※この作品はR-18です。

試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【18禁版】   作:珍歩意地郎_四五四五

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     〃    (その4:ジョーカーの糾弾(きゅうだん)

 

****

 

 完・全・に。不意を突かれた。

 なんでコイツが、こんなところに居るんだ?

 そういや入り口の受付がザルだったかのに思いあたる。

 あるいは袖の下を使って、易々(やすやす)と入り込んだに違いない。

 

「なぜ、おれらがココにいるか、って面(つら)ァしてンな、えぇ?」

 

 おれ “ら” ?と思う間もなく、小さなシンバルを持つゴリラのコスプレが、顔に貼り付けたラテックスらしい面を剥(は)いだ。ゴリラ仮面の下からは “おサルのジョージ” のクソ憎たらしい “チンくしゃ” なツラが現れる。

 

「へへへェ、コイツ “やられた!” ってな顔してますぜェ、アニキぃ!」

「いや、別に──あまり仮面と違わないんで、ビックリしただけだ」

「ンだとぉぉぉ、テメー!」

 

 はぁィ!コチラ愉しんでらっしゃるのかしら?と険悪なブースを察してか、金色の光沢バニーがシャンパン・ボトルを持ってきた。

 

「こちら、当店からのサービスです。置いていきますわネ……いゃン!お悪戯(イタ)はダメですぅ」

 

 金色バニー衣装(コス)の胸(カップ)に、ズボンの前を膨らまさせたジョージがムリクリ手を突っ込む。女の方も慣れたモノで、胸をモマれながらも盆(パレット)に載せたボトルやグラスを落とすことなくテーブルの上に並べると、職業的な笑みを絶やさず一礼し、白シッポをふりたてて騒乱の中にまぎれていった。

 

「飲めよ──マイケルさんよォ」

「ソッチこそ。おれは肝臓をヤっちまったんでね」

「けっ!ウソこきやがれ!!」

 

 唾棄せんばかりの勢いで、ピエロ面(づら)のドレッドが言いはなつ。

 

「『黒ネコ』のヤツが言ってたぜ。酒を飲むなと助言したと。今夜、お前(め)ェが来ることもナ」

 

 ──あんんんんのクソ猫……っ!

 

 まさか……コイツらと、ツルんで居やがったとは!

 道理で!いつも先手・先手を取られるワケだ。

 ヤツの目的は──いったい何だ?

 

「……まァた『クロネコ』とやらのハナシですかい?アニキぃ」

 

 ジョージが、バニーの胸をモンだ手の匂いを未練(みれん)がましく嗅(か)いでから──ポン!シャンパンを勢いよく開け、ダバダバと黄金のアワをボトルから滴らせつつ、

 

「コッチにァ、ぜんぜん見えねぇッてのによォ……」

「ところが、このマイケルさんにも見えてンのサ。どうもアタマのイイ人間にしか、見えないらしい……冗談だジョージ、そうふくれッ面(ツラ)すんな」

 

 そういうとドレッドは散弾銃を持ち替える仕草。

 テーブルの長さにしては、銃の全長が短い気がする。

 おそらく携帯に便利なよう、銃身とストックを切り詰めたな。

 

「さァて──いまスグお前ぇを殺(バラ)してもイイんだが、まわりにいるド変態の皆さんがお楽しみなんでな。マナーを守ってもう少しだけ、ガマンしてやるぜェ」

 

 あァ!……ん♪

 

 となりのブースで、ひときわ高い女のイキ声。

 チッ!気が抜けやがる!舌打ちしてドレッドはピエロ面(づら)を歪ませる。

 ジョージの方は「ウヒョぉぉ!」とばかり、酒を満たしたグラス片手に後ろを向くと、電車の中で外を見るガキのようにソファーにヒザ立ち。背もたれに寄りかかるや、となりの痴態を身を乗り出してガン見する。

 

 ──クソッ!こんなときに【SAI】が居れば……。

 

 照明を落とすなり、不意に設備を起動するなりで、ヤツの気を反らせ反撃が出来るのだが。

 

「思えば、クサレ縁だったよなァ……えぇ?」

 

 ドレッドはダイヤに隈取った目から、散弾銃の銃口とおなじく感情のない瞳をピタリと向け、

 

「連合皇国……60年代のコンゴ……そして、この21世紀のジャパンとかいう邦(くに)……」

「やはり、オマエにも前世の記憶があるんだな」

 

