※この作品はR-18です。

試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【18禁版】   作:珍歩意地郎_四五四五

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     〃    (その3:思わぬ邂逅(かいこう)

 

 

 『小枝子』は営業用の廊下わきにある『非常口』という鉄の扉を指紋認証で解錠したのち……ガコン!重そうに開けて、オレを内側に招き入れた。

 

 コンクリ臭(くさ)い空気が、吹き寄せてくる。

 かすかに……かすかに……。

 なにか、電気炉のような器材でモノが燃やされるような、乾いた気配も。

 

「もうお客サマは全員、準備を済ませて会場に入っているのよ?貴方(あなた)も、そうして頂かないと……」

「準備って?ナニするんだ」

「あら……万聖節の夜よ?コスプレ(仮装)に、決まってるじゃないの」

「ハ!コスプレだってぇ?オレに “プリキュア” のカッコでも、しろってのかィ」

 

 絶句する『小枝子』に代わり、

 

「……へぇ。マイケルさんに “日アサ” の趣味があるとはネェ?」

 

 オレの後ろを歩くフェティマたちが面白そうに茶化す。

 

「まさか……けっこー “オタク” だったりして♪」

「ありえる~~。いっそ『女の子の人形』に改造して、カベに飾っちゃう?」

 

 筋肉アニキたちの『ダッチワイフ』にされ、いまもチンポをしゃぶらされて居るであろう、あの轢殺目標(ターゲット)だったガキを思いだし、コッチとしては内心「チン冷や」だが、あえて平静をよそおい強がって、

 

「この店は……なんでもアリだなぁ。さっきの “ヒトイヌ” だってサ?本当は警──」

「あぁ『魔ほと』のこと?」

 

 『ユリ』が、長い黒髪を後ろに払って鼻でわらいながら、さも何でもないように、

 

「『小枝子』サンの飼い犬だったのに “エカルテ” 勝負で『麗華』なんかに負けるから」

「こらッ、『麗華』 “サマ” でしょう?……まったくアナタたちは」

「イイじゃないの。もうすぐ、お役御免(やくごめん)なンだし」

 

 お役御免?とオレは『ユリ』のカオを見た。

 

「なんだ、フェティマを辞める?そもそも辞めるコトなんて、できるのか?その──」

 

 改造されたカラダで、と言いかけたとき、

 

 「あぁッ──マイケルさぁん!」

 

 通路の彼方から、黒い “ヒト猫” のコスプレが、小走りに近づいてきた……。

 

 ──なん……だ?

 

 ゾクゾクゾクッ!反射的にカラダが中腰になり、身がまえる。

 どうも黒ネコというヤツに苦手意識が刻まれつつあるらしい。

 ビミョーに退き気味になりつつ、オレは相手をよく観察する。

 

 ──う……ん。

 

 基本バニーガール。だが頭は、黒ネコの全頭マスクでカバー。

 網タイツに包まれる脚は、股間がキワどいハイレグな仕様だ。 

 太ももまで丈がある、黒いフェティッシュな編み上げブーツ。

 そのワリには──駆け寄る動作が、ネコのごとく無音のまま。

 まるで薄暗がりに溶け、にじむように輪郭がハッキリしない。

 そんな相手が、息を切らさんばかりにコチラへと駆けてくる。

 

 ──ふぅむ……。

 

 近づいてみればボディのバニー衣装もツヤ消しの黒革らしい。

 おまけに同色の、中指でひっかける手甲タイプの長グローブ。

 まるで肌の白さを、できるだけ少なくするようなデザインだ。

 

「やっぱりマイケルさんだぁ。今来たの?オソぃよぉ……」

 

 全頭マスクのおかげでくぐもった声。

 嗅ぎ慣れない香水の雰囲気と、女の臭い。

 艶めかしい身ごなしも、記憶のリストにない。

 

「あの、しつれいですが……」

「やだぁ、気づかないのォ?」

 

 パコッ、と女は跳ね上げ式となったネコの全頭マスクをとる。

 

「へへぇ……アタC~♪」

 

 黒ネコマスクの中からは、美香子──『美月』の顔があらわれた。

 

「うわ。キミかぁ~~」

 

 なんだよと、思いつつもオレは怪訝(けげん)に感じる。

 ミントの息に混じってただよう、彼女の肌のにおい。

 いつもと違う、大人びたパフューム。艶めかしい身ごなし。

 顔つきも、いつの間にか大人びて。まるで本物の “夜の女” となって。

 それに、いつの間にか『ご主人サマ』から『マイケルさん』扱い。チト寂しい……。

 

