試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【18禁版】 作:珍歩意地郎_四五四五
──オワった……か。
「タイタニック風」と作者が命名する氷を浮かべたシャンパン。
冷え冷えとしたものが、今後の老後の薄ら寒さを感じさせつつ、冷え冷えとノドを下る。
(前話まで)
********
『……ける』
『……イケル!たいへんです!!』
次の日の朝だった。
遮光カーテンの隙間から漏れてくる日の光に眉をしかめ、壁の時計を見れば、1025時。
いまごろは協会の事務所も朝礼の斉唱を終え、轢殺屋たちは方々に散っていることだろう。
──ちくしょう……今日はメいっぱい寝ていたかったのに……。
ベッドサイドに目をやれば、飲みかけのシャンパンボトル。
その傍らには、脚の折れたフルートグラスがコロがっている。
そういや酔って詩愛のことを想い出したとき、思わず叩きつけたんだっけ……。
ここに彼女が居たら、なんていうだろうか。
(またこんなにお飲みになって!グラス割るくらいなら、お控えになればいいのに)
「オマエがいなくなって、腹立たしさに思わず割っちまったのサ」
(なんでしょうねぇ。さ、今日お休みなら、買い出し手伝って頂かないと!)
「買い出しぃ?」
(お米とか、洗剤とか!今日は特売日ですから、お刺身も狙わななきゃ!)
──なぁ~んて、な。
そんな考えも、いまは虚しい。
『マイケル!マイケルってば!』
リビングのほうで、またあのクソ炊飯器がワメいている。
「うるさいな!……行くよ、いく」
まったくもう!
毛布の温みをはねのけ、スリッパをつっかけてパタパタとリビングにゆく。
(スリッパなんざ履く習慣はなかったが、これも詩愛が「どうしても!」と主張したのだ)
ねぼけマナコをこすりリビングにゆくと、空気は寒々……とはしてなかった。たぶん炊飯器のヤツが、夜っぴいてまた何かの計算をしていたんだろう。生ぬるい空気に電子機器の灼ける臭いがただよう状況は、ローカルのAIで大量のエロ画像でも作っているようだ。いったいコイツはナニをやってんだか。
ふとみると、壁の大型モニターが点灯していた。
炊飯器が湯気を噴き出し、LEDをキラめかせ、
『マイケル!コレ見てコレ!SNSの、動画です!!』
モニターには、画質を明度処理された夜間の画像。
そこには廃倉庫の脇に停められた一台のトラックが映っていた。
今しも、そのフロント・グリルからは触手がのび、人間を宙につり上げて……。
一瞬、脳みそが文字通り凍ったような気がした。
「これは……昨日ドレッドを
『携帯で撮影されたようですね。Ixifを見ると、機種はPONYのサスペリア・1・XXで──』
あとの説明は、耳に入らなかった。
──これが……SNSに?
正直、全社規模のリモート会議でウッカリ資料画像に自分の好みのエロ画像を出してしまった方がまだマシだった。あるいは『マジックミラー号』で渋谷やミナミ、あるいは天神でコトに及んでいる最中、実はマジックミラーになっていなかった事案の方がマイルドに思われる。
全身からイヤな汗が流れ、目の前がアリス症候群のように。
ドウしよう……と思いつつも、もはやどうにもならないのは自明の理なワケで。
つまり……。
転生協会の秘密が、白日のもとにバラされたコトになる。
そしてその秘密を暴露してしまったのは、ほかならぬ自分なのだ。
ダイニングテーブルに置いた携帯端末のLEDがチカチカ瞬いている。
おそるおそる手に取ると──鬼のような着信履歴。ぜんぶ転生協会からだ。
「うっひ……ヤベぇ。」
と……またもや端末が手の中で着信にフルえる。
大きく一度深呼吸して、画面をタップした。
「……はい、もしもし」
はぁぁぁぁ…………っ。
いきなり。
通話口の向こうで、ニコニコ転生協会・事業所長『アシュラ』のクソでか溜息。
『マイケルくん……やってくれたねぇ……』
「は?……何をでしょうか」
とりあえずシラばっくれる。
考える時間がほしかった。
一秒でも長く、考える時間がほしかった。
ここはヘタなコトが言えない。一歩踏み外せばエラいコトになる。
転生協会は、どう判断してるのか、あるいは──どこまで突き止めているのか。
すると、所長は端末のスピーカーがブチ壊れる勢いで、
『昨夜の君の転生執行!SNSにアガっとるんだよ!!』
「えぇっ……マジですか!!」
こちらも負けじと大声をだす。
ワザとらしさが、これでいくぶん消えたかどうか。
すると、相手は幾分声のトーンをおとし、それでもイライラと、
『いま……情報対策室が、映像をAI作成のモノとすり替えとる。以降は、ダミー画像がコピー拡散され、不特定多数のユーザーが当該画像を検証したあとは、この問題の映像が“作り物”という結論になってくれるはずだ』
「なんで……そんな」
『オリジナルの撮影者は、アカウントから特定済み。なんと転生指数が90!一両日中に、武装特務処理班が“転生処置”ではなく“存在抹消措置”を完了するだろう』
「存在抹消措置…………ですって?」
『海になるか、山になるか、それとも薬品か。あるいは電気炉で焼却処分か……』
「…………」
「すべてキミの注意が足りなかったせいだぞ?
