※この作品はR-18です。

試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【18禁版】   作:珍歩意地郎_四五四五

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      〃       (3)エロ中尉

     * * * 

 

 

「それは、大きな「カン違い」というものデスなぁ……」

 

 見るからに“水っぽい”雰囲気を漂わせる痩せた中年男。

 

 臭いオーデコロンのにおいを振りまきながら、いかにも着古したヨレヨレなスーツをまとい、テーブルを挟んだオレの対面で大きな背もたれのついた籐イスに腰かけている。

 

 

 

 この男。

 

 

 

 

 

 かすかに――覚えがある……ような。

 

 たしか……そう、たしか『サブ・フロアマネージャー』と名乗っていた男だ。

 

 

 

 

 ――それにしても、どこで会ったんだろう……?

 

 

 

 

 ブラザヴィル?

 レオポルドヴィル?

 それともナイジェリアのポート・ハーコートか。

 

 

 

 

 

 

 ……分からない。

 

 

 

 

 

 

 頭が、すこしばかりボンヤリしている。

 さっきまで、俺は前進基地のバーでヤンの奴と酒を飲んでいたハズだ。

 

 オレのほうは、ローデシア柄(パターン)な野戦服の肩から血を流し、その黒ずんだ広がりを何の痛痒(いたみ)もなく茫然と眺めたまま、豪華な革張りのソファーを汚すのもお構いなしに、力なく身をゆだねているのだ。

 

 天井では大きな送風機のプロペラ。

 

 思考をさまたげ、攪拌するようにゆったりと回って。

 

 何が――起こった?

 

 背の低い草が生い茂るサバンナ。

 そこをオレたちは長い列を成して徒歩で進んでいたはずだ。

 突然、ヒユン!と低くうなる音がしたかと思うと、鉄臭い臭いが辺りに。

 まるでセメント袋のように、分隊支援用機銃を背負っていた兵卒がゆっくりと倒れる。

 

 「狙撃手(ティラユール)!」

 

 その叫びが合図だったかのように、至近距離の茂みからマズル・フラッシュ(発射光)の嵐。

 

 パーカーのバカ笑い。

 ヨークの怒鳴り声。

 

 周囲から雄たけびがおこった。

 茂みが迷彩服を着た黒い人影を次々と吐き出してくる。

 アフリカ中に勇名を轟かせる名高いシンバス(ライオン団)のバンザイ・アタック。

 不死だと信じ込まされた少年兵を先頭に押し立て殺到してきた。

 すかさず防衛陣形。

 遮蔽物に身を潜め、鉄の飛沫を迎え撃つ。

 敵方の持つAK突撃銃の甲高い銃声。

 味方のFAL(自動小銃)の、低めな応射。

 悔しいながら完全に撃ち負けていた。

 おまけに相手は“自分が不死だ”と信じ込まされた少年兵たちを前面に押し立ててきゃがる。

 

 「グレネェェ――ド!」

 

 路上斥候を担当していた4、5人の前衛兵が、そんな命知らずの子供たちに向かい呼吸をそろえ、一斉に手榴弾を投擲する。

 

 轟音。

 爆発。そして悲鳴。

 応射しつつ死体の山を奔り抜けたとき。

 早くも死体の目にはツェツェ蠅が卵を産んでいる。

 疲労した身体にFAL(自動小銃)の重い反動が憎い。一発、一発ズシリとくる。

 ごく少数のMATやカール・グスタフ、それにUZIの9mmを持っている連中は楽々と撃ち返して。

 

 どうにか初期の劣勢を食い止め、敵方の脳漿と腹わたをブチまけ、ジワジワと反撃してゆく仲間たち。だがかなりの損耗を受けたにもかかわらず、まるで相手はゾンビのようにワラワラと、次から次へやってくる。

 体格に合わないAK突撃銃を細い腕で乱射し、熱に浮かされたような目つきで。

 大人の思惑に純化・培養された存在。使い捨てのドリル・ビット(先兵)

 とうとう防御態勢の一角が破らる。

 そこを少年兵の死体を踏み越え、訓練されたシンバスの精鋭が殺到してきた。

 

「――畜生!」

 

 ヨークが銃剣を閃めかせ、守りの内側に入った大人のシンバスを次々に刺殺してゆく。

 だが、やはり多勢に無勢。

 今回の行軍が完全に読まれていたかのように、敵方は装備も準備も万全に整えていた。

 このままでは全滅が時間の問題と思われたそのとき――。

 

「マイケル!」

 