「一瞬、分からなかったよ。ちょっと大人びてサ」

「ふふん♪『女子、3日会わざれば刮目(かつもく)して見よ』ですわ?」

「ほっほぅ。まさかキミの口から、そんな言葉が出るとはね……」

 

 だがそれに対し、『美月』のほうは、なにやらヘンな目つきでオレを見返してきた。

 

****

 

 ──やっぱし、そうだ……。

 

 アタシはボンヤリ考える。

 

 ──まえは、アレほど『ご主人サマ』のコト好きだったのに、いまは……ナンか、チガう。

   よくよく見れば、タダの「チョッと見た目のイイ」 “をぢ” ぢゃん。

   なんでこのヒトのこと、好きだったんだろう。チンポが大きいワケでもないし。

   あ、まって!そういえば、マイケルさんのおチンポ……見たことない!

   もし、まわりの黒服どもみたいに、巨チンだったり、シリコン入りだったら……。

 

「美香k……いや『美月』クン」

 

 ──舌なめずりしてると、まぁ~た、このオヂサンさん。気取って話しかけてくる。

   その固ッくるしい呼び方、あんまスキぢゃないんだよねェ。なんか上品ぶってるし。

   それにアタシもう『美香子』じゃなくて『美月』だっつーの!!源氏名で呼んでよね!?

 

「詩ぃ……いや、お姉サンは、どうしてる?」

「は?『モ(・)ル(・)ギ(・)ア(・)ナ(・)』なら、今夜のメインの準備じゃないの?」

 

 ──ワザと、トゲトゲしい声が出た。

   こういう時って、アタシってホントばか。

   ワザと意地悪しちゃう……でもでも、仕方ないよね?

   アタシ。しょせんお姉、『モルギアナ』とはハラ腹違いの妹だモン……。

 

「アタシも、これから最後の打合せにいくケドさ」

「今夜のメインて……まさか……お前……」

「そ。『モルギアナ』が唱(うた)うプッチーニで、アタシが剣舞をするの」

 

 ──え!とおどろくマイケルさんの顔。気持ちイ~イ。ふッふ~ン、って感じ♪

 

「あの『サード』ってヤツが言ってた、長剣を振って演舞するのお前か!大丈夫なのか?」

「しっつれいね!──見てよ!」

 

 ──アタシは二の腕を曲げて力こぶを出してみせた。

   ホント。腕が太くなって、イヤんなっちゃう。あの筋肉増強剤、キキすぎィ。

 

「もう剣を自由にあやつれるのよ……へへン!」

 

 ──おもわず笑い声がでちゃった。マイケルさんを、ノケぞらせてやるんだから♪

 

「思いっきり剣をふって、度胸だめしするわよ……カクゴしてね❤」

 

****

 

「歌姫(ディーヴァ)『美月』」

 

 チーフレディの『小枝子』は落ち着いた口調で、

 

「お客サマをはやく仮装させなくてはならないの。お喋りは、あとにして頂戴(ちょうだい)」

 

 はぁィと美月はカポッ、黒ネコとなり通路を開けた。

 そして「じゃ、後でね?」とオレの股間に素早くタッチ。

 そして魚が閃くように、通路のどこかへと姿を消しさった。

 あとに残るのは、小児性愛者を見るような『小枝子』の眼差し……。

 

 一行は、ふたたび先を急ぎながら、

 

「マイケルさん……貴方、まさかあの娘と──」

「は?バカ言ってんじゃないョ!」

 

 オレはワザと大声で、

 

「アイツは単なる庇護対象。高校にもいかず、困ってる!」

「そう。でもねぇ……」

「なんだ。稼(かせ)ぎ頭が学校にもどるのが、やっぱ“ウサギ”としては不満か?」

「そうは言ってないわ。でもあの娘(こ)、このまま巧(うま)くいけば20前半までにサラリーマンの生涯年収、越えちゃうかも。タワー・マンションの一室だって、もう持ってるし」

「え……税金とか、どうなってンの?」

「それは企業秘密。でも、それで大学出て就職して、廉い給料でコキ使われるのは、ねぇ」

「金銭感覚のマヒがコワいんだよ!」

 

 思わずオレは力説してしまう。

 

「若いうちから、いくらアブク銭を稼いだって、けっきょくはモノにならん」

「……やっぱりカタいのねぇ、アナタ ❤ ワ(・)タ(・)シ(・)た(・)ち(・)の(・)世(・)界(・)の(・)ヒ(・)ト(・)じ(・)ゃ(・)な(・)い(・)わ(・)」

