二話分に分けると切りが悪いので、一話分で投稿します。
ライザーの肉棒で膣内を掻き回されながら、グレイフィアは普段との相違点に気がついた。ライザーは確かに雄として優れた男性器を有しているが、これほど肉厚だっただろうか。太くて熱いものが中で擦れるだけで刺激が背を駆け昇って脳を喜ばせてしまう。
違う。こんなものはまやかしだ。互いに愛し合った者同士の間で生じる快感であれば文句はない。しかし、グレイフィアはライザーを愛してはいない。この男は人の弱みにつけこむ下衆、愛する夫の足元にも及ばない低俗さだ。向こうから一方的に向けられる愛情などで昂ぶってなるものか。
「っ……!」
否定の意思を抱いてみたものの、グレイフィアは声を押し殺すのに必死だった。気を緩めれば不覚にも情けない声をこぼしてしまう。認めたくはなくても、この体がライザー・フェニックスという男専用のハメ穴に調教されたのは事実だった。支配者ともいえる男の肉棒を受け入れて、膣肉が勝手に歓迎の構えを取ってしまう。
やめて。自分の体に向かって懇願し、抗う。
いつも通りだ。ライザーがグレイフィアの中に子種を吐き捨て、満足するまで耐えればいい。本気のセックスを体験させられて最後まで意識を保っていられる自信はないが、それはそれで構わない。ひと時でも相手を傍に感じずに済むのだから。
我が子に会いたい。グレイフィアはふと思った。
可愛い我が子、ミリキャス。サーゼクスとの間にようやくできた宝。今の最低な生活をどうにか脱して、親子としての時間を過ごしたい。そうだ。しばらくメイドの仕事に暇をもらおう。自宅でも、旅行先でもいい。とにかく三人だけの時間を過ごしたい。
期待に胸を躍らせるグレイフィアだったが、嫌なことを思い出す。それは、サーゼクスの不貞を映し出した映像。悪質な悪戯だと信じているが、完全には否定できず、グレイフィアの胸の奥には一抹の不安が残留していた。
もしかしたら。万が一にも。可能性はゼロじゃない。
映像が本物かもしれないと思う自分もいる。そして、一度そう思ってしまうと、心が重たい閉塞感に支配される。これまでサーゼクスと築いてきた時間はなんだったのか。交わしあった言葉も、育んできた信頼も、何もかもが薄っぺらく思えてしまう。
「はぁっ……むっ……!?」
思考に集中しすぎて呼吸が止まっていた。息が詰まるのを感じて口を開くと、何を勘違いしたのか、ライザーが舌を伸ばしてきた。当然のようにグレイフィアの口内に侵入し、頬の内側をぬちゅぬちゅと舐める。
品のない男だ。グレイフィアはかつて、多くの男から不躾な、欲に満ちた眼差しを浴びせられてきた。が、これほどまでに色濃く堂々とした欲望は初めてだった。
自分ではどうしようもないとはわかっていても、やはりこの男をどうにかしなければという気持ちに駆られる。今は自分に意識が向いていても、放っておけば何をするかわからない。自身の妹すらも性欲処理の道具に使う鬼畜だ。どこかで止めなければ、いずれは約束を反故にして愛する者たちに毒牙を向けてくることも。
現在は口約束を守っているように見えるが、それだって本当がどうか怪しい。自分が認識できないところで何かしている可能性は高い。リアスたちは本当に無事なのか。ライザーの力があればグレイフィアの観測を上回ることなど余裕なのだから。
リアスとその眷属がライザーに弄ばれる光景を想像し、罪悪感を募らせる。それが現実に起こっていたとしても、認識することも、ライザーの前に証明を提示することもできない。悔しくて堪らなかった。
「舌を出せ」
「ん、ぁ……」
グレイフィアの舌に舌を擦りつけ、唾液を味わうライザー。軽薄な笑みがよく似合う悪党面。それすらも遥かに凌ぐ邪悪な性根に眉を顰めそうになってしまう。どうにか感情の表出を抑え、グレイフィアも舌を動かした。こちらから舌を舐めるだけでライザーは喜ぶ。単純だ。いつもこれくらい御しやすければいいのにと思わずにはいられなかった。
しかし、そう甘くはない。
「ん、ふっ……!」
やはり、おかしい。ライザーの肉棒が大きく感じる。サーゼクスという比較対象と直前に交わった影響なのだろうか。こんなにも違うものか。サーゼクスの一物は決して小さくないと思っていたのだが。いや、小さくはないはず。ライザーが大きすぎるだけだ。グレイフィアは夫を貶めるような考えを振り払い、前進してきた亀頭を子宮口で受け止めた。
「っ、ぁ、はぁ……!」
サーゼクスでは、ここまで届かなかったことを思い知らされる。ここまでの持続力もない。グレイフィアが一度も絶頂できない間に数回も射精に至ってしまうのが普通だった。出された精液の量も、濃さも、あれで普通だと思っていた。
ライザーのせいだ。膣穴を埋め尽くす長くて太い肉の棒。気持ちのいいところまで引っ掻いてくれる高く張ったカリ首。いつでも濃厚な精液を大量生産する大きな陰嚢。ぐつ、ぐつ、と煮えたぎるような熱い欲望を子宮でたらふく呑ませられるたびに、意識が吹き飛ぶほどの快楽に襲われてきた。
こんなセックス、知りたくなかった。知らなければ、サーゼクスとのセックスが普通なのだと思えていたはずなのに。今では、サーゼクスがライザーよりも劣っているのだということを、骨の髄まで理解してしまった。
この体がライザーの手によって堕ちていることは以前から知っていた。不死鳥の持続力で幾度も抱かれた結果だ。心を強く保っていたことで堕ちずに済んでいられただけ。サーゼクスの不貞が事実であるのかはさておき、心が著しく動揺させられ、夫との肉体の差異を知らしめられて、心の隙を突かれてしまった。
「ぁ……」
ライザーの舌が口から離れる。つい自然に舌を伸ばして追いかけようとしてしまったのを隠し、グレイフィアは平静を装う。自分の内なる動揺を相手に悟られては駄目だ。ライザーのことだから、徹底的にそこを突いてくるに決まっている。