 銃撃戦の嵐の中、誰かが呼ぶ声がした。

 声の方を振り向くと、イタリア人のヤサ男がいた。

 

「ここは任せろ!早く行け!」

 

 狙撃用Kar98を手にしたラルゴ。

 不精ヒゲが目立つその顔に浮かんだ刹那的な、そして不敵な笑い。

 

「ウィスキーの借りを――いま返すぜ!!」

「ラルゴ!」

「いいから早く行きな中尉!任務(アレ)があるんだろ!?」

「!!」

 

 驚いたことにヤツはドレッド野郎の暗殺というCIAの計画を遠回しに当てこする。

 

「ここはオレたちが食い止める!!」

 

 銃撃戦の中、ラルゴは自分の部下を叱咤しつつ叫んだ。

 

 (――スマン!)

 

 野戦服に包まれた胸の中で詫び、草原のなかをジグザグに奔(はし)る。

 

 オレと周囲に居た“作戦”を知る仲間たちは銃を乱射しつつ、背をかがめてブッシュをを駆け抜け、敵の包囲網を突破した――。

 

 

 

 

 ハズなのに。

 

 

 

 

 気づけば自分だけ部下とはぐれ、こんな処でワケの分からん男と酒を呑んでいる。

 

 目前に座る趣味のワルい東洋人。

 

 下品なミラー・グラス。

 妙に浮いた感じかする白スーツ。

 胸には色が釣り合わないポケット・チーフ。

 うす笑いを浮かべるたびに唇から覗く黄色い歯が不快だ。

 やがて相手は、そのスーツの内ポケットから金色のシガレット・ケースを取り出す。

 

「さて……」

 

 そう言いつつ、黄色い歯の原因であるタバコをキザな手つきで一本振りだし、次いでこれもイヤミったらしい仕草で金側のライターを取り出して。

 

 ワン・アクションで火が点いたガス・ライター。

 すぐさま、いかにも精緻な金属音を立てて閉じられる……。

 ダンヒルか、デュポンか。

 そんな“いかにも”な高級感あるデザイン。

 

 相手のキザったらしい様を横目に、オレはさりげなく周りを見回した。

 

 広い応接間と見える空間。

 さまざまなサイズの販促用ポスター。

 きわどい衣装を身にまとう幾多のマネキン。

 いかにも水っぽい女物の服装がハンガーにかかる、開けっ放しの衣装戸棚。

 

 水着姿やコスプレじみた格好の女たち。

 その静止映像が額縁に入れられたモニター。

 画面の下にはワイプで達成順位や指名顧客数などのデータが並んで。

 

 ――どこかの風俗店の『大箱』にある個人用執務室だろうか?

 

 それにしては設備がやたらとハデだ。

 

 この国の首都にある高級店でも見ないほどの、ド派手なシャンデリア。

 大きな革を贅沢に使った、つぎはぎの少ない重厚な長ソファー。

 マホガニーの模様も美しい、アンティークな大テーブル。

 

 そのテーブルを挟んで男と対峙する盤面にも、バカラのフルート・グラスとクリスタル製のシャンパン・クーラー。そのほか、いかにもカネのかかってそうな什器がならんでいる。

 

 だが――どうもおかしい。

 

 部屋の上品な造作と、この男の趣味が釣り合っていない。

 まるで後から来たものが、先住者の意向を無視して勝手にふるまっているような感じだ。

 

 と、その時。

 

 開け放たれた両開きの重厚な扉をノックする音がして、パツパツのチャイナ・ドレスを着たひとりの女性が一匹の犬を曳き、広間にゆっくりと入ってきた。

 

 ――いや、ちがった……犬ではない。

 

 艶(つや)やかな絹の服地をテラテラと輝かせる女の手からのびる一条の鎖。

 硬く、冽(つめ)たく輝くクロームの連なりの先は、四つん這いで侍(はべ)る女の首輪へとつながっていた。

 

 眉をひそめ、オレはその悖徳(はいとく)的な様を見やる。

 

 美しい女だった。

 見るからに滑らかな肌に、毛皮のような文様の刺青をされて。

 鳴り物付きのイヤリング。首輪。乳首についたピアッシング。

 飼い犬のような姿勢を強いられている人物がわずかに身じろぎをするたび、それらがチリチリ・チロチロと可愛い音色を立てる。

 

「おごぉ……」

 

 ベットリと紅く彩られた女の口には、喋ることを禁じるためか、孔(あな)のあいた黒い球が噛まされており、それがベルトで頬を後ろに横切るかたちで後頭部に回され、尾錠で留められていた。

 

