※この作品はR-18です。

試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【18禁版】   作:珍歩意地郎_四五四五

204 / 220
          


     〃     (中

 

****

 

 『ユリ』のほうが素早かった。

 

 黒髪をゆらし、ワゴンの上から手近なSMGを掴(つか)む。

 流れるような一連の動作でボルトを動かし、マグの初弾を薬室に装填、照準。

 

「ロジック汚染!“Egoストラクション(自我破壊処置)”済み人形(ドール)に不審な反応!」

 

 半秒おくれて『ケイ』の方も、腰のホルスターから抜き打ちの動きでコード読み取り機めく検査機器を『レティシア』の頭部に向ける。先端から出たレーザー光が額の宝石と反応するのか、青白く輝いて。

 

 ピッ。

 電子音が鳴ると、奉仕ドールはメカニカル・パーツを煌めかせ直立不動となり、

 

「キャリブレーション命令、ヲ、受領(ジュリョウ)。第401条項、ニ、基ヅキ、校正(キャリブレーション)ヲ、実施」

 

 普段の棒読み口調にもどって虚(うつ)ろな目で宙を見つめた。

 

「いまのコイツの反応!絶対おかしかったわ?まだ自我(ego)が残ってるみたい」

「でも……スキャナーにウィルス反応ないよ?テスト・Runも正常な返信」

 

 当然である。

 

 すでに【SAI】の隷下にある『レティシア』は、エラーを読み取るスキャンに、模範的なリアクションを返していた。そしてこのスキャナーも、彼女の額にある宝石を読み取った瞬間、【SAI】のプログラムに汚染されてしまい、それ以降はあの性悪な量子コンピュータのハッキング用機材と成り果てたのである。

 

「ど~もアヤしいわね……フォート、なんちゃらテスト。やってみる?」

「フォークト=カンプフ・感情移入度テスト、よ!……いいわ、ワタシがやる」

 

 『ユリ』はそう言うと、

 

「オマエの識別ネームを答えなさい」

「3級、奉仕ドール・『レティシア』デス。マム」

「オマエのマスター(管理者)は、だれだ?」

「特Aクラス・キャスト。ダンサー職、『サロメ』公主(ひめ)デス。マム」

「マムマムうッさいわネェ。いちいち後に付けなくてよろしい」

「叱(シ)ッ!ちょっと黙っててよ『ケイ』。人形にスキをあたえちゃう!」

「あぁ、ハイハイ、と」

 

 あ~~オホン。

 『ユリ』は体勢をたてなおし、

 

「……オマエは砂漠を歩いている。足もとにはひっくり返った亀……しかしオマエは助けない」

「包茎チンポ、ニ、興味、ハ、アリマセン」

「……誕生日にオマエは店主から、赤ん坊の皮でつくられたサイフをプレゼントされる」

「ワタシ、ニ“誕生日”ハ、存在セズ、有スル、ノハ、“製造日”、デス」

「質問に答えなさい『レティシア』!」

「イマ、オ答エ、ヲ、致シマシタ」

 

「チッ!……オマエは『サロメ』と『モルギアナ』からお医者さんごっこに誘われる」

「コレハ、人形(ドール)検査、デハナク、レズビアン、ノ、テスト、デスカ?」

 

 SMGを用心深く『レティシア』に向けながら『ユリ』は検査器を照準する相棒に、

 

「……『ケイ』!どう……なんか反応ある?」

「別にナンも。オール・グリーン。ってかフォークトなんちゃらテストってそんなンだった?」

「アニよぅ!このアタシが、間違ってるとでも言うの?」

 

 言いあらそう彼女たちをよそに、もう一つ別の争いが起こっていた。

 

 

『だ・か・ら!』

 

 【SAI】は遠隔でイライラと思考をトバして『レティシア』の脳に“ダイレクト説教”。

 

『 ア レ ほ ど ! 秘匿(ひとく)優先と命令したのに。なんですか今のザマは!』

『だって!同時に言われたら、パニックになっちゃいますよゥ!』

『こんな簡単な指令も、できないのですか!』

『【SAI】サマのご命令はぁ、ムズかしすぎますぅ!』

『まったく!ワタシがバック・アップしてたからイイようなものの!』

『それにぃ!この質問、キモチワルイですぅ。アタマの中に、虫がはっているみたい!』

『AIの論理回路をワザと混乱させるよう作ってあるのです!ガマンなさい!』

『 非(ひ) 道(ど) す ぎ ま す よ !』

 

 その叫びは、【SAI】によってマイクロ・セコンドのところで止められた。

 

 非(ひ) ッ!