落ち着いて、大丈夫。グレイフィアは心の中で唱えた。
「そうだ。まだこの空間の仕組みについて教えていなかったな」
ライザーが思い出したように耳元で優しく告げる。耳まで過敏になっていて反射的に目を背けたくなったが、グレイフィアは身じろぎ一つせずに耳を傾けた。
「ここはレーティングゲームの世界を模して作った疑似的な空間だが、手を加えてある。違いを簡単に挙げると、この世界の時間の流れは現実とは異なることだ。形式的に日付の経過は存在するが、実際には時間という概念は凍結している。仮にここで何百年生きようと、ここを出れば入ったときと同じ時間に戻れる」
よくも簡単に言ってくれる。永遠の世界を築いたと言っているようなものだというのに。
これのどこが疑似空間だ。いったいこの力をどこで手に入れたのか。フェニックスが持つ不死の特性と何か関係があるのか。そこから端を発したイレギュラーな力が、ライザー・フェニックスという男に芽生えたのか。
こんな男に、こんな力が与えられた運命を、グレイフィアは呪わずにはいられなかった。
「それで、だ。ここでグレイフィアをずっと抱き続けるのもいいと思うが、それでは面白みがない。年単位で続ければどうせいつかは俺が勝ってしまうからな。だから、短期決戦の勝負をしようか。お前が俺に勝てたら、お前を家族の下に帰してやろう」
ライザーの提案は魅力的だった。グレイフィアにとって利点しかない。長期的な戦いであればフェニックスであるライザーには敗北を喫してしまう可能性はあるが、短期間ならばこちらに分がある。これまでだって耐えてきたのだから。
「だが、俺が勝てば勿論、グレイフィアは俺の妻だ。一生な」
しかし、とグレイフィアは訝しんだ。これほどグレイフィアに優位な勝負を提案した動機がわからない。確かにライザーが勝てば望みのものが手に入るが、泣く泣く手放してしまう可能性のほうが高すぎる。
なかなか堕とせないとわかって、焦ったか。用意周到なこの男に限ってそんなことがあるのだろうか? 裏があるのではと疑い、思考を巡らせる。だが、やはりこの提案はグレイフィアにとって願ってもないことだ。頷かない選択肢はない。
「わかりました。それで、勝負内容はなんでしょうか……?」
問題はそれだ。ここで妙な勝負を求められれば、拒絶するつもりだ。
「まだ権利が残っていたよな? お前が俺を本気で愛するという権利を。残り期間は十三日分だったか。それを全てここで使う。お前がその間に俺に堕ちることがなければ、潔くお前を諦めてやる」
だが、勝負の内容は意外と素直だった。
十三日。これまでの期間を考えれば圧倒的に短い。暇さえあれば抱かれてきた今までの日々の延長だ。
「さあ、どうする? 受けるか? 断ってもいいぞ?」
耐えればいい。耐えるだけ。
どれほど乱暴に犯されても、どれほど女であることを惨めに思わされても。
決して心だけは屈しない。こんな男には絶対に負けるわけにはいかない。
「受けます」
グレイフィアは覚悟を決めて、返事を返した。
グレイフィアとライザーの勝負が始まって初日。ライザーは悠長だった。
「おはよう、ライザー」
ライザーはグレイフィアを対等に扱った。メイドとしてではなく、妻として。服装もメイド服ではなく、私服姿で。敬語もやめさせられ、グレイフィアは『グレイフィアが女としてライザーを愛する権利』を行使したライザーを、権利に従って一人の男として愛する。正当な理由でライザーに与えた権利であるため、逆らうことはない。
グレイフィアとしても、そこまで苦ではなかった。自分の本心を偽って、嫌いな男を愛する嫌悪感は当然心の中に湧き上がるが、表に見せてはいけない。そんな裏切りをするつもりはなかった。
「食事の用意ができたわよ」
午前七時。夫婦の寝室で惰眠を貪っていたライザーの下へ行き、肩を揺すって起こす。すると、眠っていたライザーに腕を引かれ、ベッドに引き込まれる。この程度で声を上げるほど生娘ではないが、身構えはした。
硬直したグレイフィアを、ライザーは抱きしめた。
朝から求めてくるつもりなのか。グレイフィアの予想に反して、ライザーは抱きしめる以上のことはしてこなかった。相手の温もりを確かめ、安堵の息を吐く。普段の悪人面の割に寝顔は純粋で、警戒心がわずかに抜ける。
「ライザー」
グレイフィアが呼び掛けるものの、ライザーは目を開かない。代わりに、抱く手に力が入る。痛くはなく、包容力を感じさせる。大きい手だ。いつものいやらしい手つきとは違う、ただ傍にいる者を近くで感じようとしている。
しばらくはこうしているしかない。溢れそうになったため息を抑えて、グレイフィアもまたライザーに身を委ねた。胸に耳を当てるようにしていると、鼓動が聞こえる。トクン、トクン。規則正しい音を耳にし、この男も命ある生き物なのだと再認識した。
自分にとっては厄介極まりない存在ではあるが、理解不能の力を持っているが、それでも自分と同じ悪魔なのだ。それでも、ライザーはわかってくれない。自分には家庭があり、他の男と本物の愛情を交わす気はないのだと。
もしも自分がライザーの立場になったとしたら、どうだろうか。例えば自分が独り身で、既に別の女と結ばれたサーゼクスに強い恋心を抱いたとする。そんな状況になったとき、自分は全てを捨ててでもサーゼクスを求めようとするだろうか。
考えていたとき、また、サーゼクスの浮気現場が脳裏を過ぎった。
あれは捏造に決まっている。嫌な記憶を振り払おうとするも、グレイフィアは何度も考えてしまう。サーゼクスが本当に浮気をしていたとしたら、自分は今後どのように生活をしていけばいいのか。知らない振りをすればいいのか。それとなく伝えて、浮気などやめてもらうようにお願いしてみるべきか。
信じていた者に裏切られるというのは、考えるだけでも恐ろしかった。
