試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【18禁版】 作:珍歩意地郎_四五四五
ようやく、ようやく中国から帰国です!!!!!!!!!
これから2週間の自主隔離、更新三昧……と、行きたいトコですが、
疲れすぎて閃きが生まれません。朝酒、昼酒、夜酒の毎日になりそうです。
(いやホント、忙しくて昼飯も食えないことが多い、緊張の連続な日々でした)
登場人物の面々も長いことホッポらかされていたせいか、すっかりヘソを曲げてしまい
以前のように自ら動いてくれません。まずは彼らのご機嫌がなおるのを待つことに致します。
* * *
「ンだぁらヨォ?おれァ――言ってやッたンだって!」
第二小隊長であるジャンが、ビールの大ジョッキをかかえたまま、酒場のテラス席で怪気炎をあげている。
「すこしァ
「そのハナシは何度も聞いたよ」
オリーブをプラの楊枝で突きながら、おまえはボケ老人かという口ぶりでそれに応える。
「ホーの奴に一泡ふかせたハナシだろ。持っていたウィスキーグラスを……」
「~~~~」
おいしいところを先に言われたジャンは、ナニやら唸りながら仏頂面をする。
要は先日のこと……。
酒場で偶然、傭兵部隊の第五コマンド隊長である(マッド)マイク・ホアーと出合わせたコイツは、いまの混乱状況に関して相手と議論したすえ、煮え切らないホーにむかい、なんと手にしたグラスをヤツの足もとに叩きつけたらしいのだ。
――まわりに居た護衛が過剰に反応しなくてよかったな……。
さもなきゃコイツは、とっくに9mm弾でハチの巣にされ、南部フランスが産んだ愛すべき爆弾男のクダ巻きを、今日は聞くことができなかったろう。
「あんまムチャするなよ?幸運を、よけいなトコで使わない方がいい。パーカーのヤツを見てみろ。あんなコトになっちまって」
「……俺は大丈夫ですよゥ」
「ヤツもよくそう言ってた」
ピシリと言い返しジャンを黙らせたあと、オレはあたりを見まわす。
路地に面した酒場のテラス席は、20テーブルほどだろうか。
夕暮れの街はキリスト教の聖人を祀る小さなカーニバルで、ごった返していた。
ヌビア傭兵の一団が、ウェイトレスに色目をつかいつつ歩いてゆけば、エチオピア人らしい民間人たちが、東方の三賢人や使徒の仮装をして、声高に喋りながら通りすぎてゆく。
あるいはピンクや緑、黄色など、原色系のスーツを着込み、フランス風(と本人たちは主張する)ファッションでキメた『サペー』という“傾奇者”が注目を浴びつつ自慢げに練り歩いて。
(「コンゴ」「サップ」でggってみて下さい)
オレは運ばれてきたウォッカ・ギブソンのおかわりを、ゆっくりと口に含んだ。
香りのいい冷たい酒が、ゆっくりとノドの流れてゆく。
この感覚。何ともいえない。
昼間の暑さがウソのようにやわらいだこの時刻。
まさに、格別の味わいだった。
そのとき、テーブルをはさんだ向かいの鋳鉄製チェアに、エグモントの大柄な体躯がドッカリ座りこむ。
大きく吐息をつくとテーブルに置いてあった飲みのこしのウィスキー・ソーダを含む。
「ヨークのやつ、来るって?」
俺は、この店の電話でホテルに連絡をしにいった元・降下猟兵にたずねた。
低地ドイツ人の大男は、サマージャケットに包んだゴツい肩をすくめ、
「さァてネ、隊長――イチおう、この場所ハ知らせトイタよ」
いまだクセのある、たどたどしいフランス語で相手は応えた。
するとジャンが、テーブルの中央に山盛りとなった細長いフライドポテトをひとつかみほおばりながら、
「アイツ出てこれンのかよ?先祖返りしたケルト戦士が。あの戦闘でのやつのムチャぶりときた日にゃ、映画代もうけた気分だったぜ」
うん、あれはスゴかったなァとオレも同意する。
「ヤツのまわりだけ、古代ヒベルニアになってた」
「――ヒベルニアだってェ?」
「アイルランドの古い名前さ」
まったくあの時の光景をおもいだすと、まさにMGMが作った映画の1シーンとしか思えない。
