試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【18禁版】 作:珍歩意地郎_四五四五
* * *
「……【SAI】?」
『過去ログに、ワタシへの呼称として発声される事例を確認。了解・しまシタ』
御用は何でしょうか?マイケル様、とAIは慇懃な調子でたずねてくる。
『発進の準備ハ、すべて整っております』
「……そうだな」
オレは大径のハンドルをトントンと叩きながら試しに、
「そういや最近、なにか面白いシネマでも見たかい?」
『――ピッ。
「そういやサ。オマエの好きな絶版モノのディスク。手に入ったんだけどナァ」
『――ピッ。
「『M』のヤツに新しいギミックをもらうのは、どうだ?フロント・グリルから機関砲を……」
『――ピッ。
胸が締めつけられるように苦しくなる。
うらぎられ続けた人生だった。
仕事でも、家庭でも、私的なことでも。
ボロボロにされ、自分の心は不感症になっていると信じていた。
ロックのヤツに言われてからというもの、ある程度の覚悟はしていた。
しかしそれでも――この現実は、すこしばかり胸に“来る”モノがある。
いままで積み上げてきたものが崩壊し、瓦礫となるイメージ。
ただ、ただ、呆然とするしか無い。
昔だったら、ロックのところに怒鳴り込んだだろう。
悲憤したり、声に出して嘆いたり、あるいはモノに当たり散らしたかもしれない。
だがそんなことをする気力も起きず、黙然とするだけなのは……オレが老いた証なのか?
『マイケル様。発進準備・完了しております。
「……すこし、ダマってろ」
『了解いたしまシタ』
確かに、あのクソ生意気な【SAI】は、もういない……。
ヒタヒタと絶望感が寄せてくる。
これから先、アイツ無しでも転生補助活動ができるだろうか?
なんだかんだと言っても、頼りにしていた部分は大きい。
急に薄ら寒くなってきた。
いってみれば少数の騎馬で散開夜襲をかけた結果、集合場所に一騎も現れず暗夜、孤身を寒風にさらしつつ全滅を疑った時のような。
あるいは。
混乱する戦場で部隊が散り散りとなり、
そんな途方もない孤立感。
――ちくしょう……。
おもわず声ひくくつぶやく。
仲間が――戦友が、懐かしかった。
背中を預けられ、肩を並べて戦える男たちが。
『龍騎隊』の
ニキティ伍長やスヴォヴォダ曹長。
騎士修練校時代の旧友たち。
あるいは。
コンゴ傭兵部隊でのジャンやエグモント。ヨーク。
あるいは女ったらしのラルゴ。
そのほかガサツではあるが、信頼に足る“腹の据わった”野郎共たち。
急に、21世紀の恵まれた現代にヌクヌクとしている自分という“存在”が、強烈な違和感――というか“異物”として感じられるようになる。サルトルなら、それこそ嘔吐でもしてたかもしれない。
『 な ん で オ レ は こ こ に 居 る ? 』
生まれる時代を間違ったような。
あるいは居る場所が、根本的にトチ狂っているような。
――いっそのこと……。
こんな“転生”とか称して人を
あるいはそこまでしなくても、海外で自分の身体をメチャクチャに酷使するのもいい。
砂漠を
廃墟を駆け、
星空のもと野宿をする……。
とはいえ、そんな生活は今の貯金じゃ5年も持たないだろう。それじゃぁ、法外な手数料を取る裏の稼業について、法の裁きから逃れた悪党を“仕事人”よろしく闇にまぎれて殺すか……。
と、ここまで考えたとき、
――いやまて。これって今の仕事そのものじゃないか……?