キタ!とオレはリビングで身を堅くする。
「キミは!のうのうと有給なんぞ取っている場合ではないことぐらい、分かっとるな?今すぐ出頭したまえ。迎えの要員が、キミのところに向かっとる!』
ブツン!
いきなり通話は切れた。
『まずいコトになりましたね、マイケル』
「う~ん……抜かったな。そういえば、現場を去る熱源反応があったっけ」
【SAI】に狼狽をしられないよう、精一杯の強がり。
まぁ、コイツには見え見えだろうが。
『男の、それも若い個体のものですね。当時はマイケルの救出が最優先でしたから』
オレは壁のモニターでループするSNS画像をみつめた。
最近のスマホは暗所でもよく映る。手ブレもなくズーム機能もなめらかだ。
映像の中で、ドレッドの野郎が宙にブラ下げられながら歯がみをするのがよく見えた。
「とりあえず……クビを洗って事業所に行くよ……」
オレは寝間着代わりの古ワイシャツを、引きちぎるように脱ぎ捨てながら言った。
と、そのとき。
インターホンのチャイムが鳴り、リビングの応答ボタンを押すと、モニターの中に映るエントランスのコンシェルジュが困惑顔で、
「おはようございます**様。ご訪問の方が、お見えなのですが……」
そう言って、この中年女性コンシェルジュは、画像をフロント2カメに切り替える。
ビジネス・スーツをピシリ!着こなす“シゴデキ”OLといった二人組が立っていた。
なんと彼女たちは二人ともプラチナ・ブロンドのショートヘアだ。なにか、イヤな予感。
『マイケル。トラックが駐車場から出て行きます。強制認識コードを使用されました』
「仕事がハヤいな……どうやら“協会”の人間に……間違いなさそうだ……ちくしょう」
『【ボニー】に、執行時のデータから都合の悪いモノを消すよう、自裁モードをかけました』
「すこしァ……協会幹部のウケも、マシになるかねぇ……」
敗北が決定的となる予感に、胸の中が冷たくシビれてゆく感触。
泣きたくなるほどの喪失感。しかし自分のドジが原因だと思うと、泣くに泣けない。
『あらかじめ、できうる限りのアクテブ・ターミネータを仕込んでありますので大丈夫かと』
フロントに、すぐ降りてゆく旨を伝えてから、オレはさらに上のウケを良くするため、ヒゲを念入りに
最後に『フクロウ』の部屋に押し込んだ、くだんの大型キャリーバックを確認する。
ジッパーを下げれば、ムワッと発情した女の匂いが、前夜よりいっそう強くなっていた。
まさか漏らしてるんじゃなかろうな?とバッグの底にふれてみるが、どうやら大丈夫だ。
体育座りな充電中の『レティシア』は、額のカラータイマーを相変わらずピコピコと点滅させている。
──クソが……まさか200V電源(工業用)仕様じゃないだろうな……。
そしてリビングにもどり、ギクシャクと財布等をスーツに入れたとき。
ふと、マントルピース風の飾り棚にのる“旧友”が、目にとまった。
昨晩、シャンパンを飲みながらコンゴ時代に浸りつつひねくりまわしたのだ。
弾薬を打ち尽くし、スライドの下がった金属の塊が、いまは妙に自己主張している……。
オレは戸棚に歩み寄る。
そして秘密の隠し場所から、弾丸が入ったボール箱を取り出した。
それを時間をかけ念入りにマガジンに詰めると、ギュッ!ズボンの腰の背中側にさす。
──どっちにしろ、もうこうなったら、やぶれかぶれだ、くそったれ……。
ついでに、今の日本では違法とされる“飛び出しナイフ”もポケットに。
そういや、義手にナイフを仕込んでいたコリンズは、移転した新しい“ウサギ”でうまくやっているのだろうか。最後に轢殺トラックのコネクターも、念のためナイフの後を追ってスーツのポケットに入れた。