 このクサリの端となった黒革の輪をサングラスの男にゆだねたチャイナ・ドレスの女は一礼し、有能そうな気配を存分に漂わせたまま、高いハイヒールで180度ターンを綺麗にキメ、小ぶりな尻をモンロー・ウォークで振りつつ無言のうちに退出する。

 支配の証である引き綱を渡された中年男は、やってきた“愛玩品”の獣人的な文様が施された背中を、いかにも愛惜しそうになで擦(さす)った。

 

 ――女に“こんな姿態(すがた)”をさせるとは……。

 

 この男の下賤な趣味を示してあまりある。

 そしてそれをまたドヤ顔でこちらに誇示する相手の姿勢がやりきれない。

 

 オレの記憶の中で、10歳にも満たない子供たちに“不死の証”だとヒゲ剃り用のカミソリで下手な刺青をほどこし、コピー物(ノーリンコ)の安出来なAK突撃銃をにぎらせていた黒人の“司令官”が蘇る。そいつも学校から拉致した女子学生に同じような境遇を強いていた。オレの手にしたワルサーPPの照準下で、その黒人のコマンダーは卑屈な笑みを浮かべて両手をあげ、命乞いをしたものだったが。

 

「ホレ、おねだりしてみせろ……」

 

 サングラスのキザ男が、握ったクロームの鎖をゆらして冴えた音をたてると、この哀れな女は涙目のまま、四つん這いの姿勢で体の向きを変える。

 

 すると……。

 

 そこには大小2本の淫具が、非道にもズップリと女を穿(うが)っており、その“秘所”からは快楽の証である淫液が、シミ一つない女の太ももを伝ってテラテラと流れ落ち、天井の灯りを反射しているのであった。

 

 男がスーツのポケットから安っぽいピンク色をしたタマゴ状の道具を取り出し、そこについているボタンを押す。

 

 とたん、

 

ン・ヅゥイィィィィィィ………ッッッ!!!

 

 女の軆に穿(うが)たれ尾部のみを見せている2本の淫具が、騒音をたてながら卑猥な円運動をはじめ、女性自身を、肛門をジワジワと抉(くじ)りはじめる。

 

(!!!!!!!………!!)

 

 黒い玉形のさるぐつわを咬まされた女の紅い口唇(くちびる)から、おさえきれない劣情の喜悦が心ならずも漏れはじめ、愛液にまみれた豊かな尻が、さらなる刺激を貪欲にもとめるかのごとく、淫猥な「の」の字を宙に描きはじめた。

 

 豪華な調度品に充たされた応接間はさ(・)か(・)り(・)のついた雌(メス)の臭いと、洩れこぼれる鼻にかかった“よがり声”に支配され、、たちどころに雰囲気は妖しげな様相を増してゆく。

 

「……どうョ。えぇ?」

 

 満足げな気配が、逆光気味な紫煙と共に吐き出された。

 リドリー・スコット風味な効果とともに、その奥から満足げな笑みが、

 

「かの有名な“調香師(ムッシュゥ・鼻)”もウチの“調教師(Mme.ヴァラン)”が醸す匂いには、遠く及ばないってザマですねぇ」

 

 さて……。

 

 オレは底意地の悪そうな、歪んだ趣味をもつらしい中年のフランス女を思い浮かべつつ、テーブルの上に据えられたシャンパン・クーラーからヴィンテージ物の冷えたクリュッグを抜き出すと、ボトルの尻から氷と水が滴るのもお構いなしに手酌で自分のフルート・グラスへ手荒に注いだ。

 

 KRUG

 

 レオポルドヴィルの高級歓楽街にあるバーでも、なかなか見ない代物。

 女の匂いを追い出すため、グラスに鼻をちかずける。

 そして時間稼ぎにかるく唇を湿してから、

 

「……当方は、そちらの趣味とは多少、縁遠く思えますね」

 

 そう社交的に言いつつ、そっと奴隷女から目を反らした。

 

 鎖につながれた女や、手足を斬られた子供。

 世間一般でいわれる“残虐”な光景はお腹いっぱいだった。

 もっとも昨今は、そんなシーンを見ても、何とも思わなくなってしまったが。

 

 だがしかし。

 

 オレは話す相手がどうにも違うように思われた。

 ここにはもっと小柄で、奇怪な面相をした、それていて義理堅く、何より教養のある、仕立ての良いスーツを一分のスキもなく着こなした男が居たような……。

 

 ――あの男は、ドコにいったんだろう……?