「はぁぁぁ……っ」
長いため息をついた。
新しいAIは、こんな時にも無反応。
ヤツなら『どうしました?生理ですか』とか、下品なギャグを飛ばしてきたが。
なんと言うか“不完全燃焼”というか。とにかく張り合いが無いことおびたたしい。
「【SAI】……いや……」
コイツが【SAI】なんかであるはずがない。
単なるAI風情を、アイツとお案じ名前で呼ぶのはイヤだ。
どうする?――このデキ損ないを、なんと呼んでやるか……。
そのとき、部隊にいた人足のことを、フイに思い出した。
ダミーのトラップを仕掛けるのが上手く、中隊の遅滞戦術に大いに役立っていた。
黒い顔に歯の抜けた満面の笑みを見せ、自慢の作品を高々と誇らしげに見せたものだったが。
「そうだな、新型の実装AIさんよ……」
知らず、オレは嘲るような口ぶりでメーター・パネルを見下ろし、
お前の名は……「バンディーア」略して【バンディ】だ。以後、そう呼称する」
『了解しました』
そう応えてからこのAIは、
『「バンディーア」というとスワヒリ語で「にせもの」の意味ですね』
フン!と自分でも下品と思われる攻撃的な嗤いが出た。
「腐っても量子コンピュータAIサマ、か!検索だけは――ハヤいじゃねェか」
『恐縮です』
相手は別に気分を害した風もなく、淡々と反応してみせた。
まぁ、これが車載AIが持つフツーの反応ってヤツなんだろう。
――おぅし、そうだな……。
ウジウジしてても仕方ない。
明日の晩酌のために、今日を稼がないと。
黙っていたってハラは減る。みんなアップアップで暮らしてるんだ。
考えるのは一旦保留にして、自分の寮に帰ってから思い悩むことにしよう。
「オし【バンディ】、今回の
『
メーター・パネルの上に3Dの立体画像が浮かび上がり、今回轢き殺して異世界へ転生させる目標の不良少年像がゆるやかに回転する。
『
本名。
生年月日。
両親の情報。
外見的な特徴。
&なにより犯罪履歴。
バイクの離脱物拾得横領から始まって、障害。恐喝。強制性交等致傷。有印私文書偽造まである。
父親が土地の有力者で、司法機関に圧力をかけた結果、未成年ということもあり少年院すらスリぬけて、都会の4LDK億ションにいる。
ひきこもり、自殺、精神を病んで措置入院となった女たちは数知れず。
しかし、これだけの犯罪オンパレードでも、もはやオレの胸はピクリとも波立たなかった。
なぜならこの手のガキでは、例の強制的な性転換手術を懲罰的に施術され、おそらくいまも『紅いウサギ』で黒人の野太いチ○ポをしゃぶらされているであろう元・
(第22話:肛門と拷問(A面/B面)参照)
――だが、これなら心置きなく
ふぅ、とすこし安心。
と、そのとき盛大にハラが鳴った。
ロックのやつめ。説明だけでなく本当に昼メシをオゴってくれても良かったのに……。
時間をみれば、もうすぐ1300だ。
よぅし、いっちょコイツをためしてみるか。
「【バンディ】、以前行ったラーメン屋の位置は覚えているか」
だが、新AIの返事はツレなかった。
『過去ファイルに行動ログはありません』
「昼メシはラーメンとする。**街区で評判のいい店を探せ」
『営業中の店舗で8軒を確認。味の系統は、いかがなさいますカ』
うぅむ。
はじめてコイツの声を聞いたときから、妙なイントネーションがあるのに気づいている。
やはり【SAI】と比べると、格下の機能なのか。それとも経験値が無いだけか。
「おまえ、微妙にナマるな……」
『訛る、とは?ワタシの発声言語に標準から外れたイントネーションが存在するという意味でスカ』
「ほら。それだよ」
『オートスキャン実施――終了。確認できませんでシタ』
ふむ。
妙なところでチョッとズレている。
コイツをオレ流に育ててみるのも面白いかもしれない。
「よぅし、8軒だな」
『再確認・終了。営業中では、ソウです』
「では、その中で良さそうな店を3軒までえらべ」
『――ピッ。用件エラー。マイケル様の嗜好が
「そこを何とかするのが貴様の役目だろうが!【バンディ】!」
傭兵部隊仕込みの癇癪が思わず炸裂した。
出来のわるい従卒を叱りつけるように、一喝。
「以後――肝に銘じておけ!分かったな!」
『
「ようし、イイだろう!」
それでは行こうかと1次ジェネレーターのキーを回そうとしたオレは、ギクリと動きを止めた。
「まて、サ……いや、【バンディ】。貴様なぜオレのことを中尉と呼んだ?」
『――ピッ。
「キサマは!いま!……オレのことを!中尉と!呼んだな?」
『はい』
「まて。なぜ
『音声に怒りの感情が添付されていまシタ。Sawaとお答えするコトで、ご気分を害したモノと判断しましタ』
「それは良い。べつに気分など害してない。問題はそのあとだ。オレのことを
『
「なぜだ。理由をのべよ」
『――ピッ。用件エラー。理由が見当たりません』
「オマエの回答用ボキャブラリーを精査!」
『――ピッ。用件エラー。ファイルに理由付けの条項が見当たりません』
なんだァ……?
