試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【18禁版】 作:珍歩意地郎_四五四五
扇情的な深紅の
ドレッドの野郎はナイフを突きつけられ、コリンズのヤツとふたり背を向けて。
すこし離れたブースから、ドレッドの配下たちが銃のレーザー照準を彼等に当てていた。
ステージの『美月』と『フクロウ』だけが、コッチの挙動に気づき目を丸くしているようだ。
(あぁ……神よ、感謝します。この
淫らな衣装をまとう“性奉仕人形”が、そんなことを呟いた、ような。
そして目の前で、全身のピアスを煌めかせ“ジャンビーヤ”を振りかぶる。
お姉ぇチャン!と、高血圧気味で遠くなった耳に、どこからか届く悲鳴にも似た声。
ドレッドとコリンズが、その声の切迫した調子に気づき、チラとこちらを振り向き、凝固。
「ようやく──これでもう、思い残すことはありませんわ!」
ヒュッ!
最後の──瞬間。
ドール化された元・詩愛が鋭く息を吸い、ナイフを振りかぶるのが見えた。
観念しておれは目を閉じ、彼女の一撃を受け入れるように、両腕をひろげて裁きを待つ。
銃声。
ハラに響くデカい音・衝撃。
なんだ!?大口径のショットガンが、いきなり至近距離で。
反射的に身をかがめ、向き直ると〝復讐の舞姫〟の姿は消えていた。
バラバラとホールに人が駆け込んでくる気配。しかも、訓練された鋭い動き。
オレは目をうたがった。なんと、
「全員、そこを動くな!」
集団を率いているらしいレミントンを抱えた黒づくめの男が、ガスマスクごしに叫んだ。
「ココは我々が制圧した!全員、ホールの壁へ!!」
効率的な、無駄のない動作。
のこった招待客が、三々五々に集められ、ひとすみに寄せられる。
コスプレ獣人の一群はもちろん、美月や『フクロウ』も足をふるわせて。
ドレッドとコリンズも集団にならい、様々に意匠がほどこされる壁ぎわに向かった。
だがその目は油断なく辺りをうかがい、チャンスあれば形勢を逆転しようと目論むように。
──詩愛……詩愛は!?
右見て、左見て──最後に床を見おろしたとき。
オレの視野は一瞬せまく、暗くなり……目のまえの光景が、細かくブレた。
わき腹をピンクに染め、ボロクズのように性奉仕用ドールが転がっている。
目を驚いた様に見開き、鼻と口、それに耳から血を流し、蒼い顔を凝固させて。
ひたいの中央、残酷にも脳まで届く大きな洗脳用宝石は、その輝きをひそめていた。
視界の外から男が駆けこみ、ダッチワイフ“だった”モノにかがみ込むや首すじをさぐり、
「──隊長!目標
その男の背後から、レミントンを小脇に抱えた人物が、人形の残骸を確認してうなずく。
オレは、そいつら2人を脇に押しのけ、もはやただのモノと化した
「詩愛?……詩愛!」
「ホラ、おまえも壁ぎわに行け!」
マスク越しのくぐもった声。
だが、無我夢中のオレは、言葉の意味が分からない。
胸の中に冷たいめたいものがひろがり、あたまを驚くほど空漠にする。
突きつけられる9m
そこには……不思議なことに、あの特徴ある〝鉄くさい〟血の臭いがまったくしなかった。
それどころか、人形の豊満な
「詩愛!……詩愛!」
ローマ軍将校のコスプレ服が汚れるのもかまわず、オレは彼女を抱きしめる。
頭上では、突入してきた男たちが矢つぎばやに、軍隊系の切り詰めた話法で、
「──目標
「──地上に逃れた模様。現在、2班が追跡中!」
「──隊長、目標
「電波の妨害発生区域に入っているのかもしれん。交信をつづけろ」
「しかし『レイカは始末した』と、平文で最後の連絡にありました──オィ!」
おまえも早く壁ぎわに行け!とさらにUZIで小突かれ、詩愛だったものと引き剥がされるが、オレの眼は詩愛だったものに吸い付いてはなれない。そして『アリス症候群』のように、彼女の死体がズームレンズを激しく動かしたときと同じく1秒間に何度もサイズをグングンと大小させる。