『ご武運を──マイケル』
玄関に向かうとき、炊飯器が湯気を吹きつつ知った風な口をきいてオレを送り出す。
思わずイラついたオレは、トゲトゲシしい口ぶりとなって、
「武運?なんの武運だ?」
このときだった。
LEDをキラめかせて【SAI】は、不意に聞き慣れぬ
『覚えていますか──マイケル』
「だから!なにをだよ!」
『もし、絶体絶命な状況になった時……』
「ふン?」
『ワタシが意味不明な行動をしっても、絶・対・それに従ってください』
「あぁ、そういや……前に、なんか言ってたなオマエ」
『いいですか?マイケル。“クレドー”、クレドーですよ』
「……よせよ【SAI】。物語も終盤だというのに、これ以上ヘンなフラグを立てるな」
******
下に降りると、二人のOLは
女性用のビジネススタイルのパンツ・スーツをピシリと着た彼女たち。
片方はブラウンの、もう一方は濃いグレーのスーツ。
この印象には……かつて見覚えがある。
──そうか、コイツら、『六道ビルジング』の……。
すると、このOL二人は無言のまま、思いのほか強いチカラでオレの両腕を左右からとるや、天井の高い超・高級マンションのエントランスに自分たちのピン・ヒールをカツカツと盛大に響かせ、あっけにとられる中年女性コンシェルジュの視線を背中ではじき返し、まるでコチラを
幅の広い、大理石の階段を降りると、車寄せにはゴツいRV車が停まっている。
ドアが自動で開くとブラウン・スーツOLの片方が先に乗り、いきなり細い腕でオレのエリ首を片手でつかむや、まるでクレーンのようにゆっくり、スムーズに持ち上げて車内に引きずり込む。あとに残った一人がオレの左に乗り込むと……スバム!
まるで(防弾仕様かよ……?)と思われるような、ブ厚いドアが自動でしまり、ガラスで仕切られる無人の運転席でハンドルが回るとスムーズにRVは発進する。
オレをつり上げたOLが、なれた手つきでこちらの上半身をさぐり、飛び出しナイフとトラックのコネクターをポケットから取り出してブラウンのスーツのポケットに放り込んだ。当然、背中側にはさんだワルサーも見つかり、同じようにナイフの後を追った。チンコや太もも、脚のスネから足先の甲まで、慣れた手つきで確認される。
──くそっ!
入念に身体検査をしてようやく得心がいったか、このOLは無表情のまま、ヒザを端正にそろえ前をむいた。
こうして横目にみると、外資企業の社長室に所属する高級娼婦・兼・秘書のような風格だ。
ものすごい美貌。そして平民を寄せつけない、冷たい雰囲気。
ちぇっ、クソが。と旧友を
「そんでェ?……どこへ行くんだい
「「…………」」
「当ててみようか、えぇ?……『六道ビルジング』だろ」
だが、両サイドの冷たい美人たちは予想通り、オレの腕をつかんで真っすぐ前を向いたまま。
無人な運転席のハンドルは静かにまわり、デカいRVはスムーズに車の流れにのった。
そしてオレの予想をはずれ、車の進路は、どんどん覚えのある道を進んでゆく。
なんと……この道は、『転生協会』へと向かう順路じゃないか……。
「……ヘェ、姐さん『六道ビルジング』に行くかと思ってたけど」
だが、彼女たちは『六道ビルジング』という単語に反応せず、濃くリップを刷く口元は動かない。
ガラスのように冷たい瞳は
「ヒョッとして、このまま査問会なのかな?」
「「……」」
「確かに、今回はオレもミスったからなぁ……」
「「……」」
「なにか、車内に
「「……」」
「シャンパンとは言わないが……デカビタCでもあったら……」
「「……」」
──チッ!