 

 そォーそ♪と背後から『ケイ』が茶化し、

 

「カタいのは、チンポだけにしときなYo!」

「ま!お下品ねぇ。けど──『小枝子』サンの今のセリフ、イイとこ突いてる」

 

 そうでしょう?と『ユリ』の声に、ビジネス・スーツで大人の色気を包んだ彼女は、ちょっと振りむいて微笑むと、次いでコチラをむき、

 

「アナタみたいな殿方と所帯をもてる女は幸せね……」

「……そうでもないぜ?」

 

 フィッティング・ルームらしき楽屋裏めいた一室に通されつつ、おれは逃げた元妻を苦々しく頭に浮かべた。娘にまで、オレを悪者だと吹聴した性格(タチ)の悪いクソ女……。

 

「オレには、どうも “亭主” としての魅力が、ゼンゼン無いらしいよ……」

 

*****

 

 あてがわれた仮装用のコスチュームは、有り難いことに「プリキュア」のコス(衣装)ではなく、ローマ帝国における百人隊長(センチュリオン)の軍装だった。荒織り下着のうえに、筋肉を模した、胴にピッタリする金属製の鎧(よろい)。ごていねいに『SPQR』の刻印。肩には肩章の房飾りがついた、裏地が赤の黒マント、そして革の編み上げサンダルと黄金(きん)のアクセサリーの数々(ズッシリ重い……たぶんホンモノだ)。さすがに兜(かぶと)や剣は付いてこなかったが、フェティマたちに着付けられ、姿見の前に立ってみると、いっぱしの威厳が感じられる。

 

 ──なんか……懐かしいな。

 

 こう思ってしまうのは、かつて皇国の特殊騎士団・団長だった記憶がそうさせるのか。

 すると、コチラの含み笑いを賢(さか)しくも見抜いたモノか、『ユリ』が黒髪を肩に払い、

 

「あらァ?ヒョッとして、里心(さとごころ)がついちゃった?──団長サン」

 

 そう……コイツらは、オレの前世(?)の記憶を知っているのだ。

 さらに魔法がどうとかも、言っていたような気がする。

 もしやテレパス(精神感応力者)か、あるいは縁結び神社のような咒法(じゅほう)遣いかもしれない……。

 

「しィーっ♪」

 

 それを聞こうとクチを開きかけたとたん、『ケイ』が片目をつぶって投げキッス。

 

 ──やはり!

 

 ギクリと彼女たちの顔を見比べる。

 こっちの考えが漏れているのか。すると──やはりテレパス?

 

「さて、なかなかのモノになりましたわね……ホレ直しましたわ?」

 

 『小枝子』がアゴに手を当て、まんざらでもなさそうな顔つき。

 すると今度は、フェティマたちが慌てたように口々に、

 

「──マイケルさァん。アレ、持ったの?」

「──忘れちゃイヤですよぉ?黒いタブレット!」

「あ……」

 

 脱がされたスーツの内ポケットから、オレは黒い板を取り出すと、胸の胴鎧を斜めによぎるふといベルト。そこに設けられたスリットに差し込んだ。そして──例の “切り札” を、女たちにバレぬよう、こっそり取り出して、すばやく腰の革ポーチに入れる。あとは財布と、免許証や健康保険証などが入ったカード・ケース……。

 『小枝子』は、オレの脱いだスーツやズボン類を、まるで妻が夫にするようにかいがいしく畳み、ガーメント(スーツ用)・バッグに収めたあと、

 

「さ、店主(ジェンチュ)が、お待ちかねですわ?お召し物は、お帰りの時にお渡しします」

 

 彼女にうながされ、オレたち一行は部屋を出ると、また“紅いウサギ”のウラ道めいた通路を進む……。

 

(……おぃ【SAI】、ちゃんとマッピング出来てンだろうな?)

『シュダ(はい)。メイウェンティ(問題なし)』」

 

 あのアホAI、北京語で応えやがった。

 まさかこの非常時に、また映画でも見てるんじゃないだろうなァ。

 

「あによゥ、ナンか言った?AI?映画ですって?」

 

 やべぇ、口に出てた。

 

「いや、そのぅ……」

「心配事かしら?わたしたちがマイケルさんを、本当にドールへ改造手術するとでも?」

「アタシなら見てみたいナァ……きっと美少女の奉仕ドールになるよ」

「ホント、ホント。いい土産話になるワァ♪」

 

 女たちは、勝手なコトを口々にほざきあう。

 それが冗談なのか本気なのか、分からないところがヒヤヒヤする。

 