その残忍さで世界のニュースを震撼させるシンバス兵が、おそれをなして殺されるままに。エセ呪術に鼓舞された少年兵たちすら、すっかりビビって尻もちをつき、腰をぬかしたまま後ずさっていたっけ。エグモントすら重々しくうなづき、
「マッタク。アノ時ほど――えぇと……そう“ハイになった”白兵戦はなかった」
それからひとしきりヨーク軍曹のうわさ話。
あれほど傷をうけたというのにてんでコタえず、脅威の回復力でオレたちに同行して酒を飲もうッてんだから。ほんとうに大昔の頑丈づくりな戦士みたいだ。
雲間から満月が顔をのぞかせる。
河の方から吹く微風がきもちいい。
しかし通りの人々がはなつ祭りの熱気が、それをすぐに気化させてしまうような気配。
グラス越しに、夕暮れから夜にうつりますますボルテージを上げる通りの喧噪を、オレはかすかな酔いにまかせてボンヤリと見やった。
久しぶりの休暇。
久しぶりの平和。
そこに悲鳴はなく、銃声もなく、なにより死臭がない。
さまざまに重なる過去の光景。そして不安をよぶ正体不明な記憶。
そういったものを、いっときグラスの中の清澄なカクテルが慰撫し、和らげてくれる。
――まるで王宮広間の
妻や娘と手をつないで人ごみの中をはぐれないように……。
あるいは、近所の神社で行われた祭りの夜のような……。
荷引きのラクダの列を避け、晩方の教会の鐘音を聞きつつ。
南方から来た黒人の威勢のいい呼び声。香辛料売り場の大きな天秤。
あるいは祭囃子の太鼓の音。浴衣からもれる洗い立ての彼女の髪の匂い。
――綿あめ……テゥグル産の腸詰……射的……剣技くらべ……お面……イスラヴァの絨毯……。
気がつけば、バラバラなようで近似値なイメージが頭の中をグルグル回っている。
なんだコリャ?と俺の中で、また不安がよぎった。
騎士の夢。
轢殺屋の夢。
そして現実の自分。
明晰夢というには、あまりに生々しい感覚。
――まてよ……?
テラス席の気配は遠のき、視野は次第に暗くなる。
どこまでも透明な薄暗い湖のなかに
むしろ今この時。この
あの妙に現実感をともなうトラックでの轢殺感。
剣を打ちあわせた時の手のひらの
戦場から切り離され、馴染みのない平和に身を置くいまこそが、どこか魂が遊離してゆくようで心もとない。
――ほんとうに、俺は俺なの……か?
サマー・スーツの内側に隠したワルサーPP。
その感触を確かめるように、ゆっくりとなでさする。
独立戦闘ユニット・長距離偵察隊・第三中隊を預かる中隊長。
前進基地に駐屯する傭兵部隊の皆から“マイケル”とあだ名される特務中尉……。
――ひょっとして、本当の自分は……。
「おーぃ、ネーちゃん!同じモノをくれ!」
カラのジョッキを掲げてウェイトレスを呼ぶジャンの胴間声に、
耳もとに雑踏の気配がもどり、視野はあかるくなって、現実感が潮のように押し寄せてくる。
「隊長!オィどうしたい――隊長!」
早くも5杯目の大ジョッキを空けたジャンは、幾分すわった目で、
「ぜんぜん呑んでネェじゃんか。だからそんな小洒落たモノなんかやめろって言うんだよ」
「アテが外れましたカ?中尉ドノ」
エグモントまでもウィスキー・ソーダのグラスごしにニヤリとして。
「うん、まぁ……ヤツが作ったカクテルほどじゃねェな」
オレが重い腰をあげて、野郎どもを引きつれ街に来たのはワケがあった。
あの朝。
老大尉に諭されたのもきっかけのひとつだが、なにより大きな理由として、すご腕バーテンダーのヤンが前進基地から消えたのだ。
警務部がしらべたところ、部屋にパスポートなどの重要書類や金品の類が無かったことから、おそらく計画的な脱走だと判断され捜査は打ち切られたが、困ったのは美味いカクテルを飲めなくなったオレたちだ。あのナイフのようなマティーニや、芳醇なコニャック・ソーダを味わえなくなってしまったのだから。
それゆえ全員が負傷休暇をもらっていることもあり、しかたなく平服にきがえて基地から連絡用トラックの荷台に乗り、さらに鉄道をのりついで、この国の大きな町のひとつにある安ホテルに荷物を放り出すと、オレたち第二中隊の幹部は夕方の歓楽街へとくりだしたところなのだ。
そんなワケで。