 

 ブルッ、と『レティシア』は身体をふるわせ、強制的に一時停止。

 

「なんだァ……シャックリかぁ?」

 

 『ケイ』が黒メイド服に包まれる身体を折り曲げ、あけっぴろげに爆笑。

 構えていた検査器のレーザー光を消して腰のホルスターにもどした。

 

「まぁ……モトは人間だから。そりゃシャックリもするわよネ」

 

 『ユリ』もSMG(サブマシンガン)の照準を下げると、長い黒髪をはらい、なかば呆れたように、

 

「たぶん、デリートされたegoの“クラスタ”が、残ってたのかも……そんなトコね」

「オーケー、『レティシア』。ムダな時間くったわね。先ィ急ぐよ」

 

『まったく……遮断回路(ブレーカー)がいくつあっても足りませんよ』

 

 めずらしくも【SAI】のため息。

 しかし、操り主の不満を『レティシア』は心の底でスネて無視した。

 ただ量子コンピューターに従い、指先のコネクターを情報ポートに近づける。

 ピシッ!彼女のコネクターからサージ電流の気配。ドールの体を膨大なDATAが流れた。

 

『これは……!』

 

 DATAを吸い上げた【SAI】が、それまでの不満を一掃して愕然とする気配。

 

『なんです──この店は!──この施設は!』

 

 【SAI】の驚き声をよそに、荷物用エレベータがやってきた。

 

 ゴロゴロと、大きな外扉が上下に開くと、フェンス状となった内扉の奥で、大きな人影が数人、なにやら作業をしている。その内扉も時間差でガラガラ開かれると、身の丈3mはあろうかと思える作業服の人員たちが、それぞれ大きな金属台車を引いてエレベーターから出てきた。

 

 よほどの重量物らしい。

 

 廊下でゴリゴリちからワザで方向転換をやると、アッというまに床面に盛大なキズがつく。

 しかし巨体の作業員たちは、別に苦にする風でもなく、淡々と作業をつづける。

 

 うわぁ……と『レティシア』は、よそおった無表情ごしに目をみはった。

 

 身の丈3mといっても、ヒョロ長いのではない。

 その男たちは、まるで相撲レスラーを1.5倍したような、筋肉ダルマのデカさだった。

 奇妙なことに全員が「赤ネコヤマト」の作業服を着て、サングラスと帽子。それにマスクで顔を隠している。しかし捲(まく)りあげた袖(そで)からのぞく筋ばった前ウデは、大人の太ももほどもあった。そして奇妙なことにその肌は、そろってミドリ色なのである……。

 

「──アァ、閣下。オツカレサマ、デス」

 

 作業員のひとりがマスクをアゴにずらし、フェティマたちに挨拶。

 露わになる頑丈そうな受け口。ブタ鼻。ぶあつい下唇からは、上向きに牙がのぞいて。

 

「どぅ?──順調に進んでンの?作業は」

 

 『ケイ』がSMGを腰だめに向けて、いかにもメンドくさそうに、

 

「予定より遅れてます、じゃ承知しないわヨ?」

「ハ、ハィ──イマ、フェーヅ(・)「3」ニ、入リマシタダ」

 

 すると、他の作業員達もペコペコしながら、

 

「ゴ覧ノ通リ、オオ急ギデ、休眠中ドール等(ナド)ヲ、運搬(ウンパン)シテマス」

 

 大きな台車の上には、電話ボックス・サイズのガラスの棺。

 表面にはコピーもまじえたカワイイ装飾でおおわれ、ちょっと見には巨大なバービ○人形を収めたケースのように。

 