 ここは、なるべく話を引きのばし、チャンスを狙うのが吉だ。

 相手をなるべく刺激しないよう、できるだけソフトに、慎重に……。

 ところがオレがそう言うと、ドレッドは白塗りの表情(かお)をうごかして、

 

「ぜんせぇだァ?……ハッ!」

 

 テーブルの下でガツン、と音がする。

 散弾銃の銃身を、ワザと天板にブチ当てたらしい。

 

「前世、ッつーコトで折り合い付けてやがンのか。手前ェは相変わらず体制側のアホだな」

「そういうキサマは?うす汚ねぇ商人(あきんど)じゃねぇか!」

 

 ──おっとっと。ヤベぇ、ヤベぇ。

 

 相手を刺激しないように、と思ったそばから。

 自分の中の “コンゴ傭兵” がムクリ、目覚める気配がある。

 久しく感じなかった心象。血と、硝煙と。喧噪の記憶が周りとかさなる。

 ピンチにあって血管にアドレナリンがドクドクと注ぎ込まれる気配。

 相手に銃を向けられる状況が、その心もちに拍車をかけるようだ。

 

 双方、しばらく沈黙。

 気をつけろ!とオレは自分を戒めるも、口は勝手にひらき、

 

「 “俺” ァ、あの国(コンゴ)でワケも分からず殺されたワケだが……あのアトどうなった?ウランをソ連に横流して、だいぶ儲けたろ。モスクワから勲章でももらったかい」

「コッチも!裏切りにあったんスよねぇ?アキニぃ!」

 

 頭のタリないジョージが、一杯機嫌のためか。ふり返って口をはさんだ。

 

「用済みンなって、あっしらも始末されちまったァ!」

「うるせェ!お前ェはダマってろ!」

 

 子犬を躾(しつけ)けるような、ドレッドの一喝。

 そして肩をすくめ、頬まで三日月に赤く塗った口もとを「へ」の字にすると、

 

「お前ェとツルんでたCIAのグラサン野郎がクセ者でな。フタ開けてみりゃ、クレムリンと繋ぎをもった二重スパイだった。ウランの採掘と、中国船をつかった輸出の段取りがつくと……現地の拠点で、おれらは処分されたのよ。あのCIAの若造も、いっしょクタに」

 

 ──チェッ、なんてこッたぃ……。

 

 エスピオナージュ(情報戦)世界の非情さに舌を巻く。

 悪の組織みたいに、用済みになれば「ポイ」か。

 あのケツの青いヒヨっ子も、バラされちまったなんて……。

 

「お前ェとヨークを殺(や)ったのァ、ホラ。第40話にジジィの老大尉が出て来たろうが。顔にキズのある、朝の散歩でパイプ吸ってたヤツ」

「……読者向けの具体的な説明、どうも」

「ヤロウも備品を横流した手合いでナ。老後の資金にでもしたかったンだろゥよ。基地に傭兵として紛(まぎ)れ込んだおれの手ゴマが『マイケルって野郎は、アンタの備品の横領を、告発しようとしてる』ってヤツに伝聞をフいてな?アワてた老大尉どのァ、子飼いを使ってM2マシンガンで狙撃。けど、コレがバレて……ほら、お前ェが従卒につかってた、黒(・)ん(・)ぼ(・)のガキ、いたろぅが?」

「オタだ!――オタ・ンクンダ!」

 

 久しぶりにもかかわらず、すぐに名前が出た。

 ドレッド流に言えば第23話:錯綜する分岐点(2)で初出の、俺の忠実な召使い。

 輝くような白い歯をロバのようにむき出して「ニカッ」と笑う姿が、とめどなく懐かしい。

 

「ソイツが、お前ェたちのことを、追(つ)けてたらしいンだな。小遣いでも欲しかったのかもしれねぇ。ンで一部始終ゥ見て、部隊に通報(チク)った。くだんのジジィ大尉と狙撃手は、なぶり殺しのうえに死体をバオバブの木に吊(つる)されたよ。ナイフでとどめぇ刺したンは『お(・)前(・)ェ(・)に(・)恩(・)が(・)あ(・)る(・)』といってたロシアの青年貴族くずれなヒヨッ子だ。アレクサとか、なんとか──怒りにまかせ “メッタ刺し” にしてたと」

「アレクセイ!第一中隊のアレっち(アリョーシェンカ)!!!」

 

 懐かしい名前が、ドンドン出てくる。

 そして長年の疑問が、わだかまりが。氷の溶けるように消えてゆく……。

 記憶をたぐるにつれ、当然の結果として色男の狙撃屋を、思い出さざるを得ない。

 長距離偵察隊・第二中隊所属・ラルゴ・ヴォルティーノ中尉。目前の男に撃ち負けた戦士。

 

