試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【18禁版】 作:珍歩意地郎_四五四五
申し訳なく。本作は、あと10話……ぐらい?
っって、う~~わ!
次話投稿先を間違った!【玲瓏の翼】のほうに書いてしまった…………。
動きがあったのは、さらに一週間が経ってからだった。
警察の生活安全課が持つ、地域統一の防犯カメラ網。
そこに『あの白いメルセデスが映った』と、休日にマンションで留守番していた“炊飯ジャー”から緊急報告があったのだ。
その間の日常といえば……。
オレの方は、ママゾンで変装用の口ヒゲと度の入っていないメガネを買い、外出の時はなるべく老人にみえるよう、背中をまるめて歩くしまつ。バックミラーにもなるメガネで、つねに後ろを警戒しながらスーパーで半額品の買いものは、なかなかに疲れるものがある。
賞金首ともあって、護身用の武器も欲しいところだった。
だがワルサーはもちろん、特殊警棒やナイフをふところに忍ばせるのは、職務質問されたときにヤバすぎる。
オレは転生協会の『装備部』から、老人がよく使うような杖をかりた。一見、木製にみえるコイツは、チタン造りの代物。敵を殴りたおすときのヘッドスピードを上げるため、先っぽに鋼鉄すらはいっているという念のいれようだ。そして──防弾用の薄いベストも、念のため。
「どこだ!【SAI】、どこに居た!?」
夕方の買い物から帰ったオレは、マンションの玄関でスーパーのレジ袋をとりおとした。
グシャリ、中に入っていたタマゴがイヤな音をたてて気になったが、そんなコトを気にしていられない。なにせ、詩愛の仇なのだ!ナイフで腹をかっさばいて、ジワジワ殺しでもしなければ、気が収まらない。
リビングに駆けこむと、水冷仕様となった【SAI】がダイニング・テーブルの上で文字通り炊飯器めいた湯気をたてながら、
『港湾区、**通り奥の倉庫街です。そこの廃止された
「……ふぅん。ヤツめ。足がつくのをきらって、どこかのヤミ中古車屋か、不法外国人のヤードにでも売りさばくかと思ったら……意外とケチくさく使いまわしてるな」
『傭兵がメルセデスに乗る機会など、そうはないですからねぇ』
オレは玄関に引き返し、買ってきたビールの6缶パックや味付き肉、冷凍食品などをそれぞれ冷蔵庫のタナに分別し、タマゴのパックが半壊しているのに舌打ちしつつ、ビールの一本を冷凍庫にブチこんでからリビングにもどると、
──さァてさて……♪
炊飯ジャーと大型モニターをケーブルでつなぐ。
画像には、あの雑居ビルの駐車場で見かけた白いメルセデス。
5秒間隔の荒い画像をAI処理すると、若い傭兵隊長の横顔が運転席にバッチリ。
まちがいない。
──ショットガンで、詩愛を
見た瞬間。“俺”の血はカッ!と沸き立ち、待ち伏せの時のように全身が武者ぶるい。
暗殺命令を下したのは、娘がダッチワイフに生体改造されたことを悲観した父親だが、自分の恨みはコイツにすべて集中していた……。
「ほかに、出入りはないか?車両やヒトの動きは?」
『そのまえに』
ここで【SAI】のヤツは、いやにシンネリした音声をだし、
『“お褒めの言葉”があっても、イイんですよ?マイケル』
「……ワぁってるよぅ」
じっさい、この偏屈AIは、よくやってくれた。
コイツがいなけりゃ、ここまでやってこれなかったろう。
あるいは執行でミスって目撃者をだし、六道ビルヂングで査問され、あげく転生処分されていたかもしれない。それとも“紅いウサギ”の罠にハマって【メス型のダッチワイフ】にされてるか。
「よくやったゼ、【SAI】!」
近年になく、自分は最大級の敬意をこめて、
「オマエは俺の……最高のパートナーだ!」
すると……めずらしくこのクソ生意気な量子コンピューターはテレたように、
『な、ナニをいうんですかマイケル。まるで『死亡フラグ』みたいじゃないですか』
「オメーがホメろったンじゃねェか。それに“俺”ァ、マジで感謝してンだぜ?」
