※この作品はR-18です。

試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【18禁版】   作:珍歩意地郎_四五四五

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     〃    (その5:死の舞踏・前編

****

 

 いつになく閑散とした監視室、その一角。

 電子機器の並ぶ、護衛艦のCIC(戦闘指揮所)めく空間。

 

「信じられない……」

 

 露出の高いカクテル・ドレスに包んだ淫(みだ)らな肢体(カラダ)をよじらせ、首から垂たれるマラボー(羽根マフラー)を指が白くなるほどキツく握りしめながら、フルえる声で『モルギアナ』は呟いた。

 

「なんで……なんで、あ(・)の(・)男(・)が……あ(・)の(・)ヒ(・)ト(・)と、この穢(けが)れたお店に……?」

 

 モニターに移るブース席の一つ。

 そこではジョーカーの衣装をした男が、みずからズラをとり、ドレッドの地毛を露わにしたところだった。

 憎むべき悪の集団の首魁。

 恐ろしき存在の記号化。

 そんな人物が、かつて自分の彼氏であったマイケルと親しげに向かい合い、なにごとか話し合っている……。

 

 ──ヒュッ……!

 

 さらに彼女が鋭く息をのむ気配。

 それはどこか悲痛な色合いをもって、オペ女子が少なくなった管制エリアに響きわたる。

 

 なぜなら──ドレッド・ヘアの隣に座る、ゴリラがシンバルを叩くオモチャのコスプレをした小柄な男が、土曜ワイド劇場『**の美女』に出てくる明智小五郎役の天知茂が、変装を解いた時のように、ベリベリと仮面を剥ぎとると……サルにも似た自分の素顔をさらすのを見たからであった。

 

 ──ウソっ!まさか……そんな?

 

 夢の中に何度も出てきた怖ろしい貌(かお)……。

 衆目のまえで、自分を犯し、蹂躙し、辱(はずかし)め……。

 あげくに、この “淫猥な人形” になる原因をつくった外道(げどう)……。

 

 ──呪(のろ)っても呪いたりない……。

 ──殱(ころ)しても殱したりない……。

 

 ふいに!

 性奉仕ドール『モルギアナ』の──元・詩愛の、魔石を穿(うが)たれた頭に、おそろしい考えが稲妻のごとく浮かび、それが一層この無惨な淫肢(からだ)をフルわせた。

 

 ──まさか……マイケルさん、あのヤクザたちと、グルだった?もともと私のカラダを、こんな “恥ずかしい” ダッチワイフにするために、計画的に乱暴して……洗脳して……調教して。『性奉仕のお人形』に改造するよう仕向けたの……?

 

 あの出会いも。

 素敵なイヤリングも。

 父に取り入り信頼させたのも。

 高級マンションでのみんなとの生活も。

 すべては──私を、この店専属の『ドール(奴隷人形)』にするため。

 

 運命の夜祭りで見た朱美とその息子、竜太を思い出す。

 露天の灯りにうかぶ、幸せそうな若い家族の情景。

 涙の出るような “裏切り” のひとコマ

 

 ──すべては、朱美(あけみ)サンとの二重生活を営むための資金として、私(・)を(・)売(・)っ(・)た(・)のだわ!

 

 ガクガクと。肉付きのいいカラダが、ケイレンをはじめた。

 すると、額に新しく設置された仮の魔石が副交感系に作用して、興奮を鎮める。

 それがために、疑似涙腺の働きがブロックされ、泣きたいのに泣けない状況となった。

 これが、『モルギアナ』に改造された『詩愛』の絶望をさらに呼び『奉仕人形』を捨て鉢に。

 

 もし──。

 彼女がそのままモニターを見続けていたら、憎きカタキに散弾銃でオドされる元・恋人の姿を、モニターに見たことだろう。だがこの人形は “裏切りの情景” に耐えられず顔をそむけたので、肝心の場面は見られずじまいとなっってしまう。

 

「……どうした。性奉仕ドール『モルギアナ』?」

 

 そばに居て別のモニターで会場の成り行きを見守っていた、例の格闘技に長けたガタイのいい釣り目の女が、顔面蒼白となり小刻みに体をフルわせる奉仕ドールに気づいた。

 

