※この作品はR-18です。

試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【18禁版】   作:珍歩意地郎_四五四五

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     〃    (2:転生協会の内幕

         * * * 

 

 

 お局サマから、さんざんグチられる“財政ピンチ”と妹のハデな素行。

 ようやく解放された頃には約束の1100時もだいぶ回っていた。

 

 ――まぁイイさ。

 

 作業用のプログラムなんか置き去りにした技術部に対しての、せめてもの腹いせだ。

 何とイヤ味を言ってやろうかと考えつつテレテレと地下の大駐車場に降り、トンネル状の広大な空間に天井までそびえる技術棟に行ってみれば、白いツナギを着たロック吉村のオヤジが入り口で腕組みをして待っていた。

 

「よゥ、来たか……まぁコッチへ」

 

 それだけ言うと、他のスタッフを避けるように技術棟の横をスタスタしばらく歩き、通用口のカード・キーを鳴らして中に入る。

 

 ――ヘンだ。

 

 どうも|詫びの気配を、相手から感じない。

 それどころかこのおやっさん肩をそびやかし、まるで恩着せがましい居丈高めいたものすら漂わせている。

 

 冷たい感じの灯りがつづく静まりかえった通路を、ふたりして少しばかり歩いた。

 やがて「入れ」と招き入れられたのは、小会議室・12と銘打たれた部屋。

 自動的に照明がつき、8人がけの長テーブルを浮かびあがらせる。

 イスは……なんと全部アーロンチェアだ。

 

 ――畜生!やっぱ転生協会、カネ持ってンじゃねぇか。それを、あの糞デブが……!

 

 たかだか家賃補助をケチりやがって!と、怒りがまたぶりかえす。

 単にオレ自身へのイヤがらせにしか思えない。

 でもなぜ?轢殺トラックに、一般人を乗せたからか?

 

「座ンなよ……」

 

 ロックはポケットからタバコとライターをワンセット机の上に置くと、先にアーロンチェアを足で雑にうごかして、ドッカリ腰を落ちつけた。

 

「どうした座れよ、ホラ。そういや人格障害のほうは――その後大丈夫か?」

 

 そうだった。

 

 第24話:仄暗(ほのぐら)い楽屋ウラの構造に関するエスキス(Ⅱ)の中編で、オレはこのオヤジに拷問めいた検査を受けたんだった。

 

 ――人格障害なんかじゃ無い……。

 

 傭兵部隊の中尉。

 特殊騎士団“龍騎隊”団長。

 ニコニコ転生協会・轢殺トラックドライバー。

 

 最後だけやたらシマらないが、なにがしかの因縁が、記憶が。自分にまとわりついているのは確かになっていた。その確信にとどめを刺したのが、オレが撃った傷口の痕を見せたあの酒場の女だ。

 

 ――もしかして……過去の人生?

 

 それぞれのイメージは、まったくバラバラでまとまりが無いが、どこかに共通点があるはずだと感じるようになっている。ならば、それをひも解くカギは、どこにあるんだろうか……。

 

「オィ――どしたい」

 

 おやっさんの声でわれにかえった。

 イカんイカん――いまはこんなコト考えてる場合じゃない。

 

「おやっさん、ヒドいですよ!」

 

 作った憤激で、オレは吉村技術顧問をチカラいっぱいニラむ。

 

「オレのトラックに!作業用プログラム入れたまま忘れるなんて!」

「忘れたんじゃねェ――“残しといた”ンだ!」

 

 60を優に過ぎたジジィの視線。

 細められた眼のシワの奥から、年季の入ったスルドさ。

 それが、リターン・エース気味な勢いで反対にオレをキビシく見すえた。

 意外な言葉にオレが目を白黒させ、棒のように突っ立っているのを横目にした相手は、

 

 

「まァ、座ンなよ」

 

 ――コイツは話が長くなりそうだ……。

 

 直感的にそう悟り、老技師の斜めむかいにあるイスを引く。

 互(かた)みにニラみあうこと数拍。ややあって、この嘱託顧問は頬をピクリと痙攣させ、

 

「さァて……ナニから説明したモンか」

 

 あるいは何を説明しないでおくか、とつぶやきつつタバコを一本振りだした。

 どうやら両切りらしい。ライターの上でタバコを縦に軽くたたきつけ、葉を圧縮したあとは余った紙を内側へ折り曲げる。

 

 オレは相手の思考を邪魔せず、そのロコツな時間かせぎをジッと見守ってやる。

 

「フン――よし」

 

