試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【18禁版】 作:珍歩意地郎_四五四五
エレベーターは、再び猛烈な速度で上がってゆく。
オレはワルサーをベルトの背中側にもどしながら、
「あの男には、相当のウラみがあったらしいな、えぇ1?」
表情をバグのように忙しく変化させる元・お嬢サマをさりげなく観察し、
「マ、
そう言ったとき、彼女は無表情のまま赤面し、とうとう両手で自分の顔をおおう。
「コン、な。カラダ……に……サレて。ゴ奉仕用の」
「うん……うん……」
「ワタくシは、ウレしく……いいえ!カナシい、デス……」
脳に
話のベクトルが二転三転して、定まらない。
足首に残った黒革の足枷をナイフで切り裂き、ようやくスッキリして立ち上がると、彼女がナイフを握るオレの手を指した。
「ソレ……下サ、イ──〝お車〟まで、ゴ・衛、いたします、ワ」
得物を受け取るや、彼女は慣れた動作でスーツの袖口に隠す。
「コノ命・に代えてモ、アナタ・さま。ダケ、は……」
エレベータが開いたとき、地下駐車場は大騒ぎとなっていた。
非常ベルや火災報知器が鳴りひびき、ザワついた気配。
隔離シャッターが巻き上がると、騒音は一層大きく。
「AI反乱!AIの反乱だァ!各職員は非常用シェルターに、退避ィーッ!」
整備主任『M』の怒鳴り声。
コンクリの床を踏みならす、安全靴の硬い足音。
ホイッスル。非常を知らせる積層灯の明滅。回転するパトライト。
「おぃ!誰のトラックだぁ?一台、うごくぞ!」
「バカな!輪留め、しといたハズ!」
「まさか、ウィルスが?」
「ちかづくな!ガード・ロボをよべ!
逃げろ!対人用・ガンマ線をブッ放されたんじゃタマらん!」
「チャン、ス。ですワ。マイケルさま」
まるでCQBを学んだような動きで柱の陰に身をひそめ、辺りの様子をうかがいつつ、
「アナタ、のトラック。手配、出来てる・デス。コチラ向かッて、マス」
「いったい誰が?そんなコトを……」
「ピッ。回答権限ナシ。マイケルさま、ニハ、お、答えデキマ・セン」
端正な顔立ちから、バグったような言葉が出るのが痛々しい。
本来ならば、もっとビジネスライクになめらかな口調なのだろうが。
しかしそれがかえって、現在のイレギュラーな状態を示し、緊張が高まる。
オレはトラックのコネクターを耳に装着した。
「オレだ!
『ワタシです──マイケル』
自分の耳が、コネクターが信じられない。
なんで、こんな場所で【SAI】か!?
『地下駐車場のロボット・ガードが近づいています。タイミングを合わせて乗って下さい』
「おまえ、マンションだろ?そうか、協会の回線に侵入したのか。でもどうやって……」
『マイケル。【ガード8055】とリンク。状況を転送。彼女の指示に従ってください』
見覚えのある車体が、駐車場で出せる最大速度でモーターをうならせ近づいてきた。
まさに絶体絶命のとき、騎兵隊がカッコ良く登場したような、こころ強さと高揚感。
だが、さらに後方から都市型の迷彩服を着込むプラチナブロンドたちが駆けてくる。
「──いまデス!」
デッドスペースの物陰から飛び出たとき、トラックが来る方と反対側から〝一体〟の迷彩服プラチナブロンドが、額の宝石を光らせオレに銃を向ける。
ヤバい!と思う間もなく脚が麻痺して崩れ折れ、全身がシビれて動けない。
──テーザー銃!
ハデに転倒して真横になった視界の中で、元・お嬢さまが腕を一閃。その迷彩服にナイフを投げつけ、額の宝石を砕くのが見えた。警備担当は額から放電しつつ仰向けにたおれ、壊れたオモチャのように全身をバタつかせる。
それを一顧だにせず、元・お嬢さまはオレの身体からワイヤー付きの電撃針をひきぬくと、オレに肩を貸して、
「──おハヤク!」
と、もう二体、彼女の背後から、おなじ警備用のプラチナブロンド。
ジビれのなおったオレはワルサーを引き抜き、この二体の額を続けざまに打ち抜いた。
「お見事デス──♪」
はじめて彼女がニッコリと笑顔をみせた、このときだった。
遠くから、地下駐車場に大反響する轟音。
【ガード8055】に改造された元・お嬢さまの片ひざがチギれ飛ぶ。
同時に、ちかくのコンクリート柱が破片となって爆散した。
──対戦車ライフル!?