グレイフィアは比較してしまった。ライザーならば、どうなのだろうか、と。
仮に、他の女を捨てて自分だけを愛してほしいと言った場合、ライザーは要求通りにしてくれそうだ。これだけ本気で自分を求めてきているのだから、他の女を切り捨てるなど平気でやってしまいそうで、自分が愛されているのだと自覚する。
歪んだ愛だ。こんなものを求めてはいけない。
グレイフィアは深呼吸して惑った頭を正気にし、ライザーを待った。
「おはよう、グレイフィア」
やがて目を覚ましたライザーが、グレイフィアの頬に口づけをする。グレイフィアは嬉しそうな顔を意図的に作って、口づけを返す。起床時の深い接触はそれだけだった。他に何も求めず、ライザーはグレイフィアを抱きながら身を起こす。
「悪い、朝食だったな。聞こえていたんだが、心地よくて眠ってしまった」
食事にしよう、とライザーは続け、ベッドから腰を上げた。
ライザーに手を引かれ、グレイフィアは部屋を出た。その表情には戸惑いがあった。
キス以上のことを要求されなかった。初日だから、だろうか。何を考えているのかがわからず、不信感が募る。どうせすぐに抱いてくるのだろう。そのときに備えて、グレイフィアは何も言わずに体力を温存しておくことに決めた。
「美味しいよ、グレイフィア」
「よかった。いっぱい食べてね」
朝食の場、決して大きくない食卓を二人で囲み、食事を取る。ここは、グレモリー邸内に作った日本の一般家庭を思わせる部屋だ。寝室や食堂などはグレモリー家と同じものが別に存在するのに、ライザーはわざわざこの別室を設けた。
なぜこんなことを。それならば、寝室もこちらに用意してくれればいいものを。
身を乗り出して手を伸ばせば相手に届く距離間で、グレイフィアは用意した朝食を食べながらライザーと談笑する。これまで交わしたことのない、取るに足らない世間話。明日には何を話していたか忘れてしまうだろう。
こんなことに時間を使っていていいのか、とグレイフィアは言いたくなる。
もしかすると、ライザーは自分に飽きたのではないか。だから、勝負などといって最初から負けるつもりで時間を浪費しているのかも。いや、さすがにそれはないか。ライザーはそんなことはしない。飽きたら飽きたですぐに自分を捨てるような男だ。
グレイフィアは笑顔の仮面をつけながらも、その裏ではライザーの動向に注視した。
朝食を済ませ、二人でソファーに座る。親子三人が座れるほどのこれまた小さなソファー。正面には朝のニュースを流す薄型テレビ。人間界では高級品に当たるものだろうが、ライザーたちからすれば価値は低い。
夫婦として慎ましい生活に身を置くのがライザーの望みか。フェニックス家に生まれておきながら妙な価値観を持っている。望めば手に入る物のほうが多い家庭に生まれたからこそ、こじんまりとした生活を求めて居るのかもしれないが。
その後も、平和な日常が続いた。
二人で人間界の映画を見た。ライザーは人間界、特に日本が好きらしいということがわかった。わかったところで、だからどうということはない。この勝負が終われば、もう関わることのない男の趣味を知っても意味はない。
でも、得体の知れない男、という印象が多少は拭い落されたのは事実だ。
そこまで、度し難い極悪人というわけではないのだろう。
グレイフィアは先ほどよりも、自然体でライザーと接することができた。夫であるライザーを愛する妻を演じ、身を寄せる。時折、温もりを求めてライザーが抱きしめてくるから、こちらからも抱きしめ返した。
「愛しているよ」
「ええ、私も」
言われたから、予め決めていた言葉を淡々と返す。そこに愛はないが、多少の慈しむ心はあった。ライザーは愛情に飢えている。それは、昔に何かがあったからなのだろうか。たまに見せる寂しそうな顔を見ていると、これまで向けられてきた強い欲望を想起する。
疑いは晴れてはいないが、もしもライザーがグレイフィアの約束を全て守るような男なのだとしたら。解消できない欲望に駆られてレイヴェルなどの身内にも手を出し、それでも尽きない欲望をグレイフィアに向けていたとしたら。ライザーもまた自分の欲求に蝕まれた被害者なのかもしれない。
なんて甘い考えだ、とグレイフィアは自嘲した。
ライザーは鬼畜な男。それでいいではないか。否定するのは簡単だ。
でも、ライザーにもいい部分があるのではないかと思ってしまう。ライザーだって、幼い頃から悪人だったわけではないはずだ。昔に何かがあったのか。手にした力に溺れたが故なのかは定かではないが、ライザーが犯した過ちといえば近親相姦くらい。
リアスとの婚約も破棄してくれた。対価があれば、話がわかる男なのだ。
それなら、ここまで愛してくれた対価に、自分も最後は愛してあげよう。
最初で最後。グレイフィアはこのわずかな期間だけ、ライザーを許容した。
メイドの仕事もなく、ただライザーの傍で過ごす。昼食も、夕食も、入浴も一緒に。
そして、ベッドでも。
「ぁっ、んっ、あぁっ……」
互いに裸になって、正常位で交わる。
今日のライザーはセックスでも優しかった。獣染みた荒々しい交尾が嘘のように、グレイフィアを労わってくれた。暴力的なセックスとはまた違う心地よさ。苛められるという行為に慣れた肉体に気遣いが染みわたっていくようだった。
「気持ちいいか? グレイフィア」
「はい、とても……」
それはグレイフィアの本音だった。偽ろうという想いを抱く瞬間すらもなく、ただ気持ちよかった。勝手に喘ぎが漏れてしまう。今はライザーを愛さなくてはいけないから、声を無理に押し殺す必要もない。
そうだ、これまで無理をしていた。
認めたくはなくても、ライザーとのセックスは本当に気持ちいい。サーゼクスとの長年のセックスで一度も得られなかった快楽より強いものが、秒単位で波のように押し寄せてくる。両者の違いがしっかりと感じられる。
