人々。すり抜けするバイク。運転のあやしい高齢者タクシー。
派手な排気音をたてるヤン車もいれば、救急車が神経にサワるサイレン。
そんな混沌たる情景のなかで、ときおり夜空が痙攣的に
それが、どこか今夜のオレの気分にピッタリのような気がして。
──あと1年、か……。
『マイケル。どうしました今夜は。さっきから様子がヘンですよ?』
『あら。マイケルさまだっテ、イロイロご苦労がありマスわ』
相変わらず【ボニー】は、お局サマを色っぽくしたような声で、
『今夜はワタシがドライブしますカラ、どうぞ休んでいて下さいマセ』
帰国子女をイメージしたと本人が主張する、妙ちきりんな
ためしに自画像を作らせたところ、モニターにはスタイル抜群の金髪ハデハデなおネェちゃんが浮かんだものである。
【挿絵:ボニーが創った金髪女性】
その時だった。
『マイケル。後方から白のメルセデス接近。【ボニー】の
「運転手の顔をサーチしろ──撮れ!」
だが、そう言い終わらぬうちに白い大型車は黄色線を踏み越え。猛然と追い越してゆく。アチコチでホーンを浴びせられながら、彼方の赤信号をギリギリでクリアし、赤い点となって消えていった。
「クソ!この町中で何キロ出してやがるんだ?」
『98km/hでしたわ、マイケルさま』
『動画のブレを編集。明度強調。キャプチャーしてアウト・プットします』
──うっ……。
コイツ。
あの結城老人の子飼いだ。
「兵隊」の気配がすると、アフリカ傭兵のオレが言っていた人物。
貿易会社の海外開発担当、
ステアリングをにぎる、能面のように無表情な顔がモニターからこちらを見つめていた。
「【SAI】、防犯カメラをメいっぱい使って、コイツの
『すでに実行中。ただし完全にはムリでしょう。防犯カメラ自体が、系統立っていませんから』
さっすが。
コイツの仕事のハヤさには、いつも舌を巻く。
『そしてもう一つ、問題が』
「なんだ」
『銭高警部補です』
「はぁ?なんのコトだ」
『後方200m。警察無線の記録をさかのぼり確認したところ、どうも速度違反であの白いメルセデスを追っていたあげく、チギられた模様です──来ました』
短いサイレン。
後方モニターにパトライトの
『まえのトラック、停まって下さい──まえのトラック停まって』
スピーカーから、聞き間違えようもない銭高のダミ声。
オレはウィンカーを出して減速すると左の車線に移り、停車できる場所をさがす。
「っチ!アイツぅ、いまさら何の用だ……」
どうやら銭高は、コリンズとちがって性奉仕ドールにされなかったらしい。
ま、当然か。いくら“紅いウサギ”とて、警察官には手を出さないだろう。
『例の『まほと』サマと銭高警部補の顛末がどうなったか、ワタシも気になります』
【SAI】のヤツがシレッと口を挟んできた。
オレが持ち帰ったコネクターの音声メモリから、状況を解析したらしい。
「……オマエぇぇ。あの店の監視カメラログ、まだ解析してないのかよ」
『妙にガードの堅いセクションがあるので、全体の把握はできていません』
「へぇぇ。オマエの能力をもってしてもか?」
『推論不能なガードがあります。一介の民間風俗店にしては不釣り合いな
オレは、あの店の超最先端な医療技術を思い起こした。
人体実験までやらないと、あのレベルまでには到達できまい。
もしかしたら、外国の専制国家とのつながりもあるやもしれない。
「まぁナァ。あの店の優良顧客ときたら、政治家や大企業のCEOなんかはゴマンといるだろうから、そこから技術を融通してもらってンだろ」
『それを差し引いても、不可解なのですが……ワタシのプライドが傷つきます』
「プライドねぇ……」
ズルいですわ、【SAI】サマ、とダッチワイフがこちらを向き話しかけてきた。
『ワタシもお話ニまぜてくだサイませ』
『これは高度な情報戦なのですよ【ボニー】。オマエが口をはさむレベルではありません』
シュン、とうなだれるダッチワイフ。
ほんとうに、お局サマの顔でなくて良かった……。
おれはトラックを歩道橋の真下で停める。
つづいてパトカーもトラックの前方に停車すると、助手席のドアを開いた。
やがて、トレンチ・コートの前をあけた大柄な男が、コチラに歩み寄ってくる。
監視用カメラが、その人物を夜間モードでズーム拡大。ワイプでフロントガラスに映す。
──うぇ……。
顔にはアチコチ
こころなしか、脚を引きずっているようにさえ見える。
その人物は運転席側にくると、トラックのドアをコンコン……。
オレはサイド・ウインドウを下げ、首だけ外に出して相手を見おろした。
「今晩は……銭高警部補どの。良い晩ですね」
カッ!
瞬間、夜空が光り、大音響が降ってきた。