「──おぃキサマ!」
「──まて…………」
背後で制止の声がして、マスクが取られたのか、いきなり声がハッキリとした。
「マイケルさん……ですね?」
その声に、覚えがあった。
〝性奉仕ドールの残骸〟にかがみこんだまま、背をねじって相手を見上げる。
ガスマスクが外されると、あの結城老人が子飼いとする青年の精悍な顔があらわれた。
なるほど。元・傭兵なら、『紅いウサギ』の防衛網を突破するなど、いとも簡単なことだろう。
「おまえ、か……まさか、こんなトコで会うとはな」
「おや。ボクを知ってるんですか?」
「**貿易商社・海外開発担当、
「どこでそのDATAを……それになぜ、偽名だと?」
「おまえの飼い主が使った“カドマ”も、おまえの“イソカ”もローデシアの地名じゃねぇか」
「へぇ、よくご存じで。するとアナタも俗に言うカタギじゃありませんね」
「この子を
オレは血だまりから立ち上がると、相手は反射的に数歩さがり、わきに抱えたレミントンM870を揺すりあげ、構えた。
「命令でしてね……仕方なかった。依頼人はアナタの思いも及ばぬ──」
「知ってるよ。殺しを依頼したのは、この子の父親だろう」
ズバリ、正解を言われて鼻白む相手から目をそらし、オレはダッチワイフ化された詩愛の死体を、あらためて見下ろした。
死してなお〝性奉仕用ドール〟は美しかった。
男好きのするスタイルに改造されたボディは、
こと切れる寸前〝
そして──頭上、
……というラテン語が、こんな非常時に頭のスミで、チラリと。
《マイケル……マイケル……しっかりしてくだサイ》
耳もとで、誰かが
だが、そんなことは……もう、どうでも良かった。
詩愛が……哀れにも性奉仕用ラブドールに改造された彼女が死んだのだ。
ナニも報われず……なんの幸せも味わえず……
《マイケル……店がわの通信機能・抑止装置が停止しました。バックアップをそちらに回します。その青年が乗る例の白いベンツも、2街区先に駐車しているのを確認》
どこかで遠くで、銃声のような連射音がとどろいた。
ハッ!身を固くする青年と配下のプロたち。
突然、なにかスプレー缶のようなものが2,3飛び込んできて、にぶい金属音をたてテーブルや床をハデに跳ね回る。
青年の反応が早かった。
「──
叫んだとたん、まばゆいばかりの閃光と大音響。
それが納まると、耳の大きな獣人コスプレをしたモノたちがのたうち回っている。
唯一、衝撃にたえてSMGを構え、立ち上がった
「全員、動かないで!」
ホールの入り口から、威圧的な鋭い女の声。
みれば、ロングスカートのメイド服に特殊部隊のような装備をくくりつけた人影がふたり。
自動小銃をかまえ、制圧射撃の可能なポジションにそれぞれ占位していた。
彼女たちが構えた、見覚えのある自動小銃。
なんと、こちらも懐かしのFusil Automatique Léger。
コンゴ傭兵戦争時代のオレの愛銃……FALだ。
フェティッシュ・メイド──通称〝フェティマ〟の『ユリ』と『ケイ』。
だが、遅かった。ほんの半歩、遅かった。
「お客様がたは、係の誘導にしたがって避難してくださいな!」
『ユリ』が黒髪を揺らしてそう言うや、奥から武装したバニーたちがバラバラっと、こちらも訓練された動きであらわれ、獣人のコスプレをした者や、金持ちの客から優先に避難させてゆく。
わきでは青年が小声で、耳のインカムにささやいていた。
(3班、3班、こちらオメガ。ステージにてコード75。繰り返すコード75……3班応答せよ)
ムダよ!?と、遠くから自動小銃を油断なくかまえる『ケイ』の高笑い。
「坊やのお仲間たち、みィんなウチらが始末しちゃったもの♪」
ギリッ!青年が目を細め、くちびるをゆがめて歯ぎしり。