一番の理想は、サーゼクスとこのセックスができることだと、グレイフィアは感じた。
「ん、ふっ……!」
子宮口を亀頭で小突かれ、意識が一瞬弾けた。
どうしてだろう。サーゼクスのことを考えながら、セックスの上手いライザーに身を委ねると、通常よりも気分の高揚が速い。もう軽く達してしまった事実に驚愕しつつ、表情が蕩けてしまう。
いけない、と表情を引き締めようとしたところで、今は大丈夫だと気がつく。
今はだらしない顔を浮かべていてもいいのだ。なにせ、今はライザーの妻を演じている。セックスで女がこれくらいの顔を見せてもいいはず。現に、グレイフィアの顔を見ていたライザーは満悦しているようだった。
これでいい。自分に言い聞かせ、グレイフィアは優しいセックスの味を知っていく。
ライザーには貴重なはずの権利は、既に一週間分が消費された。
その間も、ライザーは疑似空間でのグレイフィアとの生活をただ楽しんでいた。
疑似空間にはグレモリー邸だけでなく、冥界の全土が再現されていた。そこには現実の悪魔たちを模して造られた複製も存在していて、自分たちが本物だと思いながら当たり前のように日常を送っていた。
造られた冥界の首都リリスに赴き、たびたび現実に戻った気分になりながら、グレイフィアは街中デートをしていた。お洒落な喫茶店で食事を取ったり、店で互いに似合いそうな洋服を見繕ったり。サーゼクスともあまりしたことのない、悪い言い方をすれば庶民的にあり触れたデートだった。
悪くはなかった。新鮮な体験が、グレイフィアの心を刺激する。
グレイフィアがサーゼクスと現実で人目も憚らずにイチャイチャしようものなら、翌日にはニュースとして大勢の悪魔たちに知れ渡ることになる。だが、現実と違って疑似空間の住人はグレイフィアたちをただの悪魔だと認識している。有名人を目の当たりにしたような反応もなく、どこからか嗅ぎつけてきたマスコミの姿もない。
「危ないぞ」
買ってもらった玩具を手にし、嬉しそうに走ってきた子供にぶつかられそうになったところで、グレイフィアはライザーに肩を抱き寄せられた。肩が触れ合うどころか、正面から抱擁されるような形となってしまい、微かな羞恥を覚えたグレイフィアだったが、周りを歩く悪魔からの好奇の視線はない。
「ありがとう、ございます」
「敬語はいらないぞ」
「そうだったわね……。ごめんなさい」
謝ると、ライザーがグレイフィアをしっかりと抱き直した。
人通りの多い場所で立ち止まったグレイフィアたちを中心に、悪魔たちが避けて歩く。現実としては不自然だが、これくらいの不自然さが今はちょうどいい。この世界にいるのはやはり二人だけで、他は作り物。
ライザーと肌を触れ合わせることで咎めてくる者もいない。
あと少しで、この勝負が終わる。それまでは楽しんでもいいのではないか。
サーゼクスはグレイフィアを裏切って別の女と愛し合ったかもしれないのだ。それを知ってショックを受けた自分が、少しくらい嵌めを外しても許されるはず。長い間真面目に、家族のことだけを考えて生きてきたのだから。
それにどの道、今のライザーには逆らえない。
少しだけ、素直になってしまおう。
グレイフィアはライザーの背に、両手を回した。
穏やかで温かい日中を送った後、夜になると賑やかで燃えるような時間がやってきた。
「んっ、はぁっ、あっ、あんっ……」
ライザーの上に騎乗し、腰を振る。両手はライザーと握り合っているために、手の平は互いの汗でじっとりと濡れていた。全身にも汗を掻いているが、不快ではない。もっと、二人で汗に塗れるようなセックスをしたい。
ライザーの股間に尻を振り下ろし、膣穴でギッチリと肉棒に絡みつく。
初日の落ち着いたセックスもよかったが、グレイフィアは激しいセックスが好きなのだと身に染みた。ライザーのせいだ。逞しい肉棒で突かれて調教されたことで、力強いセックスを求めてしまう。膣穴が疼き、愛液をたらし、もっと深くまで挿入して引っ掻き回してほしいと強請ってしまう。
「奥っ、遠慮せずに突いてっ、そう、そこ、気持ちいい、からっ……!」
こんなこと、素の状態では言えない。
今だからこそ、相手がライザーだからこそ言える。サーゼクスでは絶対に届かない。届いたことがない。この気持ちよさを得られるのはこの勝負が最後。しっかりと味わっておかないと、家族の下に戻ったときに欲求がぶり返してしまう恐れがある。
あと六日間楽しむだけ。それで、全部が元通り。
「あぁぅっ……!」
グレイフィアは絶頂の反動で背を逸らし、胸をぶるんっと揺らした。胸が目についたのか、ライザーが手を伸ばす。たっぷりと母性を抱く形のいい膨らみ。昨日、散々しゃぶりついて唾液まみれにしてきたはずだが、まだ物足りないようだ。
「なあ、グレイフィア」
ライザーが口を開く。また何かを要求してくるようだ。ここ数日で、何となくライザーの考えがわかるようになった。あまり無茶なことは言われないだろうと思い、「どうしたの?」と気軽に聞き返す。
「乳首にピアスをつけてみないか?」
飛び出した内容に、グレイフィアは我に返った。
ちょっとはまともな男だと思い直していたのに。人妻の乳首に、自分の所有物の証をつけるなどあってはならない。今なら承諾してくれると思ったのだろうが、さすがにそれは権利の範疇を超えている。
駄目に決まっている。グレイフィアが答えようとする前に、ライザーは補足した。
「言い忘れていたが、元の世界に戻れば、この空間で起きたことは全てなかったことになる」
なかったことになる? ライザーの発言を心で反芻し、疑問を膨らませる。そんなグレイフィアの疑問に答えるように、ライザーは詳しく説明をしてくれた。