第10世代の自己進化型ナンチャラじゃないんかぃ。
結局【SAI】の代わりにはならない、ボケAIをあてがわれたってコトか。
しかたない。これはどうやらイチからアプローチを組み立てなくてはいけなそうだ。
「分かった、分かった。今ある条件で、適当に店を探せ」
『――ピッ。用件エラー。選別のためのファクターが見当たりません』
「貴様の今持っているファクターから類推して選択せよ。合否はとわない。これも経験値だ」
経験値、と新AIである【バンディ】は嬉しそうに、
『了解しました。それでは発進致しますか?』
「オマエの技量を見たい。目的地まで、完全自動運転」
『
一人と一台は地下の大車庫を這い出して、そろそろ夏の気配を感じさせる晴天の下を走りはじめる。
だが――走り出してすぐに分かったのだが、この新型AIの運転は、お世辞にも巧いとは言えないことがわかった。
「まてまてまて!――もう少し車間距離をとれ!」
『本車に装備されている特注のブレンボ・キャリパーは、この距離でも十分な制動力を発揮しまス』
「そんなに接近したらアオり運転だと思われるだろうが!」
高速に上がったときは、コレがさらに酷さを増した。
「ウィンカーが遅い!見ろ――追い越し走ってきた後ろのフェラーリにホーン鳴らされてるじゃねーか!」
『制限速度は遵守しております。違法車両は無視します』
「“車の流れ”に乗ンなきゃダメだろうが!あーホラホラ!もうすぐ分岐だ!」
結局ヒヤヒヤのしどおしで裏通りにある小汚いラーメン屋に着いてみれば、店はガラガラで、とても人気店とは思えない。
注文してすぐに出てきた『店長イチおし!』と称するモノも、麺は固く汁は塩辛いだけで、生活習慣病に一直線な代物だった。
もし、AIとリアルタイムでリンクする「コネクター」が返却されて耳に装着していたら、表に駐まっている【バンディ】を怒鳴りつけ、カウンターの向こうで頭に白タオルを巻く兄キたちに“イッちゃってる客”と思われるところだった。
背後でガラガラとガラスの引き戸を開ける音。
「え、ラッシャイぃ~!」
――ったく。かけ声だけは一人前だぜ……。
もう二度と来るか!と半分ほど食い残して席を立とうとしたとき、ガッ!と肩に手がかかった。
振りむくと、トレンチ・コートのデカい姿。
割れたケツあごが印象的な大きい顔が破顔一笑、
「おや!こんなところでお昼ですかな?表のトラックは違法駐車ですぞ!」
「銭高刑事……」
「やや!美味しそうなモノを食べておりますなァ」
「……場所を変えようと思ったトコですよ」
「まま、そうキラわなくてもイイじゃありませんか……おい、にぃチャン!俺にも同じモノをくれ!」
「嫌う、だ?よく言えますね、そんなコトが」
思わずオレの声はトゲトゲしくなる。
「ひとをオトリにしておいて……」
賢明なる精鋭読者の方々は、覚えておいでになるだろう(……古い)。
第23話:錯綜する分岐点(3)でコイツの張り込みに付き合わされた挙げ句、“
「で?今日は。いったい何の用です」
「なぁに。最近出番がないから精鋭読者の皆サンに忘れられてるんじゃないかと思いましてな」
バチーん!と画面のこちらを向いて強烈なウィンク。
「……はぁ?」
「ナぁに、冗談、冗談。ちょっとしたパーティー・ジョークですて……」
なにがジョークだよ、とオレは相手の厚かましさに心底ウンザリする
そういやコイツの相棒が――たしかミッチーと言ったか――『紅いウサギ』の潜入捜査中に“馴致室”で“女の秘所”に装具をつけられて調教されていたのは、どうなったんだろうか。
(第18話:“紅いウサギ”の遥夜(2)参照方:ただしエロ注意)
彼女の内偵による警察のガサ入れも、結果的に失敗したと『美月』から聞いている、この男も署内でだいぶ立場がヤバくなったコトだろう。
「ところで――」
と、隣の席に座ったゴロワーズ臭い身体がコチラに身を乗り出したときだった。