「いや──なに……その。そうだ、キミらは仮装しないのか?」

 

 ハ!とフェティマたちの鼻でワラう気配。

 

「ウチら、こー見えて お 仕 事 中 。客にコビる接待なんて、キャストに任せてンのよ」

「それとも、なぁに?ワタシたちのコスプレ姿が、見たかったとか?」

 

 う~ん、そうだなァ……と、オレは一拍おいたあと、

 

「『ユリ』君や『ケイ』君のバニー姿も拝みたかったなぁ……もちろん『小枝子』サンも」

「まっ❤」

 

 チーフ・レディは頬に手をあて、まんざらでもない様子。

 『ケイ』のほうは、手を白いヘッド・ドレスが飾るアタマの後ろで組んで、

 

「ウチらのバニー姿なんて『渋』や『PixAI』行きゃ、いくらでも見れンじゃないのォ?」

「おバカねぇ!マイケルさんはワタシ達ペアのバニーを“生”で見たいって言ってんの!」

 

 通路を右に折れ、左に向かい、短い階段を降りる。

 やがて、ようやく見覚えのある店主室が見えてきた。

 

(……【SAI】?)

『かなり遠回りさせられましたね。位置を知られたくないんでしょう』

 

 『ユリ』がメイド・ドレスを揺らして使用人らしく先に立ち、重厚な扉をノックする。

 

「店主(ジェンチュ)。マイケルさんが、おいでになりました……」

 

 返事がない。

 なかの気配は森(シン)として、ヒトがいる感じはしなかった。

 

「店主(ジェンチュ)?失礼します……」

 

 彼女が扉をあけ、中をうかがう。そして声をいくぶん鋭くし、

 

「『ケイ』──来て」

 

 なにかを悟ったのか、職業的な敏捷さを発揮し、『ユリ』が同僚につづいて扉のすきまを猟犬のようにスリ抜ける。

 

「──なにかあったの?貴女(アナタ)たち」

「部屋が荒らされたアトがあります。物盗り……?」

「でも血液反応が若干。店主のモノじゃないよ、コレ」

 

 扉越しのやりとりに焦(じ)れたのか、『小枝子』が店主の執務室に入った。

 オレも後につづくと──なるほど。まるで誰かが暴れたかのように、豪華な部屋が乱雑にされた光景が目の前に拡がった。調度品は引きずられたあとがあり、スタンドや軽いイスはひっくり返されて。カベに掛かっていた絵が横にひらき、奥に見えている金庫の扉も開けられている……。

 

 全体を俯瞰すれば、パリの超々・高級アンティークショップ『kugel』ですら足もとにも及ばない豪華な部屋が乱雑に荒らされた情景は、見ていて痛々しいものがあった。

 

「よく執務室の造作を知ってるモノの仕業ね」

 

 さすが。

 こんな時でもチーフ・レディは落ち着きを失わない。

 冷ややかな目で辺りを見回すと耳のインカムに手をやり、

 

「コントロール。店主執務室前の廊下の記録映像を、アタシのスマホに」

 

 すると、すかさず【SAI】が横取りを成功(ハッキング)。コンタクトのモニターに画像が。

 

 映像は時間軸をさかのぼってゆき、やがて黒服を引き連れた『麗華』と『サード』が、それぞれ何かを小脇にかかえ、バックの駆け足で店長室に入ってゆく(つまり「出て行った」)。

 

「……あンの牝ギツネ」

 

 低い『小枝子』の毒づき。

 

 さらに時間をさかのぼると、これも『小男』が、ガチムチのアキニたちを引き連れ、同じようにバックで店長室に入っていった。その差、5分程度。

 

『どうもアトから来た方が、店主を襲撃しようと画策していたようですね』

(……先に気づいた『小男』が、ギリギリで機先を制した、ってワケか)

 

「どうすんの?『小枝子』サン。今夜の催し」

 

 『ケイ』がめんどくさそうに。

 

「コイツらを始末するとなると、多少ホコリがたつよ?」

「ご来賓のご不興を買う事態は避けたいわ?警備を可能なかぎり厳重にして続けましょう」

「けど警備の本隊は、もう──」

 

 サッ!チーフ・レディはその言葉の先を制して、

 

「可(・)能(・)な(・)か(・)ぎ(・)り(・)静(・)か(・)に(・)。分かったわね?それと『麗華』および『サード』の捜索・逮捕」

「格闘ンなったばあい、割りマシ手当、つくんだよねェ?」

「当然」

 