「キサマは──狙撃のウデを、どこで磨いた?」

「当時グルジアにあったGRU(ソ連軍参謀本部情報局)の訓練キャンプだ」

「チッ!筋金入りのアカかよ。どうりで当時は最新型の狙撃銃が、手にはいるワケだぜ」

 

【挿絵表示】

 

 CIA(ラングレー)の獲物は、以外にデカかったワケだ。

 思えば情報局の連中も、もっと人員を割くべきだった。

 あのクリューゲルとかいう南アフリカ警察の警部が殺された時に。

 

「ンだなァ、今となっちゃトンでもねぇクソ銃だが……あの当時はアレしかなかったからな」

「フン。アカにシッポ振ってまでテロ屋になって。その実、カネもうけか。たいしたタマだ」

 

 一瞬。相手の冷たい目に、怒りの炎が奔(はし)った──ような気がした。

 だが、銃を突きつけられているにもかかわらず、アフリカ傭兵の俺の心は、そんなコイツをさらにあおって、

 

「どうだぃ、半グレになって。この世界じゃァ、かなり稼いだか?カネの亡者さんよwww」

「……しつけぇな」

「カネ回りが良くなって、麻布あたりで女ハベらしてブイブイ(死語)いわせてんのか」

「……もう一度言ってみやがれ」

 

  俺は散弾銃に狙われてる都合上、すこしセリフにブレーキをかける。

 

「今度のネタは、なんだ?武器の密輸?それともまた薬物か?まさか女衒ということも──」

「べつに金持ちになるためじゃねェ!」

 

 ドレッドの怒りが、ついに関をきったようにあふれ出た。

 だがその怒鳴り声も、まわりに満ちあふれるアクメ声にかき消される。

 

「おれがこの邦(くに)でゼニぃ稼ぐンは……あくまで武力革命のためだ!」

「革命ィだぁ?」

 

 混じりっけなしに、俺は目を剥いた。控えめに言って驚きだ。

 

「ハ!そういえばコンゴで『ヤン』のやつが、そんなこと言ってたなァ」

 

 部隊内で『南アフリカ産の大学出なフニャチン』と揶揄されてた白人豪農出身の若い中尉。

 ケープタウン大学でオルグされ、ノーメンクラトゥーラ(赤い貴族)の手先に成り下がった。

 くだんの中尉の最後は、精鋭読者のみなさまもご存じのとおり無惨な死にザマだったが。

 するとドレッドの怒りはガソリンをかけられたようにヒート・アップしてゆき、

  

「あんなクズと一緒にすンな!アレは青臭(クサ)い理想家だ。本気で “万国の労働者による世界同時革命” なんぞ夢想してやがった……アホが!」

「ふぅん?ヤツと貴様と、ドレほどの違いがあるッてのかね」

 

 チキッ!──銃の撃鉄(ハンマー)をおこす音。

 

「気ィつけろよ……おれの指は引き金にかかってるゼ」

「ふぇぇぇ。怖っかなくて死にそうだよぉぉ……ので」

 

 またも相手の顔に怒気がよぎるが、コイツにしては見上げたことに感情をコントロールしたらしい。それとも(……どうせ殺す相手だ)と割り切ったか。相手は思った通り、銃身とストック(銃床)を短く切り詰めた旧式の水平2連・散弾銃を机の下から引き出してわきにおくと、ジョーカーのハデな赤スーツを脱ぎ、その上にかぶせた。

 

 ──この余裕……さては他にも部下を潜り込ませたな?

 

 ドレッドは、黄色いベストが胸の筋肉でハチ切れそうな上半身をたわませ、

 

「……いいか?おれァは貧困階層のミカタだ!」

「コキやがれ。この後におよんで、ナニをホザくやら」

「聞けよ!クソが。おれァ世の中から貧困をなくしてェ。だが世の中を動かすにァ──ゼニがいる。いいか!ゼニだ!!この時代、国の政治を揺さぶるギア(道具)は、手なづけた議員や、SNSのインフルエンサーを措(お)いて、ほかにねェ!愚民どもを洗脳し──政治を操り、振りまわし──貧困を無くす政策を!役人どもや政府に実行させるのよ!そのためにァ、賄賂(わいろ)が要る!コカインが!シャブがいる!そして女(スケ)も──」

 