護衛していた部下が、カチリ。よせばイイのにUZIの
とたん、『ユリ』のFALが火をふき、その男を鉄サビが
「あ~らら。おイタはダメよぉ?……観念なさァい、坊やたちィ❤」
鼻にかかった甘ったるい言葉に反し、ホールを極度の緊張感が気配がつつむ。
かすかに聞こえるのは、足もとに転がり尻からナイフの尻尾を生やして悶絶するジョージの、
「痛ぇよう……アニキぃ……痛ぇよう……」
という蚊の泣くような哀訴の声。
その時だった。
彼方から大勢の思い足音が近づいてきたかと思うと、バァン!ホールのドアの一つが蹴破られ、
「警察だぁ!全員神妙にせい!!」
聞き覚えのあるダミ声が、いきなり高い穹窿天井に響きわたる。
次いでドヤドヤと入ってくる楯を持った機動隊員たち。その数、1ダースはいるだろうか。
先頭に立つのは、驚いたことに踊り子だった。
青みがかった性奉仕ドール踊り子だった。
『まほと』ことサッチーだった。
性奉仕ドール用の
ピエロのメイクごしでも、ドレッドの顔が焦りに満ちてゆくのが分かった。
残念だ……コイツが
「おんなどもォ!武器を捨てろぉ!」
部隊の一団を指揮するらしい、若い指揮官の一喝。
機動隊に交じる一隊が、フェティマたちに短機関銃を向ける。
銃器対策課でおなじみの、精密射撃に適したドイツ製・MP5。
彼女たちの顔に、手に、メイド服に、レーザーポインタの輝点が点る。
「ざんねんネェ……おまわりサンたちィ!」
『ケイ』が尊大な余裕をみせて、侵入者たちを睨めつけた。
「ココがドコだか……ワかってるワケぇ?」
銃器隊!!あのメイドとバニーたちを拘束なさい!とサッチーの一喝。そして、
「銭高サン、この店の地下には、生体実験に失敗した施術者の処分用電気炉があります、証拠保全のために封鎖と鑑識を!」
やめなさい『まほと』!と血相をかえ『ユリ』のほうが叫んだ。
「それ以上、施設の秘密を漏らすと!子宮に仕込んだ自動抹消装置がアナタの洗脳された脳からの指令で──」
だが、彼女の言葉がおわらぬうちだった。
淫猥な半裸すがたをしたサッチーの下腹部が、まるで妊娠したようにミルミル膨れ上がるや──。
ボヒュッ!
カエルの腹のように炸裂し、盛大にほどけた腸が血しぶきとともにあたりに飛散した。
んぎゃぁぁぁあああああああああああああああああ!!!
およそ人間のモノとはおもえぬ、トラウマ級の凄まじい絶叫。
ぼうぜんとする銭高や機動隊のまえで地べたに転がるや、ハデに手足をバタつかせ……やがてビクビクっ!激しく
二、三人の機動隊員が、フロアにヒザをつき激しく
銭高はおなじみのトレンチコートを血まみれにして彼女にとびかかるや抱きかかえ、
「サッチー……さちこぉぉぉぉぉオオオオオオオ!!!!!」
男の悲嘆をかき消す勢いで、火災報知器のベルが鳴り出した。
ステージのスピーカーから、状況にそぐわぬ華やかな女の声で、
『火災発生。火災発生。ただちに避難してください。従業員は、お客さまをすみやかに誘導のうえ──』
ここでアナウンスはとだえ、バッン!いきなり照明がきえ、くらやみに。
どうやら火災の影響で、配電盤か送電ケーブルが焼き切れたらしい。
どことなくキナ臭い気配が、はやくもホールの床にに忍び寄る。
「警察隊!進入路より一時撤収!警部補どの、ナニやってんです、ハヤく!!」
「こちらオメガ、こちらオメガ、各班、すみやかに転身せよ!」
「ダレよォ!いきなり照明消したの!」
「テメェら、急げ!ズラかるぞ!」
「アニキぃ、ジョージの奴は」
「──ほっとけ!」
発射速度の遅いSMGの連射音が響き、それが暗闇の混乱に拍車をかけた。
轟音が一発。
一瞬、胸に強い衝撃をうけ、オレは床にヒザをつく。
それがかえって良かったのか、今度は頭スレスレに銃弾のかすめる気配。
「発砲するな!一般人にあたるぞ!」