「ヘイお待ち!」
ラーメンどんぶりを乗せた盆が銭高のまえにドカン!と置かれる。
汁がハネ、春秋モノの薄手なトレンチ・コートのそで口にシミを作った。
しかし、この警部補どのは、べつだん気にする風もなく盆に置かれたハシを取る。
――ふふふ……その塩辛さに、驚くがイイ。
オレは不人情にも腹の底でわらう。
相手はいかにも早食いに慣れたような手つきで麺をたぐった。
――だ……ダメだ……まだ笑うな。こらえるんだ。し、しかし……・。
だが――何としたことか。
コチラの期待を裏切り、この警部補どの、顔色ひとつ変えずフツーに食ってやがる……。
「銭高さん?」
「ゾゾッ……ズゾゾゾz……っ……んぉ?」
「それ、塩辛くないスか?」
「ズズスっ……じゅるじゅるじゅるッ……塩辛い?……(ハァハァ)まぁ我々は汗をかいて情報を集めますからナァ。塩辛いぐらいが、ちょうどイイんですナ」
「会社の……いや、組織の健康診断に引っかかりません?」
「あぁ――ンなもの」
この男はシナチクでも挟まったのか、歯ぐきの奥を割り箸でせせりながら、
「γーGDPやコレステロール、みんな引っかかりまくりですわィ。それに血圧まで」
だろうな、とオレは最後の言葉に暗い満足でうなずいた。
「だがコレも“お役目”のため。体調なんか、イチイチ気にしとらりァせんのです!」
「さすが……目標を見つけたら、一直線という感じですねぇ」
「なんと言われようが結構!手段は選んでおられませんて!」
「こないだみたいなのは、もうコリゴリですよ」
「ワかっとります!」
銭高は、こちらの背中をバンバンと馴れ馴れしく叩き、
「その節は――ご厄介になりました!よろしければ感状の一つでも手配しますぞ?」
「けっこうですよ!そんな」
ここでオレは思いっきり毒づいた。
「そんな“尻ふき紙”にもならないようなモノ!」
「同感ですな」
相手はシレッとそれを受け流す。
カエルのツラに小便だ。まるで動じない。
職務の間に、酷い言葉をいろいろ投げつけられて来たんだろう。
「醤油とんこつ」の汁まで飲み干した警部補どのは盛大にゲップをしたあと、正面を向いたまま、
「ときに――アナタは『紅いウサギ』という店をご存知ですかナ……?」
いきなり美香子――『美月』の店を口にする。
高校生である彼女がバイトしているということで、それを口実にガサ入れするつもりだろうか。
どういうわけか、オレは瞬間的に反応することが出来た。
さりげなくスッとぼけた風をよそおい、
「あぁ……そういえば銭高サンにレンタカー乗っ取られたあと、店のまえを通過したことがありましたっけねェ?エラく御執心な様子でしたが……なにかの調査だったんですか?」
「うぅ……マァ、そんなことがありましたナァ。おっとっと!ゴマかされはしませんぞォ?」
銭高は特徴のある二つに割れたアゴをクッと突き出し、
「アンタが、あの店の常連であることは監視カメラから分かっているんですぞ!」
口調が心もとない。
原価を過剰に申請するメーカ担当者特有のくちぶり。
さては正規で入手した情報じゃないな?とオレは素早く値踏みした。
「へぇぇ……監視カメラの情報を押収したんですかァ」
「……」
「こんど、『紅いウサギ』の店長に聞いてみますよ」
あれだけ
さすがは女性刑事。
知識の量。意思の強さは、そこいらのオトコ顔負けだろう。
潜入捜査のことを突っ込まれたら銭高はイヤがるはずだ……と思ったら案の定、相手の顔が渋面にゆがむ。
「それは……まぁ。いろいろありましてナ。それより、やはりアンタはアノ店の常連……」
「ハ!あんなクソ
「オレは
「ただの運ちゃんにしては、よくあんな店にいく金がありますな?」
「まえの職業のカラミでね。経営コンサルタント、というか組織の綱紀粛正を指南するというか、まぁそんなトコです。店が警察にマークされてるとあれば、オレは店長にその旨伝えて手を引きますよ。警察ざたになっていることを伝えてね」