 ドレッドは辺りの狂乱ぶりをあらためて見まわした。

 上空で舞う例の女が、狂躁的に哄笑しつつ、すばやく急降下。

 ケモ女をバックの姿勢にさせ、腰をふる中年男のズラを攫(さら)っていった。

 バーコード・ハゲになった男は、それにも気づかず懸命に腰をふりつづけている。

 

「……性処理用に手術された女(スケ)は、ワキの甘(あめ)ぇ政治家どもへの、恰好(かっこう)の手土産だ(ハニトラも捗(はかど)るしな)。オレのシマも、この “ウサギ” みてェに手広く営(や)りてェが、 “ハコ(設備)” は用意できても、人材(ヒト)がいねェ……手術を担当するウデのイイ医者も、素材にするスケの誘拐を握りつぶす、警察官僚アガりの政治家も。そこで──ココから直(bじか)に頂こう、ってな寸法よ」

「見たとこ、カネもうけの方がメインになってねぇかァ……?」

 

 キンタマを狙うショットガンの圧が無くなったので、俺は手を前に回した守りの姿勢をとき、ソファーにヒジをかけてふんぞり返った。するとヤツと同じく、まわりの喧噪がいっそうよく分かるようになる。

 

 それは、もはや乱交パーティといって良かった。

 

 さまざまな有象無象がくんずほぐれつ。まさに狂乱のハロウィンだ。

 おサルのジョージは、そんな淫猥・倒錯・悖徳な情景を、ヨダレ垂らして食い入るように見つめ、自慰(オナニー)でも始めんばかり。

 

 騒動に負けぬよう、俺はいくぶん声を大きくして、

 

「巷でいう『基底価値』と『目標価値』の転倒、ってヤツ。よくあるハナシだ」

 

 すると、ドレッドはピエロ顔を、さらに不気味にゆがませて、

 

「おれは、そんなんじゃねェ!この世界での生まれも孤児院育ちだが、弱者の味方サ」

「ンで、テロをやったあげく、世界を混乱にみちびき、弱者が一番先に踏みツブされる、と」

「……」

「そう──あの、『五月動乱』みてぇに、ナ?」

 

 ドレッドもソファーにふんぞり返った。

 時空を越えた往年の宿敵が、視線で火花を散らしあう。

 一瞬、ここが『ブラザヴィル』にある闇クラブのような錯覚におちいるほど。

 まさに、直接対決を果たせなかった1960年代アフリカの延長戦めいた雰囲気だった。

 

 入ってきた時にくらべ、態度を荒っぽく豹変させたこちらをマジマジと観察したドレッドは、やがて『ようし……』とでも言うがごとく、まさにジョーカー的な嗤(わら)いをうかべて、

 

「いいぜ……なンでコッチが、ここまで金持ちや権力者(エスタブリッシュメント)を憎むようになったか、冥土の土産(みやげ)に教えてやらァ……」

 

****

 

【 ドレッドの糾弾(きゅうだん) 】

 

 あの当時、皇国でのオレの名は『ベジドフ』ッつたっけ。

 こう見えても、かつては辺境土族を統べる王の系譜(けいふ)でね。もっともあの頃ンなると家系(ウチ)は零落(れいらく)して、ごくフツーの小市民だったが……。

 

 ジジィと親父(オヤジ)と母方のオジキと。それに母親(おフクロ)と、ふたりの姉(あね)キ、おまけに弟もふたり。

 よくある “貧乏子だくさん” な大家族ッてヤツ。ンでも貧しいなりに、家族(ウチ)ァまとまって、それなりに楽しく営(や)ってたゼ。学園にかよう姉キふたりは近所でも評判の美人でな、おれもハナが高かったモンさ。

 

 ……そんなおり、オヤジとオジキが皇国の外征に狩り出されてな。相手は勇猛な辺境の砂漠民、イースマム教徒だ。その結果は!といやァ、お前ぇンとこの特殊騎士団 の第二戦闘集団 “砂漠の虎” が拡充されるキッカケんなった、悪名たかい負け戦(いくさ)。戦死者の数がクソ多すぎて、弔問金(弔問金)も雀の泪(ナミダ)ときたモンだ。あまりに少ないんで、戦死や負傷した兵士の関係者がデカいデモをおこし、近衛の騎馬軍団に蹴散らされた『血の刈り入れ月事件』をおこした。お前ェは関係してたか?知らねぇ?覚えてねぇ?……そうかィ。

 

 ……それからサ。オレの家が、乞食(こじき)スレスレの暮らしンなったのは。

 

 母親(おフクロ)は内職につぐ内職。二人の姉キも、学園ヤメて働くようンなった。

 おまけに外征で浪費した国庫をうめるため、知ってのトオリ税金がクソほど上がる。物価が高くなる。それでいて働き手は少なく、おまけに景気もわるくなる。スタグフレーションってヤツか?