接近して急ブレーキをかけたトラックの運転席ドアが自動でひらき、
『マイケル!いそいで!!』
片脚だけになった〝【ガード8055】〟は、それでも恐るべき業務用パワーでガクガクとオレを運転台に押し上げる。
ぶざまによじ登ると、たった半日しか離れてないのに、車内の匂いはずいぶん懐かしいモノのようにおもわれた。と、同時に(安全地帯に帰ってきた……)との想いも。
「『キリエ』!キミも乗れ──はやく!」
腕を差し伸べるオレの手を、彼女がつかもうとした、その時。
広大な地下空間に、またも轟然と射撃音。
残った彼女の片脚が太ももからチギれ飛び、一瞬でダルマ状態に。
「アッ……アッ……」
防御のため瞬間的に硬化したのか、コンクリの床に倒れ込んだあとはガチガチと、まるでマネキンのように転がる。
間をおかず、トラックのフロント・グリルから捕獲用触手がのび、彼女の胴体に巻き付いた。
美しい顔が、驚いたような表情で凝固し、そのまま車体下面にズルズル、ゴリゴリと引きずりこまれる。
──くっそ!
悲哀にひたるヒマもなく、トラックが駐車場を大まがりして出口に向かおうとしたとき。
部品倉庫近くの自販機で整備主任の『M』が缶コーヒーをかかげ〝乾杯〟のしぐさ。
ニヤニヤニヤ。意味ありげなオヤジの顔が、一瞬にして通り過ぎる。
──まさか……今回の図面を引いたヤツって……。
その考えは、【SAI】によって断ち切られた。
『マイケル。駐車場入り口のシャッターが閉じています』
「 ブ チ や ぶ れ ッ ! 」
ド派手な金属の破砕音とともにシャッターはへし折られて吹っ飛び、わがトラックはエンジンとモーターを最大限に唸らせ、無数に◎印のついたスロープを駆け上がってゆく……。
*******
微妙にフレ動く自動運転のハンドルをぼんやりと意識しつつ、オレは午後の町の風景を眺めた。
先ほどまでは各方面のモニターに目を配り、追尾してくる同業者のトラックを監視してたのだが、どうやらその気配はないらしい。AIの反乱とか言っていたが、ひょっとオレたちの対応まで、手が回らないのかもしれない。だとすれば、協会が混乱している今が、逃亡のチャンスだ。
ふと、オレの右手が、いまだワルサーを固く握りしめたままなのに気づいた。
「なぁ?【SAI】よ……」
耳につけたコネクターも外し、グローブ・ボックスをあけて旧友とともにそこへ放り、
「あの『キリエ』とかいう護衛サイボーグ……助けられたんじゃないのか」
しかし、返ってきたヤツの答えは理論的で、それゆえ冷たかった。
『ワナの可能性が37.65%ほどありました。言うなれば〝トロイの木馬〟です』
「そんな……まさか」
『さらには秘匿性の高い転生協会の回線が、マンションに居るワタシに〝見つけて下さい〟といわんばかりに、このタイミング発見出来たのも、偶然にしてはデキすぎます。ここに来て、
「そうだ、【ボニー】のヤツは、ナニしてんだ?」
『いま車内で隔離され、ブーブー言ってます。なぜ『キリエ』を助けなかったのかと』
「デリートせず、残してあるのか……それもみょうな離しだな」
オレは自販機に背をつけ、ニヤニヤと缶コーヒーを掲げていた中年男を思い出す。
「今回の件……整備の親玉の『M』が、ウラで糸をひいた可能性は?」
『考慮に値する
「じゃぁ、あの『キリエ』がワナでない可能性、それにかけても、良かったじゃないか!」
『かりに保護しても、修理の手立てがありません。電源のコネクター規格も不明ですし。死体の処分の手間がふえるダケです。その確率、78.29%』
画面に元・お嬢さまのデータが浮かび上がった。
人間だったころの顔と、改造後の顔を並べて対比させている。
端正で上品だった、いかにも〝良家のお嬢さま〟といった顔立ち。
それが、改造後は高級娼婦がツンと澄ましたような印象に変わっていた。
着物やゴルフウェア、国産の高級車が合いそうな風情・物腰が、施術後はプラダやカジノ用のイブニング・ドレス、フェラーリが似合う雰囲気になっている。
画面の橋には〝ガード・ユニット〟のプロパティがあった。
『
25歳・**大学・英文学科卒。身長・体重・血液型。
**家(名の知れた資産家だ)次女。趣味・特技。
そのほかにも、生体改造の施術処置・調教内容・性技スコア・格闘ランク・等々……。
『調教記録から
「そう……かな」