「隊長、我々の武器ではありません!」
ここで、リンク用コンタクトレンズをはめたオレの視界が、いきなり明るくなった。
こちらに銃を向けていたピエロが散弾銃を再装填するのか目の端に。と、別の角度から
《マイケル……脱出のためブレーカーを落としました。コンタクトは暗視・サーモMODEです》
「オマエのしわざか、【SAI】!」
《いま、援軍をそちらに向かわせてます。『美月』サマと『フクロウ』サマをつれ逃げましょう……マイケル?》
オレは詩愛“だった”ものにしゃがみ込み慎重にうかがう。
サーモ・センサーでみれば、まだ全体に赤みが残っている。
ふんっ!オレは勢いをつけ、ダッチワイフをお姫様だっこ。
奉仕目的のためか、哀しいくらいに彼女は軽くされていた。
それでも運動不足の腕にはツラく。ヨロヨロとオレは進む。
「マイケル。もうムリです。彼女は捨てて行きましょう。この店と一緒に火葬にしたほうが」
「いまのは聞かなかったことにするぞ、【SAI】。オレがこんな惨めな状態でよかったな」
「ヤレヤレ。そういうと思って、すでに準備済みですよ。とりあえず矢印の方に進んで下さい」
目の前に緑の矢印が3D投影された。
まず、手探りでホールを進んでいる『美月』と『フクロウ』に近づくや小声で、
「おぃ、オレだ。服につかまれ。このクソったれホールを脱出するぞ!」
「──先生!」
「──ご主人サマぁ!」
しがみついてくる二人。
「この生暖かいの……まさかお姉ちゃん?」
「そうだ。連れて行く。『フクロウ』、詩愛をオレにおんぶさせてくれ」
「了解です。よっ……軽い……これ、大丈夫なんですか?詩愛さん」
「あぁ。大丈夫だ、きっと。なんとか人間に、もどしてやらんと」
だが、自分でそう言っておいて、いかにも言葉がむなしく響くのを否めない。
ホールに火災のケムリが充満してきた。
最後に見たのは、いまだ哀訴をちからなく発し、ケツから生やしたナイフの柄をふり絨毯のゆかを
ホールを出ると、非常灯がフットライトの位置で転々と広い通路に続いていた。
視野にうかぶ矢印は、なぜか店の奥をさしている。
その奥から人影が足ばやにあらわれた。なんだ、と身構える間もなく、
『おまたセ、いたしまシタ。【SAI】サマの命をうけ、救援に、まいりまシタ』
「おまえか!『レティシア』!」
驚かせるなよ!フッと脱力。
「なんだよ、畜生。そうか【SAI】のいってた援軍って、オマエのことか」
メイド服すがたの彼女は、オレの背中からだまって元・詩愛を軽々とうけとった。
『詩愛サマ、おカワイソウに……サァ、こちらデス』
通路をすすむうち、ようやくケムリの気配は遠くなる。
すると、彼方のT字路に、なにやら転がっているものがみえた。
ちかづいてみれば──それは、ハデに射殺された人間の死体なのだった。
ミラーサングラスに銃弾を撃ち込まれたのか、男の片方の眼窩がグシャグシャに。
「これ、『サード』じゃないの!」
『美月』のおさえた驚き声。
「じゃぁ……となりの趣味悪いイブニング・ドレスの女は……」
うつ伏せとなった死体の肩をもち、ユックリとひっくり返す。
すると──ガラスのような麗華の目玉が、恨みがましく天井をみつめた。
あとふたりの死体は、バニーガールだ。これも顔にも覚えがある。オレに毒入りシャンパンを飲ませようとしたビッチども。いまはカラダを蜂の巣にされ、死体でしかできないようなネジくれたポーズで転がって。周囲のカベには、一目で分かる9ミリ弾の連射の跡。
ふと、思い当たるふしがある。
「しかし『レイカは始末した』と、平文で最後の連絡にありました──」
おそらく青年の部下はここで彼らを射殺したあと、どこかで紅いウサギの部隊から逆襲をくらい、始末されたんだろう。すると……彼らが殺したのは『麗華』だとすれば、本物の『レイカ』はどこにいるんだ?