 

 それに不運は重なるモンで、いちばん下の弟が、貴族の六頭立て馬車に引っかけられてな。

 ジジィはそれを助けようとした挙げ句、ふたりとも脳みそを固い石畳にまき散らして、おッ死(ち)んぢまった。ムカつくことに、そのお貴族サマは馬の一頭が脚をくじいて使い物になンなくなったと難クセつけて、弁償(べんしょう)しろと。こぅ来やがった。

 

 代言屋(べんごし)なんて頼むゼニなんざ、貧乏一家にァもちろん無(ね)ェ。

 けっきょく泣き寝入りで、代わりに上の姉キがその貴族の屋敷に、奉公ン出ることになった。したっけ、そのクソ貴族一家は──ヘンタイ・サークルの一員でナ?魔法を使って姉を半獣のダッチワイフ(精液便所)にしやがった……と、コレは後でわかったハナシだがよ。

 

****

 

 ドレッドの言葉が途切れた。

 ヤツは淫猥なコスプレをした者たちが放恣な行為にふけるサマを見やる。

 

 “オレ” のほうは、相手の “砂漠の虎” と言うワードで、大学のときに同期だった “砂漠の虎” の団長、セルゲイ・レスコーフを思い出す。任務で家を空け、果てに離婚を切り出された男。絶望したあげく、叛徒(はんと)に加担した裏切りモノ。

 

 そういや第4話でヤツからその話を聞いて、みょうなシンパシーを感じたのを覚えてる。

 皇国でのオレの家庭生活は、ときおりシーアが“ヒスる” のを除けば巧(うま)くいってた。

 まるで21世紀の日本の記憶があるような、あの共感は何だったのか……。

 

 呆然(ぼうぜん)とするそんなオレを、自身への同情と誤解したものか。

 ドレッドはケッ!赤く塗られたブ厚いくちびるをゆがめ、さも忌々(いまいま)しそうに、

 

「ヨしやがれ。手前ェに憐憫(あわれみ)タレられるほど、堕(お)ちぶれちゃいねェや」

「哀れんでなんか、いないさ」

 

 オレは、となりのブースで太いツノを2本、頭から生やしたピンク髪の女が「アウラ──腰をふれ」と命令され、テーブルの上に横たわった男の上で騎乗位のまま、いかにもイヤイヤに腰をふりはじめるのを眺めつつ、

 

「だが……姉をそんな姿にされたら、このテの店に嫌悪はないのか。ましてや経営なんて」

「ハ!言ったろが。おれの目的にぁゼニが要る。そのためなら──手段をえらばねェ」

 

 それに実際のトコロ……と、ドレッドは残ったシャンパのボトルを一口ラッパ飲みに、

 

「じつのトコ女にァ、もう飽き飽きだ」

「へぇ?」

「今でも異世界のあの光景を夢に見るぜ。アレほど清楚だった姉キたちが……」

「でも情婦(イロ)がいるじゃないか。どうした、オマエの『ナナ』は。来ないのか」

「ヘッ、こんなヤベぇトコ、連れてこれッかよぅ。誘っても来たがらねェぜ、こんな──」

 

 改めてドレッドは手をヒラヒラさせ、辺りを指し示した。

 天井の高い大ホールの片すみでは、ミノタウロスの男同士が汗まみれで“まぐわ”って。

 そうかと思えば、キワどい妖精のコスプレをした女たちが濃厚なベロちゅーをしている……。

 

「オマエんとこの『ナナ』も、その……異世界の記憶があるのか?」

「あぁ──オマエに殺された記憶もな」

「あれは不可抗力だ。分かってるクセに」

 

 ふと、オレは世界をまたいで登場した人物たちを総ざらえしてみる。

 

 現世ではバーの店主であり、コンゴではオレの部下だった伍長(カポラル)ジーブリール。

 彼を殺った、目の前のドレッドと “おサル” のジョージ。

 いま話題にした、ドレッドの愛人である混血女、ナナ。

 油断していると現れる “縁結び神社” の女神。

 その女神と敵対関係な、正体不明の黒ネコ。

 

 ──そして、なにより……。

 

 異世界でのオレの妻、『シーア』そっくりな『詩愛』。

 

 こうなると因果……いや宿業、というものが、オソろしくなってくる。

 凡(すべ)てが──すべてが大きな渦(うず)の中に巻き込まれているような、そんな気配。だとすれば……。

 

 ──その巨大な渦の中心にいる途方もない重力源(グレート・アトラクター)は……いったい──何だ?