「ひたいの宝石が “情緒不安定” の非常シグナルをだしてる。なにかあったか?」

「わたし……今宵(こよい)は……歌えません……」

 

 絞り出すような、また呻(うめ)くような声で、ようやく『モルギアナ』は呟いた。

 

「とても……アリアを歌う気分に……なれません」

「あなた──このごに及んで、ナニ言ってるのよ?」

 

 それを聞いたチーフ・レディの『小枝子』の、怒るよりも呆気にとられたような声。

 品のいいリップに彩られた、かたちのいいくちびるを半ばポカンとさせ、

 

「もう本番まで、あまり時間がないのよ?」

「ワタシ……私は……」

「あ~ん、モウ!このコス(衣装)踊りづらァい!」

 

 足首に巻いた鈴付きアンクレットをシャンシャン鳴らし、踊り子が管制室に入ってきた。

 すでにギラギラ光る長刀を諸手(もろて)に、振り付けの回転パートを舞いつつ、まるで赤いつむじ風のように。

 

「ヒッ!」

 

 チリッ!刃(やいば)に髪をかすめられ、オペレーターのひとりが悲鳴をあげる。

 『美月』は、カラダに巻き付けた天女の羽衣めく絹の薄布を整えつつ、

 

「会場、愛液(ラブジュース)や精液(ザーメン)だらけで足ぃスベらせて、2,3人。ホントに殺(や)っちゃうかも」

「……覚えてるわよネ?」

 

 『小枝子』は一転、ツメたい声で、

 

「そんなコトになったら貴女(アナタ)も人形にして。お姉サンとペアで売りトバばすわよ!」

「やぁん♪ジョーダンよ、マイケル・ジョ~ダン。タダのパーティー・ジョークじゃない」

「だとイイけど……なに?『ユリ』……はぁ?目標を見失った、ですって!」

 

 いきなり『小枝子』が耳のインカムに指をあてて眉をひそめた。

 

「分かったわ──引きつづき捜索をなさい。使えるものは、すべて使って」

「それに、この衣装……」

 

 『美月』はペルシャ風な舞姫衣装(ダンサー・コス)のクロッチ(おマタ)部分に手をやって、

 

「今までみたいに、お道具を挿入(いれ)てないから、『オシリの穴』と『おマンコ』。スースーして、なんだか落ちつかなァい……」

「いい加減になさい!踊ってる最中に、アクメして、手もとでも狂ったらどうするの!」

「……『美月』サマ。貴女に折り入ってお願いがあります」

 

 このとき『モルギアナ』は、依然(いぜん)真っ青な面差(おもざ)しで、ふたりの “人間の女” の会話に割って入った。

 

 妹の目じりにチックが奔(はし)る。

 どうやら、例のワルいクセが、また出たらしい。

 彼女は、ワザと冷たい聲(こえ)をよそおい、突きはなすように、

 

「なによ、お姉──『モルギアナ』。精(・)液(・)便(・)所(・)ふ(・)ぜ(・)い(・)が何の用?ゲネプロは済んだでしょ?それともまさか、まだスリあわせが足りないってンじゃないでしょうねェ?」

 

 だが、この煽(あお)り文句にも姉である元・詩愛は動じることなく、沈鬱な表情(かお)のまま、

 

「今晩のアリア。メス人形『モルギアナ』は歌えません……とても歌うことができません」

 

 はぁぁああああああああ!???

 

 『小枝子』とちがい、『美月』は絶叫した。

 そして二、三歩たじろぎ、タップリ全音符ふたつ分の沈黙。

 「こいつマジかよ」と、相手を、そして『小枝子』を交互に見つめる。

 

「ね?このメス人形、今さらこんなコト言うの。『美月』、アナタからも説得して頂戴!」

「いっ、いまさらナニいってるのよ、お(・)姉(・)ェ(・)ち(・)ゃ(・)ん(・)!もう本番まで時間ないのよ!?」

「どうか……今晩の催し、踊りはナシで。かわりに歌姫(ディーヴァ)『美月』の歌のみで」

「なんで……なんでなのよ!?せっかくアリア役、譲ってあげたッてぇのに」

「ワタシも、たったいま言われて驚いてるのよ。ドウしちゃったのよ、『モルギアナ』?」

「……」

「お姉ェち──いえ、オ(・)マ(・)エ(・)ご(・)と(・)き(・)『性奉仕ドール』が、そんなワガママを──」

 