 70年代のドラマにあるような最大火力の100円ライターで火を点し、長い一服。

 やがて深くシワの刻まれた貌(かお)をこわばらせ、ゆるゆると煙を吐きつつ、

 

「まずお前ェのAI(人工知能)……第10世代型“広域知覚・自己進化型AI”通称ネクサス・10(テン)だが……」

「第10世代ですって?」

 

 初っぱなから思わず口をはさんでしまう。

 

「ほかの轢殺屋からは――あれ、第三世代と聞きましたケド」

「あ~ほゥ」

 

 そんなチャチなモンぢゃねぇよ、とまた一服。

 ふたりの間を煙が絡み合い、よじり合いながらよぎってゆく。

 血色のわるい唇を荒れた舌がベロリと舐め、オレの方を上目づかいに、

 

「今の量子コンピュータをイクラ束ねたところで、アレにゃ勝てねぇサ。ヤな予感はしてたンだ……お前ェの話をチラ聞きしてたときから」

「……というと?」

「予想以上に進化がはやい。オィ、冗談じゃねぇぞ?まさか目標(ターゲット)データ以外にヘンなモノぉ読み込ませてねェだろうな?」

「ウッ……」

 

 思わず絶句する。

 あれはダメだったのか?

 【SAI】のヤツに見せていた、数知れぬドラマや映画。

 とても「スプラッタ・シネマからエロアニメまで幅広く見せていました」とは言えない雰囲気だ。

 

「……やッぱナ」

 

 ロック技術顧問は舌打ちして、また一服。

 アーロンの背もたれを深く倒し、天井にむけて煙をはいた。

 

 この会議室のまわりは、異様なまでに静かだった。

 ジリジリとタバコの葉が燃える気配までよく聞こえる。

 まるで防音室か秘密の実験室、あるいは医療設備のよう。

 気をつけろ――とオレは唇を噛み、自分自身に言い聞かせる。

 

 ――これから少なくとも、何かのヤバい事実をブチまけられるようだぞ……?

 

 心の準備をするまでもなく、ロック・ヨシムラはズバリ、言い放った。

 

「お前ェが言うところの【SAI】とやらは……転生幇助(ほうじょ)トラックから“ Eliminate”したよ」

「イリミネート(排除)……?」

「正直、あそこまで育っていると手に負えねェ。“Delete(削除)”や、ましてや“Exterminate(根絶)”なんて、出来るハズもねェ。だがトラックのデータからWiping(払拭)はさせてもらったゼ」

「……どういうことです」

「つまりお前ェは……」

 

 老技術顧問ははポケットから携帯灰皿を取り出すと、吸い残した両切りタバコをギリギリと、力まかせな手つきでそれに押し付ける。

 

「もう二度と“SAI”なんて化け物AIにゃ、お目にかからねェってコトさ」

 

 オレは片手で顔をゆっくりとこすった。

 「排除」という言葉が、どうも頭にしっくりこない。

 

 ――あのクソ生意気な【SAI】が、もういないだって?そんなバカな……。

 

 そんなオレの顔を読んだのか、相手は顔つきを厳しくし、身を乗り出して睨(ニラ)みつけ、

 

「イイか?――制御AIは“ペット”なんかじゃねぇ。あくまでトラックで人間を処分し、異世界に転生させるための「道具」なんだよ!よけいな知恵を、つけさせるんじゃねぇ……」

 

 ロック技術顧問の凝視が止まらない。

 汚れた白目をもつ瞳の奥に、冥(くら)いカゲがある。

 なんだろう。ナニかをホンキで恐れてる――ような。

 

「とくにだ!ドライバーとAIとの関係は『1対1対応』でなきゃならねェ。複数人格を内包させンのは絶対避けなきゃダメなんだ!」

「……」

「トラックの始動は、物理的なキーを使っているだろ?」

「……はぁ」

「あれは複製が非常に難しいキーだ。昨今の車のように、指紋認証式のスタートボタンじゃねぇ。それにゃ理由がある。他のトラッカーとのコンタクトを避けるためさ」

「……と、いうと?」

「ヤツらは轢殺トラッカーの“パーソナリティ”を「経験値」として欲しがってるンだよ」

「経験値?分からないな。自分のドライバー以外の人格データを欲しがるってこと?」

「そうだ!それもなるべく多く!!」

 

 そこに冗談めいたものは微塵も感じられなかった。

 トップライト気味の照明が老技師の目にカゲをつくり、まるでドクロめいた印象。

 