 冷ややかな目で『小枝子』は、黒メイド服をまとう磊落(らいらく)なフェティマ・ペアを見やった。

 

「アナタたちの本領発揮よ──鋭意努力なさい」

 

 ビジネス・スーツ姿の『小枝子』はS/Wが入ったようにキビキビと別人になる。

 耳のインカムで矢継ぎ早につぎつぎと、硬い口調でどこかに指示。

 オレはひそかに感心する。イチイチ命令が簡潔で的確だ。

 まるで前線の指揮官をおもわせる風格と圧力。

 そして最後にオレたちに向かって、

 

「いま迎えを頼みました。マイケルさんは、その人の指示に。貴女(あなた)たちは、わたしと!」

 

 そういって、フェティマを連れ、慌ただしく執務室をでてゆく。

 ひとり、ポツンと残されたオレは、部屋にある骨董品や什器をさりげなく鑑賞。

 豪華なアンティークのデスクが開かれ、引き出しが全部あらわになっている。

 これは『仕掛け型』のギミック引き出しだ。すると──開けたのは、『小男』か……。

 

 ──お……!

 

 ふと、開けられた引き出しの一つに、オレの目はクギ付けとなった。

 懐かしい商標が書かれた紙箱のパッケージを見つけたからだ。

 アフリカ傭兵時代、よく世話になったメーカーである。

 

 REMINGTON HTP JHP 88grs. Caliber 380acp

 

【挿絵表示】

 

 封は半分破かれ、何発か空にされている。

 おそらくこの前見せられたワルサーppkのためだろう。

 ということは……『小男』は、護身が必要と分かっていたワケだ。

 『麗華』の裏切りを知ったか。それとも──まさか協会の轢殺目標(ターゲット)であることが、バレた?

 

「【SAI】、この部屋に防犯カメラは?」

『回線、ありません』

 

 よし!とばかり、9mm弾のパッケージを華麗な動きでゲットした。

 あと、めぼしいモノはないか……指紋を残さぬよう、ハンカチを手に物色をはじめたとき。

 扉にノックの音。

 スペインが世界の覇者だった頃に鋳られたダブルーン金貨から、オレは慌てて手を引っ込めて鑑賞するそぶり。

 

「ンだァ?『最重要顧客』ってナァ、お前(め)ェかよ!?」

 

 背中にそんな声がぶつけられる。

 えっ?と入り口をふり向いたとき……。

 視界にはコリンズの、めかしこんだタキシード姿。 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ?????!!!!!」

 

****

 

 思いがけない邂逅(かいこう)だった。

 

「いや~~タマげたゼ。てッきり腹がセリ出た、どッかのヒヒ爺ィかと思ったのによォ?」

「おどろいたのはコッチだぞ!」

 

 ふたたび赤絨毯敷きとなった通路を先導するコリンズの背中に、オレは口をとがらせる。

 

「最悪、キミは強制・女体化手術されて、ダッチワイフに改造されてるものかと……」

「へぇ?この店のこと、よくワかってンじゃん」

「そっちは、この店の黒服に潜り込んだってワケか。協会はキミの無断欠勤にカンカンだぞ。懲戒免職も辞さないとか」

 

 けッ!元・同僚は義手にはめた黒い手ぶくろをニギニギさせ、

 

「あんなトコ、コッチから願い下げだゼェ!」

「しらんよ?どうなっても」

「なんせココに居りゃァ──」

 

 そして歩きながらオレを振り向くと、締まらないニヤつきを口もとにうかべ、

 

「スケ(女)にァ囲まれ放題、ウマい酒は社割で廉(やす)く手に入る……そう、ウマといゃぁ、ホラ」

 

 だんだん会場の喧噪(さわぎ)が近くなるその場所で、コリンズは暗がりにむけてアゴをしゃくる。

 んぅ?と、ヤツが示す方に目をやれば……大きな銅像の影で、なにかが激しくうごめいていた。

 

 ──なんだ……?

 

 コリンズから離れ、斥候兵の足どりで慎重に近づいてみると、厩舎(きゅうしゃ)を思わせるような、ウマの汗の臭いがキツくなってくる。そして耳をすませば、とおくの喧噪に混じって激しい息づかいも聞こえてきた。

 よくよく見れば……それは牛の頭、ウマの頭のかぶりモノをしたボンデージ・ファッションな筋骨隆々の男ふたりが、一人の美少女を駅弁状態の仰むけに、前後から犯しているのだった。

 

「アン!……アン!……アン!……」

 

 かぼそい鳴き声のような「よがり声」も聞こえてくる。

 2mはあろうかという、ムキムキマッチョな男たちは非情にも、か弱い少女をガン突きにして。

 

 ──いや……美……少女?