腹の中で舌打ちして、オレはシートにふんぞりかえった。隙をうかがってワルサーを奪い取ろうかと思ったが、両腕をキメられているため、それもできない。
と……いうよりコイツら、隙というモノがまったく見えない。まるで機械だ。産業道路の大きな交差点をかなりのスピードで大曲りしたときですら微動だにせず、前を向いたまま典雅に座っている……。
****
RVは、なじみ深い地下大駐車場のスロープを静かに降りていった。
転生トラックはほとんど出払っており、整備員たちのサンダーの火花やレンチの響きもない。
やがて、駐車場わきにある洞穴のような空きスペースに進むと、自働でそこに停車する。
そう。このデッド・スペースなんだろう?とオレが入社以来、首をかしげていた処だ。
と……いきなり洞穴入り口のシャッターがガラガラと降り、RV車内は真っ暗に。
えっ!?と車内を見回したとき、OLの目が闇夜のコヨーテのように光って。
──コイツら!人間じゃ……ない?
あるいは“紅いウサギ”の女のように、何らかの生体改造がされているのか……。
アレコレ考えるスキを与えず、このふたりは先ほどと同様、異様に強い力でオレを車内から引きずり出した。
すると、突然!
ゴゴゴ……
コンクリ壁の一部がスライドし、分厚い扉状に開いて向こう側の暗い照明が点る。
──はぁっ!?ナンだコレ……こんな仕掛けまであるのか!
中からは工事現場のような、冷たく湿ったモルタル臭が風に乗って漂ってくる。
その通路に、彼女たちはオレの両腕を後ろ手にしたまま、グイグイと進みはじめた。
うす暗いので、ともすればコケそうになるなか、それでもお構いなしにコイツらは、まるで暗視眼鏡でも使っているように、ハイヒールの音を反響させつつ、このトンネル状の通路を正確に障害物を避けながら進んでゆく。
「おい……ちょッ!そんなに押すなよ!」
やがてトンネルの末端らしき場所に、エレベーターの扉が見えてきた。近づくと動体検知でもあるのか、オレたちを迎え入れるように自動で開く。一団が中に入ると扉が閉まってフワリ、勢いよく下降してゆく。やがてGを感じる急ブレーキでエレベーターは止まった。
──まさか……転生協会に、こんな大深度地下が……?
驚く間もなく、優雅なチャイムの音と共にエレベーターの扉は開く。
「──うっ?」
目の前に広がった光景に、オレは息をのんだ。
天井の高い、一面が白い広間。
ちょうど、体育館ぐらいの広さはあるだろうか。
そこにキッチリ整然と、マス目にならぶステンレスのベッド。
上には、緑色の
その輪郭は──どう見ても人体だ。死体解剖所?それとも献体の保管所だろうか?
……にしては。防腐剤の匂いも、ましてや死臭もない。歯医者めいた消毒液の匂いだけ。
第一、死体の保管所にしては温度が高すぎる。コンゴで味わった、なじみ深い死の気配もない。
──これ……は……?