相棒にそう返し、隠し場所の二重引き出し(DIYした)にあるワルサーを取り出した。
ヒヤリとした金属の重み。手になじんだ感覚。握っていると、コンゴで経験したバカ騒ぎが、驚くほど鮮明によみがえってくる。
ブラサビルの裏道にあったヤミ酒場。
デカい戦闘がオワったあとでの、
タバコのケムリや軍歌の斉唱。ののしり合いやケンカ。
俺は冷蔵庫からビールを取り出すと、缶のまま喉にながしこむ。
──ダメだ……コレじゃぜんぜん気分がノらん。
最近は、ニコニコ転生協会がおこなう健康診断をみすえ、
もっとキックの強い酒がほしい。
株スレで「また飲んでるので?」なンて言われても、知ったことか。
早いとこ健康診断おわってQ日の朝ビールをぷっしゅ~~~したいと思ってるンだが。
──どうする?酒場にいって飲むか……けど、俺をネラう連中に見つかり、乱闘になるのもな……。
ワルサーを握り、腕を水平につきだして、棚の置き時計に狙いを定める。
フラッシュバックだろうか。
家を焼かれる村人たちの、悲嘆と怨嗟が。
栄養失調で横たわった子供の目にたかるハエの羽音が。
兵員輸送車や装甲車のうなりと、ガソリンの燃える臭いが。
十字砲火を食らい、血反吐をながしながら絶叫する傭兵たちの悲鳴が。
それぞれ、おどろくほどの鮮やかさで、頭のなかに、耳のなかにうかんでくる。
──ダレでもいいから半グレのガキどもを撃ち
──日常をおくる一般人に、
──悪法で守られるクソ連中や犯罪を犯すボケ老人ども……。
──日本の
そのときだった。
玄関のチャイムが鳴った。
ピンポーンではなく、カリヨンの
とっさにワルサーをベルトの背中側にさして警戒態勢。
ソファーからソッと立ち上がり、モニターを見ようと玄関に向かいかける。
すると、玄関の電子鍵が「ッピ!」と、勝手に開く気配がして誰か入ってくる。
「こんにちわァ……」
ききなれた声。
緊張は、一気にとけた。
──ヤツめ、来やがったなwwww?
美香子の……いや、『美月』の声。
戦場の悲惨なシーンが一瞬で切り替わり、平穏な日常だったころの光景が思い出される。
彼女がいて、『フクロウ』がいて。そしてもちろんキッチンで、夕食の準備をする詩愛もいる。
リビングのゲーム機で爆発音。ダイニング・テーブルごしに投げかける、詩愛の思わせぶりな視線……。
──『美月』のヤツ。またアーパーな、露出狂じみた格好してなきゃいいが……。
玄関に向かいながら俺は、毛皮のコートの下に全身を縄で緊縛した彼女の、イカれポンチな姿を連想。だが──目のまえに現れたのは、そんな予想のはるか上をゆく姿だった。
羽織りの下に和服の訪問着をピシリと着こなした姿。
粋な風情で隆として立つ『美月』が、見慣れない微笑を浮かべていた。
まるで早くに
「ご
「う……オぅ……」
マヌケな返事をもらしたまま、すっかり毒気を抜かれた〝オレ〟は『美月』と向かい合う。
ボリュームのある髪は盛大に結い上げられ、
手には
全体に気品に溢れる姿が、かえって静かな違和感となって、オレの胸にひろがってゆく。
そしてコチラの呆気にとられた顔を
「あの。お
「は?オマエの家でもあるだろうに……いまさら遠慮はいらんよ」
『美月』は、これまた
リビングに行くと紙袋や楽器ケースをおろし、夕方の光がさす室内を見まわして深呼吸。
そして、やや久しく
「懐かしいですわねぇ……『フクロウ』がいて、マイケルさまがいらして、そして……『モルギアナ』も」
彼女は、実の姉のことを“奉仕用ドール”の名前で呼んだ。
おまけに、わが情報屋を『ドーテー』ではなく『フクロウ』と。
彼女の来訪から感じていた奇妙な違和感が、ますます広がってゆく気配。
「いまにも夕食の準備をする〝人形〟が、キッチンからワタシの服装に文句をいうため、顔をだしそう……そんな気が
そう言った後、ダイニングテーブルに置かれた缶ビールをめざとく見つけ、微苦笑しつつ、
「あらあら。またお酒ですの?困った方ですねぇ……」
ますます拡がる違和感。
そして、それはどこか不吉な印象をともなって。
──『美月』……美香子のヤツだよ……な?