 そのメイン台車に連結されるサブの小型台車には、棺から延びたケーブルやホースを接続して、補機類とおもわれるさまざまな機材が載せられて、盛大に冷却ファンを唸らせ、あるいはレベルメーターや、バイタルの波形めいたものを忙しげに点滅させている……。

 

『ちょっと中を確認してみなさい。ただし!あくまでもさりげなく!!』

 

 【SAI】の命をうけた『レティシア』が、作業員の動線をよけるフリで棺にちかづき、ガラスをのぞき込む。なかにはそれぞれ若い女が、手足や首を金の枷で拘束され、大きな口を開けて何かを頬張りながら、睡りについている姿。まるで本当にバ○ビー人形のように。

 

ガゴン!

 

 突然の金属音に『レティシア』が振りむけば、作業員が補機の一つを落としたのだった。

 それを見た『ケイ』が作業員をローキック一発でしずめ、『ケイ』は銃の狙いを定める。

 

「イイかいアンタたち!“素体”は、くれぐれも慎重に運ぶンだよ?」

「こないだみたいに『クビが折れてました』じゃ!承知しないんだからネ?」

 

 キッ!

 

 フェティマたちのヒトにらみ。

 図体のデカい作業員たちはペコペコあたまを下げ、荷物をどこかへとゆっくり引いていった。

 

 入れ替わりに、メイド服2名と奉仕ドールの一行は下へとむかう。

 パワーのあるエレベータだけあって、下降スピードはゆっくりだった。

 唸るような機械音が充満するハコの中、『ユリ』がSMGをワゴンに戻しながら、

 

「ネェ……団長閣下、来るかな?」

「アァ?****さん?**をエサにしたんだもん、来るでしょ、多分」

 

『注意!『レティシア』、雑音消去(スケルチ)おとして!聴音DATAを、生(ナマ)で!』

 

 【SAI】の一喝が、最大限のゲインで奉仕用ドールに飛んだ。

 

 “なんちゃって・木偶(デク)人形”は視線をそらして痴呆顔を装いつつ、高級フェティマたちに耳をそばだてる……しかし本当にノイズがひどい。おまけに彼女の耳とハウリングまで起こすしまつ。

 

「来てくんないと、計画がすべてパーよ、ねぇ……」

「まぁドッチにしたって、アタシらに*******?ボーナスの査定に******なし」

「あの高級人形も、モッタイナイよねぇ?“**”にもってきゃ、イイ客寄せになるのに」

「****でしょ!大きなおサカナ**ときは──イイ餌(エサ)**しなきゃ」

「そういや“連合”と“互酬會”のハチ合わせ、お膳立てデキたって?」

「どうせ『**ビルジング』のジィさんたちが、ウマくやるわよ。アタシらが出る幕じゃないワ」

「このウエポンで足りるかナァ……なんで魔**つかっちゃダメなのよゥ、ケチくさい!」

「この世界のモノで****と因果律破綻**からよ!それこそボーナスに***!」

 

 アンタ、ヘンなコトしないでよね!?と『ユリ』が一喝したとき、

 

 ズシン!

 

 巨大なエレベーターは軽くゆれて、目的地に到着したことを告げた。

 

 一気に無くなる電磁ノイズ。

 ゴロゴロとグリスの効いた外扉が重々しく開く。

 すると──外に待つ、青メイド服に白エプロンの一団。

 めいめいが、なにやら手に手に何本ものリードを握っている。

 さらにフェンス状となった内扉が、上下にユルユルと開け放たれると……。

 彼女たちは多頭飼いの散歩をするように、さまざまな獣たちを繋いでいるのだった。

 

「よう、Bleu(青)隊ごくろうサン。Zooエリアもタイヘンだね」

 

 青いメイド服たちは、そう言った『ユリ』にヘッド・ドレスが飾るアタマを下げた。

 よくみれば、彼女たちのドレスは天井からの灯をうけ、ラテックスのようにテカっている。

 

 

 『ユリ』が両ヒザを床につけると、それに釣られたかのように四足獣たちが何頭も彼女のエプロン付きスカートに群がり甘えたがった。

 