「まって!」

 

 ここでなにやら思いついたのか、『小枝子』は仄暗(ほのぐら)い冷笑を浮かべた。

 

「ナニよ、『小枝子』サン。いきなり大声なんか出して」

「フフッ……なにね?舞姫(ダンサー)役に、心当たりがあるの」

「えぇッ、そんな!」

 

 チーフ・レディの言葉に『美月』は仏頂面をし、裏切られたような口ぶりで、

 

「アタシのスペアを……用意してたってぇワケぇ?」

「ちがうわよ、バカね。歌姫(ディーヴァ)『美月』。トスカのアリアは──ぜんぶ歌えるわね?」

「そりゃァ……アタシの十八番(おハコ)だモン」

 

 彼女は、胸にブラさげたお守り代わりな銀のロザリオを、まさぐりつつ応える。

 あの “幽冥の老貴婦人” からゆずられた、年代物のロザリオだった。

 次いで、如何(いか)にも不本意と行った感じで渋々(しぶしぶ)と

 

「まぁお姉ぇチャンには……負けるけど」

 

 ゴニョゴニョと、ナニやら言い訳めく『美月』。

 そんな中にあって、わずかにゆるむ “姉” の口もと。

 

「それならば──よし!」

 

『小枝子』は、完全に状況を把握したチーフ・レディの顔つき。

 そして決然とした表情(かお)で立体裁断なスーツの胸を張り、耳のインカムに手をやると、

 

「衣装係!キャスト変更。『美月』を歌姫役にするのでコス(衣装)を!──時間がないわ?急いで!」

 

 

****

 

 

「おッせぇな……ナニやってやがンだか」

 

 ドレッドは、緑色をしたシャツの袖をめくり手首のオメガを確認した。

 

「スケジュールじゃ、もうソロソロおッぱじまるンだが……」

「なんの予定だ?」

「へ。今晩の目玉よ。クライマックスにまぎれて、お前ェを殺すための剣舞だ」

 

 良かったな?寿命が少し延びて……と、宿敵は冷酷に嗤(ワラ)う。

 

「そうさなぁ。オレを殺すなんざ、いまのオマエにぁ、お茶の子【SAI】!【SAI】!だろうからなぁ……ナンとかしてくれよ、ホント!」

 

 イヤホンからの反応はない。

 

 アイツめ……マサカ本気で例の計算とやらに夢中となってンじゃあるまいな?くそっ……こんなときワルサーがあったら!やはりあ(・)の(・)時(・)、気に入らない銃とはいえ、PPKを『小男』から受け取っておくべきだった!これから『美月』が出てきて踊るハズだ。あの娘(コ)を危険な目にあわせたくは……ない!

 

「……ナンだぁ?」

 

 ドレッドは赤く塗った眉毛をひょいとあげ、

 

「いのち乞(ご)いか?せっぱ詰まったツラぁしやがって。この後に及んで、ガッカリさせんな」

「なるべくオレをジワジワと、なぶり殺しにしたいってワケか、えぇ?」

「おうョ。直接、お前ェに手を下してねェからな。“うれション” しちまいそうだゼェ」

「は!どうにでもしてくだ【SAI】!、ってなもんだ!」

 

 ふと、ドレッドのジョーカー顔が用心深くなる。

 ワキに置いたジャケットの下に手を滑らせ、あたりの乱痴気騒ぎを胡散クサそうに。

 

「……いのち乞い、ってワケでもねェようだな。ナニぃ企んでやがる」

「ソッチこそ。その不自然な余裕。この会場に手下を何人か入れてるな?」

 

 ケッ!