「……分からないな。そもそも人を撥ねたり轢いたりするトラックに、なんでソコまで高度な制御コンピュータが必要なんだい?」

 

 オレの問いに、いくぶんゲッソリとした声で相手は、

 

「それは、言えねェ。少なくとも……いまのお前ェにゃ」

「じゃぁ分からないよ。そんな勿体ぶった言い方されても――」

 

 だがコレだきゃ覚えとけ!とロック技術顧問は急に語気を荒げ、

 

「以前(まえ)にな?指紋認証式タイプのトラックで、トラックAのドライバーが、別のBというドライバーを殺し、その人差し指を切断して、Bドライバーのトラックを起動させたことがある」

 

 しばらく思わせぶりな沈黙。

 仕方なしに、オレは先をうながした。

 

「なんで――そんなことを?」

「調査の結果、下手人のドライバーは、自分のトラックのAIに思考誘導、ハヤい話、洗脳されていたことが分かった」

 

 洗脳?とオレは眉をひそめる。

 

「轢殺トラックのAIが?まさか」

「トラックAとトラックBのAI同士が結託したログが辛うじてみつかった。ヤツら、情報を抹消し、偽装工作までしてやがったんだ」

「……」

「指紋認証式のスタート・ボタン起動が廃止されたなァ、それからサ」

「……いつの話です?」

「さァてねェ。もう10年ぐらい前になるかな」

 

 ――AIを信用するな……か。

 

 重(シゲ)さんの言葉がよみがえる。

 あの爺サンは、このことを言ってたのだろうか。

 急にトラックの頭脳である人工知能が怖ろしくなる。

 が、オレは首をかるく振ると、すぐにその考えをうち消した。

 

 ――いや、そんなまさか……あの【SAI】に限って……?

 

 映画好きで、皮肉屋で、凝り性で、流行りモノに弱い。

 好奇心旺盛、そして変に気をまわす。今となってはいい相棒にすら思えて。

 離婚したての荒んだオレを、ずいぶんとクダらんジョークで慰めてくれたものだが。

 

「連中が……AIたちが、そこまで人間のパーソナリティーを欲しがるのって、なんなんです?」

「さぁて、ソコだ……」

 

 老技術顧問はもう一本、タバコを振り出した。

 

「なんです?もったいぶってないで教えて下さいよゥ」

「お前ェはナァ……さっきも言ったが、どぅもアブなっかしくて、信用できねェんだ」

「ドコがです?」

「転生幇助車(トラック)に一般人なんか乗っけやがって。アレ相当問題になったんだぞ?どういうカラクリか知らねぇが、お目こぼしになったみてェだが……」

 

 なるほど、アシュラの言う通り。

 “六道ビルヂング”の手が、肩にかかっていたのは事実らしい。

 あの無味乾燥とした巨大な“審判”システム。ちょっと不気味だ。

 考えてみれば、自分が所属する組織のことをあまりにも知らなさ過ぎる。

 だれか事情通の人間と、つなぎを付けておきたいところだ。誰かいないだろうか……。

 

「そういえば、重(シゲ)サンって、いまドコに居るんです?」

「シゲの野郎なんざ、知ったことか!!」

「……でも。懇意だったんでしょ?」

 

 いいか?とロック技術顧問はタバコを点ける前の儀式をやめ、またもギロリとコチラをねめつけ、

 

「あまりヘンなところに首を突っ込むな。お前ェは大人しく、言われた人間を異世界送りにしてりゃイイんだ!」

 

 その口ぶりには苛立たしさに混じり、またも若干の怕(おそ)れが混じるのをオレは聞き逃さない。

 うまく点かない100円ライターを腹立たしげに何度もこすって、ようやく相手は最大火力の火を出した。

 

「シゲか……」

「轢殺ミスって、どこかに飛ばされたらしいですけど。所長にも聞いたけど“そのうち教えてやる”の一点張りで」

「あのデブが、そう言ったのか」

「えぇ」

 

 もちろん、コレはウソだ。

 少しでもこのおやっさんを揺さぶって、情報の果実を落としたい。

 フ、フ、フ、と嗤いにまぎれ、ケムリが相手の口からふきだした。

 あンのクソ野郎……と独り言も。

 

「良いか?――マイケル。サービスに一つ教えといてやる」

 

 相手はいくぶん声のトーンを落とし、

 

「転生協会は“一枚岩”じゃねぇんだ。あらゆる方面からの思惑が、複雑にカラみあってる」

「あらゆる方面って……」

 