直線的な目抜き通りが多いこの国の路地裏をちょっと入ったエリア。
ハイソで“うるさがた”なベルギー人奥様たちの目の届かぬ路地裏の一角。
ごったがえす路地に面したテラス席で、あまり美味くないカクテルをすすっている。
あちこちでシンバス団の動きが活発化し不安な情勢とはいえ、大都市圏は上辺だけでも平穏が保たれていることもあり、この小さな祭りの折り、人々はうかれ、ムリにでも騒ごうとしているようだった。
白人と黒人の子どもがふたり。ラグビーの要領で互いにボールを投げかわし、雑踏のひとびとにボールをぶつけつつ駆けてゆく。
そんな珍しくもほほえましい光景を目で追いつつ、
「しかし――この国モ、ドゥなるんですカネ?」
エグモントが面白くなさそうな声でつぶやいた。
「モブツ(※1)の野郎ガ、好き勝手ヤラかしてル。専制政治にでもなるノカ……あのクソ伍長(※2)のように……」
“クソ伍長”と言ったとき、低地ドイツ人の顔が、さらに苦々しげなものになる。
しらねぇよ、とジャンのほうは鼻で嗤い、
「でもルムンバ(※3)みてぇのがまた出てきて、アカくなるのはカンベンだなぁ。せっかく胸糞のわるいカタンガ分離のドタバタが収まったばかりだってのにヨォ」
いずれにせよ、とその後を俺は引き取って、
「今回の騒動が
「ふん!ディエン・ビィエンの仇が、ここで討てるってワケだ!クソが」
「おまえ、あの時どこに居たんだっけ?」
「“エリアーヌ
ほんのひととき。
ヴェトミン相手に繰り広げた地獄の日々がよみがえる。
「お互い、負傷して後送されたが――さもなきゃインドシナの土になってたろうな」
「早ぇモンでさァ……アレからもう何年になりますかねぇ……」
傭兵たちのあいだに、すこし沈黙がおとずれる。
それぞれが、くぐりぬけてきた死線を想い、そして時間の早さに呆ッとする風。
ジャンのお代わりが運ばれてきた。
南フランス人はウェイトレスの尻をひと撫でしてから大ジョッキを取ると、ひと息に半分ほど飲み干した。
「ぷっはぁぁぁァァァ!!!!――美味ェ!」
「オマエ、よく飲むな」
エグモントの冷ややかな声。
「そのうち肝臓イワすぞ?」
「ケッ!飲めないで死ぬより飲みすぎて死ぬ方がァ――ナンボかマシさぁ!」
ダン!
大ジョッキをテーブルに叩きつけてジャンは、エグモントをニラみつけ、
「お前ェは――どうなんだよぅ!」
「ナニガ?」
「飲めなくなるまえに、飲んどいた方が得だゼェ?」
「肝臓の病気でハ、死にたくナイ。デキれば戦って、死にタイ」
チッ!とジャンは唇をゆがめ、
「なら戦闘以外では、ちったァ明るい顔をしたらドウなんでぇ!?こんな場所まで来て陰気に収まりかえりやがって」
「この顔ハ、生まれつきダ」
「そういうコト言ってンじゃねぇんだ!」
若干トゲのある沈黙。
「いつまでも過去の亡霊に取り憑かれやがってよゥ……」
「なんダト……?」
「大事なモンを無くしたンは(……ゲップ)べつにお前ェだけじゃねぇんだぜ!」
「……」
「メソメソいつまでも死んだヤツのコトを想いだしても仕方ネェだろうが!」
「ジャン――もうそれくらいにしておけ」
さすがに俺は止めに入った。
この元降下猟兵の過去は、うすうす知っていた。
ベルリンに侵攻してきたソ連兵の一個小隊に、婚約者がレイプされたことや、部下の
15歳の少女が何十人ものソ連兵に強姦され、
「こしがぁ……腰がァァぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
涙で顔をグシャグシャにし、下半身を丸出しに路上に転がされてヒジで這っていたところを、そのままムリヤリ太い綱で街灯に吊るされ、もがき苦しみ窒息死するまで。ベルリンの征服者たちは卑猥な冗談をまじえ、ゲラゲラと笑いながら見ていたという。
命からがら復員してきたとき、
「ジャン……ダレだって、触られたくもないものがあるよ」
「あぁ!そうですとも、オレだってありやすよミシェル!」
だが、第二小隊長はブルッと頭をふるい、鋭い目をしてみせる。
この男にしては酒の回りがはやい。もしやケガ用の鎮静剤と一緒に飲ったのか。