 

 なんと。

 その銀髪ショート・ヘアな少女には “チンポ” がついてるではないか。

 だが牛頭馬頭たちは、この可憐な少年を、前からも後ろからも責め立てて。

 白く華奢な肢体(からだ)をM字開脚にして仰向けに、思うさまズコバコと蹂躙している。

 バック側の牛頭が、少年のチクビをバックで犯しつつ、長い舌でべろべろと舐めまわす……。

 

「クククク……手術(オペ)った“やおい穴”も、すっかり体に馴染(なじ)んだようだナァ」

「アニキぃ!コイツのケツまんこ……まじヤベぇ……最高だァ、ッッ……ウッ!」

「おぃおぃ、イくのはまだ早いぜぇぇ?早漏かよオメェwww」

「あぁっ……オシリのなかに……イッパイ出てるぅぅっ!」

 

 そんな悲鳴が伝わったかと思うと、びゅくびゅく……っ!

 少年の精がはじけた。するとウマのかぶり物をした男のほうが、少年にディープ・キス。

 さんざん小さな口を侵して(ぷはぁ……)とくちびるを離し、

 

「オレの唾液にはプロラクチンが含まれてンだ。いくら射精(だし)ても、醒(さ)めねェって寸法よ」

 

 ウマ男のいうとおり、白い精を吐いた少年のアレが、またもやムクムクと可愛く天をさす。

 

「いやぁッ、やめてぇぇぇぇっ!ボク、壊れちゃうよぉ!」

「おやおやァ……ヤメちまってイイのかい?『うまぽこ』チャンよぉ」

「オめェのチンポは、まだまだ欲しがってるようだぜぇ?」

「もう手前ェは引き返せねぇ “男の娘(こ)” なんだよッ──クッ!」

「ダメぇっ!ナカはイヤぁッ、ボク、女の子になっちゃぅぅぅ……ッッ!」

 

 今度はウマ男がブルッ!ガチムチの体から汗をしぶかせ、だらしない顔をして、果てる。

 スゴいかぶり物だ。ボディから継ぎ目なしに立ち上がり、表情も。まさか手術で……。

 

「あぁ……ボクの胎内(なか)……お兄さんたちの精液でイッパイ……ボク、妊娠(にんしん)しちゃう……」

 

(……おィ、行くぜ?) 

 

 背後からヒソヒソとコリンズ。

 

(……お客サンのお楽しみを、ジャマすんじゃねぇよゥ)

(バカ!いくら客の好みだからといって、あんな牛頭馬頭(ごずめず)どもに、いたいけな少年を──)

(だァら!あ(・)の(・)ガ(・)キ(・)の(・)シ(・)ュ(・)ミ(・)だってンじゃねぇか!)

 

 コリンズはむりやりオレを引っぱってゆき、ウマの汗が臭(にお)わなくなるところまで来ると、

 

「客は、あの美形なガキの方なんだって!」

「……は?」

「肛門とキンタマの間に“腟”(やおい穴)と子宮を造って、前後から犯されるっつー “イメプレ” なんだよ!」

 

 引っぱられて歩きながら、おれは彼方で相変わらずまぐわってる3人の影を眺めた。

 いやまて。ほんとうに物理で改変されるのは、果たして “イメプレ” と言えるのか?

 

「カワイソウなのァ、あのヤロウどもの方だぜェ……」

 

 コリンズは首をふりふり

 

「キンタマぁ空(から)ンなるまで搾(シボ)り取られてよぉ。あとで『超過勤務手当』、申請してくるにキまってンだ……っておぃ、聞いてンのかよ!?」

 

 コリンズの言葉は、うわのそらになっていた。

 なぜならふとワキを見れば、こんどは石膏像と大理石の柱の間で、(今度こそ)可憐な美少女が、熟れきったボディの美女に双方が全裸のまま、ピンク色をした乳首をペロペロ舐(な)められているからだった。

 

「あふぅん!お姉ェさまァ!……お姉ェさまァ!」

「うふふ……カワイイ娘……まだよ……まだ駄目(ダメ)……」

 

 ──ダマされないぞ!