 相手は白塗りのジョーカー貌(がお)をゆがめた。

 そして氷で満たされたシャンパン・クーラーから一本引き抜き、封をあける。

 

「たりめェよ。ポリの親玉や政治家どもの領袖もカラむヤベぇ店だ。丸腰ではいれっか!」

「だが、そんなとこから人材を引き抜こうとしてる……」

「魚心あれば水心、ってナ──おッ♪」

 

 ホールの照明が暗くなっていった。

 どことなく淫靡な印象の通奏低音が鳴り出す。

 静かに──ひそやかに──しだいに強く……早く……。

 ホールを満たす喘ぎ声やアクメの気配は、だんだん収まってゆく。

 

 やがて……暗いムラサキ色のスポットライトに浮かぶ、ひとりの人物

 若い黒人の女。例によって太めな、ムチムチのブリブリしたエロ・ボディ。

 それをインド風ともアラビア風ともつかぬ衣装(コス)が包み、隠し所をチラチラと。

 分厚い口唇(くちびる)を真ッ赤な舌が、物欲しそうになめ回す。鼻孔には銀の(クローム)輪が穿たれて。

 腰まである黒い濃密なソバージュが、まるで復讐を果たすメデューサのごとく揺(ゆ)れる。

 

 ──えッ!あれは『美月』じゃない!!……よな?

 

 本番前に変更があったか、または何かの不都合が生じたか。

 何はともあれ、良かった!とオレはひっそりムネをなでおろす。

 オレの胃をギュッ!と握っていた冷たい手が、どこかに行った気分だ。

 そうなると、あとは目の前の散弾銃を、どう無力化するかに集中すればいい……。

 

 「哎呀(アイヤー)! 动地(ヂィン ティェン)惊天( ドォン ディー)!!」(ウヒャー!こりゃタマげたぜ!)

 「好(ハオ)! 色情(スゥ-ァチン)明星( ミンシィン)!!」(イイぞ!AV女優!) 

 

 大陸の不好(プーハォ)(ダメ)な土豪(トゥーハォ)(成金)でも混じっていたか、中国語で掛け声が飛ぶ。

 

 シャァン!

 

 売女扱いされたヤジが疳(カン)にサワったのか。

 黒人女が、ウサギが不満をしめす時のように一度、足ダン。

 アンクレットに鈴なりとなった鳴り物が、シャラシャラ響きわたった。

 しかも、なぜかその音は “凄凄涼涼” たる色調で、オレの胸を慄然(ゾッ)とさせる。

 

 ゆるやかに肢体をウネらせる黒人の女。

 そこかしこに巻かれ、穿たれた、黄金(きん)の装身具や鳴りモノ。

 それが、背景の黒にコントラストとなって煌めき、如何にも美事(みごと)にみえる。

 天女の羽衣めく薄モノが全身をフワフワとり囲み、ピアスを穿たれた乳首や隠し所がチラチラ。

 

「呀(あ)ッ!──アレだ!」

 

 いきなりドレッドが抑えた叫びをあげる。

 

「あの黒ンぼうの額(デコ)にある、デカぃ宝石!」

「珍しくもない。アレがどうした」

「ちょうどアンナ奴(の)が……姉キたちのアタマにも、装着(つけ)られてた!」

 

 姉たちの性的奉仕を見せつけられる屈辱的な情景を、また思い出したのか。

 “ジョーカー” の目は憎悪まじりに爛々(ランラン)と輝き、三日月に隈取られた口もとは、固く引きむすばれた。

 

「……アレは、洗脳用の魔石だよ」

「ンだとぉ……手前ェ、知ってるのか?」

 

 そのとき。なぜかオレは、この憎い敵に説明してしまう。

 姉たちが進んで性奴隷になったと勘違いさせたほうが、本人が苦しむものを。

 

「知性をつかさどる前頭葉に、ひたいの骨を貫通させて直接作用する特殊な器具だとか」

「脳をちょくせつ……支配してやがンのか。チクショウめ、でもどうやって」

「くわしい仕組みは知らん。本人の意思にかかわらず、あやつり人形にしちまう、非・人道的な畏(オソ)ろしい、調教用具さ……」

「じゃぁ……じゃぁ姉キたちは!完全に色ボケんなったワケじゃなく、色(・)ボ(・)ケ(・)に(・)さ(・)れ(・)て(・)……」

 

 と──その時、黒人女の滑(なめ)らかな膚(はだえ)に、変化が現れた。

 

 ムラサキの灯りにブラック・ライトでも加わったのか。

 全身に、長い長いヘビのような『ヒダ付きチンポ』が、幾すじも浮かび上がったのである。

 ややあって、それらは緩(ゆる)やかに蠢動(うご)きはじめ──頸(くび)まわりを、乳房(オッパイ)を、ウェストを、太ももを……ウネウネと巡り、とり巻いて。さいごには股間にネジ入ろうとするしぐさ。まるで皮膚をモニターにしているような動きだった。