見まわしても、ほかにヒトの気配はなかった。
シィィィ……ッ、という配管から圧空が漏れるような、微かな音。
電子機器用の低湿度と殺菌を効かせた空気特有の、なんとなくノドにヒリつく感じ。
オレはあらためて方形にならぶベッドと、その上に横たわるドレープに覆われたモノを見る。
──と、いうことは……このステンレスのベッドに寝ているものは、生きているにん……。
圧搾空気のような音が高まる。
音のする方をみれば、天井を静音タイプのドローンが数機、回遊していた。
やがてそのうちの一機が、オレの頭上でピタリ、ホバリングする。
ロシア=ウクライナ戦争を思わせ、あまりイイ気分じゃない。
ほかに目立つモノといえば、他の場所に続く大扉。
何に使うのか、
長さ2mほどの直立水槽が、幾つも壁ぎわに。
大昔の拷問具めく全身拘束具が一台。
広間で異様な気配を放っている。
両腕をとられつつ、背中を緊張させ、あたりの気配を必死にさぐった。
「ここは……ナンだい?」
むだとは知りつつも、オレは両側のOLどもに聞かざるを得ない。
「なにやら、ヤバそうな雰囲気だけど、サ……」
「「……」」
頭上のドローンが広間の奥に去って行った。
と……彼方で、覆いの一つがモゾモゾ動く。
ギョッとしてそちらの方を凝視していると、
「なんだァ?意識あるまま連れてきたンか……ダメじゃねぇか」
どこから現れたか、ワキからいきなり声がかかった。
見れば、技術センター顧問。『ロック・吉村』のオヤジだ。
白衣のポケットに両手を突っ込み、眼鏡の奥から疲れたような視線を投げかけて。
「おやっサン!?なんで……ココは、いったい……」
知った顔に出会って思わず気が緩み、ホッとした声を出すオレに対し、この初老の男はニヤリと、
「アソコを見ねぇ……」
指さした方を見ると、ステンレスのベッドが一つ空いていた。
ちょうど先ほど、モゾモゾと覆いが動いたベッドのとなりに位置する。
クイクイ、と指をまげられたオレは、OLに腕を取られたまま、白衣の背中に続いて空きベッドに近づく。
異様にメカニカルなベッドだった。
周囲は意味不明な補機類に囲まれ、大きめな画面に映し出されるバイタルはフラット。
本来は患者につながれているチューブやカテーテル、心電図を取るためのパッドは、ひとまとめにされて人型に凹んだベッドの中央にキチンと置かれている。
そのとなりの覆いを掛けられた、さきほどモゾモゾ動いていたベッドを横目に警戒しながらオレは、
「いったい、どういうコトなんです?なんでおやっさんが、こんな場所に」
「本来、お前ェはもっと早くココに来るべきだったんだ……」
「どういうこってす?ココは一体なんの広間です?」
「ココは、な?」
一拍あいた空気。
相手の曲がった背中から、不穏なモノが漂う。
それが微かに震えるのを見て、不吉な印象が強くなった。
オレの腕を両側から取るOLたち。コイツらの握力が、すこし強く。
「……〝素体〟を
「エイジング・エリア……」
先鋭的になってゆく空気の中、オレはアホのようにその言葉を繰り返す。
「それは、どういう……?」
「つまり──こういう、コトよ!」
ロック技術顧問は、いきなりとなりのベッドのドレープを剥ぎとった。
闘牛士のマントよろしく緑色の覆いが宙に舞い、一瞬視界をさえぎる。
やがて露わになる覆いの下には、銀色のレオタードを着た一人の女性。
「う……っ」
その人物は。
『庶務課』から『秘書課』に転籍して、事業所長のお付きとなっていたハズだった。
明るく快活な気質と、転生トラッカーすらやりこめる、口のへらない物言い。
栗色のサラサラなベリショ・ヘアーの奥に光る、子鹿のような黒い瞳。
まるで少女と行っていいくらいの小柄な体つき。
だが──いまは──。
栗色のベリショ・ヘアはプラチナ・ブロンドの灰銀髪となっている。
クルクルと愛らしかった眼は、ネコめいた光彩をもつ、異様に青く輝く瞳に。
体つきも凹凸が強調され、巨乳となった胸は光沢レオタード生地に乳首ピアスを浮かべて。
《b》(…………)
目を見開いた顔は、無表情に固着していた。
この子にしては不自然な“水っぽい”化粧。おまけにくちびるも肉厚に。
装着された幅広な首輪には、意味不明なケーブルや薬液カテーテルが接続されていた。
整然と束ねられたそのラインは、ドレープの下に隠れた医療機器めく装置へと続いている。
「これは……元・庶務課の……