 

 どうせ今度も、少女の方が客で、三十路(みそじ)女のほうがウサギのキャストなんだろう……。

 美少女は蛍光グリーンに染められた髪をみだし、上半身をピンクに染めて、年増女の舌技に恥じらいもなくヨがっている。ふくらみかけたムネは揉みしだかれ、さらに彼女をアヘらせて。

 

 すると、オレの凝視に気づいたモノか、二人の睦み合いは止んだ。

 ギロリ、コチラをみて、裸体(ハダカ)のまま互(かた)みにヒシと抱き合うと、

 

(……お姉さま、オトコよ)

(……そうね、オトコが居るわ──ケガらわしい)

 

 

 そう言うや、地べたを這いだした。

 なんと、柱の根元からあらわれた彼女たちの下半身は「蛇」で、そのまま胴体をウネウネ絡ませあい、ズルズルと絨毯敷きの上を這って、どこかへと姿を消してゆく。

 

「コリンズ……あれ……あれ……」

「あぁ、オロチの仮装な。イチイチ驚くない。今日は万聖節の夜だぜ?さ、先ぃ急ぐぞ」

 

 近づくにつれ、そこかしこで乱交している者たちがいる。

 

 猥(みだ)りがましいモノ。

 破廉恥(はれんち)なモノ。

 悖徳的(はいとくてき)なモノ。

 淫乱(いんらん)なモノ。

 

 あたりの空気はオス・メス、取り混ぜた精の臭いでムセかえるほど。

 ようやくうす暗いホールへたどり着いてみると──。

 

「アーッハッハッハハッハッハッハッ……!!!」

 

 バサバサバサぁ……ッッツ!

 

 高い丸天井から羽音がして、ムチのように長いシッポと、コウモリの翼を持つ全裸(はだか)の女が、哄笑しながら宙を滑空していった。

 

「コリンズ!──アレ!あれ!」

「イチイチうっせェな………今夜は万聖節だッつてンだろ!なんでもアリだ」

 

 いや、しかし……と、コスプレ会場となったホールを改めて見回せば。 

 

 華麗な衣装を纏って痴戯に耽る軽佻浮薄なロココ時代の饗宴……などという、故・気谷誠氏が活写した “辛うじて品を保った罪のない遊び” のレベルからは遠く離れ、ただひたすら精を放ち、獣欲を満足させる “地獄の会場” に他ならないのだった。

 

 またもやミノタウロスの格好をした、ふんどし姿のガチムチな一団がオレとコリンズを取り囲み、 “一匹” が手に大ジョッキを差し出して「飲め!」と促した。

 

 いい機会だ。

 

 コイツらを、よく観察してみる。

 青肌や赤肌をした、マッチョな男たち。

 かぶりモノの継ぎ目は見られず、強力な欲望を宿すように、みな目をギラギラさせて。

 コリンズは事もなげに酒杯を受け取ると、

 

「シャンパンをジョッキでかよ!コイツぁ豪勢だぜ」

 

 ヤツは一気に、ゴキュゴキュと飲み干してしまう。

 ミノタウロス共が持っているボトルの空き瓶はルイ・ロデレール・クリスタルだ。

 さらに一匹がオレのほうにジョッキを差し出すが、黒ネコの忠告を思いだして踏みとどまると、内ポケットから例の診断書を、牛頭どもの目の前に拡げて見せた。

 

「悪い……わたしは酒を医者から禁止されてるんだ」

「ナンだよおぃ、マジかよ?ツマんねぇな……」

 

 と……コイツら、文字が読めないのか。

 診断書をひっくり返したりウラオモテにしたり。

 果ては首を傾げ、仲間たちとなにやらヒソヒソ話。果ては、

 

『オレタチ、ノ、酒!飲メナイ?──ダメナ奴(ヤツ)!』

 

 いきなり胸ぐらを掴(つか)まれて、かるがると宙に持ち上げられた。

 なんてパワーだ。もしかしたらオークより膂力(チカラ)があるかもしれない。

 ふんどし越しにヤツらのチンポがギンギンに勃起(ぼっき)してるのがわかる──ヤバい。

 先ほどの『うまぽこ』とかいう客が前後を犯される光景が、この非常時に頭に浮かぶ。

 その時だった──革帯に挟んでいた例の長財布サイズな黒タブレットが、バタリ!下へ落ちる。

 

「!」

 

 とたん。牛頭のミノタウロスどもが、異様に動揺するのがわかった。

 オレをソッとおろすと、顔を見合わせ、後ずさりに会場のどこかへ散ってゆく。

 

「ナンでェ、こりゃァ……ヒック!」

 

 顔を赤くしたコリンズが、黒タブレットを拾い上げ、天井のシャンデリアにしげしげ透かす。

 