 

 おぉ!とホールの観客からはどよめきが、そして緩やかな拍手が上がる。

 

「はぃっ!え~、てなワケで──」

 

 黒服がひとり。

 薄暗がりなれた観客の瞳孔を維持するためか、赤いスポット・ライトを浴びつつ入ってきた。

 目を凝らして良くみれば……なんだ、コリンズのヤツじゃないか。背後に歌舞伎などでよく見る黒衣(くろご)を数名、引き連れてスカした足どりで入ってくる。

 

「ご来賓の皆サマがたにィ、前もってお伝えいたシましたとおり!……これから我が “紅いウサギ” が誇る、こちらの舞姫!彼女が演ずる剣舞をォ──お目にかけマぁッス!」

 

 へぇ。あいつMCなんか出来たんだ?と素直に感心。

 勤務態度のワルい、女のケツばっか追いかける同僚と思っていたが。

 

「これより!彼女が剣を振りつつ、舞いながらお席を回りヤスが──刃先の軌道は、お客サマギリギリをめがけます。そこでチョッとでも避けたら、お客サマの負け!上級会員候補の資格を失い、すみやかに退場シテ頂きヤス」

 

 彼女、チャンと鍛錬を受けてるんだろうね!?とブースからの疑わしげな声。

 

「ウチの店を信じて命ィあずけるか、否か!ソコが天国と地獄の分かれ目でさァ!」

 

 こうきては、グゥの音もでない客席。すると──。

 見るだにおそろしいくらいな幅広の凶悪サーベルが2本。

 刀身をギラギラと輝かせつつ、自ら宙をフヨフヨ浮いて座席をめぐる。

 よく見れば、それはふたりの黒衣が恭(うやうや)しく捧(ささ)げ持ち、ホールを回っているのだ。

 

「さぁ!ここに集う御方は、老若男女を問わず!いずれも度(・)胸(・)ッ(・)ぷ(・)し(・)を持ち合わせた方々とお見受けしヤス。どうか、この舞姫のウデを信用なすって!存分にお楽しみくだせェ」

 

 今回は拍手が起きない。代わりに静かな緊張感。

 ホールを散歩していた幅広の凶器が、黒人舞姫の手に収まった。

 女らしい魅惑的な体格にくらべ、オークのようなぶっとい腕が目に付く。

 改めて見れば、トルコの古いサーベルよろしく、反りを打たせた刃(やいば)の迫力。

 優に1mはあろうその獲物。女は肢体の装具をけざやに鳴らし、自在に振りまわす。

 やがて彼女の周囲(まわり)に白銀(ぎん)の円盤が二つ、さまざまに角度を変え、唸りをあげてて曄(かがや)きはじめた。

 

 おぉ!とホールの観客から、またもやどよめき。そして前より盛んな拍手。

 

 音楽の調子が変わった。

 リズミカルな低弦。ファゴットのメロディ。

 ホールに置かれたスピーカーから、グリーグの『山の魔王の宮殿にて』が流れ始める。

 

 https://www.youtube.com/watch?v=NZ6k2Nwge3M

 

 それにつれて、黒人の女は拍子をとってステップを踏み、宙を舞い、

 ホールを自在に行き交いながら、大きな身ごなしでサーベルの斬撃を開始する。

 

 ヒュン!白刃が唸り──。

 ヒョウ!来客の首もとスレスレに──。

 

 颯々(サツサツ)と彼等の耳もとに刃風は鳴り、戛々(カツカツ)と装具の鈴玉は鳴る。

 

 ──あ……まただ。

 

 そのサーベル2本がホールのうす闇を切り裂く風切り音。

 淫猥なカラダ中に付けられた装具の涼やかな鉦鳴。

 そのうちに、オレは確かに哀しみを感じ取る。

 

「さァさァ!脱落者はダレだ!──落伍者はダレだ!」

 

 コリンズのひょうきんめかしたアオり声。

 まるで魚屋のオヤジが呼び込みをするように。

 どうもこの男。この店に勤務するしては品が無い。

 