 

 考え込むオレの表情を、今度は非難と誤解したか。ドレッドは目を怒らせて、

 

「とにかく!社会を、世間を!荒らして、荒らして──荒らし尽くすのサ!」

 

****

 

 上の姉キが奉公に行って、2年ぐらい経った時分(くらい)か。

 

 その頃おれは、手広く営(や)ってる商家の丁稚(でっち)ンなって、忙しく働いてた。

 モチロン、姉キが魔法で改造されて、ゲス男に奉仕してるなんざ、まだシらねぇ。

 奉公先の屋敷は貴族区にあって高けェ塀で囲まれ、零細庶民なんざ近づきもできねェのよ。

 こっちァ安い週給で、家に仕送るとアトは街で買い食いすンのも苦労する酷(ヒデ)ェ境遇(ありさま)。

 残業、早出、休日出勤。月月火水木金金でシャカりきにはたらいてたゼ。

 

 そんな、ある日のコトよ……。

 

 奉公に行った上の姉が病気ンなったと、めずらしく屋敷から手紙が来た。

 治療するにァ輸血のため、血縁の若い女の血が居るんだと。

 ンで──2番目の姉キが、見舞いがてら屋敷に行くことになった。

 貧乏のせいで病気がちになってた母親(おフクロ)は、スケの──女(おんな)の感で、なにか感じるモンがあったんだろナ。しきりに行くのを止めたがった。

 

「なに言ってるのよ……母さんが行ったって、仕方ないじゃない」

 

 下の姉キは、そう言ってバイトを休んで奉公先の屋敷に行き……ソレっきりサ。

 そのうちまた手紙が来て『上の姉と一緒に御奉公するコトになった』と、こう来たモンだ。

 御奉公はいいが、家に仕送りも来ねぇンじゃ、コッチだってアゴが干上がっ了(ちま)う。

 母親が病気がちの身体をおして面会に行こうとするも、貴族区の中にすら入(へえ)れなかった。

 

 女手が少なくなったんで、家の中は荒れる。働き手が減って、ますます貧乏ンなる。弟はグレてチンピラの仲間入りをして……そのうち度胸だめしの鉄砲玉にされ、 “カチこみ” で刺されて、おっ死(ち)んぢまった。まったくバカなヤツさ。

 母親(おフクロ)の嘆きァ、そうとうなモンだったな。葬式とも言えない葬式で、上の弟の死骸(むくろ)に取りすがり、ヤセた身体をふるわせて泣く声を、いまでも覚えてるゼ……。

 

 母親はますますヨワる、家の中は荒れる。

 コレは姉キたちに、ホンキで一度帰ってきてもらわにゃと、おれは貴族区の塀をのりこえ──貿易船でマストの経験もあったからお手のモンよ──目当ての屋敷に潜り込み、姉キたちに会おうとした……が、トンだヘマぁやっちまった。屋敷は魔法結界で守られてて、侵入者は一発で分かるッてな寸法だった。もちろんガキだったおれは、そんなモノがあるコトすら知らなかったンだ。

 気づいたときにァ、まっパ(全裸)で聖アンデレの『X』型十字架に磔(はりつけ)にされ、ケモ女たちの痴態(ちたい)を、ムリヤリ見せられてたってワケだ。

 するってぇと──情けねェことに、たちまちボッキしやがンだよ、おれのチンポがョ。

 

 ムチの音──よがり声──男の怒声……。

 

 するってェと……そのうちのサッキュバス2匹に、どォ~も見覚えがあった。

 

 赤い肌のブロンド(金髪)に、青い肌のプラチナ(銀髪)。

 頭に二本のツノをはやして、ムチのように細長いシッポ。

 両脚はヒザから下はフサフサの毛でおおわれ、両方の前腕も同じ。

 トラ革のビキニ水着に、額んトコにゃ、デカい宝石が埋め込まれてる。

 2匹とも、牛みてェに大きい黄金(きん)の鼻輪をフラフラと、鼻から揺らしてた。

 おまけにベルのついた幅広な黒革の首輪を巻かれ、性奴であることを強調されてナ。

 貴族の家はデブった中年の当主と、大男なゲスい息子のふたりでな。ザムザ家とか言ったか。

 赤・青のサッキュバスは首輪を鳴らしつつ、それぞれボッキした異様にユガんだ巨大チンポを、熱心にシャブってた。

 