「──ここですわ!」
いきなりT字路の片側から声がかかった。
みれば、まさにドンピシャリ。
どことなく〝ビザール〟な、黒エナメルの、武装したメイド服が3体。
それらに周囲を護衛され、豪華なイヴニング・コート姿の『レイカ』がゆっくりやってくる。
一瞬、その奥の暗やみに、黒ネコが……見えたような気がしたのは、この気狂いじみた状況のせいだろうか。
「ずいぶんと、手間どりましたコトですね……」
「もう間に合わないかとおもいました……全てが……
「間に合わない?
〝紅いウサギ〟の主は、『レティシア』が横抱きにする詩愛をチラリ、
「その人形は──もう諦めなさい。それより早くココから出て、
「なんで……まさか……じゃぁ最初から?」
上品なほおが、かたく緊張したまま、すこしうなずくと、
「この施設は、すでに放棄対象でした。重要なスタッフや美術品、
なぜか『レイカ』やフェティマたちは店のことを〝施設〟や〝新拠点〟よばわりする。そこになにか或る不吉さを感じながら、
「じゃぁ、コイツ……この子は、詩愛はもう助からないんですか!?」
「行きなさい!──『レティシア』!『美月』!?マイケル団長を頼みましたよ?女はこういうときシッカリして、殿方を
『分かりまシタ『レイカ』さま……さ、行きまショウ」
《マイケル?どうやらあまり時間はないようです……行きましょう》
ツカツカと、冷たく女王めいた集団が離れてゆく。
【SAI】から送られてコンタクトレンズに浮かぶ脱出ルートの矢印は、彼女たちとは正反対の通路だ。
「ご主人サマぁ?さ──ハヤく!」
『レティシア』が横抱きにする変わり果てた姉を、『美月』と『フクロウ』が協力して奉仕用ドールの背中に移しかえた。
「先生!ボクらもはやく逃げましょう。なんか、ココも
オレは若い連中に促されるまま、目の前に浮かぶ矢印のとおり一行を先導する。
やがて、なにやら見覚えのある鉄扉の前にきた。
おもいだした、あのおっかない夜叉と化したサッチーに追われたとき、脱出した扉だ。
思った通り!外に出ると、そこは〝紅いウサギ〟の裏手で、目の前を人通りのない袋小路の道がヒッソリと延びている。
《マイケル、援軍です。騎兵隊が到着です》
彼方から、せまい車道をコチラにゆっくり向かってくる赤いコンパクトカー。
近づいてみれば、アチコチにやっつけの補修跡が目立つ、おそろしいボロ車。
と──いきなり助手席の窓がスルスル開いたかと思うと子供が身を乗りだし、
「パパ!……
なんだ?とよく見れば。それは、なんと竜太なのだった。
しばらく会わなかったせいか、顔つきがずいぶんと男らしくなったような。
すると……このボロ車を運転してるのは……。
「マイケル!?」
運転席側が開き、ニコニコ転生協会の同僚ドライバー、朱美が顔をのぞかせた。
「どーしたんだよ、こんなトコで!おまけにその……妙ちきりんなカッコ」
「それはコッチのセリフだ!なんでオマエが、こんなトコに」
「あたしァ保育園の送り迎えでこの子を迎えにいったら……カーラジオがいきなりしゃべり出してサ。アンタがこっちに居るから、ピックアップしてくれって」
なるほど、【SAI】が街中の防犯カメラをスキャンして朱美の車をみつけ、こちらに誘導したらしい。ヤツが用意した〝援軍〟というのは『レティシア』ではなく朱美のことだったのか。いずれにせよnice boat!だ。
「朱美、こいつらを──」
ドォン!
今出てきたばかりの建屋の奥から、火柱があがった。
「な、なんだぁ!?」
「説明してるヒマはない、このふたりを、こいつらの寮まで送ってくれ」
そう言って、オレは『美月』と『フクロウ』をおしやった。
「アンタはどうすンのサ」
「オレか?オレは……」
そこで『レティシア』に背負われる元・詩愛をみて、
「オレはまだやることがある。また、朝の朝礼で──」
ドォン!