「ここでグレイフィアの処女を再生し、俺が奪ったわけだが、その事実もなかったことになる。記憶はともかく、肉体は空間に入る前の状態まで完全に巻き戻るわけだ。だから、幾らここで遊んでも、勝負が終われば全てが元通りだ」
元の世界で俺に抱かれたことはなかったことにはできないがな、という後に続くライザーの言葉は、思案を始めたグレイフィアには聞こえていなかった。ライザーの力の恐ろしさを今さら痛感し直したからではない。それよりも、別のことに興味を引かれてしまった。
どれだけ遊んでも、元に戻れる。
真面目な性格のグレイフィアは、一度考えたことがあった。確か、レーティングゲームに参加したライザーの眷属は乳首や陰核にピアスをつけていたはずだ。膣穴にもバイブを挿入され、まるで道具のように扱われていた。しかし、彼女たちの表情にあるのは幸福だった。自分たちはこの世界の誰よりも恵まれている。そんな様子で、ライザーに付き従っていた。
ライザーの力で洗脳されているのかもしれない。だが、そうでないとすれば、誰かの所有物に成り下がるという行為によって満足感を得ているということになる。それは、ライザーの逞しい肉棒で子宮をボコボコにされて鳴くようになった自分と大差ないのではないか。
興味が尽きない。やめておいたほうがいいと、冷静な自分が諭してくる。
この機会を逃せば、二度とないだろう。サーゼクスは妻にボディピアスを勧めるような男ではない。良くも悪くも優男。ときには強く抱きしめて、優しく強い愛を囁かれて、女であることを思い知らせてほしいと思った。
サーゼクスでは無理だ。ライザーほど熱烈に愛を囁いてはくれない。頼めば言ってくれるのかもしれないが、言われなければ気がつかないだろう。今の関係では、自分の妻にある雌の部分が満たされていないということに。
「どうする?」
いつの間にか、ライザーは指先にとあるものを摘まんでいた。
ライザーの髪色と同じ、金色のピアス。指輪ほどではなく、乳首などのボディ用だろう。その輪っかからは極細の鎖で繋がれたハート型のアクセサリーが揺れていた。キラリと光るそれを胸から下げる。その自分を想像して生唾を呑む。
「やめておくか」
残念そうにピアスを引っ込めようとするライザーの手を、グレイフィアは咄嗟に掴んでいた。
「え? あ……」
自分で自分の行動に驚いたが、ここまで来て何でもないと言える心理状態ではなかった。物は試しだ。嫌ならすぐに外せばいい。どうせ、現実に戻れば全部なかったことになるのだから、少しくらい。
「つけたいのなら、つけても、いいわ……」
煮え切らないグレイフィアだったが、ライザーには気を悪くした様子はなかった。ニヤリという悪い微笑みではなく、柔らかい微笑み。それを前にして落ち着く自分がいた。
優しくされて、絆されてしまった。自分がここまで愛情に飢えていたとは知らなかった。ライザーは自分を愛してくれている。その想いに応えてあげるのが今の自分の役目なのだと責任を持ち、グレイフィアは受け入れた。
「わかった」
とライザーが言った直後には、ライザーの手からピアスはなくなっていた。どこへいったのかを知ったときには、施術は一瞬で終わっていた。
「っ……」
鋭い痛みと異物感に襲われ、視線を胸元に向ける。胸の天辺でツンと立っていた桜色の乳首に金色のピアスが通っていた。血が出ないのはライザーのおかげだろう。チャラリと、ピアスから垂れるハートのアクセサリーが揺れている。
下乳の辺りまでアクセサリーを垂らすそれを見て、グレイフィアは異様な興奮に見舞われた。夫ではない男に求められて、大切にすべき体にアクセサリーを嵌めた。ズキズキという痛みは残っていて、それによって自覚させられる。
こんなものを体につけてしまったという罪悪感と、それを上回る背徳感。
「綺麗だ、グレイフィア。お前をもっと、俺色に染め上げたい……」
「ライ、ザー……」
起き上がったライザーに押し倒され、グレイフィアは膣内をぐちゅぐちゅと肉棒で掻き回される。ボディピアスをつけた。ただそれだけのはずなのに、興奮が段違いだった。自分がライザーの正式なお気に入りに認定されたという証が揺れるたびに、体の奥の奥が疼く。被支配欲が滲み出て、もっとこの欲を満たしたいという気分に襲われる。
ライザーは我を失ったようにグレイフィアを求めた。
こんなにも嬉しそうにしてくれる。
こんなにも強い欲望を向けてくれる。
強い熱を発するライザーの硬い体に押し潰されて、圧迫される。抵抗できず、手も足もただ伸ばしているだけ。股の中心に股間を叩きつけられ、体の中心に生殖器をねじ込まれる。その勢いがあまりに強くて、何かの支えが欲しくなって、グレイフィアはライザーに抱き着いた。
首に両手を、腰に両足を。ガッチリと絡めて、これで安心だ。
安心感が凄まじい。昔から、ずっとこうしていたかのようだ。
俗にいう種付けプレスの体勢。サーゼクスとも同じ体位で交わったことはあるが、まるで別物だった。サーゼクスの行為は体格が大きいだけで殆ど子供のじゃれつき。ライザーの行為は大人の本気種付けセックス。違いは明確だった。圧倒的に分厚く、長いライザーの素晴らしい肉棒で、中をガリッ、ガリッと削られる。今まさに体験中のグレイフィアは「おぉっ……」と自分でも情けないと思う声を出してしまった。
しかし、抑えられない。
「ぉっ、ぁっ、んっ、おぉっ、ぉっ、おぉっ……!」
こんな状態で、家族の下には戻れるのだろうか。こみ上げてきた懸念も、直後にはねじ伏せられる。他ならぬ、真なる雄チンポによって。屈強な体で圧し潰され、子宮口に渾身の一撃が放たれ、全身が躍るように跳ね、絶頂に導かれる。
グレイフィアは大声を上げた。自身の感情表現を恥じることのない子供のように。
もはや理性などはない。あるのは雌としての本能だった。