 しかし……。

 

 さすがは “ウサギ” の『ウラ会員』になろうとする、海千山千な金持ち連中だった。

 身をかがめ、反(そ)らし。動いたことで黒衣に連れ出される来客は、数えるほどだった。

 いままで幾多の修羅場をくぐり抜けてきたと見え、多少の危機にはビクともしない。

 まぶたさえ動かさず、ある「アメリカン・サイズ」のデブなどは微笑さえ浮かべる。

 銀河皇帝のコスプレをする、如何(いか)にも狒々(ヒヒ)ジジィな老人は、痩せた胸をくつろげて。

 黒人美女の踊り子が演ずるスレスレの剣舞に対し、ロコツな挑発さえ示して見せた。

 

 曲は、激しさを増してゆく。

 

 シンバルが打ち鳴らされ、ファゴットが吠える。

 ややあって、空気に鉄臭い水っぽさが混じるようになった。

 そのうちホールの片隅で、馬頭の首が血を吹きつつ宙を舞ったような。

 ヒィッ!という客の悲鳴は、その光景が現実のものであることを裏打ちする。

 つづいて、頭にヘビを絡ませるメデューサの首がもんどりうち、スポットライトに。

 エジプト風な翡翠(ヒスイ)の腕飾りを巻く誰かの腕が、玻璃(ガラス)の盃を握るまま、そのあとに続いた。

 

 スピーカーから流れる管弦楽の大音響を圧し、さすがに会場で狼狽と恐慌がおこる。

 動いた招待客は、否応なく屈強な黒衣に引きつられ、ホールから追い出されてゆく。

 あるいは自分から、今のうちにと逃げてゆくドラキュラやフランケンシュタインも。

 

 来客の中には、これが一種の余興で、斬られた首や腕はダミーだと信じる者が少なからず居た。ドレッドも、そんな客の一人だった。

 

「おぃ……!」

 

 ドレッドが、ふたたび散弾銃をテーブルの下でこちらに向けた。

 

「ワザと動いて、この場ァぬけだそうなんて、考えンじゃねェぞ」

「ハ!逃げようなんて、【SAI】!【SAI】!思ってねぇぜ!」 

 

 ……ダメだ。

 あのクっっっっっっそAIの野郎!ナニやってやがる!!!!

 と──何かのしずくが、けっこうな勢いで飛んできた。

 誰かがシャンパンをハデに溢(こぼ)したかと頬をこすれば、ネットリと指先が赤く染まる。

 

 こうなると、もう度胸もヘッたくれもない。

 

 さしもの銭ゲバどもも、その多くは黒衣に促されるまでもなくコソコソとフロアをあとにする。それでもネバって客が残っているブースは、本当にウラの会員へ昇格したいヤツか……あるいはドレッドの手下か……。

 

 

****

 

 監視室は恐慌をきたしていた。

 

「コントロール!性奉仕ドールの、緊急停止信号を!」

 

 『小枝子』の声にオペレーターのひとりがヘッド・セットを押さえてふりむき、

 

「ダメです!停止信号、受け付けません!」

 

 となりにいた白衣の双子医者は、監視室のモニターを無表情にながめ、

 

「彼女の洗脳用魔石は、脳感染症をふせぐための──」

「応急用ですから。本人の特性に合致していない──」

「アナタたちねェ!そんな悠長なコトを!」

 

 なんとかしなさいよ!と、地団駄を踏まんばかりなチーフ・レディ。

 釣り目の女が「あの中に飛び込んで止めて来い」と言われないかヒヤヒヤするのが診える。

 暗視カメラを確認すれば、すでに相当数の来客が黒人舞姫の刃(やいば)にかかっていた。

 非常の場合、子宮に仕込んだ小型爆薬の起爆も可能だったが、店主の許可がいる。

 そして店主と連絡が取れない現在、その手段は絶望的だ。なにより起爆コードがわからない。

 

「脳に刻まれた本源的な怒りが──」

「今の彼女の行動理念だろうね──」

「ゴタクはけっこうよ!ナニかないの!?」

 

 ヒステリックに『小枝子』は叫んだ。

 

「あの狂った『人形』を──とめる手だては!」

 




長くなったので二つに分けます。
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