 

 そう心中、首をかしげていると、

 

「おや!」

 

 サブ・フロアマネージャーを自称するこの場違いな男は、いかにも大げさに驚いてみせた。

 手に持ったタバコの灰が、そのアオリで宙に散り、白いスーツに降りかかる。

 しかし、それを気にもせず相手はこちらに向かいゆっくりと首をふりつつ、

 

「この哀れな少女が一生懸命に醸すメスの淫臭(ニオイ)がお気に召さないとは……ザンネンだナァ」

「恐縮です……どうも」

 

 男は、そんなオレの様をズリ下げたサングラスから上目づかいにニヤリとして、

 

「そンなら……こんなのはドウです?」

 

 相手はタバコをガラスの灰皿に力強くもみ消すと携帯を取り出し、どこかに連絡をはじめる。

 

(ア(・)レ(・)ぇ持ってこいヤ。そ、コノお客人のだ……イんだよ!未調整でも構わねぇ……)

 

 キレたような囁き声。

 いかにもこの男にふさわしい、下品な言葉づかい。

 白いスーツに包んだ身体を焦れたようにバタつかせ、足をふみならす。

 

 ややあって。

 

 応接間の扉がノックされ、ひとりの美しい女性が現われた。

 高価そうなイブニングドレスをまとい、淑やかな身のこなし。

 しかし折りふしに洩れこぼれる仕草と媚態。なによりその顔色。

 一見して市井の堅気な人々たちに“夜の女”たるの喝破を免れ得ない。

 不思議なことに、この女はオレに向かって親しげな素振りをみせ、軽く一揖(いちゆう)。

 

 ――なんだ……?

 

 そういえば、この女もどこかで見たことがあるような。

 豪華な料理店が抱えるフロア・レディの統括者……だったか?

 

 そしてこの女も、やはり一条のクサリを曳いていた。

 やがて女のゆったりとした歩みにつれ、クロームの端が現れる。

 首輪に繋がれ、ヨチヨチとした足取りで入ってきたのは一人の奇妙な少女だった。

 ヒールが冗談のように高い、バレリーナのような角度を強いるヒザ上までの真っ赤なブーツを履かされているので、そんな歩き方しかできないのだ。

「!」

 

 オレは頭をバトル・ライフルの台尻と殴られたような衝撃をうける。

 心臓が一度、軽くジャンプし、胃がキュッと締まり、胸は軽く吐き気をおぼえて。

 

 風船のように巨大な胸。

 砂時計のようにくびれた胴。

 そこから豊かに膨れ上がった尻。

 メリハリのついた性的な魅惑の美脚。

 ラバー製らしい、つま先立ちを強いるブーツ。

 全身を紅い革のハーネスで菱形に縛められる姿。

 

 全体に造りモノっぽい、コレでもかというメリハリ。

 それはフェミニンなセックス・シンボルとしての具象化。

 

 だが整形手術は――それだけではなかった。

 

 腰まで波打つ、おどろくほど豊かな赤毛。

 まるでアニメのような、長いまつ毛と薄紫のアイシャドウ。

 光沢のある、真っ赤なドーナツをおもわせる膨らまされた口唇(くちびる)。

 トロンとした痴呆顔は、性奉仕用に洗脳・従順化処置をされた証だろうか。

 なにより肌に何か特殊な施術でもされたのか、まるでビニール人形のような光沢を帯びている。

 男の欲望のために記号化され無惨にも歪められた存在が、そこにはあった

 

 

「コイツを『馴致』するのは、苦労しましたよ……」

「――と、言うと?」

 

 心ならずもあえぐような声で応答する。

 サングラスの男が横目でニヤつくのが腹立たしい。

 

「そ。なんでも心に決めた婚約者(オトコ)が居るとかで。ソイツのことをあきらめさせるのにエラい苦労をしやしてネ?」

「……」

「マァそんなトコも、この商売における一種の醍醐味なんですが」

「……」

「どぅしヤした?暑いですか?」

 

 いや……と、オレはローデシア・カモフラージュ柄の血まみれな迷彩服をくつろげかける動作を止める。

 

 手の震えが止まらない。

 おれはクリュッグを満たしたフルート・グラスをテーブルに措いた。

 それがこのムカつく相手の更なるニヤニヤ嗤(ワラ)いを喚ぶようで、悔しいことこの上ない。

 

 ――なんだろう。

 

 全身からイヤな汗が止まらなかった。

 

 この年齢的に女子高生とも見える少女自体に、面識はない。

 ただ彼女が、本来このような性具(ダッチワイフ)じみた容姿(すがた)になってしまっては絶対にいけない存在だったということを、オレの中の誰かが叫んでいた。

 