幸せ。細めた目から涙をこぼし、緩めた形のいい唇から唾液を垂らす。緩みっぱなしの表情をライザーに見られているとわかっても、やめられない。快楽の洪水が遂にグレイフィアを丸呑みにする中で、その洪水に新たな強い熱源が広がった。
「あぁあああああっ!」
ライザー・フェニックスの精液。不死鳥が大きな炎の翼を広げるかのように、子宮の中で熱い精液が一瞬で広がった。ライザーが至福の表情で震えるごとに、どぷんっ、どぷんっと濃密すぎる塊が子宮を支配した。
残すところあと三日となった頃には、ライザーも本気を出してきた。食事、睡眠、排泄のあらゆる行為を疑似空間から撤廃し、外に出かけることもなく、グレイフィアを抱く。ベッドで雄と交わる生物にさせられたグレイフィアは、ときにはライザーの行為を受け止め、ときには自ら腰を振って子種を絞り出した。
「サーゼクスの小さいものでは届かないところ、もっと苛めて……?」
もっと力強く犯してもらおうと、グレイフィアは煽るように囁いた。自分がいかに酷いことを言っているかはわかっていた。だが、これが気持ちよかった。サーゼクスを比較対象に挙げることで、セックスにいいスパイスが含まれた。
「あんっ、あんっ、あっ、チンポ、大きくて好きっ……!」
夫への発言も、淫らな言葉遣いも、全て演技に過ぎない。そう考えると気が楽だった。
これは演技だ。今の自分は淫らな妻、グレイフィア・フェニックス。
「あっ、あはぁっ、はっ、はっ、んっ、ぁっ、あっ、あっ……」
夫であるライザーに与えられた乳首ピアスを揺らし、ライザーの肉棒を膣奥で味わう。
犯して、犯して、犯してもらった。
もっと酷いことをしてもいい、もっと自分を愛してほしい。
グレイフィアはそう告げて、ライザーの欲望をその一身に受けた。
「もっと、引っ張って? お願い。私があなたのものだって、教え込んで?」
ライザーがあまりにもお願いしてくるものだから、仕方なく嵌めた黒い首輪。そこから伸びる銀の鎖を握ったライザーに引っ張ってもらう。乱暴にしてもらうことで、この人からは逃げられないだと強く実感できて、安心した。
自分は籠の中の鳥。主人であるライザーに愛でられる存在なのだと。
「あんっ……」
四つん這いになって首輪を引っ張られ、背後からライザーに犯されるグレイフィア。達すると同時に天を向いて体を仰け反らせたとき、その下腹部に刻まれたものが紫色に鈍い光を放った。
子宮とハートマークを組み合わせたような紋様、淫紋だ。これも、ライザーの提案を承諾して刻んでもらった。ライザーの妻に相応しい女を演じるには、これも欠かせない。どうせ元の体に戻るのだからと、ライザーはいろいろな提案をしてきた。
その全てに、グレイフィアは頷いた。
小さくデフォルメしたチンポのアクセサリーを下げた、下品な金色のイヤリング。淫紋の直上に刻んだライザー・フェニックスという文字のタトゥー。フェニックスの力を模倣した、紫色の炎の翼。
そして、漆黒に染まったウェディングドレス。陰部や乳房は丸見えという裸同然のドレスと黒いヴェールを身に着け、左手薬指には金色の指輪を嵌めている。ライザーとお揃いの、夫婦の証。
与えられた全てを受領し、グレイフィアは堕ちた妻になった。
だが、あくまでもこれは演技だ。
終わらない劇はなく、演者もずっと役を演じることはできない。
真実を告げたのは、この舞台の主役にグレイフィアを選んだライザーだった。
「今、十三日目が終了した」
「え……」
鎖を引く手から力が抜け、グレイフィアは背後を振り返った。白濁液で穢れ尽くしたベッドには裸のライザーと、プレイの一環で使用した大人の玩具やコンドーム、それとライザー好みの装飾品とウェディングドレスを身に着けた自分。
「これで、もう終わりだ……」
悲しげに言い、ライザーが自分から距離を取った。グレイフィアが体を起こして引き留めようと手を伸ばすのを避けて、ベッドから降りてしまう。
「本当に、終わったの……?」
時間を誤魔化しているのではないだろうか。まだ二日、いや、三日はあるはず。
「嘘じゃない。もう俺が行使できる権利、十三日分は使い果たした」
ライザーは沈鬱げな表情で続けた。
「お前はまだ堕ちていない。ということは、俺の負けだ」
そんな。まだ。あと少しだけ。
グレイフィアは湧き上がった想いに自分で驚きながらも、これが本心なのだと悟っていた。サーゼクス相手では得られない愛情、快楽、安心感。優秀な雄に求められることで享受できる雌の喜びが疼いている。
まだ自分はライザーを求めていた。
あと一か月。いや、一週間、三日でもいい。
せっかくの用意してくれた衣装が無駄になってしまう。この世界が消えてしまう。
ここから解放された後、自分はどう生きればいい。この疼きを抱えたまま生きていく? 自慰で満たされる? サーゼクスの粗末なチンポとセックスで満足できる? 無理だ。絶対に。いつかは確実に自身の欲求に蝕まれ、壊れてしまう。
家族の下にも帰りたいが、このままライザーからは離れることもできない。
片方では駄目だ。両方叶えたい。この両方を叶えるには、どうすればいい。
悪魔らしく、我が儘にも両方を得ようとするグレイフィア。
どうやってライザーを説得するか。
「どうした? まさか、延長したいのか?」
考えるグレイフィアに、ライザーは助け舟を出した。同時に、ライザーが腰を突き出す。ベッドにへたり込むグレイフィアの眼前に突き出される巨大なチンポ。それはまだギンギンに怒張していて、ライザーも満足していないと一目でわかる。
ライザーは無理をしている。本当は犯したいくせに、それを隠している。
約束なんて、破ってしまってもいいのに。
今では、勝負が始まったときとは逆の気持ちを抱いている。こんなにも自分が尻の軽い女だとは思わなかった。ライザーと出会ったおかげだ。雌は強い雄に屈するのが世の常。組み伏せられて、犯されて、胎で雄の子を孕む。
雌はそのために生まれてきたのだ。