あまりにも〝
なにより上品な言葉づかいや、おだやかな
チンポだ、マンコだ、オ○ニーだ、言ってたころの面影は、ない……。
オレはいちどくちびるを舐めてから、相手の表情を見逃さないよう、慎重に、
「そうだ。万聖節の〝アレ〟から、みんなどうしてる?『フクロウ』のヤツは」
「……いまは店舗が〝あのような〟コトになったので、各員が自寮で待機ですわ?」
「どうなさったの?マイケルさま。そんなお顔をなさって」
「いや……しばらく見ない間に、以前のオマエ……いやキミと印象が変わったな、と思ってさ」
「まぁ!以前のワタシだなんて。どうせロクな印象ではないんでしょう?」
口もとに手をあて、コロコロと慎ましやかに笑う彼女。
ほら。以前の『美月』の下品な印象は、すっかりカゲをひそめて。
「学校でもね?茶道の先生に、お褒め頂きましてよ?女子高生らしからぬ〝風格〟が出てきた、って」
「学校!……おまえ、高校に行ってるの?」
え?とコイツはきょとんとした顔をすると、当たり前でしょと言わんばかりに、
「それはそうですわ?高校にいって卒業し、大学受験の資格をとらないと」
──大学受験!
こんどこそオレは絶句する。
まさか。コイツの口から受験なんて言葉が出るとは。
文字通り〝あぜん〟とするオレをよそに、美香子はシレッと、
「お店で“お琴”のお
もう大変なんですの、と『美月』らしからぬ困り顔で、彼女は苦笑する。
なるほど、背中に背負ってきた長いケースは琴の楽器ケースか。どうりで軽々と。
一通りテーブルの上をかたづけ、こんどは出しっぱなしの皿などをキッチンで水音をたて、まめまめしく洗う彼女。
まるで詩愛のそぶりだ。あるいは本当に“若奥サマ”にでもなったよう。
ひととおり片付けがおわると、彼女は手を拭きながらダイニングに戻ってきて、
「ふぅ……コチラの部屋、すこし暖房が効きすぎているようですわね」
「あ、暑いか。すまない、いま温度さげるよ」
「いえ、どうぞお構いなく……」
革ソファーのクッションからリモコンを発掘し、画面を見ながらピッピッピ……。
これでよし、と美香子の方をふり返ったとき……。
彼女は結い上げたヘア・スタイルをスッポリと脱いでいた。
ボリュームのある髪は、予想したとおりすべてウィッグだった。
そして……若々しい額には……。
死んだ彼女の姉と同じく、洗脳用の宝石が埋め込まれていた。
まるで内に噴火する溶岩を秘めたように、キラキラとゆらめいている。
頭蓋骨を貫通し、人格を操作するための、触手を脳のおくまで伸ばす悪魔の貴石。
詩愛は──『モルギアナ』は最後まで、この額の魔石を
「美香子!いや『美月』……オマエ、その額の宝石……」
「あぁ、コレですの?」
彼女はこともないように額に手をやった。
そして、まるで
「イイでしょう?これを頭に植えつけられるとどんな
彼女が入ってきた時の違和感が、いまここに──目の前で結晶化した。
オレはさりげなく背中に手をまわし、拳銃をつかむと彼女の宝石に狙いを定める。
「オマエ──だれだ……?」
その時だった。
「うふふふ……」
この人物は不敵に微笑み、
やがて──ゆっくりと顔を上げたとき……。
表情は、おなじであるものの、相手のはなつ雰囲気が、まるで違っていた。
どことなく尊大な、そしてなにより威厳をもって背筋をのばす姿。
威風あたりをはらい、まるでこちらを
──やはり……『美月』じゃない……まさか、
相手は、オレがワルサーで狙っているにもかからわず、フフン、鼻で
そしてアゴをあげ、やおらズイ!と数歩ふみだし、
「放てるなら放て!……ただし、
そう言い放つや、スレっからしの酒場女めいた毒々しい口ぶりで、
「
相手は、いきなり着物のふところをゆるめた。
次いで、両うでを
抜けるような白さの肌と、乳首ピアスが煌めく巨乳がボロン、まろびでる。
やおら背を向ければ、全面に彫り物。
牡丹とドクロ、それに幾重にもからみあう
まちがいない。“紅いウサギ”特製の可動入れ墨が、色彩さえ変えて、
「ほうれ。見事なモノじゃろが」
そういって背中越しに、ユサリ。
「どうぢゃ、んぅ?……ホレホレ。ぬしも聖人あらず。:@Love****の言うように、しょせんは下劣な獣浴に支配される男ぢゃろう?