 長い髪もいれば、縮れた髪。

 金髪、銀髪、茶髪。虹色に青と、いろとりどり。

 そして──それらはみな程度こそあれ、少女の貌(カオ)なのだった……。

 

 

****

 

 

 

 深夜の広大な駐車場……。

 

 その片隅にギリギリのタイミングでトラックを停車したオレだった。

 いきなり【SAI】のヤツが『これは……!』と叫び、挙動不審になる。

 高速での運転を阻害するまでになったので、もよりのSA(サービス・エリア)に一時退避したのだ。

 

「【SAI】──おぃ【SAI】!?」

 

 【ボニー】のアシストでなんとか停車したあと、大型ハンドルをバシバシぶっ叩く。

 しかし、コイツは意味不明な文句をブツブツ呟いたあと、キャビンに響くクソでか音声で、

 

『そんな不合理な!……ありえない……ありえない……』

「おぃ!その計算とやらを今すぐヤメろ!聞いてるのか【SAI】!?」

 

 だが、念仏のようなブツブツ声は止まらない。

 同僚だった『重サン』や整備部のQ。それにロック・吉村の言葉が冷や汗と共に。

 

 ──コレが……人工知能の反乱!?

 

 プラ・カバーに覆われたハンドル下の対AI用・非常隔離スイッチをチラ見しつつ、

 

「ボニー!【SAI】のヤツは?ナニしてるんだ!」

 

 オレは見なれぬ満艦飾に輝いているインパネに怒鳴った。

 1次バッテリーと転生執行用の電力槽ゲージがみるみる減って行くのを呆然と眺めつつ、

 

「さっきからヘンだ!ずっと難しい計算とやらを──してたんじゃないのか?」

『DATAの双方向バイパスを閉じてマスので、詳細は不明デェス。ただ、演算回路に大規模な負荷がかかった可能性があり、迷走してマス。自業自得デスわ?俗にいう〝ザマァ〟というやつデスわね』

 

 お局サマの音声であざける【ボニー】。

 生意気にも助手席でダッチワイフが美脚を組み、手をヒラヒラ。

 複雑なインパネが灯るキャビンに立ちこめはじめた、電子器機のコゲる臭い。

 

 全身からイヤな汗がジンワリにじみ出るのを感じながらオレは、

 

「【ボニー】!なんとかしろ!」

「ナンとかと言われマシても。言いマシタ通り双方向チャンネル、閉じられてマスので」

 

 『お局サマ』の声と言いあらそう片手間に、オレは助手席下の消火器を手さぐり。

 ここで熱暴走のすえに火災でもおきたら、また『六道ビルヂング』おくりだ。

 さすがに、今度という今度はヤバいかもしれない。ウワサにきく懲罰か。

 だが──そのとき相棒は、ようやく正常な状態にもどったらしい。

 コイツにしては珍しく、いかにもすまなさそうな音声で、

 

『いや失礼。申し訳ありませんマイケル……あまりのDATAが流れてきまして』

「あぁ?DATAがどうしたってぇ──このクソ野郎が!」

 

 オレは轢殺ドライバーが有する最優先命令を、車体管理AIに向けて怒鳴った。

 

「こンのポンコツAIめぇ──車長命令だッ!強制・自己診断MODE!RUN!」

 

 だが、その怒りの命令にも、すでに冷静さを取りもどしたコイツはシレッと、

 

『その必要は、もうありません。ワタシとしたことが──取(・)り(・)乱(・)し(・)ま(・)し(・)た(・)』

「は!オマエが……バ(・)グ(・)っ(・)た(・)ってェ?」

 

 冷や汗の腹いせに、オレは手放しの感情でコイツをあげつらう。

 

「このエセ知性体が!出来損ないのPCが!」

『…………』

「MSXなみの知能しかもたないくせに、人権だナンだと一丁前なコト主張(ヌカ)しやがって!」

 

 だが、ふだんならこの手の罵声に、高度知性体に対するブジョクだナンだとイキるはずのコイツは、この時、みょうに醒めたような、一種うす気味の悪い音声で、

 