 また漠然とした説明。

 いきなりンなこと言われても困る。

 例に漏れず、この会社でも取締役会の派閥争いがあるのか。

 

「組織の外ですか?それとも内側?」

「両方だ!」

 

 ロック技術顧問は、ことさら力強い調子で言いはなった。

 

「海外のからみ、政府とのからみ。社内でいえば親分の系列はもちろん“営業方針”の違いからくる軋轢(あつれき)もある――現に技術部と営業部は、仲が悪い」

「営業部、ってトラッカーたちのこと?」

「いいや、その活動計画を立案する上級組織だ。この事業所にゃ居ねェよ」

 

 もうワケが分からん。

 海外?政府?やはり転生幇助をしているのは、日本だけじゃないのか。

 そういや以前渡された装備品は、ヘブライ語の注意書きがあったっけ。

 潤沢な予算。警察のデータや、監視衛星まで割り込める権限。

 いっそ『ニコニコ転生協会』のホンモノの組織票がほしい。

 もっともこんなコト言うと、目の前のおやっさんにどやされ了(ちま)うだろうが。

 

「いいか。今言ったコトぁ所長にはナイショだぞ?お前ェは、まだ何も知らない方がイイ。少なくとも――“まだ”な。今日だってアヤしまれねぇよう「昼メシをオゴる」という口実で会ったんだから」

「え」

 

 なんだ、本当にメシ奢ってくれるんじゃないのかと内心ガッカリしつつ。

 

「所長と技術部も、仲ワルいんですか?」

「イロイロあンだよ。イロイロと」

「……はぁ」

「ここの会議室は、完全に外部からシャット・アウトされてる。用心の上にも用心なんだ。お前ェも社内で、ウカツなこと喋るんじゃねぇぞ?」

 

 さ!ハナシぁ終わりだ!と老技術顧問はタバコの火を携帯灰皿に押しつけた。

 白い煙が長々と吹かれる。

 虫歯でもあるのか、シーッと息を吸い込んで歯を鳴らし、

 

「新しいAIをテスト用の目標で試してみてくンな。使ってみた感想は、技術棟の入り口にある『ヨシムラ』と書かれた社内便受けに入れといてくれ。くれぐれもネットを使うな?」

「そんなに、用心する必要が――社内で!?」

「だから甘ェってンだよ」

 

 会議室の扉をあけ、ロック・吉村はフンと鼻をならした。

 

            * * *

 

 裏口から技術棟を出て長いこと歩き、馴染みの整備区画へ向かう。

 勝手知ったるこのエリアまで来ると、なんとなくホッとした。

 

 そうだ。あの技術棟。

 

 なんとなく『六道ビルジング』に似てるのだ。

 事務フロアで端末をたたく制服OLたちの印象と、六道ビルの受付嬢や“書記”の女にイメージがピッタリ重なるのだ。おかげであのクソ女のイヤな記憶を思い出した。

 

 管理部まで来ると、整備部長の“M”とバッタリ。

 

「よぅ、マイケル。散々だったようだな――そんな顔して」

 

 一瞬、ナニを話していいのやらとまどう。

 汚れた整備服と相手のうすくなりつつある頭を等分に見ながら、いつもトラックにヘンなギミックを付けたがるこの装備担当の親分も、やっぱりどこかの派閥に入っているんだろうかと考えてしまう。

 

「どしたァ?ヘンな顔して」

「あぁ、いや、別に」

「コード001なんて、久しぶりに出たからナ。何事かと思った」

「前に出たのはいつです?」

「えぇと……もう10年ぐらいにはなるかな」

 

 ――例の事件の時だ……。

 

「警備部も久々に見たぜ。普段隠れてるけど、やっぱ居るんだナァ……」

「アセりましたよ自分は!いきなり銃突きつけてくるんだから」 

「おまけに“001”は誤報だって?フンだり蹴ったりだね」

「えぇ。なんでもデバッグ用のS/W(ソフトウェア)が入れっぱなしになってたとか。技術部のロック顧問から詫びを入れられましたよ」

「あぁ、メシを奢ってもらったそうだな?」

 

 ――えっ……。

 

 

 なんだろう、この情報の早さ。

 アチコチで聞き耳が立てられているような。

 オレがヒヤリとする間もなく『M』は身を寄せてくる。

 機械油の気配にまじり、中年男のくっさいオーデコロンの臭い。

 

「あの技術顧問には気をつけろ? ウラで「なんか」やってるってハナシだ」

 