「あぁ、顔見知りかぃ?もっとも今じゃ【ユニット2205】(タイプb-2:rev.3)だがな」
ロック技術顧問はメガネを外すと、徹夜続きのような脂ぎった顔を片手でゴシゴシこすった。
(プラチナ・ブロンドの女性には気をつけて……)
ふいに“お局サマ”の謎めいた警告がアタマに浮かぶ。
彼女もまた、女を性処理用の道具とするデバイスに封印され、どこかへ連れて行かれた。しかし持ち前の事務能力を店に見いだされたのか、ダッチワイフから“ウサギ”の経理まで登り詰めているらしいことは『第86話:嵐の前の静けさ(中』でも見たとおりだ。
──そして……オレの周りにいる3人のプラチナ・ブロンド……。
ロックのおやっさんは、考え込むオレをよそに、ベッドの周りにずらりと据えられた機器の一つを操作して、
「さぁて。【ユニット2205】──起動!」
すると、元・庶務嬢の首輪にのびるケーブルのウチの一本に電圧がかかったのか。
微かにピクン!と揺れると、ベッドに横たわる彼女の瞳に光が点った。
やがて、肉厚にされた唇がフルフルと震えると涙があふれ、
「……コロして……もうコロして……」
ささやくような、悲痛な声が彼女の口から漏れた。
これは?とオレは説明を求めてロックのおやっさんを見る。
すると、技術顧問は鼻で大きく息をし、沈黙のあと──鋭く舌打ち。
「チェッ!アレだけ脳を
「洗脳って……おやっさん……?」
「あぁ。つまり特定の性質をみたすオンナを発見・脳教育してナ?〝ウチ〟の管理スタッフになってもらうンさ。それ、技術棟の受付で電算機たたいていたメスども、いたろ?全員が識別のため銀髪にかえられ、整形処置された……」
オレは技術等棟に入った時、似たような顔つきをした美貌の女性群を思い出す。
シワのない制服。
洗練された物腰。
似たような化粧。
そして…………。
そろい
ロック技術顧問は、ステンレスの上のリサを、まるで商品の説明でもするかのように、
「この【ユニット2205】は、また別の用途があるからなぁ。顔つきを〝画一〟施術してないのも、そのためナンさ。個性をもたせ、なおかつ従順に……
ステンレスのベッドの上で、元・庶務嬢のリサは不安げに涙ぐむ。
「まさか。どこぞのヒヒ爺ィにでもあてがう、ってンじゃないでしょうね?」
「当たらずといえども、遠からずだなぁ……」
ヒィッ!とリサ嬢が、声にならない悲鳴。
「しかし実際のところ、エロじじぃのダッチ・ワイフにされていた方が、まだ良かったと、この
技術顧問は、さらにベッド上の機材を操作した。
3Dモニターが浮かび上がり、彼女の施術情景がうかかびあがる。
ちょうど“土”の字のように両腕、両足を壁に固定され(ジンキ固め、というのか?)、まるで転生トラックの捕獲触手のように、床から伸びて自在に動くヘビのようなチンポで、全身の穴という穴を犯されるリサ。
殺菌用のライトのしたで、肉々しく改造された彼女の
ヘッドセットとゴーグルを装着され、なにかの強制教育をされ苦しむ情景。
あるいは人ひとり入るぐらいの青い透明な液が入ったカプセルに漬けられる動画……。
「この素体……いや
きわめて興味深そうに、ロック技術顧問は銀色なレオタードの上から巨乳化されたリサのオッパイをサワサワ。しかしあくまで“材料”の反応に、興味があるといった手つきで。
みるまに片側の乳首はボッキをはじめ、そこに
「なかなか脳洗浄がうまくイかず、一時は
「ほかの組織って?臓器売買……それともウラの風俗にでも?」
「いやいやいや……転生執行トラックの〝部品〟として、だよ」
「部品?トラックの?」
「オマエも知ってるだろ──黒い転生トラック」
オレは巻き狩り隊がウワサしていた神出鬼没の同業者をすぐさま思い出した。
なんと『軽自動車クラス』の転生トラックもある。やはり、この老人は知っていたのだ。
「思った通りだ……同業者だったんですね。
「いやいや。一種の〝実験部隊〟さ。所属する事業部はちがうがね」
「やはり。いそいろあるんですね……ウチだけじゃなく」
「そこは完全AIの自動化・転生部隊でナ。改造された人間や、AIアンドロイドだけだ」
さりげなく新事実を次々と披露する技術顧問。
正体不明のOLに両腕を取られるオレを見て、イタスラっぽく(Any other question?)とでも言うように。
次話は完成してます。
来週の月曜早朝に投稿。