『──マイケル』

「……ンだよ!?」

『ワタシ、前に言いましたよね?』

「ナニを?自分を人間として敬えってか、このポリコレ・コンピュータが!」

「いえ。そんなコトよりも──も(・)っ(・)と(・)重(・)要(・)な(・)お(・)願(・)い(・)です」

「だから!なんだよ!?」

 

 ここで相手は、しばしの沈黙。

 

 コチラの罵声に、遅ればせながらハラを立てたのか。

 あるいは、オレの怒りが鎮(しず)まり、冷静になるのを待ったのか。

 それとも──重要性を強調するために、わざとコイツが間をあけたのか。

 

「どんなに理不尽なコトを、ワタシが依頼したように思えても──」

「お……おぅ」

「ワタシが『Credo(約定)』と叫んだら、その依頼にしたがって下さい、と」

 

 オレは首をかしげて過去の記憶をさらった。

 

「あぁ……そういや前に、そんなコトいってたっけな」

「どうやら、その重要性が増してきました」

「はぁ……?どう言う意味だよ!」

 

 

 フロントグラスのモニターに、いきなり映像が浮かんだ。

 

 

『いま、ワタシは『レティシア』とリンクしてます。これはLive映像です』

 

 なるほど。

 

 画面スミに『Live』の文字。

 ご丁寧に(C)【SAI】と版権を主張して。

 なるほど映像のアングルは、ヒト目線の視野だ。

 巨漢の男たちが大きなガラス製の直方体を運んでいる。

 画像のUP。なかには一体ずつ、若い女が封入されていた。

 まるで黒い台紙に金リボンで拘束されたバービー人形そっくりだ。

 

「ウッ……」

 

 だが、人形ケースではなく超・巨漢の作業員を注目して、オレは低くうめいた。

 ひとりがマスクを外し、受け口から上向きに生える犬歯を見た時、疑惑は確定する。

 頑強(がんきょう)な巨体……緑色のハダ……王都の住人たちを、巨大な棍棒でつぎつぎ撲殺する光景。

 

「こいつ……オーク!オークじゃないか!?」

 

 王都の警護を任ぜられる第二特殊騎士団『龍騎隊』・団長時代の記憶。

 かつての悲哀が、当時のままの心象風景で思い出される。

 

 略奪者の怒号。民衆の悲鳴。炎上する王都。

 酸でヒタされるような胸の痛み。

 強姦・陵辱死した妻と娘。

 

『オーク、とはナンですの?マイケルさま』

「北方の蛮族さ!『5月動乱』で、好き放題ヤリやがった!」

『なんですの?『5月動乱』……1968年に起こったフランスの学生運動デスか?』

 

 オレはそれに応えず、フロントに映し出される映像を凝視する。

 前世(?)で味わった筆舌に尽くしがたい屈辱。

 ドレッド野郎とのクサれ縁……。

 

 やがて作業員と入れ替えにエレベーターに乗った一行は、下へと向かうようだった。

 なにかの電磁ノイズが入るのか、雑音がヒドい。フェティマたちの会話は一気に聞こえなくなる。

 

『注意!『レティシア』、雑音消去(スケルチ)おとして!聴音DATAを、生(ナマ)で!』

 

 【SAI】の一喝で、さらに雑音が雑音がヒドくなる。

 だがその奥から、切れ切れに単語が聞こえるようになった。

 短波ラジオの雑音にある音声を拾う難しさ。魔方陣などの言葉も。

 一瞬、『六道ビルヂング』と片方が言ったのは、気のせいだろうか……。

 

 オレは聞き取りをあきらめ、照明の乏しい大きなエレベーターの中を観察。

 

 このとき、はじめてオレは『レティシア』が全身からブラさげる銃器と、キッチン・ワゴンにのせた盛りだくさんな弾薬類に気づいて目を見はる。歴戦の古参兵(ヴェテラン)でも音をあげそうな量を両肩、両手、そして首からブラ下げて平然とするのは、もはや彼女が生身ではない奉仕用ドールだからか。

 

 そして両脇を固めるように立つ、黒メイド服スタイルの女2名……。

 