「ウジウジしやがって、こっちまで泣けてくらァ」
「ジャン、もうよせ」
「おっ、おっ、オレだって!この野郎とおなじく婚約者を――」
「キサマ!」
二人の男が椅子を蹴倒し、テーブルを挟んで向き合った。
周囲から少なからず女の悲鳴があがる。
互いに相手をニラんで一歩もひかない構え。
エグモントの方が上背がある分、押し出しが効いた。
しかしジャンの方もケンカっ早い筋肉の塊といった風で一歩もヒケをとらない。
通りを巡回していた青いヘルメット(※4)のふたり連れが、なにごとかとFAL自動小銃を見せびらかすように左右に揺らしながら店のテラス・エリアに入ってきた。
「どうした、ケンカか?」
まだ20台の前半だろうか。ヒゲもまばらな、青臭いボウヤたちだ。
金髪に碧眼。日焼けに赤むけた白い肌。どうやら北欧圏から
「困るじゃないか、こんな祭りの日に」
「この国の人間じゃないな?――身分証は!」
「ガキぁすっこんでろ!」
よせばイイのにジャンの奴、割れ鐘のような大声で息巻いた。
「小僧どもがァ。いっぱしの
組織の威光をかさにきた、ぞんざいな態度と物言いにカチンときたのか、わが第二小隊長はさらに言いつのり、
「とっとと帰って、ママのオッパイでも――しゃぶってなァ!」
「なっ!」
青ヘル二人組は一瞬絶句する。
さらに悪いことに、ジャンの言葉をきいて回りの席からクスクスと、すくなからずの失笑がもれた。
いっそう気色ばんだ若者たちは、
「おまえぇぇぇ!ちょっと検問所に来い!」
若者の片方がジャンの上着をつかまえ引っ張る。
だが、ジャンは見かけによらぬ怪力で相手の腕をねじあげた。
「アァァ……ッ!」
なまっ白い顔が苦痛にゆがむ。
「この汚い手をはなせ……な?イイ子だから」
「きさまァぁぁぁ!」
残った青ヘルがFALの安全装置を外し、ボルトを前後させた。
こんどこそ酒場に悲鳴。
周囲にいたテラス席の客が舗装路にしゃがみこむ。
「手をあげろ!動く――」
だがその言葉は尻すぼみに消えてしまう。
まるで魔法のように、若者の手からFALが消え失せたからだ。
えっ?と、いきなりカラになった両手をみる青ヘル。
「志村ァ!――うしろォ!」
腕をねじあげられた若者が、叫んだ。
言われた方が後ろをふり向くと、FAL自動小銃を手にしたヨークが、百姓をおもわせる忍耐強いムッツリとした表情で、半眼のまま若者を見おろしていた。
「かえせ!」
「この……ガキが!」
ヨークは、相手の生っ白い両ほおを大きな片手でわしづかみにして面白い顔にしたあと、
「こんな人混みで自動小銃のセフティ外しやがって……暴発でもしたらどうすンだ!ええ!?」
ど! う! す! ん! だ!
軍曹はひとこと毎に相手の頭をガクガクとゆすった。
「……ほげぇぇぇ」
軽い脳しんとうでも起こしたものか、ヨークが手を離すと相手はヘナヘナ崩れ落ち、汚い路面に尻モチをつく。
オレは周囲の注目が自分たちに集まっていることにイライラしつつ、
「ヨーク。銃を小僧に返してやれ。ジャンも!そのガキぃ離せ。オマエがやると、ホンキで腕を折っちまう」
ヨークが薬室の弾丸を抜いて安全装置をかけ、FALを相手のわきに放った。
ジャンも邪険に青ヘルを突き飛ばし、ペッとわきに唾を吐く。
尻モチをついていた若者は自動小銃をひろいあげ、しげしげととヨークを見ると、
「あなたは……もしや、その。ヨーク軍曹……どの?」
へぇ?と一瞬、顔を見合わせるオレたち。
そうョ、とジャンが横合いから口をはさんでオレを指し、
「そして――ここに居らっしゃるのが“サムライ”マイケル中尉殿だ」
えっ!というい畏怖の色が、若者たちの目を泳がせた。
やがて片方がいくぶんドモりつつ、
「ちゅっ、中尉殿!わかりました」
「し、しかしそのぅ……なるべく騒がないで頂けると嬉しいですぅぅ」
若者ふたりは硬直して敬礼する。
「――ワかった、ワかった」
なにはともあれ、全面的に非はこちらにある。
さっさと事態を収拾し、酒にもどった方が得策というものだ。
こんなバカ騒ぎをひきおこして――恥ずかしいったらありゃしない。