「ただの板ッ切れェ?──にしちゃズイブン重ぇな……」

「そっちも知らんのか……チーフ・レディの『小枝子』に渡されたんだ」

「へへぇ。あのスケ、チョッと佳(い)いよな。「ツン」と乙(おつ)に澄ましたトコが、タマんねぇ」

 

 オレは半獣半人どもをあらためて見やる。

 

 まわりで陰に陽に乱交をして憚(はばか)らない、異様な連中は、本当に改造手術をともなわない「コスプレ」レベルなのか……にしては造りが精巧だ。さっきだって見た目、モノホンのミノタウロスと変わらなかったではないか。

 

「さ、お前ェの席は、コッチだとよ……上席だぜェ、チキショウめ!」

 

 コリンズの後について行こうとしたところ、ズルッ!足裏が絨毯のヌルつきでスベった。

 みれば、愛液だか精液だか。天井の華麗な灯火に反射して。

 うへぇ、とソファーがしつらえたブースの間を歩きかけたとき、不意にオレはゾッとする。

 

 ──まて!美香k……『美月』のヤツ。

 

 このホールで剣舞をしながら踊るとか言ってなかったか。

 こんな愛液・精液まみれな絨毯の上で剣を振りまわし、飛んだりハネたりしたら……。

 

「おィ、ハヤく来ねェか!こっちァ他にも仕事かかえてンだからよォ!」

 

 喘ぎ声やよがり声が通奏低音と満ちる空気の中、コリンズのイラついた声が響いた。

 とにかく、席を教えてもらったら中座して、『小枝子』に状況を知らせなければ。

 

 コリンズのあとについてジグザグにブースのグリッドを進みながら、オレはトラックとコンタクトする。獣姦パーティめく地獄の饗宴じみた景色のホールで、これだけ喘(あえ)ぎ声やサド趣味の罵(ののし)り、ムチの響きや “よがり声” が満ちあふれる空間では、チョッとやソッと声を大きくしても大丈夫だろう。

 

 ボディが裸体(ハダカ)で、手脚の先が毛むくじゃらのカギ爪。そして始祖鳥のようなハネを背負った女が、オッパイを揺らし抱きついてきた。それをなんとか引き剥(は)がしながら、

 

「【SAI】、【SAI】!緊急事態だ。マッピングOKだよな?あとでオレを店の指揮所(コントロール)まで案内しろ」

『…………』

「──おい【SAI】、聞こえないのか?」

『…………』

「【SAI】!テメー、またヘンな計算してンじゃないだろうな!?」

『…………』

 

 ヤバい。応答がない。

 まさか、ここには回線が届いてないのか。

 あるいはSNSで実況などがされぬよう、ワザと無くしてるのかも。

 ヤツのフォローがないと、コンタクトレンズのモニターにマップが出せない。

 有象無象の性欲ビーストが満ちる空間でヤツのB/U(バックアップ)が無いというのは絶望的なまでに心細い……。

 

「さ、ココがお前ェのブースだ。ンじゃ、マタな?」

 

 そう言ってコリンズは魑魅魍魎(ちみもうりょう)がま(・)ぐ(・)わ(・)う(・)中を、器用に身体をひねり去って行った。

 

 案内されたブースを見れば、ホアキン・フェニックスが演じたジョーカーのコスプレをする、白い顔に化粧をしたハデなスーツの緑髪男と、一昔まえシンバルを叩いたあと、歯をむき出しにするゴリラのオモチャのコスプレをした小柄な男。

 

 ジョーカーは、だまってテーブルを挟んだ向かいのソファーを指し示し、ニッコリ。

 

 ──まぁ相席が、さっきみたいに欲情に我を忘れたコスプレ女じゃなくて良かった……。

 

 オレはソファーにどっかりと座り、疲労のあまり天井をむく……と、ソファーの手ざわりがおかしい。改めてなでると……なんと、このソファーはビニール貼りだ。飲み物や愛液がブッかけられてもいいように、家具を入れ替えたんだろうか?用意の良いコトではある。

 

 鎧の腰に入れたポーチを、そろそろと撫でる。

 この混乱で、アリアを唱う『モルギ……詩愛』に、切り札を見せるコトが出来るだろうか?

 

 ──う……。

 

 ゴツゴツとヒザに何かが当たる。

 なんだ?と身を起こして下を見れば……。

 散弾銃の冷ややかな銃口が、オレの股間を狙っていた。

 テーブルを挟んだ向かいの男が、ニィっと笑い、緑の髪を取る。

 下からあふれだすドレッドヘア。死人のように黒い瞳は、相変わらずだ。

 

「会いたかったゼェ?マイケルさんよ……」

 

 

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