気がつくと、グレイフィアはライザーの肉棒に鼻先を近づけていた。漂ってくる雄の臭い。それを鼻から吸い込んで、肺を満たす。腹の底から生じた熱を発散するように息を吐き、肉棒へと両手を伸ばした。
「あと、数日だけ……」
竿を左手で掴み、金玉袋を右手で下から持ち上げる。ずっしりと重い。さすがはフェニックス。フェニックス家に子供が多いのも、この中に詰まっている精子に秘訣があるのだろう。きっと、含まれる子種の量も他の悪魔と比肩にならないはずだ。ライザーとサーゼクスの精子を混ぜたとしたら、一瞬でサーゼクスの精子は食い潰されてしまうだろう。
「どうせまだ、満足していないんでしょ……?」
「どうかな? 今回は死ぬほど楽しい宴だったが」
「でも、こんなに硬いわよ……?」
伸ばした舌を裏筋にべたりと付着させ、舌の動きで肉棒を上下に動かす。ビクッ、とライザーの体が震えたのがわかった。感じてくれた。それが嬉しくて、子宮がきゅっと反応した。子宮の中でライザーの子種がたぷっ、たぷっと揺れている。
「ここで私を解放しても、リアスたちに手を出すかもしれない……」
「だから、お前が搾り取ってくれるのか? 家族の下には帰らないのか?」
「帰るわ……。これが終わったら、絶対に……」
不倫生活を楽しんでいるかもしれない、夫の下に。
そうだ。懸念点がまだ残っている。
サーゼクスの不倫疑惑にどう対応すべきか。答えはまだ出ていない。
できれば三人でまた仲良く暮らしたい。グレイフィアは肉棒に頬ずりをし、竿を扱き、金玉を揉みながら考えた。大好きな雄の臭いを嗅いでいると、どうにも思考がうまく働かない。だが、やめられず、いつまで経っても結論の出ない思考を続ける。
「わかった。お前が俺の相手を継続してくれるのなら、対価をやらないとな」
ライザーの対価に、グレイフィアは期待をした。
この人ならば、何でも解決してくれるに違いない。夫の不貞も、元の家族とライザーを同時に求めてしまうグレイフィアの要求も。全て満たして、きっとグレイフィアをこれまで以上の快楽の海に沈めようとするだろう。
家族すらも手放すほどに堕落しそうにそうなったときは、どうするか。それはそのときに考えようと思う。大丈夫。家族のことを思えば、打ち勝てる。グレイフィアは肉棒の臭いを吸い上げながら、未来の自分に責任を押しつけた。
「お前に似た生身の人形を作ってやろう。心が宿っていない以外は、何もかもグレイフィアと同じだ。その人形は通常時、お前と同じ思考で自動的に動くことができる。お前が望めば、その中にお前の意識をいつでも投じることができる。並列思考も可能だ」
それが対価か。遠隔で動かせるもう一人の自分が増える、ということだろう。それはつまり、ライザーの傍にいながら、必要なときにグレモリー家のグレイフィア・ルキフグスとしての立場に戻れるということになる。
やはり、この人はすごい。ライザーを見るグレイフィアの瞳に憧憬が混ざる。
「サーゼクスの不倫も、俺がなかったことにしてやる」
ライザーのチンポに、与えられる快楽に、本当に勝てるときがくるのか。これほどの上位存在相手の魅力を振り切り、元の生活を取り戻すのは大変だろうが、未来の自分には頑張ってもらいたい。
今は、知らない。
「ちゅっ……」
ライザーを愛する気持ちが何よりも強い。
「ちゅぅぅぅっ……!」
竿を擦り、亀頭に吸いつき、金玉を温める。また大きくなった肉棒を瞳に映し、グレイフィアは背中に生えた炎の翼を大きく広げた。ライザーからもらった力。行使するたび、ライザーに抱かれているような幸福が全身を駆け巡る。
淫紋も、ずっと明滅を繰り返し、グレイフィアに休みなく快楽をもたらす。
「んぷっ、ぢゅぽぉっ、ぐぷっ、ぢゅぶっ、ぢゅぶぶっ、ぐぷっ、ぢゅぶっ!」
グレイフィアは肉棒を咥え、唾液を絡め、吸い上げるようなフェラを始める。銀の髪と乳首ピアス、チンポイヤリング、鎖を忙しなく揺らしながら、グレイフィアはライザーの顔をじっと見つめていた。
いつも通りの悪人面に相応しい冷酷な笑みに戻っていた。グレイフィアを完全に堕としたと思ったのだろうが、まだその判断は早い。まだ自分は堕ちていない。未来の自分が欲望を振り払ってくれる様が目に浮かぶ。
絶対に、雄の頂点であるライザーに相応しい最凶無敵なチンポには負けない。
そう誓った三日後。グレイフィアは改めてライザーに期間の延長を進言した。
予測が甘かった。三日では少なすぎた。次は一週間。改めて勝負を挑む。
再挑戦の一週間後、グレイフィアは一か月の延長を求めた。
ライザーを侮っていた。これでは全然足りないと、グレイフィアは期限を延ばした。
最初はグレイフィアに褒美を取らせていたライザーも、考えを改めるようになった。この延長はグレイフィアの要求であって、自分の要求ではない。だから、延長させてやる代わりに、何かを寄越せと言われた。
グレイフィアは自分から出しさせるものを提供した。これで応じて貰えないかと、膨大な貯金額を譲渡した。しかし、相手はフェニックス家の悪魔だ。持て余している金を貰っても効果は薄い。
他に何か、差し出せるものはないか。
考えるグレイフィアに、ライザーのほうから対価を示した。
「グレモリー眷属を寄越せ。無理なら、お前との関係は終わりだ」
せっかく守ったはずのものを要求され、グレイフィアは悩んだ。悩む時点で自分はもう取り返しがつかないほどに堕ちていると思う余裕もなく、「次の延長をしなければ返してやるよ」と言われ、グレイフィアはその場では仕方がなくグレモリー眷属を売った。
塔城小猫を。
ギャスパー・ヴラディを。
木場祐斗を。
アーシア・アルジェントを。
兵藤一誠を。
姫島朱乃を。