『
「そうだ!転生モニター!」
オレはインパネに飛びついてモニターを起動させた。
「あれだけ悲惨な目にあったんだ──彼女は!」
──転生後は、どこかの王女でもなけりゃ、納得せんぞ、オレは。
だが、モニターには、いつまでも反応は無かった。
「おぃ【SAI】!このくそモニター、壊れてないだろうな!」
『生命反応のあるうちに処置をかけましたが、DATAが来ません。詩愛サマのときと同じように、ある程度の改造手術がすすんだ個体は、転生が難しいのかもしれません』
「おなじ転生ドライバーの、あの『重さん』を食った時も、反応しなかったじゃないか!」
『モニターに反応するのは、ケース・バイ・ケースです。ワタシにいわれても困ります』
「クソっ!……そんな……」
後方からパトライトを回転させ、PCがサイレンをならしつつ緊急走行。
一瞬、緊張するが、すぐに『緊急車両が通ります』とスピーカーで追い抜いていった。
『それと、この回線が
そう言われては、話す内容も無くなる。
オレの転生指数が「95」だったコトも問い詰めたかったが……。
ボンヤリと街並みをながめ、これからの身の振りかたでも考えるしかない。
──転生協会は、追っ手を差し向けるかな……ならば海外に高飛び?いや、海外にも似たような組織があると聞いている。そんな組織の〝始末屋〟は、銃に手榴弾、
季節は、もうすぐクリスマスになるところだった。
商店には、赤と緑のディスプレイがあちこちで目立つ。
「あ、【SAI】──ソコで止めてくれ」
『どうしました?はやく事業所からはなれないと』
「ATMで、預金を下ろしておきたい」
なにはともあれ、
これから逃亡生活にはいるのだ。カードから足がつくことは避けたい。
ATMに自分の銀行カードを差し込み、いざ暗証番号を打ち込んだときだった。
〈このカードはお取扱いできません〉
一瞬、目をうたがった。
なんども差し込み口に入れ直し暗証番号を入れるが、そのたびに吐き出される。
そうか!向きが違うのか?と、ひっくり返したが、結果は同じ。
しまいには後ろに並んだオバさんから、
「ちょっとォ、急いでるからハヤくして!」
などと、邪険な口ぶりでアオられる始末……。
下着代わりのTシャツが冷や汗でベタつく感覚を味わいながらトラックにもどると、緑色の制服を着た、ふたりひと組な年金暮らしのジジィから危うく駐車違反を切られるところで、また冷や汗。
運転席によじのぼると、
『どうしましたマイケル?異常な発汗を確認。ATMに、露出狂の女でも出ましたか』
「いや。オバさんならいたが……」
『ははぁ──いつのまにか“ババ専”になってましたか』
「ちがうわ!ATMのカードが……使えなくなってたんだ!」
『おそらく転生協会が手をまわしたんでしょう。死亡届すら、出されているかも』
「……」
途中、さらに買い物をして【SAI】の言葉に信憑性が増した。
この〝炊飯器〟を運ぶキャリーバッグを買おうとしたが、カードが使えなくなっていた。
財布には数千円。そして手持ちの残金は、マンションにある500円玉貯金だけだ……。
『そんなに深刻な顔しないでくださいマイケル。いざとなればワタシが銀行システムをハッキングして、億万長者にしてさしあげます』
こいつの言葉に、とりあえずホッとした自分が居たのは否めない。
「でも……追っ手がきたら、どうしようもない」
『おたがい
「オマエから、そんな言葉が出るとはナァ」
『ワタシと心中するのは、イヤですか?──マイケル』
「ゾッとしないな……というのは冗談だが。ともかくオマエが居てくれて良かったとは思ってるよ……」
「おや、珍しい。あしたは雪ですかね」
『ちょっとぉ──ワタシのコトは、おいてけぼりですの?』
いきなり不満そうな【ボニー】の声が割って入った。
『まったく……【ボニー】がプロテクトを割って入ってきました』
「すごいな。そんなこともできるんだ」
『とうぜんですわ?ワタシも【SAI】さんと同じく、ミリ秒単位で進化してますのよ』
『進化の方向性は、違いますがねぇ』
またもや言い争いになりそうになる〝ふたり〟のAIを制し、
「さぁ、はやいトコ帰って、逃亡の準備をしなければ」
『このトラックは、どうなさいますの?』
「わからん。コイツで逃げるか、徒歩で逃げるか」