「コチラも監督不行き届きでスマない。コイツらには、そう言っておく」
ハッ!とふたりの若者は敬礼。
そそくさとした足どりで去っていった。
テラス席に談笑がもどり、足を留めていた通行人も動きだし“祭りの夜”が再開される。
(……ヨーク……サムライ)
そんなヒソヒソ声とチラ見な視線がしばらく続いて。
ふぅっ、と俺は息をはき、先任軍曹があいてるイスにヨッコラせと座るのを見ながら、
「ヨーク、早かったな。すぐココが分かったか?」
「えぇ。バカがふたり、暴れてると通りでウワサになってたんで」
「ンだとォ?コイツめ!まったく目標を嗅ぎつけることについちゃ天下一品だからな!身体はもうイイのかよゥ」
「ナニ飲ム。ビール?カクテル?――おィ!おねぇサン」
ヨークの酒が来るまで、くだらない四方山話。
部隊の今後の動向や、この前の戦闘での冷やかし合い。
なにより欠乏気味な補給物資のことなど。
なじみの雰囲気が戻ってきた。
やはり気の置けないもの同士。階級を超えて、こうでなくては。
いずれも戦地を渡り歩く根無し草。最後にたよりとするのは、戦友なのだ。
その時ふと、ヨークがいつもの静かな口調で、
「そういえば――アイツ見たな」
「「「アイツ?」」」
先着組の声がハモった。
「アイツ……ってダレでェ?」
「わかッた。ミヒャエルの腰巾着をシテるヤン中尉だろゥ?」
「ひょっとして。あのマヌケな基地司令かァ?よしてくれ。酒が
いや、とヨークが注文した中ジョッキをウェイトレスから受け取りながら、
「ほら。
「――サムが?」
オレは眉をひそめた。
あの野郎。
基地からフケて、こんなトコで何してるんだか。
「あぁ、少しはなれた場所の酒場に入ってったゼ」
「野郎ぉ……裏切りやがって」
「条件のイイ給料にデモ釣られたんじゃナイノカ?」
――ようし……。
オレは腰を上げた。
そしてテーブルの中央に数枚のフラン紙幣を置くと、
「オマエたちは、ここで飲んでろ」
「隊長。まさか行くのか?」
「マジで?ほっとけよ、そんな裏切りモン」
「単独偵察ハ、アマリ感心しないナ」
「なぁに、とオレは心配するなと手をかるく振り
「一杯ふるまわれて来るだけさ。べつに“トんだ”ことを咎めにいくワケじゃない」
ヨークから店の場所を聞くと、おれは身を横にしてテラス・エリアを抜け、通りを流れる人々の流れに身をまかせた。
どぎついネオン。
叫びと車のホーン。
タバコやマリファナ。黒人の体臭。
さまざまなモノが渾然一体とした光景。
すべてが万華鏡のように、目の前を流れてゆく。
混沌としたヒトの世にとって、記憶や経験など取るに足らぬことのように。
――おっと……。
危ない危ない。
あやうくヨークから教えられた目印を見のがすトコだった。
目抜き通りから横にのびる暗い路地をすこしばかりすすむ。
野菜クズの腐った臭いや饐えたガソリンの気配をくぐりぬけて歩いてゆくうち、めざす看板を見つけた。
ヨークの偵察能力はいつもながらたいしたものだ。相手に気づかれず、こんなところまで尾行するとは。ヤツは敵の気配をかぎとる鼻を持っているとウワサされるが、むべなるかな、だ。
俺がニヤつきながら店に近づこうとしたところで、全身の毛が逆立った。
か細い裸電球の街灯がポツポツと伸びる路地の奥。
なにやら三人の人影が言い争いをしている気配。
ひとりは……なんとサムだ。
ふたりに向かい、何かを抗議しているようす。
もうひとりは、肌もあらわな白いイブニング・ドレスを着た女。
暗くてよく分からないが、基地でサムと密会していた酒場の女かもしれない。
そして――最後のひとり。
薄暗い裸電球の下でも、その髪型は見間ちがえようがない。
タンクトップからのぞく、引き締まった筋肉質な黒い肌。
痩せたほお。なにより全身からたちのぼる不敵な気配。
たくましい肩に幾重にも巻かれた包帯は何のケガか。
CIAから渡された暗殺目標の写真――その主。
そう、ドレッド野郎だった……。
* * *
※1:ジョゼフ・デジレ・モブツ
※2:アドルフ・ヒトラー
※3:パトリス・ルムンバ
※4:国連兵