 するってぇと──。

 

 赤い方が大男の息子に、カラダを駅弁ファックのまま持ち上げられて、ユサユサおれの方に近づいてきた。と……そのサッキュバスが肛門をパックリ、まるで生き物のようにモグモグさせながら、振り向いて、

 

「ベジィ……お姉ぇチャンね?アヌスも、すっごく上手(じょうず)になったんだよ?」

 

 言われて数瞬の空白があったのを覚えてるぜ。

 目の前の、イロ呆(ぼ)けなトロ顔をしたメスにぁ、ゼンゼン見覚えがネェ。

 ケドよくよく見ているうち──アタマん中で金髪を黒髪に、赤肌やツノを取ってみると。

 

「なッ……姉キ!?」

 

 ガン!とアタマを一発、ドヤされた気分だった。

 視界がグラグラとゆれて、焦点が定まりやがらねェ。

 うふふ……と上の姉キは、そんなおれを見て艶めかしく嗤(ワラ)って、

 

「ホントはアンタの粗チンなんて挿入(いれ)るのヤなんだけど、ご主人サマのご命令だから……」

 

 上の姉キがそう言ったとたん。

 息子の野郎がボッキしたオレのチンポに姉キの肛門を、ぬぬぬぬ……ぬぅ……ッ!

 

****

 

 そン時の快楽とキやがったら、とドレッドは珍しく呻(うめ)いた。

 

「……知るかぎり、どんな女も敵(かな)わないほどの “名器” だったゼ」

 

 ホンのひととき。

 ヤツは目を宙に泳がせ、眉根をよせて、さらに口唇(くちびる)を引きしめる。

 それはまさに “苦悩するピエロ” そのものだった。『絵の無い絵本』に出てくるアレだ。

 

「……『ナナ』のおマンコにしても同じよ。いや月とスッポン、金と泥だナ……うねうね、モグモグとアヌスがオレのチンポをモミしゃぶるように動きやがってよぉ……」

 

 額に宝石、と言ったな?オレはドレッドに尋ねた。

 

「“ウサギ(この店)” で、そんな女たちに会ったことは」

「イヤ……見たコタぁねぇが?」

 

 素の表情(かお)でコイツはキョトンとする。

 なるほど。やはりコイツは“ウサギ”のウラには精通していない。

 洗脳用・魔石のことを知らないのだ。オレも異世界時代、そんな宝石を知らなかった。

 

 ──そして……まただ。

 

 また、異世界の事象とシンクロしてる。

 皇国にあった魔石が、この“ウサギ”でも……。

 だがドレッドは、オレの困惑顔などソッチのけで、

 

「とにかく絶品でナ。ソレを味わって以来、どうやっても、どんな女でも、イケなくなっ了(ちま)った。お前ェのスケにチンポをブチこまなかったのは、犯行現場に体液を残したくなかったのもそうだが、まんいちイッちまった時、クヤしいからだゼ……姉キよりも絶品な尻(ケツ)マンコがあるってのを、知るコトをよ」

「お姉さんの “前(ヴァギナ)” とは、しなかったのか」

「クソ貴族の野郎が姦(や)らせてくんなかッたゼ。お前ェみたいなガキは、後ろのアナで十分とか言いやがってヨォ!」

 

 ここで、ギリッ!ドレッドは歯がみをして、

 

「姉キたちのほうも、調教されてすっかり色ボケにされ了(ちま)ってた!くちぐちに貴族どものチンポを欲しがって、オレみたいなガキのチンポは、もう身体の中に入れたくないと、イヤがるまでンなってたゼ。あれほど美人で、知的で、清楚な、下町界隈でも評判だった姉キたちが、いまは貴族どもの『イボつきチンポ』をトロ顔で美味(うま)そうにしゃぶるまでにされてやがる。そのザマと言ったら!……いま思い出しても、ムカツいてきやがるゼ……まぁ、お前ェにこんなコトを話すのも、胸ンなか溜まったモノを、一度は吐き出してぇからでヨ。どうせ殺(バラ)すヤツだ。樹の洞(うろ)に『王様の耳はロバの耳!』と叫ぶのと、おなじコったゼ……」

 

****

 