そして、つぎにニセ『美月』はワルサーを構えるオレの前でダイニング・テーブルにシリをのせると、あろうことか着物のすそをひろげ、足袋をはく〝ムッチリ〟とした艶めかしい脚をあらわに。
さらには剃毛され、ピアスが
「見よ、このモノ欲しげな
たちまちリビングには、女の愛液の臭い。
そしてクチュクチュクとした粘液の淫靡な音が鳴りはじめる。
その時だった。
一瞬、この女の
ヒぐぅぅ……っ!!❤ うぅ……ん♪うん!
それは一瞬、アクメで憑依が解けたかとおもったほど。
あられもなく拡げられた着物のすそ。ムッチリしたふくらはぎ。
白い足袋をはく足先の親指がググぅぅッ、と切なげに開かれて。
ビュウビュク……っ!
彼女はテーブルのうえで切なげに身もだえしたかと思うと、
「あっ、あっ、あっ……ご主人サマぁぁぁ!」
リビングのフローリングに、アクメ汁とも小便ともつかぬものを
盛大にヒリだして、クタり、たおれかかる『美月』。
危ないところでそれを抱き留め、お姫サマ抱っこでソファーまで運ぶ。
腰がすこしばかりアヤういが、この非常時に四の五の言ってはいられなかった。
プックリしたくちびるからアクメの余韻を証しするヨダレをうっすら流し、弱々しく目を開けた〝美月〟は、
「あれ……ご主人サマぁ?……ここ……どこ?」
「オレたちのマンションだ。オマエ、おぼえが無いのか?」
「やだ……まただぁ。アタシ、こんなカッコして……えっちな女に……」
そういって、たもとからハンカチを出し、自分のおまたを拭いてから、ノロノロと力のこもらない手つきで着物の着付けをなおす。
「アタシ……どうしてココに来たんだろ?」
「どうしてもこうしても。キミがピンポンならしてフツーに」
「きょうは舞子のお稽古だったンだよ?それが気づいたら、こんなトコロに……」
──やはり
オレはくちびるを
だとしたら……いったい、なにが『美月』を操っているのか。
「そのひたいの宝石は?詩愛の……姉さんのこと、知らないワケじゃないだろう」
「分からない……起きたら、つけられてた」
「痛くはないのか?違和感とか?」
「べつに。でも、このせいか知んないケド、なんかあたしがヘンタイっぽくなるみたい」
それは元からだろ!という突っ込みを、オレは のど元で押さえる。
いまの彼女は、もはや〝少女〟の『美香子』ではなく、完全に〝夜の女〟『美月』に変わってしまっていた。時としてみせる、もの憂げな流し目や肉感的なくちびるから洩れるためいき。人生を諦めたオレはともかく、並みの男ならゾクリと来るところだろう。
「でも……不思議なんだよね」
「なにが?」
「学校の先生たち、おデコのコレ見ても、なにも言わないの」
「そうだ!高校行ってるんだってな?エラいぞ!」
「ホントは行きたくないんだけど……なんだか行かなきゃダメな気がして……」
どうにか着物の体裁を整えた『美月』は帯の位置を直して立ち上がる。
「それに、なんかこの
それはそうだろう。
たしか詩愛のハナシでは、頭蓋骨を貫通して脳に達するこの魔石は、しだいに根を広げて、ついには被験者を完全なメス人形にしてしまうというハナシだったが。
──また〝紅いウサギ〟に『美月』のことで直談判しにいくのか……。
こんどは無事に戻ってこれるだろうかと、オレは胸が重くなる。
とはいえ、『小男』は殺してしまった。ツテがあるとすれば、あの神秘的な印象をまとう『レイカ』嬢ぐらいだろう。コチラの希望を、聞いてくれるだろうか?そもそも、この魔石を引き抜く方法が、あるのか、どうか。
「そうそう、童貞クンも、同じ寮にいるよ?寮っても、借り上げの高級ホテルだけど」
「ほかのバニーや、フロアレディたちも?」
「うん。だいたいみんなそろってる。『サロメ』さんや他のひとたちも……あ、『麗華』サンが退店だって。あとメス人形の『レティシア』も。