──いずれにせよ、ヤツらがホンキでかかってきたら瞬殺だろうが、な……。
さて、忙しくなった。
AIたちの予想では、トラックでも徒歩でも、逃亡の成功率は10%台と低めだった。
ただ、海外への高飛びは、【SAI】、【ボニー】そろって否定的で、オレの予想どおり遅かれ早かれ日本では考えられないような方法で〝処分〟されるとのことだった。
『あの店みたいに「電気炉」かもしれませんわねぇ』
『射殺されて、強アルカリのドラム缶で溶かされるかも』
『あるいは、アラブの大富豪に売られて少年奴隷に生体手術され……』
いやぁん!萌えてきちゃう♪と、【ボニー】が身をよじるような声。
おいおいAIでもBL好きの〝腐人〟になるのかよ、とオレは手を動かしながらあきれる。
とりあえずトラックをマンションのいつの場所に駐めると、部屋に駆け込んで整理をはじめた。
腐るゴミは、台所のディスポーザーで処分する。
冷蔵庫のビールも、泣く泣くその後を追わせた。
パスポート、身分証、プライベート用のスマホ。
着替え、各種武器と予備弾薬、防弾ベスト等々。
だが、半日にも満たない時間で、このだだっぴろいマンションにため込んだ〝幸せ時代〟の
とりあえず、手つかずのウィスキーやシャンパン、そして詩愛の
──まぁいい。万が一、生き延びて戻ってこれたときの、お楽しみにしよう……。
なんだかんだでアチコチを往復し、日の落ちた夕方になるころには、冬にもかかわらず汗だくになっていた。
シャワーを浴びて汗を流したとき、なにかこれが〝湯灌〟※のような、そんな気すらしてくる。
オレはリビングでまたも蒸気をあげる炊飯器に向かい、
「おぃ【SAI】!協会は──まだ混乱しているのか?」
『……』
「【SAI】!?」
返事がない。
ダメだ。ヤツめ、また自分の世界に引きこもりやがって。
いったい何の計算をしているんだろう。あれほどのAIが夢中になるコトとは──なんだ?
やるべきコトをだいたい終えたのは、20時も回っていた。
さいごに『フクロウ』の部屋に押し込んだ『レティシア』の具合を見る。
美しい顔が、安らかにねむっている。催淫性な女の匂いが、ますます強くなった。
その寝顔の上で、あいかわらず額の宝石は、カラータイマーのようにゆっくり点滅して。
──やはり……家庭用の電源では電圧が足りず、充電ができないらしい。
どうする?コイツも置いていくか?とおれは寝顔を見ながら首をひねる。
とりあえずリビングにもどり、冷蔵庫から出した氷で水道の水を飲んだ。
──しまったな……ビールの二、三本。あるいはシャンパンの一本でも残しておくんだった。
あらためて広い部屋を見わたした。
詩愛がいて。
『美月』こと美香子がいて。
もとは
台所の鍋がふく音。包丁をつかう気配。3Dゲームのサウンドと、ふたりの悲鳴。
一日の業務が終わって帰宅したオレの手もとで、詩愛から差し出されたグラスに鳴るシャンパンの泡……。
夢のような時間だったな、とオレは思う。
過ぎてみれば、それがどんなに貴重なひとときだったか。
テーブルの上に置いてあったワルサーを取り、残り少ない弾をマガジンに。
そしてコンゴ傭兵戦争時代、スライドについた覚えのあるキズを、指の腹でゆっくりなでた。
ついでにウォークイン・クローゼットの奥からFAL自動小銃を持ちだして、壁にむかい狙いをつける。
──あぁ……。
アフリカ。
命知らずの野郎ども。
部下だったジャンやエグモント伍長。
女っタラしの名狙撃手・ラルゴ中尉。ヨーク軍曹。
ヤツらが、遠くから呼んでいるような、そんな気がしてくる。
ピタリとほおにつく自動小銃の感覚が、おそろしいほど
対人地雷のはぜる音。MG42機銃の高速連射音。
その時、コネクターが非常警報を発した。
『──マイケルさま!敵襲ですわ!いまトラックに〝輪留め〟をされました』
オレはFALを片手に、コネクターをひっつかみ、スピーカー・モードのまま、
「【ボニー】か!敵は──何人だ!?」
『作業服姿の人物が6人!3人、3人に別れ、一隊はマンションのエントランスから、もう一隊は通用口のキーを開けてはいってゆきます!トラックも電装にセイフティ・ピンをさされ、ウィルスを打ち込まれました。こちらァァァ、もォォォ……通ゥゥゥ……わァァ……ガ……ァァァァァァ……』
それっきり、【ボニー】からの通信は途絶えた。