 ほぅら、でたよ。

 ニコニコ転生協会の暗部。

 いったいココの組織はどうなっているんだろう。

 今までは日々の轢殺に手一杯だったため考えるヒマがなかったが、少し余裕が出てくると妙に気にかかる部分がある。

 

「ウラで……ってなんです?怖(お)ッかないな」

「しらんよ。ただ退職した人間が嘱託(しょくたく)の身分で継続して業務に就く、ってケースは、この会社であまりない。一部の人間に、重宝がられている証左(あかし)さ」

「どんな風に重宝がられてるんです?」

「知らんよ、そこまでは」

 

 『M』部長は急にソッポを向いた。

 

「ただ君には気をつけて欲しい。それだけ言いたかったんだ」

 

 オレは必死に食い下がった。

 

「この協会の――会社の会社の派閥、って言うんですか?それじゃ整備部と技術部は、あまり仲が良くないんですね?」

「言い方にもよるなぁ……」

 

 50がらみのこの男は、相変わらずソッポを向いたまま、

 

「とにかく、ヤツらが開発して持ってくる品は……何ていうかその、使いづらいんだ」

「へぇ?」

「規格も独特でね。JISですらないものもある。「インチ」ネジなんてフツーだし。まず車体に“ポン付け”が出来ないから、いつも苦労するよ。使ってる素材もチタンだ高張力鋼だと、フツーのSUS(ステンレス)やアルミなんかじゃないからサンダーで修正するにも一苦労ときてる」

「でも……“転生装置”とやらのメンテナンスは、こっちでやってるんでしょ?」

 

 とんでもない!と整備部の親分は驚いたようにオレの方へ向きなおり、

 

「ウチらができるのは、あくまでトラック本体のメンテだけ。載せてるシステムは封印されててな?整備部じゃイジれない。腹いせに面白い装備をつけて、楽しませてもらうのがせいぜいサ。ドゥだい、あの“仕事人”風な飾り房つきの槍(スピア)。【SAI】のヤツ、気に入ってるだろ?」

 

 オレは思わず苦笑する。

 あの“ウンコ少女”事件のとき。

 目標少年の脳髄にブッ刺した時は、たしかに嬉々としていたが。

 

「ヤツの頼みをホィホィ聞かないで下さいよ?毎回ヒヤヒヤしちまう」

「そこがせめてもの愉しみでね。こんなコトでもないと」

 

 イタズラっぽそうに笑うと、『M』は整備区画にもどっていった。

 オレの方は方向を少し変えて管理部に行き、自分のトラックのキーを改めてもらう。

 そこでまた自分より若いメカニックに取り囲まれた。

 

「マイケルの兄ィ!聞きましたよ?001!」

「誤報でホント良かったッスね」

「あの銃持ったヤツら初めて見ました。ヤバくなかったですか?」

「“お車”のメンテはバッチリ!いつでもイケます!」

 

 彼らの熱気を、気弱な愛想笑いで適当に受け流しつつ、当直の女の子からキーを受け取ったオレは、ある種の予感と共に自分のトラックへと向った。

 

 ふと。

 コンクリの壁にある、黄色と黒のシマでふちどられた消火用設備入れの扉が目にとまる。

 いまではアレが、秘密の通路の入り口であることも知っている。

 武装した警備員。ニコニコ転生協会の軋轢。ヤバ気なウワサ。

 アフリカ傭兵戦争の夢から覚めてみると、なにか世界が一変したような気味がある。

 

 自分のトラックの正面に再度、立ってみた。

 

 ――ふん……。

 

 妻に逃げられ、破れかぶれになった時分、曲がりなりにも心の拠りどころとなった車だ。

 何度このなかで【SAI】といっしょに張り込みをし、あるいは冷や汗をかいたか。

 いまとなっては、よく身体になじんだ服のような心安さも感じる。

 

 トラックのドアを開け、ヨィセと運転席に乗り込む。

 

 いつもの匂い……。

 

 いつもの気配だ……。

 

 深呼吸1回。

 

 運行管理部から渡されたトラックのキーを、おそるおそる差し込む。

 

 一段目のスイッチをON。

 

 ふたたび二次ジェネレーターの金属的なタービン音が立ち上がってゆく。

 蓄電量が規定状態に達したことをしめすランプがイエローからブルーに。

 各種の警告音とともに次々と灯がついて、コンソールはにぎやかになってゆく。

 やがてすべての電装系が生きかえると、発車の準備が整ったことを知らる電子音。

 

『発進準備――完了しました』

 

 聞きなれない語勢(トーン)が、キャビンに響いた……。

 

 

 

 

 

 

                                     

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