こんどはもっと近い。
パラパラと、周辺になにかが降ってくる。
冗談じゃない、もうグズグズしてはいられない。
こっちの焦りが、ようやく朱美にも伝わったようだった。
「分かったよ。ガス代は出してよね、ホラ!アンタたち、乗ンな」
朱美に促され、『美月』と『フクロウ』はリアのドアをあけると、狭いスペースに潜り込む。
ホーン一発、タイヤを鳴らして去ってゆくテールランプを見送ると、
「さて──【SAI】?」
《左手の袋小路のほうへ。建物と建物のあいだに狭いすきまがあり、歩行者なら抜けられるかと。表通りに停車して待ってます》
『行きまショウ、マイケルさま』
元・詩愛を揺すりあげ、『レティシア』が灯りのとぼしい夜道を歩き出す。
どうにかトラックと合流し、後部キャビンのドアをあければ、モワッとする熱気。
炊飯器が、またもナニやら意味不明な計算に文字どおり〝熱を上げていた〟らしい気配。
そこに元・詩愛と奉仕ドールを押しあげると【ボニー】が、
『まぁまぁ、どうしたコトでしょう詩愛サマ!」
いかにも女性型AIらしく、彼女に同情するような音声出した。
『オトコどもの欲情のために、そんな姿にされてしまって』
「【ボニー】、愚痴はあとだ。周囲に変わりはないな?」
『かしこまりましたわ?マイケルさま』
トラックのフロントグリルをまわり、運転席に登ったときだった。
ドかァァァ……ン!
夜空に火柱が吹きあがり〝紅いウサギ〟の本格的な崩壊がはじまった。
今回も、ギリギリのところで脱出できたな、とオレは胸をなで下ろす。
──畜生め……毎回ヒヤ汗かかせやがる……。
あの因業な設備や残酷な試験体は、どうなったんだろう。
アニキたちが愛玩品とした、あの女体化された少年強姦魔は……?
そういや、夜会の
重要な性奴隷手術のサンプル
すでに周囲から赤いパトライトとサイレンの音が蝟集し、刻々と非常事態の風景を高めて。
「【SAI】、【ボニー】、出せ!とりあえずこの場から、ズラかろう」
『アイ、サー。なんだかワクワクしますねマイケル」
夜空に吹き上がる炎を背景にトラックを発信させながら【SAI】は、
『なんだか、まるで映画のラストシーンのようで』
「……詩愛が、こんな状態でなければ、な」
幾ばくかの沈黙。ややあって、
『すみませんマイケル。うかつでした……』
『まったくもう!同じAIにしては、アナタはデリカシーが無さすぎです!』
【ボニー】の小言をよそに、轢殺トラックは微速前進。
安全運転を画に描いたような挙動で、何台もの消防車やパトカーをやりすごす。
リンクした防犯カメラと衛星からのズーム画像を参考に交通量の少ないエリアへ移動。
そのあいだに、オレはキャビンでこのゴテゴテとしたローマ軍将校のコスをぬぎ、平服にきがえようとする。みょうに脱ぎにくい金属の胸当てを苦労してハズしたとき。
──おぃぃぃ……マジか。
思わず、ゾッとした。
ショットガンの弾がふかぶかと食い込んでいる。脱ぎにくいはずだ、金属の胴着が、全体に歪んでいるのだ。このコスプレ衣装でなければ、心臓を正確にブチぬかれていたところだった……。
『マイケルさま、『モルギアナ』さまが……』
『レティシア』の声に、えっ!と、さらに冷や汗がジワリ。
身をねじって後部座席をみれば、仰向けにされ彼女にヒザまくら状態となっている元・詩愛が、なにかパクパクと口を動かしている。いそぎ身を乗り出して耳をすませば、
『バイタル最終モード/Run・負荷低減ノタメ・洗脳モード解除……自律動作、ヘ、移行、シマス』
虚ろだった瞳に、わずかに光がともると、弱々しい眼差しがオレのほうを向いた。
「……マイケル……さ……ん……?」
CV:『小男』
サァサァ、大変なコトになってまいりました。
はたして主人公ことマイケルと、性奴人形がつむぐ愛の行くすえは!
次回──『闇夜に散った、メス人形』(後編)を、どうぞお楽しみに。