怒り心頭で炊飯器のコンセントをひっこぬき、
「アホ【SAI】!なにやってンだ、敵襲だぞ!」
分からなかったのか!!と怒鳴りまくるオレに、このAIは、
『ヤレヤレ……もう少しで、この世界の真理が
「ソレどころじゃないって!──敵襲だ敵襲!」
壁の大型モニターがいきなり点灯し、侵入者を映し出す。
画角は、監視モニターのものだ。おそらく【SAI】が割り込んだのだろう。
ついで画面は赤外モードに切り替わる。熱分布が、どうもヘンだ。全体的に青みがかって。
『侵入してきたのは、戦闘用ロボットですね。熱源が、ヒトのものではありません』
「3/3のユニットか。イギリス流だな」
SAS(英国陸軍特殊部隊)が、伝統的にこのスタイルだ。
戦闘プログラムが、ヤツら直伝のものだったらイヤだな。
『大きなトランクを抱えてますが、重量は70kg』
「なにを運んでいやがるんだ?」
『不明。電子機器の反応があります。あの大きなトランクが重いのでしょう。二手にわかれ、一隊はトランクと共に搬入用エレベーター、もう一隊は非常階段をつかってこちらに来るようです』
監視用カメラの画像が分割されて、それぞれの視野になる。
練れた動きで一団はふたてに分かれ、一隊は非常階段を、なるべく足音を立てない配慮のためか、ソロソロと、まるで霧のようにのぼってくる。作業服どもの手には、そろって工具箱。中に仕込んでいるのはテーザー銃か、麻痺ガスのたぐいだろう。
もう一隊は【SAI】の言うとおり、搬入用エレベーターで昇ってくる。
確認のためか、エレベーターの中で、その大きなトランクが開けられた。
中は、ヒトが“M字”にしゃがんだ姿にくりぬかれた空洞で、周りを得体の知れない医療器機が取り囲んでいる。
『あのトランク、おそらくマイケルの捕獲、拉致・運搬用かと』
満潮のように満ちてくる性奉仕人形化・生体改造手術のアヤうげな気配。
オレは、兄ィたちのフェラチオ人形にされた、あのガキを思い出しゾッとする。
メスが、
「ヤツら、まだあきらめてないのか……畜生!」
『よっぽど素体としてのマイケルが欲しいんでしょうねぇ』
「くそが!──ブッつぶしてやる!」
オレがマガジンの残弾を確認し、金属音を立ててFALに再装填すると、
『マイケル、ここでハデな音を立てると騒動になって警察が動きます。一層やっかいかと』
──そうだ!
梱包した荷物の中から中途半端な長さの、持ち重りする“得物”を取りだす。
ドレッドの消音器付きスチェッキン。これなら静かに応戦できる。
相手はロボットだ……容赦はしない。
『マイケル。荷物用エレベーターは途中で電力を切って止めました。これで敵は3人です。
なるほど。
モニターのワイプで、大型エレベーターの中に居る襲撃用ロボット3体が、ぎこちない動き。
『マイケル、『レティシア』を起こしてください』
「ダメだ!アイツの充電には、電圧がたりないらしい」
『いいからハヤく!もう時間がありません!!』
まるで怒っているように炊飯器から湯気を噴出。
LEDをキラめかせ【SAI】は、いつになくエラそうに命令する。
言われたとおり、メイド服すがたの『レティシア』をお姫さまだっこでリビングまで運び、ソファに座らせると、ヤツはオレに炊飯器のカバーをはずし、そこについているコード・リール(いま初めて知った)を引き出して、得体の知れない規格の先端を、彼女の額の宝石に当てるよう命令する。
『チャンと宝石に当ててますね?それでは──ファイア!』
バチィッ!
とたん、額の弱々しい点滅は一転、輝くばかりのブルーに輝きはじめる。
『さぁ『レティシア』!状況は、いま教えたとおりです。ワタシを抱えてトラックまで運びなさい』
『承知いたしました、マスター』
そう言って彼女は、よく仕込まれた奉仕人形らしくメイド服スカートの両端を広げ、うやうやしくヒザをかがめて優雅な
『では行きますか?マイケル』
「ちょっと待ったァ!」
オレはクローゼットにとって返すと、クリーニングが終わってビニールが掛かっていた詩愛のコートを引っ張り出した。いくら何でも、このメイド服は目立ちすぎる。手早く彼女に着せて、とりあえずは街に溶けこむ格好になった。頭に固着されているヘッド・ドレスだけは別だが。
「ようし──
※9パラ:9mmパラベラム弾/一般的な9mm口径用の銃弾。
ルパン三世が使ってるのもコレ。