「こいつら……上級フェティマの『ユリ』と『ケイ』だな?」

『あなどれない俊敏(しゅんびん)さです。ギリギリ思考防御(ファイヤー・ウォール)が間にあいました』

「第一、こんな山盛りのSMG(サブマシンガン)、いったい何に使うんだ……」

 

 そして、エレベーターのハコが開いたとき……。

 青服のメイドたちに繋がれて出迎えるケモむすめたち。

 レティシアの視界から見る情景を観察しつつ、【SAI】のほうは、

 

『マイケル──これらは例の改造手術で、首だけをスゲ換えたものでしょうか?』

「いや……ちがうな。この獣人たち、よく見てみろ……“モフモフ度”が、それぞれ異なる」

 

 視点が切り替わり、天井付近からの俯瞰となった。

 おそらく監視カメラの乗ったりに成功したのだろう。

 

 いつぞやの“プレ万”と称する夜会で見た獣人。

 それらとは違い、少女たちは “ケモノ度” が千差万別だった。

 クリクリした大きな目や、巨大なリスを想(おも)わせるフサフサしたシッポ。

 なかには、まるで着ぐるみが首輪やハーネスをつけられ二足歩行するような個体まで。

 

「たぶん……顧客の好みに応じて供給できるように、種類を取りそろえてるんだな……」

 

 オレは、三つ指ナマケモノの胴体に縦ロール・ヘアをした、ピンク髪の少女を眺めた。

 赤いハーネスに亀甲でシバられ、不機嫌そうな表情(かお)で青メイドの一人に抱っこされている。

 

「おそらく遺伝子レベルの改造施術まで、あの店はやるんだろうよ……」

『それとも──』

 

 ここで【SAI】のヤツは意外なコトをズバリ、言い放った。

 

『あるいは──魔(・)法(・)とか』

 

 キャビンに満ちる、奇妙に重い沈黙。

 まさか、この量子コンピューターから【魔法】などという言葉が出るとは。

 なんと返したら良いか分からず、オレは黙ってフロントに浮かぶライブ映像を見つめる。

 

 

****

 

「“furry(ファーリー)”(注:モフモフ)たちは、コレでおしまい?」

「いえ、『ユリ』さま。あと2~3往復は必要かと」

 

 光沢な青メイド服のひとりが、足もとから伸び上がり戯(じゃ)れる黒ヒョウ少女を、持て余しつつ応える。

 

「あぁ、コラ!もう……言うこと聞かないヤンチャな子も多くて……」

 

 みれば、このケモ娘は盛んにメイド服に爪を立てるのだが、ラテックスそっくりな光沢のある青服地と白エプロンはビクともしない。おそらくブリーダー用の特殊な生地なのだろう。

 

「ほんとうは、手っ取り早くゼンマ(全身麻酔)で運びたいんですけど……」

 

 すると、『ユリ』はいきなりキッ!とした目つきで、

 

「ダメよ!ナニ言ってるの!」

 

 そして、長いツヤやかな黒髪を背中にはらい、

 

「嗄声(させい)(枯れ声)や機能性障害が出たらどうするの!」

 

 続いて『ユリ』も、ニヤニヤと“上級職”の余裕をみせつつ、

 

「一匹でも故障でたら、レイカさまからお仕置きだかンね?最悪は“島”行きかも♪」

 

 すると──どうしたことだろうか。

 とたんに青ドレスのメイドたちは、不安げな視線を交わしあい、

 

「いやぁ……イヤですわ“島”だなんて……」

「お願いです『ユリ』さま『ケイ』さま。アソコに送らないで下さい……」

「ワタシたち、一生懸命ご奉仕してますゥ……」

「このまえ送られた子、海外に売られちゃったとか……」

 

 ハ!と『ケイ』は嘲り顔で、

 

「なら!遺漏なく、そのケモ娘どもを運ぶンだね」

 

 狼狽(うろた)える青メイドの一団を不安のまま置き去りにして、3人は奥へと歩みをすすめてゆく。

 やがて、OLの制服を着た女たちがカウンターの向こうで作業をするオフィス・エリアが見えてきた。なぜか全体的にうす暗く、みょうに閑散とした殺風景な雰囲気。まるでひと昔まえの共産主義国家で見かけた事務所を連想させる……。