 明日は手前ェも調教して、ホモ爺(ジジ)ィの『抱きマクラ』にしてやると宣告(いいわた)されて、おれは荒縄で亀甲縛りに全身をガンジがらめにされたまま、チクショー!団鬼六の緊縛モノかよ!と手ぬぐいの猿ぐつわを噛みつつ、地下牢に放り込まれた。

 

 万事休す、と覚悟したとき……深夜、牢(ろう)の格子戸がキシミをたてて開いてな。

 うごく頭だけ、なんだァ?と持ち上げてみりゃ、それは屋敷付のメイドなんだ。

 

 超・美人だったが、くちびる縫い合わされてしゃべれねェ。

 メシは、ノドに開けられた穴に流動食を流し込まれるだけ。

 姉キたちとおなじ黄金(きん)の鼻輪を通されて、ミジめな有り様。

 (どうも屋敷の女奴隷にする共通の処置みてぇだった)

 

 そんな彼女が、コッチの縄をほどき、服をくれて屋敷の外に逃がしてくれた。

 礼を言おうとしても、黙って首をふり「はやく行け」ッつう素ぶりだけ。

 あン時の感謝と恩は……今ンなっても忘れたこたァねェよ。

 

 明け方になるまで貴族区の囲壁ちかくで時間をツブし、開門と同時に外へ出た(出るのはカンタンだからな?)。そのまま仲間のトコロで湿布やらナニやら、監禁中にイタめつけられたトコの手当をして2~3日すごした。ちょうど国が“イバイラの祭り”を開催している夕方、街なかの賑(b)わいにまぎれてアバラ家(や)に戻ってみりゃ、ビックリするぢゃねぇか、母親(おフクロ)が倒れてやがる!なんでも昨日、奉公先の屋敷から使用人どもが来て、オレの居場所を吐かせようと拷問しやがったとか。おまけにクスリまで使われたらしい。そばに割れた注射器がコロがってやがった。とどめにァ、酸で顔を灼(や)かれててナ……。

 

 おれは怒った。

 ケド、なにより慌てたね……マジでよ。

 母親(おフクロ)が死んぢまうんぢゃねぇか、ってサ。

 

 いままでに無いほどクソ汗かいて走り、町医者ンとこ行ったゼ。

 したらクスリが使われたと聞いて、二の足ぃ踏みやがった。もっと上級の医者に行かなきゃダメだと。そこでまた駆け足よ。街一番の医院まで走ったね。

 

 『皇国を守護する』とかヨタ話のあった聖イジーの晩鐘が鳴り、頭の上をカラスがカァカァよぎり、オレのアタマもガンガン鳴ったぜ……日没ごろ、スニィウェッズ街にある有名な医院にようやくたどり着いてみりゃ、その日は祭りで臨時休業ときやがった。それでも閉まっている建屋の門を叩いたが、コッチが往診代も出せねぇような貧乏人だと分かると、扉を開けもしねェ。結局押し問答でラチがあかず、トボトボ家にかえってみりゃ、母親(おフクロ)は高熱をだして唸(うな)ってる。

 一晩中看病したが……明け方、うたた寝したおれが起きてみりゃ、ヒッソリと死んでいた。

 

 それからだゼ。

 

 おれが、カネ持ちというカネ持ち。権力者という権力者、貴族という貴族、特権階級という特権階級を、憎むようになったンは。

 

 商人の手代をやってたツテで、おれは禁制品を扱うマフィアの一員となり、そこで頭角をあらわした。あとァお前ェの知るとおり。仲間をあつめて『五月動乱』を起こし、皇国を揺るがして。つぎに国外勢力も使った革命で、皇権(おうけん)を簒奪(さんだつ)した。

 

 年を経て、ジジィのお前ェがジャマをした、あの噴水台の活劇はヨかったぜぇ。

 石化された皇女や侍女たちは、いまでも水盤の上で、アヘ顔をした口やマンコ、肛門や尿道から、噴水の放物線をキラキラと描いてるだろうよ。

 

 そうそう。あのクソ貴族どもに復讐をしたかったが、オヤジの方は糖尿病でとっくにクタばり、息子は、ほかの貴族どもと国外に逃(ズラ)かったアトだった。

 2人の姉キは飽きられて、手術済み性奴隷としてトゥの昔に外国へ売りトバされたらしい。空ンなった屋敷にァ、あのくちびるを縫い合わされたメイドが、剥製(はくせい)ンなってエントランス・ホールにかかってたヨ。

 

 おれのハナシぁ──ま、ンなトコだ……。

 

****

 

 

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