所有物にした上でどう扱うかをやけに具体的に聞かされ、なんて酷いことをと思いながら、全てを売り払った。そんな権利はグレイフィアにはないし、売られた側が従う義理もない。意味のないやり取りだった。しかし、自分の私利私欲のために売り払う発言をしたことで、グレイフィアの中に残っていた良心が崩れ去った。
そこからは雪崩れるように狂っていった。
グレモリー家のメイドも売った。グレモリーの領地の民も売った。駒王学園の生徒という、もはや顔も名前も把握できていない者まで売ってしまい、それでもようやく手に入れた延長の末に、グレイフィアは白濁のベッドに沈められた。
気持ち良すぎる。もう駄目だ。次に払えるものはなくなった。
考え、グレイフィアは思った。
夫と息子は駄目だ。しかし、義理の妹や両親はどうだろう。血の繋がりはない。心は痛むが、別にいいだろう。他にいないのだから。ここでライザーを諦めて延長をやめれば今まで与えたものは帰ってくるが、この身が満たされなければこの先生き地獄だ。
「次だ」
グレイフィアに覆い被さったライザーが言った。
「延長するのなら、次は義理の両親を寄越せ。その次はリアス。次は夫、息子、最後はお前だ。勿論、最後になるまでに延長をやめればこれまで売ったものは全部返す。これまでの生活に戻れるんだ。一時的に俺に売っただけにすぎない。」
ライザーに言われた。もうこちらから提案できるような立場ではなかった。
決まった以上、従う他はない。規則に従うのは楽だ。
「わかり、ました……」
一回でも、欲求に勝てればいい。元の生活に戻ってライザーが恋しくなっても、代用品であるサーゼクスの上で腰を振ればいい。明日の職務など気にせずに、金玉をすっからかんにするまで精液を搾って。淫らな姿で誘って、淫語を囁けば、サーゼクスも燃えてくれるだろう。
そこまで思って、やはり駄目だとグレイフィアは諦めた。
サーゼクスの精液は少なすぎる。サーゼクスの精子は薄すぎる。サーゼクスの肉棒は小さすぎる。サーゼクスの包容力では足りなすぎる。全てはライザーという圧倒的強者のせいで、サーゼクスの魅力は地の底を這っているようにすら感じる。
それなら、他の男と肉体関係を築けば。いや、そんなことをしたらそもそもライザーから逃げる必要がなくなる。でも、相手がいない。サーゼクスの貧弱早漏自称魔王チンポでは、何十本あっても物足りなく感じる。
まずい。退けない。もう、本当に逃げられない。
眼前に突き出されたチンポを瞳に映し、犬のように荒い呼吸を続ける。乾いた喉が精液を求める。膣は精子を求め、肉体はライザーの体温を求めた。あの体に触れたい。匂いを嗅ぎたい。声を聞きたい。
今はただ、思考を停止させてライザーとの繋がりを求めた。
「ぁっ、あんっ、ぁっ、ぁっ、んんっ、はぁっ、ぉっ、ん、ふっ……」
夫婦のベッド。グレイフィアは夫であるライザーに犯してもらいながら、ぼうっと天井を眺めていた。そこにはもう、飽きるほどに目に焼き付けたサーゼクスの浮気動画。相変わらず程度の低いセックスだと感じてしまう。
それに対して、ライザーは素晴らしい。グレイフィアの延長に次ぐ延長、息子のミリキャスをも売って獲得したこのセックスでも悦楽が尽きない。笑みが絶えず、身震いも頻繁に起こり、油断をすれば絶頂する。
幸福と快楽にどっぷりと浸かった日々。体の内も外も温かい。
有利だったはずの短期決戦はグレイフィア自身の要望によって長期決戦へと移行し、その結果、グレイフィアは敗北寸前まで追い込まれていた。次の延長を申請すれば自分は何もかもをライザーに奪われる。これまで差し出した大切な者たちは勿論、自分自身も。
ここまできて、グレイフィアはようやく悟った。
この男に敵うと思っていたのが間違いだった、と。目をつけられた瞬間から、自分の未来は確定していた。グレイフィア・ルキフグスという女から、グレイフィア・フェニックスという雌に成り果てる未来が。ライザーの子供を産み、幸せな家庭を築く幸福が。
もうそれでもいい。誰だって、一番可愛いのは我が身だ。他者を蹴落とすなんてことは、どんな生き物も当たり前。ましてや、欲望の強い悪魔の身で、自分よりも他者を優先することのほうが難しいものだ。悪魔にとってこれは普通のこと。
サーゼクスほどの強者も、女に溺れたではないか。もはやサーゼクスの不倫が確定であるかのように考え、グレイフィアは結論を下す。他人の幸せのために、自分が不幸になるのでは駄目だ。自分が幸せにならないと。
ライザーから貰った人形を使うことはできるため、普段は自動で動かしておいて、たまにグレイフィア・ルキフグスに戻ればいい。戻るのも面倒であれば人形に全てを任せ、ライザーの傍で雌の悦びを噛みしめていればいい。
ライザーとの生活に満足すれば、いつでももう一人の自分に戻れる。
自分は二人いるのだ。片方がライザーに堕ちていても、誰も気づかない。
「私の……」
一瞬言い淀む。
脳裏を家族の姿が過ぎった。幸せだったはずの家庭。しかし、今では色褪せてみえる。あの場所に戻るのは完全に不可能だと気がつき、一筋の涙を流す。しかし、すぐに指で涙を拭うと、泣いていたのが嘘のように艶やかな微笑みを浮かべた。
「私の全てを、あなたに捧げます……。私を、グレイフィア・フェニックスにしてください……」
グレイフィアが言った直後、ライザーはグレイフィアを抱きながらブルリと震えた。子宮にまた大量の子種汁が拡散する。子宮と触れ合うだけでこみ上げてくる至福。それに酔いしれ、ライザーの頭を優しく撫でた。
耳元で、ライザーが笑っていた。押し殺すようなそれは、段々と哄笑へと変わる。
以前は不快だと思っていた笑い声も、今は聞くだけで心地いい。心まで完全に屈服してしまったのだと理解し、堕ちることができた自分の哀れな姿を客観的に捉え、グレイフィアは自嘲気味に口角を吊り上げた。
ゲームオーバー。
長きに亘る勝負を制したのは、グレイフィアの新しい夫、ライザー・フェニックスだった。