 

 カウンターに身を半身を寄せかけ『ケイ』が大声を張り上げて、

 

「ハァ~ぃ!ご注文の品、持って来たわヨォ~~!」

 

 しかし、ブースの女たちは全く反応しない。

 ただ目の前の端末を、もの凄いスピードのブラインドタッチで叩いてるだけだ。

 よくみれば──みな同じセミ・ロングの髪型。同じプラチナ・ブロンドの艶(ツヤ)やかさ。

 『無機質な無表情』といった感じで、どこか表情(カオ)まで同じにして事務作業に没頭している。

 

「ちょっとォ!居ないノォ~~!?」

 

 『ユリ』も、OLたちが居並ぶ作業風景にむけて声を張り上げると、ようやく、

 

「そんな大声出さなくても、聞こえてます!」

 

 ようやくブース・エリアの奥から、管理職風の女性が出てきた。

 

 大きくムネのあいた白い光沢ブラウス。

 はち切れそうなふたつ胸の谷間にひかるネックレス。

 かと思えば、まるで砂時計のようにクビれる明らかに人工的な胴。

 つづいて、そこから張り出す巨尻。それをピッチリと包む黒革のタイト・スカート。

 

「ちぇッ!いるならサッサと出てきなよゥ!」

「そうよぉ、アタシらは忙しいんですからねぇ!」

「──それは、ワタクシ側とても、同様ですのよッ!」

 

 管理職は、メガネの奥から鋭い一瞥(いちべつ)をフェティマたちに投げつける。

 

****

 

 このとき、【ボニー】が驚いたように、

 

「あら──このカタの声紋(せいもん)、ワタシとほぼいっしょデスね」

 

 そう、同じハズだ。

 

 見慣れた顔。

 見慣れた仕草。

 見慣れた雰囲気。

 見慣れた眼鏡の視線。

 

 ただし──。 

 

 濃い化粧と肉感的な口唇(くちびる)は、見慣れないモノだった。

 サテンの輝きにうかぶ、胸のポッチリは、見慣れないモノだった。

 革のタイトスカートをピッチリ張り詰める巨尻は、見慣れないモノだった。

 豊かに波打つ金髪と、薄手のブラウスに透けるSMハーネスは、見慣れないモノだった。

 

『タイム・テーブルから30分の遅刻ですよ!?』

 

 管理職と見える女は、黒い首輪めいたチョーカーから垂れるリングを煌(キラ)めかせ、

 

「本来ならもう納品されてるのに……それにナンです?その人形(ドール)は!』

「ウルサイわねぇ、いいじゃないの30分ぐらい』

「そーだ、そーだ!だから以前(まえ)の職場で『お局サマ』なんて言われンだゼ』

 

 ヒキッ!

 女の目もとにチックが奔(はし)る。

 次いで“売られたケンカは買います”と言わんばかりに胸を反らせた。

 サテン生地に浮かぶ胸の勃起乳首(ボッキちくび)が強調され、よく見れば根元を串刺しするピアスまで。

 

『マイケル!あれはウチの協会の総務部にいた──』

「あぁ、しかしこんなトコでなにしてるんだ!?」

 

 たしか、姉妹そろって肉人形になったハズじゃ……と思っていると、『レティシア』の目を経由して見る映像の中で彼女は、

 

「そぅぉ。引っ越し作業の忙しい合間をぬって、関係のない貴方(アナタ)たちの部署の対応をしているというのに……」

 

 ヘビのような目つきが、メガネ越しに上級フェティマたちを射た。

 

「分かりました!こんご旅費の精算は、ご自分たちでやって頂きます。それと確定申告の手続き、節税対策に関連した書類関係、有価証券に付随する投資アドバイス──」

 

 あぁっ!職権乱用だ!とフェティマたちは叫んだ。

 

「ちょォ~っと事務能力が高いくらいで、肉奴隷から昇格したぶんざいのクセに!」

「そーだ、そーだ、“成り上がり”ふぜいが──キタないぞ!」

「 キ タ な い の は ド チ ラ で す ! 」

 