──やはり、な……。
『麗華』が、あのミラーグラスのキザ野郎と共に殺されたことは、キャストに伝わっていないらしい。そして、その『レティシア』といえば、まさにいま、オレの部屋のコンセントに繋がれたまま、大型キャリーバッグの中で身体を折りたたみ充電中だ。絶対バレないようにしなくては。
「……店は、どうなるんだって?」
「もうエーギョー準備、はじめてるみたい。設備とか作ってるさいちゅうだって」
「さすが。〝ウサギ〟の資本力は健在、か」
「店内の家具とかも、まえもって高めのモノは運び出したんだって。画とかもニセモノにすり替えてあったとか。だからヨソからの〝カチコミ〟も、あんまコタえなかったのよ?」
すると……〝紅いウサギ〟側は、今回の襲撃を予見していたことになる。
いずれにせよ、やはり『レイカ』嬢に頼みにいかなくては。
「新しい店は、どこに出来るんだって?」
「ホラ、あの高層ビル街の──」
と、ここまで『美月』が言いかけたときだった。
「いやぁぁぁァァァァ……ッッツ!」
とつぜん、彼女の顔がしかめられ、自分のアタマを抱え込む。
「また……!またアタマん中に!ナニか
ふと、どこからか焚き火のようなケムリ臭い気配。
杉や苔の香り。冷え冷えとした森の気配すら。
やがて……うつむいていた顔を上げたとき。そこには先ほどの不敵な表情がうかんで。
「さて、所用も済んだことぢゃ。
「まってくれ。『美月』は……美香子は、大丈夫なんだろうな?」
「大丈夫、とは?」
「その……完全に廃人になったり……男の慰みモノにされたり……」
案ずるな。と、いまは顔つきもキリリと引き締まり、
「この
「……もっとも?」
「その方が〝 勤 め 〟を果たせばの話ぢゃが」
森の気配が、焚き火のようなキナ臭さが、ますます強くなる。
オレのなかで、何かがカチリと噛みあう気配がした。
この尊大な物言い。コチラを完全に見下す目つき。
──これは!
オレは、思わずヒザをついて平伏する。
何てコトだ……間違いない。
『美月』にとり憑いているのは……縁結び神社の女神だ!
「なにとぞ!なにとぞ、お願い申し上げます!!」
フフン、と後頭部の上で
「ようやく
そう言いはなつや、白足袋を履く足先がヒタヒタと玄関へむかう。
あの!とオレは必死に追いすがる。
「どうか……『美月』の、美香子のことを、宜しくお願い申しあげます!」
それに対しては縁結び神社の女神は応えず、ただ鼻で
「そうだ、女神さま。琴を!琴を……お忘れでは?」
「
多少着崩れた着物すがたのまま、憑依された『美月』は玄関の扉をあけて出てゆく。
オレは呆然としたまま玄関に立ち尽くし、それを見送った。
マンションの重厚な扉が閉まる、重々しい音。
『奇妙でしたね……マイケル』
すると、いままで沈黙を守っていた【SAI】がようやく、
『ワタシの知っている『美月』サマとは、まるで違っていました』
「なにか、感じたか──【SAI】?」
『サーモグラフで観た彼女の体温組成が、記録と大幅に違っていました。まるで……』
「まるで?」
『成人女性のように、温度が低いのです』
「ふぅむ……」
『だからコレは、ただ事ではないと、あえて発声を控えていました」
うぬぅ、とオレは腕ぐみをする。
リビングに残る淫水の匂いがなければ、今までのことは昨今の疲労が見せた夢とも思えた。
とりあえず彼女が残したアクメの残りをイヤイヤに雑巾でふき、リビングの大窓を開いて女くさい空気を入れ換える。
そのとき、ダイニングテーブルに置かれた彼女の置き土産に気づいた。
「ようかん」で有名な和菓子メーカーの小ぶりな紙袋。
持ち上げたとき、意外にもズシリ!とした手ごたえ。
おそるおそる包装紙を解いてみると……重いはずだ。