マ、まぁまぁ!と銭高は妙にアセりだす。
「そういうワケじゃないんですな。そういうワケじゃ……」
相手はポケットからゴロワーズの紙パックををとりだし、一本を口にくわえた。
すると、店で一番大柄な兄チャンが、カウンターの向こうから、
「お客サァン、
「フン。どこもかしこも禁煙禁煙。世の中の変化がハゲしすぎますナァ……お勘定!」
店の外に出ると、見覚えのある黒いセダンがトラックの後ろに駐まっていた。
運転席には、スーツ姿の見知らぬ若い男。スーツが板についておらず、人相もワルい。ヘタをすれば振り込めサギの“受け子”だ。
「なんです?アレ――今年の
銭高が苦笑を浮かべる。
「上から押しつけられましてナァ……」
「あなたの下じゃ、
「それなんですが――」
銭高はポケットを探ってゴロワーズを取り出すと、火をつけて大きく一服した。
歩道を歩いてきた乳母車を押す若い母親連れが、汚いモノでも見るように銭形をニラみつけ、わきを通り過ぎていった。
「じつは、まぁアンタだから言うんですが、あの店を調べてたンです。あの彼女を使ってですな」
「えぇっ!内偵ですか!?」
オレはワザとらしくならぬよう、適度に驚いてみせてから、
「おとり捜査とか、その手の類いって禁じられているハズじゃ?」
「オトリ捜査なんかじゃありません。あくまで“違法な警察官のアルバイト”であり、そこで偶然知った情報!という筋書きでしてナ。前にも言いましたが“
「コトがおおやけになったら、あの女性刑事は?」
ソコは……と銭高は顔をしかめ、オレの視線からソッポを向きゴニョゴニョと、
「なるべく大げさにならぬよう、本官が責任をもって手を打ちます!」
頭上の電線にとまったカラスがギャァ、と一言啼いた。
「――チッ!」
銭高がトレンチ・コートの腕を払った。
どうやらフンをされたらしい。
「アンタはあの店のオーナー……『小男』とか言いましたナ?その人物と親しいのでしょう。それとなく彼女の動静を、探ってきてくださらんか」
「居なくなったんですか?――あの女性刑事」
イヤな予感。
女性を大切にする『小男』だ。強制的な人身売買などには手を染めてないだろうが、それでも『紅いウサギ』のただならぬ性質を知ると、一抹の不安はのこる。もしや
「一応、長期休暇という形はとりましたが……メールやラインにも出たり出なかったりで、本官と会おうとせんのです!」
憤懣やるかたなし、という相手を横目にしつつ、オマエのクサい黒タバコの臭いに愛想が尽きたんだろ?と口まで出かかるが、さすがにそれは言わない。
この警部補は真っ黒なスポーツ・シューズで足もとの空き缶をガシガシと踏みつぶし、
「おまけに――渡された内部情報はマチガイだらけで、総力をあげたガサ入れが空振りに終わったんですゾ!?署長の顔もまるツブれで、けっきょく全部ガセ情報だとされましたが……本官ァ諦めとりません!――アキらめませんぞォ!」
血走った猟犬の目が、オレを見据えた。
* * *
結局『彼女を店で見かけたら職務に復帰するよう説得する』というワケの分からない約束をさせられ、覆面パトカーは去って行った。
それを見送るとオレの方は、この出来損ないのAIに日本の交通の作法から教え込むべくトラックに乗り込んだ。
「ヤレヤレ……」
『……』
反応が無い。
いつもの【SAI】ならがすぐさま『ボクはボッキした……』くらいの茶々を入れてくるのだろうが、【バンディ】のヤツは黙ったままだ。コイツ本当にAIなんだろうか。
「ようし――いいか?つぎは轢殺目標がいるエリアを下見だ!オレの運転を、よく見ておけ!」
『了解しまシタ』
キーを回し、一次パワー・ユニットを始動させる。
オレはクラッチをエイやと踏みつけ、重量級の轢殺トラックを発進させた。
――【SAI】が居りゃァなぁ……。
と、そんな想いが、また頭をよぎった。