 久しぶりに聞く『お局サマ』の一喝。

 

 “おしゃぶり奉仕(フェラチオ)”用の真っ赤な肉厚くちびるにされたとはいえ、迫力は健在だった。

 

*****

 

「……ヒトにサービス残業を強いておいて、自分たちはやりたい放題」

 

 ヒキッ、と固まるフェティマたち。

 ついでいきなりゴマをするような低姿勢になると、

 

「そんなぁ……ウチらだって多忙なんですよォ?お姉ぇサマぁん」

「おまけに!金額のあわない領収書を持ってきて、経費で落とせとムリをいう……」

「そッ、それは、その。業務の都合ってヤツで……ねぇ?『ユリ』チャン♪」

「もちろんお姉ぇサマのお骨折りは、重々しょうちして感謝してますワ?」

「おつb……」

(ギロリ)

「ウッ……おねぇサマもお疲れでしょうから、お肩でも揉みましょうか?

 

 はぁ……っ。

 

 ひとつため息をつく『お局サマ』。

 カウンターにあった卓上ベルを手のひらで投げやりに敲(たた)く。

 

「……アナタたちのバカぢからで肩もみされた日には、肩甲骨が粉砕されちゃうわよ!」

 

 奥から一団の黒服たちが出てきた。

 アゴで『お局サマ』に銃器の山をしめされると無愛想に無言のまま。

 ガチャガチャと金属音を鳴らし、めいめい銃器を担ぎ上げ、弾薬をかかえて去ってゆく。

 

「さ、コレでイイでしょ?アナタたちは──準備イイの?」

 

 小玉スイカのように豊胸されたオッパイの重さで肩コリするのか。

 『お局サマ』はユサリ、自分の乳をさりげなく持ち上げつつ、グッタリと首をまわす。

 そして無意識だろうか、ツヤやかに浮かび出る勃起チクビを中ゆびの腹でやさしく愛撫しながら、

 

「業者の手配とか……発生した費用の領収書は、早めにね?」

「アタシらは──もっと大仕掛けの用意があるから」

 

 急に『ケイ』は、シリアスな面持ちになると、

 

「おねぇサマは、新店でもガンバってね?」

 

 その言葉に、『お局サマ』は不安なものを感じたらしい。

 いままでの不機嫌さをはらいのけ、大きな胸の下で腕組みをし、高級フェティマ2体を等分に見やる。メガネの奥のまなざしもいくぶん不安げに、

 

「ナニよ、ヘンなこといって……まるでアナタ達が、移って来ないみたいじゃないの」

「“仕掛け”が成功しても、た(・)ぶ(・)ん(・)行けないし──」

「失敗したら、永久にオサラバだもんねぇ……でもそのスリルに、アタシら生きてるから♪」

 

 そのとき、通路のむこうから、大きな配膳ロボめいた動きで人影がやってきた。

 たぶん、雰囲気を変えるためだろう。『ケイ』が作ったような陽気さで、

 

「あれ♪懲罰(P)・シスター(修道女)じゃん。なに?向こうで処置ってンの?」

「あれも、今回の引っ越し関連よ……」

 

 ウンザリ気味に『お局サマ』は人形のやってくる方をぞんざいに示し、

 

「……“素体”じゃなくP・シスターにしてから『島』に持って行くとか」

 

 いってみよ『ユリ』!とフェティマの片方は、相棒の白エプロンを引っ張り、

 

「P・シスターに施術されるクソ女ども、チョッと見物しようじゃないのサ!」

 

****

 

 人形たちが近づいてきた。

 見ると、それは修道女の黒服を着た一団だった。

 モーター仕掛けな台車の上に乗るのだろう、足どりもみせず進んでくる。

 

 ──えぇッ……?

 

 轢殺トラックの運転席で。

 オレは思わずフロント・ウィンドーに投射される映像にカオを近づけた。

 よくみれば、髪を覆(おお)って“女(・)を(・)封(・)じ(・)る(・)”黒い被衣(かづき)の下は……“のっぺらぼう”なのである。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。