ようかんとは似ても似つかぬものが、紙の下から。
レミントン製.380ACP(9mmショート)弾。
50発入りの紙箱が、新品のままあらわれる。
ワルサーのカートリッジとドンピシャだ。
──すると……。
オレは彼女が置いていった、長ほそい琴のケースを横目で見やった。
なんと、コッチもかなり重い。というより和装をしたヨチヨチ歩きな『美月』の小柄な体格が、こんな荷物を運んできたコトが信じられない。やはり憑依されると、当人のポテンシャルを超えた馬鹿力を発揮するのか……。
もはや、間違いない。
ある確固とした予感と共にオレは、ケースをダイニング・テーブルに横たえると、ケースのサイドにあるロックをバチン、バチン!はね上げ、フタをユックリとひらいた。
とたん、なじみ深いガンオイルの臭いが鼻をうつ。
ケースの中にはFN-FAL自動小銃。
なじみ深い細身の銃身を横たえている。
ご丁寧にも、予備の30連マグが4本。
いずれも7.62mm弾を満タンにして。
カッ!と〝俺〟の全身に熱い血が奔る。
まるで道に迷った子犬が、馴染みの場所に出たように。
あのときの感覚が、心の持ちようが、当時のまま想い出せる。
慣れた動作ですばやく分解。夕日に銃身の内部を照らす──問題ない。
さすがにワルサーと違い、当時の〝俺〟が使っていた照準器付きの個体じゃななかった。しかし、それはさすがに贅沢というものだ。ふたたび銃を組み上げ、
手に馴染んだ重みは、いかにもシックリと。まるで
【SAI】の野郎が、ナニか言っていた。
けど、もう耳に入りゃしない。
兵士たちの歓声を、歌声を、俺は心の耳で
*****
深夜だった。
スタンドの灯りだけ付けた小部屋でUZIサブ・マシンガンを手入れしていた青年は、背後の気配にすばやくマカロフ拳銃を取り上げ、振り向きざま背後に狙いをつけた。
照準の先には、カーテンを閉めた隙間から入る外の光に、あたかもスフィンクスめいて立つ小さな影。
──オマエか……。
もう、何度か接触をしているので、声に出さずとも意思の
──気をつけて。もうじき来るよ。
──ヤツは……武装してるのか?
──さぁ?ピストルぐらいは、持ってるカモね。
青年は手もとのUZIに目を落とした。
部隊は、結城老人から与えられた、
【〝紅いウサギ〟に可能な限りの打撃をあたえて閉店せしめる】
……という指令と、別の方面から受けた、
【〝
というふたつの依頼を
──でも、わからないなぁ。なんであのヒトに、それほど執着するのサ?
一匹の黒ネコと化した影は、ペロペロと顔を洗い、金色の片眼を光らせた。
──海外に逃げちゃえば、追ってこないのに。
青年は、UZIのわきに置いた写真をながめた。
どこかの訓練キャンプだろうか。
迷彩服を着た若者たちが、ひとかたまりに笑顔で立っている。
──オマエの言うとおり、白いメルセデスで、アチコチ目立つよう走り回った……。本当にヤツは、ココに来るんだろうな?
──あぁ。間違いないね。自分の彼女を、キミに殺されたんだモン。
──あれは仕事だった。
──あのヒトに、その言いワケは通じないよ?
──分かってる。正直、もうどうでもイイんだ。でも同じプロとして、ヤツとは決着をつけてみたい。
──ヘンなこだわりだねぇ。十分なお金を手にしたんだ。素直にFireすればイイものを。
──オマエみたいな畜生には、分からん理由だよ。
──ヤレヤレ、ご挨拶だネェ……。
そう言うと、この黒ネコはふたたび
独りのこされた青年は、ふたたびマカロフ自動拳銃を取り上げ、影の去った方へ狙いをつける。そして薄暗がりに、ひとりごちた。
「そうとも、決着をつけるのサ。つまり……兵士として、どちらが
※精液のこと。
……さて。
いよいよ、その時が来ました。
次回、第90話:決着