 純白の雪に、ヘドロをぶちまけるような。

 あるいは美しい“キモノ”をクソ塗れな手で汚すような……。

 

「あぉぉ……」

 

 肥大化施術された口唇(くちびる)が話しづらいのか。

 ケバく化粧をされた少女の長いまつ毛が哀しげにゆれると、視線がオレの方を向いた。

 

 とたん彼女はこちらに何を観たんだろうか。

 一瞬、愕然とした表情を浮かべるが、すぐにトロンとした眼差しになるや、

 

「おひゅひんははぁ……」

 

 ハーネスが縦にキビしく食いこむ自分の“おまた”を慰めはじめ、ドーナツ状の唇から二またに割れる、触手めいて長くされた舌を出し入れする。

 

「どうです、この“個体”は?皮膚に特殊な浸透処置をほどこしてましてねぇ。代謝活動もおさえてまサァ。老廃物も少なく、なにより劣化がおそい」

「……“劣化”?」

「あぁ、すいやせん。『老化』といったほうが分かりやすいか。言ってみりゃァ、人間を性処理用のリアル・ドールに改造したようなモンです。さぁ、触ってみてください――小枝子さんヨぉ。そのデク人形を、この方に」

 

 イブニング・ドレスの美しい女性が鎖を曳き、ダッチワイフ化された少女をオレに近づけた。

 

 やがて彼女は潤んだ眼差しのまま、肥大化された胸を(どうぞ……)と言わんばかりにオレの方へ突き出した。

 

 ソッと、その乳首ピアスが頂きを飾るボールのように膨らまされた胸の片方に手を這わせる。

 見た目のとおり、産毛一本どころか毛穴すらない、ツルツルとした感触。

 まさしく等身大のビニール人形を愛でているような。

 

「おぉぉぉ……」

 

 ダッチワイフ化された少女が、ウットリしたように長いまつ毛を閉じた。

 ひとすじの涙が、その目じりからこぼれる。

 

「どうです?イイ出来でしょう……性技も脳に“刷り込み”(インストール)済みです。どんな行為も、思うままってヤツ」

手の込んだ性処理施術と強制洗脳処置で[身を美しく]してやりましたよ?どうです。素晴らしい“躾”(しつけ)でしょう……?

 

 女の匂いが強くなる。

 

 少女が自分の“おまた”を慰めようとでもするように身じろぎ。

 しかし手首に巻かれた枷を腰のウエスト・ニッパーに繋がれているため、ツルツルされ肉芽がのぞくだけの肝心な部分に届かないのが、焦れったいのかもどかしそうに。

 

 ――無残な……女性をこのような容姿に……。

 

 胸のなかの見知らぬオレが呟いた気配。

 

 ――斯様(かよう)な下司は、剣のサビにする価値も無し!

 

 ズシリとした鎧の感覚が肩に伝わるような。

 二の腕に、刀の重みすらよみがえってくる。

 

 ――バカな!この娘には手を出すなと『小男』には伝えておいたのに!

 

 頭の中で、べつの意識が悲憤をもらす気配がした。

 すぐにピンと思い当たる。

 延々と続くナトリウム・ランプのオレンジ色な光。

 退屈な、夜の高速道。 

 たぶん――トラック・ドライバーの殺し屋だ。

 

「小男?」

 

 おもわずオレがその言葉に反応してしまう。

 すると意味がわかったのかサングラスの男が、

 

「店主、ですか?」

 

 次いで面白そうな顔をうかべ、含み笑い。

 

「さァて……どうしたんでしょうねぇ……」 

「まさか――殺ったんじゃ、ないだろうな」

 

 オレの口をのっとって、トラック・ドライバーが喋った感覚。

 そしてその言葉は緊張感のある重みを持って“豪勢な広間”ともいうべき部屋をわたった。

 

 沈黙。

 ややあって相手は肩をすくめ、そしてもう一度携帯をとりだすと、

 

「……サロメた(・)ち(・)を呼べ」

 




……おまたせして大変申し訳ありません。

海外でのSV業務がいそがしく、更新がままならない状態です。
(土曜日も仕事というのは、ボディブローのように効いてきますね)
いま、年内に帰国できるか否かの瀬戸際状態となっており疲労困憊。
執筆に体力が回りません(何より中途半端なモノでお茶を濁したくない……)。
精鋭読者の皆様におかれましては、どうか今しばらくお待ちいただきますよう切にお願い申し上げます。
絶対にエタらせはしませんので、どうかご支援を願いたく。

珍歩のツイッターも、宜しければ併せてご覧ください。
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